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マスター:スタジオI
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/03/21


みんなの思い出



オープニング


 某町郊外にある静海邸。
 ここに一人の芸術家が住んでいる。
 そこに立っているだけで、古典派音楽が聞こえるような中世的な美貌の青年。 
 日本クラシック音楽界の新鋭と言われる若き天才作曲家・静海 輝。
 彼の作曲法は少し変わっている。

「静海先生、お覚悟!」
 静海が愛車から自宅の駐車場に降りた瞬間、事件は起こった。
 レスリングコスを着た女が、静海を襲ったのだ。
 女は、不意打ちのアッパーを放ち、静海のアゴにかすめさせた。
「!?」
 一瞬の脳震盪に静海が揺らいだ隙に女は背後に回りこんだ。
 両腕で静海の腰をロックする。
 静海の背中を胸に乗せたまま跳躍する女。
 天空で、上体を逸らせる。
 投げの瞬間、女の全身に月光色のアウルが輝いた。
「クレセントバックドロップ!」
 文字通りの三日月と化し、女は静海の後頭部を地面に叩きつけた。
 仰向けに倒れて動かない静海。
「思い知られましかた? 静海先生」
 それを“やり切った感“たっぷりな顔で見下ろす女。
 が、次の瞬間、女は倒れた。
 右足首を掴まれ、引きずり倒された。
 静海だ! 静海が立ちあがり女の両太ももをロックしている。
 纏っていたスーツは筋肉の膨張で内側から破れ、芸術家とは思えない隆々の肉体が露わになっていた。

 女を抱えたまま、体をコマのように高速回転させる静海。
 芸術的な美貌を持つ彼だが、首から下はプロレスラー顔負けにガチムキに鍛え上げられている。
 しかも天魔の血を引いており、その戦闘力は年々増していた。
「うらーぁ!」
 雄叫びとともに、ジャイアントスイングからの投げ! 
 空に放り出され、木にぶつかって倒れる女。
 そこにトドメのエルボードロップ! 鳩尾に!
「う……は」
 意識を失う女。
 彼女の事など気にせず、静海は天から堕ちた龍の如く空を仰いで嘆いた。
「だめだ! こんな攻撃では“愛”がわからない! キミの攻撃は僕に、何の音も与えてくれなかった!」
 頭を抱え、自らの屋敷に飛び込む静海。
 その胸には苦悩が渦巻いていた。


 久遠ヶ原にある某斡旋所。
「今回もダメだったのだわね、月光蜂さん」
「面目ありません」
 相談室のソファーで項垂れている、清楚な装いの女。
 レスリングコスこそ着てはいないものの、数日前に静海を奇襲し、失敗したあの女本人である。
 世間での通り名は月光蜂。
 アウルを取り入れたプロレス、アウルレスリングを生業とするアウルレスラーだ。
 同時に、静海の幼馴染でもある。
 月光蜂の親が静海の御屋敷に仕える執事であり、幼少の頃はよく遊んだ仲だったのだ。
 だが今はクラシック作曲家とアウルレスラー。
 年々、距離は開きつつある。
「私なりに、先生に“愛”が伝わるよう工夫して攻撃しているのですが、未だに何のインスピレーションも与える事が出来ずにいます」
「あの先生、まだそんな作曲法を続けているのだわ」
 溜息をつく独身アラサー女子所員・四ノ宮 椿(jz294)。
 彼女も静海の曲の大ファンだ。
 だが、昨年春の依頼で作曲の秘密を知り、流石に仰天した。
「天才というのは凡人には理解しがたいものです、仕方ありません」
 静海の作曲は、人と殴り合う事から始まる。
 響いた肉の軋み、骨の折れる音、悲鳴や断末魔の呻きなどからインスピレーションを得て、曲に変えるのだ。
 こんなぶっそうな作曲法なのに、完成するのは優しさと優雅さに満ちた感動的なクラシック音楽なのだから天才というのは本当に謎である。
「先生が今、依頼されている曲は“愛”がテーマ。 どうにかして完成させてさしあげたく私なりに、いろいろと工夫した攻撃をしているのですが」
 静海は現在、芸術家特有のスランプに陥っている。
“愛”が何なのかを見失っているのだ。
 そこで月光蜂は愛を込めた攻撃を静海にする事により、スランプを打開させようとしているのだ。
 ただ、上手くいっているとは言い難い。
「今回のバックドロップは、どこに愛があったのだわ?」
 椿に問われ、頬を赤らめる月光蜂。
 人前では強気な彼女も、普段は控えめな乙女である。
「そ、そのぉ……後ろから抱きしめて、背中におっぱいを押し付けるというのは、相当に愛が伝わるのではないかと」
 これはこれで一つの、正しいやり方かもしれない。
 ただ威力が足りなかったのかもしれないし、比較的ひんぬーな月光蜂のおっぱい力が不足していただけかもしれない。
 しかし相手は天才、絶対的な正解は見つけ難かった。


「一人で考えるのはすでに限界ぽいのだわ、撃退士たちに協力してもらうべき時なのだわ」
「そうですね、でも――」
 月光蜂が、何か言い淀んでいるように椿には見えた。
「どうしたのだわ?」
「静海先生って、今まで恋をしたことがないらしいんです。 男女年齢種族、何が恋愛対象になる方かわからない人で。 だからもし撃退士の方が静海先生を攻撃して、それで愛が芽生えてしまったら、その、私――」
 頬を染めながらも、何かに怯えているような月光蜂に椿は悟った。
「そういう事か、困ったのだわね」
「考えたんですけど、撃退士同士で互いに愛を伝える事を目的としたバトルをしてもらっえませんか?」
「撃退士同士で?」
「そこで“愛を伝える技”が生まれたら、私に伝授していただけないかと」
 要するに月光蜂は、自分の手で静海に愛を伝えたいのだ。
「なるほど、ただ愛が伝わったかどうやって確認するかが課題だわね。 元々、恋人同士だったり、友情を抱き合っている撃退士もいるのだわ。 それが攻撃し合って愛が深まるかどうかは――」
 わかるわけがないはずだ、本来なら。
「そこでなんですが、実はこんなものがあるんです」
 月光蜂がバックから取り出したのは、メカニカルな感じのモノクローム眼鏡だった。
「“デレウター”と言う機械です。 これを付けて戦うと、対戦相手から感じる愛を“愛闘力”という数値で表示してくれます」
「なにそれ!?」
「昔の青春ドラマとか少年漫画で、よく“殴り合っているうちに友情が芽生える“戦いの後でなぜか仲間になる”って場面があるじゃないですか、あれを“愛闘力”と名付け生涯の研究テーマにしているV兵器研究者がいたんです、今回の件を話したら喜んで作ってくれました」
「人生を無駄遣いする研究者もいたものだわ」
「デレウターが高い数値を表示した攻撃方法を私が伝授してもらい、私の手で静海先生に仕掛けようと思います。 静海先生も私も基本戦術はプロレスですが、それ以外の攻撃法でもスキルでもOKですよ、私も元は学園生なので対応出来るかと思います」
 そんなわけで“愛のあるバトル”をしてもらうという面妖な依頼が出された。


リプレイ本文


 この依頼に最初に挑んだのは、爆乳巫女の斉藤 茜(jb0810)。
 だが、受けてみて無理難題と気付き、斡旋所の前で立ち尽くしていた。
「……二回目の……依頼なのに……どうしよう……」
 そこへ現れたのが金髪拳闘令嬢・長谷川アレクサンドラみずほ(jb4139)。
「お困りですか? わたくしのボクシングで宜しければお教えしますわ」

「……よろしくおねがいします……師匠……」
 みずほは、茜に拳闘術を仕込む。
「ボクシングの基本は姿勢ですわ、膝と足首を柔らかく保ちなさいませ」
「……こう?……」
「あら! おっぱいが柔かそうすぎて、相対的に固く見えますわ」

 茜は飲み込み早く、ボクシングの基礎を習得していった。
「これがワンツーアッパーですわ、やってみてください」
「……こう?……」
「この技は! 茜さん、あなたはまさか!」
 みずほを驚愕させるパンチを繰り出した茜。
 その正体は一体?

 試合当日のリング。
 そこに茜が見た対戦相手は、みずほその人だった。
「……師匠……どうして……」
 衝撃を受ける茜。
 みずほはその問いに答えない。
 今朝までは何を質問しても、優しく答えてくれたのに。
 ただ殺気を漲らせ、茜を睨みつける。
「言葉は無用! 手加減なしですわ!」
 みずほの言葉と同時に、ゴングが鳴った!
 戸惑う茜の横面に強烈な右フック!
 必殺のExecutioner Blowが抉る!
「がほっ」
 ゴングから一秒でマットに沈む茜。
 驚愕と絶望に立ちあがれない茜を、言葉の鞭が襲う。
「立ちなさい! まだ出来るはずでしょう?」
 師の言葉に茜は目を開けた。
 自信のない自分を認めてくれた人を失望させたくない。
 その一心が、茜を起きあがらせる。 

 みずほのデレウターが反応する。
(愛闘力が3280まであがりましたわ……わかってくれましたのね、茜さん)
 みずほの信念は、リングにおいて拳を交える相手には敬意を払う事。
 自分が師になることにより、それを茜に伝える事がみずほの目的だったのだ。
「……前に……進まなきゃ……」
 茜が懸命に前に出て、拳を繰り出してくる。
 基本はジャブ。
 派手さはないが強弱をつけることによって、無限の使い道を引き出せる。
 それがジャブというパンチだと教えた。
「けれど、まだまだですわ!」
 ジャブを茜と正対象の軌道で、より速く回転させるみずほ。
 茜は気負いゆえの力みで肩に力が入り過ぎている、師としてそれを教えるための拳。
 対戦相手として、叩きのめすための拳。
 うちのめされ、ロープまで吹っ飛ばされる茜。
 目の周りは腫れ、痛々しく青あざまで出来ている。
 だが、その目は諦めていない。
 逃げずにあくまで前に出てくる。
「……ビギナーズラックだって……あるはず」
 だが、みずほはそれをサイドステップなどを駆使し、熟練の技で容赦なくさばいていく
「ビギナーズラックは、それを期待した時点で消えるのですわ!」
 かわしざまにワンツー。
 左フックで作り出した死角から、アッパーを繰り出し、宙にロザリオの軌跡を描く。
 レフト・クロス・コンビネーション!(Left Cross Combination)
(手加減無く自分の全てをさらけ出すことこそ、愛を以て戦う事。 お許しになって茜さん)
 相手が立ちあがれるかどうかは判断が付く。
 マットに沈んだ茜に心の中で言葉をかける。
 みずほが勝ち名乗りを求めて、レフリーに視線を送った時、
「……諦めない……」
 不可視のアッパーが、みずほの顎を穿った。
 脳が揺れ、みずほの意識が飛ぶ。

「……決まった……」
 茜の初ヒットは、みずほを驚愕させたあのパンチだった。
 みずほの場合、右フックを囮に左アッパーを繰り出す。
 レフト・クロス・コンビネーションという必殺技だ。
 だが、ビギナー茜にそんな高度なテクは使えない。
 そこでみずほを上回る唯一の武器を使った。
 それは乳! 
 振動する爆乳!
 これで拳隠す死角を作り、起点のわからないアッパーを繰り出す!
 これが茜流バスト・クロス・コンビネーション!
 レフリーがカウントを始めている。
「5! 6! 7!」
 テンカウントの瞬間、茜の勝利。
 だが、
「いいパンチでしたわ!」
 みずほはカウント9で立ちあがり、本家レフト・クロス・コンビネーションを繰り出した。

「……よく頑張りましたわね」 
 気が付くと、みずほの柔らかな胸に顔が包まれていた。
 茜のがでかすぎなだけで、みずほもそれなりにふくよかである。
「……師匠……ありがとうございます……」
 リング上で、ハグし合う二人の美少女。
「愛闘力が10000を超えただと……」 
「キマシタワー」。
 観客たちは、試合後の展開に期待してほっこりするのだった。


 第二試合。
 リングにあがったのは、総合格闘技部の二人。
 雪ノ下・正太郎(ja0343)と仁良井 叶伊(ja0618)。
 いわば同門対決である。
「相手は仁良井さん、同じ部活の仲間で共に鍛える友人です。 自分を良く知り、自分より強く戦が上手い男。 今回の依頼の、愛のあるバトルというテーマに最も相応しい相手です」
 試合前のインタビューで熱く語る雪ノ下。
 対して仁良井は、
「勝敗を気にする必要が無い、ですか? でしたら代わりに技の精度・魅せ方が大切になりますね、とはいえ妥協はしません。 プロレスはライブですから」
 秘めたる情熱を見せる。
 プロレス以外にも元来の格闘スタイルを持つ二人だが、今回は依頼人月光蜂にあわせてプロレスに専念する。

 ゴング!
 先に動いたのは、雪ノ下。
 低空タックルで、仁良井の膝に右肩をぶつける。
 二mの仁良井に、百七十cmの雪ノ下が優位を取る最適な選択!
 倒れた仁良井を背中に逆さまに担ぎあげ、掌と腕で手足をロックする。
 いきなりの大技、リバースゴリースペシャル!
 だが、試合は始まったばかり。
 充分に残された体力で、強引にロックをほどき脱出する仁良井。
「ここで終わったら面白くありせんからね」
 仁良井、いつもは穏やかな目を鋭く輝かせ、長身を活かした踵おとし!
 よろめいた雪ノ下にボディスラム!
 本来繋ぎ技ではあるが、巨漢の仁良井だけに、その位置エネルギーとパワーはハンパではない。
 受け身を失敗すれば再起不能になりかねない危険な技!
 だが、仁良井は躊躇なく繰り出す。
 なぜなら、雪ノ下の技量を信じているから。
 毎日の練習、昨年末のアウル格闘技大会での戦いぶり、それらを目の当たりにしているから、必ず受け身をとるとわかっている。
 雪ノ下の方も同じだ、仁良井が観客に魅せる試合をしたいと理解している。
 返されるとわかりながら、いきなり大技をかけたのは仁良井の信念に応えるためだ。
 互いを信じ尊重合う、友人でありライバルでもあるがゆえの戦い!
 仁良井が繰り出す高所からの打撃を、雪ノ下が受け流す。
 だが、仁良井、雪ノ下の意識が上に集中した瞬間を狙って、ローキック!
 バランスを崩した雪ノ下を、ロープに振ってラリアット!
 鼻の頭でそれを受けてしまい、鼻血を吹く雪ノ下。
 その脇の下に頭を差し入れ、雪ノ下の体を上下反転させて投げる力技!
 ノーザンライト・スープレックス!
(仁良井さん、この技は!)
 仁良井が格闘大会でこの技を別の選手に使用し、鼻に膝蹴りを入れられて敗北した事を雪ノ下は知っている。
 だが仁良井、あえてそれを繰り出す
「今度は返させません!」
 投げ方を変え、あの時の轍は踏まぬようにしている。
 決まればフイニッシュとなる大技!
 だが、雪ノ下は仁良井が膝蹴りを警戒するあまり、ホールド位置が遠くなっている事を看破。
 大胆極まる抜け方を敢行する。
「なに!」
 投げられる方向に体を回転させ、仁良井自身の力を利用して技を外したのだ。
 技は外れたものの、すっぽぬけた勢いでリング下に飛ばされ、背中を床に強くぶつける。
 大の字に倒れたまま動かない雪ノ下。
 レフリーがストップをかけ、救護班を呼ぼうとする。
 だが、仁良井がそれを止める。
 雪ノ下は、こんな事で沈む男ではない。
 そんな男とは日々のトレーニングを共にしてはいない。
 なにより、再び立ち上がって戦おうとする雪ノ下の魂が見えているから。

 雪ノ下は立ちあがり、20丁度でリングに戻った。
 だが肉体に受けたダメージは激しい。
 あと10秒も戦えば限界を迎えるだろう。
 「これが俺の最後の技だ」
 仁良井は、それから逃げない。
 友の渾身の技を受けるのは愛。
 そしてそれに耐えきる姿を観客に魅せる事も愛!
 タックルで崩した体勢から、雪ノ下は仁良井の長身を飛行機投げに担ぎ上げた。
 そのまま激しくスピンし、竜巻の如く空高く舞い上がる。
 宙で上下を反転させ、回転力を利用して仁良井をマットに叩きつける雪ノ下の新技。
 トルネード・ダイナミック!
「ぐほ!」
 マットに沈んだ仁良井。
 だが、雪ノ下の消耗も激しくロープに捕まって立っているのがやっとの状態。
 レフリーがカウントを刻むのを、グロッキーな頭でただじっと待っている。
 やがて、レフリーがカウント10を宣言し、雪ノ下の右腕を高々と掲げた。

 試合終了後、医務室で治療を受ける雪ノ下のところへ仁良井が来た。
 ダメージで言えば雪ノ下の方が遥かに深い。
「いやー、負けました。 さすがはアウル格闘王」
 いつもの穏やかな笑みを浮かべる仁良井。
「いや、アウル格闘大会のルールなら俺は負けていました。 仁良井さんが俺の想いを受けてくれたから勝てたんです」
 仁良井の愛闘力は12889、雪ノ下は12996。
 二人の格闘技への情熱と、友情が共鳴しあって産まれた名試合だった。


「愛が芽生えるようなバトル、ねぇ……うーん、何がええやろ」
 試合直前のインタビュー、まだ黒神 未来(jb9907)は悩んでいた。
 スポーツ漬けの人生を送っていたため、つい反射的に依頼を受けてしまったようである。
 未来は必死の思索中、急に顔を真っ赤にする。
「そ、そんな……ホンマにうちが披露するの? 対戦相手は長田クンやで?!」
 何も言っていないのに、勝手にインタビュアーに文句を言い始める未来。
 この時点でエロイこと考えているのはお察しである。
「え〜い!女は度胸や!」
 羽織っていたジャージを脱ぎ捨て、黒のスポブラとロングスパッツ姿でリングに向かう。

 一方、対戦相手の長田・E・勇太(jb9116)の方には全く期待出来ない。
「Close Quarters Combat……嫌な思い出しかデテコナイノネ」
 長田は退役軍人の女性に育てられたのだが、経歴を見る限りヘタレである。
 スナイパーとしても、救護兵としても脱落し、逃げるように久遠ヶ原に来たらしい。
 もはや観客には、イケメン型サンドバックとしてしか期待されていなかった。

 試合開始。
 イケメン型サンドバックが意外にクレバーな戦いを魅せる。
 半身になって、フリッカージャブで未来を牽制。
 未来が距離を開けたら、蹴り技で応戦という戦術だ。
 長田が恐怖する、退役軍人のババァに仕込まれただけの事はある。
 対して未来、得意のシュートボクシングスタイルのようだが、受け方がおかしい。
 長田のジャブを防御する場所が、スポブラに包まれた胸。
 自分で当てておきながら、顔を赤くして、
「何すんねん! このエッチ! スケベ! 変態!」
 と、殴り返すのだ。
「ナニがHネ! チカン冤罪ハ日本デハ人生終了ネ!」
「カタコトのくせに難しい単語知っとるやないけ!」
 一転、反撃に出る未来。
 ローキックで長田を倒す
「ウチのおっぱいを触った代償、払ってもらおうか!」
 倒れた長田のマウントをとる。
 一方的に攻撃出来る圧倒的有利な体勢!

 だが、長田もババァにボコられ慣れている。
 未来のパンチを、腕でひたすら防御する。
 相手の意識が攻撃に傾き切ったタイミングを狙って胴体を跳ね上る。
「おっ!?」
 バランスを崩し、マットに腕をついた未来の腕を取り、体勢を入れ替えて脱出!
 バックに廻り、スリーパーホールドに極める。
 長田が、未来を後ろから抱きしめている体勢である。
「どうデス? 色気付イテイルヨウデスガ、ドキドキシマスカ?」
 悪魔的笑顔で嘲笑する長田。
 頸動脈を締め上げられまいと未来はもがくが、長田の腕はがっちり極まっていた。
「コノママ寝ルとイイネ! 彼氏は夢の中デ作ルデス!」
 もはや、愛伝える戦いの事など忘却の彼方。
 痴漢扱いされ、人生終わりかけている長田。
 憎悪のまま未来を落そうとする。
 デレウターの数値も0である。
 未来は必死に呻いた。
「ブ……ブラが……」
「え?」
「外れかけとる……」
 スリーパーホールドにもがくうちにズレたのかと、未来のスポブラをガン見する長田。
 瞬間!

「かかったな! アホゥが!」
 未来は緩んだ長田の腕の間から脱出し、背負投げ気味にマットに叩きつけた。
「ぐぅ」
 再び仰向けに倒れた長田にのしかかるが、今度は殴ろうとしない。
 強引に、顔を近づける。
 唇は、タコ口になっている。
「ナ、ナニスルノネ!?」
「ウチの必殺技、リップロックや!」
 リップロック――自分の口で相手の口を極める関節技である。
 と、一部のコミカル系格闘技では定義されているが、実際は無理やりキスをして精神的ダメージを与える技である。 
 必死に唇を逸らす長田
「嫌ネ! ユーはミーの恋人チガウ!」
「愛ある闘いを見せるんや!」
「無理ヤリノドコガ愛ネ! ユーは痴女!」
「誰が痴女や! お前がウチのおっぱい触ったんやないか!」
「不可抗力ネ! 弁護士呼ぶネ!」
 なぜか決着は法廷で、というグダグダな展開になり、勝負は審判預かり。
 デレウターの数値は互いに-60000越え。
 訴えあう仲になったので、憎しみあっている。
 どう見ても未来が悪いのだが、日本の痴漢裁判は男性の勝ち目が薄いので長田君には可哀そうな人生が待っている……かもしれない!?


 試合を見終えた月光蜂は、再び邸宅の駐車場で静海に闘いを挑んだ。
「もう手加減はしません」
 今までは静海を傷つけまいと、無意識に手加減していた月光蜂。
 みずほが茜にそうしたように、手加減なしに己の全てをぶつける。
「攻撃のリズムが変わった? これは、僕の作った“愛を唄う白鳥の河”ですね」
「先生の曲をこの身に刻みこみました、愛とは相手を知る事!」
 雪ノ下と仁良井のように、相手を熟知する。
 長田のスリーパーホールドで、静海を抱きしめる月光蜂。
「先生伝わりますか?」
「つ、伝わります、愛溢れる胸の鼓動……」
「最後はこれです!」
 未来のリップロックを、静海にかけようと唇を近づける月光蜂。
 だが、
「無理やりするのは、愛ではない!」
 顔面にパンチを受け、鼻の骨を砕かれる。
 苦しみ呻く月光蜂を足元に、静海が昂ぶって叫ぶ。
「聞こえます! 僕を愛してくれる貴女の肉の爆ぜる音、骨の軋みが! 僕の中で音楽となって!」
 月光蜂は、高揚した静海にボコボコにされ全治二か月の重体となった。
 だが静海の曲が完成し、自分の愛も伝わったので幸せである。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 蒼き覇者リュウセイガー・雪ノ下・正太郎(ja0343)
 勇気を示す背中・長谷川アレクサンドラみずほ(jb4139)
重体: −
面白かった!:5人

蒼き覇者リュウセイガー・
雪ノ下・正太郎(ja0343)

大学部2年1組 男 阿修羅
撃退士・
仁良井 叶伊(ja0618)

大学部4年5組 男 ルインズブレイド
恵まれた体にヤンデレな心・
斉藤 茜(jb0810)

大学部3年288組 女 陰陽師
勇気を示す背中・
長谷川アレクサンドラみずほ(jb4139)

大学部4年7組 女 阿修羅
BBA恐怖症・
長田・E・勇太(jb9116)

大学部2年247組 男 阿修羅
とくと御覧よDカップ・
黒神 未来(jb9907)

大学部4年234組 女 ナイトウォーカー