.


マスター:STANZA
シナリオ形態:シリーズ
難易度:非常に難しい
形態:
参加人数:9人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/05/13


みんなの思い出



オープニング




 久遠ヶ原島外の某所にある収容施設。
 その各所には撃退庁に所属する高レベル撃退士が配置され、施設の維持管理に当たる全てのスタッフもアウル能力者だ。
 建物全体を覆う阻霊符の結界は常時展開され、万が一にも脱走した天魔が人々に危害を加える事のない様に万全の警備体制が敷かれていた。

「つまり刑務所みたいなもの? 私達って犯罪者扱いなわけ?」
 ベッドと勉強机のセットがが四つ並んだ大部屋の真ん中。
 そこに置かれたソファに座りもせずに、先日収容された黒咎の一人、咎銃のアヤは唇を尖らせた。
「そっちの言い分が正しいなら、俺ら被害者だろ?」
 咎槍マサトは腕を組み、脚を踏ん張って睨み付ける。
 残る一人、咎剣サトルはソファに力なく座り、ただ黙って俯いていた。
「…被害者ではあるが、使徒になる事を選んだのはお前達自身だ」
 三人の前に座った門木章治(jz0029)は動じる事なく言い放つ。
「…その選択が自分の意思なら、それに伴う責任やリスクも同時に背負うのは当然だろう」
 いくら子供でも、それくらいの覚悟をもって選んだ筈だ。
 子供だから責任能力がないと言うなら、人格が存在しないという見方も出来る。
 極端な話だが、それなら洗脳等の手段で強制的に「良い子」に造り替えても問題はない筈だ。
 それが嫌なら全てを背負って生きて行くしかない。
「…確かに、監視の目はある。施設の外に出る事も出来ない」
 そう言いながら、門木は危なっかしい手つきでポットからお茶を注ぐ。
「…だが、それ以外は自由だ」
 三つのカップをそれぞれの前に置き、真ん中にチョコとクッキーを山盛りにした大皿を置いた。
「…食べたい物も、欲しい物も、大抵は手に入る。そうしたければ…俺を殺してもいい」
 門木は三人の前に小さなバッジの形をしたヒヒイロカネを置いた。
「…天界の武器は没収させて貰ったが、代わりにこれをやる」
 スクール系の剣と槍、そして銃。
 威力としては素手に毛が生えた程度だが、相手が門木ならそれで充分だ。
「…お前達には、その力がある。恐らく権利もあるだろう…俺達が、お前達の大切な人を守れなかったのは事実だ」
 だから、それで気が済むなら好きなようにすれば良い。
「…俺は暫く、お前達と一緒にこの部屋に泊まる」
「はあっ!?」
 声を上げたのはマサトだ。
「つか何で大部屋なんだよ! 個室くれよ個室! プライバシーの侵害で訴えるぞ!」
「その意見には私も賛成ね。男子と同じ部屋で寝るなんて、冗談じゃないわ…その上おじさんまで一緒だなんて」
 アヤは思春期の女子特有の、何か汚いものでも見る様な目で門木を見る。
 だが門木は動じなかった。
「…お前達の目には、俺以外の全員が親の仇に見えてるんだろう?」
 アウル能力者である職員達も全て。
 幻覚だとわかっていても、親の仇に四六時中見張られているのでは気が休まる間もないだろう。
 かといって一般人に世話を任せる事は安全管理上の問題がある。
「…暫くの間、我慢してもらうしかないな」
 その代わり、命を狙う機会はいくらでもある。
 食事中でも寝ている時でも構わない。
「そんなこと言って変なことするつもりでしょ、このロリコン変態エロおやじ!」
「…その勢いなら素手でも捻り殺せるな」
 アヤの言葉にも余裕の笑みを漏らしつつ、門木は軽く受け流す。
「俺はぜってーヤだかんな! 加齢臭きっついんだよジジイ!」
 マサトによる事実無根の言いがかりには、慌てず騒がず科学的証明を。
 ぴっ。
「なっ!?」
 首筋に何かの機械を当てられ、思わず怯むマサト。
「…臭気計だ」
 それによると、昨晩はフテて風呂にも入らなかったマサトの方が遥かに高い数字を叩き出しているのですが、何か反論は?
「うぐっ」
「あー、確かにあんたの方が臭いわマサト、こっち来ないで」
 しっしっ、アヤが鼻をつまんで手を振る。
「んだとてめぇこのブス!」
「男子ってほんと幼稚よね。何かもっと気の利いた悪口は言えないの、ニキビだらけのジャガイモクレーターくん?」
「っせーな黙れよ、つかお前一個下だろ先輩敬え!」
「尊敬に値する人は、自分から敬えなんて言わないものよ?」

 まあ、喧嘩するほど仲良くなったなら、それで良し。
 ずっと黙ったままのサトルが気がかりではあるが、そこは焦らず気長にほぐして行くしかないだろう。
 彼等が天使から解放され、敵対の意思がない事が確認されるまで外に出る事は出来ないが、外から誰かが訊ねて来る事は自由だ。
 とは言え出来るだけ早く解放し、学園に迎え入れてやりたい。
 その為には、メイラスが気紛れにゲームを再開する時を待っているわけにはいかなかった。


「…連中の拠点に、心当たりはないか」
 数日後、どうやら殺されずに済んだどころかきっちり手懐けたらしい門木は、子供達に尋ねてみた。
 今までの動きから見て大体の範囲は予測出来る。
 だが、その辺りには山や森など人の手が入らない場所が多く、目撃情報などの手がかりは皆無だった。
 感情の吸収を目的としないならば、人のいる場所にゲートを作る必要はない。
 寧ろ人目に付かない場所の方が好都合だ。
 人海戦術でくまなく探す手もあるが、奇襲をかけるなら目立つ動きは出来ない。
「ごめん、見当も付かないわ」
 アヤが首を振り、マサトも同じ反応を返す。
 一緒に来るかと言われて頷いた所までは覚えているが、それ以降は記憶が曖昧だった。
 しかし、ずっと黙っていたサトルが口を開く。
「僕、わかります」
 パソコンの前に歩み寄ったサトルは、モニタに映し出された地図を指差した。
「僕の町がここで、そこから…多分、この辺です」
 地図をなぞって最後に指差したのは、やはり山の中。
 だが、これでかなり絞り込む事が出来た――サトルが嘘を吐いておらず、メイラスがまだその拠点を移動していなければ、だが。
「近くまで行けば、もっとちゃんとわかると思います」
 サトルはまっすぐに、門木の目を見つめる。
「だから探しに行くなら僕も連れて行って下さい」

 どうする、その希望に応えるか。
 それとも撃退士だけで探すか――?


――――――


 その同じ頃。
 高松のスマホに一通のメールが届いた。
「メイラス?」
 高松がそれを開くと、添付されていたアプリが勝手に起動を始め、画面にカウントダウンの数字が表示される。
「何だ、これ…あの野郎、また何か企んで――」
 と、電話の着信音が鳴り響いた。
『プレゼントは無事に届いた様だな』
 メイラスだ。
「何のつもりだ」
『そのアプリは起爆装置だ。黒咎達に仕込んだ爆弾の、な』
「デタラメ言ってんじゃねぇ、身体検査じゃ何も――」
『検査で見付かる様なものを、この私が仕込むと思うか?』
 言われてみれば、確かに。
『お前に選ばせてやろう。自分の手でボタンを押すか、それとも時間切れまで黙って待つか』
「どっちにしろ爆発すんじゃねぇか!」
『お前にとっては重大な違いだ。どちらが私の印象を良くするか――お前は我らの中に入り込んで、内側から潰したいのだろう?』
 それだけ言うと、通話は切れた。

 スマホの画面には「23:57:30」と表示されている。
 確実にに減っていくその数字の下に、何かの入力欄があった。
 そこには、こう書かれている。

 ※プログラム停止にはパスワードを入力して下さい※

「パスワードって何だよ!?」
 そんなもの知る筈がない。
 自分で探せという事なのだろうか。

 これもやはり、ゲームなのか――?



前回のシナリオを見る


リプレイ本文

 その日、シグリッド=リンドベリ(jb5318)と華桜りりか(jb6883)の二人は、朝から撃退署の収容施設に出かけていた。
(章治おにーさんほんと人たらしなのですね…)
 僅か数日の間に黒咎達を手懐けてしまった門木に対し、シグリッドはちょっぴり面白くなさそうな様子。
 しかし、気付いた門木に「どうした」と声をかけられれば、何でもないと首を振る。
「それはともかく」
 咳払いと共に小声で呟き、屈託のない笑顔で頷いた。
「三人が安心して頼れる人が居るのはいい事なのです」
 ここで共同生活を始めてからというもの、門木はまるっきり気合いの抜けまくった格好をしている。
 ボサボサ頭に無精髭、素足にサンダル、野暮ったい眼鏡。
 まるで休日のお父さんの様だが、どうやら彼はわざとそうしているらしい。
「…気合い、入れてると…あいつらも緊張するだろうし、な」
 商店街のオバチャン達もイケメンには気後れするのか、遠くから眺めているだけで話しかけてくれないし――勿論サービスもしてくれない。
 あれは多分、たまに変身するからこそ良いもの、なのだろう。
「確かに、お父さんが休みの日にも家でスーツとか着てたら、一緒にいる方も疲れますよね…」
 それにこの気の抜けた感じが、亡くなったアヤの父親に少し似ているらしい。
 見た目がおっさんなのも悪い事ばかりではない様だ――それで多少なりとも気を許して貰えるならば。
「…人間の基準だと、あれくらいの子供がいてもおかしくないだろうし、な」
 門木は黒咎の三人に目を向ける。
 12歳から14歳、中学生である彼等は大人ぶりたいお年頃ではあるが、やはりまだお菓子の誘惑には弱いらしく、りりかが差し入れたチョコケーキに素直に顔を綻ばせていた。
「この匂いは味方のしるしなの、ですよ?」
 幻覚で姿は違って見えても、匂いまでは変えられない。
 りりかはひとりひとりをぎゅっと抱き締める。
「また来るの、です」
 他の仲間達も彼等を気にかけ、暇を見付けては会いに来ていた。
 ここを出られるようになるまでは、何度でも。
 出来る事は余り多くないけれど、それでも。


 やがて風雲荘に帰った二人は、塀の外から様子を伺う不審者の姿を発見した。
「あれは…」
 高松だ。そう思った途端、シグリッドの高感度ゲージが一気にマイナスに振り切れる。
「何をしてるの、です?」
 だが声はかけず、少し離れた所で様子を見ていた。
 そのうちに、中にいる者達も気付いた様だ。
「何アレ?」
 リビングの窓から外を見た鏑木愛梨沙(jb3903)は、とうとうストーカーになったのだろうかと首を傾げつつ、雨野 挫斬(ja0919)の袖を引いた。
「ね、アレ高松じゃない?」
「まさか、人違いでしょ? あいつが自分から訪ねて来るなんて――あら」
 その、まさかの本人だった。
 挫斬が駆け寄っても逃げようともせず、素直に手を引かれてリビングのソファに座る。
 おかしい。何か変なものでも食べたのだろうか。
「紘輝から来てくれるなんて嬉しい。もしかしてデートの誘い?」
 などと訊かれれば、普段なら「んなわけねぇだろ、ばーか」とでも返しそうなものだが、今日の高松はじっと視線を落としたまま黙っている。
 見つめる先にはスマホの画面があった。
「ちょっと待って。勝負下着に替えてってあら? 何かあった?」
 返事はないが、何かがあった事は確実だ。
「お姉さんに話してみなさい」
 言われて、高松は目の前のテーブルにスマホを置いた。
 その画面には、刻々と数を減らす数字の列が――


「…メイラスはどこまでも俺達を下に見てるんだね」
 話を聞いた七ツ狩 ヨル(jb2630)が呟く。
「けどだからこそ、どこかに付け入る隙はある筈なんだ、きっと」
 今までもそうだったし、寧ろこうしてちょっかいをかけて来る方が尻尾を掴みやすい。
「本気で警戒してたら、自分から動いたりはしない筈だし」
「またゲームなの、ですね」
 りりかは、また無意識に鉄扇を弄っていた。
「本当に趣味がよろしくないゲームなの…」
「彼は態と憎まれるようなことを行っていいるのでしょうか?」
 レイラ(ja0365)が声を震わせる。
「でも、これで納得がいった」
 ヨルがスマホの画面を見つめながら言った。
「今考えれば、前回のゲーム条件はどう転んでも3人がセットで揃う形だった…俺達がルールに従う限り」
 そしてメイラスは今までのゲームの経験から、そのルールが破られる可能性は低いと見たのだろう。
「あっさり返したのもこれが原因かな。いや、爆発云々がブラフで、3人を連れ歩かせる為の方便って可能性も考えてはいるけど…」
「ぼくもハッタリの可能性が高い気がします、けど」
 シグリッドが頷く。
「爆発物を仕掛けられて今の今まで気が付かないなんてちょっと考えにくいかな、と」
「でも、そうと決めつけて見捨てる訳にもいかない」
「それは、勿論です。最悪を想定して動いたほうがいいですよね」
 最悪の場合はどうなるかなんて、あまり考えたくはないけれど。
「センセが一緒なのよね」
 愛梨沙が眉間に皺を寄せた。
 あの三人を味方に付けたらしい事は流石と言うべきだが、この場合はそれも善し悪しか。
「危ないからセンセだけ離れてて、なんて言っても…聞かないわよね、きっと」
「章治おにーさん、頑固ですから」
 こくり、シグリッドが頷く。
 もしかしたら、それも狙っての事だろうか。
「本当だとしてもブラフだとしても趣味悪いったらありゃしないわね」
 愛梨沙の好感度ゲージは、元々マイナスに振り切れていたものが一周回って更にもう一回転しそうな勢いだ。
「いずれにしても彼の思惑通りにさせはしません」
 レイラはきっぱりと言い放つ。
 とは言うものの、まずは何から手を付ければ良いのだろう。
「と言うか、アレに協力してる人間が居るの? もし本当ならあんまり良い情報じゃないわねぇ」
「そのへんは、とりあえず通信会社に訊いてみるわ」
 挫斬は早速、学園経由で調査を依頼しようと自分の携帯を手に取る。
「学園や撃退署からの要請なら、それくらい調べて貰えるでしょ。それにアプリの解析も――」
 だが、高松がそれを止めた。
 調べられると色々と都合が悪い様だ。
「だったら何でうちの周りをウロウロしてたのよ?」
 挫斬は高松の手を振り払う。
「ん〜、あまり言いたくないんだけどあえて言うわ。私達、ううん、私とメイラスのどちらをとるの?」
「何だよそれ、ヤキモチか」
「ふざけないで、真面目に訊いてるの」
 真っ直ぐに見つめ返されてぷいと横を向いた高松は、やがて小さな声で呟いた。
「俺は使徒になって、その力で奴等を潰す」
 だが撃退士を使徒にする事が出来るのは、殆ど最上位に近い高位の者のみ。
 彼等が地上に降りて来る事はない――今のところは。
「だからメイラスに取り入って、あいつをを足掛かりにって事?」
 挫斬の問いに、高松は渋々ながら頷いた。
「奴も天界をぶっ潰したいと思ってる。それで利害が一致したってわけだ」
「メイラスが?」
 周囲のあちこちから疑問の声が上がる。
「白い連中が幅を利かせてんのが気に入らねぇんだとさ」
「で、紘輝君はそれを信じてるわけ? 何かの約束があったとして、メイラスがそれを守るって」
「利害が一致してる限り、信用は出来る…信頼はしねぇけどな」
 使徒の力を持つ撃退士を取り込む事は、メイラスにとっても損な話ではない筈だ。
「お前らが無効化に失敗したら、俺はこのボタンを押す」
 高松は、そこに集まった者達を見た。
「成功したら、授業中に弄ってたら没収されて勝手に解除されたとでも言っておくさ」
 その視線を受けて、ヨルが頷く。
「わかった、任せて」
 今はメイラスとの線を切らずに保つ事の是非を論じている時間はなかった。
「どっちにしても、やる事に変わりはねーのだ」
 青空・アルベール(ja0732)が頷く。
「起動前にそのアプリを止める、それだけなのな!」
 後のごちゃごちゃは、後でいい。
「解析も頼んで良いわね?」
 有無を言わせぬ挫斬の口調に、高松は黙って頷くしかなかった。
 ただ、スマホを直接弄るのは危険だ。
「鯖にコピーが残ってる筈だから、解析に回すならそっち使ってくれ」
「んと、あの…だったら、これは…あたしが預かっても良いの、です?」
 りりかが申し出る。
「えと、何かの拍子に、時間が進んだりしないか…確かめておきたいの、です」
「ふぅん…まぁ良いや」
 高松は無造作に投げて寄越した。
「余計なとこ見んじゃねぇぞ」
「あ、もしかして私の写真が入ってるとか?」
「ねぇよバカ!」
 と、痴話喧嘩は放っといて。
「高松さんにも、パスワードの心当たりはないのですね」
 ユウ(jb5639)が呟く。
「手がかりが無い以上、現状はメイラスの拠点を探し出し内部を調査するしか方法がないのですが…」
 彼はそれすらもゲームの一つと捉えているのだろうか。
 それを聞いて、カノン(jb2648)が眉を寄せた。
「メイラスが拠点を知られるような迂闊な真似をするかとは思いますが…」
 他に手段がないなら、それも止むなしか。
「このまま主導権を握られ続けるだけでは仕方がありません。賭けましょう」
「章治おにーさんも、そろそろ拠点を探したいって言ってたのです」
 シグリッドが言う様に、タイミングとしては丁度良い。
 寧ろタイミングが良すぎて、却って罠を疑いたくなる程だ。
「しかも今まで殆ど喋っていなかったらしいサトルがアジト探しで急に協力し始めるとか、ちょっと胡散臭く感じちゃうなぁ」
 愛梨沙が口を尖らせる。
「一人だけ覚えてるのも変だし、少し警戒しとくべきかもしれないわね」
 勿論、表には出さない様に。


 皆が門木や黒咎達と合流する為に収容施設へと向かう中、レイラはひとり残って玄関脇に監視カメラを設置していた。
 以前は門木に断られたが、とりあえず確保だけはしておいた物を引っ張り出し、死角になる様な場所に取りつけてみる。
「何もないとは思いますけれど、念の為に」
 スイッチを入れ、留守番のリュールに声をかけてから、今度は図書館に向かった。
 サトルが言っていたという周辺の地図を借りて、詳しい場所を探す。
 ネット上に公開されている地図を使った方が楽そうな気もするが、向こうに電脳戦に強い敵がいるなら、下手に検索などしたら足が付いてしまうかもしれない。
(少し不便でも、結局はアナログが一番安全なのかもしれませんね)
 必要な分だけコピーを取り終えると、レイラは急いで仲間達の後を追った。

 そして、収容施設。
 まずは門木だけに事情を説明し、了承を得た上で黒咎達にも話を聞かせる。
「んと、あたしはサトルさんとアヤさんとマサトさんとお友達になりたいの…」
 りりかは三人をぎゅっと抱き締め、チョコの匂いで安心させてから、静かに話し始めた。
「だからお友達にかくし事はしたくないの、です。それに…解決する自信があるから言うの」
 これまで一度も偽りの情報を与えた事はない。
 だから今度も、本当の事を包み隠さず。
「ばっ、爆弾…っ!?」
 大声を出したのは、やはりマサトだった。
 アヤは比較的落ち着いた様子で「ふん」と鼻を鳴らし、サトルは相変わらず下を向いたまま。
「どっ、どどどどうすんだよ、俺ら死ぬのか!? 死んじゃうのか!?」
「落ち着きなさいよバカ、あんた一番年上でしょ!?」
 狼狽えるマサトに肘鉄を食らわせ、アヤは撃退士達に向き直った。
「で、それがホントだとして…私達はどうすれば良いの? まさか死刑宣告してサヨナラってわけじゃないでしょ?」
「アヤちゃんは話が早くて助かるわ」
 挫斬は苦笑いを浮かべ、持っていたデジカメを手渡す。
「まず最初に、これ越しに人を見れば本当の姿が見えるわ。どう?」
「え? あっ、ホントだ違って見える!」
 液晶画面に映るのは、自分の目に見えるものとは全く違っていた。
「こんにちは、初めまして。ユウと言います、よろしくお願いしますね」
 少し離れた所で頭を下げたのは黒髪のお姉さん。
 しかしそれでも、アヤは何かのトリックではないかと疑い、門木にもカメラを向けてみる。
「あ、おじさんはおじさんのままね」
「良かった、ちゃんと元の姿に見えるのですね。だったら、ぼくのもどうぞ」
 おじさんじゃなくて、おにーさんだと訂正したい気持ちを堪えつつ、シグリッドが自分のデジカメをマサトに手渡した。
「差し上げますので三人で使って下さい」
「あ、可愛い…」
 マサトは誰を見たのだろうか。
 念の為に言っておきますけど、シグ君は男の子ですからね?
「え、でも」
 その格好、ひらひらドレスにメイドさんの様な髪飾りって…ああ、男の娘?
「違いますから! 能力値優先したらこうなっただけで…!」
 門木は大人の対応(見ないふり)をしてくれましたが、黒咎達はお子様でした、まる。
 それはともかく。
「安心なさい。学園も調べてるし今から拠点にパスを探しに行くわ」
 挫斬が言った。
「一応メイラスに下れば助かるかもだけどお勧めはしないわ。今回みたいに使い捨ての道具にされるのがオチよ」
 と、これは少し言葉が強すぎただろうか。
 だが現実を教える事も大事だし、鞭の後には仲間が飴を与えてくれる――いや、この場合はチョコかもしれない。
「章治兄さまも皆さんもいるから大丈夫なの、です」
「まだほんとって決まったわけじゃねーし、私たちもついてくし、絶対に爆破なんてさせねーから」
 りりかは三人をもう一度抱き締め、青空はカメラのモニタ越しに微笑む。
 その自然な笑顔は皆に伝染する不思議な力がある様だ。
「私達まだ分かり合えるほどお話ししてねーかもだけど、今は信じてほしいのだ。私も信じてる」
「大丈夫、ここで駄々を捏ねるほど子供じゃないわ」
「うん、良かったのだ。ああもう、早く術を解いてお話ししたいな!」
 その為にはメイラスを倒すか、どうにかして術を解かせるしかない。
(これが、その為の大きな一歩になると良いな)
 合流したレイラが持って来た地図に、サトルが知っている情報を書き込んでいく。
「でも、どうしてサトルだけが憶えてるんだろ?」
「わかりません」
 青空の問いに、サトルは俯いたまま首を振った。
「ただ、思い出そうとすると勝手に出て来るって言うか」
「そうかー」
 そうなると、これも何かの術で記憶を擦り込まれている可能性があるか。
「サトル君ごと私達を騙す罠、という事でしょうか」
 カノンがサトルには聞こえない様に小声で囁く。
 だとしても、その情報が鍵になる事は間違いないだろう。
 敢えて罠に飛び込む事で開ける道もある――ただし、片足はこちら側に残しつつ。
「わかった、ありがとうなー。近くに行ったら、また聞かせて貰うのだ」
 青空はなかなか顔を上げようとしないサトルの頭をぽんぽんと軽く叩く。
「他に何か私たちに言えてないこと、ない?」
 言いたくないなら無理に言わなくても良いけれど、ひとりで抱え込むのはつらいから…もし何かあるなら、いつでも声をかけてくれれば良い。


 手短に準備を整えた一行は、新緑が芽生え始めたばかりの山に分け入った。
「先生の護衛、宜しくお願いします」
 黒咎達に向かって、シグリッドがぺこりと頭を下げる。
 正直まともな戦力になるとは思えないが、期待されれば悪い気はしないだろう。
(くっついてくれてたほうが守りやすいですし、ね。四人とも怪我無く戻れるよう頑張るのです…!)
 だが、護衛とは言わない。
「章治兄さまとサトルさんたちと一緒に行動するの、です」
 りりかは「ただ一緒にいたいから」と、彼等のすぐ傍に付いて歩いていた。
 この辺りはまだ人の出入りもあるらしく、枯れた下草が踏まれて道が出来ている。
 今ならまだ、少しくらいお喋りをしても大丈夫だろう。
「あの、何か心当たりはないでしょうか…何か細工をされたとか、術をかけらた、とか」
 シグリッドが訊ねてみるが、黒咎の誰にも覚えはない様だ。
「そうですか…じゃあきっと、メイラスがデタラメ言ったんですね」
 だから大丈夫だと、シグリッドは笑って見せた。
「何か見覚えのあるところはありますか? …です。サトルさんが頼りなの…」
 りりかはサトルの指示通り、ゆっくりと慎重に歩を進める。
 音を出さないように気をつけ、常に周りを気にし、草木に隠れた罠がないかと目を懲らしながら――時折高松のスマホを確認しつつ。
 三人が少し離れた時も、高松が無造作に投げて寄越した時も、数字の減り方に変化は見られなかった。
 恐らくそれらの要因による変動はないのだろうが、念の為だ。
(じゃれあってるアヤとマサトは大丈夫そうだけど、やっぱりサトルは心配よね)
 門木のすぐ後ろを歩きながら、愛梨沙は黒咎達の様子に目を光らせていた。
 どうか杞憂でありますようにと、そう祈りながら。

 山の木々は次第に間隔を狭め、道らしい道も見付ける事が難しくなってくる。
 その頃には遠くにサーバントらしき影を見付ける事も多くなっていた。
「私が引き付けます、このまま進んで下さい」
 ユウは透過で地中に潜ると、土の中を翼で飛んで、遠く離れた場所へ出る。
 そこでガサガサと派手な音を立てると、敵はそちらに注意を向けた。
 そうして充分に引き付け、引き離したところで、ユウは再び地中を通って皆と合流する。
「へぇー、すっごい便利!」
 その様子を、アヤは少し羨ましそうに目を丸くして見ていた。
 やがて一行は足を止める。
 カノンの提案により、ここから先は探索用の小班に分かれて手掛かりを探るのだ。
「ここを本陣としますので、サトル君達はここを守っていて下さい」
「え、なんで…僕、すぐ近くまで案内出来ます、ちゃんと覚えてます!」
 サトルが抗議の声を上げるが、カノンは聞き入れなかった。
「それは知っています。でも、ここから先は危険ですから」
 本当は、サトルの案内がミスリードである可能性を考慮しての事だが、それを言う必要はないだろう。
「山登りでも、ベースキャンプは大事なのだ」
 青空が言った。
「私達が迷子にならずに戻って来れるように、サトル達にはここをしっかり守って欲しいのだよ」
 その右腕に赤い光の紋様が浮かぶ。
「これが目印に帰って来るから、な?」
 青空がサトルの右手に銃口を当てると、そこにも同じ紋章が浮かび上がった。

「じゃ、行って来る」
 青空とペアを組んだヨルはハイドアンドシークで潜行し、斥候として先に立って進む。
 その後ろから木々の間に魔糸を張り巡らせた青空が続いた。
 時折立ち止まって地面に耳をつけ、周囲の音を探る。
 透過を阻害する要因がなければ天魔が音を立てる筈もないだろうが、そうした先入観に囚われていては見落とす事もあるかもしれない。
 サトルが言うには、肝心の拠点内部やすぐ近くの様子は覚えていないらしいが。
『なんか、薄暗い感じの所…でした』
 片耳にかけたヘッドセットから悟の声が聞こえる。
 ということは地下の可能性もある、か――

「探索向きとは言い難くはありますが…」
 今日のカノンは珍しく緑色を主体にした服装だった。
 迷彩柄とまではいかないが、森の中に紛れ込むには具合が良い。
 装備品は全てヒヒイロカネに収納している為、見た目にはちょっと気軽に山菜採りにでも来たかの様な雰囲気だ。
 ペアを組んだ挫斬はまず、望遠鏡で進行方向を確認、敵の姿がない事を確かめると前進の合図を送る。
 探し物は「古い」痕跡。
 過去、人が通行した道の跡や朽ちた標識等を目印に。
『戦場でならともかく、阻霊符の影響を受けない秘匿拠点を探すのに、一般的な痕跡は当てにならないでしょうが…』
 音を立てない様に、カノンが挫斬に向けてメールを打つ。
『ゼロから拠点を作ったとも思えませんし、廃棄された建造物か、天然の洞窟なり利用できそうなところでしょう』
 それだけ伝えると、カノンは緊急連絡用の文面を表示させたまま携帯を仕舞った。
 危険時には送信ボタンを押すだけで本陣に連絡が行く筈だ。
『じゃ、サーバントに襲われたみたいな不自然な動物の死骸とかがあったら、わざと置かれたものだって考えた方が良いかしらね』
 返事を返し、挫斬は周辺の写真を撮って本陣に送る。
『どう、見覚えない?』
 どうやらその辺りは記憶にない様だが――

 三つめの班はレイラとユウのペア。
 先行するレイラは双眼鏡で遠方を警戒しつつ、隠密で木陰などの障害物に隠れながら慎重に探索していく。
(メイラスは幻術の使い手、拠点があるとするならば当然幻覚で隠しているはず…)
 それにゲートの中の空間はある程度自由が効く様だが、入り口を設置するにはある程度の広さが必要だ。
 だとすると、木々の密集している辺りにあるとは考えにくい。
 かといって開けた場所では目立ちすぎるだろうか。
(黒咎の子達の足跡が残っていれば良いのですが…)
 足元に目を懲らしながら、レイラは手元の地図と周囲の状況を見比べる。
 何か違う点があれば、それは幻覚かもしれない。
 辺りに棲息する鼠やリスにメイラスの居場所を尋ねてみるが、流石にゲート内部に潜っていては見付からない様だ。
 一方のユウはその背後に付き従いながら、集中の及ばない方向に注意を向けていた。
 そうする事で死角を潰しつつ、自身は物音を立てないように触れるもの全てを透過していく。
 ただし、この近くに敵の本拠地があるなら、そこには透過を妨害するトラップなども設置してあるかもしれない。
(あまり透過に頼りすぎない方が良いですね)
 今のところ、罠も敵の姿も見当たらなかった。
 だからといって、ここに何もないという事にはならない――寧ろ罠や敵の存在が、そこに守るべき何かがある事を教えてしまう場合もある。
 そう考えると、敵の見張りがいるとすれば土の中など通常の方法では見えない場所になるだろう。
 生命探知があれば、隠れた存在も確認出来るのだが――

 暫しの後。
『あそこ、怪しくない?』
 カノンにメールを打った挫斬は、木立の向こうを指差した。
 木々に邪魔されてよく見えないが、向こうは崖になっているらしい。
 その一部に亀裂が走っている様に見えた。
『近寄って確かめてみましょうか』
 近くに敵の姿は見当たらない。
 もし見張りが隠れていたとしても、透過で地中に潜れば中を確認出来る程度には近付けそうだ。
 とは言え、もし何かあった時には一人では心許ない。
『わかった、応援呼ぶわね』
 挫斬は本陣を通してレイラとユウに連絡を入れた。
 透過で偵察に出る者が二人と、残って警戒に当たる者が二人。
 それなら不測の事態が起きても、ある程度の対処が可能だろう。

 同じ頃、青空とヨルの方でも発見があった。
「ずいぶん古い小屋だね」
 屋根は殆ど崩れ落ち、柱と床しか残っていない。
 ずっと昔に打ち棄てられた、猟師の番小屋の様なものだろうか。
 ヨルは周囲の気配を探って敵の姿がない事を確認すると、青空にダークフィリアをかける。
 自身もハイドアンドシークをかけ直すと、ゆっくりと小屋に近付いて行った。
 まだ屋根のある薄暗がり、その更に奥から青白い光が漏れている。
 ゲートが放つ光だ。
 ヨルは本陣に連絡を入れると、その光に近付こうとした。
 だが、青空がその袖を引く。
「深追いはしない方が良いと思うのだ」
「でもパスワード見付けないと」
 ここが拠点なら、内部の何処かに隠されている筈だ。
 出来れば応援を待ちたいところだが、この場合は敵に見付かった時点で失敗になる。
「二人で行った方が良いと思う。大勢だと却って目立つし、待ってる間に気付かれるかもしれない」
 そう言って一歩踏み出した、その時。

 建物の背後から聞き覚えのある声がした。
「探し物か」
 少し高めの柔らかな声と共に、淡い緑色の髪をした天使が姿を現す。
『テリオス…』
 どうやら敵意は感じられない。
 今のところ、他に敵の気配もない様だ。
 じりじりと後退しつつ、ヨルは意思疎通で訊ねてみた。
『黒咎に爆弾が仕掛けられてるって話、聞いてる?』
『ああ』
 意思疎通で返事が返る。
『それ、本当?』
『さあな』
『じゃあ質問を変えるね。パスワードは何処?』
 その問いに、テリオスは二つ折りにされた紙切れを掲げて見せた。
「それが…?」
「欲しければ力尽くで奪うことだな」
 答えと同時に、二人が立っている地面が爆発した――いや、爆発する様に何かが溢れ出た。
 それは大量の模造天使型サーバント。
 戦闘は極力避けたいと考えていたが、これではそれも無理な話。
 第一、テリオスの手からパスワードを奪わなくては、ここまで来た意味がなかった。

『カドキ、他の班に連絡して。応援頼むって』
 本陣で待機していた門木の元へ、ヨルから連絡が入る。
「…わかった、すぐに向かわせる」
 とは言ったものの、他の四人は今もうひとつの「拠点らしき場所」を確認している最中だった。
 しかも、かなり離れた場所で。
「あたし達の方が近いの、です?」
「でも、ここを離れるわけにはいかないのですよ…?」
 助けに行こうとしたりりかをシグリッドが止める。
 ここは一人くらい欠けても何とかなりそうだが、向こうは恐らく一人増えたくらいではどうにもならないだろう。
「だったら全員で行こうぜ、俺らだって戦えるし!」
「マサト、あんた自分の実力わかってる?」
 お調子者の頭を冷静なアヤが軽く叩いた。
「私達が行っても足手纏いになるだけよ」
 そう言って三人の撃退士に向き直る。
「でも、ここでおじさんを守るくらいは出来るわ。だから行って」
「確かに、この辺りには敵の気配もないけど…」
 愛梨沙が首を振った。
 生命探知に反応はないし、阻霊符を使っても何も出て来ない。
 しかし、彼等三人が離れた途端にメイラスが襲って来ないとも限らないだろう。
「あいつなら、それくらいの事はやりそうじゃない?」
 それにサトルの様子が気がかりでもある。
 しかし、かといって助けを求める仲間を放っておくわけにもいかず――

 その頃、もうひとつの現場では確認作業が進んでいた。
 透過で地中に潜ったカノンとユウが、崖に出来た亀裂の奥へと近付いて行く。
 亀裂の幅はかなり広く、人が並んで通れるほどはあるだろうか。
 高さも背を屈めずに通れる程度はありそうだ。
 その奥、光も届かない闇の中に、青白い光の輪があった。
『確認しました、戻ります』
『急いで、男子組が何か大変な事になってるみたいだから!』
 カノンの連絡を受けた挫斬が返事を返す。
 二人が戻ると、レイラを含めた四人でもうひとつのゲートへと急いだ。
「向こうはバレちゃってるんだし、こっちも隠れる必要はないわよね!」
 隠密モードをかなぐり捨てて走る。

 だが、現場は静かだった。
「あら何? ただのお見合い?」
 駆けつけた挫斬がそう言ったのも無理はない。
 青空とヨルを囲んで林立する模造天使達は微動だにせず、対峙するテリオスもただ静かに佇んでいるだけだった。
「これは、どうしたのでしょう…?」
 ユウが首を傾げる。
 それに答える様に、テリオスが口を開いた。
「私はまだ傷が癒えず、満足に戦えない――という事にしておいてくれ」
 手にしたカードを開いて見せる。
 そこには「#000000」と書かれていた。
 ヨルは思わず、カードとテリオスの顔を何度も見比べる。
「良いの? こんな事して、大丈夫?」
「メイラス様は今、ここにはいない。もっとも、だからといってただで帰すわけにもいかないが」
 その声と共に、模造天使達が動き出した。
 しかし、撃退士達にとってはもう何度も戦って来た相手。
 戦意を削いで撤退させるまでに、そう長い時間はかからなかった。

「テリオスのこと、私ちょっと心配な」
 撤退の途中、振り向いた青空が呟いた。
「あの人、自分のこと相談できたり、認めてくれる人、ちゃんといるのかなー…」
 それに、今回の事がもしメイラスに知れたら。
 知られずに済めば、これからもこっそり協力してくれそうな気がするけれど――


 無事にパスワードを回収して戻った彼等は、高松と共に訓練施設の一角に集まっていた。
 この場所なら万が一の事があっても外への影響はない。
 もっとも、その万が一の事態さえ起こさせない為に、こうして頑張っているのだが。
「もしあいつが俺達に黒咎を殺させようとしてるなら…逆にこれが起爆パスの可能性もある」
 ヨルが手元のメモを見ながら言った。
 テリオスにそんな意図はないとしても、仕組んだのはメイラスだ。
「あれ、なんだっけ、相手のダメージを肩代わりするスキル」
「庇護の翼、ですか」
 カノンの答えに、ヨルは「そう、それ」と頷く。
「あれを念の為に使えないかな。出来れば学園や撃退省の人達にも協力して貰って」
 だがディバインナイトを掻き集めて、いざ入力――というその直前。
「待って、それ駄目!」
 通信会社からの電話を受けた挫斬が止めた。
「何、やっぱり起爆パスだったの?」
「そうじゃないけど…それ、入力したらメイラスの所に連絡が行くみたい」
 アプリ全体の解析はまだ終わらないが、その部分だけは判明した様だ。
 つまり、入力した途端にテリオスの裏切りがバレる事になる。
「ついでに、それが本当に解除パスかどうか、わかるのは明日だって」
 それでは間に合わない。
「じゃ、約束通り――押すぜ?」
 大丈夫だ、庇護の翼で肩代わりすれば、多分…多分、きっと。

 高松が起爆ボタンに指をかけ――触れる。




 一秒。









 三秒。














 五秒。














 何も起きなかった。

「やっぱり、ブラフだったのね…」
 愛梨沙が魂の抜ける様な溜息を吐く。
「でも、どうしてこんな事を…です」
 りりかが悲しそうに首を振った。
「ただの嫌がらせにしては、たちが悪すぎるのです…!」
 シグリッドが拳を震わせる。
 被害がなかった事だけは、良かったと言えない事もないけれど。


 その真の目的を、撃退士達は知る事になる。
 疲れきった心身を休めようと、家に帰ったその時に。


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: 高松紘輝の監視者(終身)・雨野 挫斬(ja0919)
重体: −
面白かった!:6人

202号室のお嬢様・
レイラ(ja0365)

大学部5年135組 女 阿修羅
dear HERO・
青空・アルベール(ja0732)

大学部4年3組 男 インフィルトレイター
高松紘輝の監視者(終身)・
雨野 挫斬(ja0919)

卒業 女 阿修羅
夜明けのその先へ・
七ツ狩 ヨル(jb2630)

大学部1年4組 男 ナイトウォーカー
天蛇の片翼・
カノン・エルナシア(jb2648)

大学部6年5組 女 ディバインナイト
208号室の渡り鳥・
鏑木愛梨沙(jb3903)

大学部7年162組 女 アストラルヴァンガード
撃退士・
シグリッド=リンドベリ (jb5318)

高等部3年1組 男 バハムートテイマー
優しき強さを抱く・
ユウ(jb5639)

大学部5年7組 女 阿修羅
Cherry Blossom・
華桜りりか(jb6883)

卒業 女 陰陽師