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マスター:STANZA
シナリオ形態:シリーズ
難易度:難しい
形態:
参加人数:10人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2013/10/08


みんなの思い出



オープニング


「カスどもが、やってくれるじゃねぇか」
 足音も荒く部屋の中を歩き回りながら、アロンは吐き捨てる様に言った。
 気に入らない。
 ゴミを投げて寄越した生意気そうな小僧も、そいつと一緒にいた二匹も、他のガキ共も。
 そして何より、この自分に刃向かってきた蛇が。
「蛇は蛇らしくピーピー泣いてりゃ良いんだよクソが!」
 アロンは手にした杖で、手近な壁を思い切り叩き付けた。
 分厚いガラスの様な材質の壁が粉々に砕け、大理石を模した白い床に転がる。
「これも片付けておけよ」
 ツルギに命じると、アロンは黄金色の円柱にもたれて腕を組んだ。
 その声に、ツルギは主人の金ピカ鎧を磨く手を止めずに頷く。
 磨き直しを命じられたのは、これで何度目だろう。消臭剤をどれだけ消費しても、アロンは「まだ匂う」と鼻に皺を寄せる。
 そして何度やり直しを命じられても、ツルギは嫌な顔ひとつせずに黙々とそれに従っていた。
 本当は恐らく、匂いなどとっくに消えているのだろうが――この壁が数時間後には何事も無かった様に元に戻る様に。
「さて、次はどうするかな」
 爪を噛みながら苛立たしげに爪先を鳴らし始めた。
 コツコツ、コツコツ……


――――――


『お前さ、翼かたっぽしかなくても飛べるんだよな?』
 いつもの顔ぶれ。
 名前は知っているが、その名を思い出す事さえ厭わしい連中。
 その中の一人が言った。
『だったらさ、腕もかたっぽだけで充分なんじゃね?』
 右腕が後ろに捻り上げられる。
『まあ、待てよ』
 誰かがそれを止めた。
 だが、それは彼を助ける為である筈もない。
『コイツ右の翼がないんだぜ? それで腕まで右側がなかったらバランス悪いだろ?』
『ああ、それもそうか』
『俺は親切だからな、バランス良く残してやるよ……嬉しいだろ、蛇?』
 声の主は、勿論――


「……また、か」
 門木章治(jz0029)は溜息と共に額の汗を拭う。
 だが今日は、以前ほど酷くない。
 嫌な夢、思い出したくもない事を思い出したのだから、気分が良い筈はないが……それでも、そう悪くはなかった。
 大丈夫だ。
 負けはしない。
 あの時だって、負けてはいなかった……と、思う。
 どんなに痛くても、声を上げなかった。
 泣き喚けば、連中は喜ぶ。
 だから、最後まで耐えれば自分の勝ちだ。
 連中には加害の跡を誤魔化しきれない程の傷を負わせる度胸など、ないのだから。


 そしてまた、学園にアロンからの連絡があった。
『よぉ、蛇』
 その口調は子供の頃と少しも変わらない。
 進歩のない奴だと思いながら、門木はその要求を聞いた。
『この前、お前が約束を反故にしてくれたお陰でさ……お袋さん、ピンチだぜ?』
 電話の声は笑っている。
『お前のお袋もさ、早くお前を捕まえて来いって、上にせっつかれて大変なんだよ。わかるだろ?』
「……だから、何だ」
『おいおい、何だはないだろ? 出来損ないのクズを拾って大事に育ててくれた大恩人だぜ?』
「……だとしても、貴様に心配される筋合いはない」
『へえぇ、ホント言うようになったじゃねぇかよ、蛇のくせに』
 その声に、次第に怒りが滲み始めた。
『後悔するなよ? 警告はしたからな』
 だが門木は怯まなかった。
 門木の処分を命じられているリュールが未だそれを果たせずにいる事は、確かにマイナス材料だろう。
 だが彼女は、アロンの奸計にまんまと嵌まるほど甘くはない。
「……ここの言葉にはな、こんな場面にぴったりな表現があるんだ」
 門木は言った。
「一昨日来やがれ!」
 ガチャン!


 アロンの考えそうな事は、大体想像が付く。
 リュールの立場が危ないと言えば、門木が自分から出て来ると思ったのだろう。
 もし出て来なければ、それをリュールの失態と見なして上に報告すれば良い。
 いや、寧ろ望みはそちらの展開か。
 恐らくアロンの報告には盛大な尾鰭背鰭が付く事だろう。それを信じた上からは、リュールに対して何らかの処分が下るかもしれない……が。
「……大丈夫だ」
 それは確信をもって言える。
 とは言え、長引けば長引くほどリュールの立場が危うくなる事は確かだ。
 それに……そういつまでも、防波堤の役割をして貰う訳にもいかない。
 出来れば「こちら側」に来て欲しいのだが。
 それが無理なら、どこか天界の手が届かない所に逃げて貰うだけでも良い。
 具体的な策はまだ何も思い付かないが――

「……とりあえずは、ゲートを潰しておかないと、な」
 ツルギのゲートはコアの位置もわかっている。
 相手も当然守りは固めて来るだろうが、それで生徒達の勢いを止められるとは思えなかった。
 問題は、新たに発見したアロンのゲートだ。
 こちらは市街地のど真ん中、高さ160mほど、地上45階建ての高層マンションの屋上にあるらしい。
 ゲートが高所に存在する為、ゲートを中心に球状に広がる結界は、地上付近ではごく狭い範囲でしかない。
 その代わり、マンション全体がすっぽりと結界の中に取り込まれていた。
 串に刺した団子を地面に突き立てた状態と言えば良いだろうか。串がマンションで、結界が団子――ただし串は団子の中心部までしか刺さっていない。
 つまり結界の影響を受けているのは、ほぼマンション内のみに限られている。
 ゲートが出現したのは恐らく一週間以上も前の事だという話だったが、影響が局所的だった為に異変に気付くのが遅れたのだろう。
 ゲートが発見された事を、アロンはまだ知らない筈だ。
 今なら奇襲をかけられるが、逆にこちらも情報が殆どない所に飛び込む形になる。
 高層マンションの屋上という条件から、突入するには下から上がるか上から飛び降りるか、そのどちらかの方法をとる事になるだろうが……
 建物の内部には当然サーバントが溢れている事だろうし、エレベータも動かないと思った方が良い。
 敵を排除しながら45階を駈け上げるのは、いくら撃退士の体力でも骨が折れそうだ。
 ましてや、登ったらそれで終わりという訳でもなく、寧ろそこからが本番だ。
 そうなると、上空から飛び降りるのが最も安全で効率が良い。
「……撃退庁か、自衛隊に……ヘリを借りるか」
 このところの人手不足で人的な応援は難しいだろうが、機材なら何とかなるだろう。
「……さて、どっちを先に落とすか……」
 両方一度にというのが理想だが、手を借りられない以上はどちらかに標的を絞る必要がある。
 確実に潰せるツルギのゲートか、情報がなく難度も未知数だが犠牲者が出かねないアロンのゲートか。
 そこは、話し合って決めるしかないだろう。

 門木は生徒達に招集をかけた。



前回のシナリオを見る


リプレイ本文

「ついにツルギと決着つけるときがやってきたぜ」
 サングラスの奥で、ミハイル・エッカート(jb0544)の青い瞳が凶悪な光を放つ。
「今度は痛〜い一発をぶち込んでやるぞ」
 今までの戦いでコツは掴んだ。
 負ける気はしない。ツルギを倒して、コアもぶっ壊す。
「やっとあのムカつく天使の横っ面を殴り飛ばせるわ」
 御堂 龍太(jb0849)が両手の指をバキベキと鳴らした。
「やってやろうじゃないの」
 突入するのはツルギのゲートだし、そこにアロンはいないかもしれない。
 だが、ゲートの一つと手駒を一度に失う事になれば、横っ面を張られた程度のダメージでは済まないだろう。
 前回の調査の後で七ツ狩 ヨル(jb2630)が付けた目印もあるし、コアに辿り着くのは難しくない筈だ――敵の妨害さえなければ。
「マーキングは、変わってるかもしれない。余り過信はしないで」
「残ってたらめっけもん、くらいに思うとった方がええかもしれんね」
 注意を促したヨルと蛇蝎神 黒龍(jb3200)に、龍太は片目を瞑って見せた。
「わかってるわよ、地図もちゃんと頭に入れといたわ」
 前回の調査から戻った後でヨルが書き上げた地図は、コピーして全員に配られている。
 それに、大体のルートは自分でも覚えていた。
「…と、そう言うたらロヴは今回が初めてやったな。軽く説明しといたろうか」
 貴族の嗜みか年の功か、堂々たる存在感を放ちつつ、すっかりその場に馴染んでいたロヴァランド・アレクサンダー(jb2568)に、旧知である黒龍が声をかける。
「俺も報告書を読んでは来たがな」
 実際の参加者から聞く話は、報告書とは違った視点で語られることだろう。
 そこには書かれなかった事柄も、或いは聞く事が出来るかもしれない。
「手短に頼むぜ」
 言われて、黒龍はかくかくしかじか…
 と、一通り説明が終わった所で、黒龍はちらりと門木の方を見た。
「今回あれやねアロンゲートハーレムやな先生」
 言われてみれば。
 陽動班としてアロンゲートに赴くのは、レイラ(ja0365)、雨野 挫斬(ja0919)、カノン(jb2648)、ユウ(jb5639)の四人。
 そして門木も、変装してヘリで待機という形ではあったが、アロンの側に行く事が決まっていた。

「門木先生…因果は巡り来るものですけれど、乗り越えて欲しい」
 それを決める際の、レイラの言葉。
「だから一緒に戦いましょう。過去を乗り越えるために、そして彼らの横暴を打ち砕く為に」
 こくり、門木は頷いた。
 まだ無理をしている部分もあるし、アロンに対する恐怖心が消えた訳でもないが――でも、逃げるのはもうやめた。
「…大丈夫、だ」
 これから立ち塞がるであろう上位天使が鋼鉄製の壁だとすれば、アロンなどベニヤ板の様なものだ。
 理想を理想のままで終わらせない為に。
 同じ道を歩もうとしてくれる者達の為に。
 自分の個人的な感傷で足を引っ張る訳にはいかない。
「カドキ、なんだか感じが変わった」
 そう言ったヨルの表情は余り変わらないが、喜んでくれている事はわかる。
「…うん、ありがとう」
 門木は少し照れた様に、鼻を擦った。
「…俺が行っても…余り、役には立たないと思う、が。…足手纏いにならない程度には…頑張る」
 だが、ヨルは首を振った。
「『一緒に』頑張ろう」
 役目は違っても一緒に戦う仲間だから。
 独りではないから。
「…うん」
 もう一度、嬉しそうに頷く門木を見て、カノンは微妙に複雑な表情を浮かべた。
(全く…)
 無茶をしてと思う気持ちと、きちんと乗り越えられたと喜ぶ気持ちと…どう思うべきか。
「…カノン…怒ってるの、か?」
 その視線に気付いた門木が、少し逃げ腰になりながら尋ねる。
 怒っている訳では、ないけれど。
(ただ、先生が見せた心に応える、それくらいの意地だけは出しても良いでしょう)
 その決意が、カノンの表情を怒った様に見せているのかもしれない。
「よし、打ち合わせはこんな所で良いな」
 後は実行あるのみと、ミハイルが立ち上がった。
「行くぞ、ツルギゲート攻略のそぶりを見せて、アロンゲートに秘密兵器投入! …と見せかけて、やはりツルギゲートが本命だぜ! 的な作戦!!」
 …長いよ作戦名。

 ツルギ側とアロン側、二手に分かれて、彼等はそれぞれの現場に向かう。
 と、その前に。
「センセをアロンの近くに連れて行くの、ちょっと不安…あたしはツルギ側だから守れないし」
 ツルギ側の紅一点(と言うと「あたしもいるわよ!」という声が聞こえて来そうだが)、鏑木愛梨沙(jb3903)が門木の顔を心配そうに覗き込んだ。
「危険だと感じたら、逃げてね。お願いだから…」
「…大丈夫だ。俺はヘリで待ってるだけ、だから」
 ぽふん、門木は愛梨沙の頭にそっと手を置いた。
「…お前こそ…お前達も、無茶はするなよ?」
 ツルギのゲートに向かう他の五人にも声をかける。
「…もし、無理だと思ったら…次でも、その次でも…良いんだからな」
「うん、わかってる」
 そう答えはしたものの、愛梨沙は自分の怪我になど頓着しないのだろう。
 ミハイル、龍太、ヨル、黒龍、ロヴァランド。彼等にしても、次の機会など考えてもいない筈だ。
 結局は彼等に頼って任せきり、自分はただ信じて待つ事しか出来ない。
 だが、それでも一緒に戦う仲間だと言ってくれた。
「…待ってる、から」
 救急箱にありったけの薬を詰め込んで。



 暫く後。
『こっちの準備は整ったよ、いつでも突入OK』
 アロン班の挫斬からの連絡を受け、ミハイルは時計を見た。
「わかった、時計を合わせるぞ…5分後に突入してくれ」
 きっちり5分が無理なら3分でも1分でも、とにかく時間差があれば良い。
 岩陰に見えるツルギのゲート周辺には見張りの姿さえなかった。
「中に引き込んで、弱体化した所を叩こうって腹ね」
 龍太が言った。
 恐らく踏み込んだ途端に、盛大な歓迎が待っていることだろう。
「でも、いちいち相手にすることないわよ」
 無視出来そうな相手は極力無視して、コアまで一気に突っ走る。
「アロンのゲートは被害が気になるけど…一つずつ、やれる事やりましょ」
 突入の直前、愛梨沙が全員にアウルの衣で加護を与えた。
 とにかく、まずはゲートの数を減らす事。
「このコアだけは絶対に破壊する。行くぞ」
 ミハイルの合図で、全員が一斉にゲート内部に突入した。

 彼等の足が床に着いた、次の瞬間。
「待ち伏せか!」
 真っ白な模造天使達が、両手の剣を高々と振りかざして迫って来た。
 しかも、彼等を取り囲む様に四方八方から。
 だが、ここは守りに入るよりも先手必勝、ミハイルはアサルトライフルMk13をぶっ放した。
 模造天使の頭が吹っ飛ぶ。だが動きは止まらない。そのまま床の上を滑る様に近付いて来る。
「自爆なんかさせない!」
 前に出た愛梨沙が金剛夜叉で一閃、模造天使の身体を真っ二つに切り裂いた。
 本来は守りがメインだが、あれだけは自爆される前に速攻で倒さなくては。
 再び守りに就いた愛梨沙の背後から、黒龍がマライカMK-7を連射する。
 そこにヨルのオートマチックが火を噴き、模造天使は自爆する間もなく吹き飛ばされた。
 しかし敵は周囲を取り囲んでいる上に、次から次へと湧いて来る。
「きりがあらへんな」
 黒龍がボヤいた途端、前線の攻撃をくぐり抜けた模造天使がその目の前で両手の剣を振り上げた。
「そうはさせないわよ!」
 割って入った龍太が鎌鼬を呼び、強烈な風の勢いでそれを切り刻む。
 しかし、それはそのまま両腕を広げて龍太に抱き付こうとした。
 龍太は咄嗟にプロスボレーシールドを活性化、衝撃に備えるが――
「ここで倒れてもらっては困るぞ」
 ミハイルが放った回避射撃が、取り付くタイミングを僅かに逸らす。
 その隙に愛梨沙が横から斬り付け、難を逃れた龍太はその身体を引っ掴み、敵陣に向けてぶん投げた。
 次の瞬間、周囲を巻き込んだ爆発が起こる。
 巻き込まれた何体かの敵が、取り付く相手を探して近付いて来た。
「そいつらを確実に片付けろ、道を開くぞ!」
 ロヴァランドが叫んだ。
「このままじゃ埒があかねえ、お前ら全員でぶっ潰せ!」
 言われて、仲間達は包囲網に穴を開けるべく攻勢に転じた。
 既に自爆モードに入っていた模造天使達は、追撃を受けてそのまま不発に終わるか、或いはまだ遠い間合いで爆発する。
 その隙間を抜けて、彼等は走った。案の定、真っ白い壁に付けた目印は消されていたが――
「大丈夫や、天井の印は残っとる!」
 上を見上げて黒龍が叫んだ。
 どうやら、その位置に付けた印は気付かれなかった様だ。
 それを目印に、敵を蹴散らした一同は狭い通路の一本に走り込んだ。
 だが、殿のロヴァランドが遅れている。
「構うな、行け!」
「でも、血が出て――」
 駆け寄ろうとした愛梨沙に、怒声が降りかかった。
「さっさと突撃かましやがれ青二才ども、グズグズすんなボケが!!」
 これには全員が一瞬足を止めて振り返った。
 と言っても、青二才やらボケ呼ばわりに怒り心頭、敵と一緒にボコってやろうか――と思っての事ではない。
 どれほど怒られても、彼一人を置いて行ける筈がないではないか。
「しょうがねぇな」
 ロヴァランドは敵に向けて盾を構えたまま、背中で言った。
「島津の退き口って知ってるか? 命捨てがまるは今ぞ、って言い回しもあってな?」
 かの関ヶ原の戦いに於いて、敗軍である島津が最も厚い敵陣の真っ直中を突き破って、見事に逃げおおせたという逸話がある。
 捨て奸(すてがまり)とは、本隊が逃げ切るまでの時間稼ぎとして、少数の者が命がけで殿を守る捨て身の戦法。所謂トカゲの尻尾切りだ。
 だがロヴァランドとて、むざと捨て置かれる尻尾になる気はない。
「…行きな。お前らや門木みてェな若い子達の為に俺はここに来た。ここにいる」
 彼が重ねて来た歳月に比べれば、ここにいる者達の殆どは勿論、門木さえヒヨッコ同然だった。
 そのヒヨッコ達が今、何かを成そうとしている。
 ならば、黙ってその背を押してやるのが年を重ねた者の務めだ。
「ミハイル。下手に損害を出させるな、敵を避けろ。それが電撃戦の鍵だ」
「おう、任せろ」
 サングラス風の改造スナイプゴーグルの奥から、ミハイルはその背を真っ直ぐに見返す。
「ヨル、黒龍。やられる前にやれ。お前らが攻めねえで誰が攻める」
「わかった」
「相変わらず厳しなぁ」
 頷くヨルに、苦笑いの黒龍。だがその指示の的確さは誰よりも理解していた。
「御堂、鏑木。攻めの要を落とさせるな…皆の命綱、頼むぜ」
「任せてちょうだい」
「うん」
 吹っ切った様子の龍太に比べ、愛梨沙はまだ彼の怪我を気にしていたが――それでも。
「足を止めるな、手を緩めるな。会う敵は逃すな、無駄な敵には会うな。可及的速やかにコアへ到達、破壊しろ」
 仲間に背を向けたまま、ロヴァランドは吠えた。
「――行け!!」
 弾かれた様に、仲間達は走り出す。
 もう後ろを振り返る事はなかった。
「さーて、尻尾の悪足掻きといくかね」
 ロヴァランドはシールドを活性化して、暫し防戦一方でその場に踏ん張る。
 何しろ自爆の危険がある相手だ、ここは下手に手を出さず、足止めだけに専念すれば良い。
 だが、ぎりぎりまで温存しても、その効果はやがて切れる。
 盾を収めた瞬間を好機と見た模造天使達が、両手の剣を一斉に振り上げた。
 しかし、そのガラ空きになった胴体を狙って、ロヴァランドは力の篭った一撃を振り抜く。
「老体だからってなめんじゃねーよ駒風情が」
 一転攻勢、最後まで一歩も引かずに応戦する覚悟だった――が。
「何だ?」
 潮が引く様に、敵の波が退き始めた。
 何か状況に変化があったのか。
「そろそろ、コアに辿り着いた頃か」
 ロヴァランドは彼等の後を目で追う。少し見えにくいが、その白い姿は次々と別の通路に消えて行った様だ。
 恐らくコアを守れという指示が出されたのだろう。
 そして、コアに通じる道はこの一本だけではない様だ。
 ロヴァランドは背後に敵がいなくなった事を確認すると、仲間の後を追った。
 この先に、ツルギかアロンか、或いは両方が――いる。

 残る五人は、脇目もふらずに通路を突っ走っていた。
 ミハイルの索敵に引っかかる敵は多かったが、こちらに気付いていないものは無視して通り過ぎる。
 向かって来る敵だけを先手必勝で撃ち抜き、その音と動きを追った仲間が追撃を加え、自爆される前にトドメを刺した。
 口で意思を伝えるよりも、行動で示した方が数段早い。
 また仲間達も心得たもので、互いに黙ったままで確実に目的を果たしていった。
 仲間の動きが鈍くなったと見れば、本人が怪我に気付く前に治療の手が差し伸べられる。
 そうして敵を蹴散らし、体力を回復させつつ、彼等は天井の目印と記憶を頼りに最深部を目指した。
「あそこだ」
 ヨルが通路のひとつを指差す。
 あれを抜ければ、広場の様な空間に出る筈だ。その中心には――
「あったわ!」
 龍太が声を上げる。
 そこに、青く光る多面体が鎮座していた。
「あれをぶっ壊せば良いんだな?」
 ミハイルが早速そこに狙いを付けるが、その前に立ち塞がったのは。
「やっぱり出たわね」
 しかもペアで。
 龍太は時計を確認した。
 別働隊の突入まで、まだ僅かに時間があるか。
「やれやれ、またしても手土産なしに不法侵入…これで二度目でございますよ?」
 相変わらず嫌味な金ピカな天使が、わざわざ宙に浮いたままの文字通りな上から目線で言った。
「カドキは約束守ってるよ、そっちが気付いてないだけで」
「…何?」
 アロンはヨルの言葉の意味を計りかねる様子で暫し沈黙。
 あと5秒、4、3、2――



「五分後、ね」
 セットされたタイマーを見て、挫斬はふと思い付いた様にパイロットに声をかけた。
「ねえ、ちょっとマンションの周りを飛んでみてくれない? 中の様子を確認したいんだけど」
 まだ時間はある。その程度の寄り道は問題ないだろう。
 要請に応え、ヘリはマンションの周囲で大きく旋回を始めた。
 窓際に寄った挫斬は双眼鏡を構える。
 中の住民はどうしているのだろう。部屋にまで敵が入り込んでいる様な事はないのだろうか。
 殆どの部屋はカーテンで視界を遮られていたが、一箇所だけ――
 挫斬は荷物からカメラを取り出して、シャッターを切る。
 写真に収めたのは、カーテンの隙間からちらりと見えた親子の姿だった。

 そうしている間に、残る三人は作戦の最終確認の為に門木を取り囲む。
 今日の門木は自衛隊員に見せかける為に、それっぽい迷彩服を着込んでいた。
 頭にはパイロット仕様のヘルメット。
 フルフェイスなら、敵の目を欺く効果も期待出来るだろう。
 とは言え、門木をゲート内まで連れて行くつもりはなかった。
 安全の為に学園を離れて貰ったのに、わざわざ危険に飛び込む様な真似をさせる筈もない。
 変装は万が一、アロンがゲートの外に出て来た時の為だ。
「でも、大丈夫です。こちらには秘密兵器がありますから」
 強化型くさや爆弾を受け取り、ユウは門木を安心させる様に微笑んだ。
 もしアロンの逆鱗に触れたとしても、これを投げ付ければ追っては来ないだろう。
「もし何か他に、確認や…お伝えしたい事があったら連絡を入れますね。ゲートから50m以内なら意思疎通が使えますから」
 そして、いよいよ時間が迫って来た。
「怖いのは私も同じです」
 レイラがそっと門木の手をとり、それを自分の胸へ。
「でも先生が、皆がいるから戦えます」
 心臓の鼓動が伝わるだろうか。
 これで勇気を分け与える事が出来たなら。
 しかし、そこはその、何と言うか…場所が悪かった。
 いや、良かったと言うべきか。
 ふにゅっ。
 心臓の鼓動よりも先に、それはそれは柔らかな感触が手のひらに伝わり――
「うわゎゎわっ!!?」
 慌てて手を引っ込めた門木は、ついでにヘリの天井に頭をぶつけるほどに飛び上がった。
「だ、だめなのです! よいこは、そんな事をしてはいけないのです!」
 幼児退行するほど驚いた、らしい。
 そして恐らく免疫ゼロ。

 と、そんなラブコメ要素はとりあえず置いといて。

 アロンゲート、突入開始!
 屋上に着陸する事は危険な為、上空からの降下になる。
 レイラと挫斬、翼を保たない二人は念の為にパラシュートを背負い、ヘリから降ろされたロープを伝ってラペリング。
 いや、飛べる人達に抱えて貰う手もあったけれど、この方が絵的にカッコイイし!
 そして四人は青白い光を放つゲートの縁に降り立った。
 直径は2mもない。
 だが、入口が小さいからと言って、中の構造も狭くて単純であるとは限らない。
「寧ろこういう方が、色々と凝ってたりしてね」
 挫斬が時計を見る。
 5秒前、4、3、2――


「…っ!?」
 突然、アロンの顔色が変わる。
 その様子を見て、撃退士達は別働隊の突入を知った。
「言っただろ、カドキは約束守ってるって」
 これで、アロンは門木が向こうのゲートにいるものと思い込んだだろう。
(…まぁ嘘でもないんだけど)
 これでまた、次に会った時には更にヘイトが上がるかもしれないが。
 ヨルの言葉に、ミハイルが追い討ちをかけた。
「門木先生は天才だからなあ。何を持ってきたのやら」
 思わせぶりに不敵な笑みを浮かべる。
「学園の撃退士の強さは先生が支えているようなものだぜ」
「だとしたら、お前等も大した事はないな」
 アロンは精一杯に虚勢を張って見せるが、それが虚勢だと簡単に見破られる程度には動揺を隠しきれていなかった。
「奴の発明など、この俺が叩き壊してくれる。昔からそうだった様にな!」
 アロンはツルギを呼ぶと、コアに飛び込んだ。
 続いて模造天使達がコアに消えて行く。
「何だ、アロンの野郎こっちのゲートは見捨てるつもりか?」
 その様子を見て、ミハイルが言った。
 だが、その方が都合が良い。
 先程の言葉も、アロンが周囲の雑魚を出来るだけ多く引き連れてお帰り下さる様にと仕向けたもの。
 しかし、ツルギは別だ。
「悪いが、お前は行かせない」
 ミハイルはゲートに飛び込もうとするツルギの前に割って入った。
「なあ、ツルギさんよ? お前もアロンの性分は知ってるだろ?」
 銃口を突き付けながら、語りかける。
「奴にとっては、お前もこのゲートと同じ捨て駒だ。お前それで良いのか?」
 まあ、答えは期待していないが。
 それよりも…
「皆、固まらないで。集まってると範囲攻撃が来る」
 声を潜めたヨルの指示で、黒龍が潜航モードに入る…とは言え、ヨルの隣という定位置は外せないが。
 ヨルも続いて気配を隠しながらヘルゴートを発動、コアに狙いを付けた。
 龍太と愛梨沙はツルギの死角になる位置へ回り込む。
 誰にも邪魔されずにコアを叩けるのチャンスは、恐らく今だけだ。
 今のうちに、最大限の攻撃を叩き込む。
 互いに目で合図を交わし、一斉に。
 ヨルの銃に黒龍の邪炎のリングから生み出された五つの黒焔が纏い付き、発射と同時に弾道の周囲で渦を巻きながら飛んで行く。
 龍太は鎌鼬で、愛梨沙は近付いて金剛夜叉を叩き込んだ。
 あと少し。
「待てよ、話は終わってないぜ」
 コアを守りに行こうとするツルギを、ミハイルが再び止める。
 だが、今度は問答無用で攻撃が飛んで来た。
 回避射撃で逸らす余裕もなく、光の矢がミハイルの身体を貫き、更にはその向こうのヨル、そして黒龍をも貫く。
「こんなもんまで隠してやがったのか」
 後ろを振り返ったミハイルの目に、倒れ伏した二人の姿が映る。
 その隙に、ツルギはコアへ向かうが――
「回復が先だな」
 ミハイルは走り込む間に応急手当をセット。
 だが、何とか身体を起こしたヨルがそれを制した。
 幸い二人とも致命傷には至っていない様だ。
「大丈夫、俺と黒はこれで回復出来るから…次からは、お願い」
 自分の手当を後回しにしたヨルは、まず先に黒龍をダークフィリアで回復。
 最後の一回で自分の怪我を癒やす。
 完全回復には程遠いが、これで充分だ。
「この体が動く限りは…」
 膝を付いたまま、ヨルはコアに飛び込もうとするツルギの背に向けてクロスグラビティを放った。
 闇色の逆十字がツルギの頭上から降りかかる。
 そこに絡み付く五つの黒焔。
 だが、ツルギには重圧の効果が現れた様子はない。そのまま構わずコアに突入――
「ちょっと、待ちなさいよ!」
 と、龍太が横合いから大鎌を振るい、回り込んでコアの前に立ち塞がる。
 最優先はコアの破壊だが、邪魔をするなら対処しない訳にはいかなかった。
 続けて乾坤網を発動した龍太を、ツルギは力ずくで排除しようとする。
 だが、その背に愛梨沙が金剛夜叉を振り下ろした。
「…絶対、負けるわけにはいかないっ」
 無防備な背に、赤い筋が走る。
 背後からの奇襲を躊躇っている余裕はなかった。
 更にもう一撃、ミハイルのダークショットが炸裂。
「ぐぅっ」
 思わず、ツルギの喉から声が漏れた。
「悪いな。これが俺の本当の本気だ」
 回復の必要があると判断したツルギは、体勢を整えようとコアを離れる。
 そこに龍太の呪縛陣が展開、その動きを押さえ込もうとしたが、ツルギはその結界を逃れて撃退士達から距離を取った。
「流石に抵抗は高いみたいね」
 ならば奇門遁甲の幻惑も期待薄か。
「だったら、先にコアを壊しちゃいましょうか」
 だが、その瞬間。
 コアの内部から三体の模造天使が現れた。
「なによ、邪魔しないでくれる!?」
 邪魔が入ったコアを後回しにして、手負いのツルギを追うべきか。
 それとも、やはりコアを優先すべきか。
「コアを壊せば、ツルギも簡単には逃げられない。先にやっちゃいましょ」
 愛梨沙が言った。
 それに、コアを破壊しない限り模造天使は増えるばかりだ。
「でないとまた、グズグズすんなって言われそうだし?」
 ちらり、愛梨沙がツルギの向かった先を見る。
 そこには――
「ご主人様の鎧の汚れを磨かなくていいのかい?」
 ロヴァランドが立ち塞がっていた。
「それとももう磨き終えたのか、なんにせよ此処は通すわけにゃいかねーっての!」
 その気迫に圧されたのか、ツルギはくるりと向きを変える。
 だが。
「お前、無口でつまらん」
 ミハイルが、その胸に狙いを付けていた。
「アロンの人形か? 奴の召使になって楽しいことが1つでもあったか?」
 やはり答えはない。
「感情があるんかないんか声も出さんのは殊勝な心掛けやね」
 白い空間に滲む様に広がった、黒い霧の中から声がする。
「もう逃げられんよ」
 その時、辺りにガラスが割れる様な音が鳴り響いた――


 一方アロンゲートでは。
「とりあえず、妙な特殊効果はないみたい」
 ゲートの内部を写真に収めながら、挫斬が言った。
 天井が異様に高く、そこに開かれた出口がツルギのものよりも更に高い位置にある事を除けば、特におかしな点もない。
 と言うか、何もない。少なくとも見た目には、ただ白い大理石の床に黄金色の太い円柱が何本も立ち並ぶだけの空間に見えた。
 その向こう、黄金柱の林の一番奥。距離にして100m程度の、祭壇の様に一段高くなった場所に眩い姿があった。
「黄金龍…ここにいたのですね」
 レイラが呟く。
 そして、その背後から現れたのは。
「不法侵入は困りますね、お嬢さんがた」
 アロンだ。
「それに、見たところ蛇の姿もない様ですが?」
 その声は、あちこちの壁を反射して届いた様に四方八方から響いて来た。
 そして彼が引き連れて来たらしい模造天使も、ぞろぞろと姿を現す。
「あそこにコアがある事は間違いないでしょうね」
「どうしましょう。これで位置確認は出来た事になりますが…」
 ユウの言葉に頷きつつ、カノンが尋ねた。
 突入後すぐに戦闘になるだろう事は予想していたが、如何せん多勢に無勢。
 危険になればすぐに撤収…と、楽が出来れば良いのだが。
「そういうわけにもいきませんね」
「ええ、こちらは陽動も兼ねているのですから」
 ユウが頷いた。
 余りに早く撤退しては、アロンが再びツルギのゲートに戻ってしまう可能性もある。
 陽動班としては出来るだけ長く、彼の目を引き付けておきたい所だった。
「やれるだけ、やってみましょう」
 ユウは敵の動きを把握しようと、闇の翼で上空に舞い上がる。
 しかし、柱の間を抜けて飛ぼうとしたその時。
「痛っ」
 何かにぶつかった。
「これは…ガラスでしょうか」
 ユウは柱の間に手を伸ばしてみる。
 触ってみなければ存在が全くわからない、反射率が限りなくゼロに近い透明なガラスだ。
「ガラスの迷路って訳ね」
 コンコン、挫斬が目の前を叩いてみる。
 抜け道は何処かにあるのだろうが、それを探すのも面倒だ。
「壊しちゃえば楽だよね!」
 挫斬は目の前の空間にフレイムクレイモアを叩き付けた。
 派手な音がして、ガラスが砕け散る。
「なんだ、案外脆いじゃない」
 これなら誰かが先頭切ってガラスを壊しながら突き進めば、あっという間にコア到達――と思ったのは少々甘かった様だ。
 前を見ると、アロンと黄金龍の姿が消えている。
 その姿は右手の奥に移動していた。
 試しに二枚目のガラスも割ってみると、金ピカ達は更に別の場所へ。
「楽しいことしてくれるじゃない」
 今度は背後に回った彼等に向けて、挫斬は不敵な笑みを浮かべた。
 つまりこのガラスは、屈折率が極端な事になっているらしい。
 恐らく断面はプリズムの様に角度が付いているのだろう。
 しかも、その角度は一定ではない様だ。
「それはつまり…どういう事でしょう?」
 尋ねたカノンに、挫斬は肩を竦めて見せた。
「見えてるものが全然アテにならないって事!」
 そこに見えているものが、実は全く別の場所にあったりするのだ。
 言った直後、一体の模造天使が背後から姿を現した。
 一瞬前まで、そこには何も見えていなかった筈の場所からだ。
「これは下手に動かずに、迎撃に徹した方が良さそうですね」
 レイラの言葉に、四人は互いの背を守る様に方陣を組む。
 阿修羅の三人は闘気を解放、カノンはシールドを展開しつつザフィエルブレイドを抜き放った。
 模造天使の対処法はもうわかっている。
 ただ――
「あれは、模造天使の黄金タイプでしょうか」
 初めて見る敵だと、ユウが警戒を促す。
 見たところ白タイプとは違い剣も持っていない様だが…まさか。
 ユウは自ら敵の特性を試そうと、その目の前に立った。
 案の定それは両腕を広げ、死の抱擁を与えようと近付いて来る。
 だが、取り付かれる直前にレイラが烈風突を打ち込み、それを弾き飛ばした。
 直後、金ピカは爆裂四散、爆風で周囲のガラスが砕け散る。
 と、その砕けたガラスの背後から現れたのは金ピカの総本山。
「アロン!」
 カノンは咄嗟に盾を構え、出会い頭にその攻撃を封じようとした。
 しかし、ゲートの中では思う様に効果が出ない。
 その瞬間、アロンの姿が消えた。
 ガラスの視覚効果ではない。すぐそこに、気配は感じる。
 再びその姿が現れた直後、アロンの杖から全周囲に向けて金色のエネルギー弾が放たれた。
 カノンは咄嗟に防壁陣を発動させると、ユウの前に立ち塞がる。
 だがそれを凌いでも、アロンの攻撃は続いた。
 次に姿を現した時には槍の様な雨が降る。しかも毒のおまけ付きだ。
 このままでは全滅する。そう感じたユウは、先程アロンが見えた場所に向けてくさや爆弾を投げ付けた。
 同時に、挫斬が発煙手榴弾を投げる。
 くさやの悪夢、再び。
「遊んであげようと思ったけど臭いからやーめた! キャハハ!」
 たまらず姿を現したアロンを烈風突で突き飛ばし、レイラは仲間の退路を確保する。
 しかし挫斬は「やめた」と言いつつアロンの身体にチタンワイヤーを絡み付かせて動きを封じた。
「アハ! さぁ! 遊びましょう」
 そこにユウの属性攻撃が叩き込まれ、アロンは思わず咳込みながら膝を付く。
 この機に乗して更に追撃を加えたい所だったが――
『もういい、戻れ!』
 意思疎通で状況を伝えた門木から、返事が返る。
 それに弾かれる様に、ユウは挫斬の身体を抱えて飛び上がった。
 置き土産に、今度は顔面をしっかり狙ってくさや爆弾を投げ付ける。
「バイバーイ! 次は本気で遊んであげるね!」
 トドメの発煙手榴弾と共に、二人はゲートを抜けた。
 ビルの屋上にアロンのヨロめく姿が現れた時、四人を乗せたヘリは既に遠く――



「コアは破壊させて貰ったわよ」
 龍太の言葉に、ツルギは唇を噛んだ。
 だが、脱出を諦めた訳ではない。
 ツルギは自分の頭上に彗星の雨を降らせた。
 咄嗟の事に、その雨の下にまで飛び込んで彼を押さえ込もうとする者はいない。
 その機に乗じて、ツルギは走った。
 最も壁の薄い場所、ナイトウォーカーの二人を狙って。
 黒龍は咄嗟にヨルを背後に庇った。
 庇わないと約束はしたが、身体が勝手に動くものは仕方がない。
 その背後からヨルはありったけの銃弾を撃ち込むが、ツルギはそれを盾で受け流し、光の槍で反撃に出た。
 しかし、飛び込んだ龍太と愛梨沙が捨て身のガード、お陰で被害は最小限に抑えられたが――
「逃げられた、か」
 視界から消えようとするその背に一発ぶち込んで、ミハイルが残念そうに呟く。
 だが、最重要目標であるコアの破壊は成功した。
 残るはアロンのゲートのみ。

 今頃は、向こうも何かしらの成果を得ている事だろう。
 合流したら――

 まずは風呂、だろうか。





 数日後。
 高松の元に、いかにもな封筒に入ったラブレターが届けられた。
 中身は写りの良くない写真が一枚。
 母親と小さな子供が寄り添い、倒れている。
 裏にはこんなメッセージが書かれていた。

『天使が彼等を盾にした時、君は天使を攻撃する為に彼等を殺せる?
 殺せるならアタシと共に彼等諸共天使を殺しにいこう
 殺せないなら私達と共に天使から彼等を助けにいこう』

 お返事、楽しみにしてるから――


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:11人

202号室のお嬢様・
レイラ(ja0365)

大学部5年135組 女 阿修羅
高松紘輝の監視者(終身)・
雨野 挫斬(ja0919)

卒業 女 阿修羅
Eternal Wing・
ミハイル・エッカート(jb0544)

卒業 男 インフィルトレイター
男を堕とすオカマ神・
御堂 龍太(jb0849)

大学部7年254組 男 陰陽師
その絆を取り繋ぐもの・
ロヴァランド・アレクサンダー(jb2568)

大学部8年132組 男 ディバインナイト
夜明けのその先へ・
七ツ狩 ヨル(jb2630)

大学部1年4組 男 ナイトウォーカー
天蛇の片翼・
カノン・エルナシア(jb2648)

大学部6年5組 女 ディバインナイト
By Your Side・
蛇蝎神 黒龍(jb3200)

大学部6年4組 男 ナイトウォーカー
208号室の渡り鳥・
鏑木愛梨沙(jb3903)

大学部7年162組 女 アストラルヴァンガード
優しき強さを抱く・
ユウ(jb5639)

大学部5年7組 女 阿修羅