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Stop.Ham time!
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――。
本当のハムタイムは此処からデス。
素行不良。
反面、成績優秀。
紅玉の円らな“おめめ”に、真珠の“毛並み”。
見よ。これが新聞部のイケメン――小田切ルビィ(
ja0841)もとい、ジャンガリアンハムルビィだ!
取り敢えず今は。
「気分は“とっ○こハ○太郎”か“ガ○バの○険”ってトコだなぁ」
青玉のストライプ模様の身体に流れる、ひと束の結い髪。
人間時の髪型の名残であろうか。細い束がルビィの動作にそよそよ揺れていた。
視線は最早、床面に近い。
鼻すぴすぴ。
「おっ、ヒマワリの種みっけ」
恐らくラムレーズンが落としたのだろう。棚の隙間で一粒ゲット。ルビィは無意識の内に頬袋へしまいしまい――はっ、これがハムの習性か!
だが、非常識極まりないこの事態に驚くことも忘れてはいない。しかし――むくむく。それ以上に、生来の好奇心には抗えませんでしたハムルビィ。
「――それにしても、だ。“人間をハムに変化させるヒマワリの種”の原理が解明出来れば、ノーベル賞も夢じゃないってモンよ!」
未来のジャーナリストの端くれとして、真実を究明する為にも――、
「発端となった科学室を目指すぜ……!」
あ――、
「もう一粒みっけ」
ハムルビィ、辿り着くまで時間かかりそうである。
そんな“友”の後ろ姿を呆然と見つめる、一匹のクロハラハムスター。
でかっ。
然もあんまりかわいくない。これは詐欺か!? 夢か!?
「何がどうなっている……!?」
勿論、かわいくない云々のことではない。
ジョウキョウハアク、コンナン。落ち着きを払った彼の平素の表情は崩れ去っていた。ハム顔――ファハムナーに。
……ファーフナー(
jb7826)に。
「そうか、これは夢か」
そうに違いない。
そうに違いない。
そうに違いない。
三回唱えたのだからだいじょうぶ。納得しよう。
そして、改めて身を確認。
手近な姿見には、シルバーの毛並みに冷なブルーアイのハムスターが映る。目付きは悪い。これは仕様がない。
「ふむ、夢ならば自由気儘に行動してみるか」
一先ず。
そうだ――この元凶である人物に襲いかかってみよう。
でゅわッ!!!
ファーフナーの身体が空を切る。目標――ダイナマ 伊藤(jz0126)
瞳に宿るは獣の気質。
放出してくる野性的な感情の所為か、彼に躊躇いはなかった。猛獣の如く、今、ファーフナーは野生に帰還する――!
「ほれよ」
全てがスローモーションであった。
投げつけられたヒマワリの種がファーフナーの横を――、
一粒。
二粒。
三粒!
Uターン。
「衝動が抑えられない……?」
普段の自制心は何処へ行った?
己を律してきた鋼な制は、ハムスターの本能に敗北するとでもいうのかハムハムハムハム。
「これが野生よ」
勝者、保険医ではなくヒマワリの種。
・
・
・
「おや、藍君?」
「人違いです、僕、ハムスター界のヒーロー見習い青ハム一号です」
「何だい、その裏声。ん? ハムスター?」
「え?」
「君、何処か変わったかい?」
ひどい。
「……うん。流架先生がどんな目で私を見てるのかすごくよく伝わったなー。もー! 先生のいじわるー!」
ぽかぽか!
ちみっちゃい手で藤宮 流架(jz0111)の手の甲を叩くのは、深みのある青な毛並みのジャンガリアンハムスター――木嶋 藍(
jb8679)
円らで大きい瞳は海の青。トルコブルーのピアスを耳に「わー!?」と、ぽよんぽよん。流架に捕獲され、お手玉トランポリン。
これがいい運動になってしまった。
ぽんぽんぐぅぅ。
「お腹が減っては何とかっていうし。お菓子貰おう」
藍はキャンディーポットに、よじよじ。
ピスタチオのマカロンを歯に引っ掛けて取り出し、にんまぁ〜。
「お菓子が大きい! しあわせー!」
でも個包装。開けなきゃ。
がさがさ。
がさがさ。
がさ(ry
「……先生、開けて」
ぶきっちょ藍ハム。
マカロン抱えて立ち上がる。愛嬌ありすぎ。
・
・
・
――ボゥッ。
原因のふしぎ種、着火。
証拠隠滅とばかりに、澄ました顔のダイナマの手によってハムハムドリームはこの世から消滅した。
「あら、元の姿に戻ったらダイナマ先生にも食べて貰おうと思ったのに……残念だわ。私も“ハム化を見る側”やってみたかったのよ? 《変化の術》でビッグハムになって迫りたかったわ。勿論、愛らしくね? ふふ」
それにしても――と、華宵(
jc2265)
「ほんと、あらあら……随分とちっちゃくなっちゃったわね。700年前でもこんな小さくなかったわ、私」
小首傾げて、のほほん。
ハムの首どこ?
漆黒の艶毛はふさりと長く、サテン生地のようにしなやかで毛触りは最高のゴールデンハムスター。
瞳は本来の色彩、透き通るアイスブルーのままだ。ちりりん、と、涼やかな音色は、両の耳を奏でる鈴の耳飾り。
ハムでも美形。
奥さん(?)にしたいハムNo.1になること間違いない。
「とりあえず、滅多にない経験だし楽しみましょ」
可愛らしい指先を口許に添えて、華宵は、ふふ、と微笑んだ。
さて、こちらは小柄なキャンベルハムスターのアルビノちゃん。
大きなおめめに小鼻すんすん。お耳ぴくぴく。視力が悪い為、匂いと音で周囲を識別する。
そして――ご主人様は飼い主。
この思考はハムになっても絶対なのですわ、の、斉凛(
ja6571)
「アレクさん、ご主人様に近づいたらがぶりですわよ」
彼に害をなす者には容赦はしない。
これ通常営業。
「ご主人様におやつをお届けしましょうですの。おやつおやつ……」
本来であれば手製の洋菓子を用意するのだが、この姿では到底無理で。
はて、どうしましょう。
「は! ハムレーダーきゅぴーんですわ!」
デスクの上にヒマワリの種、発見!
たんまりと小皿に入っている。
「これをご主人様に差し上げなきゃ」
洋菓子どこいった。
「つめつめですの」
もっもっもっもっもっ。
両頬ぷっくり。
一生懸命な仕草でヒマワリの種を詰め込んだ凛は、流架の肩へよじ登った。そして、
「おやつをご用意しましたわ」
ハムのドヤ顔。
誇り高く、口から取り出した種を流架へ差し出したのであった。
「ありがとう、凛君」
とてもいらないや――とは、流石に言えなかった。
・
・
・
ハムスターに堕ちた神。
「なんという事じゃ……。
神ともあろう者が、力と記憶を失い人になるどころか、更に無力なはむすたぁになってしまうとは……呆然とする他、ないのじゃ」
――白蛇(
jb0889)ロボロフスキーハムスター。
「本来よりも遥かに劣るが、何とか召喚出来ていた、権能ごとの分霊である司の召喚すら出来なくなってしまった」
ドワーフ種でも最小サイズのハムおばあちゃん。
白毛に金眼。
もしかしたら普段とあんまり変わらないかもしれない。
「……ところで、この状態異常じゃが。封印よりも強力ではないのか? あちらは、業の新たな使用は出来ずとも、発動済みの業まで封じる事は出来ぬのじゃが」
何やらぶつぶつと考察が始まった。
「いっそ、研究を進めて対天魔のBS兵器として完成を試みても良い気がするな。どう思うかの? 藤宮教師、伊藤保険医」
そう言いつつ、白蛇は流架の頭上へぴょぃーんと移動。短い腕を組んで、顎を反る。大層な貫禄は残念ながらない。
二人はそんな彼女へ一言。
「その姿で言われてもねぇ、白蛇君」
「そのなりで言われてもなぁ、白蛇」
――。
どっかーーーん!!!
白蛇ハム山噴火。
デスクの方へ跳躍し、二人へ向き直るとじたんじたん。くぅっ、と、地団駄を踏む。
「えぇーい! 最近の若者は、神への信仰心が足りな過ぎる! せめて年配者への敬意は持てぬのか!!」
対流架用ハリセンも振り回せないぷんすか白蛇。
その姿から見られるものは、白玉のようなものがぴょんぴょん跳ねていることと。只々の可愛らしさが、敬意など吹き飛ばしていたことであった。
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けぷっ。
お腹いっぱいになった藍。
さあ、お次はラムレーズンを探しに行こう。でも、その前に――。
ぴょんっとダイナマの頭へ乗った。
「ねぇ、先生は前から流架先生の事、好きなの? 仲いいなぁって思って」
「あん? もち、愛してるわよ。ルカの為なら死ねるわ」
「ふふ、色々あるのはわかるよ。でも、ダイ先生も、流架先生も、お互いに繋がってるのは言葉だけじゃない。そういう関係って、いいね」
「オレは諦めなかったからな。お前さんだってそうだろ?」
「あ……、うん!」
時々ぐるぐるもするけど。
やっぱり、ぱあぁ。青い花が咲いて、藍はにこーっと笑った。
・
・
・
一方、ハムルビィはというと。
「放課後のこの時間だと、やっぱり生徒の数が少ないな……っと。確か、この生徒は科学部員だったよな。よし、悪いが服の中へ忍び込ませてもらうぜ……!」
生徒を乗り継いで、漸く到達点の科学部員を発見。
乗車シマス。
保健室から科学室までの道程は、ハム足では流石に遠い。
だが、そこらへんの画策はぴぴぴとお任せあれ。新聞部員の端くれとして、全生徒の所属している部活は把握済なのだ! ……うん、ちょっと言い過ぎたかな!
in 科学室。
「とっ○こルビ太郎見参……!
――さて、と。ラムレーズンが種を落とした薬品ってのはドレだ?」
ルビィが薬品棚を探っていると、
『むむ?』
――背後に言と気配。
「(慌てるな、俺。こんな時こそアレで切り抜ける……!)」
アレ。
ぺしょ――誰かに踏まれたかの如く身体を平たくし、ルビィは大福に擬態した。
『おまえ、種ぽちゃんした薬品さがしてるのか? そんなもん、その日の内に廃棄されてたぞよ』
「なっ!?」
『てゆーか、おまえ誰なんだぞよ?』
ルビィが振り返ると、そこには――。
「あ、あんたは……!!」
次回へ続く。
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・
「てめッ、このファハム! ケージぶち込んでやらぁッ!」
「む……!?」
ハムになったことで凶暴性が増したファーフナー。
実は引き続いていたダイナマとの戦闘の末、終にケージへ放られてしまう。ふかふかの牧草、木製の巣箱、そして――回し車。
クルクルクルクルクルクルーーー!!!
「衝動が抑えられない……?」
Part2。
「ダイナマ先生。私、外に行ってみたいわ。一人(一匹?)で危険なら連れていって?」
そこへ、ダイナマの傍らに華宵。
くるくる回り、じゃん! ポーズ! 円らな瞳の上目遣いがとても愛らしいが、括れがないのでポーズの具合がよくわからない。
「おう、いいわよ。……おい、ファハム。良いハムしてろよこの野郎。ほらよ、餌」
彼がケージの隙間から種を差し出す。
ファーフナーは徐に金網へ近づくと――、
\がぶぅっ/
種ごとダイナマの指へ食らいついた。
そして、これが答えだ、と言わんばかりに金網をガジガジガジからのジャンピングキック。間違いなく脱走を試みようとしている暴れっぷりであった。普段から己を律している反動だろうか、ストレス発散になっているのやも。
「あらあら、大丈夫?」
「へーきよこんちくしょー」
「ふふ。じゃあ、白衣のポケットに失礼するわね。あと、お腹が空いたからおやつ頂戴?」
華宵の首傾げ。
仕草がいちいち可憐で困る。
頬袋にみっちりとお菓子を詰め込み、いざ日向ぼっこへ。
茜の空は色彩の渦で溶けていた。
ダイナマは背凭れのあるベンチに腰をかける。彼のポケットから頭をひょっこり、両手持ちでぽりぽりとクッキーを堪能しながら、華宵は外の世界を眺めていた。
広大な景色に、息をつく。
「学園も違って見えるわね。あら……なにかしら、歯がむずむずしちゃう……」
かじり木代わりに白衣をかじかじ。
そしてハッスルタイム! 裸ネクタイにぶら下がりターザンごっこ。彼の長い毛先と交互にぷらーんしては大はしゃぎの華宵。夜行性のハムスターは夕方から活動を始めるからね。
「いててっ、おめ、こら」
「あら、私は悪くないわ。ハムになっちゃってハムの本能で動いてるんだから仕方ないのよ。あんまり叱るのならキーキー鳴いて騒いじゃうから」
「さーせん」
しかしその内、はしゃぎ疲れた華宵はポケットの中ですやすや。
丸くなりながら、頬袋の中身をもぐもぐしていた。
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・
・
ぜぇぜぇ……と、白蛇。
「ふ、藤宮教師よ、すまぬが茶を淹れて貰えぬか? この姿では淹れるに淹れられぬ……」
「はいはい、愚痴のぶちまけお疲れ様」
「誰の所為だと思っておるかお主!」
ずずず、と一息。
「ふぅ。まあ、後は元に戻るまでのんびり過ごすとするかのぅ……」
そんなお年寄りタイムに――すってんころりんぽっちゃん。
流架に飲み物を用意しようとしていた凛が、紅茶の入ったティーカップへ頭からダイブ。あぷあぷと救助を求めていた。
「おやおや」
流架の指先で救出された凛であったが、ハム毛びしょ濡れ。
「さ、さむーいさむーいですわ……!」
ぶるぶるりん。
寒さで気が動転したのか、飼い主の袖からもそもそと服の中へ潜り込む凛。きゃあ、大胆!
「わっ!」
「狭い、暗い、あったかい……居心地が良いですの。ここはわたくしの巣ですわ」
何度、摘まみ出されてもめげません。
仕舞いには流架の温もりに安堵して、すぴー。ハムベッドに寝かせてもらう凛でありました。
そこへ、ルビィと次回へ続いた正体のラムレーズン、道中に出会った藍が保健室へただいまー。
僅かの差で、華宵とダイナマも戻ってくる。
そう――ハムタイムもそろそろ終わる時間だ。
藍は流架に、一緒に日向ぼっこしたい、と願い出る。
頭に乗せてもらい、ゴー。
「おぉお、高い! 先生の目線ってこんななの、すごい!」
彼の世界に嬉々とし。
焦がれるような夕焼け空に吐息をつく。
「……ちゃんと戻れるかなぁ。このままじゃ、先生に、笑った顔も見てもらえないよ」
「その時は、俺の傍にいてもいいよ?」
「もー。……じゃあ、いてあげてもいいですよ?」
すり。
彼の手許へ寄って。
「先生の匂い……安心するなぁ」
すやぁ。
●
ぼわわわん。
――ハムタイム終了!
腹を満たし、うとうとしていたファハム。ケージぶち壊して牧草まみれの渋メンに元通り。
だがしかし、
「(夢ではなかった……)」
顔面蒼白。
そりゃそうだ。ハムスターであんなことこんなことしちゃったもんね! そんな彼の肩へ、ニヤり。ダイナマが腕を回してくる。その、後ろ――。
「アレクさん、お礼(参り)にティータイムはいかが? 紅茶と生レバーをご用意致しました。他の皆様はプルーンジャム付きのスコーンをどうぞ」
主人に仕出かしてしまったメイド、ゴゴゴ。
「む、木嶋殿と藤宮教師はどうしたかの?」
「大丈夫じゃないかしら。ふふ……野暮なこと出来ないもの」
「むにゃ……戻ったら、御夕飯を所望……しま、す……むにゃ……」
流架の膝を枕に、藍は、すやぁ、のまま。
吐息で笑む彼の掌が、彼女の髪を優しく撫でていた。
『――次回には続かないんだぞよ?』