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マスター:スタジオI
シナリオ形態:シリーズ
難易度:普通
形態:
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/12/24


みんなの思い出



オープニング


 開催委員会のメンバー三名が、会議室に集っていた。
 今日はあがってきた二回戦の報告書を確認し、決勝への準備を進める大切な日なのだ。
 まずは報告書の確認である。
「プレ試合から連勝していた九鬼 龍磨(jb8028)に土が付いたな」
 アウル相撲の少女横綱、小暮美甘が重々しく口火を切った。
「無理もない、相手は我々アウルレスラー六闘神を破った、阿岳 恭司(ja6451)――チャンコマンだ」
 アウルプロレスの女子チャンプ、月光蜂が朱い唇をほくそませる。
「九鬼君も、今までのような戦い方だったらわからなかったけどね。 文字通り相手の土俵であるプロレスをして、しかもプロレスラーの闘志の源である観客まで連れて来てしまったからね。 アイドルを目指しているようだから、派手好みのところがあるんだろうきっと」
 アウルボクサーホセが、ゼンマイ髭を揺らしつつ快活に笑う、
「派手と言えば、阿岳の耐えに耐えて新必殺技に賭ける戦い方も派手だったがな」
 あの戦いから阿岳は奇跡の逆転ファイターと委員会内で呼ばれるようになった。
「フリーズドライスープレックス――あの技を私にかけてくれる機会をもらいたいものだな、私はもう破り方を見つけたぞ」
 月光蜂は、かつて自分たちを破ったアウルレスラーとしてチャンコマンにリベンジ戦を望みたいらしい。
 しかし、彼女ら委員会メンバーが戦うとすれば、欠員が出た場合のリザーバーとしてだ。
「チャンコマンは完成度の高い技をこの大会ではチャンパンチと、フリーズドライスープレックスしか見せていない、決勝に進んだ場合が、やや不安だねえ」
 ホセの言葉に頷く月光蜂。
「プロレス技の多彩さは承知の上だが、対異種格闘技用の技をもう少し見せてもらいたい物だな」


「神雷(jb6374)は策を見破られ、あっけなく散るかとおもったが、どうにか勝利をもぎ取ったな」
「さよう、雪ノ下・正太郎(ja0343)――リュウセイガーとの差は、時の気紛れに過ぎなかった、運も実力のうちと言うべきか」
 美甘と月光蜂は、この大会中で最も、運の要素が高かったのはこの試合だと断言した。
 もう一鼓動の間、リュウセイガーの死活が続いていたら、敗れたのは神雷の方だっただろう。
 だが、ホセだけはそれに賛同しなかった。
「運――かねえ? 私はリュウセイガー君が、敗れるべくして敗れたと解釈しているが」
「どういう事だ?」
「最終局面で使用する技の組み併せに問題を感じる。 死活と絞め技は相性が悪すぎる。
“受け”に死活を使うのなら、フィニッシュは秒殺KOのとれる打撃系や、投げ技を選択すべきだ」
「なるほど、絞め技を極めてから相手をKOするのには約十秒かかるとされている。 ならば死活を発動してから五秒以内に、絞め技を完璧に決めねばならない計算になるからな」
 死活の持続時間は一般に十五秒と言われている。
 それを過ぎたら、昏倒必至なのだ。
「その通り、神雷くんのように逃げを打つタイプの相手でなく、正面から戦うタイプが相手でも、守りに徹すれば五秒間の抵抗はさほど困難でもないはずだよ」
「しかし、新必殺技のリュウセイガー・トライアングルは素晴らしい技だと思うがな」
「僕もそう思うさ、だが死活とは相性が悪い。 リュウセイガー・トライアングルをフィニッシュに据えたいなら、“受け”には死活以外の手段を用意すべきだ」
「良いものを二つ組み合わせた結果が、必ずしもより良いものになるとは限らないわけだな」
「勝った神雷の方は発想が一々、面白いな。 エアロバーストにあんな使い方があるとは」
「面白い娘さんだねぇ、ただ報告書は参加選手たちも見る以上、対策を打たれる可能性もある、その事も考えておいた方が良さそうだね」


「二回戦最終試合は、また色っぽい試合になったねぇ」
「染井 桜花(ja4386)が絡むと、伝統的に水着か裸絡みの試合になるな」
「そんな伝統はいらん!」
 断言する美甘。
 二m近い長身と、百八十キロの体躯があるものの、まだ小学三年生。
 エッチなことに抵抗がある御年頃である。
「いずれにせよ、色気など通用せんかったではないか! 武を極める者に色恋は無用!」
「いやいや、仁良井 叶伊(ja0618)くんもそこまで朴念仁じゃないと思うよ、桜花ちゃん可愛いしね、ただ仁良井君は連敗中で、気をこれ以上はなく引き締めていたんだよ」
「桜花にしてみれば、心理的な奇襲よりも、一回戦で九鬼が行ったような、物理的な奇襲を行うべきだったのかもな――今の仁良井にそれが通じるのかは別問題だが」
「体格的素質が圧倒的なだけに、相手の土俵にあがって翻弄されない限りは、圧倒的な試合をするな」
 眠れる獅子が目覚めた――そんな印象を三人は共通して持っていた。
「相手に対する対策や、技も素晴らしい。 今回使用しなかった技もいくつか温存しているようだね、決勝に進んでそれを見せてくれるのが楽しみだよ」


「その決勝だが、美甘に腹案があるようだな」
「うむ、夕べ考えてみた」
 美甘の父親は小暮 陽一といい、学園で奇抜なイベントを連発して、クレヨー先生と呼ばれている人物である。
 その企画力は、美甘も受け継いでいるようだった。
「まずは準決勝――これはコンビニで行ってもらう」
「コンビニ!? あんなところで戦ったら、迷惑にならないかい?」
「正確に言えば、コンビニの駐車場だ。 それも人の出入りの少ない深夜にやってもらう――我々が委員会の名で電話をかけ、トーナメント進出者を二名ずつ、あるコンビニに呼び出すのだ」
「約束して集まるなら、奇襲要素はないんだね?」
 ホセの問いかけに首を横に振る美甘。
「ある。 試合前にコンビニでそれぞれ三千久遠以内の品を一品だけ買う事を許す。 それをコンビニ袋に入れて駐車場に出て、顔を合せたら試合開始だ。 その時、袋の中のものは使用しても良い」
「奇襲要素はコンビニ袋の中にあるという事か――成程、面白い」
 そして決勝。
 むろん、準決勝に勝った二名が行う。
「決勝は、児童公園、やはり我々が呼び出して行う。 公園には遊具は滑り台、ブランコ、ジャングルジムのみの小さな公園だ。 昼間でも人気はない、安心して戦えるぞ」
「なるほど、それら遊具を利用しての戦いも可能か」
「面白そうだ。 とはいえ、トーナメントばかりに集中すると、それ以前に予選を勝ち抜けないという事態になりかねんからね。 まあ、まずは予選第三試合に集中して欲しいものだね。 いざトーナメントに進めたら、今までの経験から体が勝手に動くだろうよ。 人間、そういうもんさ」


 現在、出場六選手全員が一勝一敗で並んでいる。
 この中で誰が抜け出し、初代アウル格闘王の称号を掴むのか?
 運命を決める第三試合のゴングは鳴った。

【現在獲得ポイント】
勝利1P 敗北0P(引き分けは存在しない。両者KOなどの場合は一瞬でも長く立っていた者が勝利 それも同時の場合は先に立ちあがった者が勝利)

1P 雪ノ下・正太郎、染井 桜花、九鬼 龍磨、阿岳 恭司、神雷、仁良井 叶伊

【決勝トーナメント進出条件】
・三回戦終了後 獲得Pで上位三位入賞(同Pの場合は直接対決の成績で上位を判定、判定が付かない場合は対戦してきた相手の成績を使用して判定、さらに判定が付かない場合は委員会による審議により判定)

・三回戦終了後 上位三位入賞者以外で、委員会推薦枠一名に選ばれる(ポイントが少なくとも、三回戦中に光るものが見られた格闘者を推薦)

前回のシナリオを見る


リプレイ本文


 総合格闘部部室
 そのリング上で、リュウセイガーこと雪ノ下・正太郎(ja0343)はストレッチをしていた。
 前回の敗戦をふまえ、二つの新必殺技を習得した。
 その稽古のため、全身の筋肉を解しているのだ。
 そんな時、ドアを開く音。
 そして、染井 桜花(ja4386)の声、
「……たのもー」
 気の抜けた挨拶ではあるが、これが戦いのゴングである。
 桜花がリングにあがった瞬間から、リュウセイガーは勝負に出る。
「リュウセイガー・キャノン!」
 それは蒼いアウルの炎の塊を、掌から砲弾のように射出して放出する技。
 今回のために、開発した新必殺技である。
 だが――。
「避けられた!?」
 正確に言えば“避けられた”のではない。 桜花が“結果的に避けた“のだ。
 実は桜花、相手の周りを“神速“でぐるぐると駆け、翻弄する戦術を用いると最初から決めていた。
 そしてそれを実行した結果、リュウセイガーの新技を回避してしまったのだ。
 気弾はリングロープを切断し、部室の壁に穴を開けている。
「……危ない」
 避けた桜花は、伸びているリュウセイガーの腕を脇から捕ると、小手返しに投げた。
 腕関節を痛めつける事を目的とした技である。
「……絶技・枝抜」
「くっ」
 マットに転がるリュウセイガー。
 桜花は、倒れているリュウセイガーの頭を間髪入れずに踏みつぶそうとした。
「……絶技・兜潰し」
 だが、その脚が踏んだのはマット。
 直前で、リュウセイガーが素早く起きあがったのだ。
 跳び上がり、桜花の首に両脚を絡めてくる。
「打撃返しは得意なようだが、これはどうだ! リュウセイガー・トライアングル!」
 絞め技、極め技への対策が懸念されている桜花にそれをぶつける。
 だが、技が決まる直前、桜花は肺の中の空気を、音として一気に吐き出した。
「――ッ!」
 巨大な叫び!
 ひるんだリュウセイガーの脇腹へ一撃を放つ! したたかに!
「ぐおっ」
 仰け反るリュウセイガー。
 桜花は呟いた。
「……次は、こちらの新技」

 桜花は再び、ロープ際を高速で走り始めた。
 何を考えているのかはわからない。
 桜花は打撃返しの名手、通常の打撃技を繰り出すのは危険だ。
 組技、極め技に対する対策も持っている。
 飛び道具のリュウセイガー・キャノンも、神速相手には当てられる公算が低い。
(残るはあの技――だが、あれは)
 もう一つの新必殺技リュウセイガー・ウォール。
 中国拳法の鉄山靠を元にした技である。
 いわゆるカウンター技だ。
 だが、カウンター技の名手にカウンターが通用するだろうか?
  相手の体が、自分の脇に来ないと当てられない。
 正面から打ってきた拳を捌き、体が流れた相手に己の後肩をぶつける、という動作が基本になる。
 だが、今日の桜花は関節技と蹴り技を中心に戦いを組み立てている。
 捌く拳がない。
(この技もダメだ)
 己の中に見付けた光明が、次々に闇に飲み込まれていく。
(どんなに技を開発しても決まらない。 俺の技はどれも完璧じゃない。 俺はやはり、ヒーローにはなれていないのか?)
 そう問いかけた時、正太郎の中にいる存在たち。
 リュウセイガーを形作っている、たくさんのヒーローたちが応えてくれた。
 “強い事でも、完璧な事でもない“
 “ヒーローの資格、それは諦めない事!”
  絶望から目を見開く、リュウセイガー。
 その瞬間、桜花が動いた。
「……絶技奥義・瞬撃」
 リュウセイガーの後ろ脇から神速で迫り、凄まじい気合で拳を繰り出そうとしている! 
(これは、捌けない――いや、捌く必要はない!)
 そう、捌く必要はない。
 あの技の範囲に桜花自ら入ってきてくれたのだ。
「リュウセイガー・ウォール!」
 碧いアウルの炎を燃やし、その肩を桜花にぶつける。
 桜花が放とうとしたのも、渾身の奥義。
 それゆえ、カウンターの威力は増し、桜花の体はリングの遥か外へと跳び、部室の壁に激突した。

 KOした桜花を介抱して起こすと、やはり、若干、落ち込んでいるように見えた。
「……脇からカウンターが来るとは」
 唯一秘蔵していた技リュウセイガーが、脇から来る打撃をカウンター出来る技だったのがリュウセイガーに幸いした。
「しかし、瞬撃というのはどういう技なんだ? 凄い気迫だったが」
「……瞬撃は」
 桜花の説明は、こうだった。 
 あらゆるものには物質抵抗力が存在し、それにより衝撃に耐える事が出来る。
 即ち、丈夫な物とは物質抵抗力が強い物なのだ。
 ならばその物質抵抗力を生じさせなければ、あらゆるものが砕けるはず。
 まずは握りこまずに軽く立てた状態の拳をぶつけ、物質が抵抗力が発生した瞬間に、拳を折る事により二撃目を与える。
 物質は二撃目の衝撃に対しては、物質抵抗力の発生が間に合わず、粉々に砕け散る。
「……そういう原理の、技」
 スキル的には神速の拳から、スマッシュと繋ぐ技らしい。
 リュウセイガーは、首を傾げた。
「さっぱり意味がわからん」
 剣客漫画発祥の技であり、抵抗力うんぬんの部分からしてインチキ物理学の産物なのだ。
 何となく説得力がある原理なので、当時の小学生は真似したらしい。
「……騙された?」
 騙された女、桜花を破り、リュウセイガー予選突破決定。


 真久遠ヶ原プロレス部のリング上。
 ここで、二人の巨漢、仁良井 叶伊(ja0618)と、チャンコマンこと阿岳 恭司(ja6451)が、対峙していた。
「ようこそ真久遠プロレスへ。 歓迎しよう」
 マントを靡かせ、仁王立ちのチャンコマン。
「リングに何も仕掛けはないようですね、さすがはプロレスラーです」
 仁良井が言うと、チャンコマンはマントを外して、構えた。
「さあ、全力で来い!」

 最初に動いたのは仁良井。
 ラリアットを交えつつローキックでしつこく、チャンコマンの足を攻め立てる戦術。
「九鬼君に続き、キミも私にプロレスを仕掛けるつもりか?」
「この試合に限りね、観客でもある先輩に魅せつつ勝ってみせます」
 チャンコマンが、仁良井のラリアットを受けよろめいた。
 さらにそこへシャイニングウィザード。
「ま、まだだ、踏み込みが足りん!」
 チャンコマンは後ろに飛びのいて躱したが、仁良井の計算通りのようだ。
 仁良井は長身を縮め、チャンコマンの懐に飛び込んできたのだ。
 腰に両腕を回す。
(ベアハッグか?)
 単純な技ではあるが長身怪力の仁良井が使うのなら、殺人技にもなりうる。
 チャンコマンが振りほどこうとしたが、仁良井はベアハッグにはいかず、素早く右に回り込んだ。
 白幻撃!
 プロレスラーからサイドをとるために開発した、仁良井の技術!
 頭をチャンコマンの脇に入れ、相手の腕ごと抱え込む!
 上体を逸らし、チャンコマンを真っ逆さまにして投げる豪快な技!
 ノーザンライト・スープレックス!

(この技でホールドを!)
 仁良井の構想通りの流れだった。
 だが、チャンコマンは投げられる直前、仁良井の顔面に膝を飛ばしてきた!
 衝撃!
 仁良井の鼻から火山の如く血が吹き出す。
 リングに着地するチャンコマン。
「フフフッ、九鬼くんの時もそうだったが、私はあらゆるプロレス技に打ち込み、その返し方も身に着けてきているのだよ。 そうでなければプロレスに生きているとは言えん!」
 鼻血を掌で抑えながら、よろよろと立ちあがる仁良井。
「なるほど……半端にプロレスのリングにあがっても勝てないという事ですか」
「私は真久遠プロレスだけではなく、プロレスを背負って闘うつもりだ。 君も総合格闘部を背負う気持ちで全力で来い!」
「わかりました、プロレスではなく、私、本来の武術で戦ってみせます」
 仁良井の両掌が、空間に軽く触れるように翳された。
「この一撃に全ての力を!」
 捻りこんだ掌から衝撃波が放たれた。
 封砲の改良技、烈破掌!
「ぐおおぉ!」
 閃光に吹っ飛ばされ、リング外に倒れるチャンコマン。
「勝った……か?」
 疲れ切り、マットに膝をつく仁良井。

 その仁良井の前に、仁王立ちで立ちはだかった者がいる。
 チャンコマンだ。
「今の直撃を受けて!?」
「私には普段の力やアウルとは別に眠っているもう一つのパワーがある。 窮地の時にのみ発揮される強火のクソ力がな!」
 チャンコマンは、仁良井の体を体当たりで跳ねあげた。
 跳び上がって、空中で逆さまになった仁良井の腰を掴み、そのままローラーのように激しく縦回転する!
「これが六闘神の長をも破った、チャンコ・インパクト回転式パワーボムだ!」
 仁良井の肩をマットに叩きつける!
 仁良井の体はマットにめり込んだまま上がってこない。
「君とじゃなければ、こんないい勝負にはならなかった……ありがとう。また何時でも遊びに来たまえ」
 チャンコインパクトは、死活の応用技。
 勝利したチャンコマンの体にも限界が訪れ、そう言葉を残して倒れた。


「雪?」
 その夜、薄暗いビルの谷間の路地を歩く九鬼 龍磨(jb8028)は空から降り注いだ白いものに気付いていた。
 寒さに、大きな体を縮こめる。
(今日は、そんな予報なかったはず――それに、この雪?)
 嫌な予感に振り向く。
 薄暗い道の先にわずかに見えるのは、小柄な少女の影。
 間接光に、眼鏡が光っている。
 対戦相手の神雷(jb6374)だ。
 夜闇の中、互いの顔がはっきりとは確認出来ない距離で、構える両者。
「二匹目の龍も堕して差し上げましょう」
「堕ちるのは君だよ、神雷ちゃん!」
 前回、神雷が倒したリュウセイガーに引き続き、九鬼も龍磨という龍を意味する名を持っている。
 九鬼は、神雷に突撃をかけた。
 神雷からの攻撃を受けてもダメージを無視し、密着戦に持ち込む作戦。
 第一撃を耐え、壁に押し付ければ体格差で圧倒出来る!
 九鬼が間合いに近づいた時だった、神雷の右手が手刀の形にあがった。
 月光にも似た光が手刀に集まる。
 振り下ろされたそれは、光の長刀となり、九鬼の胸めがけ振り下ろされた。
 躱そうとする九鬼だが、動きがキレない。
 ここで確信する。 
 今降り注ぐ雪の正体は、神雷のダイヤモンドダスト!
「ぐおっ」
 胸から血が渋く。
 予想を上回る大衝撃!
 体が崩れ落ちる。
 一撃目を耐えるつもりが、相手は最大の攻撃を仕掛けてきた。
 しかも、予想した間合いの外からだ。
 おそらくは、月の柱のスキルを使用し、射程外からの攻撃を可能にしたのだろう。
 神雷の奇策に、完全に嵌められてしまった形だ。
(こういう時、爺様なら――)
 いつもの思考を始めかけて、やめた。
 前回の敗北から、学んだことが三つある。

 ひとつ。 華やかさよりも、勝利を。
 ふたつ。 爺様頼みは、もう卒業。
 みっつ。 迷ったらそこでおしまい。

(迷ったらそこでおしまい) 
 九鬼は迷いを捨てた。
 大男が小柄な少女に使う作戦ではないが、なりふり構っていられない。
 アウルを拳に集めた。
「日輪の力を借りて……」
 膝がよろめく。
 並渦虫は使ったが初撃のダメージから回復し切っていない。
 神雷が、飛び込んでくる。
「九鬼様、お覚悟!」
 横薙ぎに払うかのような手刀が、九鬼の喉元を斬った。
 反応出来ず、地面に崩れ落ちる九鬼。
「介錯させていただきます」
 うずくまるように倒れた九鬼の後ろ首を断つかのように、手刀を振り下ろしてくる。
 もう九鬼が動けないと踏んでいるのだろう。
 確かに、昏倒級のダメージは受けた。
 だがすでに、九鬼は復活を果たししている。
 不落の守護者のスキルを使用したのだ。
 拳に集めておいたアウルを今、カウンターで打ちあげる。
 いわばだまし討ち!
「咲けよ大輪、徒花にあらずッ!」
 気勢とともに、拳が輝く。
 だが、神雷は九鬼の拳をひらりと躱した。
「え?」
「お天道様の明りは眩し過ぎるんですよ!」
 手刀を九鬼に振りおろす。
 頸椎に打撃を受け、気絶への抵抗も出来なかった。
 
「さすがは神雷ちゃん、見破られたかぁ、まあ前回、雪ノ下くんも使った手だしねぇ」
 目を覚ました九鬼がぼやくと、神雷がクスクス笑いだした。
「だって、私も同じなのです」
「どういう事?」
「お分かりになりませんか? 私は最初、雪を降らせました、次に月の光で攻撃、最後は花で決めるつもりだったのです」
 神雷は、足元に一輪の花を咲かせて見せた。
 大地の恵み――これもまた生命力を回復させるスキル。
 気絶したふりをして回復し、不意打ちのトドメ。
 “雪月花”
 これが今回、神雷が描いた戦術だったのだ。
「同じ決着を考えていたのかぁ、僕たち気が合うのかもね」
 九鬼がニコニコしながら言うと、神雷がモジモジし出した。
「そ、そんな、九鬼様のような素敵な殿方に、そのような事を言われては」
 顔を真っ赤にしてピュウーと駆け出し、その場を走り去る神雷。
 策士で、時には魔笑を浮かべる神雷ではあるが、その実、男女関係に関しては初心らしい。
「可愛いなぁ――あんなに可愛い娘に負けたのか」
 がっくりして、ますます向日葵を萎れさせる九鬼だった。


 翌日、開催委員会会議室。
「星数での予選勝ち抜け者は、リュウセイガー、チャンコマン、神雷で決まりか」
 またいつもの面々が集まっている。
 月光蜂、美甘、ホセである。
「これに星数無関係に我々が推薦した、もう一人を加えた四人でトーナメントを行うわけだな」
「さて、難題だね。 大会中光るものがあった選手という基準ではあるが、突破出来なかった三人にも各々、皆、光るものがある」

 まず桜花。
 脇から責める戦術が、リュウセイガーの新技の性質にはまり、今回は敗れた。
 だが、技の華やかさ、戦いのユニークさでは跳びぬけている。

 次に仁良井。
 恵まれた体格は言うに及ばず、戦いの組み立てでは群を抜いている。
 プロレスラーの土俵にあがってしまったのは、相手に合わせてしまう人の好さが裏目に出たのであろう。

 最後に九鬼、初撃を耐える戦術は、神雷の先制大打撃戦術の前には裏目に出た。
 しかして知勇の均衡は、六人の参加者中最高。

「いろいろ意見はあるだろうが、僕は九鬼くんを推したいと思う」
 ホセが断言した。
「理由は彼の成長力だ、二回戦の負けから彼は三つのものを学んだと自ら報告書に認めてきた」
「しかし、学んだところで三回戦でもまた負けたのだぞ?」
 美甘が眉を潜めると、ホセが真剣な顔で頭を振った。
「成長が、必ず勝利に繋がるのは漫画の主人公だけだ。 現実は漫画のように誰か一人に都合の良く物事は展開しない。 運や巡り合わせが悪ければ、苦労して成長したのに、その直後にまた挫折が来る事なんかザラにある」
「確かにな、己の努力が認められなかった気分になって、成長や自分自身を否定したくなる事もある、おそらくは誰にでも」
 切なげに嘆息する月光蜂。
「現時点では全員が、長所と欠点とを抱えている。 アウル格闘技の未来はこれからなんだ。 ならば、最も顕著な形で成長を見せてくれた九鬼くんに僕は賭けたい」
 ホセの言葉に頷く美甘と月光蜂。
「仁良井の堂々たる戦いぶりは惜しいが、今回は同意しよう」
「桜花の華やさはもっと見たいのだがな――そのうちアウルレスリングにスカウトしてみるか」
 こうして、準決勝進出の四名が決まった。
 対戦組み合わせは、まずは今まで組まれていないチャンコマンVS神雷戦、次いで因縁のリュウセイガーVS九鬼戦となった。


 準決勝一戦目、チャンコマンと神雷が、コンビニ袋を持って、人気のない深夜の駐車場で顔を合せる。
 この瞬間、戦闘開始である
 開始と同時に、コンビニ袋を投げ捨ててしまうチャンコマン。
「ありがたい事にこの学園に来てからと言うもの、試合はほぼ天魔相手の路上プロレスだったからなあ! 他の要素など不要!」
 路上プロレス。
 一部プロレス団体が、興業の一部として実際に行っている試合形式である。
 この試合形式は、プロレスラーの真骨頂と言えた。
 だが、神雷にはそれに付き合う意志がない。
「阿岳様、申し訳ないです」
 神雷は、スプレーをコンビニ袋から取り出し、蓋を開けると、左手にスキルの炎焼を灯した。
「む?」
 可燃性の殺虫剤に炎が灯り、簡易式の火炎放射器となる。
 二匹の龍を落した女が、龍の息吹の如く炎を吐き出した。
「私も、最強が欲しいのですよ」
 闇の中で炎に照らされた神雷の顔が、魔笑を浮かべているように見えた。
 炎に包まれるチャンコマン。
 地面に転がり、体を包む紅蓮を素早く消す。
「火吹きレスラーとリングでまみえた事など何度もある! 動ずるには値せん!」
 だが、神雷はチャンコマンが立ちあがった瞬間に、次の手を打った。
 雪月花の月。 即ち、スキル月の柱と居合技・月影の併せ技。
 九鬼戦において、事実上、致命の一撃となった技を、チャンコマンに浴びせたのである。
「ぉお……」
 脳天に間合い外からの一撃を浴びるチャンコマン。
「プロレスはしません、関節技は厄介です、阿岳様のような技術の無い私では、一瞬で詰んでしまいます」
 言いつつ、神雷は逃げ始めた。
 チャンコマンにも、刹那の大復活技がある事は報告書に明らかなのだ。
「強火のクソ力だぁー!」
 予想通りチャンコマンは追ってきた!
 速い! 普段は互角でもリミッターの外れた人間はこうまで速いものか!
 神雷も必死に逃げたが、やがて後ろ襟を掴まれ、捕まった。
 軽量の神雷は、たやすく担ぎあげられる。
「この小さな体でよくここまで戦った。 私にはトリプルビーフケーキと呼ぶ三つの関節技があるが、残された時間で披露出来るのは一つだけのようだ」
「耐えてみせます、耐えれば私の勝ちです」
 気丈に応える神雷。
 小さな少女だが勝利への執念は、どんな巨漢レスラーよりも大きい。
(どれほどの痛みを与えても、この少女は勝利までの時間を耐えきるだろう――ならば!)
 チャンコマンは神雷を横向きにして、両肩の上にうつ伏せ状態で乗せた。
 己の体を三日月と化して反り、神雷の背中をアスファルトに叩きつける!
 バックフィリップ!
 勝利を掴むには、瞬殺を呼ぶこの技しか、残されていなかった。
 叩きつけた、神雷の顔を見るチャンコマン。
 彼女の全身にはアウルが燃え、目はしっかりと見開かれている。
 あくまで勝利を見据えている。
 意識は、飛んでいるのに。
「何という執念、ここがマットの上なら、私は負けていた」
 与えられた時を使い果たし、チャンコマンは倒れた。
 

 島内にある別のコンビニ。
 星空の下の駐車場で、リュウセイガーと九鬼は顔を合せた。
「今夜は、生憎のお天気だね」
 にこやかに言うなり、九鬼は買ったばかりのビニル傘で突きを放った!
 リュウセイガーは的確に躱して、距離をとる。
 雨など降っていないのに、長い傘を持っているのだ、充分予想出来た。
「以前より、勘が研ぎ澄まされたようだね」
「俺は、あのプレ試合の敗戦から己を鍛え直した!」
 金的――まさに屈辱的敗戦。
 そこからリュウセイガーは、苦しみつつも立ちあがったのだ。
「それでも、神雷さんには負けた、まだまだ強くならねばならない」
「神雷くんは強いねぇ。 彼女から何を学んだんだい?」
 リュウセイガーはコンビニ袋に入れていた瓶を取り出し、液体を頭から被った。
「戦いを自分のペースに持ち込む者は勝利に近づくという事。 例え、肉体的には弱者でも」
 リュウセイガーは、ぶちかましを敢行した。
 横綱に胸を借りるかのように、九鬼の胸に頭を付ける。
 屈辱の記憶濃いプレ試合
 その時と同じ体勢だ。
「懐かしい、僕はここから不動を、キミは寸勁を繰り出してきた」
 じりじりと押されながら、思い起こす九鬼。
「僕も神雷ちゃんに負けて学んだ事がある――同じ手は、何度も通じないという事さ! それが例え、他人が用いた手であってもね!」
 言いながら、九鬼は“押された”
 リュウセイガーの押してくる力を利用し、自ら思い切り後ろへずり下がった。
 コンビニの壁をめがけて!
 壁際で、勢いと体重差を活かして振り廻し、体を入れ替える。
 リュウセイガーを、壁に押し付ける体勢を作った。
 本来、神雷戦で作りたかった体勢だ。
 リュウセイガーにも身長で十五センチ、体重は三十八キロ、九鬼は勝っている。
「さっき被ったのは食用油だね? それは体格差のある僕に捕まらないようにする工夫なのかもしれない」
 速度のある拳――駄津撃ちを密着状態でリュウセイガーの顔に打ちつける。
「うっ」
「打撃技なら、その工夫に意味はない! 地味であっても確実にダメージを与え続ける!」
 拳を浴び、壁に後頭部をぶつけたリュウセイガーは、その反動で前のめりに倒れ、九鬼の胸にもたれかかった。
 ここで死活を、発動したのがわかる。
 痛みを感じてくれないから、九鬼が攻撃を続ける事に意味はない。
 だが、約十五秒、耐えれば勝ちだ。
 九鬼の体力と防御技術なら十五秒は充分に耐えられる。
 何幸いな事に、おそらくリュウセイガーは得意の絞め技を使えない。
 全身油まみれになった事で摩擦係数が減り、相手を絞めるどころか掴む事すら困難にしてしまっている。
 とはいえ、油断はならない。
 まずは、リュウセイガーを振りほどこうとする九鬼。
 だが、リュウセイガーは腰に喰らい付き続けている。
 九鬼は自らの腰を見て、仰天した。
 リュウセイガーが、右腕を九鬼のズボンの中に深々と突っ込んでいる。
 その掌は、九鬼の急所にあてがわれていた
「まさ……か」
 男として最大限の恐怖が走った。
 この体勢から予想しうる、最も凶悪な攻撃。
 睾丸を握り潰す事。
 あの試合の屈辱を、何倍にもして返すつもりなのか?
 コメカミから汗が垂れた。
 だが、九鬼には不落の守護者がある。
 激痛に気を失いかけても、踏みとどまれる。
 九鬼は覚悟を決めた。
 勝つ――。
 九鬼だって屈辱に塗れた。
 チャンコマン戦では華美に惹かれて、相手の土俵にあがってしまった。
 三回戦では、小さな女の子にも負けた。
 この試合に勝つ! 大切な器官を失い、その後の人生に多大な影響を及ぼすとしても!
 一人の格闘家として!
 激痛に耐える覚悟をする九鬼。
 だが――そうではなかったのだ!
「なにい!」

 リュウセイガーは、驚愕する九鬼を大きく持ち上げた。
 ぬるぬるの腕にも関わらず、見事に担ぎ上げたのだ。
 リュウセイガーは体格差解消のためだけに、油を被ったわけではない。
 油相撲――油まみれの両雄が組み合う、トルコの伝統格闘技、それに学んだのだ。
 相手を掴む事が困難なため、油相撲の試合は数時間に及ぶ事もあるという。
 だが、必勝法が一つある。
 それは、腕を相手のズボンに差し入れ、それを支点に投げを打つ事。
 他の格闘技の発想から外れた技術!
「九鬼さん、前の試合であなたから学んだ最も大きなもの」
 ブレーンバスターの要領で、九鬼の背中を叩きつける!
 星空高く! 大地に強く! 
 屈辱以上に感謝を込めて!
「それは自由な発想力!」
 大きな振動音とともに、九鬼の巨体は地に這った。
 

 数日後、島内にある児童公園。 
 据え付けられたカメラを通して、その光景が会議室のモニターに映っている。
 仁良井、神雷、九鬼、桜花、四人の格闘者は揃ってモニターの前にいた。
 最後の戦いを見届けるために。
「公園かー、僕なら高低差を活かした戦いをするかなぁ」
 九鬼が呟いた。
「私は相手の脚を鈍らせる事ができるよう、砂場で戦いますね」
 巨体を生かす戦法を考える仁良井。
 「……ポールダンス」
 わけのわからん事を言いだす桜花。
 ブランコや滑り台のポールを利用してポールダンス的な戦い方をしたかったらしい。
「……準決勝は、ワサビ使いたかった」
「まさか口とか鼻に塗るつもり!? 桜花ちゃんと当たらなくてよかったぁ」
 ホッとする九鬼。
 油相撲というマイナー格闘技に持ち込まれ“わからん殺し”されてしまった彼だが、ワサビで悶絶死するよりはマシに思える。
「相手がブランコを背中に立つように誘導して、磁力掌で後頭部にぶつけてやれば不意を突けるでしょう。 そこに居合の一撃で決着です」
 生き生きとしている神雷。
 人の心の隙を突く、驚異の発想力。
 関節技への対策さえすれば、さらに恐るべき格闘家になるに違いない。

 公園に先に来たのはチャンコマンだった。
 ずんどう鍋マスクをかぶった大男が、児童用ブランコに座ってブラブラ遊んでいる姿は、実にユーモラスである。
 少し遅れて、リュウセイガーが入ってくる。
「来たね、正太郎ちゃん、ブランコであそぶばい!」
 ブランコを乗ったまま手招きするチャンコマン。
 リュウセイガーが臨戦態勢をとった瞬間、チャンコマンは揺れるブランコから手を離した。
 反動を利用し、高く高く宙にダイブ。
 前転しながら、背中をリュウセイガーの頭にぶつける。
 ルチャの技、トペコンヒーロ!
 衝撃に揺らぐリュウセイガー。
 それをチャンコマンは、アルゼンチンバックブリーカーに担ぎあげる。
 背骨を弓なりに痛めつけられ、呻く蒼い龍。
 チャンコマンは、コマとなってスピンする。
 充分に遠心力が発生したところで、投げる!
 青空を、大きくフライトするリュウセイガーの体。
 飛行機投げの着地空港は、チャンコマンが乗っていたブランコの上。
「ロケット打ち上げばーい!」
 チャンコマンはリュウセイガーの乗ったブランコを、思い切り蹴りあげた!
 0.1トンの体重がリュウセイガーの体を、天高く跳ねあげる!
「ここたい!」
 落ちてくるリュウセイガーの体めがけ、ジャンプするチャンコマン。
 その狙いは、二回戦で九鬼を沈めたブリザードスープレックス!
 空中でまずは、五所蹂躙絡みの体勢。
 相手が抵抗しなければ、そのまま着地してバスター技に極める。 
 逃れようとすれば、スープレックスに移行し地面に叩きつける。
 両面地獄待ちフィニッシュ!
「スイング・ブリザードスープレックス!」
 決まる! だが直前、小さな誤算が生じた。
 四十八キロという体重差が作用し、見こみよりも高く宙に打ち上げてしまった事だ。
 生じた滞空時間でリュウセイガーは空中で宙返りをし、キックを放った。
「ドラゴンストライク!」
 チャンコマンは、胸に受ける。
「ぐぅ、さすがは正太郎ちゃんばい」
 地面に尻餅をついたが、ほとんど効いていない。
 一連のプロレス技が、リュウセイガーから力を削り取ったのだ。
 それでも、これほどの蹴りを放つとは――。
 アウル覚醒前に行った路上プロレスは危険過ぎるがゆえ、使える技も力も限定されていた。
 大好きな路上プロレスを手加減なしで楽しめ、今、チャンコマンは幸せだった。

 リュウセイガーは走る。
 体はボロボロだ。
 覚束ない足元で、ジャングルジムへと避難した。
 一回戦で倒したチャンコマンとは、まるで別物だ。
 自分が成長したと思っていたが皆も、同じだ。
 敗北から学び、遥かに強くなっている。
 ここに移動したのは、少しは鉄骨が身を守ってくれると思ったからだ。
 息を整える時間が欲しい、数秒でいい。
 鉄骨空間を登り、ど真ん中に座って休もうとするリュウセイガー。
 だが、早くもチャンコマンはジャングルジムを昇ってきた。
「ジャングルジム昇ろ、ばぁい!」
 その顔はマスク越しにも生き生きしているように見える。
 お笑い混じりのガチファイト――路上プロレスを楽しんでいるのだ。
 チャンコマンの腕がリュウセイガーの足を捕えようと、下から伸びてくる。
 リュウセイガーは、必死でジャングルジムを昇った。
 子供の頃なら、鬼ごっこさえ出来た立体空間だが、大人になってみると記憶よりもずっと狭い。
 鉄骨の間に出来た空間を自由に動くのは困難だ。
 捕まったら、引きずりおろされ、鉄骨に体をぶつけるだろう。
 その恐怖に襲われた。
 そして――。
 リュウセイガーは落ちた。

 ジャングルジムの頂上から、頭を下に真っ逆さまになって落ちた。
 痩身がどうにか通るほどの狭い空間を、手も脚も開かず、まっすぐに。
「正太郎ちゃん!?」
 驚くチャンコマン。
 逆さまに落下するリュウセイガーの股が、チャンコマンの顔前を通過したその瞬間だった。
「ヒーローの条件、それは諦めない事!」
 リュウセイガーの脚が動いた。
 両足首をクロスして、チャンコマンの首を挟み付け、ぶら下がる。
 残り少ない体力で、鉄骨を頼りに上体を持ち上げる。 
 チャンコマンの両脚を両腕で素早く掴み、引き寄せてロックした。
 リュウセイガーの両脚に圧され、鉄骨がチャンコマンの喉を絞め上げる!
 二回戦より、陣痛に苦しみ続けたあの新必殺技。
 それがジャングルジムの三次元空間で、新たな命を得た!
「リュウセイガー・トラアングル・ディメンション!」
 今のリュウセイガーの肉体に、チャンコマンを倒す力は残されていない。
 だから借りたのだ、鉄の力を。
 両脚が鉄骨にチャンコマンの喉を押し付ける!
 両腕も鉄骨の協力を得て、ギリギリとチャンコマンの膝を痛めつけていく!
 十数秒後、チャンコマンの目はゆっくりと閉じた。


「おめでとうございます」
 仁良井が、公園に現れた。
「……めでたい」
 続いて桜花、九鬼、神雷が拍手をしながら歩いてくる。
「いやー、ジャングルジムを利用した絞め技とは脱帽ばい、楽しむだけは勝てんたい」
 息を吹き返したチャンコマンが頭を掻く。
「アウル総合格闘技が最強に決まったんだね」
 九鬼の言葉、だがリュウセイガーは頭を横に振った。
「今回の大会は、終わりでなく学園にいる格闘者達への始まりの合図だと思っています。 まだ自分が最強だとは思えません、実際、神雷さんには負けたままですし」
 雪ノ下に言われ、苦笑する神雷。
 三回戦で桜花が脇から責めなければ、神雷に関節対策があれば、九鬼や仁良井がプロレス戦を仕掛けなければ、チャンコマンがもっと戦術に力を入れていれば――結果は確実に違っていただろう。
 今回は、運もリュウセイガーに味方したのだ。
「正太郎ちゃんいい事言うばい! 総合も、武術も、絶技も、居合も、喧嘩も、プロレスも、これからまだまだ強くなるたい!」
「その前祝として、ここでカンパーイだね!」
 若者たちは、公園の自販機で買ったスポーツドリンクで乾杯をあげた。
 アウル格闘技の歴史は、彼らと共にまだ始まったばかりだ。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 蒼き覇者リュウセイガー・雪ノ下・正太郎(ja0343)
 永遠の十四歳・神雷(jb6374)
重体: −
面白かった!:7人

蒼き覇者リュウセイガー・
雪ノ下・正太郎(ja0343)

大学部2年1組 男 阿修羅
撃退士・
仁良井 叶伊(ja0618)

大学部4年5組 男 ルインズブレイド
花々に勝る華やかさ・
染井 桜花(ja4386)

大学部4年6組 女 ルインズブレイド
チャンコマン・
阿岳 恭司(ja6451)

卒業 男 阿修羅
永遠の十四歳・
神雷(jb6374)

大学部1年7組 女 アカシックレコーダー:タイプB
圧し折れぬ者・
九鬼 龍磨(jb8028)

卒業 男 ディバインナイト