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マスター:スタジオI
シナリオ形態:シリーズ
難易度:非常に難しい
形態:
参加人数:6人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2014/08/15


みんなの思い出



オープニング


 久遠ヶ原島西部の体育館。
 あの学内選抜戦から半月。
 熱戦を目の当たりにして火がついたのか、アウルレスラー六闘神に挑まんとする希望者は後を絶たなかった。 
 プロレスそのものを脅かさんとする謎のレスラー集団、アウルレスラー六闘神。
 彼らに挑むに相応しい力を示すべく、リングにはこの日も三名の候補者があがっていた。
「では、この三人でバトルロイヤルをするんだな、その内容で挑戦者となるかどうか決めるんだな」
 久遠ヶ原学泉のクレヨー先生こと小暮陽一が、レフリーとして宣言しかけた時、
「私も参加させてもらおう」
 新たに一人が、リングへあがってきた。
「飛び入りかい? 構わないが、名前くらい教えてくれよう」
 クレヨー先生の言葉が止まった。
 その男の持つ浅黒い肉体は、四十代の先生にとって特別な意味を持つものだったのだ。
「私は、アウルレスラー六闘神の長・ガトリングCEO」
 人の眼を持つ百の銃口――それが描かれた不気味なマスクを被った男はそう名乗った。


「先生、拍子抜けですよ」
「対抗戦とやらを行うまでもない」
「戦争は、頭を潰せば終わりだぜ」
 六闘神の長とおぼしき男。
 その男は、すでに一人のレスラーにより、チキンウィングに極められていた。
 もう一人にはヒールホールドに極められ、三人目には喉に貫手をあてががわれている。
「じいさん、無理すんな」
「変な真似はやめると約束すれば、痛い思いしなくてすむぞ」
「俺たちが本気出せば、こんな細腕簡単に折れちまう」
 六闘神の長と名乗る男は、明らかに七十を超えている老体だった。
 若い頃は膂力に満ちていたであろう体は衰え果て、骨と皮だけになっている。
 撃退士レスラーたちにすれば、捻り潰すのは容易い存在だった。


 その時、クレヨー先生が血相を変えて叫んだ。
「離れるんだ! その老人は、ガトリング島本なんだな!」
「誰です、それ?」
「レスリング王だっけ? 大昔の」
「今は関東プロレスの社長ですよね? 要はこの騒動、自作自演だったのね」
 関東プロレスの興行中に六闘神が乱入してきたように見せかけていたが、実は社長自身が仕組んだものだったというわけだ。
 社長が口を開いた。
「その通り――私はかつて、史上最強のプロレスラーを目指した。 だが叶わぬまま、肉体は老いた。 今や、それを目指す事すら許されない」
「そりゃそうでしょ、おじいちゃん」
 からかうように言うレスラー。
「だが、アウルレスリングは違う! アウルは老いた人間にも平等に力を与えてくれる!」
 社長が光纏した。
 鶏ガラのようだった肉体が、漆黒の鋼と評された往年の超筋肉を取り戻す!
「くっ、だが!」
 すでに、腕はチキンウイング、足はヒールホールド、喉元には貫手。
 生殺与奪は、未だレスラーたちの手の中にあるはずだった。

● 
 数瞬後、激痛に気を失ったのはレスラーたちの方だった。
 社長が、三人を同時にKOしたのだ。
「なんだあれ――」
「腕があんなに、しかも自在に操った!」
 観客たちは怯えた。
 社長の全身至るから、隆々たる筋肉を持つ腕が無数に生えてきている。
「“異界の呼び手”をあんな風に使うなんて」
 本来、異界から何者かの腕を呼び出し、束縛を与えるスキル。
 それを社長は、自らの腕と全く同じ物を無数に呼び出し、自らの肉体の一部として操り、より高度なレスリング技を放つための技に昇華させたのだ。
 関節技だけではない、打撃、絞め、返し技。
 あらゆる技を、あらゆる角度に、ガトリングガンの如くに繰り出す事の出来る攻撃。
「六闘神の長が奥義、このガトリングアームズを破れるか?」


「さて諸君、私が今日、ここにお邪魔したのには二つの理由がある」
 社長は、会場にいる撃退士たちに向け、マイクアピールを始めた。
「一つはもうじき開催される、六闘神VS久遠ヶ原選抜との対抗戦のルールだ。 両陣営、六人ずつ選手を出すのは周知の通りだが、我々はこれを一試合ですませようと思う」
「一試合で?」
 レフリー姿のクレヨー先生が眉を潜めた。
「名付けて “ヘッドサーチタッグ戦”だ!」
 アウル覚醒前に力士を経て、プロレスラー経験のある先生でも聞いた事のない名前だ。
「六人 VS 六人のタッグ戦だ。 六人の中にいる相手のヘッド、つまりはリーダーを倒したチームの勝利となる。 ただし」
 社長はにやりと笑った。
「相手チームのヘッドが誰かは、互いにわからない」
「なに!?」
「つまり全力で相手の一人を潰しても、それがヘッドでなければ勝ちにはならないという事だ誰がヘッドなのか、推理、洞察する力。 また自チームのヘッドが誰かを敵に誤認させる力が試される――強者をヘッドとするのが定石だが、それだけに見破られる可能性も高い。 六闘神の長は私だが、当日、私がヘッドを務めるとは限らない」
 意地悪げな笑みを浮かべる社長。
「ヘッドは、どうやって確認するんだな?」
「マスクの裏に、ヘッドだけは王冠マークを書いておきたまえ、“敗北“したレスラーは、以後の試合から外される上、マスクをはがされる。 マスク裏にマークがあれば決着、書いていなければ試合続行だ。 マスクを付けるのが嫌な者は、ハチマキでも帽子でもいい」 
 ただし、誰もマークを書かない、悪質な方法で隠す、などの反則負けになると社長は付け加えた。
「変形版のマスク剥ぎデスマッチ?」
「マスクを剥されても敗北にはならない。 ただ、ヘッドかどうかはバレてしまうがね」
「ヘッドが、いつまでもリングにあがってこなかったら?」
「ヘッド以外を一人倒せば、倒した者は相手チームから一人を指定して、リングに引きずり出す事が出来る。 引きずり出された者は以後、五分はタッチが許されず、メインで戦わなければならない。 他は通常のタッグ戦と同じルールだ、よろしいかな?」
 先生は、そのルールを承認した。


「しかしなぜ、なんだな! 僕らのヒーローだったあんたが、なぜ悪の道へと足を踏み入れてしまったんだな」
 動揺を隠せないクレヨー先生を、社長はギロリと睨んだ。
「悪? 最強への志を持ち続ける者を、年齢などという残酷な要素で拒むプロレスこそが、私にとっての悪だ! だから、アウルレスリングでプロレスを潰すと決めた!」
「そんな!」
 最強を目指していたプロレスラー・ガトリング島本の姿に少年時代、憧れていたクレヨー先生にとって、その言葉は大きなショックだった。
 社長の横に天井から、くのいち姿の女が降り立った。
「この月光蜂、志は同じ――女と生まれた時点で、真の最強を目指せぬプロレスなど無粋。 老若男女等しく最強を目指せるアウルレスリングこそが、これからの時代を創るべし」
「待て、アウルに目覚めなかった者は、どうなるんだな!?」
 必死に反論するクレヨー先生。
「それは才能なき者、弱き者という事だ。 戦いの神から選ばれなかったに過ぎない」
 断言すると社長は、マイクに向かって叫んだ。
「久遠ヶ原のレスラーたちよ! 我々が勝利した暁には、キミ達が愛したプロレスは死を迎える! アウルも使えぬ脆弱なるプロレス! その歴史をそれでも守りたいというのなら、我々、六闘神を破ってみせるのだなあ!」


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リプレイ本文


 関東プロレス本社メインリング。
 六闘神陣営、赤コーナーから、サスカッチマンがあがった。
 対して久遠ヶ原陣営からは――
「( ゜3°)セーギのミカタ、ひょっとこ仮面参☆上!」
 ひょっとこの面で顔を隠した新崎 ふゆみ(ja8965)があがる。

 闘いのゴングが鳴った。

 ひょっとこ仮面が飛び出した。
 距離をとりつつ、サスカッチの周りを衛星のように周る。
 隙を見て接近しての薙ぎ払いエルボー!
 当てた後は、また離れて隙を伺う。
 これを繰り返している。

『クレヨー先生、この戦術は?』
 今回も解説を任せられたクレヨー先生が、実況アナに尋ねられる。
『サスカッチの、体格と関節技を活かさせないようにしているんだな』

「ふゆみはいつも、自分よりでかい相手に出くわすとどんどん闘志がわいてくるんだよっ☆ミ」
 三度目の薙ぎ払いエルボーで、サスカッチマンがうずくまった。
「スタンしたね☆(ゝω・) リングから出して、20カウント待てば終わりだよっ☆」
 動けないサスカッチに、掌打を繰り出すひょっとこ。
 直前、エプロンからチャンコマンこと阿岳 恭司(ja6451)が叫んだ。
「いかんぞ、ひょっとこ仮面! 罠だ!」
「え?」
 烈風突を繰り出した右腕。
 それはサスカッチに掴まれていた。
「動けなくなった芝居など、プロレスでは基本中の基本だ」
 右腕を極めて、ひょっとこを仰向けに寝かせ、テキサスクローバーホールドの体勢に入る。
 本家よりも恐ろしいのは、極める過程でひょっとこの両踵関節を凍結させているところだった。
 凍らされ柔軟性を失った関節を捻じられては、破壊を免れないのである。
「永久凍土地獄! シベリアクローバーホールド!」

 エプロンでフェンリルこと遠石 一千風(jb3845)が狼の雄叫びをあげる。
 彼女が救出に向かうことを察したメデューサ黒神こと、黒神 未来(jb9907が)それを静止しした。
「待て、フェンリル、カットならうちが」
「黒神に万が一起こすわけにはいかない、私なら大丈夫だ!」
 ロープを飛び越えざま宙返りをし、とび蹴りをサスカッチに浴びせるフェンリル。

「タッチだ、しばらく足を温めていろ」
「助かったよ☆、足がカチコチだぁ」
 試合権をフェンリルに譲り、ひょっとこは這うようにして青コーナーに戻った。
「今度は狼の方か、小芝居をしていたようだが、本当にお前がヘッドでないなら簡単にタッチはするまいな」

 サスカッチの言葉にフェンリルは、眉間を曇らせた。
 単なるカマかけであるとは思うが、確かに久遠ヶ原軍のヘッドはフェンリルなのである。
 つまりフェンリルが敗れれば、久遠ヶ原軍は敗北となる。
「当然!」
 フェンリルは、高速で跳躍した。
 瞬く間にサスカッチの首を正面から、蟹ばさみにする。
「全てを砕くフェンリルの牙だ」

『これは、フランケンシュタイナー!』

 太ももで、サスカッチの巨体を投げ、マットに叩き付けた!
「よし!」
 会心の技を魅せ、立ち上がろうとするフェンリル。
 だが、この時一瞬だけ、相手に背後を見せてしまう。
 技の性質上、必然的な隙だった。
「今だ!」
 マットに叩き付けられたはずのサスカッチが、フェンリルよりも早く身を翻し、彼女の右足首を掴んだ。
「しまった!」
 怪力で、フェンリルを頭上に持ち上げるサスカッチ。
 フェンリルの首を、己の首の脇に乗せる。
 両膝を両手の平で掴み、両股を強引に開かせる。
「いやっ、ダメっ」
 あまりに恥ずかしいポーズに一瞬、女性に戻ってしまうフェンリル。
 だが、持ち前のクレバーさですぐに打開策を思い出した。
 サスカッチが、そのまま天井目がけ、大きくジャンプする。
「凍て付き砕けよ! 氷結・クリスタルバスター!」
「この技の返し方は習得済み!」
 この一か月間、仲間同士の特訓で全員がこの技への対策を編み出していたのだ。
「“6”を“9”に返す!」
 空中で振り子のように、体重移動させるフェンリル。
 クリスタルバスターの原型である五所蹂躙絡は、上下対称の技。
 落下中に体勢を反転し、かける側とかけられる側を入れ替える方法が、確立されている。
 だが――。

「動かない!?」
「グハハッ! その返し方は俺も承知している! だが、貴様の体重では無理なのだよ!」
 フェンリルの主な練習相手は、麻耶や未来だった。
 彼女らとサスカッチでは、百キロ近い体重差がある。
 体重差が余りにありすぎ、振り子運動を以てしても上下が入れ替わらないのだ。
 このままでは、サスカッチが着地した瞬間、首、背骨、股が同時に砕け、フェンリルは敗北する。
 それは即ち、久遠ヶ原軍、そしてプロレスそのものの敗北を意味していた。
「あきらめるもんか!」
 必死で振り子運動を行おうとするフェンリル。
「無駄だ!」
 サスカッチの巨体は揺るがない。
 その足が、地面に着地するかに思われたその時、
「ならば、私の体重を貸そう!」
 コーナーから飛び出してきた、チャンコマンこと阿岳 恭司(ja6451)。
 彼は、逆さまになったフェンリルに体にしがみついた。
 リング下で足を治療中のひょっとこが、なぜか興奮気味に叫ぶ。 
「フェンリルの体重は六十六キロ! それにチャンコマンの体重100キロを加え! サスカッチマン、貴様の百四十七キロを上回る、百六十六キロだぁ!

 地面に着く寸前、サスカッチとフェンリルの体勢が上下入れ替わる!

『“6”が“9”に返ったぁ!』
『いや“9”じゃない』
 クレヨー先生が、高揚して叫んだ。
『これは“99”なんだな!』

 フェンリルとチャンコマン。
 両サイドから、二人がかりのバスター技!
 着地した瞬間、サスカッチの首、背骨、股に二倍、いや十倍近い衝撃がかかる。

『逆転Wクリスタルバスター!』

「ぐあぁぁ!」
 断末魔を残し、マットに沈むサスカッチ。

【六闘神軍 サスカッチマン KO】

 雪男マスクを剥ぐ。
「ヘッドマークは――なしか」
 裏側に、王冠は描かれていなかった。
 レフリーがフェンリルに尋ねる。
「一人倒したので、相手を指名する権利があるが」
 相手陣営から敗北を奪った場合、指名権が発生する。
 指名されたレスラーは五分間、タッチを受ける権利がなくなり、いかに不利な状況に陥っても戦い続けねばならない。
「待て、その前にこちらもタッチをしたい」
 平気なふりをしているが、フェンリルは継戦不可能な状態だった。 
 サスカッチに握られた膝関節が、凍っている
 久遠ヶ原軍は一戦目で早くも、ヘッドが戦闘不能という危機に陥っていた。


 部活『真久遠プロレス』の部長・與那城 麻耶(ja0250)の表情は険しい。
「あっちは一人だけど、こっちは事実上、二人分戦力が低下しているんだよね」
 関節が凍らされひょっとことフェンリルは、今日はもう戦うどころか、まともに歩けないだろうとのドクターの診断だった。
 「スカイスナイパーをまず潰すべきやと思う、カットの芽は摘んでおくべきや」

 全員がそれにうなずいた。
「ナナフシ相手なら、私がいくぉ」
 スナイパーをメインターゲットに、トレーニングしていた秋桜(jb4208)がロープを跨いだ。


 スカイスナイパーと秋桜。
 リングに対峙した時の身長差が凄まじい。
 秋桜も女性としては長身の百七十二センチあるが、スナイパーはさらに八十センチ近い上背を持っている。
 常識的に考えれば、勝負にもならない体格差だ。
「オレサマ オマエ マルカジリ」
「そういうキャラかよ!」
 額に翼模様のバンダナを巻いている以外は、野生児そのままの顔だ。
 都会的な印象の名前とのギャップがあり過ぎだった。
 秋桜は、スナイパーを見失わないように注視しながら、相手の間合いを測るべく、充分に距離をとった。
 だが――

「げふっ」
「がふっ」
「ぐふっ」

 ボコられた。
 充分、距離を開いているつもりなのに、打撃がヒットしてくるのだ。
 腕の超リーチと、打ち下ろしてくる角度の非常識さに、目測が完全に狂っているのである。
「オレサマ カリウド オマエ エモノ アワレ」
 腹を抱えて笑うスナイパー。
「なんだとー!」

 秋桜は激昂すると、
「だったら、逃げるしかないじゃん!」
 相手に背を向け、コーナーポストへと逃走し始めた。
「エモノ ニガサヌ ガッツリ クウ」

 スナイパーが、飛び蹴りを繰り出してきた。
「それを待っていたじゃん!」
 秋桜はコーナーポストを蹴り、その反動で相手の蹴りへ突進した。
 長大な相手の脚にしがみつくと、全身を錐もみ回転させる!

『秋桜! ドラゴンスクリュー!』
『うまい! 相手の蹴りを誘発させたんだな』

 足4の字をかける秋桜。
 肘関節を捻られ、痛みに呻くスナイパー。
「ウォー!」
「このままギブアップするじゃん!」
「エモノ カンダ オレサマ ゲキイタ!」
「まず、その日本語なんとかするじゃん!」
 その時、秋桜の両脇の下に、差し入ってくるものがあった。
 白い、女の腕だ。

「隠密行動を以てするのは、スナイパーだけではないわ」
 耳元で囁く声は、月光蜂である。
 秋桜の背中に密着して抱きつき、すでに月影飯綱落としの奥義体勢に入っている。
「お! 離せぉ!」
 焦る秋桜。
「その通りやね、得意な奴は他にもおる」
 もう一つの声がした瞬間、黒い閃光が月光蜂の顎に右頬に炸裂した。
 リング外まで、吹っ飛ばされる月光蜂。
 黒い閃光の主は、黒神だった。
 彼女も、潜行からのカットを得意とするタイプである。
「どや! 掟破りの逆閃光魔術・ダークウィザードの味は!」
 通常、手で撃っていたダークブロウを、膝で放つように改良したのである。
「邪魔は入らせへん! 秋桜、シメてまえ!」
「おうょ!」

 足4の字の締め上げを強める秋桜。
 スナイパーの激痛の叫びが、ますます激しくなる。
「お前も六闘神なら、自分の力で窮地を脱しなさい」
 赤コーナーから、非情とも言えるCEOの激励が届いた。
 新たな救援は、送らないという事だ。 
 これは、スナイパーがヘッドではない事を示すのか、あるいは、そう見せかけんがゆえのブラフか?
「ウォォ……オレサマ ロクトウシン ロクトウシン ゲキツヨ!」

 スナイパーが足の四の字の激痛に耐えながら両腕の力だけで、全身と絡み付いている秋桜の体を浮き上がらせた。
「なに!?」
 そのまま足を振い、秋桜を青のコーナーポストめがけ投げ飛ばす!
「おおぉ!?」
 ポストに、思い切り背中をぶつける秋桜。
「奴め、なんという怪力だ――だが」

「とても技とは呼べないよね、力づくの無茶だ」
 チャンコマンと麻耶が見通した通り、代償は大きかった。
 スナイパーは立てなくなっていた。
 立ちあがろうとはしては、ズタズタになった右足関節の痛みに耐えきれず、座り込むという動作を繰り返している。
 だが、秋桜も後頭部を強く打ちつけてしまった。
 目が妙な方向に泳いでいる、 
「ドクターに診てもらって!」
「すまんが、ここはタッチや!」
 黒神がタッチを受け、メインとなる。
「悪いけど、トドメを刺すよ」
 立ちあがろうとしているスナイパーの元に、黒神と麻耶が駆けてゆく。
 とたん、スパイパーの目が光った。
「エモノ ワナカカッタ オレ トベル」
 背にアウルの翼を広げ、空へ舞いあがるスナイパー。
 立てなくとも、戦闘可能なのだ。
 残った左脚で、麻耶に蹴りを放つ。
 身をかがめ、かいくぐる麻耶。
 その後ろから、黒神がさらに姿勢低く、スナイパーの下に潜り込む。
「脚が長すぎるのが、致命的やね!」
 スナイパーを肩車する黒神。
 そのまま、ジャパニーズオーシャンサイクロンスープレックス!
 マットに叩きつけんとする!
「トベル トベル オマエラ バカ」
 背の翼を羽ばたかせ、スープレックスで叩き付けられまいと抵抗するスナイパー。
「バカは、オマエだー」
 必死なスナイパーに、麻耶は閃光鉄拳弐式を掌打で浴びせた。
 スナイパーは、リングに倒れた。

【六闘神軍 スカイスナイパー KO】


 だが、試合は終わらない。
 スナイパーの鉢巻に、ヘッドの証は刻まれていなかったのだ。
「私が指名させてもらうよ! さぁ月光蜂……勝負!」

 リング上で、麻耶と月光蜂が対峙した。
 二人とも長い黒髪と、しなやかな肢体を持つ美女だ。
 ただ、月光蜂の方が二回り長身である。
「女性である事を理由にプロレスから逃げたあなたに! 私は! 負けない!」
 麻耶はアウルに閃く拳で掌打を放った。
 それを流麗な動作でかわす、月光蜂。
 涼しい顔で尋ねる。
「どういう意味だ?」
「ただ最強になりたいだけなら天魔と闘えばいい、プロレスはね、最強を目指してる姿で魅せなきゃダメなんだ。 老いたなら、女性に生まれたなら、それぞれの立場で最強を目指せば良いんだ。 レスラーは!そうやって輝くんだ!」
 麻耶の視線は月光蜂を通して、CEO――赤コーナーに控えているガトリング島本へも向いていた。
「それは、社長への侮辱だ!」

 月光蜂が突然、麻耶の腹めがけ鋭い右拳を放った。
「あの方は、お前のような小さな人間ではない!」
 感情の起伏が少ないはずの月光蜂が激昂し、乱打を繰り出してくる。
 鳩尾に拳を撃ちこまれ、うめく麻耶。
 麻耶が動けない間に、月光蜂はその背後に回り込んだ。
 背後から麻耶の手首を掴み、勢いよく回転させると喉元にさらなる拳を叩き付けた。

『月光蜂流のレインメーカー“虹出る日の雨”なんだな!』

 苦痛に麻耶の肌から、汗が滲む。
「それぞれの道で最強だと? 女の中で最強などという檻の中の世界で満足する時点で、貴様の志はたかが知れるわ!」
 麻耶を、飛行機投げに持ち上げる月光蜂。
「志低き者、低き地に堕ちるが良い!」
 月光蜂がデスバレーボムを繰り出さんとしたその時、麻耶は両手両足で月光蜂の両腕を極めた。
「なに!」
 そのまま、後方に倒れ込む麻耶。

『麻耶選手、十字架固めで、デスバレーボムを返した!』
『デスバレーボムは麻耶の得意技でもあるんだな、技の返し方は優れた懸け手が、一番良く知るものなんだな』

「私にだって、志あるんだよ」
 月光蜂の左腕関節を絞り上げながら、麻耶は語った。
「アウレスをデスマッチの様に試合形式の一つとして普及させたい。 老若男女もアウルの有無も問わないプロレス興行を作る。 それが私のプロレスの未来を護るという事!」
「夢物語だ!」

 苦悶の下で言い返す月光蜂だが、すでに麻耶はフォールの体勢に入っている。
「レフリー!」
 レフリーが身を伏せ、マットを叩き始める。
「1、2――」
 だが、月光蜂も諦めてはいない。
 3が宣言される直前で、力を振り絞り脱出する。
「貴様にだけは、負けん!」
 攻めぎ合いが頂点に達した瞬間だった。
 鉄球が――棘の付いた巨大な鉄球が、二人の頭上から振ってきた。
「なっ!」
 互いに封じあっていた麻耶と月光蜂は動けず、まとめて鉄球に押しつぶされた。
 鉄球――それの正体は、空を舞う三百キロの巨漢・メタルギャングの腹だった。
 球形の腹には、ナイフや釘などの金属物が無数に貼りつき、凶悪な様相を呈していた。
 彼が立ちあがると、腹の下には、血まみれになり、動けなくなった二人の女性レスラーが倒れていた。
「どうだぁ! 俺のヘルズヘッジホッグの威力は! 二人纏めてKOだぜぇ!」

【六闘神軍 月光蜂 KO】
【久遠ヶ原軍 與那城 麻耶 KO】

「二人KO、ドヤァ――ってアホか! 一人はお前の味方やちゅうねん!」
 怒りのあまり、ツッコミまくる黒神。
 麻耶と月光蜂が、担架で医務室へ運ばれてゆく。
「勝つためには味方すら犠牲にするという事か

 チャンコマンが唸った。


 レフリーが試合続行を宣言した。
 医務室に運ばれた二人の鉢巻に、ヘッドの証が無い事が確認されたのである。
「さぁて、指名権は俺だな」

 青コーナーのリング下を舐めるように見るギャング。
 そこでは、ひょっとこ仮面、フェンリル、秋桜の三人が治療を受けている。
 サディスティックな性格丸出しの目。
 弱っているものを優先して潰すつもりらしい。
「決めた! ひょっとこお前が来い!」

 仮面の下で、ひょっとこの素顔が青ざめる。
 くるぶしを侵した氷は未だ溶けていない。
 足が、殺されている状態――。
 超重量破壊力タイプと戦うには、最悪のコンディションだった。
「( ゜3°)<みんな地獄であおうぜ★」
 別れの言葉を言うひょっとこ。
 ☆でなく★なのが、悲壮な決意を現している。
 そのひょっとこの背中を、チャンコマンがポンと叩く。
「安心しろ! チャンコマンがついているぞ!」


「エロい体してんなぁ」
 レオタードに包まれたひょっとこの肉体を、上から下まで眺めまわすギャング。
「顔見せろ、顔次第では俺の女にしてやるよ」

「お断りだよっ★」
 仮面を抑えるひょっとこ。
 恋人がいるとかいないとか、そういう次元を超越して“コイツ、無理”なのである。
「ブサイクなのかぁ? なら力づくで御開帳してやるよ!」
 ギャングが磁力掌を発動させた。
 腹に貼り付いていた釘やナイフが、掌へと移動を開始する。
 デスメタルフィンガー!
 やすりと化した掌で、相手のマスクを削り取る秘技。
 ひょっとこの仮面を、これで削ってしまうつもりなのだ。
 ひょっとこは、逃げたくても凍傷に足は動かず、ルール上、タッチも許されない!
 だが、その時!
「おっとと、凄い磁力だ」
 青コーナーにいたチャンコマンが、物凄い勢いで飛び出してきた。
 ひょっとこの前を遮り、ギャングに組み付く。
「なんという事だ、正義の味方はコーナーで見守っているべき時なのに、キミの磁力に引き付けられてしまった!

「どけ、ずんどう鍋! 今はひょっとこ娘と、俺の闘いだ!」
「私のマスクは金属だから不可抗力なのだよ! うわー! 引きつけられる!」
 エイエイと、相手の顎にヘッドバッドするチャンコマン。
「やめろ! 反則だろ!」 
 本当は磁力に反応しない素材なのだが、なりふり構っていられない。
「金属なら仕方がないな」
 レフリーも認めてしまう。
 元々、ナイフや釘を会場に仕込んでおきながら凶器でなく体の一部だと言い張るギャングの態度に疑問を抱いていたらしい。
「それがいいなら、どんどんやるじゃん!」
 リング外から、パイプ椅子が飛んできた。
 脳波検査中だった秋桜が、強い磁力で検査機材が動かなくなったのをいいとこに、調子に乗って凶器攻撃を始めたのだ。
「いて、いてっ! そんなデカい物、俺の磁力じゃつかねえぞ!」
 頭にパイプ椅子を投げつけられ、抗議するギャング。
 その腹の下に、いつのまにかひょっとこの顔があった。
「真ん丸お腹だね、よく転がりそうだよっ!」
 ひょっとこはゼロ距離からの烈風突きを放った!
「うぉわあ!?」
 玉ころがしの玉と化して、ごろごろ転がってゆくギャング。
 巨体が轟音を立てて、リング外に落ちる。
「( ゜3°)<ふっ そこで寝ているんだよっ!」


「寝てろだ? 冗談じゃねえ!

 ギャングは、顔を屈辱に歪めた。
「よく考えりゃ、ヘルズヘッジホッグでドカンと一発爆撃すりゃ、青コーナーは血の池地獄だよな」
 ひょっとこも、フェンリルも、秋桜もまともに動ける状態ではない。
 超巨体の爆撃が振ってくれば、全滅しかねないのは事実だった。
「あかん、ねんねするんや!」
 リング下から立ちあがろうとする、ギャングの背中に黒神が組み付いた。

『黒神! 石化固め(ペドリファイロック)』 

「てめぇ、タッチもしてねえのに、こりゃ完全に反則だろ!」
「うちだってこの闘いを反則で汚したくなんかないわ! けどここでお前を封じなきゃ、皆が血に汚れてまう!

 黒神は、反則負け覚悟で場外石化固めを敢行したのだ。
「お前はフィジカルでは超怪物や、弱い精神力を攻める他あらへん!」
「ち、ちくしょう……」
 氷の夜想曲の力により、瞼を閉じるギャング。
 場外負けに導いた黒神だったが、レフリーも久遠ヶ原軍の味方というわけではない。

【六闘神軍 メタルギャング 場外負け】
【久遠ヶ原軍 メデューサ黒神 反則負け】

 そして、リング上でも――。
「た、立ったままKOされている」
 元々、まともに歩けない状態だったひょっとこ。
 烈風突きは、死活を発動させた、最後の一撃だった――
【久遠ヶ原軍 ひょっとこ仮面 レフリーストップ】


「同時に三人が敗北――なら人数の差で、指名権はこちらにあるわね」
 バンダナを頭に巻いた巨大な老婆・プロミネンスグランマがリングにあがった。
「私の指名は――フェンリル、お前よ!?」
「!?」
 ひょっとこ同様、まともに歩けない、さらにはヘッドであるフェンリルを的確に指名してきた。
「ほほほっ、やはりね。 こちらに指名権が移ると、皆が不安げに、お前の顔を見るの。 ヘッドである事は明らかだわ」


 肥満体で老体のグランマは、動きが鈍い。
 本来その弱点を突いて戦うべき相手だったが、膝を凍結されていては、いかんともし難い。
 あっさりと相手の裸絞めに捕らわれてしまった。
「フフフッ、グランマの、肉のベッドは熱いよぉ

 脂肪を燃焼させるグランマ。
 全身が炎の塊となる!
「ゆっくり、お眠り!」
 だが、同時にフェンリルも死活を発動させた。
「眠るもんか!」
「小娘のやせ我慢ね、時間稼ぎにしかならないわ!」
「それはどうかな?」
 死活で痛みを感じないのは、ほんの数秒。
 だが、脂肪を高速燃焼させているグランマ相手にはそれで充分だった。
 燃えた脂肪は融け、なくなる。
 そこに出来た空間を利用し、フェンリルは裸絞めから脱け出した!
 死活の時間は残り数秒。
 フェンリルは、最後の牙を剥いた。
 死活により痛みを感じない脚で、跳躍する。
「秋桜!」
「ぉう!」
 跳躍したフェンリルを、闇の翼を生やした秋桜が突き上げ、さらに天井高くへ舞いあげる。
 位置エネルギーを最大に高め、撃ちこむICBMミサイル!

『必殺ツープラントン! 雷打ミサイルキック炸裂ぅ!』

 火の玉と化したグランマが、場外へとふっとぶ。
「やったぉ!」
「だが無茶をした。 これで奴がヘッドでなければ私たちの――

 死活で耐えていたものの、火炎による大ダメージを受けたフェンリルは、その場に崩れた。
 ヘッドがKOされれば負け、それが大前提だった。
「ヘッドが同時KOだったらどうなるんだ、この試合?

 観客たちの中から疑問の声が走る。
 レフリーが手を掲げた。
 グランマのバンダナにも、ヘッドの証が、描かれていたのである。

【六闘神軍ヘッド プロミネンスグランマ KO】
【久遠ヶ原軍ヘッド フェンリル KO】


「引き分け? 不本意だな、ここは完全決着といかんかね、チャンコマンくん?」
「望むところだ、俺が闘いたいのはアンタだ! ガトリングCEO!」

 両雄はためらいもなくリングにあがった。
 対峙する二人のレスラー。
「俺だって元プロレスラーだ、あんたの気持ちも少しはわかる。 アウルに目覚めた以上、どんなにプロレスがやりたくても世間はそれを認めちゃくれない。  正直、最初はプロレス自体を恨んだ事もあった。 あんたみたいにプロレスをぶっ壊そうと思った事もあったさ。  だが常人が真似出来ないアウル技で相手を痛めつけるアウレスは、俺が求めたプロレスじゃない! 己の肉体だけで皆を湧かせ笑顔にする、それが俺の追い求め続けるプロレスだ!  そんなプロレスが出来なくなる位なら俺は……アウルレスラーになんざなりたかないぜ!」
 真摯な目で語るチャンコマンだが、CEOはそれをニタニタとした笑顔でしか受け止めない。
「その言葉を私に認めさせる方法が一つしかない事を、わかっているんじゃないのかね?」
「残念だが、そのようだな」
 地獄突きを繰り出すチャンコマン。
 だが、CEOの一本目の腕がそれを受け止める。 
 二本目の腕がチャンコマンを手繰り寄せると、三本目、四本目、五本目、六本目の腕がチャンコマンの背中に容赦ない掌打を浴びせた。

『ガトリングゴルベ炸裂ぅー!』

 あらゆる角度からの乱打に耐えきれず、声もなく倒れるチャンコマン。
 CEOは倒れたチャンコマンには目もくれず、青コーナーに向かった。


「ようやく体が温まった。 次は誰が来るかな? キミでも構わんぞ、メデューサ黒神」
 すでに出場権を失っている黒神に、嘲笑を投げかける。
 一人で久遠ヶ原軍、全員を潰すつもりなのだ。
「あんたには言いたいことがぎょうさんあるで!」

 黒神は叫んだ。
「うちはプロレスはあきらめない事やと思うねん!  全てを捧げたって老いを理由にあきらめた時点でもうプロレスラーやない!」

 黒神の澄んだ情念を、CEOは老練に受け流した。
「若いな――成長と前進しか、知らぬものの発言だ。」
「なに!?」
「キミらは知らぬのだ! 長年かけて積み上げてきた力が、技が、醜く崩れ去ってゆく哀しみを――崩れゆくものを阻止しようと必死になって抗って、それでなお崩れてしまう、あの絶望を――!」
 裏返った声で叫びつつ、CEOの背面の腕が動いた。
 傷つきながらも立ちあがり、後ろから掴みかかってきたチャンコマン。
 その肩口を、まるで見えているかのように掴まえたのだ。
 そして、その体勢から首を蟹ばさみし、首の周りを高速回転した。
 遠心力で首を捻じ曲げつつ、脚力で放り投げる!

『竜巻十字固め! ラ・ミスティカ!』
『何と妖しく! 何と美しく! 何と絶望的な技!』

 チャンコマンの頭が、その投げの威力でマットに埋まっている。
「この試合を経てわかった。 キミ達は私が最強の座に就く妨げになる! ここで全員、完膚なきまでに叩き潰す!」
「何でそこまで最強にこだわるんだぉ! いい年したジッチャンが!」
 秋桜の問いにCEOは、全身を高揚感に震わせながら答えた。
「女にはわかるまい――男にとって最強を求める事は本能なのだ! 欲しいのだよ! 食物よりも! 金銭よりも! 愛情よりも! 生命よりも! 最強の二文字が!

 その目には、狂気が浮かんでいた。
 妄執に取りつかれた老人が、それを叶えうる肉体を得てリングに立っていた。
「あんたもう最強やないのか!? 今一番、強いレスラーと言われたベルセルク野口。 それを簡単に破ったサスカッチマンより、遥かに強いやないか!」
「野口もサスカッチも問題にならない、私にとって最強とは、現在過去未来、世界に存在した、存在しうるレスラー全てを超える事!」
 あまりにも壮大な望みに絶句するレスラーたち。
「あんたおかしいぜ――」
 チャンコマンが、マットにうずまった寸胴鍋マスクを引き抜き、ヨロヨロと立ちあがりながら言った。
「古代オリンピア以前から、無数のレスラーが血と汗で築いてきた歴史の道の上にアンタや俺たちは立っているんじゃないか、それを超える事なんて出来やしない」
 チャンコマンの言葉に、ひょっとこが倒れたまま頷いた。
「( ゜3°)オジサンが若い時、オジサンに道を譲ってくれた人がいたはずなのに……
オジサンはそゆことしないんだねっ、わがままで自分勝手だねっ☆」
 チャンコマンや黒神、退場した麻耶の言葉に比べれば、遥かに軽い一言だった。
 だが、ひょっとこの言葉の直後、CEOの両目が、錯乱したかのように眼窩の中を激しく回転し始めた。
 小さな一言が、細い針のように心の急所を突いたのだ。
「道を譲った? 違う、譲られていない!

「?」
「逃げた! 師匠は逃げたんだ! だから、私はなれなかった――師匠は譲らない、私の願いなど何も叶えてくれない!


『師匠? 一体、何の事でしょう?』
 アナに尋ねられ、クレヨー先生は頷いた。
『ガトリング島本の師匠は、あの力龍王なんだな』
『戦後、街頭テレビのスタァだったという?』
『力龍王に若き日の島本は、しごかれたらしいんだな、毎日毎日、体が動かなくなるまで――それは弟子を強くするためというよりも、歪んだ心からのうさばらしだったらしいんだな。 それでも島本は耐え続けたんだな。 いつか師匠から、最強の座を奪うために』
『しかし、力龍王は確か』
『全盛期のまま死んでしまったんだな、酒に酔って河に溺れて――だから島本は、当時最強を名乗っていた師匠を超えられぬという呪いの中、あくまでそれを求め続けて、生きてきたんだ』

「師匠――ああ、手が、足が動かない! もう、もう許して下さい! 本当に体が動かないんですーーっ!」
 CEOは体を丸め、服従を誓うかのように額をマットにつけた。
 七十を超えた老人の心が、少年時代のそれに戻っていた。
「憐れな男よ――だが、敬意に値する!」

 チャンコマンの全身から光が吹き上がった。
「俺の、全力以上の力をぶつけるぜ!」
 チャンコ・インパクト――体の底に秘められたアウルの底を解放したのだ。
 圧倒的に向上した力でCEOにショルダーアックをかけ、空へと打ち上げる。
 空中で相手を掴むとローラーの如く縦回転しながら、相手の脳天をマットに撃ちこんだ。

『チャンコ・インパクト回転式パワーボムだーーっ』

 CEOの体に生えた六本の腕。
 それは、一つとして動かなかった。
 己の中に生き続ける、最強の師に恐怖し、萎縮したように震えていた。
 マットに深く突き刺さるCEO。

 終了のゴングが高らかに響いた。


「全部演出じゃないかと思っていたよ、アウレスを認知させる為のイベントみたいな」
 その夜、麻耶は自分が担架で運ばれた後の話をベッドで聞いた。
「本物っちゃね、劣等感、老いてからのアウル覚醒による歪んだ選民意識、いろんなものが生んだ本物の怪物だったちゃ」

「おっそろしいおっさんだったぉ、でも、約束通り引退宣言したからもう安心じゃん」
 秋桜の言葉に恭司は横に首を振った。
「プロレスラーの引退宣言ほど、アテにならんものはなかよ! 奴は本物のレスラー! きっとまたリングにあがってくるばい!」
 コンロで煮立っている寸胴鍋を、どっかとテーブルに置く。
「その日に備えて、力付けんと! 今から皆で鍋パーティーじゃー!」


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: チャンコマン・阿岳 恭司(ja6451)
 ひょっとこ仮面参上☆ミ・新崎 ふゆみ(ja8965)
重体: −
面白かった!:5人

バカとゲームと・
與那城 麻耶(ja0250)

大学部3年2組 女 鬼道忍軍
チャンコマン・
阿岳 恭司(ja6451)

卒業 男 阿修羅
ひょっとこ仮面参上☆ミ・
新崎 ふゆみ(ja8965)

大学部2年141組 女 阿修羅
絶望を踏み越えしもの・
遠石 一千風(jb3845)

大学部2年2組 女 阿修羅
エロ動画(未遂)・
秋桜(jb4208)

大学部7年105組 女 ナイトウォーカー
とくと御覧よDカップ・
黒神 未来(jb9907)

大学部4年234組 女 ナイトウォーカー