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午前六時五十分、小学校正門前に子であるBチームが集合。
「鬼チームの誤認を誘うために、全員でこれを着けませんか?」
ニート少女・ゼフィ(
jc0492)が取り出したのは、覆面と百均グラサン。
装着すると、“正義の味方で善い人”に見える謎のデザイン。
だが、同チームの眼鏡男子、咲魔 聡一(
jb9491)は、渋る。
「誰かわからなければ名前を呼べないので作戦としてはいいんですが、眼鏡の上に眼鏡を付けるのが、僕はどうも――」
眼鏡常着人が、別の眼鏡を付けろと渡された時に困惑するのはデフォである。
「私の場合、体格でバレる気が……」
小さな体をショボーンと縮ませる雫(
ja1894)。
Aチームは咲魔が百六十八センチ、ゼフィが百五十七センチ、対して雫は百二十センチと、ごまかしようがない体格差がある。
覆面作戦を諦めるゼフィ。
「う〜ん、しょうがないですね、私はプランBでいきましょう」
ゼフィの言うプランBとは?
午前七時、校門が開き、Bチームの潜伏準備時間が始まった。
真っ先に飛び出したのは、咲魔。
「かくれんぼでこの咲魔 聡一が隠れるだけで終わるなどということは決してない!と思っていただこうッ!」
テンション高く叫びながら、校門に突入したかと思うと、磁場形成と、翼を利用しやたらめったら校内を飛び回る。
準備したい事が大量にあるようだが、果たして間に合うのか?
雫、ゼフィも思い思いの場所に潜伏する。
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午前七時五十分。
正門前にAチームが集合。
「小学校に合法的に侵入できるなんて最高ね♪ 楽しくなりそう♪」
幼女大好き美痴女・雁久良 霧依(
jb0827)にとって、小学校はパラダイス。
「今日は捕まえる役なのに、警察に捕まりそうです」
そんな霧依をジト目で見つめるRehni Nam(
ja5283)、通称・レフニー。
欧州人だが、日本のかくれんぼに適応できるのか?
「もう一人は?」
Aチーム第三のメンバーがまだ到着していない。
「うふふ♪ 私がご招待させていただいた子がいるの♪ もうすぐ来るわ♪」
と言っている間に、校門前に一台のワゴンが停まる。
ドアが開き、そこから降りてきたのは。
「ま、間に合ったにょろ」
髪が蛇で出来ていて常にニョロニョロしている、はぐれ天魔の子・ニョロ子 (jz0302)。
「ニョロ子ちゃんお久しー。 どうしたの、その格好?」
以前、料理依頼でニョロ子と対面した事のあるレフニーが驚くほど、ニョロ子はボロボロだった。
身に着けているクリーム色のワンピースが、あちこち擦り切れている。
「クレヨー先生に、かくれんぼ特訓を受けていたにょろ」
「ナニソレ?」
「クレヨー先生はクレヨー流隠遁術の創始者にょろ、ニョロ子がそれを受け継いだにょろ」
要するに、かくれんぼ限定でスキルを使えるようになったらしい。
食べ物には造詣の深いニョロ子だが、今回はかくれんぼ。
果たして役に立つのか?
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午前八時、捜索開始である。
「では……龍亀召喚!」
玄武に似た召喚獣・スナオを呼び寄せるレフニー。
「スナオ、一緒に皆を探すの、手伝って下さいね」
スナオのスベスベした甲羅に頬ずりするレフニー。
感触が癖になるらしい。
モフラーならぬ、スベラーといったところか?
ともかく、これにより目の数が二つ増え、レフニー自身の能力も上昇。
万全の構えで探索を開始する。
「捜索・探索と言えば撃退士にも様々ありますが……今回は、オーソドックスに、我がアスヴァンの生命探知を中心として鬼役を行う事としましょう」
生命感知を使用しながら移動するレフニー。
これにより有効捜索範囲を大幅に広げる作戦。
一方、Bチーム雫は飼育小屋に隠れていた。
段ボールに体をくるみ、寝そべっている。
「兎や鶏が怯えているのは気のせいでしょうか?」
雫としてはモフりたいのだが、兎たちはプルプル震え、雫には近づいてこない。
動物好きなのに、なぜか動物に怯えられるという謎の業を背負っている雫だった。
「どうにも、ここは居づらいですね」
段ボールの影から、チラチラと辺りを伺う雫。
辺りに敵がいないとみるや、飼育小屋から脱出!
しかし、手ぶらではない。
兎を二羽見繕ってお持ち帰りする。
「良い子ですから、大人しくしていて下さいね」
普段から小学生にいじくられ慣れているはずの兎。
だが、雫の腕に抱かれたとたんキィキィと鳴き始める。
滅多に鳴かない動物だが、恐怖を感じた時だけ鳴くのだ。
「捕って食べたりする訳ではないですから」
諭しても、仲間にお別れを言うように鳴き続ける兎。
自分の何がそんなに怖いのか、雫の方が泣きたかった。
その頃、Aチームの霧依は。
「雫ちゃん♪、ゼフィちぁん♪ 出ていらっしゃい〜♪」
甘ったるい声で呼びかけていた。
Bチームには幼女が二人もいるので、モチベあがりまくりである。
「捕まえたら何でも言う事聞いてくれるルールよね♪ でも大丈夫よ♪ 一緒に気持ちよくなれる事をするだけ♪」
そんなルールないのだが、勝手にそう思い込んでいる。
トイレの個室やロッカーの中、更衣室まで隈なく探す。
「見〜つけた♪」
歓喜に沸く霧依の顔。
「幼女の上履き♪ くんかくんか♪」
霧依は目標物が、皆と違う。
小学校性活を堪能し、すっきりした顔で校庭に出る霧依。
その目が、校庭に並ぶ妙な物体を捕えた。
段ボールである。
組立てられた段ボール箱が、大量に並んでいる。
「このどれかの中に、裸リボンの雫ちゃんとゼフィちゃんが入っているのね♪ “私がプレゼント“ってやつね♪」
幸せな発想で段ボールを次々と開け始める霧依。
その様子を、咲魔はドアの影からじっと見ていた。
咲魔がいる場所は校庭の用具倉庫である。
「あの作戦は無理だな、ファンタジーやメルヘンじゃないから」
残念がる咲魔。
あの作戦というのは、咲魔が事前に用意しておいたものである。
その概要は――。
1・まず、扉の傍に伏せておき、鬼が扉を開けた瞬間にスキルの砂嵐で視界を塞ぐ。
2・すぐさま鬼と体を入れ替え、エアロバーストで庫内に突飛ばす。
3・あらかじめ張ってあるサッカーのゴールネットに鬼が絡んでいる間に施錠し、鬼の一人を封印してしまう。
その後も色々と構想はあるのだが、第一段階で頓挫した。
なぜなら、霧依は頭に透明バケツをかぶっている。
罠、特に砂嵐を最初から警戒しているらしい。
「とりあえず、霧依さんが幼女捜ししている間に逃げよう」
校庭に大量設置したあの段ボールは、咲魔が自分が隠れるために設置したものだ。
霧依が悉く開けているので、もうその目的には使えない。
だが、とりあえず囮にはなってくれそうだ。
透過と蜃気楼を使い、大急ぎで用具庫から脱出する咲魔。
「大丈夫! 朝、準備したものはまだあるからね」
果たして、次なる作戦はどういったものなのか?
すでにプランBを発動させているゼフィ。
彼女が引きこもり場所に選んだのは、体育館の屋根の上だった。
「スマホで、掲示板巡回楽しいですぅ」
孤独な時間と空間に対応し、人類はいつしかニートタイプへと進化するのだという。
ゼフィはすでに真のニートタイプに覚醒しつつあった。
天気が良い日に屋外にいるのに、一人でスマホをいじってゴロゴロしていられるのが覚醒の顕現である。
校庭を見下ろせば、謎の段ボールを機嫌よさげに開けている霧依の姿が見える。
ゼフィを探しているのであろうことはわかるが、まさか妄想の中で裸リボンにされているなどと夢にも思わない。
一方、クレヨー流隠遁術の修行をしてきたニョロ子。
暗視スキルで校内の暗い場所を探しまくったのだが、成果が得られなかった。
体育館は諦め、現在、校舎の屋上にいる。
「今度はクレヨー流隠遁術、カモメさんの術にょろ」
空を飛びながら水中の魚を探すカモメ。 それを表現するが如く、“闇の翼”でパタパタ空を飛びながら“索敵”スキルを発動させるニョロ子。
屋外にいる敵を探すには絶好の技である。
ただこの技、敵が上空から見えない場所に隠れていれば、何の意味もない。
ほぼダメ元で試したスキルだったのだが。
「いたにょろ!」
体育館の屋根に引きこもっているゼフィを見つけた!
「ゼフィお姉ちゃん、みっけーにょろ!」
叫ぶニョロ子。
だが反応がない。
審判であるクレヨー先生からの“捕獲承認メール”が来ないのだ。
顔の横の目線カメラも、ばっちりゼフィを捕えているはずだが?
「おかしいにょろ! どうなっているにょろ!?」
焦り、何度も名を叫ぶニョロ子。
自分を呼ぶ声に気付き、ゼフィもスマホから顔をあげた。
「危ない危ない、スレ立てに夢中になっていました」
光の翼を使い、悠々と逃げ出すゼフィ。
姿を見られようが、追いつかれようが、絶対に捕まらない自信があるのだ。
なぜなら――。
(今の私はゼフィに非ず! ゼフィ・キジカ・クシヒガン・ヒッペ・アストルム・タマス――なんとかさんなのです!)
普段は略称で生活しているゼフィ、だがこの依頼内の登録書類には本名を書いておいた。
本来、偽名を使うのはNGなのだが、学園公認の本名と言う事でクレヨー先生も許可せざるをえなかった。
ちなみに本名は自分でも暗記し切れていない。
「ニョロ子うっかりさんかもしれないにょろ! ゾフィお姉ちゃんだったかもしれないにょろ!」
はっと気づき、頭に火が点きそうな思いで、スマホ検索するニョロ子。
この依頼の登録ページにアクセスしてみる。
「な、なにこれにょろ!? ゼフィ・キジカ――」
長すぎる名前にドン引きする。
「落ち着くにょろ、読みげればいいだけにょろ」
画面に表示されたまま本名を読み上げるニョロ子。
「ゼフィ・キジカ・クシヒガン・ヒッペ」
その時、頭に何かが流れ込んでくる。
『その続きはヒッペ・アストラ・タロウです』
意思疎通のスキルで嘘を教えてくるゼフィ。
「うるさいにょろ! 頭がごちゃごちゃしてきたにょろ!」
邪魔を繰り返され、ぶち切れるニョロ子。
その隙に、ゼフィが身を隠そうとした時。
「ゼフィ・キジカ・クシヒガン・ヒッペ・アストルム・タマス・ダ・レイン・リリー・ランサスちゃん♪ みっ〜け♪」
校庭にいた霧依が叫んだ。
騒ぎに気付いた霧依が、二人の幼女の様子を見て事態を察し、ニョロ子と同じ依頼登録ページから本名を調べのだ。
「これで今日はお仕事終わりですね〜、さて、自室で引きこもりましょうか」
ゼフィ、幼女の気持ちに敏感な霧依の傍にいたのが運の尽き。
【開始後二百四十六分 ゼフィ捕獲】
一旦、集合して作戦会議をするAチーム。
「どこがあやしいしかしら♪」
「どこがって」
「あからさまにょろ」
朝から気にはなっていたのだ。
なんせ校舎の窓から校庭に向け、滑り台が延びているのである。
しかも五本。
「あれは何にょろ?」
「災害避難の時に使う救助袋ね♪」
おそらくはBチームの誰かが、あらかじめ用意しておいたのだろう。
「何度か調べましたが、あの筒の中に隠れているというわけではないですね」
「用意した以上、使って見たくなるはずよ♪ 私が小学生の時も避難訓練の時は滑ってみたくて仕方なかったわ♪」
「だったらもう一度調べますか」
救助袋は各教室に用意してあるようだが、校庭に延びているのは五本のみ。
Aチームはそれが伸びてきている教室にアタリをつけ、その周囲を入念に捜索する事にした。
「全教室分用意したかっただが、さすがに時間的に無理だったか」
咲魔は鬼たちの読み通り、救助袋を放出した後の箱の中に隠れていた。
鬼に読まれやすい隠れ場所だとはわかっていたが、それに対する策も用意してある。
ほどなく咲魔のいるベランダに獣の気配。
龍亀だ。
レフニーが再召喚した召喚獣・スナオである。
「悟られた、だが!」
救助袋を滑り、降下する咲魔。
「これが我が逃走経路だ!」
救助袋の中で蜃気楼を使い、姿を消す。
これで校庭に降りても、姿は見られないはず――だったが。
「捕まえ〜た♪」
どたぷ〜んと、柔かい感触が顔に。
「雫ちゃんかしら♪ あら残念、幼女の香りがしないわ、咲魔くんね♪」
蜃気楼の時間切れまでマイクロビキニの爆乳にガッチリホールドされてしまう。
捜索はレフニーとニョロ子に任せ、霧依は救助袋の下で待ち構えていたらしい。
それにしても救助袋は五本用意したのにドンピシャである。
「なんでここから降りてくるってわかったんです?」
「救助袋を見ていればわかるわ♪ もこもこ動くもの♪」
蜃気楼で消せるのは見た目だけ、質量まで消せるわけではない。
【開始後二百六十分 咲魔捕獲】
午後二時過ぎ、Bチーム最後の一人である雫は未だ隠れていた。
「恐らくは見つからないでしょう」
そこは、校舎屋上の貯水槽の中。
当然、水が溜まっているわけだが、常に満タンなわけではない。
内部にある梯子に捕まって水に体が浸からないようにする。
体に水に触れないように体を縮めて梯子に掴まりっぱなしという体勢は、撃退士の体力でも結構きつい。
だが、雫にはある想いがあった。
「プレ大会では良い所が有りませんでしたから、今回はリベンジです」
前回は鬼として、最後の一人をあと一歩のところまで追いつめながら、相手の用意周到な対策に辛酸を舐めた雫。
この本大会に、必勝の決意!
その頃、レフニーは校舎の屋上に来ていた。
先程、生命探索を打つと校舎内に三つの反応があったのだ。
だがレフニーはそれで終わらない。
装備を外して能力を低下させ、もう一度打った。
今度は二つ。
反応が消えた一体は、撃退士である可能性があると考えた。
校舎内では、二羽の兎を発見した。
雫が囮に用意したものもかもしれない。
何か怖い目にあったのか、プルプル震えていた。
消えた残り一つの反応は、屋上貯水槽の辺りにあった。
「まさかいませんよね? だって中に人が入ったら、水が飲めなくなりますよ」
あの反応は貯水槽の上に、鳥が停まっていた鳥だったのかもしれない。
そう考え、屋上から去るレフニー。
雫、九死に一生を得る!
「と、見せかけて、一応中を覗いてみる私です」
なぜか引き返して中を覗くレフニー。
中には苦しそうな体勢で梯子に捕まっている雫がいた。
「ああ、なんで覗くんですか」
「いやー、乙女の勘というやつですよ、雫さん」
銀髪、強キャラ、貧乳という共通点が生んだシンパシーなのか?
レフニー頭脳プレイと乙女の勘で、雫を捕獲!
【開始後三百七十五分 雫捕獲】
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夕刻、校門の前。
「まさか全員捕まるとは」
ムフーと、唸る咲魔。
捕まるまでの合計時間は八百八十一分、
だが、次回は攻守が入れ替わる。
鬼となったBチームは、八百八十一分を上回る速度でAチーム全員を捕まえれば勝利となる。
後半戦、デパートでの戦いが撃退士たちを待つ!