●
十九時、久遠ヶ原の学園有志が放送している島内TVに映ったのは、三段腹を波打たせながら、マイクを握っているどすこい男だった。
『今夜決定! 宝狩イメージキャラ選考会』というテロップが映し出される。
「インタビュアーの『クレヨー先生』こと、小暮 陽一だよー、久遠ヶ原島内のみなさん、宜しくしてくれよー」
「四ノ宮 椿なのだわ! 生放送と聞いてドレスアップしてきてみれば、カメラマン役なのだわ(涙)」
この日、椿は終始画面に映れなかった。
●
学園の校門前に現れたのは黒縁眼鏡の少年・袋井 雅人(
jb1469)だった。
「さて、雅人くんの欲しい宝は何か、教えてくれよう」
マイクを突き付けるクレヨー先生。
「私はこの人生で心の奥底から捜し求めている大切なお宝はズバリ『恋人』なのですよー!」
「あら、巨乳の恋人さんは? 今日は姿が見当たらないけど、喧嘩でもした?」
雅人は、余裕に満ちた顔を横に振った。
「私は苦難の旅路を経て最高の『恋人』を手に入れたので、今追い求めている最高のお宝は自分と『恋人』が深く愛し合った証にして愛の結晶の我が子です!」
ドヤ顔をカメラに付きつける雅人
「いつになるかは分かりませんが『恋人』とこのまま添い遂げて結婚、その幸せな生活の中で必ずや『我が子』を見つけて見せますよ! 」
この男、生放送で堂々と子造り宣言したのだ
「雅人くん、この放送が終わったら、生徒指導室に来てくれよう」
「共感109 反感1089 合計-980! のっけからひどい!」
「コメントが来ているのだわ『お前のせいでお茶の間が妙な雰囲気になった』『リア充爆発しろ』」
「す、すみませーん!」
●
竜見彩華(
jb4626)は海の深みにも似た髪を持つ、ちびぽちゃ体型の少女だった。
「私の欲しい宝物は、もう手に入っているとも言えますし、まだ全然届かないものでもあります」
バハムートテイマーの彩華は召喚獣を全員召喚しカメラの前に並べた。
「私がこの学園で手に入れたもの。それは……仲間です。最初に仲間になってくれたのはこの子でした。 私が弱いとこの子たちも力を発揮できない。 一緒に頑張るんだって思って必死に努力しましたし、それは無駄じゃなかったと思います ……でもやっぱり1人で頑張るのには限界はありました」
彩華は、遠い目をしながら一匹の召喚獣を撫でた。
「先生や先輩や友達、依頼で戦う度、色んな人の力に助けて貰いました。 だから私、一人で戦ってる人がいたら手を差し伸べたいと思います。今は知り合いじゃなくても、もしかしたら敵対していても、仲間になれるかも知れない。そういう人たちが私の欲しい宝物です」
「雅人くんに汚された番組の雰囲気が、一気に浄化されたのだわ」
「本当すみません」
まだペコペコしている雅人。
「いいから、生徒指導室で正座して待っているんだな!」
「彩華ちゃんは共感 840 反感 0 合計 840だね。 いい流れになったとこで次いくよー」
●
画面に現れたのは、真紅の髪と金色の瞳の男・ヤナギ・エリューナク(
ja0006)だった。
「そだな、カノジョ…もとい、やっぱ俺は『音楽』だな。 それも歌、インスト、ジャンルも関係無く、色んな音楽、だ」
服装で等しくバンドマンらしい答えである。
「理由は何か、教えてくれよう」
「魂が求めてるから。…じゃ、ダメなんだろな、きっと。 ま、一曲聴いてくれや」
何処からか、愛用のベースを取出しリズムと共に、メロディラインを熟していく。それは妖艶で絡み付くような……それでいて、何処か心を揺さぶるような響きだった。
奏で終えると、ヤナギはカメラに向け、涼しげな視線を向けた。
「とりあえず、俺が培ってきた技術や感情、全て込めてみた。 だけど…まだ足りねェ。俺が欲張りなのかもしれねーケド。 それでも…まだ『音楽』が欲しい」
切なげな表情で言ってから、一転、人懐っこそうな笑顔を浮かべる。
「勿論、カノジョもだケドな」
「己の中にある、より高みにある音楽がヤナギさんの宝って事かな? 熱いねえ羨ましいねえ」
「集計結果が出たのだわ、共感864 反感102 合計762P」
「反感のコメントは『お前みたいなイケメンが彼女募集とか言ってんじゃねえよ、オラァ!』的なものだね」
「ヤナギさんに彼女がいない理由が、よくわからないのだわ」
●
「私が欲しい宝は、唯一無二の愛ね」
そう答えたのは、見目麗しい金髪の少女・アルベルト・レベッカ・ベッカー(
jb9518)だった。
「私の想いを受け止めてくれて、なおかつ私を心から大切に想ってくれる人……そんな人から貰う唯一無二の愛。それが今一番欲しい宝よ」
レベッカは何かを思いついたかのようにポンと掌を叩いた。
「あ、せっかくだから女装と男装両方お見せしようかしら。 最後に少し時間をもらって男装に着替えてくるわね」
画面の外に外れるレベッカ。
再び、カメラに映ったのはショートカットのイケメンだった。
「俺は性別種族問わずに愛を求めてる。 俺の事が少しでも気になったら、ぜひ俺の歌を聴きに来てほしいな」
「共感860 反感140 合計620Pだね! ちなみに反感側のコメントとして『男の娘の生着替えを移さんかい! 気が利かねえアラサーカメラマンが!』ってのが来ているよ。 レベッカさんより、椿ちゃんへの反感だね!」
●
新撰組を思わせる和服姿の美青年が画面に現れた。
「宝探しというのは、探している瞬間や皆でどんな宝かを予想するのが一番楽しいと思う」
そう語るのは鳳 静矢(
ja3856)である。
「確かに貴重品や莫大な金銭は魅力的だ。だが、それを仲間と共に探す中で培う思い出や絆は、それと同等かそれ以上に大きいと思う」
カメラをしっかり正面から見据え、微笑みかけるような表情で静矢は語った。
「物質的な宝は人によって価値に差があるが、自分の想いや絆は皆それぞれに価値ある物だ、それこそが、何よりの宝ではないかなと思うな」
「静矢さん、あざといのだわ! 綺麗な事を言いつつ、先生相手に挑発を使用して、注目効果を得ていたのだわ!」
「集計結果は共感878 反感2 合計876P あざとい行為に関する批判はほとんどなかったみたいだね」
「あざといあざとい言わんで欲しいんだが」
●
和服系が続く。
今度は、淡い橙色の巫女衣装を纏った女性・草摩 京(
jb9670)だ。
「欲しい宝……私なら『遊園地の貸し切り券』でしょうか? 私だって、たまには息抜きもしたくはなります。 お友達を誘って遊園地を独占するのもいいのですけれど……。 営業側的には外道かもしれませんが、バレンタインデーやクリスマスに貸し切ってその遊園地を撃退士全員に解放してイベントをやりたいですねぇ」
京は艶やかな黒髪が風に揺れた。
「カップルや恋人未満同士、恋人探しの方やはたまた友人への贈り物としてチョコ争奪戦や聖夜のプレゼント争奪戦を 勿論、浮ついた方達に天誅という剛毅な方達も参戦可です。 ゲットしたものを死守し、愛であれ、友情であれ、贈り物とする。 障害を越え、苦労して入手したならば、思い出深いものになるでしょう。 うふふ、私は全力で競うのが好きなだけですが」
圧倒的な反応が返ってきた。
「凄い! 共感1698 反感68 合計1566P!」
「単なる願望じゃなく、具体的ビジョンだったからね」
「今、京さんが語ったイベントに参加したいってコメントが大多数なのだわ、反感のコメントとしては『どうせ、ドタバタのあげく遊園地爆破するんだろ』って意味なのだわ」
「爆発オチは定番だから仕方ないね」
「今のところ京さんがトップ! これを超える人が出てくるか見物なのだわ!」
●
「幽さん始めるから、スタンバイしてくれよう」
「ひ、ひゃい!?」
もったりした印象の青年・南 幽(
jb9908)は裏返った声で返事をした。
「幽さん落ち着いて、メモを見ながらゆっくり話して構わないのだわ!」
「えっと、僕は、ずっと『居場所』……が、欲しかったです」
表情が硬い、謝罪会見でもしているようだ。
「でもこの学校に来て、友達や家族が出来て……『居場所』が、出来て……」
つっかえつっかえではあるが、ようやく声が大きくなってきた。
「だから今度は皆と『思い出』を作っていきたいです。それが僕の欲しい宝物、です」
話している最中に落ち着いて来てメモを見ずに言い通せた。
カメラから消える一瞬前、幽は笑顔を浮かべていた。
「共感878 反感6 合計872P」
「不器用ながら、一生懸命にやっている姿が好感を持たれたみたいだね」
●
幽とは対照的に、堂々とした態度で登場したのが、金髪に赤いカチューシャの少女・長谷川アレクサンドラみずほ(
jb4139)だった。
「わたくしの欲しい宝ですか…実はわたくし、その宝はすでに手に入れておりますわ、でもわたくしは欲張りなのでもっと欲しくなるのですけど」
みずほは陶磁器のカップから紅茶を飲みながら、笑みを浮かべた。
「わたくしの宝、それは対戦相手ですわ。 いくら久遠ヶ原が大きくとも、撃退士でボクシングをやっていて女性でわたくしと同じ階級、となるとかなり限られて来てしまいますわ 。 だから様々な方にお声掛けしているのですけどね 」
肩をすくめるみずほ。
「どんな沢山のお金や美しい宝石より、互いに高め合える良きライバル、そして心ごとぶつかりあえる友、これこそ一番の宝物だと思いますわよ。 きっとこの宝狩で本当に得られるものはそんな出会いだと思いますわ……ご期待に沿えなかったかしら?」
「いえいえ、充分、ご期待に添えていただいたのだわ」
「総投票数も多いね! 共感1411 反感 204 合計1207P!」
「共感はほとんど男性なのだわね 『みずほ様のサンドバックになりたい!』『みずほ様の右ストレートで男の大切な部分を破壊されたい、再起不能になって一生後悔したい』 ……変なのばかりなのだわ」
「反感の方は、年配女性が多いね。 『女の子がボクシングなんかやめとき! 顔に傷が残ったら嫁の貰い手がなくなるで!』だって」
「これは女子ボクシングに対する理解を、広めていかねばなりませんね」
●
金髪ハーフの次に出てきたのは黒髪黒目の典型的な日本人女性田村 ケイ(
ja0582)だった。
だが、様子がおかしい。
「こんにちは皆の衆!戦場に銃弾と癒しをばら撒く自称マスコットのタムラビマミーもふよー♪ あ、中の人などいないもふー」
手に盛った包帯でお洒落した兎がぴょんこぴょんことした。
「それで、確かタムラビちゃんが欲しい宝を語ればいいもふね? 私はズバリ、金塊が欲しいもふ……今俗物と思った奴は新月の夜に気をつけろもふ。 お金より、財力より大切なものは沢山ある、それは確かにそうもふよ。 しかし何かを成そうとするならやはり資金は必要不可欠。 絆を築く、鍛錬する、その他諸々大事な事は数あれど、その殆どが己が頑張るべきものもふ。 お宝なんていきなり降って湧いたよく分からんモノなら、一番汎用性高く有効活用しやすい金塊がいい…それだけの話もふ。 以上!」
ケイはベンチで眠りこけてしまった。
「ケイさんって、格好よく煙草吸っていてクールな印象だったけど」
「お酒と煙草で、こうまで人格が変わるんだねー」
「共感811 反感 4 合計807P」
「『意外な一面を見た』『ケイさんカワユス』 意外と好感触なのだわ」
「酔いが醒めた時の反応が楽しみだね」
●
若菜 白兎(
ja2109)の事を天使と形容する人もいる。
実際に半分天使の血を引いている、六歳ほどの少女である。
「美味しいお菓子……はお宝とは違いますし……あ、温泉が良いの」
「理由を教えてくれよう」
「お父さんもお母さんも、温泉好き、なの。 皆でゆったり、ぽかぽか気持ち良いね……って。 お父さんとお母さんに、温泉旅行をプレゼント……できたら良いなって思ったの。 商店街の福引……一等賞、温泉旅行二泊三日、ペアでご招待……とか言ってる、あれ。」
「白兎ちゃんは、ご両親と生活しているの?」
ロップイヤーを思わせる白い髪がフルフルと横に揺れた。
「学園に来てから、あんまり会えなくなっちゃったですから、もし、この島にある温泉旅館の招待券1年分、とかだったらいっぱいいっぱい会えるように……なったら嬉しいなって思ったの」
「白兎ちゃん、まだ小っちゃいのに、一人で生きているのだわ」
「それなのに荒みもせず、こんなにけなげで……泣かせないでくれよう」
「しかも、もうすぐレベル三十なのだわ!」
「どれだけ過酷な子供時代なんだよう! 親御さんと幸せに暮らして欲しいよう!」
ちなみに、共感1211 反感 0 合計1211Pだった。
●
続いても小学生。
十歳くらいに見える金髪ツインテールの少女だった。
「わらわの欲する宝、それは美酒じゃ。わらわのような天使すら魅了し、堕天を決意させる酒ぞ。 天界にいた頃はソーマなんぞも飲んだが、人間が作る酒の方が良い。何故なら職人の情熱と愛、そして幸運が作り出す芸術じゃからじゃ! いい素材が取れるか、職人がどれほどの愛を込めているか。 そして幸運恵まれ、熟成されていく。まさにそれは至宝ぞ!お主らも貴腐ワインというのをああるじゃろう? あれは腐り、ビネガーなんぞにならず、超長期熟成を経て生まれるものぞ。 わらわは欲する。 酒を。 至高の、究極の、酒精を求む!工業的に作られる安物はお断りじゃ!」
酒へのあくなき情熱と狂おしいほどの愛を語って見せるクラウディア フレイム(
jb2621)。
クレヨー先生が、額に汗を染みださせて叫んだ。
「クラウディアちゃん! 背中の翼広げてみせて!」
「ん? こうか?」
堕天使の証である翼を展開してみせる。
「ご、ご視聴者の皆様、ご覧の通り、クラウディアちゃんは天使で年齢的には百歳を越えております! 誤解しないでくれよう!」
ぜえぜえ息を吐くクレヨー先生。
早くも放送局に『今の久遠ヶ原では未成年に飲酒をさせてんのか!』という苦情が殺到しているらしい。
「共感 419 反感916 合計-497 放置していたら、雅人くんを越えていたのだわ」
「放送中止になるとこだった、勘弁してくれよう」
クラウディアは幼げな眼パチクリさせた。
「何を慌てておるのじゃ、さっぱりわからん」
●
「え〜と、予定では次は……」
「パンダに変更!」
「え?」
「ささくれ立った視聴者様の心を、パンダで和らげるんだよう!」
横から、ジャイアントパンダがのそのそ歩み出てきた。
「なるほど、笹だけにだね?」
正確には、着ぐるみを纏い、学園内を闊歩する奇人・下妻笹緒(
ja0544)なのだが、どう見てもパンダにしか見えない。
「では、欲しい宝を語る」
パンダは、仰向けになって公園に落ちていた古タイヤを四肢で回しながら、実に偉そうな口調で語り始めた。
「宝とは、金で買えるようなものだろうか。断じて否。 目が眩むような金銀宝石で彩られた宝飾品であれ、そこには浪曼が無い。 宝とは、友情や冒険そのものといったものだろうか。 断じて否。 己が手にしっかりと掴み取ることができなくて、何が宝か。 宝とは、伝説の武具や兵器のことだろうか。断じて否。 全てを乗り越えた先の終着点にあるのが宝。これ以上戦う力など不要」
タイヤと戯れつつ、パンダは天高らかに叫んだ。
「故に、宝は、ジャイアントパンダの赤ちゃん! これしかないと自信をもって宣言しよう。
イメージしたまえ、宝箱の蓋を開けたら、白黒ころころが鎮座している姿を。 つぶらな瞳でこちらを見上げるその姿を。 嗚呼、これを宝と呼ばずして何を宝と言えば良いのだろうか!」
「共感719 反感616 合計103。 共感は『パンダ、エラそうでおもろい』 反感は『パンダは絶滅危惧種、いますぐ保護して!』って意見がコメントが多いね。
「本物じゃないだわ……」
●
「遅いですよ〜、待っている間にショーツが脱げちゃいました〜」
足元にずりおちているショーツを履きなおす悪魔っ娘・パルプンティ(
jb2761)
「どういう状況なのだわ……」
「え〜、欲しいお宝ですか〜?」
ゴソゴソと鞄から紙を取り出す悪魔っ娘。
「前にこのクイズが解けたら、答えの宝をくれるって言われたですよーぅ。 でも私にはチンプンカンプン。 悔しいのでー、この答えの宝が欲しいです」
ズッギャギャーンと広げた紙には狸の絵と『の』と宝箱の絵が描かれている。
悪戯っぽくウインクして見せる椿。
「これ知ってる、もし三分以内に解けたら、お姉さんこの場で、その宝をあげちゃってもいいのだわよ、ヒントはね、『タヌキのタカラ』」
「本当ですか〜? 頑張って考えちゃいます!」
三分経過。
結局解けなかった。
その間、ショーツは、七回落ちた。
「うう、お宝欲しかったです〜」
「落ち込む事ないのだわ、『タカラ』から『タ』を抜き取って『●カラ』、つまり「空っぽ』の意味なの、つまり正解しても何にも無しっていうイタズラクイズなのだわね」
「あー、なるほど♪」
パルプンティはスッキリニコニコした顔で、勝手に帰ってしまった。
「共感417 反感418 合計-1」
「なんか反感多いのだわ!?」
「小さい子がいるご家庭から『ウチの子がパンツを脱いでは降ろすを、やめなくなりました、どうにかして下さい!』ってお叱りがきまくっているんだな」
「変なブームが起きてしまったのだわ」
●
「うんと、あたいが一番欲しいのは……」
青い髪の元気娘・雪室 チルル(
ja0220)が、珍しく熟考している様子だった。
「みんなの笑顔、かな」
チルル自身が笑顔を閃かせた。
「誕生日とかお給料とか宝くじ当てたりとか、みんな幸せになると笑顔になるだろ?
笑顔ってのは、幸せの証拠なんだ。 あたいたち撃退士が、みんなを笑顔にするってのは、悪い天魔にみんなの笑顔が消されない世の中を作るって事だと思うんだ。 だからあたいは、みんなの笑顔のために日々、悪い天魔をボコっているのさ!」
カメラの前で腕を組み、ドヤ顔するチルル。
「共感914 反感0 合計914 反感なしなんだな!」
「チルルちゃんが、こんなに深くものを考えているだなんて、意外だったのだわ」
チルルが顔を真っ赤にして椿に食ってかかった、
「なんだオバサン! あたいの事、バカだと思ってんだろ! すっごい賢いんだぞ!」
「私の事、おばさんだと思っているのだわ! 脱いだらすっごい若いのだわ!」
「歳が半分の子と同レベルで争うのはやめてくれよう」
●
淡い金色の髪と、赤い瞳を持つ繊細な美少女・淡雪(
jb9211)の口調は、視聴者たちの意表を突くものだった。
「拙者が欲しいものは、そうでござるな……愛するおじいさまの写真が欲しいでござるな」
「おじいさまって誰だか、教えてくれよう」
「拙者が行き倒れた時に助けてくれたおじいさまでござる」
淡雪の口調はそのおじいさまが好きだった時代劇の影響らしい。
「もう少し早く会いたかったが、仕方ないでござる。神様なんて死んじゃえばいいでござるよ。 おじいさまは貧乏でござったゆえ写真に映ることもほとんどなかったようでござる。したが、探せば一枚ぐらいは見つけられるのではないかと思っているでござる。 そうしたら拙者、遺影を作って毎晩添い寝するでござるよ!」
「共感524 反感311 合計213」
「『淡雪ちゃん! 僕、頑張っておじいさんになるよ!』『俺がおじいさんになるまで六十年はかかるぞ! それまで待ってくれんのか!?』 共感と反感のコメ内容が変わらない珍しいケースだね」
淡雪の元に、頭に二本の角を持つ、狩衣姿の少年が駆け寄ってきた。
「素晴らしい愛なんだの……淡雪殿!!」
「キミは、参加者の樹くんだわよね?
橘 樹(
jb3833)に焼きそばパンを手渡した。
「これも……恋っ」
「あら、淡雪ちゃん良かったわね」
「若すぎ……私枯れ節が好きなの」
無表情に去ってゆく淡雪。
●
樹はしばらく肩を落としていたが、やがてかっと目を見開いた。
「わしのきのこ愛を語る時が来たんだの!」
「まだ樹くんの順番ではないんだけど、まあいいや」
「わしは欲しい宝は…ずばり、未知のきのこだの!!! きのこは植物ではなく分解者なんだの。 還元者として世界のバランスを保つ最も重要な存在なんだの、あの愛らしい見た目、見るたびに心ときめいて仕方ないんだの。 これは……恋っっ 」
「樹くんにとって、淡雪ちゃんときのこはどちらが大事なのだわ?」
「まだ見ぬ新種のきのこ見たい! 写真を撮り観察し、そして食す! 毒でも食べる愛!
味じゃない、愛!」
「きのこの方かもしれないのだわ……」
「共感2 反感1、寂しいんだの」
「でもコメントは、他の人よりたくさん来ているのだわ『きのこと末永くお幸せに』みたいなのだわ。 理解出来ないから、共感も反感も出来なかったのだわ」
「みんな、きのこに愛がなさすぎなんだの」
●
黒衣の男・鷺谷 明(
ja0776)は突然、演説を始めた。
万感の愉悦を込めて
「愉悦である。悦楽である。享楽である。
私が求めるは無為なる快楽である。
思うが侭に全力を尽くせ。
宝探しも良い。のんびりするのも良い。競い合うのも良い、戦うのも良い。
私はその総てを祝福しよう。
世界はそれを咎めるほど狭量ではない。
今を笑えぬ者が未来に笑える筈が無い。
今この時輝かしき未来を夢見、根拠も無く愉悦せよ。
さすれば自ずから然るが習いである。
故に笑え。今は祭りぞ?願うが侭に遊び呆けよ」
「なんなのだわ、この人は?」
「まあたぶん『なんたらストラかく語りき』でも読んだんじゃないかな」
興奮して光纏した見た目も人外の状態だ。
「共感0 反感2 意味不明さで樹くんを上回ったんだな」
「コメントは『仲間連れて、すぐ倒しにいくっすよ!』『ラスボスかな?』 完全に悪魔扱いなのだわ」
●
黒髪の侍娘・礼野 智美(
ja3600)はクールな美貌とは裏腹に、庶民的な回答をした。
「今回の宝狩って、最初は先生の発案だって聞いてますから、そのこと念頭に考えると、夏休みを一週間増やすとか宿題やレポートを例年平均より少なくしてもらえる、でしょうか? 」
「勉強が遅れるだけだよう」
「皆で協力して目標達成させるんでしたら、夏休み中に林間学校とか、学園生徒皆が嬉しい事の方が楽しいじゃないですか。 ここの所、あっちこっちで事件連発で、学校イベント楽しめてない人も多いと思うんです。 絆って俺達の一番の力ですから」
「そういうところから生まれる絆こそ宝という事だね、ありがとう」
「共感1024 反感3 合計1021」
「未だトップの京さんもだけど、これ系は安定して強いのだわね」
「皆、戦いの日々でストレスも溜まっていますからね」
「いいイベント考えるから、待っていてくれよう」
●
「あー、てすてす…え、もうカメラ回ってます!?」
大柄でおっとりした顔の青年・九鬼 龍磨(
jb8028)はちょっと業界人ぽかった。
「えっと、僕の欲しい宝は『みんなの笑顔』です! なんだよ、いい子ちゃんぶってーって思われるかもしれないけど、本当ですよ。 滋賀や他の戦いで、みんな辛くて、疲れてて。 それでなくても、学園の中にも困ってる人、悩んでる人……あんまりハッピーじゃないことも、いっぱいありますよね? そういうのをこのイベントで一瞬でも吹き飛ばして、みんなが幸せに笑いあえたらいいなって、思ってます」
「龍磨さん、笑顔や話し方が、アイドルぽいのだわ」
「あ、そうだ。 デカブツでトウの立った男ではありますが、僕もアイドル始めました。
なので、ひとつイメージキャラクターに推薦、お願いしますね?」
ぱちん!とウインクする龍磨。
「共感914 反感8 合計906」
「共感数は『みんなの笑顔』を宝としたチルルちゃんと同じだけど、チルルちゃんと違って、反感が出ているのだわ」
「どうしてですか!?」
クレヨー先生は脇から汗を拭きつつ、肥満体を揺すった。
「たぶん、最後のアイドルアピールが暑苦しがられたんだな」
「先生に暑苦しいって、言われたくありません」
●
雪之丞(
jb9178)は、そんな暑苦しさを払拭するほどクールな女剣士だった。
「宝か……剣だな……目的を果たすための剣」
インタビューに淡々と答える雪之丞。
「なかなか良いのにめぐり合えないのだ。 形や切れ味どうこう言うより、魂がこもった物が欲しいな」
「さっき、目的を果たすって言っていたけど、それが何だか教えてくれよー」
赤い瞳が、険しく鋭く輝いた。
「目的は詳しくは言えないが……復讐と言ったところか」
「だ、誰への復讐だか、教えてくれよう」
尋ねる先生を、これ以上聞くなと言わんばかりに睨みつける雪之丞。
場を重たい空気が包んだ。
「共感110 反感260 合計-149」
その時、近くにパトカーが停まり、警察官が出てきた。
「ちょっとキミ、署まで来てもらえないかな?」
「誰かに通報されたのだわ……」
●
「宝物? ハハ、みんなの笑顔が僕の宝物ですよ……ごめんなさい、ウソです」
悪戯っぽく笑ったのは、エイルズレトラ マステリオ(
ja2224)だった。
茶髪の可愛らしい顔をした少年である。
「別に欲しいものとかないんですけど……何でも良いというのであれば、まあ、普通に『力』が欲しいです。 これは、まだ撃退士として活動を始めたばかりの話なんですけど、 当時、僕も仲間も力不足でしてね、天魔が学校を襲撃し、 護れきれずに四十七名もの犠牲者を出してしまいました。 僕達は自らの無力に絶望しましたが、そんな僕らにかけられた言葉は、
『よくやった、やれる限りのことはやりきった』でした。 まあ、確かに当時の僕達としては最大限のことをやりましたけど、 でもやっぱり、出来れば全員助けたかったですよね
もう二度と、あんな思いはしたくないですから……それだけです」
無力げな顔のエイルズレトラ。
「共感870 反感2 合計868」
「年上女性からの共感が多いね『可愛い』『守ってあげたい』って意見がほとんどだ」
そこへ大小二つの影が現れた。
「冒頭の発言は聞き捨てならないですよ」
「みんなの笑顔が宝じゃいけないのか! あたいらに喧嘩打ってんのかー」
とうに撮影を終えたはずの、龍磨とチルルが出張ってきた。
「ハハッ、お二人さん落ち着いてね、手品見ますかー? はい、鳩が出ますよー」
エイルズレトラは、笑顔のまま連行された
●
長袖白衣の少年・藤沢薊(
ja8947)は明らかに嫌々出てきた。
自分の意志ではなく兄に勝手に応募されたらしい
「欲しい宝……性別にあった服装かなあ」
「どういう事?」
「えっとね、俺は男なんだよ。生物学上でも、精神的にも。 それなのに、購買のおばちゃんに、女子物渡されたり、母さんや姉さん……兄さんに女装させられ……俺だって、男の子なんだもん!男の子扱いしてほしいんだもん! 現に今日だって……こんな恰好させられて!!
薊が白衣を脱ぐと、ネコミミフード付ワンピを着ている。
「もう、宝いらないので男の子にしてください!」
逃走する薊
「共感98 反感758 合計-660 コメントとしては『薊たんはそのままでいい!』『男の子の服を着るだなんて、許さないよ!』って感じのがほとんどなんだな」
薊は、視界から完全に姿を消している。
「生放送で場所が割れているのに、一人になって大丈夫なのだわ?」
「今の流れだと、また誰かに連れ去れそうなんだな」
●
ジーナ・フェライア(
jb8532)は、年齢に見合わぬ色香の少女だった。
「欲しいもの……欲しいもの? それなら、飛行機がいいわね」
「自家用機かな?」
しみじみと首を横に振るジーナ
「直行便が欲しいだけです。 里帰りする時間が欲しいのだけれど、なかなか……お墓や家の手入れは自分でしたいのですけれど、ね。飛行機なら時間短縮できるでしょう? ディメンジョンサークルは片道切符だし、故郷を離れるというのも難しいものね。 私を育ててくれたお祖母様の命日には帰りたいものです。 これだけは人任せにはしたくなくって」
「共感798 反感0 合計798」
「かなり切実な話なのだわね」
「故郷はヨーロッパ方面なんです、長期休暇でもなければ帰れなくて」
「交通の便の悪い所に住んでいる人の気持ちは、同じ境遇にいないとわかりにくいものなんだな」
●
「さーて、いよいよ最後の一人なんだな」
ファリス・メイヤー(
ja8033)は引き締まった顔立ちに、引き締まった体つきの美少女だった。
「欲しい宝、ですか。 『宝箱』そのものですね。 海賊系の物語に出てくるような、あの宝箱が欲しいです。 実のところ中身は入ってなくてもかまわないですから、アレが欲しいです。
「すっごいわかるのだわ!」
椿が思わず声をあげた。
「僕もわかるけど、一応、理由を教えてくれよう!」
クレヨー先生も興奮で汗をかいている。
「宝箱を見つけた時のトキメキでしょうか。 敵を倒した後の部屋の隅に見つけた瞬間のテンションがたまりませんね。開ける瞬間のドキドキとか!」
「こ、これは最後に来て、高い得票が期待出来そうなんだな!」
「共感1767 反感260 合計1507! 反感の理由としては『散々歩いて、空の宝箱だった時の苛立ちはガチ』『ミミックだったら、どうするんですか!』」
「共感分では京さんに勝っているのに、反感分で及ばなかったのだわ」
「という、ことは!」
●
「宝狩イメージキャラは草摩 京さんに決定したのだわー」
「受賞の言葉は、特設サイトで聴かせてもらうんだな」
「では、学園有志が定めた各賞の発表、いくのだわ!」
共感賞
ファリス・メイヤー
反感賞
袋井 雅人
ワロタ賞
下妻笹緒
ナイタ賞
若菜 白兎
淡雪
親御さんが心配するで賞
田村 ケイ
パルプンティ
鷺谷 明
手に入れて欲しくないで賞
藤沢薊
「ツッコミ所満載だけど、なぜ、『親御さんが心配するで賞』が三人もいるのだわ?」
「久遠ヶ原には、心配になるほど個性的な人が大勢いるということなんだな」
先生は、椿の構えるカメラの前で暑苦しい笑顔を浮かべた。
「参加された皆さま、ありがとうございましたー! 宝狩はこれから山場に入るんだな! 宝を求めて、皆、盛り上がって欲しいんだな!」