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マスター:STANZA
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:9人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2014/01/07


みんなの思い出



オープニング



 今年もまた、この季節がやって来たな。
 早いもんだ。


 ん? あんた新顔だな。
 ここは、BARサイレントナイト。
 粋な大人の為の憩いの場だが、今夜は特別だ。
 誰でも自由に入って良いぜ。

 聖なる夜には、ゆったりと流れる時にひとり静かに身を任せる。
 そんな優雅な過ごし方をしてみたいなら、ほら、そこに座ると良い。

 群れたい奴は群れれば良い。それはそれで楽しいもんだ。
 だが、ここは静けさを愛する者が集う場所。馬鹿騒ぎは遠慮して貰おう。
 場の雰囲気を壊さない程度のお喋りは構わないがな。
 静かな酒と、静かな会話。そいつを楽しみたい向きには、カウンター席がお勧めだ。
 誰にも話しかけられたくなければ、奥のテーブル席が良いだろう。
 そこなら誰かに顔を見られる事もない。勿論、ふいに声を掛けられたりする事も、な。
 そうそう、煙草も奥の席で頼むぜ。

 照明を落とした室内と、静かに流れるジャズ。
 ここでは、時の流れも緩やかになる。
 普段は顧みる事もない、心の奥底にしまいこんだ何かに思いを馳せてみるのも良い。
 自分が歩いて来た道。その途中で拾ったものや、置いて来たもの。
 ほんの少し、未来の事。その先に待っている筈の何か……


 さて、お客さん。
 注文は決まったかい?



リプレイ本文

 クリスマスの深夜、BARサイレントナイト。
 控えめな間接照明の暖かな色と、ゆったりとしたジャズの音色が静かに空間を満たす。
 聖なる夜、この静けさの中に集う彼等は何を想うのか――


「人間のアルコールにあまり馴染みはありませんが、これも勉強の内でしょう」
 アーシュ・オブライエン(jb2904)は、奥のテーブル席で一人静かに店の雰囲気を味わっていた。
「それに、人目を気にせず寛げる時間は、我々にも必要だ」
 店内は空調が程よく効いている。
 外は寒かったが、ここならジャケットを脱いで寛げそうだ。
 手にしているのは琥珀色の液体が入ったショットグラス、これを人間は「命の水」と呼ぶらしい。
 グラスを傾け、そっと喉に流し込む。
 尖った耳がピクピクと震えた。
 空間を満たす静かな音楽も耳に心地よい。
 アーシュは剥き出しの肩にかかる銀色の髪をそっと払い、目を閉じてその音色に聞き入っていた。
 何という曲かは知らない。
 知らないが、良いものは良いと素直に感じる。
(音楽に酒――人間が自然から生み出した快楽、見事なものだ)
 店内には他の客も居合わせていたが、その話し声も低く抑えられ、場の空気を乱す事はなかった。
 一人ではない、けれど皆と一緒という事もない。
 かといって孤独という訳でもない。
 一人一人が緩く繋がりながらも、それぞれが独立している絶妙なバランス。
 居心地が良いと、素直に感じた。
「…何も考えず、ただ静かに味わう、良いものです」
 この場所でなら、何時間でもこうしていられそうだった。


「チェリーブランデーをストレートで」
 カウンター席に座ったフィオナ・アルマイヤー(ja9370)は、慣れた様子でマスターに声をかけた。
 出されたグラスを両手で包み、その温もりで温める。
 立ち上る香りにまず酔いながら、僅かずつ口をつけていった。
「ダアトの名門に生まれるも見限られ、阿修羅の才能が発現したのを幸いと飛び出してここに来てはや二年」
 つまみのビターチョコを舌の上で転がし、小さな溜息をひとつ。
「己が力を示そうと阿修羅としての力と学問的な力を伸ばそうとやって来ましたが…」
 その様子に、マスターはそっと声をかけた。
「こんな筈じゃなかった、か?」
「…んー…」
 暫し考え、フィオナは再び口を開く。
「なんでしょう。久遠ヶ原はもっとストイックで厳しいと思ってたのに。ぬるくて仲よしこよしで。これが世の学生だとでも言うのですか」
 不満げな口調にマスターは苦笑い。
 しかし、そんなヌルさを否定しきれない部分もある様で、複雑な思いが表情を揺らした。
「…でも、こんなの初めてで」
 手の中でグラスを回しながら、独り言の様に続ける。
「依頼の斡旋を受けてみれば、戦闘や探索依頼に劣らぬ数のただのイベントの手伝いやら、れ…恋愛相談とか」
 最後の言葉に、僅かに頬を染めた。
「大規模な天魔の襲来を迎え撃ったかと思えば、同じくらいバレンタインデーや仮装パーティーで盛り上がったり、六月なんか女の子たちがウェディングドレスに袖を通したり」
 普通の女の子は皆、こんな風に学生生活を楽しんでいるのだろうか。
「こんな事しに来たんじゃないって思う自分がいる反面、…なんだろう、この気持ち」
 憧れ、だろうか。
 この機会に、少し温めてみるのも良いかもしれない。
 本当は大好きな、けれど長い間心の奥底に閉じ込めていたものたち。
 掌でそっと包めば、このブランデーの様に柔らかく香り立つかも――?


 反対側の隅で、美森 仁也(jb2552)一人静かにグラスを傾けていた。
「周囲は騒がしいけど、ここは静かな雰囲気でしたから久しぶりに1杯飲もうかと思いまして」
 恋人が未成年だから家では飲まないが、酒には強い。
「恋人と過ごした後ですけどね。彼女は友人達とのクリスマスパーティの準備や後片付けに疲れている為早めに休ませたんです」
 自分もそう長居をするつもりはなかった。
「明日の朝食は何にしようかと冷蔵庫を見たら、見事にからっぽで…」
 きっと、全部パーティ用に提供してしまったのだろう。
 そこで買い出しに出たところ、たまたまこの店を見つけたという具合だ。
 周囲の会話を聞くともなしに聞きながら、それとなく観察してみると、最近になって入学が認められたハーフの者も何人かいる様だ。
(…彼女が16歳になったら結婚しようと約束しているし、思いに変わりはない)
 けれど、もしも子供を授かったら?
(彼女は『お兄ちゃんの子供だったら欲しいから絶対に産む』って言ってるし、俺だって彼女の血を引く子なら育てる気はあるが…)
 親である自分達はそれで良いとして――
(本人は、どう思うだろうか? ハーフは絶対数が少ない。少ない撃退士の中の更に少数。何時か天界も魔界もこの世界への侵攻を止めた時…次に人間が恐れるのは撃退士でハーフだろう)
 そんな環境で生きろというのか。
 それは彼女を愛した時から心の何処かに有る懸念。
(彼女が自分の正体を知っても心からの信頼を寄せている今、お互いの命の次に心配な事だから)
 仁也は杯を手に、静かに水面を眺める。
(…生きていけるように。俺の血の方が強いなら…技術と知識の全てを伝授したい)
 生まれて来て良かったと思えるように。
 この出会いが幸福な結末を迎えられるように。


 その時、店のドアに付けられた小さな鈴が微かな音を立てた。
「いらっしゃい」
 マスターの声に軽く会釈を返すと、新たな客は暫く周囲を見渡し、音楽に耳を傾け…やがてその雰囲気が気に入ったのか、カウンターに腰を下ろした。
「スカイフィズをいただけますか…?」
 その注文に黙って頷き、マスターは調合の準備を始める。
「静かで落ち着いた良い場所ですね…」
 カクテルが出来るのを待つ間、その客――アルゼウス・レイドラ(jb8388)は、初めて入った店の落ち着いた佇まいにほっと一息。
「お酒もカクテルも学園に来てから学んだのですよ」
 問わず語りに、静かに語る。
「まだ人間界に来てから日は浅いのですが、人の世界で生きるのならば、あらゆる知識を得るべきだろうと思って」
 しかし、まさか学園に在籍することになろうとは。
(去年の自分には想像もつきませんでしたね)
 爵位も無く階級も無い悪魔などただの使い捨ての駒のようなもの。
 いつ果てるとも知れない戦いの中で、このような場にたどり着けたこともまた僥倖か。
(それにしても…自分に悪魔以外の血が入っていようとは…)
 長い戦いの歴史をもつ天魔の世界ならば、そういうこともあるのだろう。
(ねぇ、名前も知らないひと…)
 目の前に置かれた細長いグラスに、澄み切った青空の様な液体が注がれる。
 その青に重なる、ひとつの面影。
(あなたの瞳も、こんな風に青く澄んでいましたね)
 ともに戦いで傷つき、人間界で出会った…もういないひと。
(私にも、あなたと同じ血が流れているそうですよ)
 あの時の自分には癒しの力は無かった。
 もしもあったなら、その傷を癒やす事が出来たかもしれない。
 そうしたら今も一緒に生きられたかもしれない。
 もしも、もしも――

「なあ、卒業した後の進路を考えているか?」
 隣に座った客が、ふいに声をかけてきた。
「え…」
 アルゼウスは答えに詰まる。
 今までそんな風に未来を見据えたことが無かった。
(今も過去の事ばかり考えて…)
 目から鱗と言うのは、こんな状況を指すのだろうか。
「人は不思議ですね。未来を見据えて動いている」
「そんな格好いいものじゃないが」
 ただ訊いてみたかっただけだと、その客はバーボンのグラスを傾けた。
「そうですね、私は…」
 少し考えて、アルゼウスは答える。
「出来るなら、治癒の魔法系統をさらに強化したいですね」
 その為の研究をしたい。
「あの日の私のように誰かを喪う者がいないように」
 グラスの中に広がる青空はどこまでも青く、吸い込まれそうな程に美しい。
(あなたが学びたかったものを、これからは私が学びましょう)
 それは乾いた喉を潤し、彼の心にも澄んだ青空を運んで来る様だった。


「あなたは?」
 問い返されて、その客――ミハイル・エッカート(jb0544)は殆ど空になりかけたグラスを振る。
 角の取れた氷が崩れて、カラリと音を立てた。
「俺? しがないサラリーマンだ」
 今でもそうだが。
「マスター、もう一杯くれ」
 勿論、今度もダブルだ。
「クリスマス、か」
 世間では恋人と過ごすのが定番らしいが、今の彼には無縁な話だった。
「俺にそんな資格は無い」
 付き合った女はいる。本気で惚れた女もいれば、会社の命令で落とした女も…自らの手にかけた女も。
「俺と付き合う女は不幸になるんだ」
 グラスを傾け、口角を上げる。
 不幸になるのか、それとも自分が不幸にしてしまうのか。
 いつか本気で愛せる女性と出会う事が出来たら――そんな思いが欠片もないと言えば嘘になる。
 だが、もしもまた不幸な結末になってしまったら。
「好き好んでそうなったわけじゃない」
 気が付いたらこうなっていた、とでも言えば良いのか。
 そんな折、突然アウルに目覚めた。
 仕事を奪われ、会社の命令で気が進まないまま学園に放り込まれたことを恨んだ。
「会社の同僚からは羨ましがられるがな」
 周りは若い娘ばかりだろう! …と。
「冗談じゃない、一回り年下だぞ。若すぎて付き合えるか」
 ミハイルはグラスを一息に呷る。
 だが、誰かを思い出したのか…その目にふと、柔らかな光が射した。
「中には親子に間違えられそうな友人もいる」
 そう、大切な友人が。
 今更の学生生活も悪くないと思わせてくれた友人達が。
「この俺が、そいつらと笑って遊んで過ごすなんて考えもしなかった」
 だが、いつか終わりは来る。
 卒業後、会社に戻れば同業他社に就職した撃退士と顔を合わせる事もあるだろう。
(そのとき俺はどうする?)
 脳裏に浮かぶのは、友の面影。
(見知った顔が、一緒に笑い、戦い、励ましあった仲間が目の前に敵として現われたら)
 果たして、引き金を引けるだろうか。
 ミハイルは先程言葉を交わした若者の横顔を見た。
(俺のようにはなるなよ。ただし出会ったら全力で俺を殺しに来い)
 乾いた音を立てて、新しいグラスが置かれる。
 三杯目のバーボンを、ミハイルは一気に飲み干した。


「ええと…キャロルをお願い」
 カウンター席に座った夢屋 一二三(jb7847)は、記憶の中からその名前を拾い上げた。
「あの人がよく好んで飲んでいたカクテル…確かそんな名前だったわ」
 天界に居た頃「あの人」が偶にくれたのも、多分同じものだろう。
 進んで飲むことも無かったし、詳しくはないけれど。
「そう、これよ」
 グラスに注がれた赤い液体は、確かに記憶の通りだ。
 そっと口をつけると、懐かしい味が喉の奥に広がった。
「人間界に来て幾らか経ったけど…随分こちらは騒がしいのね」
「まあ、今夜は特別だがね」
 そんな中でも、ここは静かで居心地が良い。
「…偶にはゆっくりさせて貰うわ。ジャズが落ち着いた雰囲気でいいわね…」
 あの頃はただ白い部屋の鳥籠で歌う事しか知らなかった。
 外に出ることも禁じられていたし、出ようとも思わなかった。
 不自由とも思ったことが無かった。
「ただ歌うことが出来て、それで喜ばれていたのだから、寧ろ幸福だったのかも知られないわね…」
 けれど、その幸福はもう記憶の中にしか存在しない。
「あの人が死んで…あそこにいる意味も無くなったし、気まぐれに堕天してきたのだけれど」
 それは正しかったのだろうか。
「…これからどうすれば、なんて…想像もつかないわ」
 鳥籠を離れた鳥は撃ち落とされるのをただ待ち囀るのみ。
 あるいはまた、誰かに飼われる事になるのだろうか。
(…それもいいかもね…)
 空になったグラスを置き、カウンター越しに声をかける。
「マスター、もう一杯カクテルを頂けるかしら? 注文は…そう、私に似合いのものを…お願いするわね…」
 出て来たのは、チェリーとレモンピールがエッジに飾られた赤っぽい液体。
「これは?」
「ディーヴァ、歌姫さ」
 籠の鳥を、歌姫とは呼ばない。
「ありがとう。…ねえ、私も歌っていいかしら…?」
「生歌か、そいつは贅沢だな」
 人の声もまた、楽器のひとつ。
 ピアノでもあれば弾き語りを頼みたいところだが――
「リクエストはあるかい?」
 その言葉に、一二三はスローなバラードのタイトルを挙げた。
 ゆったりとしたテンポに合わせ、しっとりと歌詞を音に乗せる。
(私が全ての感情を表せるのは、歌う事でのみ)

 ウタは私のすべて
 ウタは私の魂
 私はウタを愛し、ウタそのものになる
 この身朽ちるまで

(墜ちた天使の囀りは天へ届くのかしら…?)


 静かな歌声が流れる中、月野 現(jb7023)は櫻井 悠貴(jb7024)をエスコートしてカウンター席に着いた。
「夜中のBARって、何だかドキドキしますね…」
 こんな大人っぽい雰囲気の店に足を踏み入れたのは初めてだ。
 しかし悠貴の胸を躍らせている、本当の理由は他にあった。
 クリスマスの夜に二人で過ごすなんて、まるで恋人同士の様だ。
(そういう仲では無いけれど…)
 二人は久しぶりに再会した昔馴染。
 少なくとも今のところは、互いにそう認識している筈だが――
(今日は特別な夜だというのに違和感がないのは、やっぱりそういう事なんだろうな)
 自分の気持ちを改めて確認した現は、決意を固めた。
(言葉にして正面から伝えないといけない事もある。撃退士の依頼は命すら関わる危険なことだ)
 それを踏まえて撃退になった理由を聞き出そう。
(そして、悠貴の為にも俺が成せる事をしよう)
 けれど。
「まずは食事にしようか」
 軽い食事をしながら、今までの事を少し振り返ってみようか。
「遊園地、楽しかったですか?」
「え? ああ、うん」
「一緒に行けなかった事は残念ですけど…でも今夜、こうして二人で過ごす時間が出来て嬉しいです」
「…酒、飲んでみるか?」
 現に言われ、悠貴は小さく頷く。
 少し不安だが、現が勧めてくれるなら。
 ――ところが。
「子供に酒を飲ませたとあっちゃ、うちの看板に傷が付くんでね」
 マスターから待ったがかかった。
 二人とも大学生ではあるが、見た目は未成年だ。
「俺はもう大人だし、悠貴だって…」
「背伸びがしたいお年頃って奴か」
 二人を交互に見比べ、マスターは溜息。
「ま、折角の甘い空気に水差して一生恨まれたりしちゃ敵わんからな…信じてやるよ」
 ただし、今回限りの特別措置だ。
 次からはきちんと実年齢を証明出来るものを持参すること。
 現が注文したのは白ワインをソーダで割ったスプリッツァー。
 度数も低く口当たりが良い上に、白ワインがベースの為に食事との相性も抜群だ。
「最初は限界が解らないし、少しずつ飲むと良い」
 言われて、悠貴は恐る恐る口にしてみる。
「お酒…苦い、ような甘いような…?」
 そうして少しずつ飲みながら、二人は会話を重ねていった。
 と、悠貴の頬がふいに真っ赤に染まる。
「もう酔ったのか?」
 だが、それはアルコールのせいではなかった。
「何だかこうして二人でいるとまるで、その、『恋人』みたいですね…」
「…」
 今だ。
 気持ちを伝えるのは今しかない。
「前の依頼では怪我をしてしまっただろう」
「あ…はい」
「それでも、撃退士を続けるつもりなのか…?」
 その問いに、悠貴は頬を染めたままこくりと頷いた。
「私は『現さん』と一緒に居たいのです。それが危険な事であるのは分かっています。でも私は離れたくない、『撃退士』でいたいです」
「それなら俺は悠貴を絶対に護ろう。だから、そばに居てくれ」
 現は悠貴の手をとり、そっと引き寄せた。
 そのままぎゅっと抱き締める。
 どれくらい、そうしていただろう。
 ふと我に返った現は、恥ずかしそうにそっぽを向きつつ腕を緩めた。
「あー、こんな場所で急にすまない…」
 しかし、首を振った悠貴は勇気を振り絞り、横を向いた現の頬に唇を触れ――慌てて離れる。
「守られるだけじゃなくて、私も現さんを支えて…一緒に、傍に居ます…」
 恥ずかしさにますます赤く染まった頬を両手で押さえつつ、俯きながら呟いた。
「…ありがとう。この答えは必ず返すから待っていて欲しい」
 その両手に自分の手を重ね、現は悠貴の目をじっと覗き込んだ。
「…この夜に会えて良かった」
 互いの想いも確認出来た。
「私も…もっと、もっと現さんの事を知りたい…」
「じゃあ、何から話そうか」
 現は悠貴の頬を優しく撫でる。
 そのまま、二人は夜が更けるまで話し込んでいた。


「んふふー、たまには洒落た落ち着いてる店もいいカンジだよね」
 他の客達がそろそろ帰り支度を始める頃。
 カウンターに座ったグリーンアイス(jb3053)はこれからが本番とグラスを傾ける。
 こちらも見た目は未成年だが、本人曰く「とっくの昔に年取るの止めてる」らしい。
 堕天使ならば、それもアリだろう。
 グラスの中身はリキュール(アマレット)がベースのイタリアン・スクリュードライバー、つまみは定番のミックスナッツだ。
「オシャレでアダルトなあたし?」
 彼氏か彼女の一人でも連れてきたほうが良かっただろうか。
 しかし、一人なら一人で楽しみ方もあるというもの。
 例えば…マスターを捕まえて延々とクダを巻くとかね!
「んー、楽しいなぁ、コッチは」
「こっち?」
「そ、人間界。お酒は美味しいしぃ、おねーさま達はキレイだしぃ、男の子はきゃわいいしぃ」
 可愛い男の子と女の子、渋い男性と綺麗な女性は正義。
 人間界サイコー。
「あたしはねー、これでも天使様なワケですよ。向こうじゃ規則だー、階級だーってうるさくってねー。男だってギメルみたいな変なのもわんさかいるしさー」
「それで、こっちに?」
 絡まれて仕方なく話を合わせるマスターに、グリーンアイスは上機嫌で話し続ける。
「いやー、つまんなくって好き勝手してたら叩き出されちゃったよ。ムニャ歳にしてリストラってえげつなくない? んで、この辺に投げ落とされたんで、ぷらぷら遊び歩いてたら拾われちゃったわけですよー。運命の出会いってやつ?」
 そうそう、運命の出会いって言えば。
「アレかな? 家で育ててる緑の薔薇。こっちきて初めて見たんだけどさー、一目惚れってヤツ?」
 薔薇が好きなのか、ふむ。
「あー、そんな柄じゃないだろって顔しなかったー?」
 してない。
「あたしだってねー、あーいうのが好きなんですよー。なんか乙女チックじゃない?」
 うんうん、そうだね。
 って言うか酔ってるんじゃない?
「え? じぇーんじぇん酔っれましぇんよー」
 うん、酔ってるね。
 天魔や撃退士が酒に酔う事は滅多にないが、場の雰囲気に酔うタイプか。
「家すぐそこー。帰れる帰れるー♪」
 はいはい、暫く奥で休もうねー。
 酔いが覚めたら帰って良いからねー。


 その頃には、店に他の客の姿はなかった。
「ごちそうさまでした」
 椅子の背にかけたジャケットに袖を通したアーシュが席を立ったのは、グリーンアイスがクダを巻き始める少し前。
 今では店の中は勿論、騒がしかった聖夜の町もひっそりと静まりかえっていた。
 誰もいない店内で、マスターはひとりグラスを傾ける。
「メリークリスマス」
 今宵は全ての人に幸福な夢を――


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:6人

お姫さま願望・
フィオナ・アルマイヤー(ja9370)

大学部9年99組 女 阿修羅
Eternal Wing・
ミハイル・エッカート(jb0544)

卒業 男 インフィルトレイター
最愛とともに・
美森 仁也(jb2552)

卒業 男 ルインズブレイド
遥かな高みを目指す者・
アーシュ・オブライエン(jb2904)

卒業 女 インフィルトレイター
2013ミス部門入賞・
グリーンアイス(jb3053)

大学部6年149組 女 陰陽師
治癒の守護者・
月野 現(jb7023)

大学部7年255組 男 アストラルヴァンガード
撃退士・
櫻井 悠貴(jb7024)

大学部6年90組 女 バハムートテイマー
寿ぎの歌声・
夢屋 一二三(jb7847)

大学部3年261組 女 アーティスト
遥かな高みを目指す者・
アルゼウス・レイドラ(jb8388)

大学部5年279組 男 アストラルヴァンガード