●
撮影スタジオに置かれたテーブルに二人の出演者が座っている。
後方では、戦闘シーンの撮影が行われているようで、爆発音やら悲鳴やらが響いていた。
『メイキングオブEYN 今日は待望の学園生編! 現在、特撮スタジオでは、大規模作戦シーンの真っ最中! そんな中、最初に参加してくれたのはこの二名』
美しい金髪をツインテにした幼い少女が、折り目正しくお辞儀する。
「イリス・レイバルド(
jb0442)役のセレス・カレイドシップです。
その隣、同じく金髪の外国人男性がグラサンを軽く外して碧眼を見せる。
「ミハイル・エッカート(
jb0544)役のガブリエル・チェルノフだ、宜しく頼む」
過去の撮影中風景が映る。
背中に特殊メイクの羽根を付けたイリスがワイヤーロープで吊られて、高度三mほどを飛行しているシーン。
「天呼ぶ地呼ぶ人が呼ぶ! ボクを呼ぶ声がする! そう、ボク参上!」
びしっとキメ顔のイリス。
その時、ワイヤーロープの金具が弾けた!
セットの上に落下してゆくイリス!
瞬間、セットの中で銃を構えていたミハイルが、銃を放り捨てざま、イリスをダイビングキャッチ!
何が起こったのかわからない様子でお姫様抱っこされているイリスに、ミハイルは優しく微笑みかけた。
『いきなりのハプニング! ミハイルさんのファインプレイでイリスちゃんは無傷で助かりました。 このシーン実は本当に起きたNGシーンを監督の機転でドラマ本編に折りこんだものなんです!』
「落っこちた時は何が何だかわかりませんでした、気が付いたらガブリエルさんの腕の中にいたんです」
イリスを演じるセレスは、まだ小学生の外国人子役タレントだ。
「俺もとっさだったからな、セレスがちっこいお蔭で助かったぜ」
爽やかに笑うガブリエルはロシア出身の元ファッションモデル。
「誰がちっこいかー!」
ガブリエルの耳元でいきなり叫ぶセレス。
これは自分の役柄であるイリスの真似、いわゆるセルフパロである。
『年齢差もあり元々はガブリエルさんが怖かったという、セレスちゃん。 このシーン以来、すっかりガブリエルさんに懐いているそうです』
「ハハハ、今では俺が、セレスに怯えているよ」
ジンジン言う鼓膜を抑えながら笑うガブリエル。
役作りのため訓練し、セレスの喉は小型出力音撃兵器化している。
「あの落下シーン以来、俺のドラマでの役割も変わったからな。 元々、どす黒い世界で生きてきた男で、あのシーンの直後に死ぬはずだったのに、脚本が変更されて内面に光が当たり、生き延びさせてもらった。 今後、ダークな面が出て、突然バッドエンドが用意されているような気もするが、俺は長く続けて行きたいぞ? なあ監督」
カブリエルが休憩中の監督に呼びかけると、何とも悪どそうな笑顔が返ってきた。
「うぉい!? 勘弁してくれ」
続いてセレスに対する質問。
『自分の役に対する印象は?』
「外見から与えられる子供っぽい印象は仕方ないと思います。 ですが年相応に落ち着いた態度を取っていれば変に弄られる機会も減るでしょう。 本当に子供に見られたくないならもう少し落ち着くべきだと思います」
生真面目な顔で答える。
役とは正反対の娘らしい。
「真面目だろ? これで役に入るとあんだけテンションあげられるんだから、将来大物になれるぜ」
イリスの頭を無意識に撫でようとするガブリエル。
ビクンと体を震わせ、ガブリエルの掌を振り払うセレス。
目つきが、ダークモードの冷たいものになっている。
ハッと気付き、慌ててフォローするセレス。
「ごめんなさい、つい」
「ハッハハッ、構わないぜ。 髪を触られるのはイリスが一番嫌がる事だからな。 役にハマりこめるのはプロの証拠だ!」
『そこに撮影を終えた美森 仁也(
jb2552)役の南野 秀治さんと、美森 あやか(
jb1451)役の西原 彩香(さやか)さんが入ってきました』
長身長髪の眼鏡青年と、女子高生くらいに見える黒髪の少女が座談会に加わる。
「役にハマりすぎて困った事ですか?」
質問をされ、思い当たらないのか困っている彩香。
夫役の南野に向かって尋ねる。
「何かある、お兄ちゃん? ――あ!」
慌てて口元を抑えるあやか。
南野がそれを見て、苦笑している。
『この二人、長い間小さな女の子とその保護者という間柄の設定、それが後になって夫婦になったため、撮影外でもこうして間違ってしまう事があるそうなんです』
南野が苦笑いのまま答える。
「脚本上で結婚という流れになった時、最初に心配したのはコメディ回だとロリコン呼ばわりされるだろうな、でしたね。 まあ、ドラマ内で弄られている間はよかったんですが」
視線を交わし、はにかむような笑みを浮かべる南野と彩香。
『そう、この二人もEYNが縁で誕生したカップルの一つ。 彩香さんの余りにも早すぎる結婚にファンは悲鳴。 夫である南野さんが、暴漢に襲われるまでの騒ぎになりました』
「襲われた翌日が“久遠の散歩道”って回の収録で久石さん――椿さんに“生き急ぎ族”ってツッコまれたんです。 “襲われたのは生き急いだ代償か“と身に包まされましたね。 でも、そう言っている椿さんが、十八才の風間くんを婿にしちゃってたんで、吹き出すのを抑えて必死に演じましたよ」
そのタイミングで、背後のセットから叫び声が聞こえた。
「仁也ーッ! 逃げろーぉ!」
「え!?」
また暴漢かと、顔を引きつらせて立ちあがる南野。
だが、よく聞いてみれば役名で呼ばれている。
振り向くと特撮セットの中で、“もう一人の美森 仁也”がジョン・ドゥ(
jb9083)役のアッシュ・メルティアと共に、アクションシーンを収録していた。
「ああ、あっちの仁也ですか」
コメカミに、冷や汗を垂らす南野
『美森仁也は、戦闘時には銀髪の悪魔の姿になるという設定。 悪魔モードはスーツアクターの林さんが演じています。 撮影現場では二人の仁也が真剣に打ち合わせをしている姿がよく見られます』
撮影を終え、アッシュが座談会の席に座った。
「ジョン・ドゥを演じています、アッシュ・メルティアです。 初めての方は初めまして。そうでない方はいつもご覧くださりありがとうございます。
やや固い面持ちで挨拶するアッシュには、二つ質問。
『役に対する印象は?』
「親友というより相棒になれそう、ですね。 ジョンという男は頭の中で常に何かを考えている性格で、そこが私と被るので……意思疎通は問題無く出来そうです」
『演じる上で心掛けている事は?』
「私でなくジョンを好きになってもらうこと、ですね、とは言え狙った演じ方もしませんが。 また戦闘等のCGのモーションアクターもなるべく私自身にさせて貰えるようお願いしています。 昔から特撮のヒーローになるのが夢で、一応身体は鍛えていましたので」
むきっと力こぶを作ってみせるアッシュ。
すると、ミハイル役のガブリエルも、無言のまま対抗するかのように力こぶを作った。
さらに仁也役の南野もムキっと腕を並べる。
大の男三人がなぜか筋肉比べをし、バチバチと睨み合うアドレナリン臭い光景がスタジオに展開される。
『俳優さんたちが、よくわからない所で筋肉比べを始めたところで、現在撮影中の最新シーンをお見せしちゃいます』
スタジオの片隅に設けられたリング。
その上で金髪ロングの少女と、茶髪ポニテの少女がグローブをはめ、激しく殴り合っている。
『ご存じの方も多いと思いますが、長谷川アレクサンドラみずほ(
jb4139)役の馳川みずきさんはボクシングの五輪日本代表メンバーに選出されました。 それを記念して制作中のEYNボクシング編! 対戦者の川内 日菜子(
jb7813)役、伊吹さらさんも役作りのためにボクシングジムに通っているという本格派です』
リングから降りてきて座談会に加わる二人。
「どうも、伊吹さらです」
さらの方は殴られ過ぎたのか、顔の一部が腫れている。
「こんにちは、長谷川アレクサンドラみずほ役の馳川みずきです」
みずきが、かつらとコンタクトをずっと外す。
その下から出てきたのは、黒髪黒瞳の日本人女性。
ファン延髄 レアな黒みずほ!
二人に早速、質問をぶつけてみる。
『この役の話を聞いた時どう思いましたか?』
まずはさらが答える。
「私とは真逆の子だなというのが第一印象でした。 活発で行動力があって、沢山の友達に慕われてて……でも打たれ弱い所は私とソックリなんですよね」
苦笑するさらは若干ふらふらしている。
演技とはいえボクシング日本代表のパンチは、初心者のさらにはきついようだ。
続いて、そのパンチをお見舞いしたみずき。
「私にできるのかなって、セレスちゃんみたいに外国人の女の子がやるべきなんじゃないかなって最初に思いましたね。 でも今では自分自身になった気がします。 これがみずほちゃんが私にくれたものかな、って」
笑顔は、黒髪になっても魅力的だった。
●
『七人揃ったところで、本格的に座談会が開始されました』
撮影現場だけあって熱気が感じられる中、話を始める七人。
二時間に及んだ座談会の中、印象的だった回答をピックアップ!
『プライベートでの交流は?』
イリス役のセレスが回答。
「ガブリエルさんが役にはまりすぎてピーマンが駄目になったそうです。 仕方ないので僕がピーマン克服の特性お弁当を作ってあげているんです」
「そういうコンセプトだったのかよ! 俺が本当に嫌いなの、気付いていないと思って避けて食べていたぞ」
「ピーマンの影も形も分からないぐらい細かく刻んでいるのに、見事に避けて食べるんですよ、この人」
気取ったようにグラサンを、指で押し上げるガブリエル。
「当然だ、ロシアにはピーマントラップ解除って国家資格があるんだ。 俺はその一級保持者なのさ」
「そうなんですか!?」
衝撃顔のセレス。
ロシアンジョークを間に受けてしまうほど、素直な性格のようだ。
続いて、そのガブリエルが回答者。
『役作りで心がけている事は?』
「嫌味な男にならないことだ。 大の大人が子供に混ざって同じ目線で仲間として行動するんだ。 なんでガキと一緒に……と思うのが普通だがそこは子供たちを一人前として扱い、時に父性を見せたり、一緒に遊んだり、三十歳の男がそこにいるが自然だと思わせるのが難しかったな」
『三十代の学生という難しい役を演じるガブリエルさん。 その特異なキャラが人気になり様々な宣伝素材にミハイルの写真が使われるまでになりました』
美森夫妻を演じる南野さんと彩香さんにはこんな質問。
『俳優を始めたきっかけは?』
「俺は子役だったんです。 体の成長が早かったんで一時挫折したんですが。 でもこのドラマに出させてもらったのがきっかけで、他の色々な仕事ももらえるようになり、皆さんに感謝しています」
対してあやかは、元々は素人。
「先にドラマに出ていた親友に誘われたんです。 中身も外見も役に一致しすぎということで、不安で一杯なのを努力でどうにかやってきましたが、まさか相手役とリアルで結婚
するとは思ってもいませんでした」
『蕩けそうな笑顔で微笑み合う二人。 ファンの皆さん、腹パンするのは、妄想の中だけにして下さいね』
『プライベートでは何をしていますか?』
これはジョンことアッシュさんへの質問。
「勉強ですね。どんな役が来ても良いよう引き出しを増やしています。 空き時間を使っているので、他の役者さんとはあまりお話しないですね。 演技しているのを横で見てはいますし、事前にどんな方か一応調べてはいますが、もしかしたらとっつき難いと思われているかも知れませんね」
すると子役からこの業界で苦労している南野からアドバイスが飛ぶ。
「もう少し俺達や他のスタッフさんとお話しましょうよ、この世界では人との繋がりが何より大事ですし、僕や久石さんみたいに出会いを捕まえることもありますしね」
『真剣な顔でアドバイスをメモするアッシュさん。 どこまでも勉強家なようです』
みずほ役のみずきには質問というより祝辞。
「五輪代表おめでとうございます」
皆からの改めて拍手に、頭を下げるみずき。
「ありがとうございます! 最初にお話を聞いた時は戦闘シーンなんかはCGで表現する、って聞いてて安心してたんですけど、台本にはボクシングの試合シーンがあったんですよ。 それでボクシングを習うことに――まさかこんなことになるとは思ってませんでした」
『頑張れみずき選手! 番組スタッフ一同応援しています! 金メダルをとれたらDVDの売上もウハウハです!』
最後は日菜子役のさらに質問。
『役にハマりすぎてプライベートで困った事は?』
「ラファル役の春原さんとはここでの共演が初対面なんです。 恋人兼相棒役という特殊な関係の配役でしたが、なんとか演じきれていたかと思います。 だって、女性の方からソッチの意味で声かけられたんですよ、私、ノーマルです!」
スタジオに笑いが広がる中、話の中に出てきた相手、機械の体を持つ撃退士・ラファル A ユーティライネン(
jb4620)役の春原ファルコがやってきた。
「さらちゃん、百合要素濃いEYNでそんな事を言っても説得力ないぜ、証拠を見せてやろう」
ラファルは、ドラマ内で日菜子と百合っプルなのだ。
「証拠?」
「さらちゃんがノーマルな証拠だよ」
怪訝そうなさらに、指輪箱を差し出すファルコ。
「結婚しようぜ、この場を借りてプロポーズだ」
真っ赤になり目を廻すさら。
「な、な、な!?」
真っ青になり目を廻しているのは、他の出席者全員だ。
「なんですか、この展開!?」
「ファルコさんがさらさんの体当たりの演技に魅せられていたのは感じていましたが、まさかこんな」
「さらさんがノーマルである証拠を示す方法が、なぜそれなんですか?」
「さらちゃんも、ファルコちゃんも女の子ですよね?」
困惑する共演者たち。
「あれ、言っていなかったっけか? 俺、男の娘専門の役者なんだよ。 だから俺は男、俺と結婚すればさらちゃんはノーマルってわけだ Q.E.D.」
劇中のラファルそのままの、悪戯っぽい笑顔を浮かべるファルコ。
「な、なんだってー!」
ファルコの真の性別に、プロポーズ以上の衝撃を受ける共演者たち。
もはや撮影どころではないくらい、スタジオ内にパニックが広がる。
そんな中、ガブリエルがぽろっと零すようにいった。
「あいつも性別を偽っていたのか、だったら俺と一緒じゃねえか」
「え!?」
「こないだ浴衣を脱がされてしまうシーンがあってな、手違いで全裸になってしまったんだ。 その時に一部の奴にはばれた」
赤面した顔を掌で覆う百八十五センチ筋肉質白人。
「嘘だー! これは絶対、嘘だー!」
もはや何が本当で何が嘘かもわからず、座談会は混沌を極めていった。
『驚愕の展開の連続で座談会は大盛りあがり! ドラマ内でも外でも衝撃を与え続けるEYNは果たして、今後どんな展開をみせるんでしょうか? 102巻以降も必見です!』