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マスター:スタジオI
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2014/12/19


みんなの思い出



オープニング


 ここは久遠ヶ原にある某斡旋所。
「雪だるまサッカー?」
 独身アラサー女子所員・四ノ宮 椿が目を瞬かせる。
 本日依頼に来たのは、小さな山村出身の撃退士・幸之輔だった。
「雪玉を転がして大きくしながら、相手ゴールに入れる競技だべ。 得点は雪玉の大きさで決まるべ、おらが村の村おこしのために、おらが考えたんだ」
 ドヤ顔をする幸之輔。
 見た目からして、アホの子。
「サッカー? なら雪玉は蹴らないとダメなの?」
「いんや、手を使ってもOKだべ」
「それって、サッカーじゃない気がするのだわ」
「村のサッカーグランドでやるから、サッカーなんだべ、どうせ撃退士にやらせる以上、めちゃくちゃになるんだから細かい事はええんだべ」
「めちゃくちゃになる未来は丸見えなのだわ、ある程度スキル使用に制限を設けないと、エスカレートしていって、そのうちただの戦闘か、破壊活動になるからそこはルールを設けた方がいいと思うのだわね、キミの村がぶっ壊されないように祈るのだわ」
 そんなわけで開催される事になった、雪だるまサッカー大会。
 参加者たちの、廃村を作らない程度のモラルを、期待せずに待っている。


リプレイ本文


 雪だるまサッカーに挑戦するため、雪山のグランドに六人の撃退士が集った。
「冬の競技ならあたいの独壇場ね!」
 犬はよろこび庭駆けまわる的に元気なBチーム前衛、雪室 チルル(ja0220)。
「きゃはァ、同じ撃退士同士、楽しく遊びましょうねェ……♪」
 チルルと同年配の少女のなのに、どこか邪気を発しまくっているAチーム前衛・黒百合(ja0422)。
 開始時間直前、主審が手でバッテンを作る。
「しばしお待ちください、ただいまグランドに危険物が発見されました」
 顔が紫色になった副審の一人が、担架で運ばれていく。
「誰がゴール前に“邪毒の結界“なんか置いたのかしら、タチが悪いわねェ」
 とぼけているが、態度でバレバレな黒百合。
 結局、危険物が除去されるまで試合が開始されないというので、渋々、結界を解除した。
 開始前から波乱の雪だるまサッカー初試合。
 果たして、どんな競技となるのか?


 試合開始のホイッスルが鳴った。
「淑女的にどう盛り上げる……か」
 Aチーム後衛のアイリス・レイバルド(jb1510)が黙々と雪玉を作り始める。
 観客を、どう盛り上げるか考えているらしい。

 同じAチームの長谷川アレクサンドラみずほ(jb4139)は、キーパーとして専守防衛に徹する覚悟。
「footballは得意ではありませんけど……これfootballなのかしら?」
 絶対に違うから安心して良い。

「……怪我無く、終われるのでしょうか?」
 Bチーム後衛の雫(ja1894)は、一つの雪玉に圧力をかけガチガチに固めている。
 圧縮する事で氷玉にし、防御力をあげる作戦らしい。
 
「喜んでいませんよ!?」
「他はみんな女の子じゃねえか、兄ちゃんモテるねえ」
 観客のおっちゃんにからかわれて苦笑しているのは、Bチームキーパーの浪風 悠人(ja3452)
 まだ若いが、妻帯者。
 
 Bチーム前衛、チルルはあちこちに小さめの雪玉を作っている。
 あちこちに雪玉を作り置き、その都度、ゴールに向け転がしていく作戦。
 だが、
「おっにぎり♪ おっにぎり♪ 雪おにぎり作るのよー!」
 雪玉作り自体が、楽しくなっちゃったらしい。
 そんなチルルの作り置き雪玉を、Aチーム前衛・黒百合が次々に踏み砕き始めた。
「来ないのかしらァ……? つまらないわァ」
 当のチルルは、新たな雪玉造りに夢中で気付いていない。
 代わりに、雫が黒百合の前に立ち塞がった。
「やはり、貴方が一番の危険人物のようですね」
「きゃはァ、やっぱり来たわねェ……おいでェ、可愛がって上げるわァ♪」
 黒百合は、雪玉を作る気は最初からない。
 ゴールを狙ってくる敵――いわば攻撃機。
 それを迎撃するための、戦闘機のようなスタンスなのである。
「一番危険な貴方は、此処でリタイヤして貰いますよ!」
 可愛い顔で、ぶっそうな事を言う雫。
「はいはい、鬼さんこちらァ♪」
 黒百合の胸に、強力なスキルである烈風突を放とうとする雫。
「吹き飛べ!」
 だが、振りかぶったその腕が止まった。
「あらァ? どうしたのォ?」
 ニヤニヤしている黒百合。
 黒百合の背後には、観客が立っているのである。
 当たった場合、黒百合が吹き飛び、体が観客に直撃する。
 観客席大惨状、周りはドン引き、イベントとして大失敗間違いなしである。
 雫は吹き飛ばす角度を変えようと、自分の位置を変えたが、黒百合も常に審判や観客が背後になるように動いてくる。
「卑怯ですよ!」
 雫が業を煮やし始めた時。

「えいっ」
「きゃ!」
 普段の妖艶なそれとは打って変わった、可愛らしい声を黒百合があげた。
 黒百合の背中に、チルルが雪を放り込んだのだ。
 チルルがケラケラ笑いながら、逃げていく。
「やーいやーい、マヌケなのよー」
「ちょっあんた!」
 黒百合がチルルに気を取られたその一瞬、衝撃が黒百合を襲った。
 雫が烈風突を、黒百合に直撃させたのだ。
 自軍ゴールに吹っ飛ばされ、ネットに倒れこむ黒百合。
「覚えて……なさいよォ……」
 担架で運ばれながらも、邪悪な笑みを浮かべる黒百合。 
 おそらく、ただの脳震盪である。
 復帰後が復讐の機会だ。 
 
「黒い雪玉……だと?」
 浪風は、アイリスを目で追っていた。
 敵の雪玉が大きくなり動きが鈍ったところを狙って奪うのが、浪風の作戦なのである。
 だが、アイリスの雪玉は転がしても大きくなる様子がない。
 色も漆黒。
 雪玉なんだか、チョコボールなんだかわからない。
 
 実はアイリス、雪玉をアウルから発する黒粒子でコーティングしていた。
 そのせいで、転がしても大きくならないが、代わりに大きくなりすぎて速度が鈍るということもない。
 速度を維持し、小さめの雪玉を確実に入れる。
 アイリスなりに考えた淑女的結論らしい。
「なら、破壊させてもらいます!」
 拳を握りしめ、雪玉に向かう浪風。
 速度が鈍らないとはいっても、転がしている以上、普段よりは遅くなる。
 どんなドリブルが上手なサッカー選手でも、普通に走っているのよりは遅くなるはずだ。
 ところが――。

「え!?」
 飛び出していった瞬間、浪風の目の前が真っ白になった。
 全身に冷たさを感じる。
「なんです?」
 白い闇の向こうから、ホイッスルが聞こえた。
 黒い雪玉が、ゴールに入ったのだ。
 本来攻撃スキルの黒死鬼焔晶を地面にぶつけることにより、雪を散らして白い闇を発生、キーパーの目を眩ませ、さらに爆圧で加速したらしい。
 ゴールしたアイリスは無表情に淡々と自陣に帰っていくが、黒い粒子が為したアイリス型の影――従者と呼ばれているもの――は、喜びのラテンダンスを踊っている。
 盛り上げようという、アイリスなりの演出らしい。
 
 今の攻防の間、Aチームは黒百合が戦線離脱している。
 Bチームとしては反撃の好機だったがアイリスが自軍ゴール前で、みずほと共に専守防衛を決め込んだため両軍、得点出来ず。
 前半終了前三分。
“歩く危険フラグ“こと黒百合も脳震盪から復帰し、試合が再び動き始めた。
「ヒリュウ!」
 まずは浪風がヒリュウを召喚。
 それをアイリスに飛ばして、まとわりつかせる。
「……可愛いな」
 じゃれ付いてくるヒリュウに興味を持ったアイリス。
 愛嬌を感じた上、もうスキルが使えないので無理に攻撃も出来ない。
 視覚共有でその様子を見届けた浪風は、ゴールから離れた。
「マークさせてもらいますよ!」
「あらァ……JCをストーキングだなんて奥さんに知れたら、離婚ものじゃなァい……?」
「恐い事言わないでください! 貴方を抑えないと味方が危ないんですよ!」
 そこに雫が駆け込んできて、浪風と二人で黒百合を囲む形になる。
「今度こそ、リタイヤしてもらいます」
 だが、黒百合はニヤっと笑った。
「まとめて大人しくしてもらうわねェ……」
 その姿が、紅と白の闇の中に消える。
「熱っ!」
「ごほっごほっ!」
 黒百合はアンタレスで、自分の周りを炎上させたのだ。
 それだけなら、雫や浪風にも対応出来たのだが、問題は雪である。
 高熱を浴びた雪は、蒸発し高温の水蒸気を辺りに発生させた。
 白い闇と灼熱の赤に二人を包み込み、黒百合は復讐を果たした。

 黒百合に仲間二人が翻弄されている間、Aチームゴール前ではチルルが孤軍奮闘していた
「大天才のあたいが、大ゴールするのよ!」
 時間をかけて造った、アホらしいまでに大きい雪玉をゴールに押し込もうとするチルル。
「わたくしは決して抜かせませんわ!」
 スキル“黄金の拳”を放つみずほ。
 チルルではなく、雪玉に放つ!
 相手のゴールはがら空き! ノックバック効果で大雪玉を相手ゴールまで弾き飛ばしてしまおうとしているのだ。
 なんという脳筋女子!
「負けないのよー!」
 その雪玉を押し返そうとするチルル。 同じく脳筋女子。
 パワーはスキルを使用しているみずほの方が上だ。
 だが、チルルはひるまない。
「学園さいきょーは、伊達じゃないのよー!」
 必殺の氷砲を放つ!
 結果は……。
「なくなっちゃったのよ」
 二人の女子力がせめぎ合った結果、大雪玉は消滅してしまった。
 ホイッスルが鳴り、前半はAチームのアイリスによる一玉のみを得点として終わった。


 インターバルを置き、後半戦開始。
 直後、雫の体に赤の紋様が浮かびあがった。
「また、吹き飛べ!」
 センターラインからいきなり、作り置きの氷玉を蹴り飛ばす雫。
 このゲームでは浮き球は無効であり、浮いてしまった雪玉はゴールにはならないはず。
 だが、雫の狙いはゴールではなかった。
 黒百合である。
「!」
 歩く危険フラグの額から、血が垂れる。
 また倒れる黒百合。
「危険物は取り除きました、皆さん安心してゲームを楽しみましょう」
 淡々と雪玉を作り始める雫。
 だが、すぐに様子がおかしい事に気付く。
 前半にKOした時は、復讐予告を残すほど元気だった黒百合が、今度はピクリとも動かないまま雪の上に倒れているのだ。
「黒百合さん……?」
 まさかと思い、駆け寄る雫。
 その時!
「いただくわよォ!」
 倒れていた黒百合が突如起き上がった。
 雫の小さな体が押し倒される。
 瑞々しい黒百合の唇が、雫の首筋を柔らかく這い始めた。
「や、何を?」
「雫ちゃんから受けたダメージ、回復させてもらうわァ」
 相手の首から直に血を吸って生命力を回復させる黒百合の独自スキル、吸血幻想!
 雫は、黒百合を除けようとするが、がっちりロックされている上に首から力が抜けていくようで、体が思うように動かない。
「美味しいわァ、可愛い娘の血って、どうしてこんなに美味なのかしらァ……♪」
 ご満悦な黒百合。
 そこに、同チームのチルルが雪玉を転がして作りながら近づいてきた。
「チルルさん……助けて」
 救いを求める雫。
 
 気付いたチルルは、きょとんとしている。
「あんたたち、何やってんの?」
 しばらく、二人の様子を見ていたチルル。
 ふと、学園でかくれんぼをしていた時、体育倉庫で女の子同士がこんな事をやっていた場面に遭遇したのを思い出す。
 顔を真っ赤にしながら“な、仲良くしているだけよ!”と言いつつ、二人で乱れた服を直していた。
「あんたたち随分仲良しだったのね、知らなかったわ」
 最初は機嫌良かったチルルだったが、程なく今が試合中で、二人が敵同士だと気付いた。
「敵同士で仲良くしているって、さてはヤオチョーね! ヤオチョーはいけないのよ!」
 カンカンに怒り出すチルル。
「違……」
 黒百合と雫が、揃って何かを言うとした瞬間、
「ヤオチョーボクメツなのよーー!」
 必殺の氷砲を、二人に炸裂させる。
 直撃を受け、担架で運ばれていく二人。
 その姿を、チルルは満足げに見送った。
「敵も味方もビョードーにお仕置きしてあげるなんて、あたいったら本当にコーヘーね!」

 その間、アイリスだけは淡々と雪だるまを作りながら敵陣に斬り込んでいた。
 先程と同じ、黒い雪玉を作り、キーパーの浪風と一対一になる。
「淑女的に決めさせてもらう」
「今度は、抜かせませんよ」
 浪風が、警戒を強めているのがわかる。
 先程と同じ手は食わないだろう。
 そう判断したアイリスは別の手に出た。
「アイリスさん、髪の毛が!」
 驚く浪風。
 アイリスは、瑠璃邪眼を使用した。
 髪が伸びる幻影を見せて、相手心理を圧迫するスキル。
 これで浪風を動けなくした隙に、手刀でちょっと切り付けて医務室に行って貰い、がら空きになったゴールに雪玉をたっぷり押し込もうという淑女的作戦だ。
 どこが淑女的かというと、ちょっとしか傷つけない所だ。
「ずいぶん伸びていますよ、正月前に散髪した方がいいです」
 アドバイスされた。
 失敗したらしい。
 アイリスがあわあわしているうちに、浪風が廻し蹴りで黒い雪玉を破壊してしまった。
「失礼、今度は俺の勝ちです」
 雪玉を作り直すべくセンターラインに戻ろうとすると、チルルがみずほの護るゴールに攻め上っていくのが見えた。
 みずほの救援に自軍ゴールへと向かう。

「力ずくで通るのよー!」
 チルルが、体当たりをしかけてくる。
 邪魔なみずほを倒してから、作り置きの雪玉を集めて作った大雪玉をねじこむつもりらしい。
 ほくそ笑むみずほ。
「パワフルですが、あまりに直線的! わたくしカウンターの餌食ですわ!」
 拳を繰り出すみずほ。
 だが、その瞬間、みずほの目の前が真っ暗になった。

「きゃあ! 何ですの?」
 実はこれ、ヒリュウの仕業である。
「何も見えませんわ!」
 敵ゴール前から浪風が召喚獣を飛ばし、みずほの目を塞がせたのだ。
「危ない」
 駆け込んできたアイリスが、ヒリュウを引きはがそうとみずほの元に向かう。
 だが、もはやみずほはパニック状態。
「何なんですの!? 何なんですの!?」
 慌てながら、脊髄反射でButterfly Kaleidoscopeを放ってくる。
 これは体のリミットを外して、辺り一面に拳の嵐を吹き荒れさせるスキルである。
 突撃してきたチルル。
 みずほの目を塞いでいたヒリュウ。
 それを引きはがそうと駆けてきたアイリス。
 三者ともが暴力の嵐に巻き込まれる!

「きゃあ! 皆さん、どうしましたの!?」
 視界を取り戻したみずほは、辺りの惨状をみて愕然とした。
「し、死なないでくださいませ」
 雪の上でダウンしているチルル、アイリスに駆け寄り、二人を涙ながらに抱きしめる。
 現在の行動不能者、黒百合、雫、チルル、アイリス、そして責任を感じて泣いているみずほ。
「漁夫の利でも申し訳ないですが、ゲームですから」
 その間、唯一動ける浪風が、チルルの作り置いた大雪玉をゴールに押し込んだ。

 試合終了。
 結局、ゴールキーパー以外、全員保健室送りという惨状に終わった雪だるまサッカー。
「撃退士に直接攻撃ありのスポーツなんかやらせたら、これがデフォですよね」
 ぼやく浪風。
 全員、校舎の保険室から校庭へ戻ってきて、今は村の人が用意してくれた芋煮鍋をつついている。
「寒い所で食べる暖かいものは、さいきょーなのよ!」
 現在、校庭の裏庭には、スノーマンが立っている。
 AB両チームがゴールした二つの雪玉を、重ねて造ったのだ。
 それを眺めるアイリスとみずほ。
「これはこれで趣があるな」
「残念でしたけど、全力を出したので悔いはありませんわ」
 大きさの差でチームは負けたが、白い胴の上に黒い頭の乗ったスノーマンはコミカルで可愛らしい。
 雫が甘酒をコップに注ぎ、黒百合に差し出す。
「毒なんか入っていないから大丈夫ですよ」
 散々やりあった二人だが、試合が終わればノーサイドという事だろうか。
「あらァ、嬉しいわァ……でもせっかくなら、雫ちゃんの血が飲みたいわねェ、甘酒なんかよりずっと酔えるわよォ」
 ぶんぶんと思い切り頭を横に振る雫。
 ぶっそうな球技だったが、派手な攻防あり、演出あり、キマシありで観客は盛り上がってくれた。
 暖かいものを皆で食べるのも美味しく、撃退士たちにとっても何よりな一日だった。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 赫華Noir・黒百合(ja0422)
 歴戦の戦姫・不破 雫(ja1894)
重体: −
面白かった!:5人

伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
赫華Noir・
黒百合(ja0422)

高等部3年21組 女 鬼道忍軍
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
おかん・
浪風 悠人(ja3452)

卒業 男 ルインズブレイド
深淵を開くもの・
アイリス・レイバルド(jb1510)

大学部4年147組 女 アストラルヴァンガード
勇気を示す背中・
長谷川アレクサンドラみずほ(jb4139)

大学部4年7組 女 阿修羅