「こんな時期でも茸狩りよ!」
「き●こ●この●〜って全部歌うとまずいですかねぇ?」
糸田のアパート前に集合し、季節外れの茸狩りにノリノリな雪室チルル(
ja0220)と、例の茸ソングを口ずさむ点喰因(
jb4659)。ちなみに全部歌うとやっぱり大人の事情になってしまうので、歌詞の一部はジュリオット先生が頑張ってギャグ漫画の如く隠しました。
「キノコの歌なんてあるのか。人間の社会はやはり面白いなー」
TW●TT●Rに『今からキノコ祭りだぞー( ´∀`)』と呟く携帯依存症状態のルーガ・スレイアー(
jb2600)に、
「ア●ス・イ●・ワンダ●ラン●で茸狩り……凄く、ファンタジー…」
と、中の様子を想像し目を輝かせる燐(
ja4685)だがさてはて一体どうなっている事やら。
「四畳一間にキノコ……!レ●ジ・マツ●トのマンガの世界みたいですね!」
「喜んで貰えるなんて茸人冥利に尽きるなぁ!!」
むーんと湿気の漂う四畳半のアパートの中に人くらいの大きさから手のひらサイズまでの茸がみっしりと生えている様子を見て日本アニメと書いて文化と読む勢いのカミル・ハルトシュラー(
jb6211)は目を輝かせ、糸田は何故か照れている。
「なんかすれ違ってる気がするけど……ん?何?燐さん」
服を引っ張られ、ツ●ハギ●タも似合うなぁなんて心の中で思っていたジュリオットは現実世界に引き戻される。
「ファンタジー……って暑いね」
チ●ャ猫って凄いんだね、と無表情ながらも何処か心弾ませているように見える幼子に教師として突っ込みを入れて良いべきか悩むが、その最中でも別の場所でもワザとか天然か分からない発言が飛び交う。
「これは腐海だな。そう、まるで後に青き衣を纏い金色の野に降り立つ姫の実験室みたいだ」
ジ●リかい、と突っ込みを入れたくなる感想を漏らす鴉乃宮歌音(
ja0427)。
「まさか室内でキノコ狩りをするとは思いませんでしたが、それにしても予想より暑いですね」
先日の依頼で重体を受けたと言う楯清十郎(
ja2990)は服の下は包帯で巻きめぐらされているとのことなので暑いのは必至だ。
「……茸、かろっか。糸田君、説明おねがい」
「了解です!まず、斡旋所の資料にも書かせて貰った通り基本俺の部屋にあるのは食べられる茸ばかりです!そこの楊君のすぐ傍にある君と同じくらいの体長の茸も良く見て貰えればエノキダケだし!!」
「本当だ。あっちも良く見たらカーテンじゃなくて木クラゲですね」
楊礼信(
jb3855)は糸田に言われた巨大なエノキを見た後、向こう側にある遮光カーテン、もとい木クラゲを見て「ほー」と感心をしている。料理人としての血が最早食材を見た事により疼いているのかもしれない。
「ですが心配なモノもあるかもしれないので不安になったら俺に聞いてください」
「調理に関しては調理室のカギを開けて貰ってるからそっちでねー。茸は詰めたら下にあるワンボックスに積んでねー。あと、熱中症対策は各自でしてると思うけど、どうしても体調が悪くなったらすぐ僕に言う事。はい、じゃあ作業開始!」
パンっとジュリオットが手を叩くと、それを合図に皆、わらわらと四畳半腐海に散って行った。
「糸田さん、この部屋の茸は殲滅しても大丈夫ですか?」
まずは糸田に確認を取るのはカミル。彼はやるからには徹底的に1つも残らず茸を狩ると考えているが、やはり家主の残したいものは聞いておかねばならぬだろう。全て根絶やしにしてからは遅いし、対処が出来ないので。
「せん……ああ、全部とって良いかって事か。OKだ、原木さえ残して貰えれば今生えている茸は全部狩りとって貰っていい」
「わかりました」
「じゃあ私は原木を隔離しようか」
カミルが玄関を開放し、そこにしゃがむ。
入口から内側に進みながら確実に取りこぼしの無いよう狩っていく作戦だ。
原木を隔離すると宣言した歌音も近くに陣取り、手近な原木を探し当てると再利用できる程度に原木を刈る。恐らく、例の粉の成分が再発しない為もあるだろう。
「それにしても……ファッキンホットにクソ暑い室内ですね」
「そのジャケットを脱いだらどうだ?マシになると思うが」
歌音がそう進言するが、カミルはゆっくりと首を横に振り、作り出した氷塊をビニールに入れながら、
「このUPCジャケットは脱ぎません。いや、脱げません。これはオタクとしてのポリシーであり、魂です」
と、真顔で言った。
「そうか、ならこれも追加で貼っておくといいだろう。倒れられても困る」
「ありがとうございます、歌音さん」
そう言ってカミルは歌音から渡された冷却カイロを首に貼り、作業に意識を戻した。
「あたいが一番大きい茸を狙うんだから!」
一番大きな茸を狩る事を目的にしているチルルは部屋の中央にある巨大なエリンギに目をつける。
「すごく…大きいです…」
「おー、これはいいなー。早速撮って呟くぞー」
チルルが見つけたエリンギを見て、お約束な呟きをするのは因。
そして呟くべく、写メしているのがルーガ。
「糸井ー、きのこの写真いるかー?」
いりまーすと屏風のような舞茸の向こうから返事が聞えたので早速ルーガは先程聞いておいた糸井の携帯へと転送する。
「んでもこんなふっといエリンギどう狩りましょうかねぇ」
「大丈夫よ、因!大きいからこそ力で勝負!」
チルルはそう言うとツヴァイハンダーFEを取り出し、構える。
「おお、この国ではこのようにして食べ物をつくるのかー。ワイルドって言うんだろう?因」
「まぁ、なんかちょっと違いますがねぇ。さておっきなのはチルルちゃんが楽しそうだからお任せしてあたしはここいらの中堅椎茸でも採りましょうかね」
チルルの武器射程に入らないような場所でしゃがみ込んで因は椎茸を狩り始める。
目の前で大きなエリンギと戦うチルルと、例のキノコソングを鼻歌しながら椎茸を取る因、そして初めて見る珍しい茸をルーガは楽しそうに写真を撮っていたが、見ているだけではやがてつまらなくなったようで、椅子にしていたオニフスベから降り、
「うー、私もなんかやりたいんだぞー」
と、傍らにあった空の籠に手を伸ばした。
一方、外では清十郎とジュリオットが部屋の外からホースやひしゃくを使って窓に水かけ打ち水をしていた。
「これで中も多少は涼しくなりますよね」
「うん、それに部屋の目立つ所に飲み物を冷やすバケツを楯君が設置してくれたから湿気で温められた飲み物を飲むって言う我慢大会にならずに済むよー」
ジュリオットが外に出ているのは一応重体者の引率。
例年に比べると涼しい初夏であるが、包帯を巻いている彼が外に居ても健康状態の人間より暑さに弱いだろうから、一教師として彼は外に居る。
「ただ、これからまだ温度上がるでしょうし、やっぱきついですよね」
「うーん、そうだよねー」
そんな清十郎の心配は当たっていて室内は徐々に気温も上がりサウナ状態。
最初のうちは上機嫌で色んな種類の茸を狩りとっていた燐であったが、こうも暑いといくら水分補給していようが目に見えてバテテくる。
「これは…きっと試練。撃退士たるもの、どんな状況下でも…依頼を成功させないと…」
その志は褒めたるものだが、状況に応じて自己管理も出来てこそも撃退士。
見かねた歌音が冷却スプレーを当ててあげた事により、何とか燐もそのまま倒れず作業を続けられた。
糸田宅の茸は全て狩り終わり、カミルが最終チェックをした後、一同は学園の調理室へと移動した。礼信や因が出発前に準備しておいたのですぐにでも調理できる環境にある。
「ねぇねぇ礼信!あたいのエリンギが一番だよね!」
「そうですね、チルルさんのエリンギが一等賞です」
やったー!一番!とチルルが喜んでいる横で礼信はそれにしても、と彼女の狩ってきたエリンギを見て一部を素早く切り取るとさっと塩コショウで軽く炒め、火が通ってきた所で口に入れる。
「試食か・・・、どうだ?」
「見た目に対して大味かと思ったんですが普通のエリンギと同じですね、歌音さん。むしろ食材自身の味が少し濃い気がします」
「通販の粉のおかげかもしれませんね、生で作ろうとしている僕には有り難い話ですが」
狩りとりはあまり手伝えなかったので、と清十郎は苦笑を浮かべ糸田に選別して貰ったホワイトマッシュルームをサラダにすべく切っている。
大味ではないと教えて貰った歌音もいつの間にかニスロク給仕服に着替えており、事前に下ごしらえしてあった米に入れるべく、茸を酒、みりん、醤油、塩、そして出汁で味付けをして炊き込みご飯の準備をしている。
「歌音ー、歌音ー。これも美味しそうだぞー」
そう言ってルーガの出してきた携帯に映し出されていたのは『きのこの酒蒸し』。
本当は見ているだけの予定だったが茸狩りの時と同じく皆がやっているのを見て参加したくなったらしい。
「まぁ、これなら素人にも出来そうだな」
「よし、『ルーガちゃんのどーんといってみよう☆なう』」
そして呟きと同じようにどーんと日本酒をボウルの茸に向かって大量に入れるルーガ。
まぁ、これも個性的でよし、味には問題が無いだろうと歌音は1人で頷いた。
一方、料理人としての実力を発揮しているのは礼信。
流石、中華料理店の息子なだけあり、手つきも鮮やかである。
「美味しそうだね!何作ってるの?」
「オイスターソースベースの炒め物にキノコとキャベツの蒸し物、あとは味噌仕立て具だくさんのキノコ鍋です。チルルさんは何を作っているんですか?」
「あたいはキノコバーベキューの準備よ。皆で楽しく食べたいじゃない。べ、別にこれしかできないわけじゃないんだからね!」
チルルの答えに、皆が楽しめるように精一杯頑張っているのだとわかって年上ながらもほほえましいと思う礼信は、
「はい、ご飯の時間も楽しみましょう」
と、笑うのだった。
「んー……」
計量スプーンと格闘しているのは舞茸の炊き込みご飯を炊こうとしている燐。もう一品の椎茸の肉詰めは何とか終わらせたものの、簡単そうなご飯料理は意外と細かい調理法(主に味付けパートが)だったので真面目な彼女には全部図らなければいけない料理となり難問の模様。
「燐さん、大変そうですね」
お手伝いできなくて申し訳ないと声をかけるのはお皿の準備と調理道具の片づけを申し出たカミルだ。燐は首を横に振り、
「大丈夫……これも試練、美味しい食べ物は、生きるために…大事な事。だからそれを作るのは大事」
と、視線を調味料から離さない。
「そうだねぇ、それは大事だねぃ」
この後の試食タイムが楽しみだとパスタを茹でながら因は笑みを浮かべる。
「ちょいと余裕ありますけど、カミルさんはリクエストありますか?」
「因さん、ありがとうございます。けれどもこれだけみなさんが腕を振るってらっしゃいますし、大丈夫です」
「因、余裕羨ましい。寮に帰ったら…ちゃんと、料理も……練習しなきゃ」
リクエストを聞くほど余裕な因を見て燐はちょっと反省。いつも同室の人にばかり任せきりで、先程作れた肉詰めも少しいびつで不満なようだ。
「大丈夫よ、燐ちゃん。ゆっくりやってけば、おねーさんは燐ちゃんよりもおねーさんだから余裕なだけですよぉ」
「ん……わかった」
さて料理も出来上がるとやはりと言うべきかルーガはネットにあげるべく、自分のモノだけではなく皆の料理も撮りまくる。
「『おいそーだぞー、キノコぱーてぃーだー』っと」
「美味しい…」
「せっかくの取り立てですから、キノコの旨みを殺さないように作ってみました。気にいっていただけで嬉しいです」
美味しい事は幸せだと礼信の料理を頬張る燐。
「とれたて生キノコサラダ美味しいね!」
「バーベキューもいいですよ。室内だとクーラーも効いてるし、室内バーベキューセンターってないかなー」
こうして季節外れの茸狩りは幕を閉じたのであった。