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マスター:STANZA
シナリオ形態:イベント
難易度:難しい
形態:
参加人数:25人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2014/10/09


みんなの思い出



オープニング



 ダルドフのゲートはコアを破壊され、徐々にその機能を失い始める。
 その完全な消滅を待つまでもなく、結界は失われ、周囲の環境には変化が現れている――筈だった。

 しかし。

「んー? なんかあんまり変わった気がしないんだけど?」
 アパートの一室で、工場長の姉崎は首を傾げる。
 支配地域は開放され、ゲートによる精神吸収は途絶えた筈なのに、何か今ひとつ開放感が感じられなかった。
「って事は、ホントにあんまり吸われてなかったのね」
 まあ、それは良いとして。
「で、アンタはいつまでそこに隠れてるの?」
 姉崎が押し入れの襖を軽く蹴飛ばす。
「ゲートもなくなって、あたし達も無事に解放されたんだし、もう堂々と出て来ても良いんじゃない?」
「そうさのぅ……」
 のそり、押し入れから大きな熊――いや、大天使ダルドフが姿を現した。

 確かにこの地域は開放された。
 だが、それだけで安心するのはまだ早いとダルドフは感じていた。
「少々、簡単に行きすぎた気がするのぅ」
 ここはあっさりと手放すには惜しい土地だ。
「もう少し粘ると思うておったのだが」
 撃退士達が力を付けた事もあるだろう。
 だが、それでも……本気でゲートを守るつもりならば、もっと多くの戦力を投入して来た筈だ。
 トビトはこの地を切り捨てたのか。
 それとも――

「でも、確実に変わった事がひとつあるわね」
 姉崎が新聞の束を投げて寄越した。
 少々日付の古い物もあったが、一番上は今日の朝刊だった。
「これでやっと、新聞になったわ」
 今までは一週間分の古新聞が数日遅れで届く様な有様で、そこに書かれた殆どの情報は価値がなくなっていたものだが。
 それを何気なく捲っていたダルドフは、片隅に載っている小さな記事に目を留めた。

『大天使、久遠ヶ原学園へ』

 その見出しの下に、詳しい情報はない。
 写真もない。
 ただ堕天の事実だけが、名前と共に記載されていた。
「は……、はは……っ、ぐわっはっはっは……っ!!」
「ちょ、何!?」
 いきなり笑い出したダルドフに、姉崎が驚いて声を上げる。
「何よ、どうしたの!? ちょっと!」
 だが、狼狽える姉崎を尻目に、ダルドフは胡座を掻いた膝をバシバシと叩きながら笑い続けた――目尻に涙を溜めながら。
 やがて呼吸困難になったのか、暫く咳込んだダルドフは、深呼吸の後に顔を上げる。
「いや、うむ」
 こんな表情を、憑き物が落ちた様な顔と言うのだろうか。
 もう一度バシンと膝を叩くと、ダルドフはのっそりと立ち上がった。
「世話になったのぅ」
「え、何? 出て行くの?」
「うむ。某まだ、やらねばならぬ事が残っておるでのぅ」
 後顧の憂いは消えた。
 後はもう、前を見て進むだけだ。
 ただひとつ、自らの使徒である真宮寺涼子の動向が気がかりではあるが――
 情報が入って来ない事には動き様がない。
 ならば、今の時点で出来る事をやるしかないだろう。

 恐らく、天界はまだ何かを仕掛けて来るに違いない。
 それを阻止し、この地に住む人々を守る事。
「これが最後の仕事になりそうだのぅ」
 顎髭を捻りながら、大天使はアパートの窓から飛び立つ。
 その背には、根元だけが血の様に紅い、白く大きな翼があった。


――――


 その数日後。
 撃退署の黒田隊はダルドフの旧支配地域を巡回し、警戒に当たっていた。
 ゲートが破壊されたとは言え、完全に消滅するまでは野良のサーバントが現れる事もある。
 油断は出来ないし、絶対に安全だという太鼓判が押されるまでは、この地域の担当として人々を守る責任があった。
 その一環として、住民からの聞き取り調査なども行っていたのだが――

 その報告に、気になる事が書かれていた。
 山の麓に小さな集落がある。そこの住人だけが、ゲートがなくなってもまだ気分が優れないと言うのだ。
 それどころか、前よりも悪くなった気がすると訴える者もいるという。
「解放前は何も感じていなかったのか」
「或いは以前からずっとあったものが、そっちの精神吸収で誤魔化されていたか、ですね」
 黒田の問いに、部下が答える。
 この近くで何かが起きているという事だろうか。
「調べてみる必要があるな」

 翌日、黒田は数人の部下を率いて現場付近の山に向かった。
 集落の裏手から藪の中に分け入り、低い山をひとつ越えると、その向こうに――
「何だ、あれは?」
 林立する木々が、うっすらと光を放っている様に見えた。
 いや、違う。
 その向こうで何かが光っているのだ。
 だが、光を放つその何かの正体は、木々に遮られて確認出来ない。
 近付いて確かめようとした、その時。

『ひゃっ、ひゃひゃぁっ!』

 奇声と共に、上空から何かが降って来た。
「K!?」
 先日の戦いで失った左腕は失われたままだ。
 しかしKは気にするそぶりさえ見せずに、右腕だけで戦いを挑んで来た。
 三本の刀で斬り付けると見せかけ、その指先からマシンガンの様な光弾が至近距離で放たれる。
 先頭にいた黒田はシールドを緊急活性、最初の一撃は辛うじて凌いだ。
 どうやら片腕ではその攻撃の威力も半減――とまでは行かないものの、かなり落ちている事は確かな様だ。
 しかし、魔眼や鳥籠の威力は変わりないだろう。
「援軍を呼べ!」
 黒田は部下達に命じる。
 この向こうで何かが行われている事は確かだ。
 大天使であるKが出て来るという事は、敵にとってはかなり重要な、何かが。
 だとすれば、今ここで潰しておく必要がある。
「だめです隊長! 電波が……!」
 この辺りは天使勢の支配下にあった為にインフラの整備が遅れ、都市部以外では電波の届かない地域がまだ多く残されていた。
「だったら走れ!」
 電波の入る場所を探すか、或いは何処かの民家で電話を借りるか――
「でも隊長は!?」
「俺はこいつを食い止める! なんて、格好良く出来りゃ良いんだがな……まあ、時間稼ぎ程度なら何とかなるだろう」
 行け、と黒田は再度、部下達に命じる。

 と、その時――

 どおん!!

 天から再び、何かが降って来た。

「ぬしも無茶をしおるわぃ」
 大きな背中が笑う。
「ダルドフ!?」
 何故ここに。
 いや、それよりも……その立ち位置は明らかに「こちら側」だ。
「貴様、どういうつもりだ!?」
「黒田と言うたか、若いの」
 半身で振り返り、ダルドフはニヤリと笑う。
「今はそのような事を気にしておる場合ではあるまい。ほれ、ぬしも早よぅ行かんか」
「逃げろと言うのか?」
「ぬしひとりで、この場は持つまい?」
「だとしてもな……!」
 黒田は盾を構え直すと、ダルドフの隣に立った。
「俺も散々、無能だの何だの言われちゃいるが、敵前逃亡するほど腰抜けじゃないんだよ」
「ほう?」
 ダルドフは面白そうに顎髭を捻る。
「ならば、頭を下げぃ!」
「なっ!?」
 言い放った瞬間、ダルドフは偃月刀を頭上高く掲げた。
 黒田が慌てて身を低くした直後、その切っ先が風を切り、目の前の木々がマッチ棒の様に薙ぎ倒される。
 その向こうに、それが見えた。


 そこは今まさに、天界側が新たなゲートを開こうとしている、その現場だったのだ。
 しかもそれは、恐らく最終段階に来ている。
 この場で止めなければ、この地は再び結界に呑み込まれるだろう。
 しかも今度は、容赦のない支配が行われるに違いない。

 二人の周囲をKとサーバントが取り囲む。
「勝の字、背中は任せたぞ」
「余りアテにはするなよ」
 とは言え、援軍が到着するまでは何とか――!



リプレイ本文


 知らせを受けて、撃退士達は現場へ急ぐ。
「全員とは無理でも、話し合えば分かり合える天使様もいるんですね」
 竜見彩華(jb4626)が漏らした一言に、ミハイル・エッカート(jb0544)が頷く。
「ダルドフか。会った事は無いが、天界では珍しく男気があるらしいな」
「ええと、敵対してもそれなりに人間にも撃退士にも友好的な大天使、だっけ?」
 鏑木愛梨沙(jb3903)が首を傾げた。
「あたしはそれくらいしか知らないけど…」
 それが本当なら、見殺しにする訳にはいかない。
「助けてやるか」
「はいっ!」
 ミハイルの言葉に、彩華は元気に答えた。
 そうでなくとも、敵の暴挙を黙って見ているなどという選択肢は有り得ない。
 彼等は最初のゲートを破壊されても尚この地に拘り――いや、寧ろそれを囮に撃退士達の目を逸らしてまで、新たなゲートを開こうとしている。
 この土地は、それほど魅力的なのだろうか。
「つまり逆に言えば、ここを潰せば相手もすごく悔しい、と」
 九鬼 龍磨(jb8028)が頷く。
 だったら、とことん悔しがらせてやろうではないか。



 敵の数は多い。
 多いとしか言い様のない数だが――
「どんだけ集まろうが、蹴散らすだけだぜ!」
 学園一のメカ撃退士かつ対天魔殲滅機動兵器を自負するラファル A ユーティライネン(jb4620)は、行く手を塞ぐ木々さえも薙ぎ倒す勢いで突進する。
「ひゃあはー、狩の時間だぜー。死にたい奴から前に出なー、はっはー!」
 先頭を切って嬉々として突っ込んだラファルの両肘から先に、大型の機械式砲塔が現れる。
「十連魔装誘導弾式フィンガーキャノン、斉射!」
 轟音と共に閃光が舞い、黒い塊の一角に穴が開いた。
 そこからちらりと見えた大きな影。
「いたわ、あそこ!」
 愛梨沙が指さすが、この距離では回復スキルも届かない。
「まずは道を開かないとね!」
「阻霊符を発動します」
 その声は鈴代 征治(ja1305)か。
 だが、生命探知で周囲を探っていた知楽 琉命(jb5410)がそれを止めた。
「待って下さい。見えるもの以外にも、まだ多くの反応があります」
 恐らく地中に身を隠しているのだろう。
 このまま敵陣深く斬り込んで行った所で、一斉に姿を現して取り囲むつもりか。
「どうしますか?」
「でも、どちらにしてもその全てを相手にする必要があるんですよね?」
 征治が言った。
 相手がそれを罠のつもりで仕掛けているなら、わざわざ乗ってやる必要もない。
「任意のタイミングで潜伏を解除出来るなら、僅かですがこちらに有利に働くでしょう」
 敵の数は一気に増えるが、範囲攻撃なら相手が密集しているほど効果が高いものだ。
「乱戦になる前なら無差別攻撃もし放題だしな!」
 ラファルがニヤリと笑う。
「では、いきますよ」
 阻霊符を持つ者が全員で発動させた瞬間、いくつもの黒い影が地中から弾き出された。
 彩華のスレイプニルが咆哮を上げる。
 その力強い叫びをを聞いた仲間達の心と体に、不思議な力が湧き起こった。
「今だ、集中攻撃! 多弾頭式シャドウブレイドミサイル発射!!」
 ラファルの肩口にポップアップしたミサイルランチャーから無数のミサイルが飛び出し、詰め込まれた魔法型の影の刃が敵味方の区別もなしに踊り狂う。
 間髪を入れずに、征治が上空の蝙蝠も巻き込む角度でコメットを放った。
「ダルドフ、そこを動くなよ!」
 続いて青白いオーラを纏ったキイ・ローランド(jb5908)が別人の様な口調で言い放ち、後方からのコメット三連発、愛梨沙がそれに続いて計四連発の絨毯爆撃。
 更には彩華のスレイプニルがボルケーノで吹き飛ばす。
 それでも生き残ったものは、天宮 佳槻(jb1989)が斧槍を振るって蹴散らしていった。
(ゲートが出来れば厄介だし、会った事は無いが死なせるには惜しい人もいるみたいだし)
 火力にそれほど自信があるわけではないが、それなら身の丈に合った戦いをすれば良い。
 支援や陽動といった地味な仕事を軽視する部隊は、いくら大火力を誇っていても長続きはしないものだ。
 その手が届かない場所には、佐藤 としお(ja2489)が駆け込んで行った。
(堕天するしないに関わらず、彼の存在は人との共存共栄には大切なファクターの一つ)
 それに戦力として見ても、自分一人が何かするよりも彼を活かした方が良い結果が生まれるだろう。
「ならする事は決まった!」
 としおの全身を包み込む黄金の龍が吼える。
「お待たせしました、久遠ヶ原のピースメイカーただいま参上!」
 盾を構え、としおはダルドフの前に立ちはだかった。
「あなたを殺らせる訳にはいかないんでね」


 道は出来た。
 治療スキルを持つ者達が、そこを駆け抜けて来る。
「ダルドフさん、大丈夫ですか?」
 真っ先に駆けつけた星杜 焔(ja5378)は、ダルドフに背を向けて盾を構えた。
 そのすぐ後から星杜 藤花(ja0292)が走り込む。
「今すぐに治療しますね」
 見覚えのあるその顔に、ダルドフは僅かに相好を崩した。
 だがすぐに厳しい顔つきに戻り、懐に抱えた赤く染まった塊をそっと降ろす。
 それは身体のあちこちに傷を負い、意識を失った黒田の姿だった。
「まずはこやつを頼む」
「かつおじたん!?」
 キョウカ(jb8351)が飛び出して来る。
 ダルドフの無事を知った喜びよりも、衝撃の方が大きかった。
「ダルドフたま…っ」
 どうしたのか、何が起きたのか、黒田は…生きているのか。
 訊きたい事が喉から溢れそうになるが、言葉がにならない。
「案ずるな、息はある」
 ダルドフはキョウカの頭にそっと手を置いた。
「手当をしてやってくれぬか」
「わかったなのっ」
 横たえられた黒田の脇に跪いたキョウカは、藤花や黒田隊のメンバーと共に治療を始める。
 見た目は頭から赤いペンキを被った様な酷い有様だったが、幸いどれも致命傷には至っていない様だ。
「すまんな、嬢ちゃんがたに…酷いもん見せちまっt…ッ」
 意識を取り戻した黒田は、苦笑いを浮かべようとして痛みに呻いた。
 もう生命の危険はないだろうが、藤花は念の為に神の兵士を活性化し、担架で運ばれる黒田と共に後方へ下がる。
「まったく、無茶をしおって」
「無茶は自分もやろ」
 見送るダルドフの肩を、蛇蝎神 黒龍(jb3200)が軽く叩いた。
「お届け物や」
 そう言って見せたのは、一枚の写真。
「お守りにしたらええ、御利益あるで? まあ、本物には敵わんかもしれへんけど」
 黒龍が向けた視線の先には、紫苑(jb8416)の姿があった。


 生きてた。
 無事だった。
 血だらけに見えるけれど、きっと全部返り血だ。
 だって、あんな酷い怪我する筈がないし。
 すぐにでも飛び付きたい。
 でも今はまだ仕事中、自分だけ勝手な事をする訳には――
「少しくらい構わんだろう」
「そうですよ、行って来なせぇ」
 何かの重圧に耐える様に足を踏ん張って立つ幼子の背中を、ファウスト(jb8866)と百目鬼 揺籠(jb8361)、二人の大人がそっと押し出した。
「紫苑」
 久しぶりに聞く声が、身体の隅々まで染み渡る気がした。
 絶対に泣くまいと誓った決意が溶けて流れる。
「…だんなぁ…」
 ぼやけた視界に映った大きな手が、頭の上に置かれた。
「すまなんだな、紫苑」
 頭のてっぺんが、ほっこりと温かくなる。
 しかし、ゆっくりしている暇はなかった。
「まずは、あれを止めるぞ」
「がってんしょーちでさぁ!」
 袖口でゴシゴシと顔を拭って、紫苑はニカッと笑う。
「お届け物終わり、後は帰って一緒に呑む約束や」
 黒龍が頭の高さまで持ち上げた右手の拳を差し出した。
 互いの拳を合わせようというわけだが、ダルドフにはその動作の意味がわからなかったらしい。
「これはな、こうするんや」
 黒龍がダルドフの右手を取り、持ち上げようとした瞬間。
「んぐぉっ」
 呻いた。
「よう上がらんのか」
 だが、ダルドフは慌てて首を振る。
 今のは、あれだ。黒龍がおかしな角度で捻ったせいだ。
「ほれ、何ともないであろう?」
 色を失った表情でじっと見つめる紫苑に向けて、腕をグルグルと回して見せる。
 しかし。
「嘘が下手ね、額に脂汗滲んでるじゃない」
 愛梨沙が呆れた様に首を振りつつ見守る中、矢野 古代(jb1679)が雷を落とした。
「このおバカ!」
「ぬ…っ!?」
 古代は尚も回そうとする腕をがっしりと押さえ付ける。
「お前とは短い付き合いだが解る――ここで無理無茶するつもりだっただろう!」
「そ、某その様な心積もりはっ」
「だったらこの腕は何だ!」
「あ゛いだだだだだっ」
 ちょ、待って、捻ってる、捻ってるから!
「それで皆笑って終われると思うんじゃねえぞ!」
「だるどふたまのおバカ!」
 キョウカまで!?
「なんでおバカか、ちゃんとかえってくるまでおしえてあげない、だよっ」
「う、うむ」
 とりあえず紫苑を泣かせたのは謝る。
 謝るから、離して。
「噂には聞いてたけど、本当に変わった人…大天使ね」
 変わった大天使と言えば、もうひとり心当たりがあるけれど――そう思いつつ、愛梨沙はライトヒールをかける。
 これで治れば良いが、もし骨や腱まで損傷しているなら黒田と一緒に入院だ。
「いや、かたじけない」
 だが怪我をしたのはここだけだ、他はどれも返り血だと、おバカな大天使は尚も言い張る。
 そこに、鳳 静矢(ja3856)の鋭い指摘が突き刺さった。
「その背の血、怪我だろう?」
 背中の一面にべったりと貼り付いた赤い塊。
「どう戦えば背中に返り血が付くのか、教えてほしいものだな」
 教えられるものなら、だが。
 よく見れば袈裟懸けに走る三本の傷からは、まだ僅かに血が滲み出ていた。
 恐らく黒田を庇って斬られたのだろう。
「無理はするな、悲しむ人が居るのだからな」
 ほら、今にも爆発しそうなちみっこが、そこに。
「後は若い者に任せるんだ…人を信じたからこそ、今此処に居るのだろう?」
 静矢の言う通りだった。
 だが、その信頼は一方通行ではない。
「おれは、けがさえちゃんとなおりゃ…だんなのすきなように、うごいてもらいてぇでさ」
 爆発を堪えながら、紫苑が言った。
 本当は休んでいてほしいけれど、きっとまだ大事な仕事が残っているのだろう。
 それが終わったら、今度こそ…一緒に帰れるから。
「しんじてやすぜ…だんな」
 その瞳に、迷いはなかった。


 その間にも、ラファルは残りスキルのありったけをぶちまけてサーバントを押し返す。
「ここが最終ラインですね。黒田隊の皆さんは、サーバントへの対応をお願いします」
 征治の指示で、黒田の部下達が前線に壁を作った。
 治療を終えたダルドフが、壁を割ってぬうっと現れる。
「さて、参るとするかの」
「退かぬのか」
 隣に並んだラドゥ・V・アチェスタ(ja4504)が問う。
 だが、問うまでもなく答えはわかっていた。
「良かろう。貴様がそれを望むなら、我輩はただ一振りの剣だ」
 ラドゥは吸血剣を抜き放つ。
「貴様と剣を交えられぬは少々ばかり残念だが…まあ良い、これもまた一興よ」
「助太刀、感謝いたす」
「なに、礼には及ばぬ」
 下々を統べる至高の存在としては、困窮する人民に安寧を与えるのは当然の義務というものだ。
「勝利さんとダルドフさんの無茶の御蔭で、何とか間に合いましたね」
 反対側でユウ(jb5639)が笑いかける。
「ゲートを阻止して、皆さんと一緒に帰れるよう死力を尽くしましょう」
「…負けられませんっ『始めての共同作業』ってやつですから!」
 すぐ後ろで彩華が気合いを入れた。
 こう、あれでしょ、二人で一緒にナイフを持って、ケーキをスパッと――
「…あれっ、何か間違ったべか?」
 いんや、まつがってねぇだよ。たぶんな。



 さあ、改めて戦闘開始だ。
 征治が自分を含めた周囲の味方に聖なる刻印を刻み、特殊抵抗を上げる。
 黒田を後方の安全な場所に退避させた藤花は前に出て、神の兵士で近くの仲間を守った。
 佳槻は四神結界を張って仲間の能力を底上げし、自身は陽光の翼で空へ。
 最前列で固定砲台と化していたラファルは全弾を撃ち尽くし、体勢を合って直す為に一旦後方に下がる。
 代わって上がって来た仲間達が、それぞれの持ち味を活かしつつ、群がるサーバントに攻撃を加えていった。
「でも、おかしいですね。Kの姿が見当たりませんが…」
 ユウが口に出した、その直後。
 噂をすれば影と言うべきか、彼等の頭上に人の形をした影が落ちた。
「Kです!」
 上空のペガサスを狙っていた征治が叫び、燭の書から生み出した光の槍を放つ。
「馬の腹にでも貼り付いていやがったか」
 古代はペガサスごと撃ち落とす勢いでPDWを連射、黒龍は黒炎の玉を撃ち込み、草摩 京(jb9670)が天鹿児弓で雷光の矢を放った。
「このまえもいきなりでてきた、だよ?」
 キョウカはヨルムンガルドの銃口を空に向ける。
 もしかすると、Kにも透明化の能力があるのだろうか。
 だが、それなら他の場面で使って来なかったのはおかしい。
 馬や牛の腹に潜り込んで身を隠すカウボーイの様に、ただ死角に隠れていただけなのかもしれない。
 そんな事を考えながら、キョウカは引き金を引く。
 しかし、飛び降りて来たKは右手に持った三本の刀でその攻撃を悉く打ち払った。
 そのまま落下の勢いを乗せた三爪を、目の前にいたユウに向けて振り下ろす。
 その瞬間にニヤリと笑ったところを見ると、狙っていたのか。
 売られた喧嘩は買うのが礼儀と、ユウはそれに微笑で答える。
 だが三本の刃は割って入った愛梨沙のブレスシールド防がれ、ユウに届く事はなかった。
『ひゃっひゃぁっ!』
 地上に降り立ったKは、足を地に付ける間も惜しむ様に金属質の翼を広げて再び宙へ跳び、刀を持ったまま右手の指を真っ直ぐに伸ばす。
「砲射が来る、伏せて!」
 龍磨が叫ぶと同時に、頭上から細かな光弾が雨の様に降って来た。
 特に誰を狙うという事もなく広範囲に光弾をバラ撒きながら、Kは重力に任せて降りて来る。
 背中の翼は捕獲用の網へと姿を変え、その先端が無数の指を持つ手の様に広がり、撃退士達を鷲掴みにしようと迫って来た。
 だが前に出た龍磨が庇護の翼で右手を受け止め、焔が構えた盾で左手を弾き返す。
「籠の鳥は遠慮しておくよ」
「俺達は掴み取りの景品じゃないからね」
 二人の聖騎士はそのまま最前列に留まり反撃を試みるが、Kは素早く下がってサーバントの群れに姿を隠してしまった。
 Kを呑み込んだ首なし騎士の集団が、数を頼りに一気に押し寄せて来る。
 彼等が乗った黒いペガサスは地上に降り、最前列は地面と平行になる様に首を突き出していた。
 鋭い歯が並ぶ口を開けて威嚇するその上から、騎士達の放った魔法が縦横無尽に迸り暴れ狂う。
 身体を失った頭が飛び、爆発し、頭を失った身体は闇雲に暴れ回る。
 時に同士討ちで自滅するものもあったが、それだけで数が減る事に期待などしていないし、減る筈もない。
 焔は手が届く範囲の全てを盾で受け止めた。
 他にも黒田隊から数人のガード役を借りて壁を作り、攻撃は仲間に任せて防御に専念。
 その後ろから火力自慢が攻撃を繰り返し、じわじわと前線を上げていった。


 クロフィ・フェーン(jb5188)は光纏によって大人の姿に戻ると、三対の光の翼で舞い上がる。
 タウントで邪魔なサーバントの意識を集めて飛べば、Kの守りも薄くなるだろう。
 しかしそれに引き付けられたのは、目当てのものばかりではなかった。
 上空を飛ぶ大蝙蝠達がクロフィの周囲を取り囲み、その姿は忽ち真っ黒な繭の様な固まりになる。
 特殊抵抗の高い彼女に超音波は効果が薄かったが、物量で来られては少々分が悪い。
 塊は浮力を失い、地上を目掛けて落下を始めた。
 そこに、黒くて丸い塊が集まって来る。
「なあお前騎士首だろ! 頭だけ置いて行け! 吹っ飛んでろよ!」
 古代がイカロスバレットでそれを狙い撃った。
 最初の範囲攻撃で的の大きな身体や馬が先に倒れ、行き場を失ったのだろう。
 蝙蝠が取り付いて動きを止め、そこに騎士の頭が自爆を仕掛けるつもりなのか。
 どちらも捨て身の攻撃は、上手く機能すれば脅威だが――
「飛んでるのは厄介だからな。落ちて貰おう」
 キイが後方から破魔弓を放ち、取り付いた黒い幕を素早く剥がしていく。
「もう少し数を減らしてからでないと、囮も危険ですね」
 琉命がPDWを連射、繭に綻びが出来たところで、クロフィも盾でその綻びを押し広げ、自ら脱け出して攻撃に転じた。
「すみません、余計な手間を取らせてしまいました」
「いいえ、構いませんよ」
 琉命が掃射を続けながら首を振る。
 どちらにしても、早々に片付けるべき邪魔者である事に変わりはない。
「こんなにワサワサ湧いて来る方が悪いんだよ、なあ!」
 空に向かって銃の連射を続ける古代は何だか楽しそうだ。
「蝙蝠は特に言う事ないので堕ちてろ」
 話が通じるとも思えないしな!


 次々に撃ち落とされる大蝙蝠や騎士の頭。
 だが空中で力尽きたそれは、巨大な塊となって地上に降り注ぐ。
 ひゅるるる、どすん。
「ひゃあっ、おったまげt…びっくりした!」
 鼻先をかすめて落ちた黒い頭を、彩華は思いきり遠くへ蹴り飛ばした。
 当たっても爆発こそしないが、直撃を受ければ撃退士でもそこそこ痛そうだ。
 かといって、上に気を取られれば目の前の敵に対する注意が疎かになる。
 上手く敵陣だけに降ってくれれば良いのだが――
「わかりました、そういう事なら私が」
 クロフィは再び空へと舞い、タウントを使う――ただし、今度は敵集団の上空で。
 明かりに群がる虫の様に蝙蝠達が引き付けられるが、今度はむざと巻かれる様な事はしない。
 クロフィはアンティークドール・リーヴを胸の前に掲げ、そこから放たれる水の弾丸で牽制、下からの援護を待った。
「飛んで撃たれる秋の蝙蝠…風情がないな」
 それに応えて古代は射撃を続行、キイも弓で狙い撃つ。
 琉命はFeierlich H6の魔法攻撃で次々に蝙蝠を撃ち落としていった。


 黒い塊が落下するその下で、闘気を開放したラドゥは発勁で敵の壁に楔を穿つ。
「何処に隠れようと無駄な事だ」
 Kの姿は見えないが、この辺りに潜んでいる事は間違いない。
 纏めて吹き飛ばせば識別は無用だ。
 その楔を更に押し広げる様に、再び前線に上がったラファルが八岐大蛇を振りかざして突っ込んで行く。
「俺式60mmスモークディスチャージャー、オン!」
 肩口にポップアップした煙幕弾発射装置から指向性の高い対天魔用煙幕を散布しつつ斬りまくる。
 認識障害をバラ撒きながら突っ走るその後ろから、征治が光の槍を飛ばして援護。
「翼を狙えば飛べなくなりそうですよね」
 上から狙って来るのは蝙蝠だけで充分、馬は馬らしく地面に釘付けにしておこうか。
「さて、行くですよ!」
「これ以上の侵入は絶対に許さん」
 鳳 蒼姫(ja3762)は、静矢と共に走り込む。
「とにかく今は、前に進む事なのですよぅ!」
 Kの姿があれば積極的に仕掛けて行きたいところだが。
「どうでますかねぇ…」
「私達がゲートの展開を阻止しに来た事は向こうも承知だろう」
 だとすればKが狙うのはゲート阻止班か。
「彼等を援護するぞ」
 そうすれば、いずれは向こうから姿を現すだろう。
 強い絆で結ばれた二人は、雑魚を魔法や銃で蹴散らしていった。


「じゃあ、僕はちょっと掻き回して来るね」
 自身とラドゥに聖なる刻印を刻んだ龍磨は、ゲートに向かうと見せかけて脇から回り込む。
「こっちが本命だと思って、Kが釣られてくれると良いんだけどね」
「ならば某も共に参ろう」
 頼まれもしないのに、ダルドフがそれに続いた。
「ぬし一人では危険であろう?」
「一人が二人に増えたところで、大した違いもあるまいに」
 それに気付いたラドゥが、口の端に笑みを浮かべる。
「この数が相手では、三人でも焼け石に水かもしれぬがな」
 という事は、ラドゥも一緒に来るのか。
「だったら僕も行きますよ」
 としおは今回、ダルドフを徹底マーク中だった――勿論、味方として。
 彼は既に、大切な仲間だ。
(こんなとこでリタイアさせられないでしょ)
 必要ならば道を開く槍にもなる。
(何がなんでも守って見せましょう!)
 それが地上と天界とを結ぶ階(きざはし)となるなら。
「貴方は貴方の生きたい様にすればいい…但し死ぬ事は赦しませんよ」
「こやつらは貴様を死なせぬ為に此処に来た」
 ラドゥが向けた視線の先に、懸命に戦う仲間達の姿があった。
「守られておれとは言わん、だが、死んで良いとは思うな。我々は民草の、子の想いを無下にしてはならぬ」
「案ずるな、死ぬ為に戻った訳ではないわ」
 生き、活かす為だ。
「行きましょう、自分が道を作ります!」
 としおがピアスジャベリンで黒い壁を突き破る。
 四人の遊撃隊は、その道を更に割り広げながら敵陣の奥へと突っ込んで行った。


「よし、今のうちに距離を詰めるぞ」
 ミハイルの声で、本命のゲート阻止班が動き出す。
 こちらは敵との交戦を極力避け、なるべく見付からない様に。
(経緯は知らんが、酔狂なことだ)
 その後に続いたファーフナー(jb7826)は、心の中で思う。
 天界を裏切り人間に与するなど、気が知れない。
(そこまでの犠牲を払う価値が人間にあるものか)
 あると言うなら見て見たいものだが――いや、興味などない。
 仕事は仕事、それ以上でも以下でもない。
 私情は持ち込まない、それが今まで貫いて来た彼のスタンスだ。
「木でも何でも、身を隠せるモンは何でも使って、とにかく前へ進みましょう」
 揺籠はその言葉通り、まだ倒されていない周囲の木々や、横たわるサーバントの死骸さえも盾に進む。
 とにかく、何が何でも進まなければ始まらない。
「詠唱が終わっちまったら、元も子もねぇですから」


 わざと目立つ様に動きながら、陽動の四人はサーバントの群れを押し分けて進む。
 と、その目の前に――
「釣れ…ぅッ!」
 思わず叫んだ龍磨の声は途中で押し潰される様に消えた。
 Kの三爪を防壁陣で受け止めてはみたものの、やはり手応えは重い。
 だが、もう逃がさない。
「皆、Kがいたよ!」
 大声で叫びながらフェンシングで反撃、Kが後ろに下がっても攻撃の手を緩めない。
 Kはそれを刀で払い、魔眼で反撃しつつ背中の翼を広げた。
 鳥籠が来る。
 しかしその瞬間、Kの姿は龍磨の前から消え失せた。
 いや、消えた訳ではない。
 そこには虹色に輝く光の軌跡が残されていた。
 小天使の翼で追って来た焔が虹色魔弾で弾き飛ばしたのだ。
 飛ばされたKの傍に大木の幹が見える。
 そこに追い詰める様に、焔は虹色魔弾をもう一発。
「これで一方は塞いだよ」
 背後に大木、左右は焔と龍磨が固める。
 逃げ場は正面か、或いは上。
 だが正面からは蒼姫と静矢が迫っていた。
「蒼紫の鳳凰の連撃、受けるが良いのですよぅ!」
 まだ遠い間合いから、蒼姫が絆・連想撃を叩き込む。
 続けて静矢がリボルバーを両手で構えた。
「隙あらば撃ち抜くぞ、貴様」
 左腕に明るい紫、右腕に暗色の紫。それぞれに纏ったアウルが銃に注ぎ込まれる。
 発射の直前、Kの足元にシールゾーンの結界が現れた。
「こんなところにゲートは作らせません」
 その中心には藤花の姿があった。
「それにダルドフさんと一緒にご飯食べるんです」
 この間はお弁当だった。
「いちから手作りしたものをっていう約束は、一応果たせたけどね?」
 焔がその身を庇う様に前に立つ。
「でも、まだ出来たてを食べてもたってないから」
 無事に終わったら、今度こそ皆に振る舞うのだ。
 ダルドフにも、黒田や隊員達にも、工場長の姉崎や従業員の皆にも。
 静矢の銃から紫色の光が迸る。
 ほぼ同時に、ユウのスナイパーライフルが火を噴いた。
 ダークショットを乗せたそれは退路を断たれたKに向かって真っ直ぐに突き進む。
 直後、黒い霧から紫の光が弾ける様に散った。
「手応えはあったが…」
 黒い霧が晴れた後に、Kの姿はなかった。
 ただ…
 ぽたり。
 上空から何かが滴り落ちて来る。
 血だ。
 見上げると、そこにはボロ布をぶら下げた様なKの姿。
 いや、違う。
 右足が潰れ、今にも千切れそうになっているのだ。
 宙に浮かんだまま、Kはその足を無造作に引きちぎり、投げ捨てた。
 どさり。
 それは藤花の目の前に落ちる。
 小さく声を上げ、思わず一歩退いたその肩を、焔がそっと支えた。
「大丈夫」
 出来ればこのまま退いて欲しい。
 そうはいかないと、わかっていたけれど…それでも。
 だが、その望みを絶ち切る様に、Kは動いた。
 片足と、片腕。それを失った分だけ身軽になったのか、格段に増したスピードと共に、Kは闇雲に突っ込んで来た。
 その勢いに乗せて、右手の指から光弾を乱射する。
 シールゾーンの結界はまだ残っているが、Kのスキルを封じる事は出来なかった。
 上空からの掃射では焔のシールドバッシュも届かない。
 Kは包囲を逃れ、サーバント対応班へ。
『ひぁっ、ひゃぁっ!』
 狙われたのはナイトウォーカー、ラファルだった。
「不味いな。自分の後ろに居ろ」
 ヴォーゲンシールドに持ち替えたキイがその前に立つ。
 だが、言われなくてもラファルはさっさと逃げていた――もう存分に暴れたし、この紙装甲とCR差で戦うなんて無理だし。
「調子に乗るなよ、K」
 追いかけて来た静矢が絆・連想撃を撃ち込みつつ接近、太刀「白皇」に持ち替えて斬る。
 だがKは斬られても怯む事なく、片腕は勿論、片腕を失った事さえ忘れさせる様な動きを見せた。
 地に足を着くのは僅かの間、飛行状態のまま縦横無尽に動き回り、ある時は正面から、かと思えば背後に回り込んで攻撃して来る。
 加えて、押し寄せるサーバント達も片手間に対処できるほど楽な相手ではなかった。
 その分だけゲートの守りが手薄になると思えば、苦労も報われるというものだが――


 しかし、名も知らぬ大天使の周囲を固める直衛のサーバント達は陽動にも釣られなかった。
「コメットは一発残ってるけど…」
 愛梨沙が見上げた上空には、黒い雲がかかっていた。
 上空から降り注ぐ彗星は、恐らくその傘に防がれてしまうだろう。
 それに、今の位置からでは大天使の姿を範囲に収められるかどうか微妙なところだ。
「わかりました、僕が引き付けてみます」
 陽光の翼で舞い上がった佳槻は八卦水鏡で防御を固めつつ、大天使の上空へ――接近する間もなく、黒い雲が押し寄せて来た。
 それが取り巻き、取り付こうとした瞬間。
 佳槻は周囲に呪縛陣の網を張った。
 網にかかった蝙蝠達が身体の自由を失い、ゆっくりと落ちて来る。
 だが、まだ距離が足りない。
「この周りを蹴散らせば良いんだな?」
 無愛想にぼそりと言ったファーフナーが、両刃の戦斧を振り回しながら敵陣に突っ込み、仕上げにエアロバーストで周囲の敵を吹っ飛ばす。
 そこに走り込んだ愛梨沙が大天使を射程に捉え、コメットを放った。
 性能上、命中率には期待できない。
 だが自分のすぐ近くまで敵が迫っているという、心理的な圧迫を加える事は出来た筈だ――よほどの図太い神経の持ち主でない限り。
 京はそこに僅かでも隙がないかと意識を集中させ、大天使の様子を観察する。
 詠唱は淀みなく、僅かな揺らぎさえなく、流れる様に続いていた。
 よほどの図太い神経、らしい。
 一時は崩れた周囲の壁も僅かの間に修復され、大天使の姿は再びその背後に隠れてしまった。
「もう少し、この取り巻きの数を減らす必要がありそうですね」
 京は全身に闘争心の具現化である黒紫色の焔を纏い、サーバントに壁に向けて弓を引く。
 まず減らすべきは馬と、その機動力。
 騎士達を乗せた馬は大天使の周囲を何重にも取り囲み、弾幕を張る様に魔法攻撃を放って来る。
 頭を乗せていないものも多いが、それは宙を飛んで撃退士達の背後に回り込みんで目を光らせ、或いは死角から頭突きを狙って来た。
 しかし構っている暇はない。
「もうここにおうちはいらないなのー!」
 佳槻が二度目の網を張った直後、蝙蝠が減った空に舞い上がったキョウカは、その隙間を狙ってヨルムンガルドを連射した。
 それはもう派手に、自分の存在をわざわざアピールするかの様に。
「行けそうか?」
 いや、行けなくても行く。
 ミハイルは敵集団の中心部に向けてピアスジャベリンを撃ち込み、その軌跡を追う様に走った。
 大天使に当たったかどうか、確認する暇もないが、今それは重要ではない。
 押し戻してくる壁にバレットストームで嵐の様な乱射を浴びせ、その余波に紛れて身を隠す。
 こんな時、インフィルの奥義だったらもっと派手に格好良く決まるのに、という想像図を脳内に描きつつ、ミハイルは暴れる。
 ファーフナーはエアロバーストで周囲の敵を吹っ飛ばしながら敵陣深く斬り込んで行った。
 大天使の姿を視界に捉えるとマモンの紋章を握り締め、上空に集まり始めた蝙蝠ごとファイアワークスで一帯を焼き払う。
 揺籠は煙管を口に咥え、こんな時にのんびり一服――ではない。
 口に含んだ紫煙にアウルを纏わせ敵に吹き付ける、その名も鬼術『炎叫』だ。
 爆炎の如くに噴き出したそれは紅蓮の炎に姿を変え、行く手に存在するもの全てを呑み込んでいく。
「ここにゲートは要らねぇ」
 炎を掻き分け更に奥まで走り込み、もう一撃。
「この地はもう、何に縛られる必要もねぇんでさ!」
 怪しく揺らぐ炎の向こうに、その姿があった。
 真っ正面から視線が合わさる。
 その力強い眼差しに思わず怯みそうになるが、揺籠もその身に無数の目を持つと言われる妖の眷属、メヂカラ勝負で負ける訳にはいかないのだ。
 踏み込んで捨て身の乾坤一擲、運が悪ければその場で立ち往生だが――
(帰りましょう、皆で)
 紫苑も、キョウカも、ファウストも…「お父さん」も。
 その想いが揺籠を支えた。

 だが、攻撃を受けても詠唱は止まらない。
 相手は全くの無防備なのに、全く堪えていないのか。
 それでも構わず、彼等は攻撃を続けた。
 本命を、その背後に送り込む為に。


 大天使の周囲に降り注いだ彗星の雨は、Kに奇襲を知らせる合図ともなった。
『ひゃっ!?』
 別働隊の動きを全く感知していなかったらしいKは、慌てた様子で飛び出そうとする。
 上空高く飛ばんだKはしかし、ダークショットを乗せたユウの攻撃に翼の付け根を貫かれ、ふらふらと地上に降りて来た。
 地に足を着いた途端、バランスを崩して尻餅を付く。
「投降するつもりはないのですか?」
 だが、藤花の問いに対する答えは魔眼での攻撃だった。
 焔はそれを銀の盾で受け止める。
 もう倒すしかなかった。
「よろしい、ならば我輩が相手になろう」
 再び立ち上がったKを見て、ラドゥが前に出る。
 策は特にない。
 ただ暴力を以って敵を悉く蹂躙するのみ。
「あの男よりも楽しませてくれるのか、貴様は」
 Kの動きは明らかに鈍っていた。
「それがならぬならば早々に死ね」
 鬼神一閃、全ての力を込めて血吸剣を振り下ろす。
 袈裟懸けに一筋の線が走る。
 だが浅い。
 直後、左側から焔が六角分銅鎖を投げ付けて注意を引き、藤花と龍磨が右腕を狙って攻撃を仕掛ける。
 絡み付いた鎖が自由を奪ったところで、静矢の太刀が胴を払った。
 しかしKはそれでも倒れなかった。
 力ずくで鎖を引きちぎり、血走った白目を前方に向ける。
 右目の照準がユウの姿を捉え、熱線が走った。
 だが、割って入った蒼姫が盾で受け止め、マジックスクリューで反撃。
「アキは護るために居るのですから」
 礼を言ったユウはその後ろから飛び出し、Kの目の前に立った。
「…勝負です!」
 誘いに乗ったKに対して一瞬後ろに体重を乗せ、引くと見せかけて飛び出し、荒死を叩き込む。
 受け止めようとした三爪が手を離れて飛んだ。
 限界を超えた攻撃の反動で、ユウは指を動かす事も出来ない。
 だが、反撃を受ける怖れはもう、完全になくなっていた。

「そちらには行かせない」
 Kに命じられたのか、ゲートの方へ押し寄せようとするサーバント達。
 キイはそれを食い止めるべく破魔弓を引き続ける。
「一体ずつ確実に潰していきましょう」
 ダメージを分散させた挙げ句に分離を促す結果になれば、却って敵の総数を増やす事になる。
 征治は複数で集中攻撃をかけるようにと声をかけた。
 馬をメインに狙いつつ、飛んで来た頭は神速で素早く片付ける。
 古代は敵の射程ギリギリの距離を保ちながら、ゲートの方に飛び去ろうとする蝙蝠に狙いを絞って銃を連射。
「んもう、作成者さんもサーバントも一癖あるというかちょっとやっかいに歪んだ感じがそっくりです!」
 彩華はスレイプニルと共に敵の進行方向に回り込み、行く手を塞ぐ。
「え? 作ったのはあっちの大天使?」
 細かい事は気にしない。
 

「じゃ、いきやすぜ」
 紫苑と黒龍は気配を殺しつつ、大天使の背後に回り込もうとしていた。
 防御を捨てたナイトウォーカーは、その名の如く闇に紛れて進む。
 派手な攻撃を続ける仲間達のおかげで、サーバント達の注意はそちらに向けられていた。
 倒れた敵の影や死角になりそうな場所をぬって、二人はそろそろと中心部に近付いて行く。
 邪魔になりそうな敵は、その度にキョウカが上空からの銃撃を受けて気を逸らした。
 だが、流石に中心近くまで来るとしっかり見られていた。
 騎士の首がふわりと身体を離れ、二人の方に漂って来る。
 兜の下の目と、目が合った。
「こっち見んなーっ、でさ!」
 ぱかーん!
 紫苑はミカエルの翼を至近距離から投げ付けた。
 他の目玉が音のした方を一斉に振り返る。
 やばい、見付かった、もうちょっとなのに!
「下がっていろ」
 そこに聞こえた魅惑の低音ボイス。
 飛び込んだファウストが炸裂掌を叩き込む。
「じーちゃ!」
「今だ、行け!」
 紫苑はその小さな身体を活かして敵の間を潜り抜け、大天使の真後ろに。
「おおきに、な」
 黒龍は黒焔村正を抜き放ち、力尽くで押し通る。
 皆が身体を張って作ってくれたチャンスだ、こちらも応えないわけにはいくまい。
 大天使の背に闇色に染まった逆十字架が現れ、落ちる。
 もう一撃、今度は雷が放たれ、同時に膝ががくりと折れた。
 大天使も武器や魔法での攻撃なら想定していただろう。
 だが、まさかここで膝カックンが来るとは。
 詠唱の声が乱れる――が、止まらない。
「重圧はかからへんか」
 少し残念そうに黒龍が呟く。
 だが詠唱が乱れた事は確かだ。
「よし、もう一撃や」
 しかし、今度は不意打ちとはいかない。
 周囲のサーバントは彼等をしっかりと認識し、邪魔者の排除にかかった。
 だがその数は最初に比べれば格段に減っている。
 ファーフナーがクレセントサイスで、ファウストが炸裂掌で周辺を打ち払い、京はそれでもまだ残る敵に矢を。
(弓術の奥義は心を無にし、純粋な集中力を極限まで引き絞る事――)
 神楽舞の神降ろしの心境で無となり、水月を発動させ極限の一射を放つ。
「そろそろ仕上げといくか」
 隙間が目立つようになった壁の間に道を見付け、ミハイルが中心に向けてダークショットを撃ち込んだ。
 微動だにしない大天使は格好の的、CR差の恩恵もあって、目を瞑っていても当たる。
 手応えは充分、だが詠唱は続いていた。
「どこまで固いんだ、こいつは」
 京は得物を太刀「白皇」に持ち替え、自身を矢に見立てて射線を描く。
「見えました」
 地を這うような姿勢で全力移動、隙間を駆け、一呼吸置いて抜刀術からの鬼神一閃。
「その首、頂戴します」
 だが、それはまるで鋼で出来ているかの様に固かった。
 打ち付けた太刀が震え、腕がじんと痺れる。
 しかし、そんな超硬質な大天使にも弱点はあった。
「か・ん・ちょーーーっ!」
 ぶすっ!
 紫苑は偃月刀の切っ先で大天使の尻をぶっ刺した。
「でかいしりですねぃ。でも、だんなのほうがでっけぇでさ!」
 ぶすぶすぶす。
 子供の攻撃はえげつない。
 詠唱の声が震え始めた。
 もう一押し。
 動かないなら前に回っちゃうよ?
 ごーるでんはんまーの二つ名は伊達じゃないんだからね?
「しーた、えんごする、だよっ」
 代わって後ろに回ったキョウカがアイスウィップで後頭部をべっちべち叩く。
 ファウストは紫苑を狙う周囲のサーバントを異界の呼び手で拘束、フェアリーテイルの魔法書から生み出された羽根の生えた光球を叩き付けていった。
 二度目のダークショットとクロスグラビティが同時に炸裂したその瞬間。
「ごおぉるでん、はんっまあぁぁっ!!」
 封天人昇でCRを下げ、クレセントサイスからの渾身の一撃が股間にクリーンヒット!
「ぐぬぉあぁぁぁっ!!!」
 詠唱が途切れた。


 これまで数週間にわたって不眠不休で作り上げてきたものが全てパアだ。
 その上、注ぎ込んだパワーもエネルギーも、自身の経験も、ごっそり水の泡。
 いや、それだけならまだマシだ。
 その原因が、寄りによって金的だなどと。
 金的食らって大事な任務を放棄した大天使の汚名は、きっと一生ついて回る。
 どうしてくれる。
「紫苑、逃げろ!」
 不穏な空気を感じ取ったファウストが叫ぶ。
 だが、その時には既に巨大なバスタードソードが頭上に迫っていた。
「だめえぇっ!」
 シールドを構えたキョウカが割って入る。
 だが、二人纏めて真っ二つにされる未来しか見えない。
 そこに飛び込んだのは、ブレスシールドを展開した愛梨沙だった。
 一撃をどうにか受け止めた隙に、ファウストが二人を掻っ攫って逃げる。
 しかし、大天使の怒りは治まらない。
 それどころか、腹の中はますます煮えくりかえる。
 敵陣に裏切り者の姿など見付けてしまえば尚のこと。
「ダルドフ、貴様…っ!」
 額に太い血管を浮き上がらせ、大天使は声を絞り出した。
「ヴァルツ」
 ダルドフが呼びかける。
 それがこの大天使の名前の様だ。
 だが返事はない。
 切っ先を向けた剣と怒りに震える拳が答えだった。
「ヴァルツよ、手土産が欲しいか」
 ダルドフが前に出る。
 だが、ファウストがそれを止めた。
「貴様は下がっていろ。どうせスキルも全て使い果たしているのだろう」
 それに、戦いの最中に力を剥奪される可能性もある。
 それでも行くと言うなら異界の呼び手でふん縛ってでも止める。
「…我輩が望む未来は以前言った筈だ。貴様もいなければ意味がない」
「だんな…」
 救出された紫苑が不安げに見上げる。
「父親が子を放って行くのはどうなんですかね」
 煙管で首筋の目をトントンと叩きながら、揺籠が言った。
「ガキは手ェ離したら、どこ行っちまうかわかんねぇもんですよ?」
 自分の父親は顔を見に来た事もないけれど。
「やっぱガキにゃ父親は必要でさ」
「キョーカたちだけじゃしーたはさみしー、だよ?」
 太い腕を両手で掴んだキョウカが、それをゆさゆさと揺する。
「俺の目は体中にありますが、流石にこの目ん玉ァ特別でね」
 揺籠は自分の顔を指差した。
「けど旦那が何か対価を寄越せってェなら、ひとつくらい潰されたって構やしません」
 だから。
「お願いしやす。俺の大事な人、助けてくだせぇ」
 その場に座り込み、頭を下げる。
 しかし。
「茶番は終わりだ」
 ヴァルツが剣を振り上げる。
 神々しいばかりの輝きが、その刀身を包んだ。
「あーあ、こうなる気はしてたんや」
 黒龍がダルドフの前に立つ。
「何のつもりぞ、黒の字!?」
「何って、決まっとるやろ、ダルドはボクが護る」
「馬鹿を申すな、ぬしなど一撃で跡形もなく消し飛ぶわ!」
 二人は揉み合いながら、前になったり後ろになったり。
 当人達は真剣なのだろうが、端から見ればただのじゃれ合いだ。
「落ち着け二人とも」
 その頭にフェアリーテイル(物理)が振り下ろされる。
 だが同時に、もっと物騒なものが振り下ろされた。
 巨大なバスタードソードから白金に輝く閃光が迸る。
 ダルドフは黒龍の首根っこを掴んで後ろに投げ飛ばし、自身は受けの構えを取った。
 しかし――
「避けろ、このおバカ! こんな所で倒れるんじゃねえぞ!」
 二度目の叱責と共に古代のPDWが火を噴いた。
 殆ど同時に、としおのアサルトライフルからもアウルの弾丸が放たれる。
 それは閃光の軌道を僅かに逸らした――が、的の大きさ故に逸らしきる事が出来ない。
 しかし、ダルドフの前には一瞬にして壁が出来た。
 焔と龍磨、クロフィが庇護の翼を広げ、愛梨沙とキョウカ、琉命、キイがシールドを掲げ、背後からは藤花が神の兵士を。
「ぬしら…!?」
 驚くダルドフを尻目に、残る仲間達はヴァルツに向けて総攻撃。
 蒼姫は魔法攻撃で、静矢は横からの紫鳳翔で、そして紫苑は上空に舞い上がり、急降下からの全力アタック、巨大な戦鎚がヴァルツの後頭部に叩き付けられた!
「ぅぐ…っ」
 ぐらり、上体が揺らぐ。
「これ以上やるなら、撃ちます」
 ユウとミハイルがぴたりと銃口を向ける。
 二人とも、ダークショットを一発ずつ残していた。


「くそ…っ」
 これ以上ここに留まっても益はない。
 それどころか恥の上塗りになりかねない。
 そう悟ったヴァルツは、典型的な負け犬の捨て台詞を残して去った。

 紫苑はその場にぺたりと座り込む。
「だんながいなくても、キョウカもともだちもいやす。じいちゃも、にいさんもいやす」
 ぽつり、想いが零れた。
「きっとひとりでだって生きれやす」
 でもやっぱり。
 大好きで、一緒にいたいから。
「おれ、だんなの子どもになりたいでさ」
 目の前に膝を付いた大きな影に向かって、言った。
「おとーさんって…よんでいいですかぃ」
 その頭を、大きな手が掻き回す。
「紫苑よ、ぬしはおかしな事を言うのぅ」
 思わず見上げた紫苑の瞳に、満面の笑みが映る。
「ぬしは元から、某の娘ぞ?」
「おと、さ…」
 後はもう、声にならない。
 ただ、その太い首にしがみつき、泣きじゃくるばかりだった。


「はい、怪我した人はそこに並んでねーって、殆ど全員か」
 応急処置のテントの前で、キイが声をかける。
 琉命と藤花、愛梨沙の回復スキル、黒田の部下も動員し、果ては応急手当でも鉄拳治療でも使えるものは何でも使って、とりあえずの回復を図る。

「100年ほど前天界から突然姿を消した能天使と言われて、知っていることはありますか?」
 一段落したところで、クロフィが訊ねた。
 残念ながらダルドフの記憶に心当たりはない様だが――
「そうですか。いいえ、少し小耳に挟んだだけです」
 クロフィはその回答と、共に戦ってくれた事に礼を言い、その場を辞した。

 一方、龍磨は黒田の元へ向かった。
「結局、俺は何の役にも立てなかったな」
 無能の面目躍如だと自嘲気味に笑う黒田に、龍磨は言った。
「…生きてるんだから、無能なんかじゃ、ないですよ?」
 それに黒田が援軍を呼んだからこそ、ゲートの展開を阻止出来たのだ。
 龍磨は隊員達とダルドフにもきちんと挨拶し、礼を言う。
「ねえ、貴方も堕天しない?」
「最近、学園に大天使が堕天したんだぜ。一緒にどうだ?」
 そして、愛梨沙とミハイルがダルドフに堕天を勧めた。
「ダルドフさん、リュールさんの事は…」
 ユウの問いに、ダルドフは黙って頷く。
 どういう事かと首を傾げる二人と、関係者ご一同様。
 ユウの説明を聞いた彼等の驚きは、いかばかりか。
「なんと、ぬしらであったか!」
 逆に彼等がリュール救出の立役者だと知ると、ダルドフはその背中を思いきり叩いて感謝の意を表した。
 いや、ちょっと、痛いんですけどそれ、かなり。
「あたし今、同じアパートに住んでるのよ」
「俺も…いや、俺は住んじゃいないが快適だぞ。酒もたっぷり用意するからな」
 だが、ダルドフは首を振る。
「使徒の事か」
 ファウストの指摘は図星だった様だ。
 彼女の事については、多くの者から話を聞いた。
 しかし、今はまだ事態がどう転ぶか不透明な状態だ。
「あやつの望みを叶える為には、某の力が必要になるであろう」
 それまでは、手放すわけにはいかない。
 それにこの地も、まだまだ安全とは言い難かった。
「護らねばならぬものが、増えてしもうたでのぅ」
 ダルドフはまんざらでもない様子で顎髭を捻る。
 当分はこの地に留まり、黒田達と共に天界の動きを監視していく事になるだろう。
 学園の世話になるのは、もう少し先の事になりそうだ。
「貴方がそれでいいと思えることが最善なのでしょう」
 琉命が頷いた。

 まだ一緒に帰る事は出来ない。
 だが、ここにいるから。
 いつでも会いに来られるから。

 もう、消えたりしないから。

「そうと決まれば、どこかに家を借りねばならんのぅ」
 もう押し入れ住まいともお別れだ。
 狭くても良いから、客を呼べる様な快適で居心地の良い家を――


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:24人

思い繋ぎし紫光の藤姫・
星杜 藤花(ja0292)

卒業 女 アストラルヴァンガード
最強の『普通』・
鈴代 征治(ja1305)

大学部4年5組 男 ルインズブレイド
ラーメン王・
佐藤 としお(ja2489)

卒業 男 インフィルトレイター
蒼の絶対防壁・
鳳 蒼姫(ja3762)

卒業 女 ダアト
撃退士・
鳳 静矢(ja3856)

卒業 男 ルインズブレイド
撃退士・
ラドゥ・V・アチェスタ(ja4504)

大学部6年171組 男 阿修羅
思い繋ぎし翠光の焔・
星杜 焔(ja5378)

卒業 男 ディバインナイト
Eternal Wing・
ミハイル・エッカート(jb0544)

卒業 男 インフィルトレイター
撃退士・
矢野 古代(jb1679)

卒業 男 インフィルトレイター
陰のレイゾンデイト・
天宮 佳槻(jb1989)

大学部1年1組 男 陰陽師
By Your Side・
蛇蝎神 黒龍(jb3200)

大学部6年4組 男 ナイトウォーカー
208号室の渡り鳥・
鏑木愛梨沙(jb3903)

大学部7年162組 女 アストラルヴァンガード
ペンギン帽子の・
ラファル A ユーティライネン(jb4620)

卒業 女 鬼道忍軍
想いを背負いて・
竜見彩華(jb4626)

大学部1年75組 女 バハムートテイマー
光を紡ぐ・
クロフィ・フェーン(jb5188)

中等部3年2組 女 ディバインナイト
智謀の勇・
知楽 琉命(jb5410)

卒業 女 アストラルヴァンガード
優しき強さを抱く・
ユウ(jb5639)

大学部5年7組 女 阿修羅
災禍塞ぐ白銀の騎士・
キイ・ローランド(jb5908)

高等部3年30組 男 ディバインナイト
されど、朝は来る・
ファーフナー(jb7826)

大学部5年5組 男 アカシックレコーダー:タイプA
圧し折れぬ者・
九鬼 龍磨(jb8028)

卒業 男 ディバインナイト
娘の親友・
キョウカ(jb8351)

小等部5年1組 女 アカシックレコーダー:タイプA
鳥目百瞳の妖・
百目鬼 揺籠(jb8361)

卒業 男 阿修羅
七花夜の鬼妖・
秋野=桜蓮・紫苑(jb8416)

小等部5年1組 女 ナイトウォーカー
託されし時の守護者・
ファウスト(jb8866)

大学部5年4組 男 ダアト
『楽園』華茶会・
草摩 京(jb9670)

大学部5年144組 女 阿修羅