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マスター:スタジオI
シナリオ形態:シリーズ
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2015/12/16


みんなの思い出



オープニング


 久遠ヶ原ケーブルTV会議室。
「ついに次回で最終回であるな、よく皆、付き合ってくれた!」
 ワルベルト局長が機嫌よさげに笑う。
「長かったような短かったような気がするのだわ」
「ドラマが放送されたのは数か月間だけど、ドラマの中では千数百年が過ぎているんだな」
 局長の姪・四ノ宮 椿(jz0294)、そしてクレヨー先生が互いに頷きあう。
「最終回は、現代に至る物語である。 20世紀の始まる1901年から開始しようと思う」
「前回終了が1801年だったから100年間は飛ばすんだな?」
「革命編でなした革命の効果が、目に見えて定着するまでにそのくらいはかかるだろうからな」
「交通と情報が高速化したから、文明の進化速度も随分早まったと思うのだわ」
「うむ、1901年のノヴェ共和国がどうなったか我輩の予想からVTRを作ってみた、まずはこれを見て欲しい」

 会議室のモニターにスイッチが入った。
 白黒で無声映画風の映像が流れ始めた。
「まずは、交通編なのである」
 ノヴェ共和国の街角が映る。 アスファルトで舗装などされていない土の道だ
 その幅は現代日本の国道並に広く、見慣れた交通標識や信号もある。
 だがそこを走っているのは自動車ではなく、馬だ。 人を乗せた馬と馬車とが半々くらいで走行している。
 しかも速い! 馬たちは自動車並みの速度がを出しており、しかも何十キロと走り続けていた。
「この通り陸の交通の中心は未だ馬だ! 騎乗者がスキルで加速し、しかも回復スキルで回復してやれるから速く疲れずに走れるのである!」
「シュールな光景なんだな」
 たまに象や牛までがいる。 象は荷物を背負っているので現在でいうとトラック。 牛の方は、トラクターが国道を走っている感覚だろうか?
「自動車はないのだわ!?」
「ない、必要は発明の母。 アウルによる馬や動物の優れた運用法が見つかったから自動車は誕生しなかったのだ。 道路の舗装も不要だ。 エコロジー、かつ経済的な交通社会なのである」
「エコすぎるのだわ! これ酷い!」
 ナマモノの悲しさ、画面の中の動物たちは道路に糞尿垂れ流しなのである。
「くさそう」
「うむ、この世界の環境問題はまさにこれなのである。 これを解決できるものがいれば偉人間違いなしなのである!」
 ちなみに、海の交通はアウルで操縦する蒸気船が主流である。 ただし、スキルで加速や一時的な飛行、瞬間移動が出来るので性能は現実の船舶に見劣りしない。
 空の方では実用的な交通機関は出来ていない。
 中世でグライダーが開発されたから飛行の基本原理は解明されているものの、エンジンの主流が蒸気なので重すぎて飛行には向かないのだ。
 なお、ガソリン機関などは開発されていない。
「飛行スキルを乗りものにかける事も出来るけど、あれは効果ターン内しか飛べないからものの数十秒が限界なんだな。 移動手段として実用的ではないんだな」
「現実の世界でも飛行機の実用化は20世紀に入ってからだし、まだ焦ることはないのである」
「機関車と蒸気船で世界中にどこにでもいけるからね、無理に開発する必要はないのかもね」
「開発を促すには、まず時代のニーズを喚起する必要があるのである」

 続いて歩道が映る。
 道を歩いていたビジネスマンが電話ボックスらしきものに入り、何やらダイヤルし始めていた。
 画面の中の光景に、椿とクレヨーが違和感を覚える。
「あれ、電話があるのだわ?」
「違う気がするんだな、革命編までだと、電気エネルギーを利用した技術は全く出て来なかったんだな」
「さよう、あれは纏話機である。 記憶を溶かした光纏水を水道管に流し、声ではなく意志そのものを遠方の相手に伝える連絡手段だ。 アウルで指向性を持たせたので、希望の相手を狙って連絡が出来る」
「ダイヤルをしていたのは、やっぱり電話番号のようなものなのかな?」
「確かに光纏水と水道管で電話が出来るなら、電気がなくてもいけるんだな」
「意志そのものを伝えるってやばい気がするのだわ。 というか、前回でも……」
 意志そのものを伝える仕組みのため、纏話中に雑念が入るとそれも伝わってしまうのだ。
 利用中に多いトラブルの一つが、エロビジュアルを相手に伝えてしまう事態。
 VTRの中でも、上司への報告纏話中に纏話ボックスの外をミニスカの女性が歩いたため、ビジネスマンの意志に煩悩が入った。
 仕事に関する思念に不謹慎な妄想が混じり、それを纏話相手の上司に叱られてしまった。
 しかも叱られた事で、上司に対する殺意を発してしまい、それまでもが上司に伝わったらしい。
 纏話ボックスに入った時にはビジネスマン男だった男は、出る時には失業者となり、トボトボと背中を丸めて画面から消えていった。
「超危険システムなのだわ」
「うむ、雑念を発しない意志の強さが纏話利用には必要なのだよ」
「あっちの世界に生まれなくて良かったんだな」
 椿やクレヨーには、とても扱えそうにないシステムだった。

「あれ、ところで纏話機って街頭TVにも利用出来なかったのだわ?」
「うむ、開発当時は給水塔の大きな水鏡スクリーンでしか映像が見られなかったが、1901年時点ではそれが小型化し、家電サイズになっている。 現実世界のTV同様のものだと思っていい」
「でも欠点は、変わっていないんじゃ?」
「うむ、あちらの世界のTVマンには、決して煩悩に負けない明鏡止水の心が必要になってくる。 中継をする投影者(カメラマン)は心を無にし自分の心の鏡に映さねばならない。 雑念(ノイズ)が入ると雑念までお茶の間に映しだされ、内容によってはクレームの嵐になってしまうからな」
「修行僧並の厳しい訓練が必要そうなんだな、いろいろと改善点のあるシステムなんだな」

 光纏を伴う水道以外のインフラは、ほぼない。
 現実における電気の代替としてアウル。 ガスもスキルで賄えてしまうためだ。
 発動機やタンクが不要なため現実世界のものよりも小型化が容易だが、常に人が触れてアウルを起こりこまないと機器が動かないという欠点がある。
 なお光纏樹にアウルエネルギーを溜めるという研究が行われ、理論的には完成したが、現実的な運用方法は未完成である。

 学校教育は小中までが男女ともに義務教育化し、基本的なスキルは学校で習得できる。  
 高校大学にいけば高度なスキル習得も可能。
 政治は選挙が始まって百年たち、二院制議会制民主主義が定着している。
 むろん汚職もあり、それを浄化する法案も度々出るが、法律を作る議員を取り締まる法律がザル法になるのはもはやお決まりである。
 民主主義体制で汚職を撲滅するのは、不可能に近いと思われる。
 経済は、資本主義に移行。 貧富の差と、好不況の波がある。 まあ現在の日本レベルと思っていい。
 報道は凸版印刷による新聞、雑誌、もしくは纏話TV放送により行われている。
 ただし纏話TV放送は報道者個人の私見が混ざりがちであり、見たままを映すとはいかないため信憑性が危ぶまれている。
 
「と、まあ概要的にはこんな感じの国になっているのである」
「戦争は?」
「19世紀後半に大きいのがあったので厭戦気分が世界に漂っており、平和な状態だ。 ただ各国家、国民同士の繋がりを強めるようなイベントも特に開かれていない状態だな」
 20世紀初頭にこの状態のタリア国が果たして21世紀にどんな国となるのか?
 それは、偉人たちの活躍にかかっているのである。


前回のシナリオを見る


リプレイ本文


 1930年、以前より社会問題になっていた纏話機ノイズ問題に関して一つの回答が出された。
 いわゆる”メニスのヘッドギア”である。
 メニス[アイリス・レイバルド(jb1510)]は、旧王族の出で光纏放送局の局員なのだが局内での派閥争いの煽りを受け、クレーム対応室員という不遇な地位にいた。
 この日も局が設置した纏話機のせいで失業したというクレームを受け嘆息していたのである。
「だからガラス張りの纏話ボックスはやめろといっただろ」
 今回は外を歩いていたミニスカ女性を見てしまったがゆえ、通話に煩悩が混じったらしい。 
 懺悔室の様に外界の情報を遮断するようにというのがメニスの案だったが、それも犯罪に使われる可能性もあり却下されていた。
 毎日寄せられるこの手のクレームに、メニスは精神の安定を崩し始めていた。
 それを和らげるため、マインドケアの光纏水を吸わせたヘッドギアを思いつき、発注して装着した。
 効果は絶大だった。
「ふむ、これを纏話ボックスに設置すればよいのではないか?」
 これは一つの発明となり、全国の纏話ボックスや纏話放送局に常備されるようになった。

 纏話機ノイズ問題に関しては、知られざるもう一つの回答があった。
 人型思念フィルターH‐03K[川澄文歌(jb7507)]だ。
 人形ではない、正真正銘の人間である。
 生まれたばかりの赤ん坊の段階から調教し、雑念を拾い出し、伝えたい意志だけ選別する存在、いわば”ろ過人間”として育てたのだ。
 これは人道を逸脱する狂気の発明として、長く学会の闇に隠ぺいされていた。
 その一体であるH‐03Kは、指名手配された発明者の逃走とともに捨てられた。
 その後、ツバキという結婚に縁はないものの母性本能は強い女性に拾われたH‐03Kは、人間・フミカとしての人生を歩み始めた。
 ある日、選挙会場に連れて行かれたフミカは衝撃を受ける。
 選挙棒(サイリウム)を両手で10本持ち振り回す多重投票者、舞台最前列に陣取りオタ芸を披露する痛い後援者
「こんな可愛い子が捨てられ、選挙はこの有様、私も結婚出来ないし、この国の政治は腐っているのだわ!」
 ツバキの言葉に胸を痛めたフミカだったが、ふと、ある政党の姿が映った。
 アイドル党――当時は、弱小政党だったこの時は明るく楽しく政治改革を歌い上げていた。
 まだ感情の乏しかったフミカは、その精神と歌に感動する。
 成人したフミカは、アイドル党に入党。
 雑念を拾う能力で有権者の気持ちを察し、最年少で下院議員当選を果たす
 そして、本来忌まわしきものだったその能力で政治家の悪事を暴き、腐敗を一掃したのである。
 だが、その道は生易しいものではなく、悪徳政治家たちに何度も命を狙われ、ついには養母・ツバキを失うことになる。
 恫喝と暗殺の恐怖に屈せず悪徳政治家たちを一掃したフミカは、1936年に大統領に就任。
 それをツバキの墓前に報告した時の言葉は、後に二人の墓碑に刻まれる事となる。
『ツバキ姉さま、ろ過、完了ですよ』
 フミカは1948年の任期満了まで大統領を勤め上げ、「叶え、みんなの夢!」をキャッチフレーズに教育・薬学品・宇宙開発・環境問題・スポーツ・通信等の発展に注力した。
 パフォーマンスがアイドル的だったことから、他国には”神聖アイドル帝国女帝”と揶揄を含んで呼ばれたが、自国民からの人気は絶大だった。

 ここに二本のVTRがある。
SUMO世界大会の準決勝での取組である。
 土俵際投げの打ち合い。
 一本目のVTRでは、東方であるテムジン国力士の掌の方が、西方であるショウタロウ[雪ノ下・正太郎(ja0343)]の顔よりも先についている。
 二本目のVTRでは、一本目と全く同じ場面なのに、ショウタロウの顔の方が先についている。
 どちらが事実なのかというと、二本目である。
 つまりショウタロウは、この取組に敗れたのだ。
 だが、ノヴェ共和国で纏話生放送されたのは一本目。
 ノヴェ共和国の投影者(カメラマン)が自国選手を応援するあまり、願望が混じってしまい、一本目のような映像が流れてしまったのだ。
 外界からの視覚的刺激を遮断しようと、”メニスのヘッドギア”で心を鎮静化しようと、心の中にある願望や欲望は抑え切れない。
 応援している方を、心の中で勝たせてしまう。
 これが纏話放送の弱点だった。

 話はこの取組に敗れ、銅メダリストとなったショウタロウに移る。
 彼は、力士としての自分に限界を感じていた。
 小兵な自分に、もっと適した競技があるのではないか?
 そう考えた彼は北の国グラードへ留学した
 そこには、総合格闘技ソンボがあった。
 ショウタロウは絞め技、関節技で小兵のハンデを克服し、1938年には世界大会優勝を果たす。
 祖国の英雄となった彼をパロ大学は教授待遇で迎え入れ、引退後は後進の育成にも励んだ。
 この時、ゴリンピック誘致委員会委員長への就任話が持ち上がった。
 ゴリンピックは、テリー国から提起されていた世界最大のスポーツの祭典である。
 だが、ショウタロウはこれを拒む。
 今のままの纏話放送では、SUMO大会での自分の取組と同じ過ちを繰り返しかねない。
 願望がそのまま放送されてしまう纏話放送で、国の威信をかけたスポーツ大会を放送しては誤報に誤解が重なり、戦争の引き金にすらなりかねないのだ。
「スポーツは平和と友情の父でなければならない」
 そう唱えたショウタロウは、完全なる事実を伝えられる纏話放送の開発を呼びかける。

 これに応えたのは、またもメニスだった。
 止まぬスポーツ中継での苦情に、苦情受付室長に昇進していたメニスは辟易していたのである。
 彼女は纏話機の要である光纏水を更に改造。
 既存の絆に加え、シンパシーとシールゾーンを合成した新型纏話機を開発した。
 シンパシーで特定の感情を読み取り、規定値を越えた場合に連動してシールゾーンが発動し、絆のスキルを弱めるのである。
 これにより、願望による誤報を放送してしまう事案は防ぐことができる。
 しかし、放送が肝心なところで中断されてしまうので、やはり根本的解決にはならない。
 この難点の克服には、光纏樹蓄積技術の実用化を待つことになる。


 20世紀後半の人物について語るに辺り、先に語らねばならない人物がいる。
 ノヴェ教育界の中興の祖である、シュウ・カネダ[鐘田将太郎(ja0114)]である。 
 彼はカネダ3世を始めとする学者の家に生まれた。
 1940年に家財を投げ打ち、私立学校“カネダスクール”を設立した。
 高等教育を受けられない、貧困層のために築いた学校だった。
「学びたい奴はどんどん学べ!」をモットーに生徒を募集した。
 月謝は奨学金のみ。
 資金不足から、教師はカネダ一人だった。
 働きながら学校に通う生徒のため、昼夜問わず授業を行った。
 疲労と貧困は深刻で、何度も倒れた。
 その惨状が新聞を通して大統領フミカの耳に入り、ある日突然、訪問を受けた。
 1948年のことである。
「なぜ、そんなに無理をされるんですか?」
 尋ねるフミカにカネダは答えた。
「これからの国は若いモンが作っていくんだ、より良い技術を発展させるには、良い環境と施設での学問が必要だ。俺は子供から大人まで勉学ができる場所を提供したいのだ。 協力願いたい! 」
 大統領はその意気に応えて、資金を国費から供出。
 カネダスクールを拡大し、パロ大学の付属高等学校とした。
 系列校数90以上、総生徒数10万人を超える超マンモス高校である。
 これにより、義務教育を終えた貧困家庭の子供がパロ大学に進むまでの梯子を作る事が出来た。
 パロ大学は元々、国費による無償教育だったものの競争率も高く、義務教育卒業程度の学力では入試突破は不可能。 結局、貧困層には縁のない場所となってしまっていたのである。
 だが、カネダはこの学校の開校式を見届けたその夜、兼ねてからの過労が祟って倒れ、そのまま帰らぬ人となってしまった。
 カネダの銅像は初代学長として中庭に建てられ、今も生徒たちの成長を見守っている。
 この高等学校から排出されたのが、後に語ることになるレンネやシェリーである。

 シェリー[シェリー・アルマス(jc1667)]は、貧困層の生まれでカネダスクール時代からの生徒だった。
 宇宙に上がる事を夢見て、パロ大学卒業後は研究チームの一員として大学に残った。
 研究テーマは”推力と気密”
一見、地味なテーマであり、本人も地味に研究者人生を過ごすものと思っていた。
 だが国際的に宇宙開発競争の時代となり、フミカ大統領も参戦を表明したことから運命が変わる。
 ロケット開発を、パロ大学に命じたのである。
 当初は蒸気エンジンが試みられたのだが推力が足りず、昔起きた酸化剤の爆発事故をヒントに固形燃料を発明された。
 動力以外にも、問題は山積していた。
 その一つが、”果たして人間は宇宙への旅に耐えられるのか”である。
 光纏科学を盛り込んでいるため、人が乗っていなくてはアウルによる操縦が出来ない。 よって無人による実験ロケットの発射は困難なのだ。
 シェリーは危険な実験台、即ち宇宙飛行士に自ら志願する。
 加速に伴う重力に、体力と光纏で耐えるため地上に加速実験機を作り狂気とも思える訓練を始めた。
 そして1960年、ノヴェ共和国初の宇宙ロケット、サリエーラIが完成する。
 古代の火の女神からとった名である。
 これに乗り込んだシェリーだったが、その名の如く空に燃え尽きてしまった。
 大気圏突破で摩擦熱が起きる事に気づけず、対策がなされていなかったのである。
 火の女神により、天へと連れ去られてしまったシェリー。
 だが、その様子を見上げていたシェリーの娘は、母を火神の掌から取り戻す事を誓っていた。

 宇宙開発時代になったにも関わらず、この国は極めて原始的な問題に悩まされていた。
 交通の要である馬、それによる糞尿問題である。
 “交通量の少ない時間に掃除をする” “フンコロガシを放つ”などの解決策が試されたが、どれも根本的な解決にならないどころか、事故や虫害などの弊害を生んでいた。
 悪臭と、それにたかる虫や鳥。 特に首都レタは世紀末の様相を為していた。
 この解決を為したのがレンネ=ムーンパレス[月乃宮 恋音(jb1221)]である。
 彼女は旧王国の宰相レンネに連なる家に生まれ、資産と、一族特有の巨乳を受け継いでいた。
 パロ大学で経済、経営を学んだ彼女は、”変化の術”スキルによる化粧品を開発販売する会社を営んでいた
 しかし、友人たちの影響で環境問題を意識するようになる。
「……おぉ……どんなに化粧をし、着飾っていても町が糞尿塗れでは台無しになってしまうのですぅ……(ふるふる)……」
 彼女は祖先の手法に習い、シンクタンクを設立。
 “またもミルクタンクか”と揶揄されたものの懐深く受け止め、研究を続けた。
 研究テーマは”光纏樹によるアウル蓄積”技術の運用。
 理論は完成していたものの、長く実用には至っていなかった技術の始動を試みたのである。
 レンネは化粧品開発の過程で発見した分解バクテリアに着目し、強化系スキルでこれを活性化した。
 糞尿を分解する性質があるこのバクテリアにアウルの蓄積技術を利用することで、周囲の糞尿を高速分解する器具の開発に成功したのだ。
 1960年の事である。
 タマコガネと名付けられたこの器具を設置・整備する人員。 タマコガネにアウルを蓄積するための人員などの雇用も創出された。
 経済は浮揚し、ノヴェ共和国は経済大国化、レンネはまさに救世主となった。
 巨乳を震わせるその姿は、数々のドラマや映画の題材となり、死後数十年にしてすでに伝説的な人物として描かれている。


 1968年、ノヴェ共和国初のゴリンピックが開催された。
 開催委員長はショウタロウ。
 彼がここに来てゴリンピック誘致に積極的になった理由は、二つある。
 一つは、糞尿公害の解消により国全体が美しくなった事。
もう一つは、シンパシーディスクの発明により正確なスポーツ放送が出来るようになった事。
 これは “シンパシー”を溶かした光纏水で育てた光纏樹を材料に作り出した記録ディスク。 メニスが若き日に発明した新型纏話機に、レンネの開発したアウル蓄積技術を取り込んで作り出したものである。
 これまでのように投影者一人の心象風景をそのまま放映するのではなく、投影者を複数用意し、ディスクも複数作る事で、正しく記録された部分だけを抜き出して放送出来る形にしたのである。
 生放送は不可能という側面もあるが、その分、映画やアニメなどの文化が発達した。
「過去の名作の再現が難しいのはあるが、これからいい作品を作って放送すればいいだけだろう。私たちはこれからを生きていくんだ」

 ノヴェゴリンピック開会式にあたり、ショウタロウはこう挨拶をした
「世界中のヒーローがここに集った、彼らのいる限り世界から平和と友情の文字は消えないだろう」

 2001年。
 ついにノヴェ共和国は初の国産宇宙ロケット・セドナUの打ち上げに成功した。
 この搭乗員の一人に、ジュリがいた。
 サリエーラIの爆発事故による悲劇の宇宙飛行士シェリーの孫娘である。
 そしてセドナUの開発陣にはシェリーの娘で、ジュリの母親であるシャイニーもいた。
 セドナUの船窓から地球を見下ろしたジュリは「地球は本当に丸かった」と祖国に向けて放送した。
 その後、マイクを切り「おばあちゃん、迎えにきたよ」と、涙とともに呟いたという。
 帰還の際の大気圏突入にも成功。
 ジュリは41年間宇宙に漂っていた祖母の魂を、地上で待つ母の元へと連れ帰ったのだった。

 世界を結び、宇宙にまでその指先を伸ばしたノヴェ共和国は21世紀にどのような発展を遂げるのだろうか? 
 このドラマが終った後も、キミの心の中にあるノヴェ共和国を時々、訪れて欲しい。


 架空史ドラマ打ち上げ会場。
「ふむ、無事完結に乾杯だな」
 アイリスがとった音頭とともに、ドラマ関係者全員がグラスを天井に掲げた。
 五回に渡って放送された歴史ドラマが、ついに完成したのだ。
「米だー! 今日は徹頭徹尾、米を食うぞー!」
 貧困の熱血教師という役作りのために断食していた鐘田、丼飯を食いまくる。
「……私は徹頭徹尾、乳でしたねぇ……(ふるふる)……」
 歴史に残る数々の実績をあげたのに印象に残るのはやはり乳な恋音。 デカすぎるから仕方ない!
「私、空飛ぶたびに事故起こしてたよね。 注意しないと」
 光纏船と宇宙ロケットで二回も事故に遭う役を演じたシェリー、今後は現実での無事故を祈ろう。
「DVD化の時は主題歌付けよう♪ 私、歌うよ!」
 文歌は”ノヴェ共和国国歌”を即興で作り、歌い出す。
「次は時代劇やSFドラマもやれたらいいですね」
 局長に話を持ちかける雪ノ下。
 一つの世界を創り上げた若者たちは、次なる世界に向け、早くも夢の翼を広げ始めていた。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 大祭神乳神様・月乃宮 恋音(jb1221)
 深淵を開くもの・アイリス・レイバルド(jb1510)
重体: −
面白かった!:6人

いつか道標に・
鐘田将太郎(ja0114)

大学部6年4組 男 阿修羅
蒼き覇者リュウセイガー・
雪ノ下・正太郎(ja0343)

大学部2年1組 男 阿修羅
大祭神乳神様・
月乃宮 恋音(jb1221)

大学部2年2組 女 ダアト
深淵を開くもの・
アイリス・レイバルド(jb1510)

大学部4年147組 女 アストラルヴァンガード
外交官ママドル・
水無瀬 文歌(jb7507)

卒業 女 陰陽師
もふもふコレクター・
シェリー・アルマス(jc1667)

大学部1年197組 女 アストラルヴァンガード