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マスター:シチミ大使
シナリオ形態:シリーズ
難易度:難しい
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2016/03/14


みんなの思い出



オープニング

 カメラの準備は万全であった。
 蠢く肉の塊から手足が生えてくる。
 単眼が覗き、新生したカメラの鼓動が感じられた。
「このために、新規のカメラを三つも作った。それなりの戦いを演じさせてもらおう」
 ゴォマは鼻歌を口ずさみながらコーヒーを淹れる。
 ここの位置が割れたのは既に計算済み。ならば、より撃退士の道のりを彩ったほうが画映えするというもの。
「一カメ、二カメは外で撃退士を相手取れ。三カメは僕と同行だ。激戦を映し出してくれよ」
 ゴォマの呟きに呼応するようにサイクロプス型が甲高く鳴いた。
 胎動の声にゴォマが薄く笑う。
「感情移入、学ばせてもらった。二度の戦いでね、撃退士諸君。僕も感情移入してみたくてね。高精度のカメラだ。それは何よりも鮮やかに、血よりも濃く映る事であろう! それを売りさばくのが今から楽しみだ! きっと、ヒット作になる!」
 ゴォマの高鳴る期待にサイクロプス型が吼える。
 最大の作品の予感にその口角を吊り上げた。

「位置が掴めました」
 その報告がなされたのは未明であった。
「郊外の廃工場地区に、ゴォマは陣取っている事が確認できました。傭兵の悪魔から譲り受けた座標とも一致します。久遠ヶ原は悪魔、ゴォマの討伐を決定しました。ゲートの前には二体のサイクロプス型が確認できます。ゴォマは既にこちらの情報を読み取っているのか、動きは見られません。一気呵成に攻め込むべきだと判断されます。ゴォマの邪悪な商売を、ここで根絶させましょう。この依頼を引き受けますか? 引き受ける場合はこちらにサインをお願いします」


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リプレイ本文


「僕はどちらかと言うと、ファミリー向け映画が好きでね」
 現地へと向かうバスに揺られながら、狩野 峰雪(ja0345)が口火を切った。その声を聞き届けたのは桜庭愛(jc1977)である。
「私は、プロレスの動画とかよく観ます! あ、あとはアクション映画とか!」
「君は、いかにもそんな感じだね」
 この寒空にスポーツ水着といういでたちに、狩野は納得する。
「寒そうなんて言わせませんよ! それが正義のマーシャルアーツです!」
 元気を振りまく愛に比して、狩野はどこか物憂げであった。
「悪魔に悪趣味って言うのは変かもしれないけれど、悪趣味だよねぇ」
 スナッフフィルム。得物を追い詰めていく過程を描く残虐映画。
「カメラも随分と悪趣味ですよ。目が一個しかない怪人ですから」
「サイクロプス……。僕は狙撃周りに徹しさせてもらう。前衛をつとめている二体を潰せれば、突破口が見えるだろう」
 前情報によれば、その二体の先に悪魔、ゴォマが巣を張っているという。
「私、難しいこと考えるの苦手ですから! 正面突破で、監督にプロレス技をPRします!」
「そういうひたむきさも、大事なのかもしれないね」

「ようやく会えるわけですか」
 雫(ja1894)が白く輝く息と共に因縁を口にした。
 既に現地入りしており、作戦の時間になればいつでも飛び込める。
 そのような雫の殺気を慮ってか、ラファル A ユーティライネン(jb4620)がペンギン帽子を弾いた。
「まだ昼間じゃねぇか。そう殺気立つなって」
「……ラファルさんこそ、落ち着きがない気がしますけれど」
 見た目にも分かる。悪魔を殺せるとあってか、ラファルは意気揚々としていた。
「当たり前だろ? 奴らは皆殺しだ。その前段階になって、気が急かないほうがどうかしてるってもんだ」
 口角を吊り上げたラファルの瞳は戦意に燃えている。雫は掌を見下ろした。
「サイクロプスのカメラに、人殺しのフィルム。焼き払ってもまだ、お前には物足りないほどだ」
 戦場を睨みつける雫の眼差しは本気であった。

「分からんのう」
 呻った白蛇(jb0889)にジェラルド&ブラックパーレド(ja9284)が小首を傾げる。
「何が?」
「お主じゃよ、お主」
 指されてジェラルドは肩を竦めた。
「……参ったな。味方から解せないと思われているのか」
「どこか、わしらとは違う……あちらに、肩入れしているようにも映るぞ」
 白蛇の懸念にジェラルドは笑っていなした。
「ボクは撃退士だよ。任務において、倒すべき相手が分かっていれば倒す。それが悪魔ならば潰す。それはどの段階においても、何が相手であっても変わるところはない。ただ、よく言うだろ? 作品と作者は別だって。作品を愛しても作者を愛するかどうかは別の話。同時に、悪魔を殺すことに躊躇いはなくとも、その悪魔の作り上げた作品に、敬意を払うかどうかは別なのさ」
「お主、あの悪趣味な天魔に、敬意を?」
 胡乱そうな白蛇にジェラルドは上辺の回答をしておく。
「誤解しないでくれよ。別にあっち側に寝返るだとか、そういうことじゃない。ただ、ボクの、精神性の問題かな。事態が違えば、ボクはあっち側だったかもしれない。それくらい、ゴォマ監督には……心酔もしているんだ」
 理解できないのだろう。白蛇は腕を組んで憮然と呻るばかりだった。
「……まぁ、分からぬものに分からぬと説いたところで、また無駄なことか」
「そういうこともある。興味の対象が違うだけの、シンプルな答えさ」

 サイクロプス型二体はゲートを前にして警戒網を張り巡らせていた。
 肩口の膿みのような膨れ上がりが蠢動する。どこから敵が来ても問題のない造りであった。
 そのように、デザインしている。
 第三の眼を通して戦場を見渡すゴォマはコーヒーを片手にしていた。
 芳しい香りを嗅ぐことにも随分と慣れた。香りと味覚で楽しむ、この人間の嗜好品を模倣することもまた、自分の求める芸術のために必要なのだと。
 その感覚器が、カメラと共有している視界が――こちらへと猛進してくる撃退士の姿を捉えた。
「来たね。一カメ、二カメ、共にしくじってくれるなよ。この世紀のスナッフフィルムの完成のためにね」

 サイクロプス型二体が同時に目線を向けたのは、巨大な破砕音を響かせながら土煙を上げる機械の化身であった。
「初手から潰させてもらうぜ! 偽装解除ォ!」
 ラファルがサイクロプス型二体へとばく進してくる。サイクロプス型は防衛姿勢に移ろうとするが、ラファルは真っ直ぐに特攻してくるのではなく、偏向した。
 それを追って二体の足並みが重なる。
 その、瞬間的に過ぎない一致を、一条の射線が狙い澄ました。
 狩野の狙撃である。二体の脚部を正確無比に貫いた。
 倒れ伏そうとした二体が膿んだ肩口から噴出させたのは隠し腕だ。無理やり姿勢を制御しようというのである。
「果たして、それは叶わんのう。雪禍!」
 出現したフェンリルの爪が片方のサイクロプス型を制する。隠し腕を突き出し抵抗するサイクロプス型に魔弾が撃ち込まれた。
 途端、隠し腕が融解する。その性能にラファルが口笛を吹いた。
「いい腕してんじゃん、狩野のオッサン!」

「おっさんってのは、自分で言う分にはいいけれど、他人に言われるのはね」
 愛想笑いを浮かべつつ、狩野は次の標的へと狙いを定める。
 射線の関係上、召喚したフェンリルが壁になってしまっている。ならば、とゲート側に目線を振り向けたが、狙える角度ではない。
 するとスコープの向こう側で水着姿の愛が降り立った。
 張っている場所まで聞こえてくるほどの大声である。
「桜庭愛! 格闘戦、行かせてもらいます!」
 もう一方のサイクロプス型の緩慢な動きに愛の格闘戦術が突き刺さった。飛び蹴りである。単眼に亀裂が走り、仰け反ったサイクロプス型が応戦の攻撃を見舞おうとする。
 その隙があった。
 腐食性能を持つ弾丸を狩野は射撃する。
 愛にかかりかけた凶手が腐敗した。愛は見えているのかこちらにサムズアップする。
「……なかなかに豪胆な子だな、まったく」
 愛の次の手は蹴りからの相手への四の字固めであった。腐敗した腕では抵抗もむなしく、締め上げられていく。
「どうですか? 降参しますか?」
 サイクロプス型がその顔面を愛に振り向けた。魔眼だ、と狩野は悟り、一か八か、その単眼に向けて照準する。
 果たして、その弾丸は亀裂の入った眼を打ち据えた。深く刻まれる亀裂に愛が勝機を見出す。
「そこっ!」
 貫手である。しかし速度が桁違いだ。単眼を射抜いた直後、サイクロプス型から戦闘の気配が消えた。
「危ないことをするなぁ」
 あまりに積極的な攻撃に感嘆さえ抱いてしまう。
「さて、僕の役目はまだ終わっちゃいない、か」

 白蛇の発した矢が光り輝き、サイクロプス型の視界を眩惑した。
 その期を狙ってか、ラファルが武器を剣に変える。
「膝、いただき!」
 膝から下を切り裂かれたサイクロプス型が無残に転がった。
 これでお膳立ては整った。
 白蛇の目線の先に、バイクに搭乗した二人の姿が映る。
 雫は後部座席で剣を構え、ジェラルドが読めない笑みを浮かべたまま、アクセルを開放する。
 二人の撃退士がゲートへと突撃した。

「待ちかねた」
 籐椅子が一つとテーブルがあるだけの、簡素なゲート内部である。
 もっと雑多なものを想像していた雫は暫時、呆気に取られていた。コーヒーを飲んだ目の前の白衣の男こそが、この元凶である、と確信するまでに時間がかかる。
「棒立ちになっていないでかかって来るといい。そっちは、その気のようだが」
 バイクを駆動させたジェラルドが背面を取る。雫は真正面に陣取って剣を携えた。
「ここで独り善がりの三流劇の幕引きと行きましょうか」
「幕引き? 分からないことを言うな。ここが一番の土壇場、盛り上がりどころじゃないか」
 すっと手を掲げた瞬間、雫の背後からぼっと炎が出現する。
 遠隔の魔術。
 息を詰める雫に対し、ゴォマは挑発的に笑みを浮かべる。
「さぁ、殺し殺され合おうじゃないか。それこそがスナッフフィルムの本懐だろう?」
「抜かしなさい!」
 剣を手に駆け抜けた雫は咄嗟に反応した。
 地面を揺らす何か、その存在に。
 意図したわけではない。ただ、その感覚野が微少な振動を拾い上げた。
 地面を割って出てきたのは四つの手を駆動させるサイクロプス型であった。隠し腕を含む爪が雫へと襲いかかる。
 剣で弾き、雫は呼吸を整えた。
「三カメ。よく撮るんだ。照明が邪魔にならない程度に、キャストを照らし出そう」
 ゴォマの操る炎は雫とジェラルドを狙い澄ましたわけではない。何故だか、その僅かに逸れた脇を照らし出す。
「間接照明、か。さすがは映画監督、かな」
 ジェラルドの笑みにゴォマが振り返る。
「分かっているキャストもいるじゃないか」
「今までの監督のやり口、どうにも人間的な切り口に思えて仕方がない。そうだね、まるで、人間の怒りの火に、わざと油を注いでいるかのような」
 そこでハッと気づく。この悪魔の狙いに。
「そうか、この作品、テーマは人間の感情の触れ幅、ってところかな?」
 ジェラルドの察しにゴォマは笑った。
「ビンゴ! 人間の感情模倣をやってみた甲斐があった。コーヒーを飲むのもそうだ。人間の義憤の心を煽り、正義に駆り立てることもそう! 僕は人間がどうして他人に感情移入するのか、それだけを知りたい。それを克明に映し出したフィルムを撮りたいんだよ」
「戯れ言を……!」
 雫の投げ込んだのはフラッシュライトであった。眩い輝きに、ゴォマの額にある第三の目が震える。
「これまでのやり口からサイクロプス型と視界を共有しているのは明白」
「そして、その眼は、ボクらにとっては結構、不利だ。潰させてもらった」
 いななき声のようなバイクの激しい音が響き渡る。重低音と共に接近するジェラルドにゴォマは炎を連鎖させた。
 しかしその炎の中を、臆すことなく、ジェラルドは突き進む。
「悪夢は目の前にやってくる。さて、感情移入がテーマだったかな。悪くはない、けれどそれは、ボクにはミスキャストだ☆ もっと相応しいのは、彼女のような人間かな。カメラ、休んでいるよ」
 ジェラルドの忠告と共に振り上げられた剣戟がサイクロプス型の腕を引き裂いた。
 片腕を失ったサイクロプス型の視界と同期しようとするが、まだ視界が戻らない。
「脚本の変更を要求させてもらいましょうか。ヘボ監督」
 カメラの位置取りが不安定になる。ゴォマは通常の視界を使い、できるだけ直線攻撃が来ないよう、サイクロプス型の影に隠れようとする。
 その期を逃す雫ではなかった。
「地すり、残月!」
 振り上げられた剣閃が三日月を成し、地表から強大な力が引きずり出された。それに煽られたようにゴォマの身体が吹き飛ぶ。
 サイクロプス型は言わずもがな、全身に切り傷を作っていた。
 起き上がろうとしたゴォマは自分の片腕が肩口からなくなっていることに気づく。
「ハッ……! 迸る血飛沫……、いいね、とてもいい! クライマックスに相応しくなってきた!」
 片腕を失いながらもゴォマが手を薙ぎ払う。
 炎が連鎖し雫を襲おうとした。背後からにたにたと笑みを浮かべたジェラルドが迫る。
「邪魔だよ!」
 炎が跳ね上がりジェラルドのバイクを焼き払おうとする。ジェラルドは直前に跳躍し、ゴォマの射線を逃れた。
 バイクのエンジン部に引火し、爆発の光と風が突き抜ける。
「ミスキャスト、ってさっき言ったけれど、ボクはまぁ、そういう役もいるって言うコントラストに配置してくれるといいんじゃないですかね☆」
 肉迫に気づけなかったゴォマが反応したその時には、銀糸がゴォマの残りの腕をひねり上げていた。肉が引き裂け、内側から血が浮かび上がる。
「痛みはないよ。その暇さえ、与えない」
 拘束状態のゴォマの視界に大写しになったのは、サイクロプス型を切り裂いて佇む雫であった。
 血を浴びたその姿にゴォマは口角を吊り上げる。
「いいね、とてもいい! 血濡れの姫だ!」
「映像はここまで。これ以上、撮らせることも、あるいは観ることさえも、お前はできない」
 倒れ伏したサイクロプス型の単眼に雫が剣を突き立てる。圧倒的勝利の光景にゴォマは感嘆する。
「違うんだよ、分かっちゃいない。僕はちやほやされたくって撮っているんじゃないんだ。僕は、観て欲しくって撮っている!」
「――そのお遊びも、ここまでだぜ、三流悪魔」
 ラファルを含め、全員が到着する。
 フェンリルがサイクロプス型の頭部を噛み締めていた。
 乾いた笑いをゴォマは浮かべる。
「はは、二カメ、ざまぁないな、これは。それでも、まだ起動し続けている辺り、僕の造ったカメラっていうのはやっぱり最高だ」
 狩野がゴォマの第三の眼へと照準する。真正面から狙い澄まされていてもゴォマの余裕は変わらない。
「これは、あれだ。絶体絶命って言うんだね。初めて知った。そうだ、これも、感情移入ができなければ通用しない概念だ! 撮らせてくれ!」
「悪いね、悪趣味が過ぎると、こうなる」
 放たれた弾丸が第三の眼を撃ち抜いた。ゴォマの悲鳴がゲートの中に木霊する。
 ゴォマは完全に無力化されていた。
「どう殺す? それもまた、一興だ。撮れないのが惜しい」
 今すぐに、殺すべきだと雫は感じていた。
 しかし、ジェラルドが直後、銀糸を緩めた。
「ジェラルドさん?」
 怪訝そうな雫を前にジェラルドはゴォマへと信じられないことを言い放つ。
「キミの作品、ボクがもらい受けよう」
 全員が目を瞠っていた。当のゴォマでさえも、である。
 しかし、その眼に宿るものを感じ取ったのか、了承は早かった。
「ああ、いいさ。好きに持っていくといい。……理解者」
 指を鳴らすと大量のフィルムがばら撒かれた。呟かれた声にジェラルドは笑みを浮かべる。
「まぁ、一人くらい、キミの芸術を蒐集する者がいてもいいだろう?☆」
 呆気に取られた撃退士を前にジェラルドは嬉々としてフィルムを漁る。
 ゴォマが振り返った。その顔には喜悦の笑みが浮かんでいた。
「理解した。これが、感情移入だ! 彼は僕に感情移入し、作品に魅入られた! この瞬間、僕の芸術は不死となった! ああ、ずっと得たかったのはこれだ! 僕の育んだ闇はここで死なない。闇は人から人へと乗り移る。観客から観客へと、闇は育まれる! 生き続けるんだ、僕は――!」
 そこから先の言葉を、ラファルの形成した刃が遮った。喉笛を掻っ切った一閃に舌打ちが混じる。
「クソッタレ悪魔だな、てめぇは」
 喘ぐゴォマに雫は幕を下ろした。
 コアが破砕され、ゴォマの姿が霧のように消えていく。
 ゲートの消滅、それに伴い、悪魔ゴォマの討伐。
 目的は成された。しかし一同の胸の中には黒々としたものが残った。
 ――闇は生き続ける。
 それが事実なのかどうかは、これから分かることになるだろう。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 歴戦の戦姫・不破 雫(ja1894)
 ドS白狐・ジェラルド&ブラックパレード(ja9284)
重体: −
面白かった!:4人

Mr.Goombah・
狩野 峰雪(ja0345)

大学部7年5組 男 インフィルトレイター
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
ドS白狐・
ジェラルド&ブラックパレード(ja9284)

卒業 男 阿修羅
慈し見守る白き母・
白蛇(jb0889)

大学部7年6組 女 バハムートテイマー
ペンギン帽子の・
ラファル A ユーティライネン(jb4620)

卒業 女 鬼道忍軍
天真爛漫!美少女レスラー・
桜庭愛(jc1977)

卒業 女 阿修羅