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アニメチック、それは日常に突如巻き起こる非日常。
アニメ地区は、それを恣意的に日常化させている地区である。
この地区の一角に七美荘というアパートがある。
その住人の一人が金髪碧眼の優等生、アイリス・レイバルド(
jb1510)だ。
彼女は朝五時起床し、一日の準備を済ませ食堂で朝食をとった。
「うん、今日も美味だな。 ご馳走様」
登校は日傘を差して優雅に行う。
なぜ晩秋の早朝に、日傘がいるのか疑問があろうが、アニメ地区ではキャラクター性が何より優先。
理屈などゴミ以下である。
「また顔無し黒コートが出たんですって」
顔無し黒コートとは顔のない怪人物が出ると言う都市伝説である。
狂笑とともに闇の中からゆらりと現れ、蛇や蜘蛛のような粘着質でおぞましい動きで、見た者を叩きのめすという。
「またですか、いやですわ、アイリス先輩お聴きになりました?」
ここはオカルト部。
部長であるアイリスは噂話に構わず、水晶玉に手を翳し続けている。
「いや、興味ないな」
こういうキャラには当然、裏の顔がある。
アニメのお約束である。
アイリスの場合、その顔無し黒コート本人だったりする。
「ジジィ、脚が悪いのか? 天才の俺が治してやろう、ほれ、このツボだ!」
「たわば!」
「んー? 間違ったかなー?」
路地裏で、どっかで見たような悪人が首を傾げている。
それを目撃したアイリスは、黒コートと、変声機付きの黒い仮面を身に着けた。
“狂笑“のSEを再生する。
『ヒャッハー』
ファイル選択をミスって、アイリスの方が三下悪党みたいになってしまった。
「誰だ!?」
『闇ニ食ワレル覚悟ハアルカ?』
闇の中から、ゆらりと姿を現す黒マント。
「なんだ、てめぇは!? 俺が県大会準優勝チームの副主将だと知ってのことか!?」
中途半端に強そうな肩書きを持ち出す悪党。
第一話の敵のお約束である。
『残念、君ノ物語ハココデ終ワリノヨウダ』
“キミは、二話以降で仲間になるタイプの一話ボスではないよ”と教えてやるアイリス。
『終わるのはテメェだ! 俺の謎拳法を見せてやる!』
襲い掛かってきた悪党に、アイリスは粒子人形を放った。
刃の羽根で悪党の服をズタズタに切り刻む。
「おたすけー!」
素っ裸で逃げ出す悪党。
やりすぎてはいけない。
彼もアニメ地区に住むエキストラさんである。
『悪党ノ血ノ方ガ、イイ贄ニナル』
戦いの後、キメ台詞は忘れない。
これもアニメのお約束である。
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アニメ地区には、某国秘密情報部の諜報部員なんてものが普通に歩いていたりする。
黒髪ロングに黒スーツ、長身痩躯の諜報部員は獲物を見付けると、キッと睨み付けた。
すると眼力がバチバチと作用して、惚れ薬でもかがされたかのように、獲物の頬が赤らむのである。
「なんて素敵な女性ですの」
「まさに、美しさは罪ですわ」
眼力を向けられたのは、女子小学生。
諜報部員は雁久良 霧依(
jb0827)、別名“美幼女殺し“。
霧依は幼女の顎を掴むと、引き寄せてキスをする。
「近くにいいホテルがあるわ♪ 食事でもしながらゆっくり休みましょう♪」
メロメロになった幼女を連れ去ろうとすると、
「霧依〜! 任務中ではなかったのか〜」
メラメラと嫉妬の炎を瞳に燃やす、黒髪幼女が現れる。
霧依の恋人、八塚 小萩(
ja0676)だ。
本格エロ展開に突入しようとすると、それを阻止するキャラが出てくる。
これもアニメのお約束である。
「は、話せばわかるの〜♪」
「この浮気者がー!」
小萩に鞭でビシバシ叩かれる霧依。
本来、激痛の余り数発でショック死するという鞭がギャグアイテム。
これもアニメのお約束である。
小萩が通う西明学園小等部は、ありえない程のスパルタである。
成績が下位の者は張付けにされ、気を失うまで石を投げつけられる校則だ。
「いやだぁ! 許してー」
泣きわめく子供たちを、DQN教師が校庭に引きずり出す。
「ワッハハッ! お粗末な脳みそに産んだ親を呪うがいい!」
その教師の前に、小萩が立ち塞がる。
「待て、折檻は、妾一人で受ける!」
「小萩か! だが、成績最下位のお前が罰を受けるのは当然の事!」
「ならば、これでよかろう」
小萩は、来ていた服を脱ぎ捨てた。
「むひょ〜!」
目をハートにし、鼻血をブーと出すDQN教師。
「よ、よし、パンツも脱いだらお前の申し出を聞いてやろう」
「くっ!」
屈辱に耐えながらショーツを脱ぎ、窓の外へと投げ捨てる小萩。
「ガハハッ! 良い眺めだ、張付けにして存分にいたぶってやる!」
小萩が投げたショーツは、たまたま小学校の周りをうろうろしていた霧依の顔に、たまたま貼りついた。
「フォオオオ!」
校庭に張付けにされた小萩。
彼女に石が投げつけられようとした時、裸に顔面ショーツという出で立ちの痴女が現れた。
「体は誰でも知っている! 結構変態な仮面、参上!」
豊満な肢体に女児童たちが、黄色い声をあげる。
「きゃー! 素敵!」
「結構変態なお姉様ー!」
お楽しみに水を差され、いきり立つ教師。
「邪魔をするな!」
石を投げられるが、それを大胆な開脚ジャンプでかわす。
「き、消えた!?」
結構変態な仮面の姿は見当たらない。
「逃げたか、不審者め!」
安心した教師の上に、突然、巨大で柔らかな何かが降ってきた。
「な、なんだ? 大きな桃がドンブラコと......」
「それは私の御居処さんよ♪」
ヒップアタックで教師たちをKO。
小萩を十字架から解放して、風のように去ってゆく。
「はにゃあん......結構変態なお姉様ぁ♪」
体は丸出し、顔だって半分見えているのだが、小萩は、その正体に気付いていない。
ヒーローの正体は追及しない。
これもアニメのお約束である。
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アイリスの住む七美荘には、他にも三人の住人が住んでいる。
まずはイギリスからの留学生、長谷川アレクサンドラみずほ(
jb4139)。
「もうこんな時間! 急がないと遅刻してしまいますわ!」
急いで玄関から飛び出したみずほ。
何もないところで転ぶ。
「きゃあ!」
「わ!」
そこへ、平凡な眼鏡少年・袋井 雅人(
jb1469)が出てきて、転びかけたみずほの両胸を、ぐにゅっと鷲掴みにしてしまう。
日常ラキスケ、これもアニメのお約束である。
「きゃー! えっちですわー!」
みずほのアッパーが空高く、袋井を飛ばす。
いくら撃退士でも死んでしまう高度まで飛んでいるが、アニメ地区の住人が落下地点を計測し、もう一人の住人をスタンバらせている。
「……この辺りでしょうかぁ……」
「あと北に三十センチ、西に二十センチ移動して下さい」
ドンぴしゃな地点に袋井が落ちてくる。
「……おぉ……」
ボヨンと巨大ボインちゃん、月乃宮 恋音(
jb1221)の胸に落下!
クッションで助かる袋井。
「いやー、恋音は今日も魅力的ですねー。 今後も末永くよろしくお願いしますね」
死にかけたのに、何事もなかったかのように上機嫌な袋井。
「……はい、おはようさんですよぉ……」
恋音の方も恋音の方で、のんびりしたものである。
死にかけイベントは、日常茶飯事。
これもアニメのお約束である。
七美荘の住人には、全員、裏の顔が用意されている。
国連裏機関の秘密工作員で、いわゆる“七つの大罪”の一つをコードネームに与えられている。
なぜ高校生にそんな重大な仕事を与えるのか、全くわけのわからない組織だが、重職を担う人間が学生なのは、アニメのお約束である。
そして、“憤怒”袋井は今、アイリスの謎を探る任務を帯びている。
授業を抜け出し、アイリスの所属するオカルト部の部室に侵入する。
「もし情報通り、アイリスさんの正体が黒コートなら、ここに何かを隠しているかもしれません」
オカルト部のドアを開けると――。
「きゃー! 出て入って下さいまし!」
みずほが着替え中で、白下着姿を眩く晒している。
ワンツーからの左フック、右アッパーのコンビネーションでふっ飛ばされる袋井。
「ぐはっ!」
窓ガラスを突き破って校庭にまで飛ばされる。
体育の授業を受けていた体操着ブルマ姿の恋音の胸の上に、約束通り落下した。
「ハッハハ、恋音の胸は救命マットですねぇ」
「……(ふるふる)……」
なぜ、オカルト部にみずほがいたのか?
そこでなぜ着替えていたのか?
そんな、整合性なんかよりサービス優先。
設定破綻しても勢いで進んだほうが、面白い。
これもアニメのお約束である。
そろそろ巨悪を登場させる。
名前は“T”。
極右政治家である。
右とか左とか言い始めるとネットが荒れるので、今回は国家の深淵に関する重大な秘密を握っている事にする。
Tはその秘密を使って、西明学園の校長をゆすっていた。
「校長、中学生以上の生徒にも成績下位者は素っ裸にして、石を投げつける謎校則を導入なさい。 従わないなら謎権力で酷い目に遭わせますよ」
「し、しかし、中学生ともなると胸の大きい子もいます。 素っ裸はシャレにならないのでは!?」
「今は小学生を裸にした方が問題あるんです! つまり、現時点で貴方はもう手遅れ!」
「し、しまったぁ! 一昔前のアニメ倫理で校則を作っていたぁ!」
頭を抱えると、ヅラが外れてハゲ頭になる校長。
校長の髪型はカツラか、ハゲ頭。
これもアニメのお約束である。
「……失礼しますぅ、お茶を煎れてきましたぁ……」
そんな校長室に、トレイに紅茶を乗せた恋音が入ってくる。
Tの前で、ポットからカップに紅茶を注ぐ恋音。
巨大過ぎる胸が、動かなくてもたわむたわむ!
Tが、スケベ目でそれを眺める。
「近頃の娘の発育は、実にけしからん」
「……お茶が飲みごろですぅ……どうぞぉ……」
恋音の胸を横目に眺めながら、紅茶を口にするT。
すると、Tの目がとろぉんとしてくる。
紅茶に、薬物が仕込まれていたのだ。
工作員“色欲”としての顔を露わにする恋音。
「……貴方の知っている国家深淵の秘密を教えて下さいぃ……」
「そ、それは……ダメだ! “あのお方”が……もし秘密を喋ったら……ひい、想像するだに恐ろしい!」
アニメの定番“あのお方”がここにも登場した。
「……喋ってくれたら、おっぱいを触らせてあげますぅ……」
「喋ろう!」
救命マットにもなれば、自白剤以上の自白剤にもなる。
万能にして無敵の存在。
それがアニメ巨乳キャラのおっぱいである。
「……なんとぉ、そんな秘密がぁ、驚きましたぁ……」
秘密の部分はあえてカットする。
秘密は秘密である間が、魅力的。
明かされてみると、大概の重要設定は大した内容ではない。
「さあ、喋ったんだ! そのおっぱいを鷲掴みにさせてくれ!」
恋音の胸に手を伸ばすT。
そこに、謎の男が飛び込んでくる。
「ふおおおおおっ、私の名はラブコメ仮面! 七つの大罪のうち憤怒を司る者だ! さあ私の弓の的になるがいい!!」
弓矢で、Tを狙うラブコメ仮面。
だが、Tはみずほを人質にとった。
「きゃー! わたくしは紅茶の匂いに誘われて来ただけですのに、なんですの!?」
「触らせてくれないなら、そっちの女に比べればひんぬーだが、この女の乳で妥協するぞ!」
「ふおおっ! おっぱいを人質にとられては、ラブコメ仮面は手が出せない!」
だが、みずほは怒りのExecutioner Blowを叩き込み、Tを自ら死刑執行した。
「わたくしをひんぬーって言いましたわね? 恋音さんが規格外なだけで、お胸は豊かですわ! 実は、わたくしも七つの大罪で嫉妬ですのよ!」
助けに来たヒーローより、助けられたヒロインの方が強い。
これもアニメのお約束である。
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そんな西明学園にも生徒会長が存在する。
高等部二年A組の咲魔 聡一(
jb9491)だ。
彼は、哲学部という部活を起ち上げたのだが、部員が集まらず、一定期間内に五人部員を集めないと廃部になるという、アニメで最もありがちな設定に苦しめられていた。
すったもんだのあげく集めたのが、一年生の袋井、その双子の妹アイリス、袋井の幼馴染の恋音、転校生のみずほだった。
ある日、咲魔は部室に、袋井を呼び付けた。
「三橋くん、キミの幼馴染だが、胸の大さに反比例して成績が宜しくない」
「部長、私、袋井なんですが」
「安心したまえ、生徒会長権限でキミ及び、キミの一族を三橋姓に改名しておいた。もはや日本に、キミを袋井と呼ぶものは存在しない」
「そんな無茶な!?」
生徒会長の権限は絶大、これもアニメのお約束である。
「部員の中に成績不振者がいるのは、諸学問の開祖たる哲学部の沽券に係わる!」
そんな理由で、部員全員を、自らの邸宅に集める咲魔。
「部長は、常に学年トップの成績を維持していらっしゃいますが、どのようなにお勉強法を?」
みずほの問いに、咲魔が答える。
「優秀な家庭教師がいるのだ、その先生を皆のために呼んでおいた 恋音くんは彼女に勉強を習いたまえ」
ハンドベルで家庭教師を呼ぶ咲魔。
「はぁい、霧依先生よ♪」
白衣にマイクロビキニの家庭教師が現れる。
さっき、諜報員か何かをやっていた気がするが、職業を一人のキャラが複数兼務しているのも、アニメのお約束である。
「凄い先生だが、連れている子供は何なのだ?」
アイリスが、霧依の背中に張り付いている小萩を見て尋ねた。
「幼女の香りは酸素なの♪ 先生、幼女がそばにいないと死んじゃう病気なのよ♪」
「先生、実に哲学的な回答です」
眼鏡の奥の目を鋭く光らせ、哲学部部長としてのキャラを立てる咲魔。
「大丈夫よ、恋音ちゃん♪ 胸が大きくても美味しく食べてあげるわ♪」
「……(ふるふる)……」
霧依の眼力に怯える恋音。
「恋音が嫌なら、仕方ありません、私が先生に食べられましょう!」
自ら犠牲の羊になる事を申し出る袋井、改め三橋。
「三橋さん、ハレンチですわ!」
右アッパーで、三橋を天井に叩きつけるみずほ。
「げふっ」
噴き出た鼻血が、咲魔の眼鏡に飛ぶ。
「何で痴話喧嘩になるんだ? お陰で眼鏡が汚れたじゃないか」
眼鏡をとる咲魔。
「ん、皆、俺を見つめてどうした? 顔に何か付いてるか?(☆_ゝ ☆)」
眼鏡をとると、超美形。
これもアニメのお約束である。
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その時、眼鏡から何かがふっと抜けて飛び出した。
咲魔の眼鏡ではなく、三橋の眼鏡からである。
天に昇ってゆくそれを、カシャカシャとデジカメで撮影するアイリス。
「リアル成仏が観察できると聞いて、ここに来たのだ」
デジカメには、“人の顔に見えなくもない”光の屈折が映っていた。
「……これが大富豪・三橋さんの魂なのでしょうかぁ……」
「そういえばそういう任務でしたね、ラブコメ生活が楽しくって忘れてましたよ、ハハハッ」
「はい、それで袋井先輩を三橋と呼ばせて頂いていたわけです」
「咲魔くんは、三橋さんをアニメの登場人物気分にさせて、スッキリとイカせたのね♪」
「その通りです、皆さん、失礼いたしました」
任務を遂げた咲魔は、素に戻っている。
楽しくアニメを見た後は、現実に戻って頑張ろう。
これはアニメと、アニメが大好きな皆とのお約束である。