.


マスター:STANZA
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
参加人数:7人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2016/07/11


みんなの思い出



オープニング



「ふん、札幌が落ちたか」
 鼻を鳴らしながらそう言った父の言葉に、息子――レドゥは小さく頷き、おずおずと言葉を返した。
「あの、父上……大丈夫、なのでしょうか」
 その問いに、じろりと上目遣いの視線が返る。
 レドゥは自分の背骨が氷の柱に置き換えられでもしたかのような、痛みと冷たさを感じた。
 何が、と問われているのは、その目を見ればわかる。
「勢いづいたニンゲンどもが、ここにも押し寄せて来るのでは……」
「ふっ」
 父は笑った。
「連中は今ごろ、戦勝気分に浮かれて酒盛りでもしている頃合いだろう」
「だと、良いのですが」
 不安げに視線を落とす息子を見て、父は鷹揚に言葉を返す。
「確かに、人間共にとってこの勝利は一時的なものに過ぎぬ。奴等とて、それがわからぬほど間抜けでもあるまい」
 だが、大きな流れの中では小さな傍流など往々にして見過ごされるものだ。
「この辺りにも時折は何かを探りに来る者がおるようだが、それはお前が片付けておるのだろう……レドゥアルド」
 名前を略さずに呼ばれ、レドゥは身を固くした。
 こんな時、父は息子に僅かなりとも期待をかけている。それに応えることが出来れば、息子としての株も少しは上がるだろう。
 だがもし失敗すれば、待っているのは転落の恐怖のみ。

『お前の代わりなど、いくらでもいるのだからな』

 それが父の口癖だった。
 実際、レドゥには何人もの兄弟姉妹がいる。
 実際何人いるのか、名前も顔も知らない者も多いし、既に過去形となった者も何人かいた。
 彼等は皆、父の期待に応えられずに消されたか、或いは自ら逃げ出して……結局は消された。
 生き延びたければ、父の期待に応え続けるしかないのだ。
「しかし父上、父上はそれでよいのですか? ……その、自らを傍流などと……」
 その問いに、父は口の端を歪めた。
「傍流も流れ続ければ自然に勢いを増し、いずれは主流となる。お前はただ、その流れを止めぬよう務めればよい」
「……はい、父上」
 レドゥには、父が何を考えているのかわからないし、その計画の全貌さえ知らされてはいない。
 今はただ、自分に与えられた使命を確実にこなすだけだ。
 この「人間牧場」を守り、発展させること。
 それだけを考えて。


 ――――


「先日の調査以降、我々としても調査は続行していたのですが……」
 撃退署の職員は、言い訳がましく聞こえないだろうかと不安に思いつつ、集まった撃退士達の前でそう切り出した。
「何しろ札幌のゲート攻略に時間も人手も取られていましたので」
 しかし全く何もしていなかったわけではない。
 旭川付近の巨大な地下空間が、人間を増やすための工場、或いは牧場のようなものであることは判明している。
 悪魔レドゥはここで人為的に人間の数を増やし、それを糧として使うつもりらしい。
 勿論、悪魔にも爆発的に人間の数を増やすような、何か人知を越えた秘策があるわけではないようだ。
 人工授精などの、既に人間界で実用化されている以上の技術――例えば人工子宮を使ったり、成長期間を短縮させたりといった方法は使えない。
 せいぜいが人工授精程度、後はごく普通に男女を添わせ、生まれた子供が自然に成長するのを待って、また新たなペアを作り――といった具合だ。
 気の長い話だが、寿命の長い悪魔にとってはさほど問題にはならないらしい。
「人間が犬や猫を繁殖させてペットショップに売る、ブリーダーのような感覚なのでしょうね」
 だが、冗談ではない。
 そんなことが許されて良いはずもない。

「先日の潜入調査と、それに続く我々の調査から、内部の構造はあらかた判明しました」
 地下に設置された直径500m程度のドームの中に、町がひとつ出来上がっている。
 ドームの出入り口は北側に一箇所あるが、普段は閉鎖されており、また見張りが常に付いている。
 しかし例えそこに見張りもなく、開けっ放しだったとしても、住民達は外に出て行こうとはしないだろう。
「彼等は恐らく、精神的な支配を受けているものと思われます」
 だからその出入り口は、新たな住民の搬入口と考えていいだろう。
「悪魔であれば、ドームも透過で通り抜けられますからね」

 搬入されるのは地上の町から連れて来られた若い男女。
 殆どが急に姿を消しても周囲から怪しまれないような者が選ばれるが、中には小さな村から住人が丸ごと消えていた例もあるそうだ。
「冬の間は人の往来も少なくなりますから、人里離れた場所では気付くのが遅れる場合もあるでしょう。それを見越して狙ったものと思われます」
 しかしその中でドームの町に運ばれたのは若い男女のみ。
 それ以外の住民達がどうなったのかは、今のところ手がかりはない。

「旭川の地下空間にゲートはありませんでした。ですから、どこか他の場所に運ばれて……糧にされてしまったのかもしれません」
 牧場の運営に必要なエネルギーも、そのゲートから得ているのだろう。
 しかし、未だにその場所は判明していない。
 勿論、ゲートの主が誰であるかも。

「地下ドームの管理者は悪魔レドゥと、それに従う二名のヴァニタス。うち一名は、こちらに協力的です――と言っても、調査を見逃す程度の消極的なものですが」
 他に二名ほど、更に上位の悪魔が関わっているようだが、詳細は未だ不明となっている。

「選択肢は主に二つです。地下ドームを直接叩いて住民を救出するか、或いは……それを支えるゲートを探し、それを潰すことによってドームの機能を停止させるか」
 ドーム内に囚われた人々の安全を重視するなら、後者の策を取るのが望ましいだろう。
 ただ、ゲートがどこにあるか、その主が誰であるか、まだ何もわかっていない。

「その判断はお任せします」
 撃退署の職員は、そう言って撃退士達を見た。
「中には例のヴァニタス……未来と言いましたか、彼女に思い入れのある方もいらっしゃるでしょう」
 彼女の望みは、悪魔レドゥを助けること。
「住民の安全さえ確保出来るなら、撃退署としてはそれを叶えてやってもいいと考えています」
 助けると言っても無罪放免とはならないだろうが、捕らえたとしても殺しはしない。
 その父親に殺されそうになっているというのが事実なら、その驚異から守る用意もある。
「ただ、その悪魔本人が同意しない限り、戦って倒すことになると思いますが……」

 どうしますかと、職員は撃退士達を見た。




リプレイ本文

 かつて一面の白に覆われていたその場所は、今ではすっかり緑色に変わっていた。
「これは牧草なのか?」
「違いますね、多分ただの雑草でしょう」
 誰にともなく呟いたファーフナー(jb7826)の声に、逢見仙也(jc1616)が答える。
 前回の調査データを元に調べたところによれば、ここは数年前に廃業し、牧草地としては放棄されていた。
「悪魔が活動を始める前から、ここは既に無人になっていたようです」
 残念ながら事前の調査ではそれ以上の事はわからなかったが。
「こっちの撃退署員が調査続行しとるいう話やったけど、その中でもゲートの存在が一切引っ掛からへんかったんや」
 葛葉アキラ(jb7705)が神妙な顔で首を振る。
「えらい巧妙に隠したもんやで」
 どこか近くに丸ごと人が消えた集落でもあれば、そこが結界に呑み込まれたと推測できそうだ。
 しかし無人の原野では、そんな手がかりさえも見付からない。
 後はゲートの場所に当たりを付けて、ひたすら近くを探し回るしかないだろう。
「いいかげんゲート発見器くらい誰か発明してくれりゃいいのにな」
 ラファル A ユーティライネン(jb4620)が肩を竦める。
「せやけど、うちも自分なりに調べてみたんや」
 その手がかりを元に、今回はゲートを探しに行かせてもらう。
 ならばと、仙也が一枚の衛星写真を差し出した。
「かなり細かい所まで写っていますから、よかったらどうぞ」
 そこにある建物に細工の跡はなかったから、出入り口は例のサイロのみか、或いはもっと遠くに隠されているか。
「ハズレを調べる手間を省く程度の役には立つでしょう」
「ほな使わせて貰うわ、おおきにな!」
「お気を付けて、あまり無理をなさいませんように…」
 真里谷 沙羅(jc1995)が心配そうに声をかけるが、ラファルがその心配を吹き飛ばすように言った。
「なに、その為の陽動作戦だ。奴らの目はがっつり引きつけておくぜ」
 だからドームでもゲートでも、好きなだけ調べて来るといい。
 元々は単身先行する親友の為に敢行する作戦だが、モノはついでだ、利用出来るなら存分に使って構わない。
「じゃ、連絡は密にして、レドゥ君や悪魔に気づかれたり、敵が多すぎたら撤退ってことでいいかな」
 その親友、不知火あけび(jc1857)が皆に確認する。
 携帯が通じない時の為に無線機も借りておいた、これで準備は万全…の筈。
「後は出たとこ勝負か、まあ嫌いじゃないぜ」
 臨機応変は寧ろ得意だと、ミハイル・エッカート(jb0544)が顔の片側だけで笑って見せた。


「さあてっと、派手に暴れて連中の眼をひきつけねーとな」
 ラファルは機械化全開の対要塞攻撃型のデストロイドモードで、周辺に点在する建物の前に立つ。
 陽動であるからには、隠れる気など勿論ない。
「元から廃墟みてーなもんだが、正真正銘の廃墟にしてやんぜ」
 まずは多弾頭式シャドウブレイドミサイル発射、続いて十連魔装誘導弾式フィンガーキャノン、斉射!
 それを撃ち終わる前に地面の下からトビイカ達が姿を現し、ラファルの姿を確認するや再び地面に吸い込まれていった。
 それから一分と経たないうちに、周囲の木立の間から青いコートを羽織ったイカ頭が溢れ出して来た。
「お早いお出ましだぜ」
 周囲の森は撃退署が既に調査を終えている筈だが、出入り口らしいものは見付かっていない。
 飛行能力があるとも聞いていないから、転移装置の様な物でも使ったのだろうか。
「何でも良い、ありったけ呼び出して纏めてすり潰してやるぜ」
 多弾頭式亜重力ミサイル「グラビトン」発射!

 派手な地響きが腹の底まで揺らす中、ミハイルはサイロの扉を開けた。
 付近の見張りはラファルが暴れ始めると同時に、全てそちらへ行ってしまった。
「陽動だと気付く頭もないらしいな」
 ミハイルは侵入スキルを発動し、重い扉に手をかける。
 力を入れた途端、蝶番が耳障りな悲鳴を上げた。
 オイルライターのオイルを垂らすと、悲鳴は外の騒ぎに紛れる程度には控えめになった。
 開いた扉の隙間から、あけびがするりと中に入り込む。
 音もなく梯子を下り、遁甲の術で気配を殺して通路を進んで行くと、やがて前回の報告書で呼んだ通りの光景が見えて来た。
(今回はこの先まで進まないと意味がないんだよね)
 陽動戦の音と振動は、この地下まではっきりと伝わっている。
 しかし遠目から見る限り、ドーム内の人々の様子に変化は見られなかった。
 敵の姿も見当たらない。
 だが念の為に声には出さず、メールで連絡を入れた――それが使えた事に、多少の驚きを感じながら。

「無事に渡りきった様だな」
 連絡を受けて、ミハイルは呂号――未来の釣り出し作戦を開始する。
 扉を叩き、大声を上げ、適当に周囲を攻撃してみた。
 が、反応はない。
 どうやらラファルの威力偵察が派手すぎて、多少の物音では注意を引く事も出来ない様だ。
 もしや未来もラファルの方へ行ってしまったのだろうか。

 その、もしやだった。
「おいおい、何でてめーまでこっちに来ちまうんだよ」
 イカ達とは異なる影を見付けて、ラファルは攻撃の手を緩めた。
 ミハイルに聞いた人相風体と一致する。
 ラファルは悪魔全体が大嫌いだ。
 何しろ自分の身体をこんな風にした元凶なのだから、それも当然だろう。
 手を下した相手の特定が出来ないから、いっそ種族全体を抹殺してしまえと考え、将来のライフプランニングに魔界殲滅を上げている程度には大嫌いだ。
 だが特定の個人への報復観念は薄い。
 親友や仲間達が感情移入するなら、それを妨害するつもりはなかった。
「てめーが未来って奴か」
「その名を知っている所を見ると、奴等の仲間か」
 二人は戦うと見せつつ素早く情報を交換した。
「てめーの言う奴等ってのが俺のダチかどうかは知んねーが、てめーが来る場所はココじゃねー」
「なるほど、陽動か」
 未来が呟くと同時に、周囲にいたトビイカの何匹が素早くサイロの方へ飛び出して行った。
「だが、余り上手い手とは言えんな」
 そう言い残すと、未来もまたその場を離れた――何匹かのイカ男を引き連れて。

「気付かれたか」
 出現したトビイカを撃ち落とそうと、ファーフナーが身構える。
 が、それを仙也が止めた。
「ヴァニタスもいます。俺達はまだ顔が割れていない、隠れていた方が良いのでは?」
 それもそうかと物陰に身を隠した時、目の前に現れた無数の刃が空間を縦横に切り裂いた。
 まさか後ろから現れるとは思わなかったミハイルはクロスグラビティで反撃、周囲のイカ達を纏めて熨斗烏賊にする。
 その間に沙羅はシールドで防御しつつ接近し、未来との会話を試みた。
「未来さん、お話があります…どうかこのまま聞いて下さい」
 ソールロッドで殴りかかるふりをしながら、沙羅は話を続ける。
「未来さん、私の事は覚えていますか?」
 例え覚えていなくても、ここへ来た目的は変わらなかった。
「未来さん、あなたはレドゥさんを助けたいと言っていましたね? あなたの行動によってレドゥさんを助ける事ができるかもしれませんよ」
 未来の表情は変わらないが、沙羅は構わず続けた。
「お約束しましょう。あなたが協力をしてくれるなら私たちも全力でレドゥさんを護りあなたを護ります」
「それは前にも聞いた」
 未来は沙羅の身体を盾にする様に抱きかかえ、その首に腕をかけて締め上げる――が、力は殆ど入っていなかった。
「そして私も言った筈だ、主を裏切る事は出来ないと」
「それなら、私達を連行するという形でドームの中を見せて頂けませんか?」
「観光客が偶然迷い込んだって設定でどうだ」
 沙羅を助ける形で二人の間に割り込みながら、ミハイルが尋ねる。
「新たな資源として連れて来たとでも言えば怪しまれないんじゃないか?」
 だが未来は首を振った。
「ここは観光ルートからは遠い。それに、これだけの騒ぎを起こせば偽装など無意味だ」
 未来は二人の背に鋭く尖った爪を突きつけ、行けと促した。
「お前達はレドゥ様に引き渡す」
 ただ、その前に少し世間話をする程度の時間はあるだろう。
 その途中で隙を突かれ、まんまと逃げられる事もあるかもしれない。

 三人は扉の向こうに消え、残ったイカ達もそれに続いた。
 辺りが完全に無人になってから、仙也とファーフナーはそっと地下へ下りて行く。
「あの二人に敵の注意が向いているうちに、調べられるだけ調べておきましょう」
 通路が途切れた所で二手に分かれ、仙也は主にドームの内部を調べに、ファーフナーは管理棟を探しに。

(気分が悪いなー…こんなこと許せないよ)
 気配を殺して辺りを探索しつつ、あけびはドームの内部へちらりと視線を投げた。
(でも未来さんの話が本当なら、レドゥ君達は助けてあげたいな)
 上の命令に逆らえないのは忍の世界でも同じ事。
 例え本人に悪気がなくても、死にたくなければ従うしかないのだ。
(その為にも今は情報を集めなきゃ)
 先程から見ていたが、どうやらドームの中に敵はいない様だ。
 それどころか、この広い空間そのものに敵の姿がない――ただ一ヶ所、北側のドーム出入り口を除いては。
 ラファルの陽動に釣られた敵は、どこか他の場所から転送された様だ。
 他に怪しい場所は、ドーム北から延びる通路と、先程レドゥらしき男の子と中年男性が出て来た扉。
 あけびはその情報をファーフナーに送った。

(なるほど、そこが管理人室である可能性が高いか)
 ファーフナーは巨大な空間を形成する壁の一角に、問題の扉を見付けた。
 鍵のない扉を開けると、そこには昔ながらの事務所といった風情のアナログな光景が広がっていた。
 コンピュータの類は見当たらず、机の上に書類の束が放置されている。
 ぱらぱらと捲ってみると、それは浚われて来た人の名簿であるらしかった。
(これをそのまま持ち出せば、あのレドゥとやらの失点となるか)
 他の者達が彼を助けようとしている以上、それは出来ない。
 彼も享楽的に人間を弄んでいる訳ではなく、そこは種族の違いであり、生きるための行動である事は理解している。
 だから大きな拒絶反応は無いが、ただ黙って蹂躙される事を是とする道理もなかった。
 実態解明と救助の一助になればと、ファーフナーはその丁寧な字で書かれた手書きの名簿を写真に収めていく。
 個人情報の脇に添えられているのは、浚って来た日付だろうか。
 他の書類には交配記録、更に数は少ないが出生の記録もあった。
 名簿で×印が付けられている名前は交配記録にはない。
 その人々がどうなったか、それに関する記録は残されていなかった。
 恐らくゲートに送られたのだろうが、その方法や移動経路に関しての記録もない。
(記録する価値も興味もないといった所か)
 それ以上は足で探すか、どうにかして当事者から聞き出す以外に方法はなさそうだった。

(生物の牧場である時点でどうあっても水、酸素は欠かせない…ではドームではそれをどうやって調達するのか)
 仙也は地上の様子を思い出しながら、ドームの内部を探っていた。
 確か近くには小さなダムと、豊富な地下水が流れる鍾乳洞があった筈だ。
 水はそこから引いているとすれば、メンテの為にマンホールが必要になるだろう。
 それなら地下道もあるだろうし、通気口を兼ねている場合も考えられる。
 電気のケーブルもそこを通っているのかもしれない。
(水量によっては水力発電も可能か)
 仙也は水の匂いや音を頼りに怪しい場所を探してみた。
 途中ですれ違う人々は、見慣れない顔に警戒心を抱くでもなく、かといって親しげに話しかけて来るでもない。
 身長が2mを超える者とすれ違えば大抵の相手は多少なりとも好奇の目を向けるものだが、ここではそれもなかった。
 程よい無関心のおかげで、仙也は内部調査に専念する事が出来た。
 しかしマンホールの様な物は見当たらない。
 地面に耳を付けると、確かに水の流れる音が聞こえるのだが。
(透過で潜ってみるか?)
 試しに人通りのない場所で頭を突っ込んでみたが、真っ暗で何も見えなかった。
 ふと顔を上げると、ドームの中央に何か塔の様な物が建っている。
 僅かだが、そこから風が吹いて来るように感じた。
 あれが通気口なのだろうか。
 だが確かめる時間は残されていなかった。

 サイロに通じる通路の途中で、大きな爆発音が聞こえた。
 その直後、未来が通路から転がる様に走り出て来る。
「レドゥ様、申し訳ありません。油断しました」
「逃がしたのか!?」
 音を聞いて駆けつけたレドゥは恐怖と苛立ちが混ざった様な目で未来を見上げる。
「何してんだ、追えよ! 逃がしたら今度こそ父上に…いや、ボクが行く」
 レドゥは翼を広げ、その場から直接地上へ飛び出して行った。

『撤退だ、今のうちに地下から出ろ』
 各自の携帯やスマホにミハイルからの伝言が届く。
 それを合図に、仲間達は一斉に撤収を始めた。
 地下にはまだ未来と宮本、それに新たに呼び出されたイカ男達の姿があったが、それを蹴散らして出口へと向かう。
「ミハイルさん、未来さんから何か情報は?」
 真っ先に飛び出して来たあけびが尋ねる。
「とりあえず携帯番号とメアドは聞いた、洗脳がレドゥのスキルだって事もな」
 それが撃退士には効果がないという事も。
 協力関係は秘密にする事も伝えた。
「お父さんの名前は?」
「ああ、それも――」
 答えかけたところでミハイルは言葉を呑み込む。
 その本人が、目の前にいた。


 アキラは今、自分で見当を付けた場所に向かっていた。
 あの場はゲートの為の人間の養殖場、という事は近くにゲートがあってもおかしくない。
 いや、なければ却っておかしい。
 人間を運ぶなら、そう遠過ぎない範囲内で、しかも所謂「パワースポット」的な場所に違いない。
 旭岳とトムラウシ山、十勝岳を結ぶラインも何かありそうだが、旭川周辺となると少し遠いか。
 当麻鍾乳洞なら水源としても利用出来そうだが、その辺りは撃退署でも見当を付けて探しているだろう。
 失踪者や丸ごと消えた村の分布には特に法則性はなかった。
「そこから足が付くんを嫌がった可能性もあるやろな」
 計画が軌道に乗るまでは誰にも知られたくないだろうし、実際つい最近まで誰にも知られていなかった事だ。
「それが当てにならんちゅー事になると、近くの山ん中あたりが怪しい気ぃするな」
 最も近いのは二又山あたりか。
 地下に都市を作るくらいの技術があるなら、山の中をくり抜いてゲートを作る程度の事は朝飯前だろう。
 山の斜面に出入り口を作って木々や何かでカモフラージュすれば――
「ビンゴや!」


 レドゥの背後にもうひとつ、小さな影があった。
 それを認めた瞬間、目も眩む閃光が迸り、その場にいた全員を貫く。
 これはほんの挨拶だと影は笑い、悠々と去って行った。

 その名はマルコシアス。
 九魔の戦いで北に追われたマッドサイエンティスト――


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 鬼!妖怪!料理人!・葛葉アキラ(jb7705)
重体: −
面白かった!:4人

Eternal Wing・
ミハイル・エッカート(jb0544)

卒業 男 インフィルトレイター
ペンギン帽子の・
ラファル A ユーティライネン(jb4620)

卒業 女 鬼道忍軍
鬼!妖怪!料理人!・
葛葉アキラ(jb7705)

高等部3年14組 女 陰陽師
されど、朝は来る・
ファーフナー(jb7826)

大学部5年5組 男 アカシックレコーダー:タイプA
童の一種・
逢見仙也(jc1616)

卒業 男 ディバインナイト
明ける陽の花・
不知火あけび(jc1857)

大学部1年1組 女 鬼道忍軍
Eternal Wing・
サラ・マリヤ・エッカート(jc1995)

大学部3年7組 女 アストラルヴァンガード