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マスター:STANZA
シナリオ形態:イベント
難易度:易しい
参加人数:21人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/03/28


みんなの思い出



オープニング



 2014年、2月。
 その時、久遠ヶ原学園に新たな伝説が生まれた。

 学園バレンタイン2014、NPCバレンタイン決戦
 優勝:門木章治(jz0029)

 獲得した56925ポイントは、チョコの数にして何個分になるのか……
 貰った本人も、よくわからない様だ。
「……えぇ、と……」
 科学室に満ちる、甘い甘いチョコの香り。
 ロッカーや机の抽斗は勿論、元々空きスペースの少ない科学室の至る所に積み上がった、チョコの山。

 どうしよう。
 こんなに沢山いただいてしまって良いのだろうか。
 もしかして渡す相手を間違えたのではないかと、そんな気さえしてくる。

 だが勿論、それは間違いでも勘違いでも、ましてや悪戯でもない。
 その全てが、生徒達からの心のこもった贈り物なのだ。
 いただいたからには、食べる。
 責任を持って、その全てを、ひとつ残らず。
 例え何年かかろうとも。

 それはそれとして。
 生徒達には何か礼をしなければなるまい。
 世の中には「ホワイトデー」という基本倍返しの公式行事もあるらしいが……
「……何か、それ以外にも……」
 楽しいお返しが出来ないだろうか。
 皆で一緒に楽しめる様なもの。
「……パーティくらいしか、思い付かないな……」
 しかし場所さえ用意すれば、生徒達は好きな様に遊びを考え出してくれるだろう。
 寧ろ投げっぱなしの方が楽しいかもしれない。



 そんなわけで。

 食堂と調理室の一角を借り切って、パーティ会場を用意してみました。
 門木にチョコをくれた人も、スルーした人も。
 決戦に投票した人も、しなかった人も。
 どちらも興味無かった人も、うっかり忘れてた人も。
 門木って誰だっけ、という人も。

 参加は誰でも自由、人数制限もありません。
 ちょっと遊んで行きませんか?




リプレイ本文

 門木一味が占拠した――もとい門木と愉快な仲間達が借り切った食堂とそれに続く調理室は、朝っぱらから楽しそうで何よりでした。


「せっかくのお祝いパーティだし、祝辞は芸術に託すか!」
 伊藤 辺木(ja9371)は割り箸アートに挑戦する様だ。
 しかし、こういうものは一人でやっても楽しくない、ことはないが、一人でコツコツ作業するのは絵面的にどうにも地味だ。
 それに芸術は互いに競い合ってこそ、一人では到底辿り着き得ない高みに到達する事が出来るというもの。
 という訳で。
「さあ、挑戦者はいないか! 食堂だし割り箸はいくらでも!」
「よし、ここは俺が」
 ミハイル・エッカート(jb0544)がまず最初に名乗りを上げる。
「スカイツリーにレインボーブリッジ、華麗に作るぜ」
 しかも秘密の仕掛け付きだが、内容は出来上がるまで誰にも教えないんだぜ、なんたって秘密だからな!
「いいか? 俺の邪魔したら撃つぞ」
 アサルトライフルを、がちゃり。本気だ。
「命が惜しいヤツは俺に近づくんじゃねぇ――って言ってんだろうが!」
 背後から近付く気配に容赦なく銃口を向けるミハイル!
 しかし!
「きゃあぁっ!」
 どさり、カラカラ。
 重たい買い物袋が床に落ち、中の荷物が散らばる。
「ミハイルさん、ひどい…! ミハイルさんに頼まれたから、割り箸いっぱい買って来たのに…」
 その声に、はっと我に返ったミハイル。
 見ればそこには涙目のクリス・クリス(ja2083)が!
 あー、泣かせたー。女の子泣かせたー。
「あ…すまん! そうだ、そうだったな! うん、ありがとう。こんなに沢山、重かっただろう!」
 慌ててご機嫌を取ってみるミハパパさん。 ※親子ではありません
 割り箸なら食堂に山ほどあるが、そうそう、このメーカーの割り箸が欲しかったんだよ。
「俺の芸術は特別だからな、材料にも特別な箸が不可欠なんだ、うん」
「だったら俺は使用済みの割り箸で抵抗してやる! これぞエコ! リユースこそが割り箸アートの神髄!」
 辺木はゴミ箱から使用済みの割り箸を回収し、洗って乾かして。
 使用済みだから形も不揃いだが、そこは切って削って形を整え、作るのは10円玉の裏のやつだ!
「あれ、何て言ったっけ。そうそう、平等院鳳凰堂!」
 接着剤はイベントの趣旨的にチョコ塗って冷やして固める!
 きっと大量に塗り固めれば丈夫になるって信じてる!
 そして――
「ムサシに跨った私参上!」
 ラテン・ロロウス(jb5646)が華麗に参戦!
「フッ…身近にモデルがいる以上、リアルに作れるのはこの私! この勝負もらったぞ!」
 身近にモデルという事は、アートなアルパカを作るのだろうか。
 しかしこちらも、完成までは秘密の様だ。
「見てはいかん! 私の素晴らしいアイデアを盗みたくなる気持ちはわかるが、芸術はオリジナリティが命なのだ!」


 一方、頼んだ本人に忘れ去られるという悲しいトラブルを乗り越えて無事にお使いの使命を果たしたクリスは、もうひとつの買い物袋をテーブルに置いた。
 満を持して、これからチョコを作るのだ。
 真のヒーロー、いや、ヒロインは遅れてやって来るもの!
「先月贈り忘れたから、この機会に穴埋めだー。材料は買ってきたー♪ 作り方は知らないー♪」
 …え?
「うん、知らない」
 にっこり。
 でもきっと、こうやって待ってれば誰かが気付いてくれるよね。
 ほら、気付いてくれた。
「あの…良かったらお手伝いしましょうか?」
 カノン(jb2648)がこそりと申し出る。
 大変だった時に顔を出せず、こんな機会に出て来るのは図々しくないだろうか。
 しかし、お祝いであれば来ないのも失礼な気もするし――と、ぐるぐるしていた所に絶好の口実を見付けた、というのが真相らしいけれど。
(あ…お手伝いの裏方なら、自然ですよね?)
 うん、そうだ。
 これならきっと、違和感なく場に馴染む事が出来る筈。
「カノンさん、ありがとー」
 そうとは知らないクリスは素直に喜んでいる。
 でも別に騙した訳じゃないし、大丈夫だよね。
「え、なに? クリスはカノンに教えて貰うの?」
 と、隅っこで沈み込んでいた鏑木愛梨沙(jb3903)が顔を上げた。
「じゃあ、あたしも! あたしも一緒に教わりたいな!」
「あ、はい。よろしければ…どうぞ」
 教えると言うより、手伝いがメインになるだろうけれど。
 でも大丈夫、チョコレート壊の数だけコツは学んだ(合掌
 焦がしたとか、冷えたかどうか確認のつもりで指紋を付けてしまったとか、失敗のバリエーションには事欠かない。
(えぇ…そうしてがっかりした気持、味わってほしくないですから)
 貰う方にしてみれば、そうした努力の跡が見えるのもまた嬉しいものだけれど。
 しかし贈る方にすれば、やはりそこは完璧に決めたいのだ。
「カノンはもう渡したの?」
 愛梨沙の問いに、カノンはこくりと頷く。
「そっかぁ、あたしバレンタインって知らなくて…もうすごいショック」
 しかし、今からでも遅くない。
「愛梨沙さんも一緒に頑張ろうね」
 クリスがにっこり。
「うん、頑張って美味しいの作ろう?」


 三人が連れ立って調理室に入ると、そこには既に先客の姿があった。
「藤咲さんと一緒にケーキを作ります!」
「わたしはカーディスさんのお手伝いするね!!」
 黒猫忍者カーディス=キャットフィールド(ja7927)と、藤咲千尋(ja8564)のコンビだ。
「苺いっぱい入れよ!! ケーキといえば苺!!」
 いや、その前に。
「ケーキはきちんと測って作らなければ上手く出来上がらないのですよ〜」
「あ、そうか! じゃあ、私は苺を洗っておくね!!」
 千尋は苺。
 あくまでも苺。
 苺以外はノータッチ!
 って言うか苺入れすぎ!
「多少アレしてもきっとカーディスさんがなんとかしてくれるよねー」
 だいじょぶだいじょぶ。
「大事なのは気持ちだよ、気・持・ち!!」
 この苺と膝小僧を愛する――いや、膝小僧は今回お預けだけど、そこは妄想力で!
「そう、一番大切なものは〜愛です」
 コクり。
「料理は愛情ですよ!」
 ググッ。
 届け、この愛! たっぷりのクリームと、溢れんばかりのって言うか溢れて零れてる苺と共に!

 部屋中に漂うホイップクリームの甘い香りに、チョコの香りが混ざり始める。
「カノンさん、手ほどきよろしくお願いします♪」
 ぺこりと一礼すると、割烹着に三角巾という給食当番スタイルのクリスは真剣な眼差しでチョコとの格闘を始めた。
「チョコ刻んで〜湯煎して〜生クリームとろーり」
 歌う様に唱えながらチョコを溶かしていく。
 隣では愛梨沙も真剣な表情で鍋に向き合っていた。
「それにしてもセンセって慕われてるんだ…学園のセンセ達の中で一番だったなんて」
 もしかして、ライバル多い?
(でも負けてられない、あたしだってセンセの事大好きだもん!)
 料理は余りした事がないという愛梨沙はかなり危なっかしい手つきだが、それでもクリスの目には上手に見える様だ。
「う…愛梨沙さん上手だ…」
 どうしよう、同じものを作ったのでは見劣りしてしまうかもしれない。
「えい、差別化の為に香り付けっ」
 じゃーん!
 取り出したのは、何やらお値段の張りそうな洋酒の瓶。
「部室の冷蔵庫で見つけたのー。VSOPって美味しいのかな?」
 よくわからないが、見るからに高級感が漂うラベルからして、きっと美味しいに違いない。
 ぽたぽたと、かなり遠慮なく垂らして掻き混ぜ、冷やして固めて生チョコの出来上がり。
 愛梨沙の方はもう一手間加えてトリュフに挑戦してみる様だ。
「丸める時は手を冷やしておかないと、どんどん溶けてしまいますよ」
 と、経験者は語る。
 悪戦苦闘の末に出来上がったのは、大きさもバラバラ、形も必ずしも丸いとは言えない、トリュフ…らしきもの。
 しかし味に問題はない筈だ。多分。

「パーティーと言うことでしたら、準備をお手伝いいたしますわ」
 二人がチョコを作っている姿を見て、長谷川アレクサンドラみずほ(jb4139)は大量にお湯を沸かし始めた。
「なるほど…ではわたくしはチョコレートに合う紅茶を準備しましょう」
 美味しい紅茶でお客様をもてなすのは英国貴族として当然のこと。
 また、自らも一日最低4杯は飲むという紅茶好き、時間帯やシーンに応じた茶葉のチョイスなど朝飯前、いやティータイム前だった。

「先生の優勝のお祝いするのです…!」
 シグリッド=リンドベリ (jb5318)は、酒の肴になりそうなオードブルや、軽食の用意に忙しい。
 サーモンや生ハム、海老アボカドのカナッペや、各種サンドイッチ…
「学園中が甘いにおいに包まれてたので、甘くない物がいいかなって」
 と言うか今も現在進行形ですっぽりと包まれている。
 甘味が苦手な人は勿論、そうでない人の箸休めにも、砂糖抜きの食事系メニューは喜ばれるだろう。


 そして、少し離れた別の調理室では。
(門木先生…大好き(////)
 もはやその想いを胸に秘める事を完全放棄したレイラ(ja0365)が、門木の菓子作りを手伝っていた。
(…はぅ)
 ただ、肝心の本人が相変わらずの鈍感スキル全開ときては、溜息のひとつも吐きたくなるというものだろう。
 しかしそこは長い目で見守って頂くとして。
「えっと、ホワイトデーですか」
 気を取り直して、レイラはエプロンの紐を締め直す。
「気持ちを形にするのって大変だと思いますけれど精一杯お手伝いさせていただきますね」
「…ん、よろしく…頼む」
 門木は右隣に経つレイラにぺこりと頭を下げ、次いで反対側にも頭を下げた。
 左隣には、こちらもお菓子作りの助っ人として来てくれた、礼野 智美(ja3600)の姿があった。
 そう、二人きりではないのだ――残念ながら。
 門木にとっては二人とも大切な生徒、ならば三人で仲良く一緒に、というのは自然な流れだった。
 他の生徒達とは離れた場所でこっそりやっているのは、これが秘密の特訓だからだ。
 実は門木、一度自分でクッキーを作ってみた事がある。
 しかし結果はお察し下さいといった代物で…だから、こっそり練習して驚かせようという計画だった。
「お返しは、消え物だったら遠慮なく受け取ってもらえるでしょうね」
 因みに去年の優勝先生は餡パンだったらしい。
「ただ、マシュマロ・ホワイトチョコ・クッキーは止めた方が良いと思いますよ」
「…?」
「贈る物で相手に対する感情を示すって意味もあるそうですが、これ諸説あるんですよ」
 因みにマシュマロは「あなたが嫌い」という意味だとか。
 聞いた途端、門木が青くなった。
「まあ、あくまで一説ですから」
 手遅れだった事を察して、智美が言う。
「それに、先生お菓子作りってやられた事無いでしょう?」
「…ぇ、ぁ…うん」
 目が泳いでいるが、気にしてはいけない。
「…クッキーより、パウンドケーキのほうが良いと思いますよ。材料混ぜ合わせて型に入れて焼く、ってだけですし」
 紙のミニ型なら型ごと贈れるし。
「…チョコケーキなら炊飯器で作るって方法もあるんですけどね」
 チョコは流石に、もういいだろう。
「…うん」
 じゃあ、それで。
 しかし門木としては、クッキーのリベンジも捨てがたい。
 その意味が「友達のままで」というのも何ら問題はないし…少なくとも、今の所は。
「では、そちらは私がお手伝いしますね」
 レイラが言った。
 まずは料理の基本的な所から、後は材料と調味料の分量や火加減などを手取り足取り丁寧に。
「私も一緒に作りますから」
 その通りに真似すれば、きっと上手く行く筈だ。
 多分、いくらくず鉄大魔王でも。


 暫く後。
「門木先生〜、おめかしの時間なのですよ〜」
 丁度ケーキもクッキーも焼き終わった所で、美容担当アレン・マルドゥーク(jb3190)が迎えに来た。
 パーティの主役たる者、いつものヨレヨレ姿では格好が付かない。
 作品の出来映えは会場で披露するとして――
「では、こちらへどうぞ〜」
 隣の空き教室で、変身タイム。
「これでもかとビシッときめた渋いけめんに変身させちゃうのですよ〜」
 はい、よろしくお願いします。
「それにしてもあのポイントは…すっごいチョコ貰っていそうですねえー」
「…うん…すごかった」
 多分、一年かかっても食べきれないと思う。
「それだけ沢山だと、色んなチョコがあるんでしょうね〜」
 市販のチョコや、手作りチョコ。
 そう言えば、女子の手作りチョコには何か色々と…おまじない的な何かが入っている事があると、芸能人な親友からチラっと聞いた事がある。
 普通は食べ物に入れない物や、入れてはいけない物が、色々と。
 でもまあ、門木もとりあえず天使だし。
 天使なら何か入っていてもきっと大丈夫。多分。
 勿論、アレンが贈ったチョコは安全だ――物理的にも、そこに込められた意味的にも。
「そうそう、おかえしもありがとうなのですよ〜。今年はちゃんとあってましたね〜。去年はびっくりしましたよー」
 そう、あれは去年のホワイトデー。
 まだまだ人界の知識に乏しかった門木は、事もあろうに彼に指輪を送り付けたのだ。
 そりゃ驚くよね、うん。
「…いや、あれは…すまなかった」
 他意はない。ただ単純に、アレンには綺麗な指輪が似合いそうだと思っただけなのだ。
 今年はちゃんと勉強し、指輪の意味も理解した。
 マシュマロの意味は知らなかったけれど。
「…まだまだ、知らない事が沢山あるな…」
 人間界は奥が深い。


 午後三時、おやつの時間。
 食事の準備も整い、これから始まる楽しいパーティタイム。
 食堂には準備を終えた生徒達に混じって、新しい顔も増えていた。
「何か皆で集まって楽しい事をすると聞いたので顔を出してみた」
 フォーマルな衣装に身を包んだ今本 頼博(jb8352)が、軽く頭を下げる。
 その隣には、少し緊張した面持ちの雪之丞(jb9178)の姿があった。
「あまり乗り気はしないが…こういう場にも顔を出さんとな」
 男子の制服に身を包んではいるが、中身はれっきとした女性だ。
 彼女はこの学園に来てまだ日も浅く、知った顔とて殆どいない。
 そこに折良くパーティ開催の報せがあった為、折角の機会だからと学園の皆への顔見せも兼ねて来てみたのだ。
 他にも新入生らしき顔が何人か見える。
 ジェガン・オットー(jb5140)とレンタス(jb5173)の二人も、気楽にパーティを楽しみに来たのだろうか。
 遠慮はいらない、ここは自由気ままに楽しんだ者勝ちの無礼講だ。

 だが、ここでミハイルが声を上げた。
「ちょっと待て! 俺達の戦いはこれからだ!」
 辺木も良い笑顔で親指を立てながら白い歯を見せる。
「ここは俺が食い止める、お前達は先に行け!」
 ラテンは黙々と割り箸を削り続けているが、思いは同じだろう。
 つまりは、割り箸アートがまだ全然出来ていないから、先にパーティ始めて良いよという事だ。
 では、お言葉に甘えて――

 一部を除いてすっかり準備の整った食堂に、門木が顔を出す。
 その姿を見た皆の目に「誰?」みたいな色が浮かぶが、それも一瞬の事。
 そう、門木は美容師の腕次第では別人の様なイケメンに化ける事も可能なのだ。
 本日の服装はスーツに細かなドット柄のネクタイ(羽を模ったシルバー製のタイピン付き)、その上から真新しい白衣を羽織っている。
 実は、これらは全て頂き物だ。
 主食もチョコだし、このままずっと頂き物だけで生きて行けそうな気もする。
 と、それは置いといて。

 改めて、皆で歓迎の言葉を。
「門木先生優勝おめでとうございますなのですよ〜」
 まずは美容師のアレンから。
 続いて立ち上がったのは、カーディスと千尋。
「門木先生優勝おめでとうです!」
「門木先生、優勝おめでとうー!!」
 二人で捧げ持っているのは、大きな苺のホールケーキだ。
 ケーキが主役なのか苺が主役なのか、わからない程に苺てんこ盛りだが、僅かに残ったクリーム部分にはチョコで「門木先生!優勝おめでとうございます☆」と書かれている。
「名づけて…優勝おめでとうケーキですよ!(*゜∀゜*)にゃー!」
 では、どうぞ!
「先生、あーんなのですよ〜」
「門木先生、はい、あーん!!」
 え、ちょっと待って、それ丸ごと!?
 二人は相手がイケメンモードでも容赦はしない。
 でも無理、無理無理無理無理って言うかもしかしてこれは罰ゲーム!?
「クリームまみれ、めにあーっく!!」
 服、服が汚れるから!
「なんて、冗談なのですにゃー」
 大丈夫、ちゃんと切り分けてあげるから。
「はい先生、あーん!!」
 でもやっぱり「あーん」なのか。
 って言うかそれでも大きいんだけど、やっぱりこれは何かの罰なんだろうか。

「おめでとうございます」
 やっとの思いでケーキを呑み込んだ所で、智美からは花束を手渡された。
 男装の麗人から渋イケメンへの花束贈呈というのも、なかなか絵になる気がするのだけれど、どうでしょう?
「フルーツの盛り合わせもありますから、良かったら皆さんでどうぞ」
 その後に続いたのは、こちらも男装の麗人、雪之丞だ。
「門木先生、バレンタインチョコだ。自分は渡せてなかったんでな」
 自称、可も無く不可も無い手作りチョコ。
 だが綺麗にラッピングされたその見栄えから察するに、それは恐らく謙遜だろう。
「…雪之丞、か」
 科学室以外で顔を合わせるのは始めてだったか。
「…わざわざ、ありがとう」
「では…パーティ楽しんで」
 小さく頷くと、雪之丞は隅の席へ戻って行く。

 続いてクリスと愛梨沙からは作りたてのチョコが手渡された。
「はい先生。お祝いと感謝込めて出来たてをあげるね」
「…ん、ありがとう」
 包みから漂う、ほんのりとしたブランデーの香り。
 割り箸アート作りに没頭していたミハイルの手が止まる。
「まさか、それは…」
「これ? 部室の冷蔵庫にあったから、持って来ちゃった」
「俺の秘蔵品が!!」
 クリスの手の中でちゃぽんちゃぽんと揺れる液体は、瓶の半分ほどまで減っていた。
「しかもすげぇ減ってる!?」
「これミハイルさんの? だめだよー、ちゃんと名前書いておかないとー」
 そうだね、仕方ないね、諦めようね。
 かくしてクリスの手作りチョコは、期せずして超高級品に。
「…ちゃんと、お返し…用意しないとな」
 今年は何が良いだろう。
 中年男性にしてみれば、小学生女子が喜びそうなプレゼントを選ぶのは至難の業なのだが――
「お返しは先生の笑顔がいいな♪」
 え、良いの? そんなんで?
「…とりあえず、これでも」
 差し出したのは出来たてのクッキー。
 大丈夫、ちゃんとレイラ先生に教わった通りに作ったし、味見もして貰ったから。
「ん、美味しいー」
「…そうか、良かった…」
 褒められて、門木も自然と笑顔になる。
「お返し、ありがとー♪」
 え、ほんとにそれで良いの?
 クリスたん、ええこだ(ほろり
 続いて愛梨沙が少し不安そうにトリュフを差し出した。
「センセ、あたし頑張って作ったの。食べてくれる…?」
 差し出されたチョコよりも、それを持つ手に出来た切り傷や火傷に努力と苦労の跡が忍ばれる。
「…ありがとう、いただきます」
 見た目は今イチだが、味は普通に美味しい。
 と言うか、この味には覚えがあるのだが。
「カノンに教えて貰ったの」
 なるほど、そういう事か。

 で、そのご本人は何故にそんな隅っこに隠れているのでしょうか。
「あ、あの、えぇと…ご無沙汰し過ぎて、あの」
「…そうだな」
 本当に、久しぶりだ。
「…元気そうで、安心した」
 門木は軽く息を吐いて、目を細める。
 変わらない。いや、少し雰囲気が柔らかくなっただろうか。
「…安心、した」
 特大の溜息と共に、大事な事なのでもう一度。
「…こっち、来ないか? 皆と一緒の方が…楽しいと、思うし。俺、クッキー作った…から」
 新手の口説き文句にも聞こえそうだが、本人にそのつもりは多分ない。
 だが、それだけに紛らわしいと言うか何と言うか。
「…な?」
「…うん」
 下を向いたまま小さく頷いたカノンと共に、門木は皆の所に戻って来る。

 その様子を、ディートハルト・バイラー(jb0601)は微笑ましげに見守っていた。
 その視線に気付いた門木は、今度はそちらにひょこひょこ寄って行く。
「優勝おめでとう、友人の俺も鼻が高いよ…なに、笑ってやいないさ」
 少なくとも、優勝した事に関しては。
「からかいになんて来やしない、純粋に祝いに来たんだぜ?」
「…うん、ありがとう…?」
 門木は今ひとつ腑に落ちない様子だが、とりあえず礼を言ってみる。
 その様子にまた悪戯っぽい笑みを漏らしながら、ディートハルトは門木の肩を軽く叩いた。
「さあ、行ってこい。お嬢さんがたがお待ちかねだ」
「…お前、は? …ディート」
「俺はいい。前のように一緒に飲めないのは少し寂しいが、女性に囲まれて焦っている君を肴にするのも嫌いじゃあない」
 それに、そのうちきっと自分から逃げてくるだろう。
 それまで一人でのんびり飲むのも悪くない。
「前々から知ってはいたが、俺の友人は大層モテる」
 戻って行く門木の背を見送りながら、ディートハルトは呟いた。
「それでも彼が幸せであればいいと思うのは、俺もまた、彼に惹かれているからだろう。…勿論、友人としてだがね」
 ええ、大丈夫わかってますよ!

 そんなわけで、門木の周囲は女子率がやたらと高かった。
「あの、先生。私が作ったクッキーも食べてみて貰えますか…?」
 レイラが形の良い、いかにも美味しそうなクッキーを差し出す。
 その脇に積まれた門木作のクッキーとは、明らかにモノが違っていた。
 同じ様に作った筈なのに、何故かそこには歴然とした差が付いている。
 智美に教わったパウンドケーキも何故か膨らまないし、膨らんだと思ったら爆発するし。
「でも、不器用でも心が籠もっていればそれで良いと思います」
 あとは、ちゃんと食べられるものなら。
 食べられるお菓子、ここ重要。
 でも、中には食べられないお菓子でも大切に思ってくれる人もいるみたいだけど、ね。
「…来年は、もっと上手く出来るように…今から練習、しておく」
 その時に贈るのは、やはりクッキーなのだろうか。
 それとも他の何か…?

「先生、この間の新年会、すごく楽しかったよ!!」
 皆に苺ケーキを配りながら、千尋が門木に話しかける。
「振袖も貸してくれてありがとうね!!」
「…そうか。良かった」
 余計な世話だったかと思って、実はちょっと心配していたのだが。
「ううん、そんなことないよ!!」
 千尋は次にレイラの前にケーキを置いて、ひとつ深呼吸。
 着付けをして貰ったお礼を言わないと。
 年上の女性は最近ちょっと苦手だけれど、でも頑張る。
「あのね、どうもありがとうね!!」
「どういたしまして」
 笑顔で言えば、笑顔が返ってくる。
 これでほっと一安心、後は存分に食べる! 遊ぶ!

「先生改めて優勝おめでとうですよ」
 それだけ言うと、微妙な男心により門木との距離感に悩める13歳は、落ち着かない様子で辺りをきょろきょろ。
「あれ、あんのうんさんは…?」
 女の子達の間に入っていくのは気が引けるし、門木を独り占めするのはもっと無理だし、ねこさん(カーディス)はケーキを食べるのに忙しそうだし。
 他に誰か知り合いでもいてくれれば、少しは安心出来るのだけれど――
「確かパーティに来るって…」
 いた。
 Unknown(jb7615)は隅っこの方でまったり一人酒している。
「ザコキャラ…もとい醜い魔物は誰にも愛されぬからな」
「そんなことありませんよ!」
 その呟きを聞きつけたシグリッドは、Unknownの腕をぐいぐい引っ張ってみた。
「あんのうんさん、こっちに来て皆と一緒に楽しみましょう?」
 仕方がない、そこまで言うなら行ってやるか。
「ザコキャラでも背景の足しにはなるだろう」
「またそんなこと言ってー」
 Unknownは、門木の真後ろの席にどっかりと腰を下ろす。
 競う意味はさっぱり解らないが、職業柄それだけ慕われていると捉えるのだろうか。
「羨んでもしょうがないしな」
 ぽつりと呟き、長い腕を伸ばして門木の頭をわしゃわしゃと掻き回した。
「…ま、良かったな」
 せっかく整えた髪はあっという間にいつもの残念な感じに戻る。
 が、門木には多分これくらいが丁度良い。
「ところでカドキ」
「…うん?」
「眼鏡はないのか、せっかく指紋を付けて遊ぼうと思ったのに」
 ごめん、イケメンモードの時は外してるんだ。
「そうか、残念だ」
 それはそうと。
「ここに我輩の手製の魔心籠った甘くないビスケットがある」
 どさり、テーブルに置かれた大きな袋。
 10kg入りの米袋ほどの大きさだろうか。
「皆から貰ったチョコをつけて食うといいのだ。食べ方を変えれば、もう少しチョコも減り易いであろう」
「…こんなに…?」
「うむ、少なくてすまぬな。この程度なら、ものの数分もあれば食い尽くしてしまうであろー?」
 いやそれUnknown基準だから。
 でも、有り難く頂きます。

「ビスケットですか〜、丁度良かったのですよ〜」
 アレンがいそいそとチョコレートフォンデュの準備を始めた。
「チョコレートに合う紅茶と言えばなんといってもアールグレイですわ」
 その間にみずほが自慢の紅茶を振る舞う。
「ベルガモットのさわやかな香りで重くなったお口の中をすっきりとさせてくれます」
 なるほど、そうなんだ?
「お好みの方はホットで構わないのですけど、強い香りで飲みにくい方もいるとは思います。というわけでアイスで飲めるように氷も用意いたしましたわ」
「じゃあ、僕はアイスでお願いします」
 炭酸が苦手なシグリッドは、ジュースの代わりにアイスティーで。
「あ、ウィスキーは入れてはいけませんわよ?」
 みずほが注意を促すが、駄目と言われると却ってやりたくなるのが人情というもの。
 それに近頃の日本では「押すな」と言われたら思いっきり押してやるのが礼儀らしい。
 というわけで。
「ウィスキーはないけど、ブランデーはどうかな?」
「ブランデーを入れた紅茶でしたら、ティーロワイヤルというものがありますわ」
 クリスの問いに、みずほは即答。
 ブランデーを染み込ませた角砂糖に火を点けて、アルコール分を飛ばしてから紅茶に入れたものだ。
「面白そう、やってみよー♪」
 アルコールを飛ばすと言っても多少は残るから、自分では飲めないが。
「えーと、角砂糖にブランデーを…」
 どぼーっ!
「あ、かけすぎちゃった」
 どこか向こうの方で茶色い悲鳴が聞こえた気がするが、気にしない。
「はい先生、どうぞー」
「…ありがとう」
 うん、良い香りだ。
「チョコフォンデュの用意も出来たのですよ〜」
 しかし、鍋の前に並んでいるのはコンビニで買ってきたお寿司ばかり。
「お祝いといえばやはりおすし!」
 いや、それはわかるけど、まさか。
「そしてこのおすしをチョコにどぼんなのです」
 そのまさかだった!
 美味しい? それ美味しいの?
「美味しいですよ〜ハバネロ酒が良く合うのです〜」
 アレンさん、どうやら新年会ではまっちゃったらしい。
「先生もどうぞなのですよ〜」
 いや、どっちも遠慮しておく。
 辛いの苦手だし。
「普通はチョコフォンデュの具材と言ったらフルーツとかお菓子とかなのですにゃん」
 カーディスが言った。
 そうだ、さっきUnknownに貰った甘くないビスケットがある。
 あれならきっと丁度良い。
 ということで、チョコにドボン。
 だがしかし!
 確かにそれは甘くなかった。
 だが、代わりにたっぷりの香辛料が使われていたのだ!
 もう一度言う。
 門木は辛いものが苦手だ。超苦手だ。
 それを食べた彼がどうなったかは、お察し下さい。
「先生!」
「大丈夫ですか!?」
「誰か口直しに甘いものを!」
 因みにUnknownに悪気はない。これっぽっちもない。
 この辛さも彼の基準では、チョコと合わせると丁度良い加減の適度にスパイシーなアクセントが効いている程度のものだ。
 あくまでUnknown基準では、だが。

 さて、甘いものと言えば。
 向こうのテーブルの甘さも大概だった――主にその醸し出す空気的な意味で。
「さあ、今日は主として目一杯に楽しませてやろうではないか」
「思いきり甘えても良いのですね…?」
 人目も憚らず寧ろ見せ付ける勢いでイチャコラしているのは、エクレール・ポワゾン(jb6972)と露原 環姫(jb8469)の主従。
「ああ、好きなだけ甘えるが良い、我が姫よ」
 えーと、因みにお二人はどういった…?
「エクレール様との関係、ですか?」
 環姫が答える。エクレールの膝の上で、喉を鳴らしそうな勢いでうっとりと目を細めながら。
「…私のご主人様、です…♪ こう、ペットとその飼い主、みたいな…♪」
 はあ、左様ですか。
 えーと…お幸せに?
「はい…♪」
 満面の笑みと共に、環姫はエクレールを見上げた。
「ほら、環姫。此方も美味しそうだ。あーん、してごらん?」
「あーん♪」
 ぱくり。
「美味いか?」
「はい、とても…」
「ふふふ、君は此の味が好みな訳だ。今度、私も作ってあげよう」
 時にはお菓子と一緒に、エクレールの指先も咥えてみたりして。
 ねっとりと舐めたり、音を立ててしゃぶったり。
「ん…っ」
 ひくん、エクレールの喉が震える。
「…ふふ、気持ちいい、ですか…?」
「ああ、君はいけない子だね」
 解放された指先で環姫の首筋を撫でながら、エクレールは妖艶な笑みを浮かべた。
 それに応えて、環姫はその耳元に囁く。
「もっと、いけない事も…出来るのですよ…?」
「例えば?」
「私に、それを言えと仰るのですか…?」
「言えないのなら、私がしてやろう」
 んっちゅーーーーーーー。
「…恥ずかしいですけど、でも、甘くて、気持ちいい…♪」
 夢見心地とは、今の環姫の様な状態の事を言うのだろう。
「…やっぱり、エクレール様のお口が一番、甘くて美味しい、です…♪」
 はいはい、続きはお家に帰ってからねー。
 もう砂糖は充分だからー。

「あー、ええと…割り箸アートの方はまだ時間がかかるみたいだな」
 妙な色に染まった甘すぎる空気を振り払う様に、頼博が言った。
「ゴム鉄砲なら簡単に作れるのですがー」
 シグリッドは誰もが一度は遊んだ事があるであろう、割り箸に輪ゴムを引っかけて飛ばすゴム鉄砲を量産していた。
「ほら、もう出来ましたよー。皆でぺちぺち撃って遊びませんか?」
 こんなものでも人に当たると危ないから、的を作って得点を競うとか。
「先生の分も作ったのですよ」
 シグリッドは門木にも一丁渡そうとする、が。
「ナーシュは何も見ていないのです、聞いていないのです」
 彼はテーブルの下に潜り込んで、絶賛幼児退行中でありました。
 アダルト分野に関して、どんだけ免疫ないんですか。
「とりあえず何か余興でもやるか」
 頼博が立ち上がる。
 まずはダンスのスキルでタップダンスでも、と思ったけれど。
「誰か、お相手してくれる人はいるかな」
「自分で良ければ、相手になってもいいが」
 雪之丞が名乗り出た。
「ただ、私のはワルツの社交ダンスだが、出来るか?」
「ぜひお願いしたい。大丈夫、雪之丞さんに合わせるよ」
 雪之丞は男の格好をしているが、頼博は徹底してレディとして扱い、エスコート。
「今本、ちゃんとついて来いよ」
「仰せのままに、お嬢様」
 音楽は適当に選んで、食堂のスピーカーから流して貰う。
 華麗なステップと身のこなしで、二人は息の合った演舞を見せた。
「なかなか上手いな」
「お褒めに与り光栄です、お嬢様」
 そして二人は踊り続ける。
 頼博のスキルが底を突くまで。
 それでもまだ、割り箸アートは完成しなかった。
「仕方ない、次は手品だ」
 軽妙なトークを交えながら、頼博は簡単な手品を披露する。
「さあ、ここに取り出したるは種も仕掛けもない、縦縞のハンカチ!」
 それを丸めて、帽子の中へ。
「しかしこうして魔法の呪文を唱えると、あら不思議! なんと、縦縞だったハンカチが横縞に!」
 何のことはない、縦のものを横にしただけの手品とも呼べない代物だ。
 しかし、そこにトークが加われば楽しさ百倍、多分。
 その証拠にほら、受けている!
「頼博君すごーい!」
 パチパチと楽しそうに手を叩いているのは…え、雪之丞、さん?
 もしかして、酔ってる?
「酔ってなんかいないわよー?」
 うん、酔ってるね。
 彼女も酔うと素が出るタイプらしい。
 さて、受けたのは良いが…どうしよう、もうネタがない。
 さりとて自分は全員が準備を終えるまで飲み食いを自重する所存。
 と、ミハイルから声がかかった。
「俺達の事はいい、先に楽しんでくれ!」
「そうだ、俺達は最後の最後に大トリとして爆発して散る運命!」
 辺木によれば、爆発は既に確定らしい。
「私も続くぞ! 皆の者、刮目して待つがいい!」
 ラテンも爆発する気満々だった。

 そして待つこと暫し、いや数時間。
 皆が食べたり飲んだり輪ゴム鉄砲の射的で遊んだり、疲れて寝ちゃったりした頃。
「おかえり、ショウジ」
 芸術はまだ完成していなかった。
「さあ、飲もうか?」
 女子会を抜けて来た門木に、ディートハルトが杯を差し出す。
「ドイツにもこういった行事が増えればいいんだが」
「…ドイツには…ないのか?」
「バレンタインはあるが、お返しの習慣はないね。あれば、こうして酒を飲める機会も増えるんだが」
 と、片目を瞑って見せた。

 そして更に、待つこと暫し。


 遂に、遂に完成しました割り箸アート!

「先生おっめでとー!」
 辺木の作は平等院鳳凰堂と、それを狙うデコトラ怪獣デコラ! 全身をマッチ棒でデコった人型トラックだ!
 ただし全部茶色で、おまけにチョコくさい。
 題して「平等院鳳凰堂危機一髪」!

「バレンタインキングおめでとうだ!」
 ラテンの作は突貫工事巨大割り箸ロケット、この見事なフォルム…重工感…完璧だ!
 名付けて…「おひねり1号」!
「窓をアルパカ型にするのは流石に手間取ったが…ムサシのおかげだな」
 身近にモデルって、そこですかい。
 てっきり等身大のリアルアルパカでも作ってるのかと思いましたよ。
「いや、最愛のモチーフはあくまでさりげなく、しかし拘りをもって細部までしっかりと再現する事こそが芸術なのだよ!」
 因みにデザインの参考にしたのは打ち上げ花火。
 勿論、火を点ければもれなく発射する所もモデルに忠実に作ってある。
 だから火気厳禁だ。
 いいな、火気は厳禁だぞ!

 そしてミハイルは押し黙ったまま、自らの作品の前に立った。
 天を衝くように聳え立つスカイツリーと、横にやたらと長いレインボーブリッジ。
 その細工は見事としか言い様がなかった。
 しかし、驚くのはまだ早い。
 手元のスイッチを押すと仕込まれた電飾が光るのだ。
 スカイツリーは七色に輝き、橋の上には「門木先生おめでとう」の文字が浮かぶ!
「俺のアート魂に火がつけばこんなもんだぜ」
 出来上がりっぷりに満足したミハイルは、鼻高々。

 しかし、ここで悲劇は起きた。
 いや、喜劇と呼ぶべきか。
「っしゃぁ! 負けてらんねえ、俺もこいつを動かずぜ!」
 撃退士腕力で力強くデコラを動かし、れっつデモンストレーション!
 じりじりと迫るデコラ、危うし平等院鳳凰堂!
 じしじり、じりじり…じりじりと…熱い?
「…あ、マッチ棒が擦れて…ぬあぁぁ燃えたぁぁ!?」
 何がどうなってるのか良くわからないが、とにかくそういう事だ。
「辺木! こんなところで火事起こすんじゃねぇー!」
 どーん!
 ミハイルは辺木の背を思いきりド突いた!
 解説しよう、つまりこれは辺木が体を張って上から覆いかぶさることによって、炎への酸素の供給を防ぎ…まあ、自分で責任持って消せという事だ。
 しかし、相手は辺木だ。
 あの爆発には定評のある辺木だ。
 ここで爆発せずして、いつどこで爆ぜると言うのか。
「俺の全身に付着した割り箸おがくずも引火したぁぁぁ!?」
 その熱で接着剤に使ったチョコが溶け、全てがドロドロになって崩れ落ちる。
 腐っている、早すぎたのだ。
 じゃなくて。
「そしてなんやかんやでやっぱ爆発したぁぁ!!?」
 題名「伊藤辺木大爆発」
 理由は訊くな。原理なんて存在しない。
 形あるものはいずれ全てが爆発する、それが運命なのだ。
 そして爆発の炎は当然の如くミハイル渾身の作にも燃え移り、それを導火線にしてラテンの火気厳禁に点火、発射!
 おひねり1号は轟音と共に上昇を開始、このままでは天井を突き破って宇宙空間まで到達――は無理だけど。
「大丈夫だ、こんな事もあろうかと!」
 安全の為に命綱を付けておいたのだ。
 それを引けば上昇は止まり、天井の破壊も免れる。
 ただしその場で爆発するけどな!
「誰かが言ったのだ…爆発は芸術だと!」
 爆発と共に、頼博が打ち上げたファイアワークスの花火が夜空、いや食堂を彩る。
 頭上からは火薬に混ぜられたチョコレート壊がドロドロに溶けて降り注ぎ――


「あ ん た た ち !」
 その後、彼等が食堂のオバチャンにこってりと絞られた事は想像に難くない。
「これ全部、ちゃんと直して綺麗に片付けなさい」
 直接関わった者も、見ていただけの者も、皆仲良く同罪だ。
「明日までに!!」
「「はいっΣ」」
 頑張れ、皆。
 大丈夫、全員でやればすぐに終わるよ。
 これもきっと、時が経てば懐かしい青春の1ページ…だよね?


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:17人

202号室のお嬢様・
レイラ(ja0365)

大学部5年135組 女 阿修羅
アルカナの乙女・
クリス・クリス(ja2083)

中等部1年1組 女 ダアト
凛刃の戦巫女・
礼野 智美(ja3600)

大学部2年7組 女 阿修羅
二月といえば海・
カーディス=キャットフィールド(ja7927)

卒業 男 鬼道忍軍
輝く未来の訪れ願う・
櫟 千尋(ja8564)

大学部4年228組 女 インフィルトレイター
しあわせの立役者・
伊藤 辺木(ja9371)

高等部2年1組 男 インフィルトレイター
Eternal Wing・
ミハイル・エッカート(jb0544)

卒業 男 インフィルトレイター
夢幻に酔う・
ディートハルト・バイラー(jb0601)

大学部9年164組 男 ディバインナイト
天蛇の片翼・
カノン・エルナシア(jb2648)

大学部6年5組 女 ディバインナイト
Stand by You・
アレン・P・マルドゥーク(jb3190)

大学部6年5組 男 バハムートテイマー
208号室の渡り鳥・
鏑木愛梨沙(jb3903)

大学部7年162組 女 アストラルヴァンガード
勇気を示す背中・
長谷川アレクサンドラみずほ(jb4139)

大学部4年7組 女 阿修羅
撃退士・
ジェガン・オットー(jb5140)

大学部3年72組 男 ルインズブレイド
撃退士・
レンタス(jb5173)

大学部3年92組 男 ルインズブレイド
撃退士・
シグリッド=リンドベリ (jb5318)

高等部3年1組 男 バハムートテイマー
自爆マスター・
ラテン・ロロウス(jb5646)

大学部2年136組 男 アストラルヴァンガード
能力者・
エクレール・ポワゾン(jb6972)

卒業 女 鬼道忍軍
久遠ヶ原学園初代大食い王・
Unknown(jb7615)

卒業 男 ナイトウォーカー
ふたつのこころ・
今本 頼博(jb8352)

大学部7年259組 男 ナイトウォーカー
撃退士・
露原 環姫(jb8469)

卒業 女 ディバインナイト
秘名は仮面と明月の下で・
雪之丞(jb9178)

大学部4年247組 女 阿修羅