.


マスター:スタジオI
シナリオ形態:シリーズ
難易度:普通
参加人数:7人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/03/13


みんなの思い出



オープニング


 久遠ヶ原にある某斡旋所。
 独身アラサー女子所員・四ノ宮 椿(jz0294)は自分の席に腰かけたまま、後輩の堺 臣人
に声をかけた。
「堺くん、ポスター貼って!」
「なんですか、去年終わったお昼番組の大物司会者みたいな呼びかけは?」
 軽くツッコミながらも、椿から渋々ポスターを受け取る堺。
 広げて見ると、この斡旋所と繋がりの深い“久遠ヶ原島ケーブルTV”のものだった。
 新番組の宣伝と、その出演者を募るという内容だ。
「へえ、こんな番組が始まるんですね」
「どうせなら、私が現役中にやって欲しかったのだわ、そうしたら結婚相手を探してもらう依頼を出せたのに」
「僕だったら、三十路の先輩がなんで結婚出来ないのか、いろんな専門家に意見をもらったり、皆にアンケートをとる依頼を出しますねえ」
「心に傷が出来そうだからやめてほしいのだわ」
 二人がそんな風に嘆息する番組内容はこんな感じだった。

 【2015年3月開始新番組 たまには依頼を出そう!】

 日々、依頼をこなしてくれる撃退士の皆さん!
 たまには、自分で依頼を出してみたくはありませんか?
 スタジオに来て、あなたの秘めたる想いを打ち明けて下さい。

『こんな依頼を待ってます!』
・懐かしのあの人を探して欲しい!
・彼に直接言いにくい事を、代わりに伝えて欲しい!
・自分の事をどう思っているのか、彼女の気持ちが知りたい!
・カンガルーとボクシングをやろう!
・夢の舞台に立ちたい!
・力を合せて、凄いものを作ろう!
・斬新な結婚式をあげたい。
・自分の誕生日を、思い出に残るような方法で祝って下さい
・みんなで丸一日、逆立ちして過ごそうぜ!
 
 などなど、見る者を楽しませる依頼を出して欲しい。
 出した依頼は、次回の放送で撃退士同士で協力し合って解決する事になる。
 撃退士にだって、悩みや願望はあるはず!
 さあ、今こそ依頼を出そう!


リプレイ本文


 久遠ヶ原島ケーブルTV。
 その第三スタジオに特設された“ワルベルト斡旋局”に七人の撃退士が集まった。
 彼らを出迎えるのは、黒ひげの風格ある中年男性、ワルベルト局長。
 この久遠ヶ原島ケーブルTVの局長でもある。
「ようこそ依頼人諸君、いつも他人の願いを叶えているキミたちの願いを叶えようではないか」
「コノシュンカンヲマッテイタンダー」
 何を興奮しているのか、荒ぶるショタっ子、ファリオ(jc0001)。
「ふむふむ、ともかくチャンスには違いないな、まずは僕から依頼を出させてもらおう」
 見た目幼女・築田多紀(jb9792)が、老成した佇まいで頷いた。


 多紀が、依頼申請台と呼ばれるカウンターに立つ。
「僕からはだな、“甘いもの探し”の依頼だ」
「そんなのアリの行列の後を追っていけば……」
「いやいや、 僕が言う甘い物というのは地面に落ちている飴や角砂糖ではない、小学生の自由研究ではないのだからな。
 今、ボケを投入したのは百合芸人、歌音 テンペスト(jb5186)。
 発表者以外の依頼人たちは、待合席に座ってコメントをする番組形式だ。
「私も知りたいですわね、スイーツは紅茶の友ですから」
 アールグレイの香りを漂わせながら、白磁のカップを傾ける金髪令嬢、長谷川アレクサンドラみずほ(jb4139)。
「うむ、久遠ヶ原において甘いもの巡りはなかなか大変だ。 店が所狭しと並び一人での散歩だけでは巡りきれない」
「この島、外に出るたびに地形や街並み変わっている気がして、把握が困難ですよね」
 言いにくい事をさらっと言ってくれる只野黒子(ja0049)。
 もしかすると、ランダムダンションなのかもしれない。
「うむ、なんやかんやで僕の久遠ヶ原探検も捗らずにいるのだ」
 多紀は、休みの日に島を探検している。
 裏路地やら廃墟めいた店までチェックしているのだ。
「僕の依頼はズバリ、久遠ヶ原の飲食店において甘い物が一品でもメニューにある店ピックアップして欲しいという内容だ。 チョコレートを使ったものが一番だが、洋菓子でも和菓子でもドリンクでも甘いものであれば何でもいい。 撃退士の行動力なら何ともないだろう」
「必要なのは行動力よりも、胃袋の広さでは?」
「それに財布の口の広さもですね」
 ファリオと黒子が、立て続けに不安を口にする。
 ワルベルト局長が豪快に笑った。
「ガハハハッ、そこは撃退士の腕だ! 数々の依頼をこなしてきた撃退士ならきっと良い解決法が見つかるだろう。 TV局としても協力するぞ!」 
 まだ具体的な方法が出たわけではないが、撃退士とTV局がタッグを組めば何とかなりそうである。
「これで久遠ヶ原スイーツマップが完成する! どんな甘味があるか想像するとわくわくするな!」
 多紀は、二パッと子供らしく朗らかに微笑んだ。


 続いての依頼人は幼い聖女・星歌 奏(jb9929)。
「あのね、あのね♪ 皆で、もこもこもふもふ着ぐるみ大会を開きたいのー♪」
「もこもこもふもふ着ぐるみ大会とは何ですか?」
 黒子が尋ねても、
「もこっともふっと癒されちゃい大会なの♪」
 こんな感じの答えで要領を得ない。
 説明をまとめたカンペをスタッフが渡す。
 それを読み上げる奏。
「もこもふ着ぐるみ大会は動物さんをテーマに参加してもらうの♪ 世界一のもこもふ王を決めるの! 生放送にして会場内とテレビの前の皆に判定してもらうのー♪ 判定項目は“可愛さ”癒し“”和み“の三つで 一人三十点満点で評価してもらうの♪ その合計点が一番高い人が世界一のもこもふ王に輝くのー!」
「なるほど、もこもふと言えば羊、縁を感じるな」
 今年初夢を見て以来、羊にはこだわりのある多紀。
 「スタッフさんと会場内の審査員も、もこもふ着用するのー♪ 審査員さんは黒でー♪ スタッフさんは白でー♪ えへへ、どうかな?どうかな?」
 楽しいイメージの中に遊ぶ奏。
 すると、目の前にその実現者を見つけた
「あ♪ もうもこもふ着ぐるみ帽子をかぶっている人がいるの♪」
 奏が待合席にとててっと走り、狐耳の生えた彼岸坂 愁雲(jc1232)の頭を撫でる。
 彼岸坂は、番組開始から一言も喋っていない。
 実は居眠り中なのだ。 
「ううん……うるさい……我のは天然だ……」
「ああ、ごめんなさい」
 奏が離れると、また寝てしまう彼岸坂。
「彼岸崎様は、お疲れなのでしょう」
 みずほがフォローしたが、多分、ねぼすけキャラである。
「きっとね、愁雲ちゃんの疲れもドカンって吹っ飛ぶのー! 目の保養にもなるの♪」
「ぐへへ、女の子はね、着るより脱いだ方が目の保養になるんだよ」
 奏の可愛らしさに欲望の涎を垂らすテンペスト。
「え? 着た方が可愛いよー♪」
 意味がわからないらしい奏。
 むしろわかってはいけない。


 いつまでも居眠りされていてはギャラ泥棒なので、彼岸坂を揺り起こす。
「……我の依頼か……ううん……合奏だな」
 眠そうな目で応える彼岸坂。
「我、音楽が好きなんだ……特に雅楽が好きだけど、何でも好きだよ。 ……ちょっと吹いてもいいかな?」
 と言い、彼岸坂が取り出したのは、見慣れない横笛。
「それは何ですの?」
「龍笛だ……」
 とたん、テンペストがさっと顔を青くした。
「なん……だと? 狭いスタジオに、巨大なモンスターを!?」
「何だかわかりませんが、避難した方が良さそうですわ?」
「ここに龍さんが来るの? 見たいの♪ おひげに触りたいの♪」
 彼岸坂と奏以外全員、スタジオから逃げていく。
「違う……龍笛はドラゴンを召喚する笛ではない……」
 龍笛は竹の管で出来た和楽器である。
 勘違いしている面々を落ち着かせ、演奏を始める彼岸坂。
 “舞い立ち昇る龍の鳴き声“と謳われる、縦横無尽な音色がスタジオに響く。
「色んなジャンルの垣根を越えてコラボ出来たらいいな……音楽とかダンスとか……」
 言いたい事を言うとまた居眠りし始めてしまう彼岸坂。
 初任務、しかもTV出演でこれは大物である。


「さて、わたくしの依頼なのですけど、まずこれを見てくださいませ」
 みずほが指示を出すと、スタジオのモニターに電源が入った。
 映ったのは、ボクシングのリングである。
 青コーナーのみずほが、赤コーナーのボクサーと試合をしている。
 天魔だってボクシングテクでぶちのめすみずほだが、VTRの中では滅多打ちにされていた。
 相手選手の力量は圧倒的。
 みずほは顔面ボコボコで美少女だいなし、百年の恋も冷めそうな面になっている。
 結局、三ラウンドでレフェリーストップ負けてしまった。
 「わたくし、この方と今度また試合をすることになりましたの。 このままでは以前の試合と同じ様な結果になると思いますわ、そこで、わたくしが今度の試合で勝てるようにしていただきたい、というのが依頼内容ですわ。 他力本願なのは自分でもどうかと思いますけど……お願いいたしますわ」
 頭を下げるみずほ。
「う〜ん、二十四時間三百六十五日、紅茶飲んでいるか、人を殴っているかのみずほちゃんが勝てないとなると難しいなあ」
「まあ、テンペストさん! 失礼ですわ! わたくし、他の事だってしていますのよ?」
「例えば?」
 尋ねられ、顔を赤らめるみずほ。
「ラ、ラキスケとかですわ」
 その三つで、一年間廻せるとかどんな人生なのだろう。


「私の番、ですか。 こういう番組ですから、あんまりシリアスな物は避けた方がいいでしょうね」
 長い前髪の下から、チラとテンペストとファリオを見やる黒子。
 ラスト二人が相当なネタ依頼である事を、撃退士の勘で察しているらしい。
「私の依頼は“自分の得手不得手は何かを見極める方法を探して欲しい”というものです」
「それは、人生全般において大切な事だな」
 相槌を打つ多紀。
「そうですね。 仮に受けた依頼の主要部分を不得手が占めていた場合、不幸なるのは依頼主、本人双方です」
 生来、前衛向きでない人間が、それを自覚できないまま前衛を務めたらどうなるか? あるいはその逆は? そういう事を言いたいらしい。
「それでですね、自分の不得手を把握し、可能ならばその不得手をどう処理するか、その方法を考えてもらう、というのはどうでしょうか」
「不得手の処理……欠陥のない完璧人間というのは不可能だと思うぞ……」 
 うつらうつらしながらも、話は聞いていたらしい彼岸坂が呟く。
「別段、自分だけで何とかする必要はありません。 誰かの手を借りるのもひとつの手かと」
「確かに得手不得手を理解していなければ、その交渉すら出来ませんものね。 わたくしの場合、パンチを脊髄反射で繰り出さないようにするのが苦手ですわ」
「それは苦手と呼ぶべきなのか」
 黒子は、みずほへのコメントに困っている。
「問題は依頼の多様性だな、戦闘だけでも色々なポジションや状況があるのに、それ以外のジャンルだと多種多様すぎて全てを試すには無理があるぞ」
 もっともな事を言う多紀。
 すると局長が口を開いた。
「一つで全ての適性がわかるテストなどというものは不可能だろう。 戦闘の中での適性か、あるいは依頼ジャンルの中での適性か、何かしら絞り込んだ適性を見極めるテスト方法を開発してみてはどうかな?」
 というわけで、おそらく本日の依頼の中で最も実用性のありそうな依頼が提案された。
 あと二人残っているが、ネタ要員なので実用性皆無な依頼である事は聞かずともわかるのである。


「僕の依頼はですね、“アラサーな四ノ宮 椿さんとデートしてあげて”というものです」
 ネタ要員一、ファリオがすまし顔で発表したとたん。
「ひょどぷ!」
 妙な声が待合席から聞こえてきた。
「なんですか、テンペストさん?」
「い、いや何でもないよ」
 明らかに何でもなくない顔をしているネタ要員二のテンペスト。
 目が泳いでいるどころか、スキューバダイビングを始めている。
 ファリオが、構わず発表を続ける。
「しかし、これは表向きの内容、好みの男性とのデートイベントと見せかけて」
 天使の顔に悪魔の笑みを浮かべるファリオ。
「実はドッキリ! 好みの男性は実は仕掛け人!」
 スタッフに用意してもらった、箱を取り出すファリオ。
 婚約指輪などを渡す時に使う群青色の指輪箱である。
「椿さんがその気になったところで、愛の告白と共にこれを渡します!」
 箱の蓋を開ける。
「中身はほらご覧の通り!――と、いう内容です」
 箱の中には“ドッキリ”と書かれた札が入っていた。
 なお解決回の収録日は、依頼回の放映日前なのでネタバレの心配はない。
 超ドヤ顔なファリオ。
「ファリオちゃん、椿ちゃんが可哀そうなの」
「わーーっはは、これは復讐なのですよ! 僕は依頼で一度ならずあのアラサーに酷い目にあわされたのです!」
「仕掛け人の男性はどうするんです? こんな企画に乗ってくれるお金持ちを探すのは難題ですよ」
「本物のお金持ちを調達する必要はありません、いっそ女性に男装をさせても結構! 男に縁のないアラサーの事、簡単に騙されるでしょう!」
 奏に窘められても、黒子に尋ねらても、ファリオはドヤ顔を崩さない。
 自信満々、すでに勝った気でいる。
 すると、局長が面白げな笑顔をファリオに向けてきた。
「椿とデートする仕掛け人だが、そちではいかんのか?」
「はあ? 僕がアラサーとデートなんて冗談じゃありませんよ!」
「椿が、こないだ言っていたぞ」
「何を?」
「“ファリオくんって中学生くらいの男の子がやけに絡んでくるのだわ。 きっと私に気があるのだわ。 もしかして私もまだまだjcで通用するって事かしら”とか」
「な? な!? あのアラサーどんな脳みそしてんですか!?」
 ファリオ、あまりの事態に錯乱。
 彼岸坂があくび混じりに溜息をつく。
「その女……専門医の診察が必要だろ……」


 最後はテンペスト。
 だが依頼申請台に向かうその目はポンチ目、歯の根はガタガタ言っている。
(芸人がネタかぶり! なんという屈辱! しかもあっちの方が、因縁がある分、内容がえげつない!)
 そう、実は用意しておいた依頼内容がファリオとモロ被りだったのである。
 動揺のあまり床の配線に足を引っ掻け、転ぶ。
 パンチラどころか、パンモロした。
「テンペストさんー、見えてますよー」
 ADに声をかけられ、テンペストの中で何かが切れる。
「やぶれかぶれだー」
 突然、着ていたセーラー服を破り脱ぐ。
 下には注目を集めるための水着を着ていたが、それすら破こうとしている。
「何をしているのです?」
 破廉恥な行動を止めようと、みずほが羽交い絞めにしてきた。
「HA☆NA☆SE! ネタで勝負出来ない芸人は脱ぐしかあらへんのやー」
 泣きながらジタバタする。
「落ち着いて下さいまし! あなたには徹夜で作ったというネタ画像があるではありませんか」
「はっ! そうやった! ワイにはあれがあったんや! おおきに、みずほはん! おおきに!」
 だだ泣きするテンペスト。 自分が、どこ出身だかすら見失っている。
 依頼申請台にあがり、ネタ画像をモニターに表示させる。


依頼名:四ノ宮椿(約30歳・女・団体職員・海苔)に恋人を作ろう!

難易度:至難
ジャンル:ホラー
オプション:危険フラグ

●成功条件
難易度的には一瞬でも興味を持たれれば成功、憐れみ程度でも持たれれば大成功、恋人ができればネ申と言える。
※なお恋人ではなく変人ができれば審議入りの模様

●マスターより
恋人ができず海苔に現実逃避する四ノ宮さんに恋人を作って下さい。
こんな四ノ宮さんに恋人を作るなどという公序良俗に反する依頼が蔵倫を通過するか分かりませんが、公開されれば質問は歌音【朝は米よりパンツ派】テンペストが適当にお答えします。
常識的に考えれば実現不可能な依頼ですが、ヒントは“人であれば性別を問わない”ことです。


「どこかで見たようなテンプレだな」
 多紀ならずとも、撃退士なら一度ならず目にしているレイアウトの文書である。
「というか、内容が僕とモロ被りですよね?」
 ファリオにジト目で言われる。
「言うな〜!」
 恥ずかしさの余り、ファリオに全力で顔面パンチするテンペスト。 
 可愛い顔から大量の鼻血を噴き上がる。
 テンペストは悪くない。
 顔パンされるのが大好きそうな顔をしているファリオが悪いのだ。


 ワルベルト局長が、豪快に笑った。
「ガハハッハッ! いいではないか、テンペストの方はちゃんと恋人を作ってやろうという内容だし、ファリオの方はその上でドッキリにかけようという内容だ。 二班に分かれて競ってもよいし、協力しても良い。 それは解決編に参加する撃退士の決める事だな」
  次回収録では、本日出た七本の依頼を撃退士たちが協力して解決する事になる。
 自分が出した依頼の行く末をこの目で見届けたいのなら、自身が解決編に参加しても良いだろう。
 果たして七本の依頼のうち何本が無事に解決されるのか?
 乞うご期待!


依頼結果