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マスター:スタジオI
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
参加人数:6人
サポート:6人
リプレイ完成日時:2014/06/28


みんなの思い出



オープニング


 関東某所にある羽上山。
 自然豊かでなだらかな斜面を持つ標高四百メートル弱の山である。
 登山道も整い、幼稚園児や、小学生のピクニック先としても人気があった。
 去年までは――。
「みんなー、着きましたよー」
 バスで山頂近くまで来たデイジー幼稚園の子供たちは、大喜びで外に飛び出した。
「やまだー」
「たかーい」
「はれてるー」
 無邪気で楽しげな子供たちの様子に、保母さんたちも頬を緩めた。
「この山、最近、誰かがピクニックに来るたびに大雨になるって聞いていましたけど、今日は大丈夫ですね」
 子供たちは、大喜びで山頂の野原を駆け回り、珍しい草花、見た事のない虫たちと戯れている。
 ところが――。
「あめだー」
「つめたーい」
「びしょぬれー」
 いきなり、本当にいきなり大雨が降ってきたのである。
 小雨から徐々に雨脚が強まるという流れではない。
 突然、バケツの水をひっくりかえしたかのように豪雨が降り出したのだ。
「みんなー、帰りますよー」
 全員をバスに乗せ、幼稚園へと引き返す。
 園児たちが楽しみにしていた遠足なのに、可哀そうに、数分と経たずに終わってしまった。
 これが、この幼稚園でだけの話なら偶然で片付けられるだろう。
 だが、この一年間、羽上山に来た幼稚園、学校のほぼ全てが、これと同じ目にあっているのである。
 


 別の日。
 羽上山は釣り客で賑わっていた。
 地元釣り同好会の大会日なのである。
 この山には渓流と湖があり、ヤマメ、イワナ、ニジマスなど様々な魚が釣れる。
 釣り人たちは、晴天を喜び、期待に胸ふくらませて竿を取り出したのだが――。
「くそ、降ってきたか!」
 糸を垂らしたばかりだというのいに、大慌てで川岸や湖畔から自分の自動車へと逃げ帰り、羽上山を後にするハメになった。
 だが、豪雨の中にあってまで渓流に釣り糸を垂らし続ける男たちがいた。
「根性なしどもめ」
「雨の時こそ釣れることを知らんようだな」
「雨音に人の気配は紛れ、魚は油断する、俺たちの独壇場よ!」
 そう、この三人は釣った!
 釣りに釣った!
 レインコートを着ていても下着の中までずぶ濡れ。
 クーラーボックスは魚で満杯になり、満足もひとしおだった。
 その時、三人の背後にぬるりとした気配がした。
 雨音に気配が紛れ、今度は三人が気付かなかった。
 一人の肉体が、完全に溶けてなくなるまでは。
 全長二メートルを超す巨大なナメクジが、仲間の釣り人に絡み付き、衣服、肉体、携帯や時計、全てを溶かしていたのだ。
「――――っ!」
 悲鳴すら、激しい雨音にかき消され聞えなかった。
 残る二人は、文字通り身の凍る思いで、冷たい雨に打たれ、逃げた。


 ここは久遠ヶ原の某斡旋所。
「この山に行って皆で楽しそうにしていると、必ず集中豪雨が降るみたいだね」
 独身アラサー女子職員、四ノ宮椿は、本日不在。
 後輩の堺 臣人がパソコンから出した依頼概要に目を通していた。
「そうなのにょろ! 早く何とかして欲しいにょろ!」
「幼稚園や学校の先生が、一人寂しく遠足の下見に行ったときには、降らないのか。 なるほど、わかりやすい」
 依頼自体は別ルートから来たのだが、斡旋所に遊びに来ていたはぐれ天魔の子・ニョロ子が、それを早く解決するよう必死に推している。
 彼女は久遠ヶ原学園小等部の一年生だ。
 彼女のクラスの遠足も、件の山なのである。 
「ナメクジ型のサーバントなんて恐ろしいにょろ、頭の蛇さんがおびえっぱなしにょろ」
 ニョロ子は伝説のメデューサに酷似した姿をしており、即ち頭が蛇で出来ている。
 蛇がナメクジを嫌うというのは、日本に古来からある三すくみの原理だった。
「僕だって、そんなの会いたくもないけどね。 ニョロ子ちゃんの羽上山遠足は来週の予定なんでしょ?」
「そうにょろよ! 初めての遠足なのに、そんなのに遭ったらニョロ子、髪の蛇さんが全部逃げて、つるつる頭になってしまうにょろ!」
「山狩りするのが常道だけど、来週までだと間に合わない可能性があるね、誘き寄せるしかないか」
「どうやるにょろ?」
「大雨が降ってもめげずに、楽しくワイワイ騒いでいると、向うから出てきて攻撃してくるらしいから、それを利用するしかないね」
「なんでそれで出てくるのか、さっぱりわからないにょろ」
「『なんやこいつら、調子に乗りやがって! じかにシメたるわ!』 みたいなノリなんだろうね」
「ひねくれた天使が造ったサーバントにょろね、嫉妬って怖いにょろ」
 かくして『どしゃぶりの雨の中、みんなで楽しくピクニックしませんか?』という、字面的にはマジキチな依頼が発布されたのだった。


リプレイ本文


 羽上山の上空を突如、雨雲が覆った。
 山全体を蜂の巣にせんとばかりに、鋭い雨が打ち下ろされてくる。
 係留しているボートの様子を見に来た湖の管理職員が、レインコートの下で顔を歪めた。
「可哀そうに……おかしくなっただね」
 雨が降る前に、湖畔でバーベキューの用意をしていた若者たちがいた。
 すぐに帰るだろうと思っていたのだが、
「ひゃーーーっ雨だーっシャワーだ、ぬっれるうううう♪」
「うひゃ〜♪ 土砂降りぃぃぃ〜♪」
「おいしいですねー! 肉とか超濡れてますよ、美味しいですねーっ!」
「イエッス良い天気!! 土砂降り!! さぁどんどん喰おう!!!」
「冷やしたビールぅまーいぞー! かけっこー、かけっこー!」
「肉―! 野菜―! どんどん焼きますよー! むしろ茹でますよー!」
 土砂降りの雨で、大はしゃぎし続けているのだ。
 管理職員は、絶望的な顔で彼らの傍から去った。
「日本はもうダメだ……」


 このはしゃいでいる若者たち全員、久遠ヶ原学園の生徒である。
 俗に、撃退士と呼ばれる者たちだった。
「低いよー! テンション低いよー! いけるよー! もっとあげていけるよー!」
 最もテンションの高い、銀髪の少女は卯左見 栢(jb2408)。
 タンクトップに包まれた百九十七センチのスレンダーな肉体が眩しい、十九歳の大学生である。
「す、少し寒くなってきました――私も透過能力が使えたらいいのですが」
 雨に体温を奪われ唇を震わせている黒髪の和風美人は草摩 京(jb9670)、二十歳。
 普段は雅やかな和装に身を包む戦巫女だが、雨を吸って重くなってしまったため、今はやむをえず付け下げと呼ばれる薄着姿になっている。
「すみません、私たちだけ……その分、努力して騒がせていただきます! ……わーい!」
 真面目な人が、無理やりテンションあげてる感じがありありなのが、山科 珠洲(jb6166)。
 彼女ははぐれ冥魔のため、触れられるものを選択可能な、透過能力が使えた。
 そのため、雨には濡れない。
「透過能力便利ですよね、私も使ってみましたー」
 スク水姿の娘はパルプンティ(jb2761)、彼女もはぐれ冥魔である。
「でも、パルプンティさん濡れてますよ?」
 全身ずぶ濡れだった。
「あと、足元に、何か引っかかっているようですが?」
 なぜか、脱げたショーツが落ちていた。
「あ! 透過させる対象間違えましたーー!」
 スク水にショーツを付けている時点でいろいろ間違っている気がする。
「おねーさん方、水も滴るセクシー姿じゃ、ルル、大興奮じゃー!」
 金髪巻き毛のショタっ子はルル(jb7910)。 
 ませた事を言っているように思えるが、やはりはぐれ冥魔で実際はン百歳らしい。
「ばなーなっ↑」
 焼き石鍋で熱したバナナをひたすらもぐもぐ食べているのが、Unknown(jb7615)。
 その名の通り、正体不明っぽい姿をしたはぐれ冥魔だ。
 この六人は、焼き網の上に傘を取り付けるとか、いろいろ工夫して豪雨の中でバーベキューパーティを開いていた。


「メックジーナちゃん来ないねー、早く会いたいー!」
 長身をさらに伸ばして叫ぶ栢。
「はー、こんな事で、本当にサーバントをおびき寄せられるのでしょうか?」
 根が真面目な珠洲は、テンションを保ち続ける事に疲れて来ているようだ。
「え?飯食うだけの依頼ではなかったのか」
 Unknownなど、もはや依頼内容を忘れている。
「誘き寄せようという下心のせいで、はしゃぎ切れてないのかもしれませんね」
 京の呟きが的を射ているように思え、皆は頷いた。
「もう、メックジーナとか来なくてもいいですよ〜、せっかくのピクニックですから遊びましょう〜」
「ルル、日本のお山は初めてだぞ! 楽しいぞ〜!」
 パルプンティとルルは開き直り、リミッターを外して、はしゃぎだした。
 誰かが羞恥心を捨てると、他の面子もハメを外しやすくなる。
 浴びると頭がおかしくなる雨なんじゃないかと疑われるほどの、勢いで撃退士たちはしゃぎ出した。
「あぁーー! 豪雨の中でバーベキューとかヤバすぎる! さいこーーー」
「シェイク! シェイク! ビールかけっこー!」
「吾輩! 焼けた炭とか食べちゃうぞ〜〜! はふっほふっ! はぐう!」
「あはっ! Unknownさん、舌こげてます! めっちゃ焦げてますよ! アッハハーーっ!!」
「私、泳ぎますよー! 水着で地面にダイビーンーー!」
 即、病院に通報されるレベルである。
「草摩 京 脱がされてみましたーー!!」
 京が、ニコニコしながら叫んだ。
 見れば、服が背中側からほとんど解けている。
 白くたわわなな両胸は、手ブラで隠している状態だ。
「京おねーさん! エッチなのじゃー!」
「脱がしたのは、誰だぁーー!?」
「メック! ジーナ!」
 湖を背に立っていた京が、大きく前にジャンプをした。
 その向こうに二mはあろう、巨大なナメクジが姿を現す。
「あ!」
 京を含め何人かが、我に返った。


「そんなにジメジメして雨まで降らせて……気持ち悪い、お山の大将気取りのニートブサ蛞蝓なんですね」
 今まで脱がされて喜んでいた京が、急にジトッと冷たい目をメックジーナに向けた。
「ぎゃあああ! 京ちゃんのその目イイ! あたしも見下されたーーい!」
 栢は、元々がハイテンションのせいか、まだ戻り切っていない。
「まずは、水の中に落としましょう!」
 根が真面目な珠洲は、戦士の目に戻り切っていた。
 水中で雷撃を浴びせ続け、回復する暇を与えない。
 それが珠洲の作戦だった
 仲間の冥魔四人揃って翼を広げ、空を舞った。
「マル=デ=ナメクジ……我輩はビールを所望する」
 Unknownが、右手の缶ビールを飲みながらメックジーナに缶ビールをぶつけた。
 とたん、熱したフライパンの上に落としたバターかのように、アルミ製の缶ビールが溶けて消えた。
 中身のビールも、メックジーナの体に吸収されてしまう。
「金属があっさりと!」
「ルルさん! 捕まってはダメです!」
小柄ですばしっこいルルは、囮になろうというのか、メックジーナの鼻先を飛び回る。
「ええ匂いじゃろ? てんねんこーぼじゃー!」
 さきほどまで、やたら自分の体にビールをかけていたのは『ナメクジはビールに誘引される』という習性にあやかったものだった。
 その効果かどうかわからないが、メックジーナがルルに食いついてきた。
 空を舞うルルを追い、湖に飛び込むメックジーナ。
 そこに、珠洲が雷の剣を叩きこむ。 
「え、えーと、今はショーツじゃなく十字架を落とすんですよね? 間違っていませんよね?」 
 パルプンティが戸惑いながら、クロスグラビティを放った。
 水を薙ぐ光の剣に対しても、空から降り注ぐ闇の十字架に対しても、メックジーナは回避すらしようしない。
 素直に、その威力を浴びた。
「やる気がないのでしょうか?」
 溶けかけた服を捨て、胸にタオルを巻きながら京が分析した。
 メックジーナは、反撃もしてこない。
「ふむ、誘き出すのが大変なだけで、大した敵ではなかったのかもな」
 冥府の風を纏ったUnknownが落とした闇の十字架も、メックジーナは反応なく受け止めた。


 楽勝の予感も一瞬の事。
 雨に撃たれたメックジーナの肉体が、ぬるぬると再生し、瞬時に元の姿に戻ってしまった。
「やだぁ、メックジーナちゃんぬるんぬるんかっわいーー!!」
 どういう感性なのか、巨大ナメクジが気に入ったらしい栢がゴーストアローを放つ。
 すると、メックジーナは、突如、恐るべき速さで地を這い、栢に襲い掛かってきた。
 余りのテンポの違いに対応出来ない栢。
「!?」
 宙にいたUnknownが、栢の前に飛びおり、逞しい胸にその攻撃を受ける。
 粘液が張り付いた胸板を溶かした。
「っつ!」
「ちょ! あんのん大丈夫!?」
 栢はUnknownの手を引き、全力疾走で後方へ退避する。
 ニコニコしながら、手を振るUnknown。
「いやだってほら我輩褌だから大丈夫ですしいいいいいい――ってぇええええ!! 」
  ねっとりした気配に振り向いたUnknownの目に、 メックジーナの姿が映った。
 物凄い勢いで、栢とUnknownを追いかけてくる。
 全力で走っている撃退士と互角か、それ以上の速度だ。
 攻撃すら避けようともしない戦闘ニートだった頃からは、想像もつかない。
「メックジーナちゃん、なんでそんな急にやる気全開なの!?」

 一方、珠洲は、地上にいる京の元へと降り、作戦の練り直しにかかっていた。
「水で再生する以上、水に落とすのは、有効とは言えないようですね――落とすのなら、やはりあそこですか」
「はい、かなり苦心しました、うまく働くと良いのですが」
 京は、昨夜の苦労を思い出しながら頷いた。


 昨日、京は一人でこの山に来ていた。
 この湖畔から少し下った場所にある山林に深く、大きな穴を掘るためだ。
 本当は、栢も手伝いを申し出たのだが、二人で作業して、うっかり会話が弾んだりするとメックジーナが、大雨を降らすだろうので、一人で来ざるをえなかったのだ。
 体長二mと報告を受けているメックジーナ。
 しかも、ナメクジモチーフなら壁に張り付くのはたやすいだろう。
 一度、落ちたら簡単には這い上がれないような、大きさ深さにしなければならなかった。
 作業は朝に始まり、夜中まで続いた。
 夜闇の中、雅やかな着物を着た髪の長い女が、人気のない山林で黙々と穴を掘っている。 
 その姿を、仮に見た者がいたなら、一生もののトラウマになったに違いない。
 出来上がった穴に太い枝を網のようにかけ、スチロール片と土で蓋をして、落とし穴は出来上がった。
 さらに、三十キロほどの塩をゴミ袋に詰め、落とし穴直上の太枝に吊るした。
 何度か試運転をし、安定して作動するものが出来た頃には明け方になっていた。
 京がそこまでするのは
『ナメクジさんが怖くて、頭の蛇さんが全部抜けそうにょろ!』
 と、怯えていた、幼いはぐれ天魔・ニョロ子を安心させるためだ。
 単純に母性本能のなす業なら、手放しで褒められる行為なのだが、京の場合、母性本能の『母』が抜けているのではないかと疑われる言動が稀にあり、何とも評価しがたいところだった。


「問題は、どうやって落とし穴の上まで誘導するか、ですね」
「まずは、無難に私がタウントで引き付け――」
 言いかけた京の前を、栢とUnknownが物凄い勢いで駆け抜けていった。
 そのすぐ後ろを、メックジーナが凄まじい速度で追撃している。
「この子! 恐! 恐カワイイよー! アハハハハッ!」
「いやん、そのぬとぬと、今はお断りしまっすーーー!」
 二人とも、恐怖でまたテンションがおかしくなっている。
 メックジーナは、真面目に作戦会議をしていた珠洲と京を完全スルーして栢とUnknownを追っていった。
「これは」
メックジーナの行動パターンを、珠洲は若干の疲労を以て理解した。
「落とし穴に誘導するためには、またあのテンションが必要という事ですか?」
 メックジーナはテンションの高い人間、楽しそうな人間を襲う。
 その法則を、利用するしかなさそうなのである。
「だったら、ルルがやるのだーー!」
 ルルが、段ボールを手に持って、嬉しそうに手をあげた。
 
 ルルは走り出した。
 湖のあるこの台地からから、その下にある山林まで、土がむき出しになった急斜面になっている。
 段ボールをお尻に敷き、滑り降り始める。
 角度が急すぎるので、むしろ、落ちると表現した方が的確なくらいだ。
 豪雨で地滑りしているため、速度もとんでもない事になっている。
「うわっ! すごっ☆ はやいぞっ☆ こわいぞっ☆ るるるるるぅ!」
 安全装置なしの、天然ウォータースライダー。
 超速度に恐怖を通り越し、テンションが一気に限界突破するルル。
 気配に気づいたメックジーナが、栢とUnknownを追うのをやめ、標的をルルに切り替えた。
 崖をダイブし、一気にルルに追いつくメックジーナ。
「いけません、ここでルルさんが捕まってしまっては!」
「足止めですよー!」
 珠洲が雷霆の書からの光の矢、パルプンティがセルベイションから黄金の炎を飛ばし、メックジーナを牽制する。
「アハハウフフ! めっくじーと鬼ごっこぞ☆」
 京に教わっておいた落とし穴の位置を目指し、段ボールスライダーを操作するルル。
 目印のある樹の前までつくと、背の小さな翼をぴよっ、と広げ、飛翔した。
 地滑りする斜面で速度に乗っていたメックジーナは、すぐには止まれず、無人の段ボールスライダーを追いかけてゆく。
 ルルは、京が仕掛けをした木の枝まで飛ぶと、罠を仕掛けた枝を折った! 
 三十キロにも及ぶ塩を包んだポリ袋がメックジーナの頭上に落ちる!
 穴を覆う木網を破壊しつつ、メックジーナは穴の底へと落下した!
「だーいーせーこーーっ☆」
 穴の上からメックジーナを覗き込むルル。
 メックジーナは穴の底で食塩に包まれ、もがいている。
 ナメクジのようにそれだけで死にはしないが、塩が水分を奪うので、一時的に回復は阻止出来そうだった。
「今のうちに!」
 珠洲が翼を広げて穴に飛び込み、火炎放射器でメックジーナの表面粘膜を焼いた。
 形の良い珠洲の額を、汗が流れている。
 熱い上に、危険な行為だがこうしないと、粘膜で土を溶かして横穴を作り、どこかへ逃げかねないのである。
 そんな、珠洲の決死行動を見ていたルルとUnknownは、
「メックジーナの塩焼きだ☆ 味見にチャレンジぞ!」
「ナメクジって焼いたら身は……じゅるるっ」
 涎を垂らしていた。
 やがて、火炎放射器を持った珠洲が、穴から飛び出てくる。
「体表面はある程度焼きましたが、殻にこもられてしまいました」
 穴の底には、巨大なカタツムリの殻が落ちていた。
 メックジーナの緊急防御形態らしい。
「おお吾輩の予想通り、エスカルゴだ!」
「でも、ここまで来たら簡単でしょ! みんなでフルボッコモード☆」
 栢の合図と同時に撃退士たちは、思い思いの技を穴の底めがけ叩き込み始める。
 殻が、ダイヤやオリハルコンで出来ているわけでもない。
 逃げ場のない状態なら、文字通り袋叩きに出来るのだ。


「ニョロ子ちゃん、お姉ちゃんはやりましたーー!」
 羽上山の頂上。
 ニョロ子のいる久遠ヶ原島に向かって、ハイになって叫ぶ京。
 彼女が丸一日かけて造った落とし穴がなければ、かなり苦戦をしたのは疑いようもなかった。
 もう雨は降らない。
 メックジーナは、この山から完全に消滅したのだ。
「ひゃーーーっ晴れだーっ! 太陽っーだ、あちぃぃ♪ ピーカンってやべーきもちいーー!」
「お日様でぬくぬくになったビール! ぅまぁー!!」
「イエッス良い天気!! 快晴!! さぁ飯喰おう!!!」
 一部の撃退士は無理やりあげたテンションが元に戻らず、以後、数日間は奇行を続けたのだった。



依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 斡旋所職員・卯左見 栢(jb2408)
 『楽園』華茶会・草摩 京(jb9670)
重体: −
面白かった!:3人

斡旋所職員・
卯左見 栢(jb2408)

卒業 女 ナイトウォーカー
不思議な撃退士・
パルプンティ(jb2761)

大学部3年275組 女 ナイトウォーカー
弾雨の下を駆けるモノ・
山科 珠洲(jb6166)

卒業 女 アカシックレコーダー:タイプA
久遠ヶ原学園初代大食い王・
Unknown(jb7615)

卒業 男 ナイトウォーカー
もと神ぞっ・
ルル(jb7910)

小等部6年2組 男 陰陽師
『楽園』華茶会・
草摩 京(jb9670)

大学部5年144組 女 阿修羅