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二十一時、シャッターが閉じたデパートに子側Bチームが到着。
「少し胸がきついですねえ」
普段ならありえない事を言う、Rehni Nam(
ja5283)。
ぺたーずとして知られるレフニーだが、本日は巨乳Day。
変化の術を用いて小太りの男性に変装している。
乳もでかいが、腹もでかい!
(完璧です! どう見ても私は警備員さんですよー)
警備室で事情を話して制服を借り、自信満々に着込むレフニー。
乳が違うと、自信も違う!
ところが、いきなりその自信を崩すものが現れた。
「警備員さん、いい体♪ 霧依、警備員さんみたいな人だ〜い好き♪」
背中に二機の超巨大やわらかロケットが押し付けられた。
「だ、誰ですか?」
返事の代わりに、一枚の写真がレフニーの眼前に差し出された。
ロリっこやショタっこがお風呂できゃっきゃウフフしている、所持しているだけで逮捕されそうな写真だ。
「うちの子達の写真よ♪ 私に協力してくれるなら、この子たちが何でも言う事聞いてくれるわ♪」
「ん? 今、何でも――って、霧依さん、私です! レフニーです!」
振り向いたそこにはマイクロビキニに白衣の美痴女・雁久良 霧依(
jb0827)が立っていた。
同じAチームの仲間である。
「あら♪ レフニーちゃんだったの♪ 今、警備員さんたちを買収しようとしていたのよ♪」
「買収? その写真でですか?」
久遠ヶ原ならともかく、ロリペド趣味で買収される警備員がそうそういるとは思えない。
「そうよ♪ みんな大好き♪ 小さな子♪」
霧依はいつも通りご機嫌で、次の警備員の“買収”に向かった。
「鬼じゃなく、当局に捕まる気がします」
デパート1F、クレヨー先生を戸惑わせているのは、後半から参加の黒百合(
ja0422)。
「ダメなのぉ?」
「ルールとかいう問題じゃないんだな、一般の人たちに被害を及ぼすような事はしてはならないんだな」
「いいじゃな〜い、階段に鋼糸鉄線張るくらい」
「巡回している警備員さんが、大怪我するんだな!」
どうしても危険罠を仕掛けたいらしい黒百合。
ルールを巡って、クレヨー先生に食い下がる。
「しょうがない、警備員さんたちに話してみるんだな」
根負けした先生に、いくつか許可を貰う黒百合。
Bチームが来る前に、喜々としてそれを仕掛ける。
二十二時、鬼側Bチームが到着。
「さあ、頑張りましょう皆さん――って熱っ!」
登場するなり、紅蓮の業火に包まれたのは、やはり今回初参加のエイルズレトラ マステリオ(
ja2224)。
デパートに入ろうとした瞬間、全身が炎に包まれたのだ。
いきなり重体、究極の出オチキャラになるかと思われたのだが――。
「燃え移らない――これは炎焼の炎ですね」
咲魔 聡一(
jb9491)がエイルズを炎の中から引っ張り出した。
「こういう真似するのは間違いなく黒百合さんですよ、タチの悪い!」
雫(
ja1894)は、雪だるまサッカー等の依頼で、黒百合とは因縁がある。
「まあ、普通のかくれんぼでない事はわかりました」
シルクハットをかぶりなおしながら、エイルズは轟々と揺らめく炎を見つめた
炎を避けるため、デパートをぐるりと回り裏門から入る三人。
黒百合、わずかだが時間稼ぎに成功。
デパート内に入ったエイルズ、まずは召喚獣のハートを呼ぶ。
探索の目を増やす作戦。
「何が仕掛けてあるかわかりません、気を付けて下さいね」
黒百合がいる以上、罠の存在も最大限に警戒しなくてはならない。
一方、咲魔は警備責任者に話しかけている。
「そもそもこれは潜伏する犯罪者を捜索するための訓練なのです、有事の際は警備員さんたちの力もお借りする事になります。 どうかご協力下さい」
礼儀正しくお願いする咲魔。
警備員たちを全員集め、本人確認して欲しいのだ。
実行がされれば、警備員に変装しているレフニーは大ピンチである。
だが、年配男性の警備長は困ったように目を逸らした。
「俺たちじゃなく、撃退士さんたちの訓練だからなあ」
何か都合が悪いのか乗ってきてくれない。
進まないやりとりを聞いていた雫が、前に出る。
「警備長さん、どうかAチームが隠れている場所を教えて下さい」
雫、警備長の手をきゅっと握る。
忍法友達汁で、懐柔してしまおうというのである。
警備長、雫の上目使いな可愛い顔を見て、心が揺らいでいる様子。
「う〜ん、お嬢ちゃんを手伝ってやりたいところだけれど、俺たちみんな、Aチームに協力するってもう約束しちまったんだよ」
「何故!?」
警備長の顔が、だらしなく崩れる。
「ロケットおっぱいのお姉ちゃんが“後で何でもしてあげる”って約束してくれたんだよ」
「うわっ、霧依さんだ」
「またおっぱいですか! 何でこのかくれんぼ大会は巨乳有利なんですか!」
プンスカする雫。
プレ試合の時も、巨乳にしてやられている。
その時、獣が嘶く様な悲鳴が辺りに響いた。
「何だ?」
警備長と共に、声の源に駆けつける。
エスカレータの前。
エイルズが自らの召喚獣であるハートを、抱き起している。
「大丈夫ですか、ハート?」
エスタレータ周りを調べた雫の顔が不安げに曇る。
「おそらく黒百合さんの“邪毒の結界”ですね」
倒れたハートを送還するエイルズ。
「参りましたね、これはうかつに動けない」
戸惑っているBチームの姿を見た警備長。
気まずげに口を開き始める。
「実は俺たち一般人が通らない場所になら、罠を仕掛けていいって許可を出したんだよ」
「ええ?」
「でも、お嬢ちゃんたちが怪我するのを見るのは俺もアレだし、許可を出した場所だけ教えておこうか」
どうやら警備長の中で、雫の姿が自分の子供と重なったらしい。
Bチームは、黒百合の罠の驚異から逃れた。
一階の探索を終えたBチームが二階への階段を昇って行くと犬、熊、猫の着ぐるみを着た三人組と鉢合わせた。
見るからに怪しい。
突然、咲魔が一人一人を指差しながら、誰何する。
「貴方は黒百合さんですか? レフニーさんですか? 霧依さんですか?」
確信はない。
万が一、中に入っていたら儲けものという考えだ。
すると着ぐるみたちは頭を外した。
中から、若い男の顔が三つ出てくる。
「すみません」
「僕ら警備員なんです」
「“何でもするから協力して♪”と言われたもので」
憤慨する雫。
「またおっぱいですか!」
「待って下さい、貴方たちが“契約“したのは霧依さんだけですよね?」
エイルズが、何かを思いついたかのように尋ねた。
「黒百合さんとレフニーさんは契約対象外のはず、彼女らを見かけませんでしたか?」
すると、猫の着ぐるみに入っている男が答えた。
「その娘らはわからないけど、二階で怪しいマネキンなら見ましたよ」
「マネキン?」
「九尾の狐みたいな着ぐるみを着ている奴です、あんなの夕方まではなかったはず」
「それレフニーさんが学園で着ているの見た事あります」
「怪しい」
「問題は怪しすぎるってとこですねぇ」
レフニーが、マネキンに化けている可能性はある。
だが、わざわざ自分だとわかる着ぐるみを着るだろうか?
明らかにダミー臭い。
雫だけが、志願してマネキンの様子を見に行くことになった。
他の二人は、スマホで情報を共有しながら別階を探索する。
七階。
こちらには子側Aチームの黒百合が潜んでいた。
といっても、物影に身を隠しているわけではない。
脚立に登り、堂々と姿をさらしている。
「仕事しているふりだけするというのも、辛いものねぇ」
ダメリーマンみたいなボヤキを漏らす黒百合。
変化の術で成人男性に姿を変え、電気技術者らしく作業着を着ている。
照明交換作業をしているのだが、何ら技術があるわけでもない。
いつ誰がくるかわからないので、ひたすら“やってるふり“をしているだけである。
すると、誰もいないはずの廊下に足音が聞えた。
見れば帽子を目深に被った金髪男がこちらに向かって歩いてきている。
今回の参加者に金髪はいないはずだが、警備員服でも作業員服でもない男。
この状況では圧倒的に怪しい。
「貴方は――」
男に声をかけられる直前に、逃げ出す黒百合。
名前を呼ばれたら、アウトである。
「きゃはぁ♪ 捕まらないわよぉ♪」
階段やエスカレータに逃げては、上から覗かれるだけで目線カメラ捉えられてしまう可能性が高い。
逃げるならエレベータだ。
カムフラージュに幻影・影分身を階段の方に飛ばす。
男はひっかかってくれた。
階段へ分身を追い、必死で黒百合の名を呼んでいる。
声からして、金髪男は変装した咲魔のようだ。
「成功♪ スリルあるわぁ♪」
上機嫌でエレベータを待つ黒百合。
だが、いつまで待っても来ない。
「なによぉ? 故障中?」
エレベータは動かない。
実はエイルズが一階に呼び出したまま、ドアに買い物カートを挟んで使用不能にしている状態なのだ。
そんな事は知らない黒百合。
ボタンを押し続けていると、
ハメられた事に気付いた咲魔が戻ってきた。
ちなみに、作業員が黒百合だと見抜いたわけではない。
見かけた人間全員に対し、生真面目に同じ台詞を言っているだけである。
「貴方は黒百合さんですか? レフニーさんですか? 霧依さんですか?」
捕まった黒百合、だがどこか嬉しそう。
「これで自由の身だわぁ♪ 遊んでくるわねぇ♪」
黒百合、“仕事しているふり“が余程辛かった模様。
【開始後201分 黒百合捕獲】
一方、二階。
件の九尾マネキンの様子を雫が見にきていた。
「やはりダミーでしたか、流石はレフニーさん、一筋縄ではいかないようです」
是非ともレフニーを捕えたい雫。
なにしろ前半戦ではレフニーに“乙女の勘”だけで隠れ場所を暴かれてしまったのだ。
恨みはないが、そのリベンジはしたい。
定番の生命探知を飛ばす。
「ふむ、やはりたくさん引っかかりますね」
無人に近かった山や学校と異なり、今回は警備員や作業員がたくさんいる環境。
だが、かくれんぼ依頼三度目の雫、しっかり学習をしている。
「前回、レフニーさんが使った技術、あれはまさに盲点でした」
ひっかかった地点を記憶した後、装備を外し、能力を落して生命探知を再実行する。
するとさきほどは引っかった数多の反応のうち、一つが消えている事に気付いた。
「これが撃退士というわけです」
雫は、消えた反応のある四階、子供服売り場に急行した。
子供服売り場にいたのは、幼女大好き霧依さん。
「幼児用試着室くんかくんか♪」
そんな霧依に、足音が近づいてきた。
巡回警備員の歩き方ではなく、はっきりとこちらに駆けてくるのがわかる。
勘付かれたらしい
だが、対策はしてある。
リモコンを手に取り、足元からラジコンを発進させた。
「なんですか、あれ?」
走ってきたラジコンに、雫は足を止めた。
おそらくはおもちゃ売り場の試遊用ラジコンなのだが、上にビニル袋が置いてある。
その中に、生命探知にひっかかる大きさの魚が泳いでいるのだ。
実はこれ、霧依が鮮魚売場にあった水槽から掬ってきた物。
「さっきの反応はあの魚のものだったのですか」
しょんぼり肩を落とす雫。
「――とか、ごまかされませんよ!」
すぐ顔をあげて走り出す。
子供服屋に撃退士がいるのは、レフニー式探索術で確信済みなのである。
足止めに失敗した事に気付いた霧依。
だが罠は二重に用意してある。
実は霧依、犬の着ぐるみを着ている。
先程は警備員の一人に着せていたものだが、その後で連絡をとり入れ替わったのだ。
同じ着ぐるみを二度は調べまいと言う考えだ。
巡回中の警備員のような仕草で、子供服売り場から出て行こうとする。
だが、
「待って下さい」
レフニー式生命探知術で確信を得ている雫に、もはや小細工は通用しなかった。
「レフニーさんですか? あるいは――」
とたん、犬が抱きついてきた。
「私は霧依じゃないわ♪ 雫ちゃんの犬よ♪」
ぬいぐるみの舌で、雫をぺろぺろする霧依。
「離してください、霧依さん!」
動物に懐かれない事が悩みの雫。
懐かれたくない犬に、懐かれる。
【開始後308分 霧依捕獲】
同階、ゲームコーナー。
「COM戦とはいえ、ラス前の敵は強すぎですね」
無人のゲームコーナーの捜索中、ついちょっとだけと電源を入れてしまったエイルズ。
誰もいない夜のゲームコーナーの魔力に、すっかり呑まれている。
今までずっとゲームに興じてきた。
「何やってるんですか、エイルズさん」
雫に見つかり、叱られる。
「これは失敬、つい雰囲気に呑まれて」
“自分だけの自由空間“の魔力は半端ではない。
ともあれ、今度はレフニー一人を三人で探せる。
あと64分以内に捕まえればBチーム逆転勝利となるのである。
「可能性はあると言っていいでしょうね」
「サボりのお詫びというわけではないですが、僕なりの考えがあります」
エイルズが考察するに、可能性の高い場所は、レストラン街のキッチン、家電売り場の冷蔵庫や洗濯機の中、屋上の物影や着ぐるみの中、そして試着室などである。
「では、その辺りを徹底的に探しましょう」
それから一時間が経過した。
だがレフニーは見つからない。
逆転勝利への可能性も残り4分となり焦りが生まれ始めた時、
「なんですか、これ?」
エイルズが、二階の試着室に妙なものを見つけた。
裸の成人女性型マネキンである
「なぜこんな場所に?」
可能性として考えられるのは、このマネキンが本来あるべき場所に、今は別のマネキンが置かれている事。
レフニーなら、変化の術でマネキンのふりも可能なはずだ。
しかし、それを探そうにも二階は婦人服売り場、成人女性型マネキンは無数にある。
残りのわずかな時間で、その全てを検証するとなると、
「あれしかありませんね」
急ぎ、雫に連絡するエイルズ。
雫に、生命探知を放ってもらう。
「あれです! あのマネキン生命があります!」
雫が示したマネキンに向かって、宣言するエイルズ。
「レフニーさん、御用です!」
【開始後370分レフニー捕獲】
「わ〜ん、別の場所にマネキンを隠せばよかったですー」
九尾の着ぐるみを着たまま、ベソをかくレフニー。
レフニーは開始当初、巨乳警備員に変装しやりすごした後、霧依に籠絡された別の警備員を通じて九尾のマネキン情報をBチームに流した。
その時は確かにダミーに過ぎなかった九尾のマネキン。
だが、それを確認した雫が去った後、再び変化の術を使い、マネキンに化けて九尾のきぐるみを着たのだ。
一度調べたところを二度は調べまいという、人間心理を突いた考え方。
ただし、マネキンに生命はない。
生命探知の名手レフニー、生命探知に敗れる。
両軍とも知恵を尽くした好勝負が終った。
特にレフニーが考えた生命探知の活用術は、実戦において天魔や撃退士が人里に紛れ込んだ時にも有効な捜索手段となろう。
1セットで2回の生命探知を行使しなければならず、使用回数の都合上万能とは言えないが、それでも可能性を秘めた使用法といえるだろう。
本来の目的を果たしたかくれんぼ訓練、クレヨー先生大満足である。