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マスター:スタジオI
シナリオ形態:シリーズ
難易度:普通
形態:
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/07/14


みんなの思い出



オープニング


 戦闘テニスの練習試合が行われてより、数週間。
 死のリングを体内に埋め込まれている四ノ宮 椿(hz0294)とリズの元に、一通のビデオメールが届いた。
 対戦相手であるテニスヴァニタスユニスからである。
『この間はお返事ありがとう、代理人を使うそうですのね。 黒髪の方が老いさらばえているのなら、仕方のない話だわ。 よくってよ』
「老いさらばえてはいないのだわ!」
 今年三十歳になった椿、ビデオの中のユニスに怒鳴り返す。
『ただ未熟なプレイヤーに対して一方的な試合をしてもわたくしが満足できませんわ。 せめてものハンデにこちらの戦力を公開しても、あげてもよくってよ』

 画面が切り替わり、屋外テニスコートが映る。
 そこに肥満体を鎧でガチガチに固めた大男と、虫を思わせる羽根を生やしたスレンダーな女性が立っていた。
 二人ともヴァニタスらしい。
『彼らが一組目のダブルスチーム。 モスキート親子ですわ。 息子のモス様は見ての通りのパワープレイヤー、母親のキート様はスピードスター――でも、それだけではなくってよ』
 画面の中では練習試合が行われていた。
 キートが俊敏に動いて打ちかえす。
 その球は、時に針のように鋭く相手に突き刺さりダメージを与える。
 だが致命傷にはならないようで、相手チームとのラリーが続いた。
 一方、モスはほとんど動いていない。
 鈍重そうな体でボーと突っ立っているだけだ。
 実質二対一という対戦。
 勝負はデュースとなり、相手チームに1Pでも入れば負けという場面。
 キートがサーブを放った。
 だが方向が見当違い。 大きく右側へと飛んでいく。
 フォルトに見えたその打球は、だが突然、空中でピンボールの如く跳ね返り相手チーム前衛の体に突き刺さった。
「何なのだわ。今の?」
 椿の問いかけを見越したかのように、ユニスがナレーションで答える。
『モス様は、睨みつけた場所に一瞬だけ不可視の反射壁を出現させられますの。 つまり、どこからどう球が跳ね返り襲ってくるかわからないのですわ』
「好きな場所に壁を作る? 左官屋みたいなのだわ!」
「応用すれば、いろいろ出来そうな技ざますね」
『それだけではありませんわ、さっほどからキート様が地道に相手の生命力を吸い上げていたのをご覧になって?』
 そういえば、何度かキートの打球が相手の体に突き刺さり、そのたびに相手が弱ってきている。
『キート様は、吸いあげた生命力をモス様に送る事が可能なのです。 そしてモス様はその生命エネルギーを体内に蓄え、破壊エネルギーに変換できる』
「なんですって!?」
 画面の中では、溜まりに溜まったエネルギーをモスの巨体が、破壊オーラとして纏っていた。
 恐ろしい破壊力を孕んだサーブが、相手後衛めがけて撃ちこまれる!
 ボールは、相手のラケットを粉々に破壊し、さらには胴体に大穴を開けた。
『これがモスキート親子最強のコンビ技“デストロイブラッド“ですわ』
「なんという厨二臭い技名!」
「けど、恐ろしい! 生身で受けたら撃退士でも粉々になりかねないのだわ!」


『二組目は日霧兄妹ですわ』
 次なるコート。
 青空の下に、白の開襟シャツに、白のパンタロン姿の暑苦しい系イケメンが登場した。
『やあみんな! 僕が魔界の太陽! シャインマンだよ!』
 その影には、白い着物を着た銀髪白皙の少女。
『さぶ! 兄貴とは一緒にやってらんないつうの! あっ、霧子っすヨロで』
 どうやら兄妹らしい。
「こっちはイロモノ系なのだわ」
「さっきのもたいがいだった気がするざます」
 椿たちに呆れられたヴァニタスの兄妹。
 だが、試合が始まると同時にすぐさま異変は起きた。
 霧子の体から、大量の白霧が発生し、コートに立ち込めはじめたのだ。
「霧!? 撃退士のナイトミストに似ているけど」
「白い霧を漂わす技みたいざますわね」
 だが、濃霧とはいえ完全な闇ではない。
 相手チームは目を凝らして、飛んでくるボール、そして日霧兄妹の動きを見極めてどうにか、ラリーを繋いだ。
 その瞬間! シャインマンの指パッチン音が響いた。
『イッツア! サニータイム!』
 霧が嘘のように消え去り、代わりに太陽の如く輝くスマッシュが飛んできた。
 瞳孔を開き切っていた相手は、輝きに目をやられ打ちかえす事が出来ない。
 体を直撃した小太陽は、相手前衛の体を焼き尽くした。
「こ、これは……」
「霧の中で注視をしようとすると、突然、眩い光が――それに目を焼かれた隙に、身を焼かれるというコンビネーション攻撃のようざます」
「そんなもの、グラサンをかければ眩しくないのだわ!」
「バカざますか! そんな事をしたら霧の中で何も見えなくなるざます!」
 ごちゃごちゃ言うアラサー二人だが、対策は見いだせない。
 さらに、動画は続く。
『この二人の攻撃はこれだけではなくってよ』
 霧子がラケットに雷を纏わせ、サーブを放った。
 電撃を帯びた玉が、相手コートに飛んでいく。
 だが、相手はラケットを振る事が出来ない。
 まるで感電したかのように身を震わせている。
「なんで? まだ触れていないのに?」
「霧ざます! 霧を導体にして、電撃を浴びせているざます!」
「それじゃあ、逃げようがないのだわ!」
 感電した相手に電撃球が直撃し、相手を激しいスパークに包み込んで昏倒させた。


「すると三組目がユニスという事ざますか?」
 十年前、ユニスと戦闘した二人。
 その恐ろしさは身に染みて理解しているつもりだった。
 当時からテニスの基礎はもとより、他のメンバーより上なユニス。
 さらには体の周りの重力を操ることにより、身を軽くして球に追いく事が可能。
 また打球に超重力をかけて、相手の頭上に直角に落とす“グラビティクリフ” 
 さらには相手を押しつぶす“グラビティナックル“を得意としていた。
『わたくしの戦術は、お二人がご存じの通りですわ、ただ技の破壊力は増していますのよ』
「これは、生命保険を増額しておいた方がいいざますかねえ」
 絶望し、自分亡きあとの幼い妹たちを心配するリズ。
『ちなみに、私のパートナーのジャニスも同じ事が出来ます。 ジャニスは天才なのですわ。 他のメンバーが出来る技は全て習得済ですの。 あなたがたが連れてきた選手の技も、おそらくは試合中に全てマスターしてしまうでしょう』
「つまり、こちらが強力な技を使えば使うほど……」
「ジャニスという奴が強化されるこという事ざます」
『オホホホッ、どんな強力な技を用意してきてもよくってよ。 私とジャニスのコンビはそれを採りこんで新たなコンビ技に昇華させる事さえ可能なのですわ、真の天才とはどんなものか、あなたがたは目の辺りにする事となるでしょう』
 青ざめる二人。
 だがこの時、ユニスが妙な提案をしてきた。
『ところで、ルールをフル武装に変更してもよくって?』
「え?」
『最近、私たちの技の威力が増し過ぎて練習相手がすぐに死んでしまいますの。 それでは面白くないでしょう? じわじわと苦しんでいただかないと』
「椿! これは!」
「敵の舐めプは勝ちフラグ! 来たのだわ!
 決戦の日が二人の命日となりうるか?
 全てはキミ達の腕とV兵器とコンビネーションにかかっている!


前回のシナリオを見る


リプレイ本文


 撃退士たちが到着した時、網球村テニスコートには、すでに六人のヴァニタスたちが待ち構えていた。
「御機嫌よう、ばっちり武装してきたようですわね、よくってよ。 それがあなた方の死に装束なのですから」
 ビデオにも出てきた金髪縦ロールの女、ユニスとその仲間たちだ。
「要するにこいつらコロコロしていいんだな?」
 ニヤニヤ笑いを浮かべるラファル A ユーティライネン(jb4620)。
「自信家ね。 そういう方の心が折れていく姿を見るのは楽しいものでしてよ」
 高笑いするユニス。
「果たして心が折られていくのはどっちかな?」
 ミハイル・エッカート(jb0544)が、グラサンの奥から眼光を飛ばす

 彼らの後ろには、青ざめた顔の椿とリズがいる。
「あいつの顔を見たら十年前のトラウマが復活したざます」
「やだー! 少女のような美しさを保ったまま死にたくないのだわ」
 ジタバタする椿。
「ツッコミどころはあるが、あえてスルーしよう」
 天風 静流(ja0373)が大人の配慮を見せる。
「お二人とも、命の心配なんかする暇があるなら、僕らに奢る夕飯のメニューでも考えていれば良いんです」
 二人を励ます咲魔 聡一(jb9491)。
「咲魔さんに奢ると、財布の中身の方が心配になりそうですけどね」
 苦笑する仁良井 叶伊(ja0618)。
 二mの長身を誇る彼もエンゲル係数は高そうである。
「とりあえず二人とも、これ飲んで落ち着いて」
「ありがとう……なにこれ?」
「ボクの自家製コーラですよー?」
「普通、コーラを自作したりしないざます」
「ボクはオトナですからー! コーラはオトナの飲み物!」
 イリス・レイバルド(jb0442)がナイチチ張ってドヤ顔している間に、時計の針が一戦目の開始時間に到達した。


 コートに全身を鎧で固めた大男と、スレンダーな女が入る。
 男の方が老けているように見えるが、血を分けた母子である。
「血の吸い出がありそうな男がいるじゃないか」
 母親のキートが妖艶に舌なめずりをする。
 その眼光の先にいるのは、長身で格闘家でもある仁良井だ。
「冥界の貴族階級に連なる我々を満足させてくれそうだ」
 キートの言葉を聞いた咲魔、ピクリと眉を動かす。
 こんな会話を冥界でも聞いたことがあった。
「母様、眼鏡の方は?」
 咲魔を見やるモス。
 それに対する答えは咲魔自身が答えた。
「よさげな御身分だな、“腐った血の一族“の出である僕の血など上品な胃には合わないんじゃないか?」
「貴様あの森の民か。 おぞましい」
 咲魔に侮蔑の息をかけるキート。
 冥界で差別を受けて生きてきた咲魔に、忘れかけていた劣等感が蘇り始めていた。

 ファーストサーブは仁良井。
 ラケットにスマッシュのスキルを込める!
「はっ!」
 二mの長身から打ちだされる高速サーブ!
 狙いはモスの足元!
「う!?」
 見た目通りの鈍重さながら、モスは辛うじてそれを打ちかえした。
 だが、ただ当てただけの凡球。
 仁良井は全力跳躍でサーブラインからネット際まで詰め寄ると、返ってきたボールをネットの相手側ぎりぎりに落とした。
 先取点!
「順調ですね!」
「……」
 ハイタッチを求められた咲魔の貌は、精彩を欠いていた。
【15-0】

「流石のビッグサーバーだな仁良井は」
 ベンチでミハイルが満足そうに微笑む。 
「ビッグサーバーねえ……おっきいことはいいことだよね、ふ〜ん」
 小さい事がコンプレックスのイリス、ややふて腐れ気味。
「そうじゃない、高速サーブ主体のプレイヤーの事を言うんだ。 サーブが高速なら打ちかえしにくいし、例え打ちかえされても今みたいな凡球が精一杯。 そこで得点を狙うというスタイルだな」
 静流が説明した後、ラファルが首を傾げた。
「でも今のプレイは、おかしいだろ」
「え?」
「今、咲魔が前衛だったのに動かず、仁良井が無理してネット際まで全力跳躍していた。 あのエリアは咲魔がカバーするのが自然だよな?」
「そういえば」
 咲魔の異変に、ベンチ勢も気付き始めた。

 キートのラケットから針が放たれた。
 仁良井がそう錯覚するほどに鋭いサーブ!
 ビデオで見た通り、相手コートに刺さらず、その真後ろの空間にノーバンで飛んでいく!
(ここから反射がくる!)
 モスが作り出すという反射板は不可視! どの角度で反射してくるのかも未知数!
 だが、二人はこれに対する対策を用意していた。 
 咲魔の持つ予測回避の技“コートの声”
 これで弾道を予測し、サインで仁良井にも伝えるという手だ。
 だが、咲魔からサインはない。
(咲魔さん?)
 次の瞬間、仁良井の脇腹に針の一撃が突き刺さった。
「ぐあ!」

「仁良井さん!」
 咲魔は、仲間が傷ついた姿を見て我に帰った。
「すまない、今心が濁っていた。 コートの声が聞こえなかったんだ」
「大丈夫です、鍛えていますから」
 笑顔で立ちあがろうとする仁良井、だがその足元がふらりと揺らぐ。
「痛みは大した事はりあませんが、貧血じみた感覚ですね。 随分と飽食な蚊もいたものです。 咲魔さんも気を付けて下さい」
「奴らは僕の血など――狙われるのは仁良井さんだけだ」
「え?」
 咲魔は、自分の頬を掌でパンッと叩いた。
「すまない、さっそくタイムをもらえますか?」

 サーブ直前、咲魔はアウルを結晶化させて作り出した注射器取り出し、自らのうなじに刺した。
「やばい薬か?」
「腐った血を薄めようというのか、汚らわしい」
 モスとキートがそれを嘲笑う。
「そう思うなら仲間にコピーさせるなよな? 躊躇していたんだが、お前らがそう言うから遠慮なく使ったんだ」
 不敵に笑う咲魔
 身体能力は確実に強化された。
 とはいえ、仁良井のスマッシュサーブほどの威力は出せないことは自覚している。
 補えるとしたら、もはや血を辱められた事への反発心以外ありえない。
「はっ!」
 気合一閃!
 カーマインサーブと名付けた強化サーブ。
 狙いは、華奢なキート!
 直接体にぶち当てて倒す事を狙う。
「穢れた血が生意気な!」
 キートは体勢を崩しながらも打ちかえしてくる。
「血でコートを穢すのは貴様らだ!」
 球の甘さを突き、咲魔は再びスキルを込めた。
「ロードローラーだ!」
 球が重機の姿となり、コートを踏破!
 邪悪の鉄輪が華奢なキートを惹き潰さんとする!
「任せろ! マム!」
 モスが母親の前に飛び出た。
 ラケットが、戦車でも叩き潰せそうな巨大な棍棒に変化した。
「どあ!」
 ぶつかりあう重機と棍棒。
 互いの力が、じりじりと押し合う。
「ぐうう!」
「負けるものか! 貶められる事に! 僕自身の弱さに!」 
 咲魔が叫んだ瞬間、モスの体が吹っ飛んだ。
 球が相手コートに落ちる。
「やりましたね」
 仁良井に声を掛けられ、微笑みを返す咲魔。
【30-15】

 邪悪の鉄輪を喰らったモス。
 だが、平然と立ちあがってきた。
 全身の筋肉はコートに入った時より膨張しているかに見えた。
「私から吸ったパワーを自分の力に変換しているのかもしれません、これは急がないと」
 吸収したパワーを破壊力に変換しての必殺の一撃。 それがモスキート母子のテニスだ。
 チャージ完了前に終わらせるのが、仁良井の考える理想の展開だった。

 モスのサーブ。
「下賤な一族めが、よくも!」
 手負いの巨体から強力なサーブが飛んでくるかと警戒したが、意外に平凡な返しやすい球威だった。
 仁良井がそれを、開いた空間めがけリターンエース狙いで打ちかえす。
 だが、球の飛んだ先へまたもキート。
 スピードスターの面目か、あるいはわざと開けてあった空間だったのか?
 針の如く鋭い一撃が空を薙ぐ。
 その行く果てには、必ず不可視の反射板がある。

 仁良井は、球を見ずに咲魔だけを見ていた。
 もう一発喰らったら、仁良井はKOを免れない。
 だが開始当初、咲魔の表情を覆っていた淀みがゲームが進むたびに晴れてきている。
 今の咲魔ならコートの声が聞こえるはず!
(右だ、仁良井さん!)
 咲魔からサインを送られてきた
 だが球は鋭い! 避けきれない!
 不可視の板に反射した球が、仁良井の右脇腹に突き刺さる。
「うごっ!」
 コートに倒れる仁良井。
「仁良井さん!」
「だ、大丈夫です……サインのおかげで」
 咲魔が予測した方向に緊急障壁を張っていた仁良井。
 どうにか立ちあがる事が出来た。
 威力を軽減したものの、無傷だったわけではない。
 モスの体に、破壊のオーラが浮かびあがっている。
 仁良井に追わせたダメージを、キートを経由してモスが破壊エネルギーに変換したのだ。
 撃退士側としては避けたかったチャージが完了。
 勝負は正念場を迎えた。
【30-30】

サーバーは仁良井に戻る。
スマッシュサーブではないが、やはり強力な一撃。
タイムの時に入れ替えたスキル“専門知識”の威力だ。
しかし、モスがこれを返してくる。
「でぃやぁぁ!」
 膨張した筋肉から叩き出される真紅の破壊エネルギー! デストロイブラッド!
 咲魔は、仁良井を気遣わない
 コートの声だけに集中する。
 標的は自分だと分かっていた。
(三歩右、一歩後ろか)
 破壊エネルギーを帯びた球が、先程まで咲魔が立っていた地面にめり込む
 摩擦熱で硝煙めいた煙をあげるボール。
「躱されただと!?」
「わかっていたさ、貴様らのような輩が圧倒的な力を手にすれば、誰にそれをぶつけるかなど」
 複雑な笑みをモスキート親子に向ける咲魔。
「腐った血の民めが……!」
 点数的には王手をかけた親子が動揺している。
 精神的優位は撃退士側にあった。
【30-40】

 これにより流れが変わる。
 破壊エネルギーを使い果たしたモスの力が萎んだ事も相俟って、ペースは撃退士。
 咲魔の邪悪の鉄輪、専門知識により威力を増した仁良井のレシーブ等が決まったのだ。
 マッチポイントは撃退士チーム。
 だが、撃退士側も追い詰められていた。
 スキルの弾薬が尽きたのだ。

 残されたのは咲魔の“カーニバラスドロップ”のみ。
 勝負どころに頼れるスキルではなかった。
(練習試合で、大怪我の原因だったんだよな)
 自分が撃った球を蔦で絡めとって地面に落とす――コンセプトは間違っていなかった。 
 だが、そのために球威が落ちた上、隙を突かれ大怪我をした。
 忌まわしい記憶の技だ。
(だが、ここで敗れれば、僕はさらに大きな忌まわしき記憶に……!)
 咲魔は、モスのサーブを全力で打ちかえした。
 蔦での追尾を諦め、速度を選択。
 速球。
 だが、キートにしてみれば、充分に拾える速度だった。
「棒球か! 所詮は、腐った血の民よ」
 地面にバウンドした瞬間を打ちかえそうとするキート。
 だが――。
「か、考えられん……」
 ボールはバウンドしなかった。
 蔦が球から生えた、そのまま地面に根差してしまったのだ。
「どうだ、腐った血の一族に敗れた味は? 地を這う者だからこそお前らに考えつかない事を思いつくんだ」
 咲魔は蔦を追尾させるのではなく、球に種を仕込み、萌芽させる技へとカーニバラスドロップを進化させたのだ。
 一戦目は、撃退士側が勝利をもぎ取った。


 二戦目、撃退士側コートにあがったのは静流とラファル。
「作戦か〜、ん〜、俺が静ちゃんがヴァイエイトで俺がメルクリウスな感じだな〜」
 いきなり妙な事を言いだすラファル。
「どういう意味だ? 何かの神話の神の名だった気もするが」
「わかんないか〜?静ちゃんなら思春期を殺した感じだからわかると思ったんだけどな〜」
「なにか、失礼な事を言われている気もするな」
「静ちゃんが攻撃で、俺が防御ってこと。 とにかくヨロシク〜」

 対するは、日霧兄妹。
「え〜、マジやんの〜? だるいんだけど〜」
 やる気なさげな霧子。
「シズルもラファルもビューティガールね! 殺してミーのディアボロにしたいネ!」
 話すだけでやる気がなくなりそうなシャインマン。
 これでもコンビネーション攻撃の威力は証明済。
 果たして撃退士たちはそれを破る事が出来るのか?

 たちまち視界が白み始めた。
「こいつか」
「ビデオ通りだな」
 撃退士側のコートにだけ、白い霧が立ち込め始めたのだ。
 ふと気付けば、得点のホイッスルが鳴っている。
 サーバーの霧子がサーブを撃ったタイミングこそ音でわかったのだが、白い闇に目が慣れないままでは対応すら出来なかった。
「目を凝らせば、相手の姿が見えなくはないが――」
「そこを小さいボールが高速で飛んでくるってのは思ったより見づらいな。 まあ、まともにやって勝てる相手じゃねえ」
 ラファルは涼しい顔で言った。
【0-15】

サーバーとなったラファルは、ラケットをアウルで包み込むとその場でグルグルと廻り始めた。
「何をしている? そんなサーブはないぞ」
「まあ、黙って見てなって」
 パートナーの静流に注意されてもやめない。
「それより静ちゃんは気をしっかり持っていろよ」
 妙な注意までする。
 やがて辺りに砂嵐が巻き起こり始める。
 砂粒に含まれた砂鉄の磁力がスパークし始めた。
「超電磁TATUMAKI〜!」
 砂嵐は電磁っぽい竜巻に変化した。
 霧をふっとばし視界をクリアにしていく。
「霧は風で払う! これで正解だろ?」
「私まで巻き込むな」
 砂嵐の効果で認識障害を受けかけた静流。
 事前に警告があったので耐えられたが、危ないところだった。
 さらに竜巻の中からサーブを放つラファル。
「NAMAIKIネ!」
 打ちかえしてくるシャインマン。
 だが静流も足や瞬発力には自信があった。
 挑発に本気を込めた日霧兄妹とのラリーが続く。
 そのラリーの均衡は、静流の全身が紅い紋様が現れた直後に崩れた。  
 血界が静流の動きと力をさらに高めたのだ。
「動きに精彩を欠くな、霧に頼り過ぎていたんじゃないか?」
 静流は不敵に笑った。

【15-15】

 シャインマンからサーブが放たれる。
「ここからがショータイム!」
 撃退士たちの周囲にまたあの霧が立ち込めた。
「振り払っても、また散布してくるのか」
「だったらまた振り払うまでだ!」
 砂嵐の発動準備に入るラファル。
 静流は相手のサーブに集中する。
 パチンと指が鳴る音がした。
「イッツア! サニータイム!」
 球が太陽の如く輝き、同時に霧が晴れた。
 網膜を焼くタッグ攻撃!
 静流は、首に紐でぶら下げたグラサンに手をかける。
 だが、間に合わない。
 太陽を直視してしまう。
「くっ」
 眼が眩んだ隙に、太陽は静流の足元に沈んだ。
 相手にリードを許してしまう。
「すまん、コンボへの対策が少し甘かった」
 首にかけるのではなく、頭の上に乗せておくべきだったと思い直す静流
「あっちが勝手に霧を消しちまったから、超電磁TATUMAKIが空撃ちになっちまったぜ」
 短い会話でラファルと対策を立てると、静流はサーブの準備を始めた。
【15-30】

「なっ!?」
「ホワッツ!?」
 日霧兄妹は揃って驚嘆した。
 仁良井以上の高速サーブが炸裂したのだ。
 熟練の阿修羅のパワーに闘気解放の改良技である外式「鬼心」で威力を上乗せした結果だった。
「視界が遮られて居ようとサーブを落す位置というのは変わらんからな、敵にどこで待たれようが威力と精度をあげて押してしまえばいのだ」
「さっすが、静ちゃんゴリ押しサイキョーだぜ!」
「誤解を広げる言い方はやめてもらいたいな」
 会心の得点に舌も滑らかな二人。
 シャインマンは鋭い目で、静流とラファルを睨みつけた。
「どうやらレディにスイート過ぎたようネ。 もうミーも容赦しないね」
【30 -30】

 二度目の霧子のサーブ。
 相変わらず霧が立ち込め続けている。
「レシーバー側は厳しいな、決まった位置にサーブを落すのと、どこから飛んでくるのかわからない小さなボールを撃つのとでは難易度が桁違いだ」
 静流の言葉に霧の向こうからシャインマンの声が響いた。
「厳しい? ノー! インポッシブルね!」
「なに?」
 今度は、霧子の声。
「回避不能! エレクトリックミスト!」
 サーブを撃つ快音。
 続いて、静流を包む霧が電気を帯び始めた。
 電撃を帯びたサーブを霧子が放ったのだ。
 霧は伝導体となる。
 静流の体が電撃の痺れに侵され始めた。
「ぐぅっ!」
「HAHAHA! ユーア! ドントムーブ!」
 シャインマンが笑った瞬間、撃退士側のコートから快音。
 感電していたはずの静流が小気味よくスマッシュを決めていた。
「ホワッ!?」
 視界がクリアになりかけている。
 コートに残り、電撃を伝えた霧はごくわずかだった。
「ケッケッ、今度は最初からTATUMAKIを発生させておいたんだぜ」
 勝ち誇るラファル。
 サーブは二十秒以内に撃たないと遅延行為とみなされる。
 TATUMAKIの威力が十五秒ほど続くのなら、いつ霧を発生されても充分だと言えた。
「つーか、“ミーが本気出す”みたいな事、言っておいて結局妹頼みじゃねえか! ダメアニキ!」
 シャインマンを挑発するラファル。
「マイハート ブレイク……」
 妖しげな英語を使うシャインマンを、霧子が冷たい目で見ていた。
【40 -30】

「トドメは、派手にいくぜ!」
 叫びながらサーブを放つラファル。
 だが、ただのサーブである。
「地味ね!」
 プライドを傷つけられたシャインマンが打ちかえしてくる。
「ここからなんだよ、悪魔ども!」
 ラファルは霧を吹き飛ばすための砂嵐の中で、バベルの塔を思わせる巨大ロボに変形した。
「こいつが、大怪機テニヌロボ!」
 テニヌロボはウォーウォーと不気味な吼え声をあげつつ、さらに天高くボレーをあげる。

 霧子が落ちてくるボールを迎え撃った。
 だが、
「重っ!」
 力が入らない!
 派手に演出したものの、実態は悪魔殲滅掌を応用したボレー。
 悪魔である霧子にはダメージが大きいのだ。
「どうだ! これが人間界のテニヌだぜ!」
 ウイニングボールを手に、ドヤ顔のラファル。
「絶対に違う」
 静流にツッコまれつつも、撃退士側は二勝目をあげた。


「じゃあ、帰ろーっと」
 勝ち越しを決め、とっとと帰ろうとする撃退士たち。
「お待ちなさい、まだ終わったわけではなくってよ」
 それをユニスが呼び止める。
「わたくしたちとの三戦目が残っていますわ」
 振り向く静流。
「勝ち越したら解毒剤をくれる約束だろ? 試合を続ける理由はない」
「ミハイルさんやイリスさんの命を危険にさらしてまで、テニスをするという選択は我々にはありませんね」
 仁良井も袖に振る。
「それとも何か? 今からドンパチしようっての?」
 ラファルは、ガトリング砲を構えた
「そうではありませんわ、金髪と黒髪の分に関してはお約束通り確かに差し上げましょう」
「“分”だと?」
 不穏な気配にグラサンを光らせるミハイル。
「十年前、この村に植えて置いた“種”は二粒だけではありませんのよ」
「つまり、負けっぱなしでは面子が立たないから村人の命を盾に、僕たちを一人でも潰そうと、そういう事だな」
 ユニスが咲魔の言葉に冷笑を浮かべる。
「そうとって頂いて、よくってよ」


 三戦目のコートにあがるイリスとミハイル。
「愛と絆だよ! 顔も知らない人たちだけど死なせるわけにはいかないからね!」
「不味い酒は飲みたくないからな、付き合ってやるか」
 悪魔側のコートにはユニス、そして黒髪短髪の素朴そうな少女があがる。
「お姉さま、手加減はしなくてよろしいのでしょうか? 老人とチビッ子のようですが……」
「よろしくってよジャニスさん、相手は撃退士ですもの、老人だろうがチビッ子だろうが、敵兵には代わりありませんわ」
「誰が、チビッ子かぁぁぁぁッ!」
「誰が老人だ! 働き盛り男盛り三十歳! 老いさらばえちゃいないぜ!」
 ミハイルもイリスも煽り耐性が低い。
 相手は、最強を自称するデビルテニスタッグ。
 冷静さを欠いた状態で、無事コートを降りる事が出来るのだろうか?

 ファーストサーブはミハイル。
 その青い眼はユニスに、照準を付けている。
 中年どころか老人扱いされ、最初から殺す気満々である。
「ロックオンしたぜ、覚悟しろよ」
 不可避の隼――スターショットの改良技。
 今まさに、死のサーブを放とうとした時だった。
 ロックオンが急に解除された。
「なに?」
 いつの間にか、辺りに白い霧が立ちこめ、視界を覆い尽くしている。
「噂のコピー能力か!」
「霧子ちゃんの能力をコピーしたんだ!」
 ミハイルの、サーブはもう構えに入っている。
 仕方なく、照準なしでサーブを放つ。
 相手の動きが見えないが、仕方がない。
「甘くってよ!」
 打ちかえされた。
 仁良井や静流の球威に匹敵するレシーブが、ミハイルの背後をバウンドしコート外へと通り抜ける。
「霧は厄介だね〜、まあ対策はあっけどね〜」
「まずは頼めるか? 俺も対策はあるが、球が撃てないと使いようがない」
 当面の霧対策をイリスに任せ、ミハイルは相手のサーブを待った。
【0-15】

 ジャニスがサーブの準備をしていると、金色でちっこい物体がパタパタ羽音をさせながら上空に現れた。
 イリスが陰陽の翼を使い、たちこめる霧の上に舞い上がってきたのだ
「視界良好っだね〜!」
 霧は上空十メートルほどまで、しかも撃退士側のコートしか覆っていない。
「小娘に見下ろされる気分はどうだい?お・嬢・様」
 ユニスたちを煽り返すイリス。
「まあ、お下品な! そんなに高く飛んでは、スカートの中が丸見えですわ!」
「そんなハッタリ通じないから〜! ボクのスカートは鉄壁だから〜」
「お姉さま、あのチビッ子、無理のある事を言っています!」
「ジャニス、目障りなら打ち落としてもよくってよ」
 タウントを使っている事が作用したのだろうか?
 無視すればいいものを、わざわざ視界が開けているイリスを狙ってサーブを放ってきた。
 その瞬間、一瞬だがジャニスの姿が巨大ロボに変形する。
「あれは俺の技!」
 ラファルの強力なロブショット“大怪機テニヌロボ”はすでにコピーされていた。

「ボクは悪魔じゃないから!」
 上空から打ちかえすイリス。
 しかし、流石はテニスヴァニタスの長・ユニス。
 位置エネルギーをも押しのけ、再びロブで打ちかえしてくる。
 ボールはブラックホールめいた黒いオーラを纏っていた。
「これが噂の、グラビティなんちゃらか!」
 用意しておいたカウンター技を放つ。
「レイブレイク グラビティ!」
 重さを力に変換するスキル、アーマーチャージ。
 イリスはそれを利用し、重力ボールにラケットを当て威力を増大させたのだ。
轟音をたてボールが流星の如く、コートに突き刺さった。
「ふっ、風がボールの軌道を変える事はある――今は、風の代わりにボクがいた……ただそれだけのことさ」
 前回の失敗をバネに、イリスはクールに決めた。
【15-15】
 
 だが、ユニスには動揺がない。
「まあ、はしたないテニスですこと、パンツを見せながらなんて」
 テニスで鍛えた握力の賜物なのか、地面にめり込んだ球を、軽々と素手で引き抜く
「見えてないからー! 鉄壁だからー!」
 上空でチビッ子が何か言っているが無視する。
「お姉様、お耳を」
 ジャニスが小声で申告してきた。
「今の技にカウンターする新しい合体技を思いつきました」
「まあ素敵、折を見てお見舞いさしあげましょう」

 イリスのサーブはただ単純に、上空からの位置エネルギーを以て打ち降ろされた。
「はい、ドーン! メテオ的なー!」
 だがユニス、両手打ちでそれを打ちかえしてくる。
 今度はイリスへのロブとはいかず、平凡なレシーブとして霧に包まれた撃退士のコートにボールは向かった。
 その中にいたのはミハイル。
 彼は打球音と索敵スキルにより、おおよその気配を察知した。
「半分勘になるが、やるしかねえな」
 ラケットにアンタレスのスキルを込め、振う。
 ガットが捕えたボールは巨大な炎の隼を為した。
「こいつが“戦う男の煉獄炎”だ!」
「こけおどしを!」
 その隼を、蠅叩きの如くスマッシュするジャニス。
「久々にお前らの顔を拝めたぜ! 戦意も昂ぶるってもんだ!」
 隼の纏う炎は、ミハイルの視界を封じていた霧を吹き飛ばしていた。
「しまった」
 ジャニスの動揺を狙い再び“戦う男の煉獄炎”
 二羽目の隼はより一層の炎を増し、ジャニスを襲った。
「ああ!」
「ジャニス!」
 炎に包まれ、コートに倒れるジャニス。
「やったか?」

 やっていない。
 ジャニスは己の周りに霧を発生させ、その水滴で炎を消した。
「くじけたりしません! お姉様と同じコートに立っているんですもの!」
 体のところどころを焦がしながらも、力強く立ち上がる。
「ジャニス……!」
 目をきらきらさせて、見つめ合うユニスとジャニス。
 向かい合ったまま、ぎゅっと両掌を繋ぐ。
「火が消えたってのに、熱っいねー?」
「視界が良好だと、見たくないものまで見えちまうな」
【30-15】

ユニスのサーブは強力だった。
 重力により重みを増した球を、ミハイルは渾身の力を込めてどうにか打ちかえした。
「くっ」
 ユニスとジャニスが、同時にその球に喰らい付く。
「いくわよ、ジャニス!」
「ええ、お姉様!」
 二人のラケットが同時にその球を打つ。
 放たれた球は黒いロブショット。
 球に重力を帯びさせるグラビティナックルに見えた。
「その技は対策済っだからー!」
 同時打ちが気になるものの、先程と全く同じ状況。
 先程と同じ、レイブレイク グラビティで打ち落とさんとする。
 だが、ラケットが球を捕えた瞬間から状況は変わった。
 球から蔦が萌芽、一瞬のうちに伸びてきたのだ。

 ベンチにいた咲魔が叫ぶ。
「あれは、僕のカーニバラスドロップ!」
 蔦はイリスのラケット、そして腕に絡み付いていた!
 超重力の球がイリスの体ごと、地面に落下してゆく!
「わぁ〜!」
 蔦と重力に捕らわれ動けないイリス。
 地面に激突すれば、幼い命が散るのは誰の目にも明らかだった。

「イリス!」
 イリスの体を両腕で受け止めるミハイル。
 軽いはずの幼女の体が、超重力とそれによる加速を帯び、大人の男であるミハイルの腕に多大な負担を与えた。
「うくっ」
 呻くミハイル。
「ミハイルくん!?」
 イリスは無事だったが、重力で速度を増したイリスの落下を腕だけで受け止める結果になってしまった。
「だ、大丈夫だ……企業戦士は世間の荒波に耐えるものさ」
 強がるものの、ラケットを握り直そうとしただけで激痛が走る。
「老体には堪えるでしょう、棄権してもよくってよ」
 高笑いするユニスたち。
「誰が老体だ……イリス、やるぞ」
「やるって、あれを? 」
「そうだ、腕が砕けようともう一度だけ振ってやる!」
 ラケットを握り、立ちあがるミハイル。
「ジャニスを狙うぞ! 本当はユニスを仕留めたい所だが、大人だからな……ダメージが残っている方を確実に仕留める」
「でもその腕じゃ」
「大人だが……いくつになっても男は男なんだ」
 ミハイルの決意が揺るがない事を察すると、イリスは決意を汲んで頷いた。

「椿とリズばかりか無関係な村人まで! 人の人生を弄びやがって!」
 傷ついた腕でラケットにピアスジャベリン『PJ』を混めるミハイル。
 激痛を受け入れつつ、球を打ち付けた。
「ぐう……今だ!」
 砕けゆく両腕の痛みを抑えつつ、ミハイルが声をかける。
 イリスも準備は出来ている。
 タイミングを合わせて体を回転させ、神輝掌を帯びさせたラケットでミハイルの球に加速を付ける。
「煌け光輝なる刃! 奇跡となりて魔を穿て!」
 貫通力を得た球は螺旋を描き、飛ぶ!
「避けなさい!」
 ユニスの指示にジャニスは体を開いた。
 だが、間に合わず魔を屠る輝槍はその肩を穿った。
「はぅっ……」
 肩の肉をごっそり持っていかれ蹲る。
「ジャニス!」
 駆け寄るユニス。
 脂汗を掻きながらもジャニスは、落ちたラケットを握ろうとする。
「……お姉さま、まだやれます」
「だめよジャニス……この試合だけじゃない、私たちはずっと一緒にコートに立つのよ」
「お姉様……」
 審判に棄権宣言を送るユニス。
 だが、同じ宣言をミハイルも同時に送っていた。
 両腕はもう動かなかった。
「残念だがこっちもだ、引き分けだな」


「さあ、デスリングを解除してください」
 三試合が全て終わり、仁良井はユニスにそう迫った。
「村人分が引き分けで足りないなら、ボクが土下座するから」
 自称“世界一の土下座”を見せるイリス。
 ユニスはそれを笑った。
「おーほほっ、それは出来ませんわ」
「なぜ?」
「村人の件は方便ですもの」
「嘘だったのか」
 溜息をつく静流。
「だって、十年も楽しみにしていたのにわたくしとジャニスだけ試合なしで帰るとか耐えられませんもの」
 むくれるユニス。
「口調が、芝居がかっていたのは感じていたが」
「ちっ、悪魔のくせに可愛い嘘つきやがって」
 嘆息する咲魔と、舌うちするミハイル。

 椿とリズがユニスの前に立つ。
「デスリングを解除するにはまた接吻が必要ですの、覚悟はよくってよ?」
「めんどくさい、とっととやるざます」
 リズは面倒くさそうに言ったが、椿は真っ赤になって震えている。
「キ、キス……他に方法はないの?」
「往生際悪い、一度された以上、同じざましょ?」
「違うのだわ! あの時は気絶していたからノーカンなのだわ! ファーストキスは素敵な人と」 
 ごちゃごちゃゴネまくる椿。
 リズが、面倒だとばかりに叫んだ
「こうなると思っていたざます……ラファル!」
「ほい来た!」
 待ってましたとばかりにラファルが、椿の後頭部にラリアットをくらわせる。
 バコターンと倒れる椿。
 気絶している間に、キスでデスリングを解除してもらい、一件落着。
 リズは椿の分まで厚く感謝の言葉を述べた。

「また来ますわ! いずれこの地は私たちのもの! テニスの誘いは断らせなくてよ!」
 捨て台詞を残すと、ユニスたちは自分たちの世界へと帰っていった。
「あいつら、思い切りテニヌしたいだけだな」
「人騒がせな連中です」
 命がけの激戦後なのに、撃退士たちの顔には苦笑が浮かんでいた。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: ハイテンション小動物・イリス・レイバルド(jb0442)
 Eternal Wing・ミハイル・エッカート(jb0544)
重体: Eternal Wing・ミハイル・エッカート(jb0544)
   <男の意地を見せた>という理由により『重体』となる
面白かった!:4人

撃退士・
天風 静流(ja0373)

卒業 女 阿修羅
撃退士・
仁良井 叶伊(ja0618)

大学部4年5組 男 ルインズブレイド
ハイテンション小動物・
イリス・レイバルド(jb0442)

大学部2年104組 女 ディバインナイト
Eternal Wing・
ミハイル・エッカート(jb0544)

卒業 男 インフィルトレイター
ペンギン帽子の・
ラファル A ユーティライネン(jb4620)

卒業 女 鬼道忍軍
そして時は動き出す・
咲魔 聡一(jb9491)

大学部2年4組 男 アカシックレコーダー:タイプB