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マスター:STANZA
シナリオ形態:シリーズ
難易度:非常に難しい
形態:
参加人数:10人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2013/11/23


みんなの思い出



オープニング



「この度の失態、誠に申し訳なく――」
 深々と頭を下げる金ピカ天使に、大天使は「茶番はいい」と短い言葉を投げて寄越した。
 その冷たく澄んだ瞳は、全てお見通しだと語っている様に見える。
「全ての責は、汝を使いこなす事が出来なかったこの我にある……そう、上にも伝えてある」
 彼女の立場上そう伝えるしかない事は、金ピカ天使にもわかっている筈だ。
 上から与えられた部下が無能でしたなどとは、口が裂けても言える筈がない。
「それより、汝には一時帰還の命令が出ている筈だが」
「ええ、その事なのですが……」
 金ピカ天使、アロンは恭しく腰を折り、上目遣いに大天使リュールを見た。
「わたくしと致しましても、このまま黙って引き下がるのは口惜しゅうございます故……なにとぞ、最後にもうひとたびの機会を頂けないものかと」
「……何?」
 ここで命令のままに退いたとしても、アロンには何の不都合もない筈だ。
 確かに、自身が期待していた程の成果――自身の昇格か、或いはリュールの降格、もしくはその両方――は得られなかった様だが。
 しかしそれも、上の判断としては妥当な線だろう。
 アロン本人は、具体的な成果を何一つ上げていないのだから。
 という事は、何か評価に影響を与える様なものを手に入れたのだろうか。
「実は、先の戦いで面白いものを手に入れてございまして」
 やはりそうかと、リュールは無言のままに先を促した。
「撃退士を一匹、捕まえました」
 アロンの目が、すうっと細められる。
「リュール様もご存じの……あのネズミにございますよ」
「……あの、少年か」
 その問いに、アロンはゆっくりと頷く。
「マンションの下層で何やらコソコソと動いているところを、我が配下が確保致しました」
 住民の監視用に置いていたサーバントの網にかかったのだ。
 どうやら、住民を助け出そうとしていた様だが――
「そのネズミと引き替えに、ご子息を頂きます。ヒトというものは仲間意識が強いもの、さぞや面白い見物となる事でありましょう」
 それを聞いて、リュールは形の良い眉を寄せた。
 あの生徒は確か、学園の異分子であった筈。
 それが何故……何を企んでいる?
 天使勢に恨みを持ちながら協力を持ちかけて来るなど、これまでにも不可解な動きは多かったが――
 まあいい。動き出せばわかる事だ。
「よかろう、今暫くの地上滞在を許可する」
 その言葉を受け、アロンはこれまで以上に……憎たらしいほど恭しい態度で頭を下げ……
「ああ、それから……」
 と、急に思い出した様に付け加えた。
「今回は、リュール様にもご同行をお願い出来ますでしょうか?」
「……わかった」
 理由は訊くまい。
 どうせ、ろくな事を考えてはいないのだから――
 

――――――


 このごろ、あの嫌な夢を見なくなった。
 アロンと再会して以来、事あるごとに甦って来た悪夢。
 だが、今は――
「……大丈夫だ」
 もし甦っても、潰される事はない。
 本人が目の前に現れたとしても、一発くらいはぶん殴ってやれるかもしれない。

 あの頃、自分が背中を預けていたのは冷たい壁だった。
 それは逃げ場を塞ぎ、声を掻き消し、全てを闇の中に閉じ込めた。

 しかし今、この背に感じるのは……沢山の、手の温もりだった。
 支えてくれる手に、そっと押してくれる手。
 引っ張り上げてくれる手もあれば、殴ってでも道を正してくれそうな手もある。
 それに、目の前にも頼もしい背中があった。

「……これで俺が頑張らない、なんて……有り得ないよな」
 門木章治(jz0029)は小さく微笑むと、机上のメモに目を落とした。
 そこには、今までの戦いから得たアロンの能力に関する覚え書きが記されている。
 彼の名は伝説の英雄アロンから取ったものだというのが昔からの自慢だった。
 だとすれば、あの杖は英雄が持っていたとされる、9つの災いを起こすという杖を真似て作られたのではないか。
 今までに確認されている能力は、透明化、毒雨、全範囲攻撃、貫通攻撃、バリアの5種類。
 残る4つは、彼の性格から見て恐らく守備か回復系――


 と、そこに電話の呼び出し音が響いた。
 受話器を取ると、聞こえて来たのは……
『先生、助けて!』
 聞き覚えのある声。
 それは、先日の戦いの後で学園から姿を消した、高松紘輝のものだった。

「……どうした?」
 問い返しつつ、門木はディスプレイの表示を見る。
 そこには見知らぬ番号が表示されていた。
 公衆電話ではない。
 自分の端末からかけてきたのか……以前はあれほど用心していたのに。
『アロンに、捕まった』
「……何?」
『ごめん、俺……俺も何か……恩を売ってやるのも良いかと思って、こっそり、その……マンションに忍び込んで、救助活動してたんだけど――』
 あの高松が救助活動?
 しかし、恩を売るつもりで、というのは考えられない事もない。
 これが「改心して」などと言われたら、いくら門木でも疑ってかかる所だろうが。
「……そこに、アロンもいるのか?」
『ああ、うん……今、替わる』
 暫しの間があって、アロンの声が聞こえた。
『よぉ、蛇。この間は世話になったな……下僕が殺られちまったお陰で、こっちは随分と難儀してるぜ』
 門木が黙ったまま何も答えずにいると、アロンは少し機嫌を損ねた様な声で続けた。
『ま、別に良いけどな。代わりが見付かったからよ……使徒に出来ねぇのは残念だが、下僕にゃ充分だ』
 ひきつけを起こした猫の様な笑い声。
 いつ聞いても、背中の蛇がぞわぞわと蠢く様な、悪寒を催す声だ。
『だが、お前らが返して欲しいってんなら……良いぜ、返してやっても』
 ただし、と続くのはもう最初から予想していた。
『蛇、お前と引き替えだ』
 これも予想通り。
『悪くない取引だろ? まさか大事な生徒を見殺しとか、しないよなぁセンセイ?』
 場所はツルギのゲートがあった荒野。
 時刻は明日の昼。
『ああ、小細工するなら別に良いぜ? こっちもそのつもりで準備しておくし……そうそう、今回は大事なママも一緒だからな。せいぜいカッコイイとこ見せてやるんだな、ナーシュぼっちゃま!』
 耳障りな高笑いが響く。
「……紘輝に、替われ」
 門木が言うと、涙声の叫びが聞こえた。
『先生っ!』
「……待ってろ、必ず助ける。……少なくとも、俺は……そのつもりだ」
 ただし、仲間達がどう考えるか。
 それはわからない。
『わかってる。俺、今までさんざん酷いことしてきたからな』
 期待はしてない、そう言って高松は電話を切った。


 面倒な事になった。
 果たして高松は本当に捕まったのか?
 自分から協力しに行ったのではないのか?
 だが、証拠はない。
 もし彼が本当に改心して、本人が言う通り救助活動中に捕まったのだとしたら……
 ここで疑えば、もう二度と「こちら側」に戻る事はないだろう。
 しかし、二人が共謀して仕組んだ策だとしたら?
「……どっちにしても……あいつをこのままにする訳にはいかない、な」
 助ける為か、それとも危険を排除する為か。
 どちらにしても、やる事は変わらない。

 高松の身柄を確保する。
 考えるのは、それからだ。




前回のシナリオを見る


リプレイ本文

 何もない荒野の上空を、一台のヘリが旋回していた。
 眼下では天使勢が整然と陣形を組んで待ち構えている。
 その数はさして多くはないが…恐らく、大部分は目立たない様に地中に身を隠しているのだろう。
 そして最後尾の中央には、ひときわ目立つ黄金色の巨体。
「ふぅん、あの子が高松ちゃんね」
 手足を縛られ、仰向けに括り付けられた少年の姿を見て、ユグ=ルーインズ(jb4265)が頷く。
 仲間達から話を聞いてはいたが、その姿を実際に目にするのは初めてだった。
「ここから見る限り、どうやら本物の様ですね」
「いや、わからへんで」
 レイラ(ja0365)の言葉に、蛇蝎神 黒龍(jb3200)が首を振る。
「高松は変身しとらんでも、何かが高松に変身しとる可能性はあるかもしれへん」
 その辺りは事前に確かめる必要があるだろう。
「本物だとしたら、今度ばかりは流石に堪えている様だな」
 いかにも憔悴した様子を見て、ミハイル・エッカート(jb0544)が口の端を歪めた。
 もっとも、得意の演技かもしれないが。
 だが、それが偽りだろうが何だろうが、受けた仕事は完遂する。
「大丈夫、助けるさ。なあ先生?」
 門木の肩を軽く叩く。
 緊張の面持ちで頷いた門木は、何故かビシッとスーツを着込んでいた。
「それにしても、今日はえらく気合い入ってるな。レイラの見立てか?」
 だが、レイラは首を振る。
 いつもの様に甲斐甲斐しく身の回りの世話をしてくれたレイラではあったが、それは門木が自分で選んだものらしい。
 普通なら、これから戦いに行くというのにそのチョイスはどうなんだと言われそうだが、ここには良いお手本がいる。スーツは男の戦闘服なのだ。
「わかるぜぇ、リュールさまに良いトコ見せたいんだよな!」
 ロヴァランド・アレクサンダー(jb2568)が、思い切りその背を叩く。
「っし先生、一発ガツンと男見せてきやがれ」
 ぐっと親指を立て、がっしりと肩を組む長老様。
「先生、アロンを殴りたいなら手伝うぜ」
 反対側からはミハイルが腕を肩を組んだ。
「血が滾るぞ、楽しみじゃないか」
 その勢いに釣られたのか、いつの間にか皆が肩を組み、円陣が出来上がる。
「よし! 行くぜ、俺たちは勝つ!」
「「おぉーっ!!」」
 何だろう、この体育会系なノリは。



 やがてヘリは、敵とは充分な距離を置いた場所に降下した。
 低空でホバリングしたままの状態で撃退士達を降ろし、ヘリはそのまま戦場を離れる。
 呼べばすぐに来られる安全圏で待機して貰う手筈になっていた。
「先生にこれを預けとく。高松に渡してくれ」
 ミハイルが懐から拳銃を取り出し、門木に手渡した。
「俺が銃を預けるってのはな、高松に落とし前付けて男っぷりを見せろってことだ。これで先生を傷つけるなら俺は高松を遠慮なく撃つ。渡すかどうか見極めてくれ」
「…わかった」
 手の中の銃は、ずしりと重たい。それは託された想いの重さだろうか。
 そのやりとりを見て、御堂 龍太(jb0849)はそっと溜息を吐いた。
(あたしは高松の事をよく知らないけれど、素直に信じることは出来ない)
 これにはきっと、何か裏がある筈だ。そう考えるのは懐疑的すぎるだろうか。
 しかし、人の性根は簡単には変わらないものだ――良くも悪くも。
(そうは言っても、先生はきっと渡しちゃうんでしょうね)
 それで撃たれる映像が、瞼の裏に見えた気がした。
(ああ、いけないいけない)
 龍太は勢いよく首を振り、嫌な想像を振り払った。
 自分の仕事は黄金龍を抑える事、門木の護衛は仲間を信じて任せれば良い。
「ね、愛梨沙ちゃん」
「えっ」
 急に話を振られた鏑木愛梨沙(jb3903)は、驚いて顔を上げた。
「ああ、うん。わかってる、適材適所よね」
 交渉が決裂した場合や、問答無用で戦いになった場合、或いは不測の事態が起きた時。愛梨沙と龍太、レイラの三人は黄金龍の担当になる。
 愛梨沙としても出来れば自分の手で門木を守りたいところだが、やるべき事を見失う訳にはいかなかった。
「カドキもコウキも一緒に久遠ヶ原に帰って…皆で温かい物、食べよう?」
 ミニスカのバトルセーラー服に身を包んだ美少女が言った――って、誰?
「…ぁ、俺」
 その正体は、七ツ狩 ヨル(jb2630)。
 肩にかかる黒髪に、黒い瞳。きっちり施されたメイクはユグの手によるもので、顔の下半分が真っ赤なマフラーで隠されているのが惜しいくらいの出来映えだ。
 ヘイトを稼ぎまくった「あの小僧」だとバレない様にする為の変装らしいが、何故に女装なのか後でちょっと問い詰めてみたい気もする。
「俺は、コウキの事は信じる」
 その姿からは違和感ありまくりの口調で、ヨル子ちゃんが言った。
「だってコウキも撃退士だもの。撃退士は人の為に戦う人達だから」
 自身に言い聞かせる様に続ける。
「仮に裏切られたとしても、それも人の為に何かを成そうとしたからこそだって…そう思う事に決めた」
 そう考えた方が、きっと世界は居心地が良くなる。
 居心地の良い世界なら、人も素直に優しくなれそうな気がした。
 騙されたとしても、疑って腹を探り合うよりずっと良い。
「それが真実でも偽りでも、私たちの学園の大切な仲間ですし、門木先生の大切な教え子です」
 レイラが言った。
「何もかも信じられずにいるとしても、私たちだけは手を差し伸べて信じる道を示す…それだけです」
「そうですね。皆で無事に学園に帰ってくることが一番大切です」
 ユウ(jb5639)が頷き、遥か後方に佇む純白の大天使を見る。
(その為に、私が出来ることを全力でやり遂げないと…)
 しかしこの距離では、心の声はまだ届かなかった。
 戦端が開かれる前に接触出来れば良いのだが。
「さ、そろそろ行こうか」
 レイラと共に、雨野 挫斬(ja0919)が阻霊符を発動させる。
 途端、隠れていた敵の戦力が地中から弾かれる様に姿を現した。
「やっぱりね、タダで帰す気はさらさらないって感じ?」
 交渉が成立してもしなくても、戦いは避けられそうになかった。



「この度はわざわざご足労頂き誠に恐悦至極に存じます」
 撃退士達を前に、アロンは深々と頭を下げた。ただし黄金龍の背という高所から。
「約束通り、蛇を連れて来て頂けた様ですね。もっとも、それが本物であれば…ですが」
「本物に決まってる、俺達はそんなセコい真似はしねぇんだよ。お前と違ってな」
 ロヴァランド最初から煽る気満々だ。
 しかしまだ余裕があるせいか、アロンはそれを軽く受け流し、眼下の撃退士達を舐める様にじっくりと見る。
「以前とは少々顔ぶれが違いますね。あの坊やはお亡くなりに?」
「置いて来たんや」
 黒龍が憎々しげに答えた。
「この前の怪我が、まだ治らへんでな」
 親の仇の様に睨みつける視線を真っ向から受け止め、アロンは「それは残念」と喉を鳴らす。
「息の根を止められなかったのも残念ですが…生きているなら、今度こそ地獄に送り返して差し上げようと思いましたのに」
 実はその坊や、すぐ目の前にいるのだが。
「…アンタ素材は悪くないのに趣味も性格も悪いのねぇ。そんなんじゃモテないわよ?」
 ユグは両手を軽く上げ、首を振りながら大袈裟に溜息を吐く。
 その姿にちらりと一瞥をくれ、アロンはさも見下した様に鼻を鳴らした。
「下等な世界に堕し、下等な生物と交わる恥晒しが、何を仰いますやら」
「天界のその傲慢さがアタシは大っ嫌いなのよ!」
 ユグは思わず声を荒げるが、ここで言い争っても埒があかないと思い直し、懸命に気を鎮める。
 どうせ通じる筈がないのだ、堕した者の想いなど。
 ヨルはその後ろに隠れていた。いや、特に意識して身を隠している訳ではないのだが。
「これじゃどう頑張っても見えないでしょ」
 ふふん、ユグは小声で呟いて得意げに胸を張るが、その僅か数秒後には背中を丸める事となった。
「アタシ、デカイし…うぅ、自分で言ってて悲しいわ」
「大丈夫、ガタイの良さならあたしの方が上よ」
 横に並んだ龍太が脇を小突き、やはり小声で囁く。
 途端、丸まっていたユグの背筋がピンと伸び、瞳が嬉しそうにキラキラと輝いた。
「もっとも、見えたところで気が付くとも思えないけど。アタシのメイクは完璧よ」
 気付いた時にアロンがどんな顔をするのか、それを見るのが楽しみだ。
「さっさと終わらせて帰らせてもらうでっ!!」
 黒龍の叫びで、場の空気が動いた。
「交渉役は私で良いのかな?」
 挫斬が一歩前に出る。
 アロンの背後に控えるリュールとは、仲間の意思疎通が届くぎりぎりの距離だ。
「まずはこっちの条件を提示させて貰うわ」
「条件?」
 鼻で笑ったアロンの反応には構わず、挫斬は交渉の条件と手順の説明を始めた。
 まずは互いが100m離れること。
 次に高松を黄金竜から降ろし、互いの中間地点に代表者一名と高松、門木が向かう。
 中間地点で人質を交換、互いの陣地に戻る。
「後はそのまま撤退しても良いし、お望みなら遊んであげても良いわ。どう?」
 しかし、アロンは薄笑いを浮かべながら首を振った。
「どうにも解せませんね。人質を握っているのは、こちらなのですよ?」
 切り札を持つ者に全ての決定権があって然るべきだろう。
「一切の譲歩には、応じかねますな。そちらは黙って、蛇を寄越せば良い。なに、心配は無用です…それさえ手に入れば、こんな小僧など我々には必要ないのですから」
 アロンは杖の先端で高松の頭を小突いた。
「すぐにでも解放して差し上げますよ」
 だが、その時。
 凛とした声がアロンの背に響いた。
「構わん、受け入れてやれ」
 腰まで届くプラチナブロンドのストレートヘアに、透ける様な白い肌、純白の大きな翼。
 門木の養母、大天使リュール・オウレアルだ。
「この世界には、郷に入っては郷に従えという言葉があるそうだ。それが人間のやり方であるなら、受け入れるべきは我等の方であろう」
 ただし、とリュールは撃退士達に氷の様な視線を投げた。
「騙し討ちをするつもりであるなら、我等も容赦はせぬ。良いな?」
 挫斬が頷く。
 交渉は成立だ。本当は交渉という名の騙し討ちなのだが――そこはユウが上手く説明してくれている筈だった。


『大天使リュール、無礼な挨拶お許し下さい。私はユウ、どうか話を聞いて下さい』
 その少し前、ユウは意思疎通でリュールに呼びかけていた。
『今からこちらの代表が交渉を持ちかけます。それを受け、代表者にアロンを指定して頂けないでしょうか』
 リュールの表情に変化はない。
 しかし直後の交渉で、リュールはその提案を汲んだ発言をしてくれた。
 安堵の息を吐き、ユウは再び語りかける。
『ありがとうございます。それから…不躾とは思いますが、対応に当たる者達には多少の手加減をお願い出来ないでしょうか』
 やはり反応はないが、通じたと考えて良いのだろう。
 受け入れられたか否か、それはわからないが。
『最後に、もう一つ。アロンとそのサーヴァントには、注意を怠らない様に…』
 ユウは龍太の懸念を伝えた。
 アロンは門木への見せしめとして、この場でリュールを殺すつもりなのかもしれない。
 彼の性格ならやりかねないし、高松にしても『天使を殺せるなら』と一芝居打っている可能性があった。
 天界がそれを許すとは考えにくいが、用心に越した事はないだろう。
 続けて黒龍が会話に入って来た。
『戦闘が始まったら、アロンの範囲攻撃に入る場所におって欲しいんやけど』
 いくらアロンでも、真っ当にリュールを上司と考えているなら、問答無用で巻き込む真似はしないだろう。
『それとなく、アロンの射線を塞ぐ位置に立って貰うんもええな。ボクらは大丈夫でも先生らはそうやない』
 リュールからの返事はない。
 だが伝わったと信じて、黒龍は高松に視線を向けた。
『カドキロボを知ってるなら目を右に』
 途端、高松は声の出所を探そうとする様に、きょろきょろと首を左右に振り始める。
「おい、何してる?」
 それに気付いたアロンが杖の先で高松の頭を小突く。
『アロンに気付かれたらどないするんや、目ぇだけ動かせばええんやアホ!』
 言われて、高松は少々むくれた様子で視線を右に流した。
 そうそう、良い子だ。
『後悔は後、今は生きて還る事を考えや』
 むくれたまま、高松はそっぽを向いている。
 この反応は、どうやら本物と考えて良さそうだった。


 秘密の会話を交わすうちに、交渉の方も成立した様だ。
 撃退士達が後退したのを見届けると、高松が黄金龍の背から降ろされる。だが、その手足は縛られたままだった。
 アロンは高松の首根っこを掴んで宙に浮くと、まるで荷物の様にぶら下げたまま指定の場所に飛んで来る。
 だが上空30m付近に留まったまま、それ以上は降りて来ようとしなかった。
「ちょっと待って、手足のロープは解いてくれないかな」
 挫斬が言った。
「それと、交換は地上でお願い」
 だが、アロンは馬鹿にした様な笑みを浮かべながら首を振る。
「おや、そんな条件は出されていなかった筈ですが?」
 自分の足で歩かせろとは言われていないし、高度の指定もなかった。
 ついでに言えば、生かして返せとも言われていない。
 ここから落とせば、いかに撃退士でも無事では済まないだろうが――
「人質とか身柄交換とか、とことん腐ってるわね、アイツ」
 愛梨沙が怒りの眼差しを向ける。
「そればかりか、こっちの提案に難癖ばっかり付けて…アイツ絶対、約束守る気なんかないわよ」
「ま、そいつはお互い様だな」
 目立たない様に光纏を抑えたミハイルは、アロンから直線で最短距離になる位置で身構えていた。
 合図と同時に距離を詰め、撃つ。どんな状況になろうとも。
 アロンがこのまま降りて来なければ、高さの分だけ距離が遠くなる。一発ぶち込む為には、かなり走る事になりそうだが――
「何とかするさ」
 そう言って、ミハイルはサングラスの下で不敵に目を光らせた。
 向こうのやり方は気に食わないが、汚い相手をぶちのめす方が爽快で気分が良い。
 楽しそうなミハイルに熱い視線を送りながら、ユグはロヴァランドと共に指定の場所に向かった門木に語りかけた。
『アロンにくさや爆弾を使った後、高松ちゃんの手を取って走…るのは無理ね。先生、担いで飛べるかしら?』
『…何とか、やってみる』
 門木の返事を聞いて、ユグは背後に隠したヨルに何事かを囁いた。少しばかり、作戦変更だ。
 それを受け、ヨルは高松に声を送った。
『コウキ、俺達が取り返すから。暴れないで…大人しくカドキに従って』
 両者が指定の位置(ただし上空30m)につき、向かい合う。
 だが、そこでアロンから待ったがかかった。
「蛇、両手を頭の後ろで組め。また妙な真似されちゃ敵わねぇからな」
 次いで、ロヴァランドにも。
「ジジイもだ、手ぇ上げて離れな」
「へいへい。でも最後に一度だけ、お別れのハグくらい構わないだろ?」
 だっきゅる!
 ロヴァランドは返事も待たず、思いっきり門木に抱き付いて――
「気色悪ぃ事してんじゃねぇよ、離れろ!」
「おや、ヤキモチかい?」
 怒鳴り散らすアロンにしれっと言い、ロヴァランドは門木に意思疎通で話しかけた。
『先生、爆弾はどこだ?』
『…上着の…』
『これか』
 アロンの視線を遮る様にしてポケットに手を突っ込むと、そのまま向き直り…ニヤリ。
「そいつは悪かったな!」
 言い放ち、手にした爆弾を投げ付けた。
 勿論、アロンの顔面を狙って。
 ぼんっ!
 この至近距離では、外す方が難しい。
 アロンは思い切り咳き込み、高松を掴んでいた手が緩む。
 その機を捉え、門木が体当たりする様に高松の身体を掻っ攫った。


「いいねぇ、クソ野郎に騙し討ち、大好きだ」
 ヨルからダークフィリアの潜航効果を受けたミハイルは、爆弾の炸裂と同時に飛び出して行く。
 続いて阿修羅の三人が縮地を発動させ、アロンの元へ。
 闇の翼で一直線に飛んだユウは、一足先に距離を詰めるとニグレドの糸でその杖を絡め取ろうとした。
 だが、全力移動の後では思う様に狙いが定まらない。
 しかもアロンはユウの事など眼中にない様子で、咳き込みながら血走った目で門木の姿を探していた。
「っの、クソ蛇ぃッ!!」
 高松を抱えて低空を危なっかしく飛ぶ門木を見つけ、急速接近。
 しかし門木の傍にはロヴァランドがぴたりと貼り付いていた。
「近寄んじゃねぇよカス、臭ぇだろが!」
 フォースを仕込んだグリーヴで思い切り蹴り飛ばす。
「…上司が居る前でも容赦なんてしねえし? つか、上連れてきてる時点で門木に触れさせる気ねえから。ははは、ワロスワロス」
「な…っ」
「まーさか上司に助けてもらおうなんて思ってねえよなァ」
 ちらり、まだ後方で動かないリュールに視線を投げる。
「お前はその程度の力量しかねえのかって、他の連中に知られても良いってンなら手伝ってもらってもいいんじゃねえ?」
 だが、そうなれば門木を連れ帰ってもそこでお役御免だ。
「昇進すンのはそっちのお姉さまだと思うがねえ。それでも良いなら、どうぞ? いくらでもご助力願ってくださいなー」
 これだけ言われてまだリュールの助力を乞うなら、それはそれで見事なものだが。
 にやにやと笑うロヴァランドに、アロンが杖を突き付ける。
「黙れ化石ジジイ!」
 しかし、杖の力が発揮される事はなかった。
「黙るのはてめぇの方だぜ」
 地上から狙いを付けるスナイパーが引き金を引く。
(かつて俺のスターショットでツルギは剣を落した。ならばダークショットなら腕に大ダメージじゃないか?)
 それはアロンにとって全くの不意打ちだった。
 ロヴァランドに気を取られていなければ、或いは多少の回避行動を取れたかもしれない。
 だがミハイルの放ったアウルの弾丸は、骨ごと粉砕する勢いでアロンの右腕を貫いた。
「ぐぁっ!」
 杖がその手を離れ、ゆっくりと落ちて行く。
 それを追う様に、アロンの身体もまた地面に吸い寄せられていった。
 しかし、それをただ見送るほど撃退士達は甘くない。
 その真下で待ち構えていた黒龍が、落ちて来るアロンに向けて五つの黒炎を打ち上げた。
 更には、闇の翼で上を取ったユウがベネボランスを上段から振りかぶり、思い切り叩き付ける。
 下から突き上げられ、上からは叩き落とされて、アロンはなすすべもなく地面に激突した。
 意識が刈り取られ、目の前に転がる杖に手を伸ばす事も出来ない。
「悪く思わんでな」
 トドメを刺そうと、黒龍が得物を村雨に持ち替えて冥府の風を纏う。
「この機を逃す手はありませんね」
 レイラも蛍丸を手に闘気を解放、挫斬もまたチタンワイヤーを構えた。
 しかし――


 それを遮る様にふわりと舞い降りた、純白の翼。
「これでも我が部下、むざと失う訳にもいかんのでな」
 撃退士達が攻撃を躊躇う中、杖を拾い上げたリュールはそう言うと、アロンの身体を無造作に抱え上げた。
 宙に舞い、後方へ下がる。
 入れ替わりに、待機していたサーバント達が一斉に押し寄せて来た。
「ここを通すわけにはいきません」
 先頭の獅子達を、ミカエルの翼に持ち替えたレイラが手当たり次第に打ち払う。
 ここを破られたら、門木と高松、それにヘリの乗組員達が危険に晒される。それだけは阻止しなければ。
「攻撃はアタシが受けられるだけ受けるから。アンタ達は存分に戦いなさい!」
 盾を構えたユグが叫んだ。
 その脇で、愛梨沙がアウルの衣で仲間を包む。
「ここは守る、絶対に」
 二人の後ろから、残る仲間達が総攻撃を仕掛ける。
「班分けがどうの言うとる場合やない、ここは集中攻撃で倒すで」
 黒龍は先程かけたヘルゴートの効果が残っているうちにと、模造天使達に銃撃を叩き込む。
 取り付いて自爆でもされたら、ヘリはまず間違いなく落ちるだろう。
 ユウは模造天使達の上空を自在に飛び回って、その動きを掻き乱す。
 目標を分散させられて右往左往する天使達を、レイラが下から狙い撃った。
 挫斬は雷打蹴の派手な動きで敵の目を惹き、囮となってそのまま仲間達から離れる。
 付いて来ないものはチタンワイヤーで絡め取り、引きずってでも連れて行く。
 そのまま自爆されても、いざとなったら死活がある。
「さあ、おいで。一緒に逝きましょう?」
 金天使を抱いて敵陣に突っ込み、誘爆を狙うなどという荒技が出来るのも、死活があればこそ。
 それが解けた時の反動など、気にしていては戦いにならない…少なくとも挫斬にとっては。
 だが、危険なのは模造天使ばかりではなかった。
 黄金色の巨大な影が頭上を覆う。
 その背に乗っているのは――
「アロン…!」

 
 ぐったりと動かないアロンを回収したリュールは、その肩にそっと手を触れた。
 掌から白い光が溢れ、アロンの顔に血の気が戻り始める。
 ふらふらと立ち上がった所にリュールが杖を投げ渡すと、アロンはそれを左手で受け取った。
 今の治療でかなりの体力が回復した様だが、右腕はだらりと下がったまま動かない。
「作戦は失敗の様だな。下僕共が足止めをしている間に、退くぞ」
 しかしアロンは首を横に振った。
「いいえ、不覚を取りましたが…まだ終わってはおりません」
 負け惜しみか、自棄になったのか。
 しかし、アロンの顔には妙な自信が溢れていた。
「ご心配なく、ご子息は必ず取り戻してご覧に入れますよ」
 アロンをその背に乗せ、黄金龍は静かに舞い上がる。
「既に、仕込みは完了しております」
 後は迎えに行くだけだ。


「ちょっと、いきなり飛ぶんじゃないわよ!」
 頭上を越えようとする黄金龍の腹を切り裂く様に、龍太が黒いカード状の刃を叩き付ける。
 大部分がバリアで防がれるとは言え、祝詞で威力を上げたその攻撃は確かに効いていた。
 それに遠距離攻撃なら反撃も届かない。
「石化でもしてくれれば、バリアも反応しなくなるのかしら」
 だが抵抗力があるうちは、そう簡単にバステにかかりそうもない。
 やはり、とにかく少しずつでも削る事だ。
 龍太が注意を退いている隙に、僅かに点在する岩陰に身を潜めたミハイルはアサルトライフルで流の目を狙う。
 精密狙撃で狙いを付けたが、やはりバリアが邪魔をしていた。
「なら、こいつはどうだ?」
 ダークショットでCRを下げ、撃つ。
 予期せぬ場所からの攻撃を受け、龍の片目が赤い飛沫を散らした。
 痛みに耐えかねたのか、龍は背中のアロンを振り落とす勢いで身を捩り、巨大な尾を振り回し、手当たり次第にレーザーを吐き散らす。
 その無差別攻撃は、ユグと愛梨沙の二人だけで防ぎきれるものではなかった。
 しかし、痛みに我を忘れている今なら。
「これが効くかしら!」
 攻撃を喰らう事も厭わずに突っ込んで行った龍太が八卦石縛風を放つ。
 舞い上がる砂塵が龍の身体を包み込んだ瞬間、その身体は置物の様に動かなくなった。
 硬直した身体が地響きを立てて落ちる。
「ちっ」
 そのまま上空に留まったアロンは、龍に向けて左手の杖を振りかざした。
 ヒールの類か、それともクリアランスか。
 いずれにしても、させる訳にはいかない。
『ねぇアロン、俺、どこにいると思う?』
 頭の中に響いた声に、アロンはぴたりと動きを止めた。
「小僧!?」
 居る筈のない者の声に惑わされたアロンの背後に忍び寄り、得物を斧槍に持ち替えたヨルは、属性攻撃を乗せたゴーストアローを撃ち放つ。
 またしても不意を衝かれたアロンは、再び地面に膝を折った。
「一つ言い忘れてた…俺、悪魔なんだ」
 だが、その声は背後で響いた銃声に掻き消され――


「…お前にこの重さがわかるなら、持ってろ」
 後方に逃れた門木が高松の手足を自由にし、ミハイルから預かった銃を手渡した時の事だった。
 それを手の中で転がしていた高松が、いきなりその銃口を門木に向けた。
 まるでナイフを刺す様に、門木の腹に押し付ける。
 この距離で外す事など、まず有り得ない。
「てめ、何しやがる!?」
 言葉よりも速く庇護の翼を展開すると、ロヴァランドは門木を突き飛ばす様に割って入った。
 銃声が響く。
「ツ…ッ」
 ロヴァランドの脇腹に出来た赤いシミが、見る間に広がっていった。
「大丈夫だ、大した事ねぇ。それより先生、無事か?」
 門木が放心した様に頷く。
 だが、もっと呆けた顔をしているのは、銃を撃った本人だった。
「違う、俺は撃つ気なんか…!」
「…操られた、のか?」
 門木の問いに、高松は震えながら頷く。
 そうだ、確か高松を龍から降ろす時、アロンは杖で頭を小突いていた。
 もしかしたら、あの時に?
「呪いみたいなモンだよ」
 ふいにアロンの声がした。
「俺を倒さない限り、そいつは一生俺の言いなりだ」
 目の前に金ピカの翼が舞い降りた。
 同時に、高松の手が再び上がる。
 僅かに震えるその銃口は、ぴたりと門木に向けられていた。
「どうする? こんな爆弾を連れて帰るのか?」
 再びの銃声。
 しかしそれは、遥か遠くから聞こえて来た。
「言っただろう、遠慮なく撃つと」
 ミハイルに腕を撃ち抜かれ、高松は銃を取り落とした。
 ロヴァランドが拾い上げ、その銃把を高松の後頭部に叩き付ける。
「これで、とりあえずの危険はなくなった訳だが…どうする先生? それでもコイツ連れて帰ンのか?」
 気を失って崩れ落ちた高松を足で転がしながら、ロヴァランドが訊いた。
「…そう、したい」
 助けると言った。
 皆で無事に帰ると。
「わかった」
 高松の身体を無造作に担ぎ上げると、ロヴァランドは空を見上げた。
 近付いて来るローターの爆音。
「先生、飛ぶぜ?」
 地上に降りるまで待っていては危険だ。
 高松を担いだまま、開け放たれたドアに飛ぶ。
「おっと、そう簡単に逃がすと思うのか?」
 門木がそれに続こうとした時、アロンが杖を掲げた。
 だが、その目の前に盾を構えた愛梨沙が舞い降りる。
「アロン、貴方の思うようには絶対にさせない」
「どけ!」
 構わず貫通弾を撃とうとしたアロンの身体に衝撃が走った。
「そっちこそどきなさいよ」
 ユグがシールドバッシュを叩き込んだのだ。
「今のうちに、早く!」
 愛梨沙に促され、門木がヘリに乗り込む。
 だが、ほっとしたのも束の間、今度は頭上に黄金色の巨大な影が落ちた。
 復活した黄金龍が、ヘリを撃ち落とそうと狙っているのだ。
「絶対にさせないって、言ってるでしょ!」
 龍と同じ高さまで飛翔し、愛梨沙は吐き出されたレーザーをブレスシールドで受け止める。
 ユウの翼を借りて上を取ったレイラが、その巨体を烈風突で叩き落とした。
「遊園地にでも置いてあれば人気だったかもしれないけれど」
 続けて、龍太が魔法で翼の付け根を抉る。
「ま、子供達には危険すぎて、遊ばせてあげられないわねぇ」
 再び暴れ始めた龍をすかさず八卦石縛風で黙らせ、龍太は火事場の馬鹿力を発揮して黄金の身体を容赦なく切り刻む。
 回復術を使おうとしたアロンを阻止しようと、ユウはスタンを狙って薙ぎ払い。
 しかし、その攻撃は咄嗟に展開されたバリアによって防がれてしまう。
「とは言え、無限に防げる訳でもないでしょう」
 ユウは闘気を解放し、再びの薙ぎ払い。
 それに重ねて、レイラが渾身の五連続攻撃を叩き込んだ。
 と、最後の一撃が何にも遮られる事なく、アロンの身体に吸い込まれる。
 バリアが消えたのだ。
「アハハ! さぁ! 一緒に死にましょう!」
 大剣を振りかざしながら飛び込んで来た挫斬の鬼気迫る姿を見て、今度は姿を消すが――無駄だった。
 足元に滴る血が、その存在を教える。
 大剣の一閃が透明なヴェールを切り裂き、アロンの恐怖に引き攣った表情を露わにした。
「さっき決め損ねた分、決めさして貰うで」
 杖を取り落としたアロンの頭上から、黒龍が村雨を振り下ろす。
 それは右目の上を一直線に切り裂いていった。
 派手な悲鳴が上がる。
 血が噴き出す右目を押さえ、地面を転げ回るアロン。
「お前が刺した傷も、そんくらい痛かったんと違うか?」
 上空を仰いだ黒龍の目に、遠ざかって行くヘリの姿が映っていた。


「ここから先には行かせないわ」
 再び撃退士達の前に立ったリュールに向けて、ユグが盾を構える。
「まだ…やる?」
 ヨルの問いに、リュールは静かに首を振った。
「肝心の獲物が逃げたのでは、続ける意味はあるまい」
 黄金龍は倒れ、アロンもこのままでは再起不能になりかねない。
「完敗だな」
 そう言いつつ、目元には微かな笑みが宿っていた。
「だが、次はこうはいかない…覚悟しておけ」
 一転、表情を引き締めると、リュールは踵を返す。
 残った下僕に、応急手当を施したアロンを運ばせて――




 高松は病院に運ばれた。
 そして無茶な戦い方をした挫斬もまた。
 だが、暫くは絶対安静である筈の彼女は――

 高松の病室にいた。
 しかも、強引に唇を奪うという暴挙に及んでいる。
「ふふ、迷いながらも一歩進んだ男の子へのご褒美よ。どちらの道を選ぶにしろ後戻り出来ない場所まで歩いて男になれたら続きをしてあげるわ、坊や。ただし」
 首を軽く絞め、続けた。
「敵に回った時は君の首から下はないけどね」
 高松は押し黙ったまま、不機嫌にそっぽを向いている。
「それじゃ楽しみにしてる。そうそう、今回も貸しよ。これで貸し3。早く返してね」
 とりあえず…動けそうもないから、ナースコールしてくれたら一つ減らしてあげても良い、かも?


 一方、受付の一角には入院中の二人を除く全員が集まっていた。
「センセ、怪我してないよね?! …良かった」
 門木の無事を確認した愛梨沙が膝から崩れ落ちる。
「…ありがとう。皆も…それに、また迷惑をかけて…多分、これからもかけるだろうし…」
 すまないと言おうとした門木の頭を、誰かが軽く小突いた。
 とりあえず、これで無事に目標は果たした。
 色々と気になる事は多かったが、まずは皆で無事を祝おう。
 あの二人が退院したら――
 高級料亭フルコース、温泉付きで…どうかな?


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: 高松紘輝の監視者(終身)・雨野 挫斬(ja0919)
   <無茶な戦いを続けた為>という理由により『重体』となる
面白かった!:6人

202号室のお嬢様・
レイラ(ja0365)

大学部5年135組 女 阿修羅
高松紘輝の監視者(終身)・
雨野 挫斬(ja0919)

卒業 女 阿修羅
Eternal Wing・
ミハイル・エッカート(jb0544)

卒業 男 インフィルトレイター
男を堕とすオカマ神・
御堂 龍太(jb0849)

大学部7年254組 男 陰陽師
その絆を取り繋ぐもの・
ロヴァランド・アレクサンダー(jb2568)

大学部8年132組 男 ディバインナイト
夜明けのその先へ・
七ツ狩 ヨル(jb2630)

大学部1年4組 男 ナイトウォーカー
By Your Side・
蛇蝎神 黒龍(jb3200)

大学部6年4組 男 ナイトウォーカー
208号室の渡り鳥・
鏑木愛梨沙(jb3903)

大学部7年162組 女 アストラルヴァンガード
オネェ系堕天使・
ユグ=ルーインズ(jb4265)

卒業 男 ディバインナイト
優しき強さを抱く・
ユウ(jb5639)

大学部5年7組 女 阿修羅