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マスター:STANZA
シナリオ形態:シリーズ
難易度:難しい
形態:
参加人数:10人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2013/04/20


みんなの思い出



オープニング



『……置いて行くなら、俺が掠ってそっちに連れてくつもりだったんだけどさ』
 電話から聞こえる声は、楽しそうに笑っていた。
『お陰で俺の出番はナシってわけ。でもま、良いか。引っかき回すのはわりと楽しかったし、奴等がああでもないこうでもないってオタオタしてんのは、ちょっと見物だったぜ』
「とにかく、これで俺の城は完成した。後はやりたい放題ってわけだ」
 黒いコートの男は、出来上がったばかりの新居――彼が作ったゲートの内部を見渡して、満足そうな笑みを浮かべた。
『俺が奴等の気を引かなきゃ、途中で邪魔されてたかもしれないぜ?』
 この貸しは必ず返して貰う、電話の相手はそう言った。
「わかってるって、心配すんなよ。で、今度の作戦は?」
『今回は……特にないな。ゲートの出現はもうバレてるし、今度は向こうから動いて来るだろう。お前はただ、そいつらをブッ倒せば良い』
「お前は動かないのか?」
『それは、連中の出方次第だな』
 また電話する、そう言って通話は切れた。


 携帯をコートのポケットに戻し、その男――使徒、中村は改めてゲートの中を見渡した。
 これを作り上げる為、五日にわたって詠唱を続けて来た。
 その途中で邪魔が入れば、全てが台無しになる所だったが……
「あいつに知恵を借りて正解だったな」
 これで、借りは二つ。
 最初の借りは、あの大天使にシュトラッサーの候補として紹介して貰った事だ。
 二人は元々は同じ町に住んでいたが、年齢が離れている事もあって面識はなかった。
 出会ったのは、町が天使の襲撃を受けた時。
 ただ逃げ惑うばかりだった中村を助けたのが、彼……高松だった。
 彼はその時にアウルを発現し、今は久遠ヶ原学園の高等部に在籍している。
「同じ様な目に遭って、何で俺にはアウルの欠片もないんかねぇ」
 中村は小さく溜息をついた。
 撃退士になれば、生活は保証される。
 だが、その力に恵まれなかった中村はその後、仕事にも就かず無為に過ごし、警察の厄介になった事も一度ならず。
 しかし、そんな彼にも漸くチャンスが巡って来た。
 天使に命令されるのは気に喰わないが、この力と引き替えなら、それ位は我慢できる。
「くうぅぅ、漲ってキタァァっ!」
 ゲートの深部に設置されたコアには、既に人々から吸収した精神エネルギーが流れ込んでいた。
 その一部を自身に取り込むと、彼の中でリミッタが外れる音がした――気がする。
「リミッタ解除! 中村大和マーク2、爆誕っ!!」
 叫びと同時に、生み出したばかりのサーバントに向けて、光を放つ剣を一閃させた。
 抜き身の刀を両手に持った鎧武者が、一撃で崩れ落ちる。
「かぁーっ、キモチイイィィィッ!!」
 この力、思う存分に振るいたい。
 結界内のエネルギー源である人間達を減らす訳にはいかないが、外でなら構わないだろう。
「よーし、タイムアタックだ。奴等が来るまでに何人殺れるか……よーい……ドンっ!」
 中村はゲートを出て、結界の外へと消えて行った。



「……今頃、中村爆誕とか言ってんだろうな、あの馬鹿は」
 校舎の屋上から海を眺めながら、高松紘輝(たかまつ・こうき)はスマートフォンを制服のポケットにしまい込んだ。
「でも、馬鹿とナントカは使いようってね」
 自分は表に立たず、力はあるが頭の悪い駒を自在に操る。
 こんな機会が訪れる事を、ずっと待っていた。
「中村は俺の言いなりだ……ふん、恩は売っとくもんだな」
 もっとも、あの時は生き残った人達を助けるのに夢中で、後の事など何も考えてはいなかったが。
 それに、中村が倒れても代わりの駒はいくらでもある。
 大天使の方も、あれは撃退士達を強化する為の餌にすぎないと考えている様だが――
「カワイソウナ、ナカムラクン」
 くくく、と高松は喉を鳴らした。
「さて、今回はどうするかな……」
 生徒達はゲートの破壊に赴くのだろう。
 その隙に、門木を外に連れ出すのも悪くない。
「邪魔が入らない所で、親子のご対面と行こうかな」
 あの大天使は今、自分のゲートにいるのだろう。
 彼女が受けている命令は、自分の手で息子の息の根を止める事。
「二人っきりなら、攻撃するしかないよなぁ」
 躊躇いや拒否は命令違反だ。
 違反した時にどんな罰が下るのか……それは知らないが。
「俺だったら、あいつを親の目の前でじわじわ殺してやるけどな。手も足も出ないようにしてさ」
 しかし、親子で殺し合いをさせる様な、陰湿な事を企む連中だ。
 もっと素敵な罰を考えているかもしれない。
「それはそれで良いし、誰かに邪魔されても……手はいくらでもある」
 天使達をどうやって苦しめ、殺すか。
 それを考える時間もまた楽しい。
「どう転んだって、このゲームはバッドエンドなんだよ」
 彼等にも、彼等に荷担する生徒達にとっても。
 勿論、自分にとってはその逆だが。
 高松は再びスマホを取り出すと、SNSを呼び出した。
 そこに登録された膨大な顔写真のデータから、適当なものを選ぶ。
「今日はこの顔にするか……ブサイクだけどな」
 顔も体型もすっかり変えた彼は屋上を後にすると、科学室のある校舎に向かって歩き始めた。



 科学室は今日も大勢の生徒達で賑わっていた。
 強化が無事に成功して喜ぶ者、突然変異を起こして喜ぶ者、がっくりと項垂れる者、そしてメイン武器を容赦なく粉砕されて真っ白になっている者……
 漸くそれが一段落すると、門木章治(jz0029)は椅子の背もたれに身を任せて天井を仰いだ。
「……あー……くそ」
 眼鏡を外し、目頭を指で押さえる。
 くず鉄化がスキルなら、外して丸めて、それこそくず鉄にして捨てられるのに。
「……せめてもう少し、成功率が上がれば、な……」
 この世界にある科学的な知識は、ほぼ全て吸収した筈だ。
 だが、この世界には解明されていない謎がまだまだ沢山あるという。
 それを全て解き明かし、完璧に極めない限り、成功率100%は難しいのだろうか。
「……本でしか、知らない事が……殆どだし、な……」
 鍾乳石も、本物はこの間初めて見た。
 門木は机の引き出しを開けて、そこに転がる小さな石を手にとった。
 それは、あの鍾乳洞の近くで拾ったものだ。
「……昔も、随分集めてたっけな……」
 あれはまだ、あるだろうか。
 あの家に帰る事は、もうないだろうが――
 と、その時。
「せんせー」
 開けっ放しのドアを叩く者がいた。
「門木先生、護身術習いたいって……ほんと?」
 実家で道場を開いているという生徒が顔を覗かせていた。
「今日の授業、もう終わりだから……教えてあげても良いけど」
「……ん……頼む」
「大丈夫? かえって怪我とかしない?」
 いかにも運動神経の鈍そうな門木を上から下までじろじろと眺めて、その生徒は心配そうに尋ねた。
「……大丈夫、だ。こう見えても……多分、見た目よりは、鈍臭くない……筈」
「でも、何で急に?」
「……いや、その……自分の身、くらいは……自分で守れるように、ならないと……」
「そう言えば先生、狙われてるんだっけ?」
 門木はこくんと頷く。
 なるべく生徒達に迷惑をかけない様にと考えたらしい、が。
 天使的一般人である彼が護身術を習った程度で、超人である撃退士を相手にどうにか出来るものであるのか……それは甚だ疑問だった。



前回のシナリオを見る


リプレイ本文

 その町は、いつもと同じ朝を迎えていた。
 そう遠くない場所にゲートが現れた事は、彼等も知っている筈だ。
 だが、結界の外にあるこの町は難を逃れたと、誰もが考えていた。
 言い方は悪いが、結界の中に「餌」が残っている限りは、天魔が外に出て来る事はないと。
「いつもと変わらない日常、か」
 黒い翼で宙に浮く使徒・中村大和は、そう言って楽しそうに喉を鳴らした。
 その日常を、壊す。
 かつて自分がそうされた様に。
「さぁーて、邪魔が入らねぇうちに暴れるかァ!」
 中村は人で溢れる駅前のロータリーに向かって一直線に急降下した。
 両手に持った剣が白熱した光を帯びる。それを一振りすると、光の刃が空を裂いて飛んだ。
 たちまち、周囲のあちこちで悲鳴が上がる。
「もっと叫べ! 泣き喚け! いっそ笑っても良いぜ!」
 地上に降り、剣を振りかざしたまま走る。
 その後を追う様に、次々と血飛沫が噴き上がった。



 その頃、科学室では――
「依頼一緒に受けたかったねん」
 何故か関西弁になった門木が、これまた何故か七ツ狩 ヨル(jb2630)に抱き付いていた。
 いや、そうじゃない。
 それは門木に変装した蛇蝎神 黒龍(jb3200)だった。
 背格好は大体同じ。髪をぼさぼさにしてヨレた白衣を引っかけ、分厚い眼鏡をかければ、遠目にはきっと区別が付かない。多分。
 一方の門木は渋イケメンに改造されていた。
 きっちり撫でつけられた髪と、ダークスーツにサングラス。ミハイル・エッカート(jb0544)と並ぶとまるでマフィアの兄弟の様だ。
「ここまで変身できるなら立派なスキルじゃないか?」
 まさに不良中年と、ミハイルは感心しきり。
「…いや、俺は何も…してない、し」
 門木を弄る美容師達の腕が良いのだ。
「いやー、やっぱりミハさんはこういうの上手やってんなー」
 黒龍は嬉しそうにミハイルをはぎゅ。
 ついでに門木もはぎゅ。
 でも本命はヨル。こんな危ない依頼にも追っかけて来ちゃうほど、らう゛。
「にしても難しそうやね今回も」
 ヨルをはぎゅりながら、黒龍が言う。
 とりあえずこれで高松の目は誤魔化せるだろう。
「先生は皆と一緒に出掛けた…って認識させたら、中々抜け切らんものやし」
 ついでに中村も騙されてくれたら、釣れるかもしれない。
「先生は学園から出ちゃダメですよ?」
 獅堂 遥(ja0190)は門木の手に真っ赤な熊のぬいぐるみを押し付けた。
「この子は私のお気に入りなんです。ですから、なくさないで下さいね?」
「…だが、断る」
「え?」
 思いがけない返事に、遥は目をぱちくり。
「…こういう、の…フラグ、とか…言うんだろ」
 自分が戻るまで預かっておいてくれと言って二度と戻らないとか。
「章治先生、テレビの見過ぎだよ」
 刑部 依里(jb0969)が笑って首を振り、遥の手から受け取ったぬいぐるみを強引に抱えさせた。
「レディの頼みを無碍に断るものじゃないってね」
 それでもまだ、門木は心配そうな顔をしている。
 しかし、この中で最も危なっかしいのは誰がどう見ても門木だった。
「大丈夫です、皆ちゃんと帰って来ますから」
 遥の目論見としては、これを守らせる事で門木にも自分の身を守る意識を持たせたいと…恐らくそういう事なのだろう。
 遥はまるで幼児に対する様に、ゆっくりと言い聞かせた。
「約束して下さい。一人で勝手に出歩かない事、どこか行く場合は必ず護衛を同行させる事…どちらか一人で構いませんから」
 その為に、鴉守 凛(ja5462)とミハイルの二人に来て貰ったのだ。
「それから、二人以外の人間に乗せられない事。良いですね?」
「…う、うん…わかった」
 出来ればアクション映画の様に、門木とミハイルを手錠で繋いでおきたい。
 しかし、そこは流石に自重して…代わりに思い付いたのが、このぬいぐるみ作戦だった。
「とりあえず個人行動だけはダメですよ? それに先生はこの子の保護者なんですから、責任を持ってしっかり守って下さいね?」
 ついでに改造もダメ。歌って踊れる様になんて、しなくて良いから。
 いや、それも見てみたい気はするけれど。
「ところで章治先生」
 依里が言った。
「銃器は扱えるかい?」
 使えるなら護身用に渡しておきたかった。
(戦いでは、殺すか殺されるか…だからね)
 だが、門木は首を振った。
「…気遣いは、ありがたい、が…」
 銃はおろか、武器の類は持った事がないのだ。
 それに、戦いに臨むなら手持ちのカードは多い方が良いだろう。
「そうかい。じゃあ仕方ないね」
 今回はミハイルがいるから大丈夫か。
「もし興味あったら教えるのだよ?」
 青空・アルベール(ja0732)が言った。
「接近しないでも身を守れるから、結構あってるかもであるー」
「…うん…考えて、おく」
 その時、科学室の電話が鳴った。

『使徒が町を襲っています! 早く、撃退士は現場へ!』

 それを聞いて、生徒達は慌てて飛び出して行く。
 門木に聞きたい事は色々あったが、それは仕事を終えてからだ。
「鴉守先輩、後はお願いします」
 周防 水樹(ja0073)に言われ、凛は頷く。
「周防部長も、気を付けて。皆さんも…」
「こっちは任せておけ」
 ミハイルはついでに周囲にも聞こえる様な声で付け加えてみた。
「何だ、先生も一緒に行くのか。なら仕方がないな、強化を頼もうと思ったが、また後で来てみるか」
 と、門木の袖を引っ張って歩き出す。
「…いや、強化なら…」
 半ば引きずられながら寝ぼけた事を言い出しそうになった門木の脇腹に、凛の肘鉄が入った。
 まったく、何の為に黒龍が変装をしたと思っているのか。
「さあ、行きますよ。護身術を習うのですよね」
 学内の道場なら人目もあるし、何かあった時にも助けを呼びやすい。
 もし変装がバレても敵が手を出してくる可能性は低いだろう。
「向こうの事は、信じて任せようぜ」
 その言葉に門木はこくんと頷き、赤い熊さんをぎゅっと抱き締めた。



 現場に急ぐ道中、カノン(jb2648)は前回の戦いの事を思い返していた。
 リュールの意図はわかった。そして、自分のやるべき事も見えた…と、思う。
 後はそれが出来るかどうか。
 簡単な事ではない。階級が全ての天界において、下級天使の言葉など羽毛よりも軽い。
 大天使とて、事情はさほど変わらないだろう。彼女の言葉で天界が動くなら、門木がこんな形で追討を受ける事もない筈だ。
(もっと上の存在に言葉を届け、その心を動かす…)
 無理だと、心の何処かで声がする。
 しかし何もせずに諦めてしまったのでは、何も変わらない。変えられない。
(出来れば先生の身の安全も守れますし…それに)
 元より堕天した時から、いずれは果たさねばならない、果たしたいと思っていた事でもある。
 その為にも、この程度の相手に屈する訳にはいかなかった。

(自由に行き来が出来たら、か…俺も、そう思う)
 それはそれとして。
「…黒、ベタベタしすぎ」
 ヨルは移動の間も何かとちょっかいを出し続ける黒龍の手を無造作に振り払った。
「ええ、こんなんいつもと変わらへんやろー」
「カドキは、そんな事しない」
 言われてみればそうか。
「なら、こんな感じやな」
 背中を丸めてぼーっとしてみる。
「違う」
「これでどやっ」
 今度は科学室の看板の様に、ふてぶてしさを醸し出してみた。
 しかし、ヨルは納得しない。
「化けるのはええけど、ここまで細かいチェックはいるとはおもわんかったー」
 女子ならぬヨル君の度重なるダメ出しに、黒龍はちょっとサメザメ。
 その様子を見て、遥は思う。
 これまでの記録から見ると、ゲートは勿論、結界内に侵入者があった時も、天魔はその存在を感知出来る様だ。
 しかし、その感知精度はどの程度なのだろう。
 人数や居場所まで、はっきりわかるものなのだろうか。
「個人確定までされると困りますけど、ね」
 果たして、黒龍の変装はどこまで通用するのだろう。
 今後の為にも、その当たりの事を確認しておきたかった。


「…ん…?」
 意識の隅にふと違和感を感じ、中村は殺戮の手を止めた。
 一般人とは違う、この感触。撃退士が結界の網にかかったのだ。
「ちっ、もう来やがったのか…」
 だが、まだだ。まだ遊び足りない。もっともっと、血を見たい。
「ま、慌てるこたぁねえか」
 どうせ目的はコアだ。そう簡単に辿り着ける筈がないし…
「奥まで引き込んでから、ゆっくり料理してやるさ」
 それまでは、まだ暫くこの殺戮を楽しもう。


 ディメンションサークルから吐き出されたのは、ゲートからそう遠くない地点だった。
 周囲には住宅が建ち並んでいるが、屋内への退避勧告が出された事もあって、外を出歩いている者はいない。
 レイラ(ja0365)は地図で現在位置を確認すると、ゲートの方角を見た。
 住宅地の向こうに、打ち捨てられた廃工場の屋根が見える。
 ゲートはその中にある筈だった。
 先頭に立ったレイラは町の各所に設置されたミラーや手鏡で敵の姿を探し、無駄な先頭を避ける様に進む。
 だが、町にサーバントの気配はなかった。
「気味が悪いほど静かなのだよ…」
 フィノシュトラ(jb2752)が小声で囁く。
 しかし、襲撃がないとわかれば用心して進む必要もない。
「急ぐのだよ!」
 走り出したフィノシュトラに仲間達が続く。
「ゲート戦というと、どうしても封都の惨状を思い出すな」
 走りながら、青空はかつての戦いを思い返していた。
「あれだけは壊さなきゃいけない…なんとしてでも!」
 辿り着いた廃工場の中は機械類が全て運び出され、床には泥と埃が厚く積もっていた。
 抜け落ちた屋根の隙間から射す光に、青く光る魔法陣の様なものが浮かび上がっている。
「ここの主はおそらく、鍾乳洞で出会ったというナカムラかしら」
 ゲートを前に、東雲 桃華(ja0319)が言った。
 直接刃を交える事はなかったが、彼については報告書で読んだし、仲間からも話を聞いている。
「どうも好戦的な性格らしいし、きっと来るんでしょうね」
 それなら、消耗は抑えておいた方が良い。
「私の目的はナカムラよ。だから皆には負担を掛けるけど、コアまでの道中での戦闘は極力控えたいの」
 彼と退治するまでは、力を温存したい。
「その代わり、彼にコア破壊の邪魔はさせないから」
「わかりました、敵陣の突破はお任せ下さい」
 レイラが先頭に立ち、真っ先にゲート内に足を踏み入れる。
「ゲートの作成は許しましたが、これ以上の勝手を許すわけには参りません。ここでゲートを破壊して、街の人々と門木先生の未来を取り返しましょう」
 ゲートの内部には、何となく見覚えがある様な気がした。
「この感じ、あぶくま洞に似てる…?」
 ノートに地図を書きながら、ヨルが言った。
 ただし、その壁は全体が血の様に赤い。薄い襞の様に見える壁が何枚も折り重なって、内部を仕切っていた。
「すっごい複雑そうだけど、作った本人は迷ったりしないのかな?」
 フィノシュトラは足跡や目印の様なものを探すが、それらしきものは見当たらなかった。
「何か直感的にわかるとか、そんな風になってるのかもだね!」
 だとしたら、青空が用意したカラースプレーで偽の順路を書くダミー作戦もあまり効果はないのかもしれない。
「でも、やってみなければわからないのだ」
 青空は赤い壁に映えそうな青と黄色のスプレーを取り出して言った。
「帰り道の目印にもなるし、本命は目立つ方で良いかな」
 黄色が本命、青はダミー。皆、間違えない様に。
「とにかく、コアに急がないとな」
 水樹が言った。
「中心の方向を目指せば良いのかな?」
「そうだね。ゲートの力を維持するのなら、中央の方が効率が良さそうだ」
 フィノシュトラの問いに依里が答える。
(以前、足を引っ張ってしまったからね。気合いを入れて、とりかかるか――)
 だが、四方八方に伸びた通路のどれが中心部に繋がっているのだろう。
 寧ろこの場所が中心にも見える。
「来たよ」
 青空が張り巡らせた魔糸に、敵の反応があった。
 あっちからも、こっちからも。
「でも、一番多いのは…あれだ」
 敵の多いルートが正解である可能性が高いと、青空は通路のひとつを指差す。
 そこには十体をゆうに超える数の敵がひしめき合っていた。
「普通に考えれば、重要な物は守りが堅い場所にあるでしょうからね」
 カノンが頷いた。
「四国での焼き直しをするわけにはいきません。全員で一気に突破しましょう」
 ゲートの影響で能力が下がる分は数で補うしかない。
 時間をかければかけるだけ、守りを固められてしまうだろう。
 それに応えて、ヨルの手から放たれた幾多の炎が敵に襲いかかる。
 続いて荒れ狂う炎を切り裂く様に、水樹とレイラが突っ込んで行った。
 水樹は目の前の敵を両刃の戦斧で打ち払う。普段なら防御や回避にも気を遣う所だが、今は自分の傷に構っている暇はなかった。
(コア到達まで、他のメンバーに無駄なダメージを負わせる訳にはいかない)
 自分の怪我は自分で治せるし、この程度でダメージを負うほどヤワでもない。
 右へ、左へ。捌くだけで、後は構わず走る。
(門木先生の方は…まぁ鴉守先輩に頼んであるし、心配はないか)
 今はとにかく、コアの破壊に専念するとしよう。
 使徒がどの時点でこちらの動きを嗅ぎ付けるのかはわからないが、一刻も早くその注意をこちらに引き付けなければ一般人の被害が増えるばかりだ。
(とにかく、急がないと――)
 その隣でレイラは闘気を解放し、蛍丸を抜き放つと共に、目にも止まらぬ速さで二体の敵を斬り捨てた。
「先生の守護は応援に来てくださった方たちにお任せするとして、ゲートの方は私たちで何とかしませんとね」
 時間もない事だし、ここは一気呵成に。
 行く手を塞ぐ敵は烈風突で弾き飛ばし、ひたすらに前へと突き進んだ。
 二人が道を切り開き、それでも押し戻そうとする圧力をカノンが鞭の一振りで再び押し返す。
 依里は手数で勝負と、遠い間合いから銃撃で鎧の隙間を狙っていった。
 だが、そうして一箇所の敵を切り抜けても、またすぐに別の群れが行く手を塞ぐ。
「これじゃマッピングする暇もないのだよ!」
「大丈夫、これがあるのだ」
 魔法で蹴散らしながら叫ぶフィノシュトラに、青空が黄色いスプレーを掲げて見せる。
 壁に大きく書かれた矢印が、彼等の辿って来た道筋を示していた。
 ただ、その矢印が本当にコアのある方向を示しているのか――それは誰にもわからなかった。


「敵は変化自在の撃退士だったな」
「ええ、今もこの場に紛れているかもしれませんね」
 凛とミハイルは周囲に気を配りながら、ひそひそと言葉を交わす。
 門木が護身術を習っているらしい――その噂は瞬く間に広まり、道場は今や見物人で溢れかえっていた。
「先生、大丈夫か?」
 教師役の生徒に投げ飛ばされた門木に手を貸しながら、ミハイルが尋ねる。
 受け身を撮り損ねたらしく、門木は眉を寄せながら腰をさすっているが…大した事はなさそうだった。
「少し休んだ方が良い、大怪我でもされたら俺が皆に怒られるからな」
 預かっていたぬいぐるみを押し付け、強引に座らせた。
「休んだ後は、ギャラリーの皆さんにも組み手の相手をして貰いましょうか」
 冷たいお茶を手渡しながら、凛が言った。
 その中に例の生徒がいたとしても、これだけ人目があれば下手な事は出来ないだろう。
 自己顕示欲が旺盛なら、本人が誘いに乗って来るかもしれない。
「そこを逆に捕まえてしまうとか、出来ないでしょうか」
「いや、寧ろ先生が人質に取られそうな気がするぞ」
 凛の言葉にミハイルが首を振る。
 練習風景を見る限り、門木の護身術が何かの役に立つとは思えなかった。

(なるほどね、あの門木は囮か)
 他の生徒に紛れて様子を伺いながら、高松は心の中で呟く。
 中村に連絡してやろうかとも思ったが、やめた。
(騙されたって、マジギレすれば良いさ)
 忍び笑いを漏らすと、高松はその場を離れた。
 焦る必要はない。自分がこの学園内に潜伏している限り、門木を連れ出すチャンスはいくらでもある。
 それまで、彼等には思う存分に神経を磨り減らして貰う事にしよう。
(何かが起きそうで起きない状況って、結構キツいよな)
 すれ違った生徒に歪んだ笑顔を見られたが、どうせこれも仮の姿――


 漸く狭い通路を抜けた一行は、コアの眠る広間に出た。
 広間の中心には、巨大な龍型サーバントがとぐろを巻いていた。
「あれがここを守ってるサーバントか…といっても、構ってる時間もないだろうが」
 得物をリボルバーに持ち替えた水樹は、の頭に狙いを付ける。
 だが、敵の侵入に気付いた龍はゆっくりと宙に舞い上がり、グルグルと回り始めた。
 それに伴って巻き起こされた風に弾かれ、攻撃は通らない。
 同時に、コアからも新たな鎧武者が吐き出され始めた。
「だったら、地上に落とすのだよ!」
 鎧武者に邪魔されない様に光の翼で宙に舞いながら、フィノシュトラは異界から無数の腕を呼び出して拘束を試みた。
 しかし、それも風の壁に弾かれてしまう。
「あの風が吹いてるうちは、攻撃が効かないかもなのだよ!」
「ならば、強引に叩き落とします!」
 カノンが宙に舞い上がった。
 続いて依里が召喚したスレイプニルが体当たりを仕掛ける。
 僅かに風が揺らいだ所に、カノンが鞭を叩き付けた。
 下からはレイラが風の隙間を縫ってありったけの物理攻撃を叩き込む。
 とにかく火力を集中すれば何とかなるとばかりに、全員の攻撃が龍に向けられた。
 風の勢いが次第に弱まり、壁に隙間が増えて来る。
 その隙間を狙って、水樹と青空は龍の頭を狙って銃を連射した。
「ちょっと、どいてて」
 ヘルゴートで自己を強化したヨルが、闇の力を纏った腕で斧槍を振り下ろす。
 その一撃は龍の体を突き抜けて、コアを叩いた。
 瞬間、ゲート内の空気は震え、コアを中心とした波となって周囲に広がって行く。
 その波動は中村の元へも届いている筈だった。
 急がなければ…中村が現れる前に、コアを。
「そろそろ効くかもなのだよ!」
 フィノシュトラが再度の拘束を試みる。
 龍は宙に浮いたまま、その動きを止めた。
「コアに一斉攻撃のチャンスなのだよ!」
 龍の腹の下をかいくぐり、青空はデスペラードレンジの三回攻撃を叩き込む。
 続いて両刃の戦斧で鎧武者を蹴散らしながら走り込んだ水樹は、助走を付けつつエメラルドスラッシュを放った。
 束縛が効いているうちに下に落としてしまおうと、レイラは残る火力の全てを龍に叩き込む。

 と、その時…
「何か来る!」
 通路に仕掛けた魔糸に何かの気配を感じた青空が振り返り、叫んだ。
 近付いて来るスピードが、サーバントよりも速い。
 それを聞いて、コア破壊に手を貸していた使徒対応班が急いで通路に向かった。
 遥、桃華、依里、フィノシュトラ、そして門木に変装した黒龍が通路を塞ぐ様に立つ。
 やがて、黒い翼の男が通路の奥から姿を現した。
「来たわね…!」
 力を温存していた桃華が前に出る。
 中村は今日も二本の白熱する剣を両手に携えている。
(あの攻撃、意外に射程が長いのよね)
 勿論まだ何か隠している可能性は高いけれど。
「みんな、重ならない様に注意するのだよ!」
 フィノシュトラが言った。
「直線の範囲攻撃とか、鍾乳洞で使ってたのだよ!」
「それは、こいつの事か?」
 中村は両の剣をクロスさせる様に振り下ろした。
 二枚の三日月型の刃が交差する様に飛び、真ん中にいた依里が咄嗟に呼び出したストレイシオンの体を突き抜ける。
 光の刃はその背後で盾を構えた依里の体さえ貫通した。
 しかし、依里はそのダメージを即座にヒーリングブレスで回復すると、ストレイシオンに中村を威嚇させた。
 だがレベル差の故か、中村の気を引く事は出来ない。
「レディが踊ろうと言っているのに、無視とは酷いんじゃないのかい?」
 それでも依里は食い下がった。
 自身は盾で身を守りつつ、ストレイシオンに魔法で攻撃させる。
「ここは私達が食い止めるのだよ! 邪魔はさせないのだよ!」
 フィノシュトラがその足元を狙って魔法の槍を放った。
 しかし――
「そんなもん、痛くも痒くもねぇよ」
「なら、これでどう!?」
 闘気を解放した桃華が中村に迫り、思い切り力を込めた一撃を叩き込む。
 が、それは交差させた二本の剣で受け止められてしまった。
 次いで、中村は自身の足元に魔法陣を描く。
「まさか、シールゾーン!?」
 桃華が身に纏った闘気が、みるみるうちに失われて行った。
「残念だったな、お嬢ちゃん」
 ニヤリと笑うと、中村は二本の剣を振り下ろす。
「…っ!」
 桃華はその攻撃を鈍色の戦斧で受け止め、何とか受け流した。
 しかし反撃に転じる前に、中村は広間へと抜けて行く。
「待ちなさい!」
 追いすがる桃華。だが、天上近くまで舞い上がった中村に、その刃は届かなかった。


「…先生、どうした?」
「門木先生?」
 二人に顔を覗き込まれ、声をかけられ…三度目で、門木は漸く我に返った。
「…ぁ…すまん、俺の番…か」
 半ば匙を投げられる形で護身術の講習を終えてから、ババ抜きをする手が止まるのはこれで何度目だろう。
「皆さんの事、気になりますか?」
 凛の問いに、門木はこくりと頷く。
「大丈夫だ。信じて待とうぜ」
 言いながら、ミハイルは門木のカードを引く。
「よし、上がりだ」
「私も、これで上がりです」
 これで何度目の勝負になるだろう。
 今回も、ジョーカーは門木に付きまとっていた。
「ただ待つのは、きついか?」
 ぽつり、ミハイルが尋ねる。
「…何も出来ないのは…歯痒い、な」
「でも、これも立派な戦いなんだと思いますよ」
 頷く門木に凛が言い、ミハイルはその頭をくしゃくしゃに掻き回した。


「これ作るのにどんだけ時間かかったか…お前ら知らねぇだろ」
 コアを破壊しようと斧槍を振り上げたヨルのすぐ後ろで、中村の声がした。
「ナカムラ…なんだっけ」
 手を止めたヨルがゆっくりと振り向く。
「大和だ」
「ねぇヤマト、なんだか電話の男に上手く使われてるっぽいけど、それでいいの」
 邪魔者を排除しようと剣を振り上げた中村に、ヨルは咄嗟に声をかけた。
 コアの破壊が先かとも考えたが、ここで足止めが出来るならそれも良い。
「電話の男がなんでカドキを狙うのか、ヤマトは知ってる?」
「知らねぇよ、俺には関係ねぇし」
「多分これは、カドキから俺達を引き離す為の陽動だよ。捨て駒にされてもいいの?」
 だが、プライドを刺激されても中村は動じなかった。
「お前さ、俺に何か期待とかしてんの? もしかして改心しねぇかなー、とか?」
 中村は鼻で笑いながら、両手の剣を擦り合わせた。
「俺、そういうキャラじゃねぇから」
 金属が触れ合う耳障りな音に、奥歯が疼く。
「奴等の言う通りにしてりゃ、好きなだけ暴れられる。奴等が何を考えてようが、知ったこっちゃねえ!」
 二本の剣がヨルの頭上から交差する様に振り下ろされる。
 と、その体を脇から掻っ攫い、上空に飛んだ者がいた。
「悪いけど、邪魔させて貰うわー」
 門木に変装した黒龍だ。
 もしその外見に騙されているなら、ここは剣を引く筈――
 しかし中村は迷わず追いかけて攻撃を叩き込んだ。
「ぐぅッ」
 体の正面を十文字に斬られた黒龍は、赤い筋を引きながら崩れ落ちる。
 その体に、青空が薬降るを撃ち込んだ。
「これでも少しはマシになるかな」
 だが、生命力は回復しても黒龍は動けなかった。
 恐らく肋骨の何本かが、肉と一緒に斬られているのだろう。
「…でも、ヨル君守れたんやから…本望や」
 ヨルはその体を抱えて、広間の隅まで退避する。
 が、中村は追って来なかった。
「ふざけた真似しやがって…俺がそんなチャチな変装に騙されると思ってんのかッ!」
 怒るという事は、きっと騙されていたのだろう。
 多分、直前まで。恐らく、その背に悪魔の翼を見るまでは。
 中村は大声で喚きながら、周囲を取り囲んだ撃退士達を手当たりに斬り付けていた。
(ジリ貧だね、本来なら持久戦は苦手なんだが――)
 依里は盾を構えてその猛攻に耐える。
 カノンはタウントで気を引き、その攻撃を自分に引き受けた。
(持ちこたえられるかはかなり厳しい、ですが…)
 今、自分の背後では仲間達がコアに対する攻撃を続けている。
(時間を稼げば、皆さんが目的を達してくれるはず…!)
 もう少し、あと少し…
 遥は中村の背後に回って、その動きを少しでも制限しようと黄金色の糸を操る。
 フィノシュトラはその足元を狙って魔法を連発していた。
 そして桃華は最後の闘気を解放した。
「これ以上仲間に負担は掛けられないの」
 このコアが砕け散るまで、退く訳にはいかない。
「だからそのくらいの時間は稼ぐわ、例えこの身が果てようと」
 例え倒されても、死活のスキルと覚悟がある。
 動けなくなっても、後は仲間達が何とかしてくれる。
「最後まで付き合って貰うわよ?」
 桃華は中村の懐に飛び込んで行った。
 避けられても、剣で受け流されても、構わずに突っ込んで行く。
 反撃を受けても怯まない。
 痛みを感じないから、どれだけ斬られても何ともなかった。
「こ、の…っ」
 その勢いに中村が押され始めた。
 と、その時――

「これで、最後だ!」
 水樹の言葉通り、ガラスの割れる様な音がして、コアが粉々に砕け散った。
 その一瞬、中村の動きが止まる。
 桃華はその瞬間を見逃さなかった。
 戦斧の重たい一撃が、中村の腹に吸い込まれる。
「…ぐぅッ」
 中村は体を二つに折り曲げ、たたらを踏んだ。
「…っ、こ、の…っ!」
 しかし、ほぼ同時に桃華も力尽きる。
 膝を折り、倒れ込んだ所に中村の剣が振り下ろされようとするが――
「そこまで、です」
 その腕に、遥が操る黄金の糸が絡み付く。
 青空は桃華の頭上から癒やしの雨を降らせた。
「…ちっ」
 中村は舌を打ち、自分を縛る糸を振りほどいた。
 回復手段を持たない彼は、この場から撤退するしかなかった。


「私達も、ここから出ましょう」
 まだ余力のありそうなレイラが皆を促す。
 中村は去ったとは言え、周辺にはまだ敵が溢れている。
 コアの残骸からは、未だに鎧武者達が新たに生まれ続けていた。
「帰り道も楽ではなさそうだね」
 周囲に魔糸を張り巡らせながら、青空が言った。
 だが、壁に付けた印のおかげで道順だけはわかる。
「黒、もう少しだから…頑張って」
「大丈夫や、こんなん大した事ないし」
 肩を貸したヨルに向かって、黒龍は精一杯の笑顔を作って見せた。
 肋の一本や二本、いや五本…もっとかもしれないが、平気平気。
 そう言って強がる黒龍を中心に、仲間達は再び一団となって進む。
 ここでも先頭に立ったのは水樹とレイラだった。
 出来ればここに残る敵を全滅させたかったが、スキルの残りも殆どない。
 おまけに誰もが満身創痍だった。
「休んだらまた、残りを片付けに来るのだよ!」
 フィノシュトラが元気に言った。
 それまで、このサーバント達がゲートの外にまで溢れる事がなければ良いのだが。



「…すまない…」
 帰る早々病院に担ぎ込まれた黒龍の枕元で、門木は深々と頭を下げた。
「いやいや、先生が謝る事やないし」
 ベッドに縛り付けられた黒龍は意外に元気だったが、それでも大変な怪我をさせた事に変わりはない。
「…何もしてやれなくて…ごめんな」
 せめてリュールの様な癒やしの力でもあれば良いのだが。
 護身術も習ってはみたものの、実戦で役立つレベルには程遠かった。
「うん、護身術とか、いろいろやってみるのはいいことであるけど」
 青空が言った。
「門木先生は門木先生の在り方できっと大丈夫なのだよ」
 病室に詰めかけた仲間達も頷いている。
「でも、銃の撃ち方は教えるのだよ?」
 どうする、と青空が尋ねる。
「…うん…」
 生徒達の負担は少しでも軽くしたい。
 だが…
「…その、銃を…向ける相手も、生徒なんだよ、な」
 生徒に武器は向けたくなかった。
「先生は、それで良いと思うのだよ」
 青空が笑顔を見せた。
「それより、状況をもっと詳しく教えて下さい」
 無事に帰されたぬいぐるみを抱いた遥が言った。
「あの時、先生はリュールさんと何を話していたんですか?」
「…大体の事は、言った筈、だが…」
 しかし、遥は首を振った。
「情報が足りません。彼女が先生に友好的なら、何かしらの情報援助は受けてるはずです」
「…そう、言われてもな…」
「中村の事は、どう聞いてるんですか?」
「…お袋の、使徒で…かませ犬、だと」
 撃退士の紹介でリュールに引き合わされた事は、前にも言った通りだ。
「…それが…俺を狙ってる生徒、なんだろう、な」
「先生自身は知ってるのですか?」
 ふるふる、門木は申し訳なさそうに首を振った。
 今回、泳がせておけば或いは尻尾を出したかもしれないが。
「私からも、ひとつ良いですか?」
 桃華が言った。
「あの時、私の頭の中にこんな言葉が響いてきました。『ナーシュはお前達に預けた…奪われるなよ』…と」
「…そうか…お袋は、余程…お前達の事を、気に入ったらしい」
 門木は僅かに口元を綻ばせる。
 が、まだ腑に落ちない様子の桃華を見て首を傾げ、ふと思い出した様に言った。
「…そう言えば…言ってなかった、か。俺の、天界での…名前は、エルナハシュ・カドゥケウス。…ナーシュは、お袋が俺を呼ぶ時の…愛称、だ」
 そう呼ばれる事は二度とないと思っていたが。
 後は報告書に書いてある通りだ。
「…とにかく、今回も…その、色々と…ありがとう」
 中村は逃げ延びたし、ゲートの残骸には大量のサーバントが残っている。
 それに、中村に襲われた町では相当数の死傷者が出た様だ。
 だが、それに関して撃退士達に責任はない。

 いずれ近いうちに、相当命令が下されるだろう。
 その時まで、暫しの休暇と…
「…何か、楽しい事でも…やるか」
 この季節、東北なら桜も咲いているだろうか――


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 黒の桜火・東雲 桃華(ja0319)
重体: By Your Side・蛇蝎神 黒龍(jb3200)
   <使徒中村の逆鱗に触れた為>という理由により『重体』となる
面白かった!:8人

消えない十字架を抱きて・
周防 水樹(ja0073)

大学部4年82組 男 ディバインナイト
双月に捧ぐ誓い・
獅堂 遥(ja0190)

大学部4年93組 女 阿修羅
黒の桜火・
東雲 桃華(ja0319)

大学部5年68組 女 阿修羅
202号室のお嬢様・
レイラ(ja0365)

大学部5年135組 女 阿修羅
dear HERO・
青空・アルベール(ja0732)

大学部4年3組 男 インフィルトレイター
スーパーネギリエイター・
刑部 依里(jb0969)

大学部6年302組 女 バハムートテイマー
夜明けのその先へ・
七ツ狩 ヨル(jb2630)

大学部1年4組 男 ナイトウォーカー
天蛇の片翼・
カノン・エルナシア(jb2648)

大学部6年5組 女 ディバインナイト
未来祷りし青天の妖精・
フィノシュトラ(jb2752)

大学部6年173組 女 ダアト
By Your Side・
蛇蝎神 黒龍(jb3200)

大学部6年4組 男 ナイトウォーカー