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マスター:スタジオI
シナリオ形態:シリーズ
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/11/06


みんなの思い出



オープニング


 久遠ヶ原ケーブルTVの会議室。
 架空歴史ドラマ「ノヴェ王国百年史」放送後、ワルベルト局長は、再び姪の四ノ宮 椿(jz0294)とクレヨー先生を呼びだしていた。
「開明編は、中世を脱するための物語となる」
 局長は明確な意志を以て頷いた。
「それには大航海士・クレヨーの意志を継ぐものが現れる事が必要となる」
 大航海士・クレヨーとは中世編に登場した人物である。
 黄金の島ジパングを発見し、SUMOという文化を祖国に持ち帰った。
「あの世界では未だ“水平線の向こうに何があるか”を確かめたものがいない。 タリア大陸とジパング以外にどんな世界があるのか? それを確かめる必要がある。 中世大航海時代における新大陸発見イベントだな」
「アメリカ大陸的なものを発見しろという事なんだな?」
「ふむ、それなんだが、吾輩が一つの伝説を用意した」
「伝説?」
「西の海にクオンという大陸がある、そこの人々は肉体から出る“光纏”の力を使って豊かに生活を営んでいる」
「それは!」
「スキルを使える国があるという事なんだな?」
「そういう事だ、機械文明こそタリア大陸より遅れているが、スキルを使った文明を営んでいる大陸があるのだ。 その大陸に辿り着き、探索をする偉人が必要となる」
「出演者にはスキルを、どう生活に活かすかを考えて大陸の様子を報告してもらえると面白い国が出来上がると思うのんだな」
「一例としては、クオン大陸の原住民は木の箱に氷結晶で作った氷を入れて原始的な冷蔵庫を作り、果汁や牛乳を加工したアイスクリームという妙菓を製造している、とかであるな。 アイスクリームは17世紀には誕生していたが、産業革命後の19世紀までは滅多に作れない超高級品だったわけであるからな」
「ただ、全く文化の違う国とどう交流して文明を取り入れるかは難しい問題なんだな、交流するか、奴隷として連れて来るか、その辺りもドラマのエッセンスになるんだな」

「二つ目は古代編から続く宗教抗争の解決であるな」
「中世編で一瞬、解決したかに見えて結局、こじれてしまったのだわ」
「あれは、未来永劫続くかもしれないんだな」
 椿とクレヨー先生は“解決しない問題をグダグダ続けるのはドラマとして、どうなの”という顔をしていた。
 だが、ワルベルトは自信に満ちた表情で会議室内のモニターを点けた。
「実は、宗教問題を解決する快刀乱麻の策を用意してあるのだ」 
「ええ?」
「椿の後輩である堺臣人と、我輩とでドラマをすでに収録してある、それを観てもらおう」
 モニターの中でVTRが始まった。


 タリア歴1540年。
 王室では時の国王レノ一世が、弟である若き宰相オミトと会談をしていた。
「ウーノ教とイドル教の争いでまた抗争が起きておる、40年前に起きた“パロの虐殺”以来、貴族と民衆の争いは止まぬ。 どうしたものかのう」
 パロの虐殺とは、国境の町パロが北方騎馬民族に侵攻を受けた時、貴族たちが庶民たちを敵もろともに殺してしまった事件である。
 これは王侯貴族を中心に信仰されているウーノ教と、主に庶民が信者であるイドル教の争いが根本にある。
「兄王よ、私も幾度か両宗教の代表者を集めて徹底的な議論や、和解の式をさせたのですが、表面上を繕うばかりで根本的な解決にはまるで至りませんでした」
「千年以上に渡る争いだ。 やむをえんか」
 諦めの溜息をつく王だが、オミトの若い瞳は自信に満ちていた。
「両者が納得する方法が一つだけございます」
「なんだと?」
「この際、どちらの聖本が正しいのか、間違っているのかを、はっきりさせてしまうのであります」
「そんな事が出来るのか!?」
 ウーノ教の聖本には千年前、王侯貴族に都合のよいよう改竄されていたという汚点がある。
 それを本来の聖本の姿に戻すことで新興したのが、イドル教である。
 だがその後、ウーノ教も祖先の過ちを認め、聖本を元に戻す事で信仰を取り戻した。
 ただしウーノ、イドル両聖本とも、現在の形の全てが本来の形なのかは不確定である。
 時が経つうちに時代にそぐわない記述が出てくるため、理解出来るよう変更が重ねられてきた。
 そこには、時の権力者の思惑も入る。
 万人の信仰に値する内容の聖本を作り上げるのは、もはや不可能と言って良かった。
「議論で解決を図るのは、もはや不可能です。 ですが物証ならば話は別になります」
「物証?」
「二つの聖本の決定的差、それは世界の姿に関する記述にあります」
 世界は球体か? 平面か?
 一時はほぼ同じ内容となった二大宗教の聖本だが、この部分のみ一致を果たせず再び枝分かれの運命を辿ったのだ。
「即ち、世界の真の姿を確認することで、どちらが正しいか断定出来るのです」

「イドル聖本は“世界は球体”だと主張しております」
「うむ、我々の住む場所の裏にも、同様に人間の住む陸地があるそうだな。 だが、上下逆さまでは地面から落ちてしまうではないか?」
「世界の裏の人々は恐ろしく太い腕を持っていて、木々に必死にしがみついて生活しているのかもしれません」
「面白い! そういう人間を連れてくればイドル教が正しいという証拠になる」
 オミトは無邪気な兄王に苦笑した。
「どうでしょう? 今のは僕の想像ですから――他にも証拠を示す方法があるかも知れません」
 世界球形説に明かな証拠を示せば、庶民の宗教であるイドル教が唯一の宗教となる。

「一方、ウーノ聖本では、世界は平面で海の果ては滝になっているとあります」
「それを聞くたびに思うが、海水が滝から落ちればいつか海が干上がってしまうのではないか?」
「いえ、落ちた海水は“アケロンの雲”となって天に上り、世界の海に豪雨を振らせているのです、そのため海が干上がる事はないと書いてあります」
「理には適っておるな」
「さらに、ウーノ聖本にはこの世界は神により黄金の血を与えられた巨人・アテが支えているとあるのです」
「浪漫じゃのう」
「太古の昔、船にアウルの力を与えられた時代に世界の果てに近づいた航海士がいるのですが、巨人の持つ九本の腕の一本が伸びて来て船を捕まえ、未知の海へと連れ去ってしまったそうです」
「なんと、恐ろしい」
「ですから逆に、航海中に襲ってきた巨人の手を傷つけ、流れ出る“黄金の血”を採取出来ればウーノ教が正しいという証拠となるでしょう」
 王は破顔して勢いよく玉座から立ち上がった。
「面白い! ウーノ教、イドル教、それぞれに光纏船を建造せよ! 十年後に同時に出発させ、どちらがより信憑性の高い証拠を持ってくるのか競うのじゃ、さすれば自然、どちらの宗教に人心が傾くか決まる事だろう」
 こうして王室から、大胆極まるお触れが発布された。
 航海士たちは光纏の力を籠めた船に乗り、海の果てへと乗り出すのだ。


 VTRを見終えた局長、拳を強く握りしめドヤ顔。
「千年以上に及ぶ二大宗教の争いに、世界の真の姿を見極める事で決着が付くのだ、どうだ! 熱かろう!」
 椿、クレヨー先生は茫然としている。
「いや、熱いっていうか」
「出来レースなのだわ! 世界は丸いって結論は出ているのに」
 だが、局長はニヤリと笑う。
「決めつけてはいかん、タリア大陸は架空の世界。 我々の地球と全く異なる姿をしている可能性だって充分にある!」
「ええ!?」
「我々の世界と異なっていた場合、今後の歴史も大きく異なってくるぞ」
 この世界のあり方全ては、ドラマに出演するキミ達自身が決めるのだ!


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リプレイ本文


 1502年。
 パロの虐殺から一年後のその日。 パロの町で慰霊祭が行われた。
 開催者は、この町の領主ショウタロウ39世[雪ノ下・正太郎(ja0343)]
 開会式で彼は民衆への謝罪と同時に、こんな言葉を宣言した。
「人の世は人の物、人を救うのは人である。人を苦しめる神はいらん、神を利用して人を苦しめる者に対して私は地獄から来た悪魔となって人を守る」
 この事から39世は地獄侯爵と呼ばれ、その名通りに犯罪者とテロリストの撲滅活動に徹底した。
 反面、庶民でも学べる学府としてパロ大学を設立するなど人材育成面にも功績を残した。

 そのパロ大学の一期生に、意外な学生が入学し波紋を呼ぶ。
 RIKISHI隊の元将軍カネダ3世[鐘田将太郎(ja0114)]である。
 御前会議において他国の文明を取り入れ、王国を更に発展させることを提言した彼だが、平原での戦いで敗れたがゆえ臆病風に吹かれたのだと貴族たちから非難を受けた。
 テロが多発し、貴族たちが命の危険に怯える時勢では無理からぬ話であった。
 結果、全軍務を解かれ、暇を持て余した末に学業の道を選んだのである。
 この学舎で彼は、一つの志を立てる。
 当初は敗残の将のホラ話として受け止められたが、次第に同志を集め実行に至る事となる。
 即ち、伝説の大陸クオン大陸の発見である。

「遥か西の海に“乳と蜜の流れる大陸”があると聖本にはありますぅ……伝説に過ぎませんが、民衆の怒りを逸らさせるためにも、探検船団を出す事は有効だと思うのですよぉ……むろん事実だった場合は測り知れない利益がぁ……(ふるふる)……」
 時の宰相レンネ[月乃宮 恋音(jb1221)]の提案は御前会議で貴族たちに受け入れられた。
 兵士たちからの信頼の未だ厚い、カネダ3世を海の向こうに送り去りたいという貴族たちの陰謀もあったのだ。
 こうしてカネダ率いる乳大陸探検船団は、1505年に西の海へと出航した。
 だが、その航海は困難を極める。
 雨雲が現れるたびに、船員たちは“アケロンの雲”ではないかと訝しみ、世界の果てが近いのだと騒ぎ立てる。
 引き返す事を主張する声は毎日のようにあがった。
 また壊血病が蔓延し多くの船員が命を落とした。
 しかし、船団長であるカネダには一度決めた事を曲げない頑固さがあった。
 
 120日を越す航海の末、船団の過半数を失いながらもカネダはクオン大陸の一部である半島(現在でいうライド半島)に辿り着く。
 原住民はカネダたちに強い警戒を見せたが、船員の一人であるアイリス[アイリス・レイバルド(jb1510)]が、甘い蒸しパンで原住民の子供を釣り、さらに自らが制作したガラス細工を見せた。
 ガラス細工を巨大な宝石だと思い込んだ彼らは歓喜し、交流がはじまった。

 彼らは身に光を纏う、独自の技術を持っていた。
 大きな岩を砕き、固い土を耕す“破山”というスキル。
 素早く移動し、種まきや収穫する“縮地”のスキル。
 害獣を追い払う“咆哮”のスキル。
 船団員はアイリスのガラス細工を代価にそれらを習得した。
 これが後の“光纏科学”の始まりである。
 帰国したカネダは、クオン大陸の農業を自国の食文化発展に尽くす。
「活力を復活させるには、まず食うことだ。食って力をつけろ!」
 そう農民を鼓舞したカネダは、後に光纏農業の父と呼ばれる事となる。
 
 1508年にはクオン大陸に学術船団が派遣される事になる。
 この指揮をとり、自ら同行したのはショウタロウ39世。
 侯爵であり、パロ大学の学長である彼がなぜ、危険な冒険航海に出たのか?
 パロの虐殺の実行者の一人ゆえに、暗殺を恐れての亡命だとの説もあったが、後に帰国した事を考えると説得力を欠くだろう。
 彼の祖父が大空を目指した36世であった事からも、冒険者こそがかの一族の本質だったのではないだろうか。
 相変わらず危険を伴う航海ではあったが、壊血病の恐怖からは解放されていた。
 アイリスが久遠大陸から持ち帰った治癒水の効果である。
 これらは現在でも光纏水と呼ばれ、“原初光”“ライトヒール”“クリアランス”などの商標で使われ続けている。
 学術船団は、幾度も派遣され成果を得た。
 光纏による飛行技術が、特に有名であろう。
 だが、当時の人々を最も驚かせた成果はそれではない。
 39世は原住民の女性を連れ帰り、妻としてしまったのだ。
 二人の間には男子が生まれ、後の40世となる。

 機械科学の方でも新しい技術が芽生えていた。
 “シュリの蒸気機関”第一号の稼働である。
 シュリ[シェリー・アルマス(jc1667)]はカネダと同じパロ大学の一期生である
 彼女は“料理中に鍋蓋が強い湯気で浮いた”のを見た事をきっかけに、水蒸気に興味を示し、蒸気について本格的な研究を始めた。
 卒業後、シェリー工房で研究を続け1523年に実用化に成功した。

 永く停滞していた文化面にも動きが見られた。
 フィミカ・ラ・レオナール[川澄文歌(jb7507)]は歌と踊りを交えながら、独特の衣装で舞台に立ち観客を魅了するという新しい文化を流行させた。
 イドル教信者の女性信者が好んで歌った事から“アイドル曲”とも呼ばれ、現在でもその名が定着している。
 中でも有名な曲“ペンギンを夢見て”は、画家でもある彼女が、空想上の動物“ペンギン”を描きたいという想いから作り上げた歌である。
 東方派遣船団への密航を試みた事さえ、少女時代にはあったという。
 その想いは有名人になってからも止まらず、1525年にはついにペンギン探索船団の派遣に至った。
「ペンギンというのは燕尾服を着ていて、二足歩行をしていると“東方旅記”に記述があります。 つまり我々、人間と同等に文明を築き上げている鳥がいるという事です。 ペンギンを発見し文化交流を果たせれば我が国の発展に大いに貢献できるのではないでしょうか?」
 フィミカが御前会議で行った提言である。
 荒唐無稽な発言に思えるが、当時の認識では海の向こうは未知の世界。 何がいてもおかしくないと考えられていた。
 しかも、クオン大陸の発見により文明に活気が湧き始めている時代、さらなる異文明を持つ事が期待される鳥人類の存在は魅惑的だった。
 ジパングの港を補給地点とし南方を探索航海した末、船団は動物だけの国“モフモフ国”に行きついた。
 この“モフモフ国”がどこであったのかは長年議論の種にされていたが、フィミカが残した数百枚に及ぶ動物スケッチから、現在はパガラゴス諸島の一部である事が判明している。
 モフモフ国滞在中、フィミカは一羽の青い鳥と出会いった。
 その鳥は賢さにフィミカはこれがペンギンだと思い込み、交流を図った。
 “ペンギンは冠婚葬祭用が燕尾服で、普段着は青くて派手なのだ”
 著作“フィミカ旅行記”には、そう記載されている。
 結果、“ピィちゃん”と名付けたその鳥を始め、島に住む動物のうち数種類は、絆を結んだ人間が呼びかけると瞬時に現れる事が判明した。
 つまりは現在でいう召喚スキルである。
 “ピィちゃん”はペンギンではなく召喚獣だったわけである。
 だが、フィミカ自身はそれを知る事がなく、ピィちゃんをペンギンだと思い込んだまま68歳でこの世を去った。
 フィミカの葬儀に“ピィちゃん”が燕尾服を着て現れたという逸話もあるが、事実かは定かでない。


 16世紀半ばまでは、クオン大陸との探索と文化交流、そこから取り入れた光纏文明の発展と伝播の時代となる。
 そして1550年、運命の元旦。 
 建造された5隻の光纏船が港に集った

光纏船は、ウーノ教側からは2隻。
「祖先の正しさを俺が確かめる!」
 1号艇の船長は千年前、地球球体説を笑い飛ばしたカネダ将軍の子孫・ハネダ。
「……新宰相となった姉に代わり乗船させていただくのですよぉ……」
 2号艇の船長は、かつての宰相レンネの次女のレンカ。
 
 イドル教からは3隻。
「先祖がアイデアだけ残していた空飛ぶ船、今こそ!」
 3号艇に、クオン人の血を半ば持つカネダ40世
「球体であれば真っ直ぐ進めば元の場所に戻るはず」
 蒸気機関の発明者であり、40世の元で空飛ぶ船の開発実行を指揮したシュリが4号艇を指揮する。
「ふむ、空飛ぶ船か。 だが私の船も一味違うぞ」
 ガラス職人から貿易相にまでなりあがった大アイリスの弟子、後に小アイリスと呼ばれる人物が5号艇を預かった。
 光纏う5隻の船が世界の果てを目指し、新年の海へと旅立つ。

 中継地点であるクオン大陸に、最も早く辿り着いたのは3号艇と4号艇だった。
 この2隻には、陰影の翼を用いた人力飛行装置が搭載されており、岩礁などを上に避けて通れたのである。
 彼らは世界を直進コースで一周をする事で球体説を確認しようとしたが、その前に障壁が立ちはだかる。
「陸だ!」
「どうやらクオン大陸の一部だね、地図通りならここは海のはずだけど」
 学術船団を定期的に送り込んでいるものの、大陸は広く、さらに製図技術も未発達な時代である。
 地図と現実に差が生じるのは当然と言えた。
「大丈夫、そのための飛行装置だよ」
「しかし、大陸を飛び越えるほどの長距離飛行は出来ない」
「この船は陸にも着地出来るんだよ、メンテしながら着地と飛行を繰り返せばまた海に出られるはず」
 この大胆な大陸横断案は、半ばで頓挫した。
 原因は最新技術を詰め込みすぎた事。
 現代よりも技術の発展、伝播、成熟が、遥かにスローな時代。
 蒸気機関、光纏科学は共にまだ新しい技術である。
 さらにシュリは船体の腐食を防ぐため、独自の新合金に部品を交換していた。
 これも新技術ゆえに鋳造が難しく、部品の精度が甘かった。
 二隻の船は、陸地に鎮座したまま動かなくなってしまった。
「老い先が見えて少し焦り過ぎたかもね……やりたい事を全てこの船に詰め込んでしまった」
 この時シュリは齢60を超えている。
 長い冒険航海は、死を覚悟の上の旅立ちだった。
「諦めないでください、どうにかしてまた帰国し、やりなおしましょう」
「私は船に残るよ、これには私の生涯をかけた技術が詰め込んであるからね。 この地の人々に技術を教えながらお迎えを待つ事にするよ。 貴方はまだ若い、祖国へ帰りなさい」
「いや、俺も残ろう、ここは俺と父と母が出会った地。 ここも俺の祖国だ。 今の未発達な状態では、いずれどこかの国に征服されてしまうだろう。 戦争の悲劇を防ぐために俺も機械技術をこの地に伝える事に人生を捧げよう」
 二人は、陸に張り付いた光纏船と共にクオンの大地に残った。
 この事故と英断がなければクオン大陸は、植民地として略奪の歴史を余儀なくされただろうと言われている。

 イドル側から二隻の船が脱落し、形勢はウーノ側有利に傾いたかに見えたが、そうではなかった。
「……おぉ……この辺りは暗礁海域ですか……交易航路からは除外いたしましょう……」
 レンカの真の目的は世界の果てにはあらず、安全な遠洋交易路の確立にあった。
 そのために最新技術を使用した光纏船を利用したのである。
 航路確立後、レンカは貿易拠点となる町を開拓、自ら町長となり、クオン大陸南方の開拓と、本国との資源交易に注力する事となる。

 こうして、残る光纏船はウーノ側とイドル側一隻ずつになった。
 一見、条件は五分に見えたがハネダの航海は困難を極めた。
 なぜならば、世界の果ての存在を信じて旅をする事は“アケロンの雲”が巻き起こす豪雨や、船を連れ去るという巨人の腕の存在に怯えながら未知の海域を往かねばならないという事である。 
 そして、ウーノ教の船にはそれに対する備えは何もなかった。
 船が進む度に、ウーノ信者である船員たちの恐れは増大した。
 ハネダは祖先の正しさを証明すべく、恐怖を押して進み続けたが、船体の耐久力に限界が訪れ引き返さざるをえなくなった。
 最新の光纏船を以てしても、世界の果ては余りにも遠かったのだ。

 ハネダの帰港から2年が経った、1552年。
「戻ってこられるはずがない、イドルの船は海の果ての滝に呑まれて消えたのだ。 世界が丸いなどと信じた愚かものの末路だ」
 消息を消した最後の光纏船について、貴族たちがそんな嘲笑を漏らしていた時、一隻の船が港に到着した。
「あれは!」
 艦首にはためく、イドルの旗。
 2年前に出航した、小アイリスの5号艇に間違いなかった。
 タラップから故国に降りたった小アイリスは、集まってきた人々にこう宣言した。
「私は今、世界の果ての土を踏んだ。 世界を一周して踏みしめたこの土こそが、世界の果てなのだ」
 どよめく人々。
 アイリスの言葉は即ち“世界は丸かった”という意味に他ならない。
 ハネダが、群衆の中から歩み出てきて反論した。
「ホラを拭くな。 お前はどこかで適当に引き返してきて世界を一周してきたなどと誤魔化しているのだろう。 あるいは巨人の掌に船を掴まれて別の海に運ばれ、世界を一周したと錯覚してしまったに違いない」
 ハネダの顔には千年のプライドを守ろうという、義務感が滲みでていた。
 だが、小アイリスは真顔で返答した。
「巨人? そんなものはいなかった。 巨人が地面の下にいるなら、その巨人を支える地面はどこだ? 堂々巡りじゃないか」
 学のない庶民にもわかりやすい論証だった。
「ハネダ船長、キミは2年前マデの港に寄ったね、ドト港にも寄った。 港に置いていったキミの船の壊れた部品、破れたマストを回収しておいたのだよ」
 ハネダが血のにじむような航海の中で残した残骸こそが、小アイリスが世界を一周した証拠に他ならなかった。
 ハネダは、世界の果てと言われたその地に膝をついた。
 千年前の祖先の発言が妄言だったと思い知らされたのだ。
「信じた俺が馬鹿だった……」
 その呟きと共に、人々の中でウーノ教への信仰が砕けた。
 
 小アイリスの船が、紆余曲折を経つつも、世界一周の旅に耐えたのには理由がある。
 5号艇の船体は、光纏水“ライトヒール”で育てた木を使って造られていたのだ。
 現在ではブレスシールドと呼ばれる、木材を金属並に頑丈にする工法である。
 そして、その光纏水により船員たちも健康を保ち続けた。
 単純な頑丈さと健康こそが、冒険に必要なものだったのだ。
 世界の真の姿は、ついに確認された。
 その過程で得られた海の外の文化は、後に様々な形で革命をもたらす事になる。


 開明編収録を終えたスタジオ。
「自分たちの力で世界一周をしたかったけど、残念だったね」
「流石にオーパーツ過ぎたか」
 シェリーと雪ノ下が嘆息する。
「ともあれ、中世脱出成功はよかったじゃないか」
「そうですよ、植民地の悲劇も防げそうですし」
 二人を元気づける鐘田と文歌。
「……その辺りで現実の歴史とは違った展開になりそうですねぇ……」
「次は産業革命、政治的な革命などを経て近代に至る物語といったところか」
 恋音とアイリスは、もう次章の企画書を読み始めている。
 次回“革命編”乞うご期待!


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 深淵を開くもの・アイリス・レイバルド(jb1510)
 外交官ママドル・水無瀬 文歌(jb7507)
重体: −
面白かった!:6人

いつか道標に・
鐘田将太郎(ja0114)

大学部6年4組 男 阿修羅
蒼き覇者リュウセイガー・
雪ノ下・正太郎(ja0343)

大学部2年1組 男 阿修羅
大祭神乳神様・
月乃宮 恋音(jb1221)

大学部2年2組 女 ダアト
深淵を開くもの・
アイリス・レイバルド(jb1510)

大学部4年147組 女 アストラルヴァンガード
外交官ママドル・
水無瀬 文歌(jb7507)

卒業 女 陰陽師
もふもふコレクター・
シェリー・アルマス(jc1667)

大学部1年197組 女 アストラルヴァンガード