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マスター:STANZA
シナリオ形態:シリーズ
難易度:非常に難しい
形態:
参加人数:10人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2015/12/23


みんなの思い出



オープニング




 アロンの杖を失ったメイラスを、撃退士達が取り囲む。
 黒ずくめの大天使は右腕に傷を負ったのみ、受けたダメージの総量としては彼を取り囲む者達の方が大きく上回っているだろう。
 だが数の差は圧倒的、このまま戦いを続けてもメイラスに勝ち目はない――何か秘策でもない限り。
「良かろう、貴様らの勝ちだ…このゲームに限ってはな」
 メイラスは目を伏せ、軽く両手を上げて恭順の意を示した。
「それで、勝者である貴様らは哀れな負け犬をどう処すつもりだ?」
 差し伸べられた手を見ようともせず、薄笑いを浮かべる。
「鎖を付けてペットにするか、それとも公衆の面前に引きずり出して石でも投げさせるか」
 メイラスのこれまでの行いによって、大切な存在を失った者は多い。
 その中には自らの手で復讐を果たしたいと望む者もいるだろう。
 機会と手段が与えられれば、喜んでその命を奪う筈だ。
「そう、例えば私の黒咎達…彼等には多少なりとも天魔に抗する力がある。彼等にその力を使うなと言えるかな?」
 彼等に我慢を強いれば、今度は憎しみの矛先が撃退士達に向けられる事になるだろう。
「この私が主となり新たに力を注ぎ込めば、彼等は貴様らの敵――いや、脅威となる」
 彼等ばかりではない。多くの人間達が撃退士に失望し、不信と憎悪に駆られるに違いない。
 一度憎しみを向けた相手を赦す事は、自分の身を切るよりも難しい。
 そして大抵の人間は、ただ憎み、憎み続ける事を選ぶ。
「貴様らの理想とやらが誰にでも快く受け入れられるなどと、ただの甘い幻想にすぎぬのだ」
 さあ、どうする。
「それに…貴様らとて聖人君子ではあるまい?」
 例えば――


 戦場となったフィールドの向こう、季節を無視した花々が咲き乱れる庭によって隔てられた一角。
 ハロウィンの飾りもそのままに残された部屋のテラスに佇み、門木章治(jz0029)は仲間達の様子をじっと見守っていた。
「メイラスは、まだわかっていないようだな」
「何を?」
 少し下がって警戒に当たるテリオスが、ちらちらと後ろを気にしながら尋ねる。
「あの三人が俺達に刃を向ける筈がない」
 もしそうなら、自分はとっくに殺されている。
「勿論、復讐したい気持ちはあるだろう。憎しみの感情も、消えることはないかもしれない」
 だが、人はそれでも前を向く事が出来る。
 腹の底にどす黒い感情を溜め込んだままでも、それに囚われることなく生きて行ける。
「独りじゃ、ないんだからな」
 それは自分自身に向けた言葉か、それともテリオスに――或いは戸口の近くに佇む大きな影に向けて言ったのかもしれない。
「俺だって、出来ればメイラスやハージェンをぶん殴りたい。でも、もしその力があったとしても…多分、しないだろうな」
 赦したわけではない。
 どす黒いモヤモヤが消えたわけでもない。
 ただ――
「そんな事より…あいつらと一緒に笑ってる方が、楽しいから」
 今が幸せなら、黒い塊は腹の底に沈んだまま、浮き上がることもないだろう。
 逆に今の状態に満足せずに不満を溜め込んでいるなら、それは全身を黒く染めてしまう。
 まさかその影響でメイラスの外見が黒くなった、などという事はないだろうが。
「あいつは何がしたいんだろうな」
 わざわざ門木と因縁のある者を探してきては敵対するように仕向けたり、天使にとっては資源の無駄遣いとも言える無差別殺害に興じてみたり、ゲームと称してヘイトを稼いでみたり。
 自分を楽しませろと口癖の様に言っている割には、本当に楽しそうにしている顔は見た事がない。
「…寂しいのか?」
 もしかして、ただの構ってちゃん?
「そもそも、ハージェンは何故あいつを部下に選んだのか…」
 門木は戸口に佇む影を振り返る事なく、独り言の様に言った。

 返事はない。
 だが聞き耳を立てている気配はある。
「俺は天界で、誰にも必要とされなかった。不完全な存在に価値はない、そう言われたこともある」
 味方してくれたのは、育ての母であるリュールただひとり。
 そしてハージェンはそのリュールを「秩序を乱す者」として糾弾し、追い落とそうとした。
 しかし。
「秩序が乱れる事を極端に嫌っている筈のハージェンが、片翼の大天使を部下に選んだのは何故だ?」
 しかも天界では何かと嫌われることの多い、黒い翼を持つ者を。
「自分だけは例外的に何をしても許されるが、他の者が同じ事をするのは気に食わない…といったところか」
 だとしたら、とんだ小物だが――
「ち、違う、ぞよ」
 背後の影が口を開いた。
「我の他に、あれを拾う者などおらぬ。だから、あれは絶対に我を…」
 しかし、影の更に背後からメイラスの声がした。
「最下級の堕天使ふぜいに、ハージェン様が直々にお声かけする必要はありません」
 脇の壁をすり抜けて現れたのは、確かにメイラス――だが、その本人は撃退士達に囲まれたまま身動きが取れずにいる。
 ということは、コピーか。
 最初に作られたものは声を上げる事も出来ず、本物と見分けるのは比較的容易だった。
 しかし、これは。
「どうだ、随分と性能が良くなっただろう」
 コピーは嗤い、門木を見る。
「余りに性能が良すぎて、コピー自身でさえ自分が本物だと信じて疑わないほどにな」

 直後、大量の「門木」が部屋の中に溢れた。

「これは…?」
「一瞬、意識が飛んだような気がしたが」
「こいつらは俺のコピー…いや、俺自身もコピーなのか?」
 門木達は、そのどれもが本物であり、記憶も完全に保持しているように見えた。
「元からこの部屋にいた、その俺が本物…?」
 コピー達の視線が一人の門木に集中する。
「馬鹿兄、来い!」
 このまま見分けが付かなくなっては困ると、テリオスは咄嗟に「本物」の腕を掴んで部屋から連れ出そうとした。
 しかしコピーメイラスが放った黒い羽根が一枚、その背に突き刺さった瞬間。
 それはただの頭陀袋と化して、どさりと床に転がった。


「どうだ、余興は気に入ってくれたかな?」
 メイラスは自分を取り囲む撃退士達をぐるりと見回し、高笑いを響かせた。
「さてさて。こんな事をされても、まだ甘っちょろい夢や理想を語る事が出来るというのか?」
 本物はあの中にいる、かもしれない。
 それとも、今頃はどこかの部屋に監禁されて例の注射を打たれている頃だろうか。
「本物でもコピーでも、私にとってはどうでもいい」
 頭の中身さえ手に入れば、材料が何であろうと構わないのだ。
「もっとも、余りにも本物そっくりに作ってしまったせいで、本人の意に反した命令を聞かせる事も出来なくなってしまったがね」
 それも更に改良を重ねれば、必要な知識だけはそのままに保った忠実な下僕を作る事も不可能ではないだろう。
「貴様らも、どれでも好きなものを連れ帰って構わんぞ? そいつを取り戻しに来たのだろう?」
 どれでも同じだと、メイラスは嗤った。

 この技術があれば、撃退士のコピーを大量に用意して手駒にする事も出来る。
「それを人間界に送り込んで暴れさせたら、人間達はどんな反応をするだろうな?」
 一度コピーを取ったものは、際限なく増やすことが出来る。
 ただし、メイラスの命が続く限り、だが。
 彼が死ねば、全ては一瞬でただの頭陀袋に戻る筈だ。
「これでもまだ、私を生かしておこうなどと言えるのかな?」
 その言葉に動揺の色を見せる撃退士達。
 彼等の隙を衝いて、メイラスは包囲を突破しようと動いた。



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リプレイ本文


(メイラス、どこまで…)
 そのやり口に、カノン(jb2648)は怒りを募らせる。
 赦せるか、と問われれば赦せない。
 赦せる筈もない。
(でも、その感情に任せて武器を振るうのではなく動くこと。それが私達が積み上げてきたことなのであれば…!)
 流されてはいけない。
 考えることをやめてはいけない。
 今すべきは窮地のテリオスを助け、共に本物の門木を無事に救い出すこと。
 かといって、このままメイラスが大人しくしているとも思えなかった。
(防御系のスキルも使い切りシールドバッシュもうまく決められない以上、私ではメイラスを抑えられません)
 ならばこの場は仲間に任せ、テリオスの方へ急ぐべきか。
 そう考えた直後――

 メイラスが先に動いた。

 撃退士達が作った包囲網は、相手が飛んで逃げることを想定していなかった。
 そこを突破しようと、メイラスは片方しかない黒い翼を広げる。
 しかし。

「こんなもんかメイラス…逆に殺す価値もなくなってもたわ。…こんなゲームは売れへんで?」
 ゼロ=シュバイツァー(jb7501)はメイラスの動きには目もくれずにその場を離れ、より緊急度と重要性の高い方へと急いだ。
 それに続いたカノンは自前のリジェネレーションで体力を回復しつつ、ハージェンに向かって問いかける。
「貴方は今回のメイラスの所業を知らされていましたか?」
「ぞ、ぞよ!?」
 偽メイラスに促されてその場を退こうとしていたハージェンは、思わずその足を止めた――と言っても、実際に止まったのは椅子の脚である四人の天使達だが。
「な、なんのこと、ぞよ…」
「自我を持つコピーを作り出したことです」
 独断なのか、それとも許可を得ての事なのか。
「そ、それは――」


 残った仲間達はメイラスの抑えに回る。
「逃げても無駄なのだよ!」
 青空・アルベール(ja0732)が、赤く光る紋様を黒い身体に刻み込んだ。
 これでもう、例え姿を消したとしても青空には居場所がわかる筈だ――もっとも、その効果を持つ杖は既にないが。
(ここから先の攻撃は、紛れもなくメイラス自身の力なのだ)
 それがどれ程のものか、しっかり観察して少しでも多くの情報を手に入れなくては。
 だが、メイラスに反撃の機会は与えられなかった。
「どこにも行かせないの、ですよ…?」
 華桜りりか(jb6883)が服を掴んで引っ張りながら、式神・縛でその動きを止めようとする。
 流石に抵抗が高いのか、それは効果がなかったが――それなら物理的に止めるまでだ。
「スゥちゃん…!」
 シグリッド=リンドベリ(jb5318)はスレイプニルを喚び出し、その頭上に蓋をする。
「そのまま全力で踏むのです…!」
 馬の蹄を持つ巨体は、命令通りに足を揃えて落下――

 めきょ!

 四つの蹄がメイラスの背骨にクリーンヒット、そのまま床に押し倒した。
「んぐぇっ!?」
 なんか潰れたカエルみたいな声がしたけど、きっと大丈夫。
 この程度で死んだりしないって言うか、そんな楽に死ねると思うな。
「気持ち的にはこのまま四つ折りにしたいんですけど」
 目が本気だった。
 この時点で抵抗をやめておけば、メイラスの評価も少しはマシになっていたかもしれない。
 だが彼は引き際を見誤った。
 いや、わざとそうしたのだろうか――撃退士達の殺意を煽る為に。

 メイラスは重石を払い除け、その手から黒い羽根の様な鋭い刃を放った。
 狙われたのは最も防御が手薄で、かつアロンの杖を手にしている七ツ狩 ヨル(jb2630)、しかし――
「ガキが邪魔するな!」
 雨野 挫斬(ja0919)が庇護の翼でそれを肩代わりする。
 そのまま包囲網を突破しようとしたその脚を狙って、青空がクイックショットを放った。
「兄ちゃん達のところへは行かせないのだ!」
 足が止まったところで、挫斬が手にしたワイヤーを絡み付かせる。
「逃げるならこの足引き千切るわよ」
 殺すつもりはないが、足の一本や二本なくしても死にはしないだろう。
 ただの脅しではない証拠に、挫斬は張り詰めた糸を更に引き絞った。
 更にはユウ(jb5639)が、もう片方の足にワイヤーを巻き付け、引き倒す。
「生かしておこうなどと言えるのかと言いながら逃亡を計るですか、全く…」
 軽く溜息を吐きながら属性攻撃をセット、頭に銃口を突き付けた。
「下手な真似をすればどうなるか、わかりますね?」
 牽制しつつ、ユウは仲間達に声をかける。
 先に行った二人だけでは偽メイラスの抑えはともかく、テリオスの保護や本物の門木を探す事までは手が回らないだろう。
「ここは私たちに任せて早くテリオスさんの元へ…ただ、先生のコピーがいるということは、テリオスさんもコピーである可能性があります」
 その点には注意するように、ユウはそう付け加えて離脱を促した。

「わかった、注意しておく。でもその前に誰か回復を頼めるかな」
 ヨルは手にした杖をテリオスに届けるつもりだった。
 急ぎたいのはやまやまだが、それを死守する為にも体力は回復しておく必要がある。
 それに応えて、鏑木愛梨沙(jb3903)が手を差し伸べた。
「急ぐなら一度で済んだほうが良いわよね」
 専門家である愛梨沙のヒールが最も回復量が多い。
 それでも僅かに足りない分は、向こうに着いてから癒しの風で他の皆と一緒に回復すれば良いだろう。
「走りながら切り替えるわ。そうすれば、うっかりテリオスも巻き込めるしね」
 そう言いながら、愛梨沙は大量に溢れた門木達に目をやった。
 メイラスの性格やこれまでの行動から見て、あの中に本物がいるとは考えにくい。
「なら、どこにいるのかしら?」
「テリオスに協力してもらって一緒に探そう」
 ヨルが答える。
 ただし彼の立場を守りつつ、裏切りがバレないように。
「もう手遅れかもしれないけど、芝居は打っておいた方が良いと思う」
 だから、他にも何か伝えたい事があるなら秘密裏によろしく。


 カノンの問いに、ハージェンは躊躇いながらも何かを答えようとした。
 だが、またしても偽メイラスの邪魔が入る。
「ハージェン様、戯れ言に耳を傾ける必要はないと申し上げた筈です」
 しかしその反応から推測する事は可能だ。
 メイラスが止めたのは、何かしら都合が悪い内容が露呈する危険があるからだろう。
 門木のコピーに話しかけた事から見て、恐らくそれは知らされていなかった。
 その技術そのものについては知っていたかもしれないが、その詳細や運用法までは聞かされていなかったとすれば、それは裏切りではないのか。
 先程の問いかけでハージェンがその可能性に気付けば、メイラスが忠実な部下であるという思い込みに楔を打ち込めるかもしれない。
 だがメイラスは上司に考える時間を与えなかった。
「ハージェン様、ここは危険です。どうぞ奥へ」
 しかし。
「ちょおーっと待ったぁ!」
 あっという間に戦場を横切ったゼロが、偽メイラスの目の前に飛び出した。
「さーて、まずはちょいと回復させてもらうで?」
 その胸ぐらを掴んで引き寄せ、またしても顔面を殴り付ける。
 飛び散った鼻血の分だけ、ゼロの体力が回復した。
「用があるんはお前やない、量産型は黙って素材に戻っときや!」
 ゼロは偽物に大鎌を向けつつ、テリオスに向けて忍法「霞声」を使った。
『テリー、自分コピーやないやろな?』
 と言っても本人にはわからないのか。
『まあええ、そこは後で一発殴ればわかることやしな』
 殴りつけるのは、テリオスが敵サイドにいる事をハージェンに見せる演技の為だ。
『ここで裏切者になってまうのもアカンやろ? まあ堕天したい言うなら歓迎やけど、きっつぁん見付けるまでは敵のフリしとってや』
 そこに杖を持ったヨルが全力疾走で飛び込んで来る。
『その杖奪ってポイント稼いどき、ただしイラ吉コピーに渡すんやないで、自分が使うんや』
 因みにイラ吉とは、なんかイラっとするから命名されたメイラスのあだ名である。
「カドキお願い、二人一組になってお互いを殴って!」
 杖を守る様に抱え込んだヨルは、門木のコピー達にそう要請する。
 元々打たれ弱い者のコピーなら、その程度のダメージで頭陀袋に戻る筈だ。
「俺が全力でぶん殴るよりはマシやろ? いっちょ派手に頼むで!」
 ゼロにも促され、門木達は手近な自分と向き合った――が。
 彼等には自分がコピーであるという自覚はない。
 状況から見てそう判断するのが妥当であり、コピーなら消えるのが当然である事は理解していた。
 しかし、感情の方が追い付かない。
「「俺は、死ぬのか」」
 思わずそんな言葉が零れた。
「「いや、わかってる…この俺は、俺達は…ただのモノだ」」
 それでも、息を切らせて走り込んで来たカノンの姿を見れば、心が揺れる。
 門木達はなるべくそちらを見ないようにして、腕を振り上げた。
 交差した拳が互いの顔面を打つ。

 結果――何も変わらなかった。
「「すまん、手加減したつもりは…」」
 鼻を押さえ、指の間から血を滴らせながら、門木達は再び拳を握る。
 しかし。
「きっつぁん、もうええ」
 ゼロが止めた。
「なんもせんでええわ、堪忍な」
 力加減の見積もりを誤った――いや、撃退士の基準で考えていた。
 種族こそ天使だが、門木の力は一般の人間並でしかない。
 だからこそ大きく強い力に惹かれ、しかし、安易にそれを求める事なく踏み留まっているのに。
「汚れ役は俺の仕事や」
 ゼロは拳の中に覚悟を握り込む。
 しかし、ヨルから杖を奪ったテリオスがそれを制した。
「余計な手出しは無用だ」
「なんや、折角ええところやのに!」
 邪魔をするなとゼロの拳が唸りを上げる。
 どう見ても本気の腹パンに、テリオスは腹を押さえて蹲った。
「…私は、どうやら本物のようだな…」
 そこに走り込んだ愛梨沙が、うっかりテリオスを範囲に巻き込んで癒しの風を使う。
「テリオスっ! 本物の章治兄様をどこに隠したのよ!」
 建前の言葉をぶつけつつ、意思疎通で語りかけた。
『ここにいるのが全部コピーだとしたら、このゲート内でどこか兄様を隠せる様な場所ってある?』
「いくつか見当は付くが、正確にはわからない」
 その答えは意思疎通ではなく、肉声で返された。
『ちょっと、それじゃ折角の芝居が台無しじゃない!』
 だが、テリオスは首を振った。
「隠れてコソコソするのは、もう飽きた」
 この場で粛清されても構わない。
 だが、撃退士達がそれを許す筈がない事もわかっていた。
「全てを丸く収めて見せろ、お前達はその為にここに来たのだろう」
「言われなくても、そのつもりだよ」
 ヨルは挫斬からの伝言を伝える。
「その杖なら毒の雨でコピーを一網打尽に出来るだろうって」
 それから、ゲート内の壁を全部取り払ったら自分達に合流しろ、とも。
 テリオスは言われた通りに杖をかざす。
 門木達は押しくら饅頭のように全員が肩を寄せ合い、内側を向いた――最期の表情を誰にも見られないように。


 ワイヤーに絡め取られ、銃を突き付けられたメイラスはしかし、全く堪えた様子を見せなかった。
「貴様はその引き金を引けるのか?」
 ユウに向かって語りかける。
「私を殺さないと決めたのだろう? しかし、それを撃てば高確率で私は死ぬ…それでも撃てるのか?」
 だが、ユウはもう彼の言動に惑わされることはなかった。
 会話も交渉も全ては無駄、引き金を引く事に躊躇いはない。
「撃ちます、ですが殺しはしません」
 確かにこの一撃のダメージは大きいだろう。
 しかし大天使がその程度で簡単に死ねるほどヤワな作りなら、天界勢との戦いにここまで苦労する事もなかった筈だ。
「では、試してみるか?」
 薄笑いを浮かべながら、メイラスは足に絡み付いたワイヤーを自ら引き千切った。
 赤い肉片が垂れ下がった足を引きずりながら立ち上がる。
「言った筈です、躊躇わずに撃つと」
 その言葉通りに、ユウは引き金を引いた。
 銃声が轟雷の如く鳴り響く。
 しかし直後、アウルの弾丸はメイラスの身体を覆うように発生した黒い渦に呑み込まれた。
 渦はそのまま無数の黒い刃物となって周囲に襲いかかる。
 挫斬はそれをシールドで受けるが、仲間のガードまでは手が回らない。
 しかし、その時――空からペンギン帽子の少女が降ってきた。
「何だかわかんねーが、そうはさせねー!」
 その少女、ラファル A ユーティライネン(jb4620)は、包囲を抜けようとしたメイラスの前に立ち塞がる。
 満を持して、俺参上。
 しかし助っ人に来たのはいいが状況が見えなかった。
「誰か俺に現況を説明しろよ、三秒でな」
 それは無茶振りだが、とりあえず取るべき行動はこれで間違っていないようだ。
「よし、このままコイツ抑えとけば良いんだな?」
 ラファルは現状でほぼ唯一の、無傷かつ全く消耗していない戦闘要員だ。
「その間に回復とかしとけよ、ボロボロじゃねーか」
 と言うかメイラスも同じ程度には満身創痍だった。
「こんなんでまだ何かおかしな真似しようってんなら、またひとつ傷が増えることになるぜ?」
 先程のユウの攻撃は、黒い渦に呑まれて消えたわけではなかったのだ。
 そのまま逃げおおせる事が出来れば、或いはそう思い込ませたままでいる事も出来たかもしれないが。
「相手の攻撃を吸収して跳ね返すような技かと思ったのだ」
 実はハッタリだったらしい事に安堵しつつ、青空は手近な仲間と自分の頭上に優しい雨を降らせた。
「りりかちゃん、こっちに回複頂戴!」
 挫斬の声に応じて、りりかの掌から吐息と共に桜の花びらが舞い、ほんのりと暖かな春の香りが辺りに漂う。

 その間に、ユウはハージェンに問いかけてみた。
「差し出がましいとは思いますが、私達に会話の機会を与えて頂けないでしょうか」
 もし何か見返りが必要なら、メイラスを開放してもいい。
「ただし彼やそのコピーが貴方に危害を与える行動を示さない限り、そちらに向かった仲間の不利益になる行動をしないよう命令して頂く事が条件となりますが」
 メイラスが命令を破れば、彼が忠臣ではない証拠として攻撃材料にも出来るだろう。
 だが、ハージェンもそう簡単には乗って来なかった。
 まだ材料が足りないのだろうかと、ユウは一旦引き下がる。

 治療をあらかた終えた一同は、再びメイラスの周囲を取り囲んだ。
「コピーさんを持ち帰ってもしかたがないの、です」
 門木のコピー達が消えていく様子を遠目に見ながら、りりかはシグリッドと共にメイラスをさんどいっち。
「メイラスさんはこまったさんなの、ですね。何をしてもあたしの気持ちは変わらないの…」
 血で染まった肩口にハンカチを当ててやるが、それは見る見るうちに真っ赤に染まっていく。
 だが治療はしない。
「いたいのいたいの、とんでけ…なの」
 なでなでなで。
 本人は全力で温もりを教えて懐柔する構えらしいが、端から見ればそれはただの嫌がらせか、或いは新手の拷問か。
「お手…なの、ですよ?」
 拒否されてもひたすら笑顔で手を取りぎゅー。
 手を動かしたら肩が痛いとか、きっと気のせいですよね。
「何処かへ行こうとか考えないで頂きたいの(訳:変な動きをしたら攻撃するよ?」
 腕に抱いた日本人形・輝夜がにっこりと笑っている。
 その持ち主も、ニコニコと微笑んでいた。
 笑顔で脅す高等スキルを自在に操るだいまおー様、しかも本人に脅している自覚がないところがまた怖ろしい。
 一方のシグリッドもにっこり笑顔だったが、その目は死んだ魚の様に無表情だった。
 メイラスの手を取り(強制)、もう一方の手で頭を撫でる。
 振り払われたら両手でわしゃる。
 二人がかりの愛情表現という名の拷問は、メイラスのようなタイプには爪の間に針を差し込むよりも効果的かもしれない。
「そういえば先生のことが嫌いなのかとか嫌いな人の事しか尋ねた事が無かった気がするのです。メイラス…さんは、好きな人とか心を許せるひとは居ないんです?」
 答えはない。
「別に応えてくれなくてもいいですけど」
 なでなでなで。
「気になったから訊いてみようとふと思っただけですから」
 わしゃわしゃわしゃ。
 でも答えは聞かなくてもわかる気がする。
(そんな人がいるなら、ここまでヒネクレてませんよね、きっと)
 ああ、今ここでパサランを喚べたなら、頭から呑み込んでべっちょべちょにしてやれたのに(ぐぬぬ
「メイラスさん本当はどうしたいの、です?」
 改めて、りりかが尋ねた。
「まるで命をとられたいような言い方と行動なの。はーじぇんさんについている理由も知りたいの、ですよ」
 そう簡単に、答えてはくれないのだろうけれど。

「メイラスはメイラスなりに、何かを変えたいんだと思う」
 代わりに青空が答えた。
「でもこのやり方じゃ、何も変わらないと思うのだ」
 実際に何か変えられた事があるなら教えてほしい。
 きっとまだ、ひとつもないから…だから余計に、このやり方に拘っているのだろうか。
「このままじゃいつか本当に一人ぼっちになってしまうのだ。それとも、君はもう独りなのかな」
 独りだから、失うものがないから、他の誰かが大切にしているものを平気で傷付けることが出来るのだろうか。
「全てを壊すなんて大層なことしなくても、君が特別になれる方法はいろいろあるんじゃないかなー」
 ところで。
「君が向こうに行こうとしてたのは、なんでだろう?」
 そう言えば予備の薬はまだ持っていた筈だと懐を探る。
「あった!」
 これを注射する為に、本物の門木のところへ行こうとしていたのか。
 だとしたら、彼はまだ無事でいる筈――


 頭陀袋の山の中、偽メイラスだけはまだそのままの姿で立っていた。
 しかし、それもほんの数秒のこと。
「これ以上イラ吉と遊んどる暇はないんや」
 ゼロの大鎌が一閃し、頭陀袋がまたひとつ増える。
 と、そこにりりかから連絡が入った。
「なんや薬は本物のイラ吉が持っとったらしいで」
 だが、完全にそうと決まったわけではない。
「メイラスのことだし、それも俺達を安心させる為の罠かもしれないよね」
 ヨルが注意を促す。
 寧ろ今までの事から見れば、罠ではないと考える方が難しかった。
「急ごう、それと阻霊符は使わないで。偽メイラスが壁を擦り抜けて来たって事は、本物のカドキも透過を使わないと入れない場所にいる可能性があるから」
 取り外しが可能な壁は全て取り払ってある。
 しかしこの建物のように最初から変化させる事を想定していない構造体は、いくらゲートの主でもそう簡単に動かす事は出来なかった。
「それでも、誰よりもここの構造に詳しいことは確かでしょう」
 カノンがテリオスを促す。
「いくつか見当は付くと言っていましたね。案内をお願いします」
 代わりに道中の護衛は引き受ける。
 家の中にも敵はいるだろうし、本物の門木を監視も付けずに放置してあるとも思えなかった。
「杖があるとは言え力を失っているわけですから、一人で行かせるわけにはいきません」
 とは言え、そこに正解があるとは限らない。
 愛梨沙が生命探知で辺りを探ると、そこには複数の反応が現れた。
「このどれかが本物、だと良いんだけど」
 指差した方角ごとに担当を振り分けて、捜索を始める。
 誰もそこで呆然としているハージェンの事など眼中にない。
 それどころか存在さえ忘れたかのように完全にスルーしていた。
「俺はまず向こうを探してみるね」
 ヨルは偽メイラスが現れた方へ、壁をすり抜けて行く。
(先生…待ってて!)
 カノンはテリオスと共に、最も可能性が高いと踏んだ場所へ。
『兄様、聞こえたら返事して!』
 愛梨沙は手近な反応に向けて意思疎通で呼びかけてみる。
 だが返事はなかった。


『シグ坊もこっち来てええんやで?』
 ゼロからの連絡を受けて、シグリッドは周囲を見た。
 メイラスのコピーはまだ何体か残っているらしいし、どこかに潜んでいる可能性もある。
 こうして皆に抑えられているボロボロの本物よりも、自由に動けるコピーの行動の方が危険だろうし――いや、そんなことより。
 助けに行きたい。
「いってらっしゃい、ですよ?」
 りりかがその背中をぽんと押す。
「やりたい事があんなら遠慮することはねーぜ、俺はその為の助っ人だからな!」
 ラファルがここは任せろと太鼓判を押した。
「ありがとうございます、行って来るのです…!」
 全力移動と追加移動で建物に飛び込み、そこにいたハージェンはやっぱりスルーして、仲間と合流する。
「おう、来ると思っとったでシグ坊」
 ゼロに指示されて、手の足りていない場所に向かった。
「探すための目は多い方が良いのです、ぷーちゃん頼んだのですよ…!」
 ヒリュウを呼び出して視界を共有、怪しい場所を探る。

 その間、暇を持て余したラファルはメイラスにちょっかいを出していた。
「さて、この間にこっちのお優しい考えとやらを丁寧に説明してやるとすっかな」
 勿論それは親切心から出た言葉ではない。
 この天使がどうなろうが知ったことではないが、天魔の心を折るのが彼女のライフワークなのだ。
 このチャンスを逃す手はない。
「天使さんよー、てめえは生かして置いてやるよ」
 殺す事には反対だ、しかし勿論それは親切心から以下略。
「俺の敵は悪魔だけだし天使には特段に恨みはないからな。だが、俺達の縄張りで好き勝手やったことについては落とし前をつけてもらわねーとな」
 つまり罪を償ってもらうという訳だ。
 しかし勿論それは以下略。
 甘いなどと思われては心外だ、そしていつから償いが死よりも軽いものだと勘違いしていた。
「人類は天使にだって悪魔にだってなれるんだ、非道の行いがてめーらだけの専売特許だと思ってたら大間違いだって事を教えてやるぜ」
 聞くところによれば、随分と非道な行いをしてきたそうだが、この世界には目には目をという言葉がある。
「ふふっ、泣いて自分から殺してくださいってお願いさせてやるよ」
 今も随分と酷い格好だが、こんな程度で済まされる筈もない。
「だからお前は殺さねー。生かして置いてやるよ…まあ、他の連中の考えは違うだろうがな」
 最後の一言は心の中で。
 その言葉がどの程度響いているのか、メイラスの表情からは全く伺い知る事が出来なかった。
 既に心折られて、何もかも諦めているのか。
「いや、違うな」
 まだ何かを企んでいる、或いは何かが起きる事を待ち望んでいる――そんな気がする。
 何かがあるとすれば、向こうか。
「気を付けろよ」
 ラファルは捜索組に向かって小さく呟いた。


「見つけた!」
 資材置き場の隅に、ダウナーにしては精一杯の大声が響く。
 しかし殆ど同時に愛梨沙も門木の姿を発見していた。
「どういうこと?」
 地下室の一角に横たわる姿は紛れもなく門木だが、これもやはりコピーなのだろうか。
 そう思った瞬間、それが起き上がった。
「兄様…じゃない」
 意思の感じられない目に、まるでゾンビの様な動き。
「こっちもハズレだね」
 別の部屋で、ヨルも同じモノに相対していた。
 ガワだけ似せた出来損ないの劣化コピー、これなら倒す事にもさほど抵抗は感じない。
「ごめん、ゆっくり眠って」
 本物は必ず助けるからと、ヨルは斧槍を振り払った。
「こっちもパチモンやな」
「こちらもです」
 ゼロもカノンもハズレ、すると残りは――

「章兄…っ!?」
 まず始めに目に入ったのは、赤い色だった。
 奥の壁に貼り付いた人の形。
 広げた手足は鎖に繋がれ、その先は壁に打ち込まれた杭で固定されている。
 それだけなら、まだいい。
 その身体には何本もの細く長い釘が打ち付けられていた。
 流れ出した血が糸の様に絡み付き、足の先から滴り落ちている。
「ほう、意外に早かったな」
 部屋の隅に立っていた黒い影がゆらりと動く。
「では貴様に選ばせてやろう」
 次の一手は新たな釘か、それとも例の薬か。
 そう問われても、シグリッドは返事が出来なかった。
 頭の中が真っ白になって、ただ怒りと恐怖だけが腹の底で渦巻いている。
「安心しろ、まだ息はあるし急所も避けてある。ただし貴様が妙な動きをすれば、うっかり手が滑るかもしれんがな」
 だがメイラスは、目の前の相手しか見ていなかった。
 壁の後ろからふいに姿を現したヨルが至近距離でゴーストバレットを放ち、そのまま体当たりで門木から引き離した。
 その衝撃で我に返ったシグリッドは、ぷーちゃんにサンダーボルトを命じる。
 身体が痺れて動けなくなったところにゼロの大鎌が飛んで来た。
 その間にカノンは鎖を打ち砕き、愛梨沙とテリオスがヒールをかけながら刺さった釘を引き抜いていく。
「これでも、貴様らは…」
 しかし偽メイラスはその台詞を最後まで言う事を許されなかった。
「お前の思い通りになんか、なってやらない。殺してなんかやらない、憎んでなんかやらない」
 振り下ろされた斧槍が、それを器ごと打ち壊す。
「…そんな風に仕向けなくても俺達は『メイラス』を見てる。多分、ハージェンも」
 気付いていないのは、本人だけだ。


 無事救出の報を受け、挫斬は改めてメイラスに向き直った。
「負けを認めたのに余興と称した第二ラウンドを勝手に始める。ルール違反ね」
 それまで抑えていたものが一気に噴き出して来る。
「世界に不満があっても戦いもせず威勢のいい事を言うだけで弱い者苛めのゲームに逃げる。そのゲームでもルールを守ると言いつつ負けたら破る」
「違うな、私は新たなゲームを始めただけだ…どうやら、それも破れた様だが」
 しかし挫斬は聞く耳を持たなかった。
「アンタは夢を追いもしないで諦めただけじゃなく自分の決めた事すら守れないタダのガキよ。アンタが認められないのは天使として不完全だからじゃなくてガキだからよ!」
 ふと見れば、家の中に動きがあった。
 救出班が戻って来たようだ。
「先生は、私達は最初から諦めてるアンタと違う。アンタの言っている事は全部解ってる。それでも少しずつでも進もうと足掻いてるのよ」
 門木は手当ての甲斐あって意識を取り戻したらしく、ゼロとテリオスに両側から支えられながらではあったが、自分の足で立っていた。
 その姿に安堵しつつ、反動で更に怒りが燃え上がる。
「そして出した手を振り払って私達の仲間を傷つけようとするんならガキでも殺すわよ。私達はアンタと違って遊びでやってるんじゃないのよ! 解ったらガキは引っ込んでろ!」
 反論を抑え、ハージェンに向って叫んだ。
「いい加減にこんなガキに相手をさせないで出てきなさい。今迄見て解ったでしょう。私達には力がある。でも私達はそっちが手を出さない限り手を出さない。怖がる必要なんてない。私達は話し合いに来たのだから!」
 話し合いと言いつつメイラスは酷い有様になっているが、これは自分から手を出したのだから自業自得だ。

「章治兄さま…!」
「兄ちゃん!」
 りりかと青空が駆け寄っていく。
 その後ろからメイラスを引きずるようにしてユウとラファルが続いた。
 挫斬は一番最後に合流する。
 ベッドに寝かされた門木は顔色こそ紙の様に白いが、思ったよりも元気そうだった。
「風雲荘まで撤退せぇ言うたんやけどな」
 少し休めば大丈夫だと頑固に言い張り、結局はゼロが負けた――いや、負けてやったらしい。
「兄様がそう言うなら…信じるの」
 心配のあまり少し口を尖らせながらも、りりかは門木の意思を象徴してくれた。
 ただし少しでも具合が悪そうだったら即入院だからね?

「コイツ、ホントにイヤな奴ね。なんでこんなに周りに敵しか作らない様な事しかしないの?」
 引きずられてきたメイラスを見て、愛梨沙が吐き捨てる。
 黒い翼のせいで歪んで育つしかない環境だったのだろうか。
「それにハージェンは、さっき言い掛けた言葉から察すると絶対に自分を裏切らない相手が欲しいのね」
 自分達の味方になるなら、そんな相手は沢山手に入るだろう。
「今の所メイラスなんて論外な事ばっかり影でしてるし」
 なのにどうして彼に執着するのだろう。

「さて、ハージェン。そろそろちゃんとお話しよか。お子ちゃまの不手際は保護者の責任や」
 やっと思い出して貰えた能天使は、相変わらず戸口の陰でチラチラと中を覗いていた。
「気になるなら入って来ればいいのだ」
 青空が両手を差し出しながら笑顔で声をかける。
 近付いてもハージェンは逃げなかった――ただ、戸惑う様に少し身を引いただけで。
「これ、あげるね!」
 いつも持ち歩いてる猫のぬいぐるみを手渡してみた。
「クリスマスパーティーするんだって! 今度は、君もおいでよ!」
 そして急に表情を引き締める。
「力で抑え込もうとすればより強い力に負けてしまう。弱みに付け込んだって同じことだ」
 だからメイラスを止めて欲しい。
「わかってくれるかわかんないけど、章治兄ちゃん達に何かあったら私達はもう君に手を伸ばすことはできない。でも。私は君とも友達になりたい」
 今、こうして逃げずにいてくれるなら。
「現状をより良く変える為には勇気が必要だと思う」
 ハージェンにはそれがあるのだろう。
「…お願い、今、メイラスを止めて欲しいのだ」
「ていうか自分頭ええやろ。余計な争いは余計な火種を生んでまうで?」
 ゼロが言い募る。

 しかしハージェンはまだ迷っていた。
 本当に信じていいものだろうか。
 裏切られはしないだろうか。
 何かの罠ではないのか。

「見当違いかもだけど、やっとわかった気がする」
 その様子を見て、ヨルは得心がいった。
「メイラスも自分の存在に自信が無いんだ。自分を見て欲しいから相手に憎しみや殺意を持たせようとするし、『コピー』に固執する」
 結局、彼等は似た者同士なのかもしれない。
「ハージェンもメイラスも、根本的には不安で怖くて仕方がないんだ、きっと」
 急いでも、押し付けても、それはなくならない。
 出来る事は全てやり尽くした筈だ。
 まだ何か必要なものがあるとすれば、それは――


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:9人

dear HERO・
青空・アルベール(ja0732)

大学部4年3組 男 インフィルトレイター
高松紘輝の監視者(終身)・
雨野 挫斬(ja0919)

卒業 女 阿修羅
夜明けのその先へ・
七ツ狩 ヨル(jb2630)

大学部1年4組 男 ナイトウォーカー
天蛇の片翼・
カノン・エルナシア(jb2648)

大学部6年5組 女 ディバインナイト
208号室の渡り鳥・
鏑木愛梨沙(jb3903)

大学部7年162組 女 アストラルヴァンガード
ペンギン帽子の・
ラファル A ユーティライネン(jb4620)

卒業 女 鬼道忍軍
撃退士・
シグリッド=リンドベリ (jb5318)

高等部3年1組 男 バハムートテイマー
優しき強さを抱く・
ユウ(jb5639)

大学部5年7組 女 阿修羅
Cherry Blossom・
華桜りりか(jb6883)

卒業 女 陰陽師
縛られない風へ・
ゼロ=シュバイツァー(jb7501)

卒業 男 阿修羅