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最初のレッスンから数日後。
自宅に訪れたメルに、黄昏ひりょ(
jb3452)は、質問を受けた。
「ひりょ先生、最近、お姉さまとお会いになりましたか?」
「リズさんと?、うん、昨日、この依頼関係の手続きをしに行った時にね」
「お姉さまは何をしていらっしゃいました?」
「斡旋所で四ノ宮さんと、げんこつ煎餅を食べていたかな」
メルの美しい顔が、パァーと幸福色に染まる。
「ああ――二人はそうして、愛の語らいをされているのですね」
(こりゃ、聞きしにまさるなぁ)
まずは、この固定観念に塗り固められた世界をどうにかしないとダメだ。
黄昏は、質問を開始する
「メルさんのお父さんは、男性? 女性?」
「男性です」
「お母さんは?」
「女性です」
「僕の両親もそうなんだ。 メルさんも、俺も、誰も皆、異性と惹かれあう事がきっかけで生まれてきたんだよ。 それを変態的と否定してしまう事は、メルさんや、メルさんの大好きなリズさんや、レイさんの存在をも否定してしまうことになるんだよ」
「お姉さまや、レイの――」
メルは、しばし衝撃を受けたように俯いていた。
やがて、重々しく呟く。
「そうかもしれません、私たち姉妹が命を授かったのもお父様とお母様の愛によるものですものね」
「その通りだよ」
笑顔で頷く黄昏。
だが、メルの蒼い目には、涙が浮かび始めていた。
「すると、お姉さまと椿さんは結ばれるべきではないのでしょうか? 椿さんは、いつか、どこかの男性に盗られてしまうのですか? あんなに仲がおよろしいのに」
「い、いや、同性同士の愛を否定するわけじゃないよ」
純粋だけに思い込みが激しい。
それだけ、姉の幸せを願う気持ちが強いのかもしれない。
「愛にもいろんな種類があるんだ。 恋愛、親子愛、兄弟愛、友愛――なぜ、生物として、種を残す目的以外にも惹かれあう事があるのか、不思議に思わないかな?」
「確かに不思議ですね」
「学んでみない? 心理学と言う学問なんだ」
「学問ですか――でも私、武器を扱う教育しか受けて来なかったんです」
自信なさげなメル。
「メルさんなら、出来るさ――それに心理学を学べば、リズさんと四ノ宮さんの仲進展させる事も可能かもよ?」
心の中でゴメンと二人に謝る黄昏。
アラサー二人に、ボコられる未来が浮かんだが、自信なさげなメルに興味を惹かせるためには、仕方なかった。
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雁久良 霧依(
jb0827)は雁久良邸に来たレイを、抱き付き撫で撫でした。
「はぁい♪ 霧依お姉様よ♪」
むろん、ペロペロちゅちゅも忘れない、幼女大好き霧依ししょーである。
「霧依ししょー、今日は何をするのー?」
レイの方はレイの方で、何の疑問も抱かない。
痴女という観念すら理解していない。
これぞ、純粋美幼女の恐ろしさである。
「おしゃれの楽しさを分かってくれたみたいだし、今回は、自分で衣装を作って、着用し、人前で注目を浴びる事の楽しさを教えるわ♪ そう、コスプレよ♪ 絶対に癖になって飽きるなんて事ないわ♪」
二人は、ハンドメイドやコスプレのショップを巡り必要なものを買い込んで、雁久良邸に帰還した。
「レイちゃんは、世紀末拳法漫画や、黒い剣士の漫画が好きなのよね? どのキャラが一番好きなのかしら? どのキャラの服が着たい?」
「僕と同じ名前のキャラ!」
「あら♪ その人は露出が低めね♪ ちょっと残念だわ♪」
「だめ?」
「血を見ると人が変わる拳法家殺しさんの衣装じゃダメかしら♪ 裸サスペンダーとか、レイちゃんに似合うと思うわ♪」
いつも通り霧依な感じの霧依なのだが、衣装制作のレッスンではちゃんと師匠しており、裁縫やハンドメイドの技術も教本を片手に詳しく教えてゆく。
結局、レイは自分と名前が同じ人の衣装、霧依はそのライバルでナルシストな赤髪の人の衣装を作ってコスプレパーティに出陣した。
「キャー! なに、あの金髪のちっちゃい娘! きゃわわすぎるー!」
「その隣の巨乳、えっろ! 胸なんか縦布が覆っているだけじゃねえか!?」
人々に囲まれ、めちゃくちゃ写真を撮られまくる二人。
「なんかみんな、ボクたちの事見てるよー」
「うふふ、レイちゃん、そろそろショータイムよ♪」
霧依は、両手に鞭を持つと鋭く振り回して、レイの衣装をビリビリに切り裂き始めた。
「きれろ♪ きれろー♪」
動作がどう見ても獄長様なのだが、霧依のメインウェポンが鞭なので仕方がない。
切り裂かれた服の下から、今度は黒のエナメルボンテージが現れる。
こちらの元ネタは霧依が出ていた“ジャスティスヒーロー”という、版権の心配ナッシングな自主制作映画キャラである。
当然、知っている人はいないのだが、金髪美幼女と、巨乳痴女のボンテージ姿という事で盛り上がる盛り上がる!
興奮のあまり、ハイでエースなワゴン車が何台も乗り込んできて、大変な事になっていた!
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「ぬぬぬ! レイのほうのヤツにゃ負けん!」
大盛り上がりしたコスプレパーティのブログを見て、アティーヤ・ミランダ(
ja8923)は、対抗意識を燃やした
冥魔三姉妹の指導を今回初めて請け負う事になったインド系美女だ。
金髪碧眼のきゃわいい娘大好きな、危ないおねーさんである。
部屋に連れ込んだ――もとい、依頼のために呼び出したメルを見て涎を垂らしている。
「さあて、どう味付けして食べてあげようかしら? 同じ金髪なら、乳がある分、姉の方が美味しいに決まっているわ」
十五歳とは思えないどたぷーんなメルの胸に、煩悩ぐつぐつ状態なアティーヤ。
「――決めたわ、あたしは着道楽を教えてあげる!」
アティーヤがクローゼットを開けると、メルの碧眼が華やいだ。
「わぁ、すごーい」
ドレスに民族衣装、色とりどりの衣服が吊るされている。
「まずは着てみようか。好きなの選びなよ。メイクもしてあげる」
「私、日本のキモノが着たいです!」
藤色の振袖を着せてもらい、ポニーテールだった髪を降ろすメル。
「ふふふ〜、か〜わいぃ♪」
パシャパシャ写真を撮る。
「……ね、ドキドキしてこない?? いつもと違う自分になるってさ」
「どきどきします――」
メルは頬を染めながら、はにかむような上目使いで鏡を見つめた。
彼女も妹のレイ同様、これまでは兵士としか生きてこられなかったのだ。
その耳元に、アティーヤが囁く。
「……男の娘用のメイクとかもあるんだぜ?」
「お、男の娘ですか!?」
メルの頬が一気に真っ赤に染まる。
前回、アリスにより読まされた薄い本の最初の一冊が、男の娘同士のらめぇぇな絡み漫画だったのだ。
「わ、私、あんな風にはまだ――お姉さまと椿さんが、先に結ばれませんと、妹として」
脳が蕩けてパニックになっているのだが、アティーヤにはわけがわからない。
「弓やヒゲんとこをどうこうするとか、女の子用とはまた違うんだよねぇ、やり方が。
まー、向き不向きってのもあるけどね。手あたり次第はいけませんぜ」
しかし、アティーヤの方もメルにはわからない事を言ってひとりごちているので、お互い様だった。
「こういう衣装は、どこで買うんでしょうか?」
「まずはネットかな――あとは貸衣装の処分市とか。せっかくだし行く?」
貸衣装屋に行くと、ウェディングドレスや振り袖が並んでいた。
「綺麗……」
それを恍惚とした目で眺めるメル。
「お姉さまと椿さんには、どれが似合うのでしょう……」
「拘るねえ。 着道楽なんだから、キミが着たっていいんだよ」
「私が、ですか?」
「結婚式じゃなくたって綺麗なおべべは綺麗なんだからさ。 一人で着て、鏡に映った自分を楽しむのも自由なのさ!」
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エイルズレトラ マステリオ(
ja2224)の部屋に三度、レイが訪れた。
「今日はちゃんとマジックの勉強をいたしましょう、この間は、あらぬロリコン疑惑をかけられて邪魔されてしまいましたからね、」
「ろりこん?」
とび色の目を不思議そうに瞬かせるレイ。
「その話は、忘れていただいて結構です」
思い出したくもないエイルズ。
そんな理由で一時間も事情聴取されるとは、思ってもみなかった。
「マジックは空想を実現し、人に夢を与える技術です、先ずは一つだけきちんと覚えて、お姉さん達に見せてびっくりさせてみて下さい」
エイルズはそう言うと奇術に使われるトランプ“バイシクル”を取り出した
「今から相性占いをしましょう」
トランプのデックを一枚ずつ、二つの山に分けて交互に置くエイルズ。
「レイさん、好きな所でストップって言って下さい」
「わかった!」
トランプをジッと見つめながら、タイミングを見て叫ぶ。
「せたっぷ!」
「ストップ、ですよ。 どこのライダーなんですか」
山を分ける手を止めるエイルズ。
二つに分けた山の片方をレイに渡す。
「これを同じようにさらに二つずつに分けます。 手伝っていただけますか?」
結果、トランプの山は四つに別れた。
「では、相性をチェックしましょう」
それぞれの山の一番上を同時に裏返すと、4枚ともA。
「相性ばっちりですね」
得意げな顔のエイルズ。
だが、レイは、その顔を不思議そうに見上げた。
「相性、いいの?」
「まあ実は、そう必ず見えるようにタネが――」
金髪ツインテを幼げに傾げるレイ。
「じゃあ、僕とエイルズ、結婚した方がいいの?」
「いやいや、そうでなくて、タネを仕込んだ手品なんです」
エイルズが苦笑した時、
「――ほう、そういう事ザマスか」
声に振り向くと玄関のドアに、目を三角形にしたリズが立っていた。
前回と全く同じ光景である。
「タネを仕込んだトランプ占いで誘導するとは、実に手の込んだ幼女ナンパテクザマスね――」
「いやいや、そうでなく――というか、リズさんいつの間に入ってきたんですか!?」
「問答無用ザマス! この島の人間は変態だらけ! 油断も隙もないザマス!」
今回は、誤解を解くまでに三時間かかった。
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斡旋所から、メルの腐りっぷりについて報告を受けたアリス セカンドカラー(
jc0210)はさすがに、気まずげな顔を見せた。
「やっばー、純粋少女恐るべし。もっと基本的な部分からレクチャーしなくちゃ駄目だったかー」
軌道修正せねばと、部屋に、再びメルを呼ぶ。
「特定ジャンルに拘って視野狭窄に陥るなど真の萌者(もさ)の道から遠ざかるとこだったわー、だいたい異性愛を否定しちゃったら、男装女子×男の娘のおねショタとか、男装女子×へたれ男子の下克上とか愉しめなくなっちゃうじゃない。 それはとてももったいないことだと思うの、危ない危ない」
新しい薄い本を大量に、メルの前に積む。
腐りきっている人が、他人の腐敗を阻止するとかありえないのである。
顔を赤らめながら一冊ずつ開いてゆくメル。
「あの、これは男性的な女性と、女性的な男性の愛の営みについて書かれた書物でしょうか?」
「ざっくり言うとそうよ」
碧眼をグルグルまわすメル。
黄昏に教えられた事もあり、整理しきれずにパニックになっている。
「ますます頭が混乱してきました、これは正しい愛の形なのでしょう!?」
「そんな考え方、甘い、甘いわ! 萌道を志す萌道者(ぐどうしゃ)なら、間口は常に広げておきなさい」
「なんでもありという事でしょうか?」
「そうよ! 萌(あい)とは精神の止揚、理性の極致。 究極の精神活動が萌よ。 あらゆるジャンルを網羅し、深く萌えることができたなら、無明のその先にいけるはずよ☆」
「よくわかりません、私は一体、どこへ向かおうとしているのでしょう」
本当によくわからない。
「自分が変態さんになるのは恐いです」
不安げに震えるメルを、アリスは諭した。
「真の変態とは、相手の都合を無視して自分の理想や信念を一方的に押し付ける者のことよ。 すべてを理解しろとは言わないけれど、理解できないものをただ否定するだけというのはしてはいけないことよ」
アリスの説得に、メルが顔をあげた時、二人の携帯にメールが届いた。
学園内の講堂に来てほしいとの連絡だった。
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時を少し遡る。
レイは川澄文歌(
jb7507)の家に来ていた。
「アイドルの川澄文歌だよ。 よろしくね、レイちゃん」
レイの視線に合わせて腰を屈め、アイドルスマイルを浮かべる文歌。
「文歌ししょーは、何のししょーなの?」
「お歌だよ、うたのおねーさんだね。 レイちゃん、歌は聞いた事あるのかな?」
「ぐんかなら」
「――渋いね」
ずっと冥界の兵士だった子なので、仕方がないのだ。
「もう少し外見年齢に見合った曲を覚えよう」
文歌はまず、世紀末拳法アニメのOPを聞かせた。
「おお! 僕の鼓動早くなる!」
好きな物語の世界観を如実に表している曲だけに、早くもハマったようだ。
「他にもいろんな歌があるんだよ、誕生日にはハッピーバースデートゥーユーの歌、クリスマスにはジングルベルの歌を歌おう♪」
アイドル文歌による、歌のレッスンが始まった。
「歌はね、喉で歌わずお腹で歌うんだよ」
「好きな曲を何百回も聞いて音を一つ一つ確認すると音感を鍛えられるよ」
「メトロノームに合わせて足でリズムを刻もう」
文歌は言葉だけではなく実践的を旨としてトレーニングを施した。
「みんなと一緒に歌を歌えば、もっと楽しいよ♪ みんなを呼んでみんなで歌おう」
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文歌の呼び出しに応じ、エイルズ、霧依、アティーヤ、アリス、黄昏が講堂に集まってきた。
「合唱ですか? あんまり柄じゃない気がしますねぇ」
「レイちゃんのお歌楽しみ♪ きっと可愛い声で鳴くわ♪」
「うんにゃ! ウチのメルの方がいい声で鳴くから! あたしのテクで鳴かすから!」
「ぐふふ、見渡す限り粒ぞろいじゃない、いいカップリングが何組も産み出せそうだわ」
彼らとは少し離れて、文歌は黄昏と話し込んでいた。
「人に何かを伝える事、教える事、簡単な事じゃないね」
「でも、ひりょさんならきっといい先生になれますよ」
その様子をメルがじっと見ているのに、文歌は気付いた。
「文歌さんと黄昏先生、仲良しなんですね」
少し顔を赤らめる文歌。
「そ、そうかな?」
頬を赤らめたまま、俯き加減にメルに尋ねる。
「メルちゃんには,私とひりょさんが仲良くしてるのを見て,ヘンに見える?」
「いいえ、いいなーって思います」
メルの笑顔でわかった。
メルはもう、男女の恋について真っ直ぐな目で見てくれているのだと――。
文歌は仲間が待つ、講堂のステージへと歩き出した。
「さあ、みんな歌おう! 一緒に唄えばみんな友達だよ!」
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爽やかに終わったように見えるが、それと趣味とは話が別である。
久遠ヶ原のミニコミケ会場。
「メル姉! 僕の魔女っ娘コスどこ?」
「その袋の中じゃないかしら――すみませんお客さん、ガッ×グリ本はもう完売なんです。 コル×ピピ本なら一冊残ってます!」
メルは薄い本の世界に、レイはコスプレの世界にすっかりハマっていた。
将来が心配だが、仲良く楽しそうで何よりである。