:スーパーひゆう・応接室。
「ドーモ、お久しぶりです。エイルズレトラ マステリオ(
ja2224)サン。以前のGMGデビュー時にはお世話になりました」
「お久しぶりです。GMGも変わりないようで何よりですね」
顔合わせ時、エイルズレトラと挨拶をかわす聡子を見て、葉羽は二人の顔を見比べた。
「聡子、お知り合い?」
「はい。以前にあのガラクタ屋敷から映写機を掘り出す依頼を受けて下さった方です」
「ああ、あの依頼の……。初めまして、聡子の姉の葉羽と申します。……ふーむ、ぜひ女装してボクの美少女ハーレムにうげげっ」
葉羽の最後の「うげげっ」は、後ろから聡子に、頭をガッと掴まれたため。
「……失礼しました。おほほ」
「ま、まあ。今回はほとんどの準備作業は終わっている事ですし、後は実行するのみですよね」と、前回からの参加者、日向響(
jc0857)が言葉をかける。
そして、彼が視線を木嶋香里(
jb7748)へと向けているのを、サリーは見た。
「? ヒビキ。カオリの事見てるけど、どうかした?」
「え? あ、いや、なんでも……」
などと言いつつ、響はもじもじ。
「まあ、タイトなスケジュールですし、大変ですが……協力し合っていきましょう」
という香里の言葉に、川澄文歌(
jb7507)もうなずく。
「そうですね。それじゃ……さっそく始めましょう。ステキなPVをつくるために、ね?」
「はいっ、アイドル部の部長として、期待してますね。文歌さん!」
小鳥の言葉に、文歌は微笑んだ。
「ええ。それじゃ……大まかにでもスケジュールを決めておきましょう」
正確な日時は、天気予報や気温・降雪などの情報収集してからになるでしょうけど……と、只野黒子(
ja0049)。
「クラクラクラ〜、俺は必要無いよねぇ〜?」
しかし、会議を始めた矢先。無畏(
jc0931)は立ち上がった。
「今回、撮影と編集だけでしょぉ〜? 俺は地域住民とお話でもして暇つぶししてるねぇ〜」
ま、気が向いたら手伝いに戻るよ〜。そう言い残し、彼はそのまま出て行ってしまった。
「……ま、クラクラさんにしてもらう事ができたら、その時に頼みましょう。それでは……」
葉羽の元、会議が始まった。そして無畏は、「スーパーひゆう」から出て、商工会議所のある商店街の一角へと足を向けていた。
:商工会議所・寄合室。
「おい、兄ちゃん。何が言いたい!」
体格のいい男たち数名が、無畏へと迫る。が、そんな彼らに対し、無畏は平然。
「だからさぁ、聞いただけさぁ〜。君たちは、あの子たちの事をどう思ってるのかってさぁ〜」
無畏の口調は、多少の嘲りが入っている。聞いていると、どこか不愉快。
「あの子たちは君たちを好きで、色々してるみたいだけどぉ〜、それが君たちに伝わってなければ、あの子たちの努力も無駄だよねぇ〜」
商工会議所に赴いた無畏は、そこの寄合室で談笑している商店街の面々と出くわした。が、無畏は彼らに対し、いつも通りに、しかしいつも以上に耳障りな口調と態度で、彼らに話しかけていたのだ。
「あの、私たちも火遊さんには協力してますし、あの子たちには感謝してますよ? それは十分伝わっていますとも」
その言葉にも構わず、無畏は言い放った。
「ま、口だけじゃあなんとでも言えるけどねぇ〜」
「あんた! 俺たちを莫迦にしてんのか!」
「莫迦になんかしてないさぁ〜。ただ、あの子たちを君たちが大事に思ってるんなら、君たちもあの子たちのために、何かしてあげてもいいんじゃあないかなぁ〜? そう……」
少しばかり、無畏の口調が低くなった。
「そう、口だけじゃあなく、行動でそれを表すべきじゃあないかなってさぁ〜。俺にはまるで……」
まるで、大人たちはすべき事をさぼってるっぽく見えるんだよねぇ。
その言葉が無畏の口から出ると、その場に静寂が。
無畏が言わんとしてる事を悟ったのだろう。中には恥ずかしそうにうつむいている者も。
「ま、これは君たちの問題だからねぇ〜。あとは、君たち次第だよ〜」
クラクラクラ〜と、耳障りな笑い声とともに、無畏はその場を後にした。
:「ひぐまストリート」外・雪ステージ
一日目、早朝。
「それじゃ……お願いします!」
文歌の指揮の元。撮影が開始された。
舞台は氷と化した雪のステージ。そして……撮影するは、PV最後のワンシーン。
GMGは、雪の降らない場所で、何度も体を動かして振り付けの復習。そして香里や響たちにより、ステージ上には雪面硬化剤や化粧雪などが撒かれ、解けかかっていたステージをなんとか保っていた。
何度もリハが行われ、何度もカメラテストが行われ、そして……本番に。
「じゃ、行きますよ。3、2、1、キュー!」
黒子が構えるカメラに見守られながら、ステージ上にGMGが踊り出した。
「……カット!」
早朝の撮影。ラストパートの撮影が終わると同時に、日の出の太陽が良い具合に輝き始めた。
何度か滑りそうになったものの、転倒もせずにすんだ。文歌が施した「聖なる刻印」の効果が出たようだ。
「はあっ……はあっ……はあっ……ど、どうですか?」荒く白い息を吐きつつ、小鳥が尋ねた。
「いい感じ、だと思う。ラストカットは出来たから、次は……」
と、文歌は進行表をめくった。まだ厳密なスケジュールは決定していないものの……時間的な余裕はほぼ「無い」。
もうしばらくすると、人が出始める。そうなると、撮影が滞るため……予定が大幅に遅れてしまうだろう。
「次は……それぞれの個別パート。でも、時間が推してるから……」
それ以上の言葉は必要ない。GMGの四人とともに、皆は……昨日に決めておいた個別パートの撮影場所へと赴いた。
「……やれやれ、大変だね〜」
その様子を、無畏は近くの建物の屋根に腰掛けつつ眺めていた。
:「ひぐまストリート」内、鶏肉専門精肉店「ザンギ大将軍」前。
二日目。朝、7時ちょっと前。
「………! ………」
響く音楽とともに、ウサ耳の衣装をまとった小鳥が踊り、ステップを踏み、回っていた。
「……カット! お疲れ様です!」
文歌の声が響き、黒子のカメラが下ろされる。その声とともに、小鳥は「ふえ〜」という声とともに緊張から解放された。
「小鳥ちゃん、お疲れ」
「ザンギ大将軍」の店主が、店先から声をかけた。ここはザンギ(北海道の唐揚げ)が名物の店で、肉好きの小鳥のお気に入り。いつもは午前9時過ぎに開店し、夜の9時に閉店する。小鳥は下校時の夕方に、しょっちゅうここのザンギを購入しつまんでいた。
「でも、おじさん。今日はどうしてこんな朝早くに店を開いてくれたんです? いつもは仕込み作業とかで、この時間帯には絶対店を開けないって聞きましたけど……」
「なに、撮影の時間が推してるんだろ? 店を開けて、撮影に協力するくらいなら、お安い御用だ」
小鳥の質問に、ぶっきらぼうに答えると、店主はそのまま店の奥へと引っ込み……。
たくさんのザンギを入れた紙箱を抱え、戻って来た。
「寒いだろうし、朝飯もまだだろう? 撮影の合間にでも食ってくれ」
:「ひぐまストリート」入り口。
四日目、午後1時過ぎ。
「……カット!」
その声とともに、サリーも緊張から解放される。
「I was tired very much(とっても、疲れたよ)……」
すでに二時間以上、サリーは一人で踊り続けていた。さすがに疲労の色が隠せない。
「でも、サリーさんのカットは今日中に終わりそうですね」
聡子の言う通り、本日中にはサリーのカットはなんとか目鼻が付いたが……全体的に見ると、予定の時間をオーバーしてしまっている。そろそろ別メンバーのソロシーンを撮影したいところだが。
「……あの、本日中に私のシーンの撮影を終了する予定でしたよね。……間に合うでしょうか?」
いつみが、不安そうにたずねる。
思った以上に、一つ一つのカットの撮影に時間がかかってしまうのだ。小鳥のカットは午前中に、三分の一程度は消化できたものの、サリーのカットは、予定の半分も済んでいない。
「……もう少し、人手がほしいわね」
文歌が、思わずつぶやいてしまう。それに黒子も、香里も、そして響とエイルズレトラも同感だった。撮影そのものも大変だが、ちょっとした雑事。それらもまた予想以上に時間と手間がかかってしまう。
無畏を呼び戻すにしても、一人くらいが増えたところで状況は変わらない。
どうしたものか……。
「クラクラクラ〜。大変そうだから手伝いに来たよ〜」
「無畏さん?」
今まで何を……と言いかけた文歌は、彼の後ろに並ぶ者たちに気付いた。
「商店街の皆さん? 一体どうしたんですか?」
いつみがたずねると、代わりに無畏がそれに答えた。
「いや〜、商店街の皆も、撮影を手伝いたいってさぁ〜。ま、人手が足りないようだから、ちょうどいいんじゃあないかな〜」
「まあ、このクラクラ兄ちゃんにちょっと言われてな」無畏のすぐ後ろに立つ、八百屋の店主が恥ずかしそうに言った。
「考えてみれば、わしらはいつみちゃんたちに頼ってばかりで、自分たちで商店街を盛り上げよう……ってとこが足りなかったと反省したよ。だから、微力ながら……手伝わせてもらえんかな?」
もちろん、断る理由など無い。
「もちろんです! それじゃあみなさん……」
お願いしますと、頭を下げるいつみ。その様子を見つつ、文歌たちも活力がわいてくるのを実感していた。
:商店街・写真店。店内。
七日目。夜、10時過ぎ。
「……ああ、そんな感じだ。お前さんたち、中々スジが良いぞ」
ひぐまストリート内の写真店にて、店主とともにPCの前で編集作業しているのは、黒子とエイルズレトラ。
毎日、撮影後の夕方から夜にかけて映像編集をしていたのだが、写真店の店主が申し出たため、二人はその言葉に甘えていた。さすがに業務用の機器なだけあり、作業がさくさくと進む。
とはいえ、予定の日程から大幅に遅れており、深夜の作業も行わねばならなくなった。疲労がたまるが、致し方あるまい。
「で……ここの映像をこう合わせると……」
「……本当だ、確かにこうした方が良いですね! なるほど……」
黒子とともに、エイルズレトラは店主から映像編集の技術を学んでいく。黒子も疲れてはいるが、調子が出て来た。
今夜は徹夜かもしれない。が、うまくいけば予定通りに終わらせる事ができるかもしれない。店主から勧められたコーヒーを一口飲み……黒子は頬を叩いた。
:商店街・スタジオ。店内。
同日、同時刻。
商工会議所の一角、昔使われていた町内ラジオ局の施設にて、GMGのレコーディングが行われていた。
「サリーさん、小鳥さん、眠くない?」文歌が、二人に問いかけた。
「ノープロブレム! 大丈夫ダヨ!」
「私も、ぜんぜん平気!」
何度かリハを行い、マイクテスト、そして実際に歌を吹き込み……。ひと段落したらこの時間になったのだ。
正直、文歌は眠かった。しかし、ここでできるだけ終わらせておきたい。
映像の編集作業に携わっている黒子とエイルズレトラの他、香里と響、無畏は、昼間の疲れが出てしまい、眠っていた。実際、無畏は空中からの撮影も行ってくれたのだ。くたくたに違いない。
「……ごちそうさまでした。さて、眠気はすっかり取れましたよ?」
そして、夜食を食べ終わった聡子といつみが、スタジオに戻って来た。
「なんだか、文化祭の準備してるみたいね。調子が出て来たから、今晩中にレコーディングしちゃいましょう?」
いつみの言葉に、文歌は勢いよくうなずいた。そしていつしか、彼女の身体からも眠気が取れていくのを感じていた。
:後日。商工会議所、会議室。
「皆さん、それじゃ……準備はよろしいですか?」
文歌が、室内を仰ぎ見た。
その日、GMGに依頼された撃退士たち、そして商店街の人間たちのほぼ全員、集まれるだけの人数が、そこにいた。
既に照明は落とされ、目前には大きなスクリーン。
文歌たちは、PCの画面をスクリーンに映し出していた。GMGの四人と撮影に携わった撃退士たちは、疲れ切った様子だったが……同時に、充実した表情をも浮かべていた。
完成したPVのお披露目会。いよいよ……皆の前に公開されるのだ。
:PV画面
(前奏)
(画面暗転。「ひぐまストリート」の文字。
それが消え、「ガール・ミーツ・ガール」のロゴとともに、曲タイトル「White Snow Crystal」)
(雪ステージにて、GMG。踊りつつ、歌い出す)
四人 :新しい気分になれるね、トビラを開けてみると♪
聡子 :胸に広がる、澄んだ空気♪
いつみ:特別な、冬の時間♪
(商店街、アーケード内部。
サリーと小鳥が、手に手を取り、踊り歌う)。
小鳥 :この町、ひぐまストリート♪ (ザンギ店の前で。小鳥のウサミミが揺れる)
サリー:私たちが、出会った町♪ (マンガ喫茶の前で。サリーのリスのしっぽが揺れる)
小鳥・サリー:雪道の中、色んなお店がお出迎え♪
(商店街の店が、音楽に合わせて次々に映し出されていく)
(「スーパーひゆう」の前。いつみ、ソロで)
いつみ:寒くなんかないよ♪
(後ろから、聡子がいつみの肩に手を置き、出てくる)
聡子 :皆が、いてくれるから♪
いつみ・聡子:それだけで、心温まる♪
(アーケード内。商店街をバックに)
四人:Snow Crystal 乙女の キズナ結び♪
サリー:オモイを結び♪
小鳥 :ココロを結び♪
いつみ:飛び込んで! 私たちのように!
四人:新しい、あなたの出会いの場所に。おかえり、そして、いらっしゃい!
(間奏)
(皆で撮影した、舞台設営の様子や商店街でのメンバーの日常風景が流れる。いつみに怒られる聡子、小鳥と一緒にアイドルの真似をするサリー、皆の家族や、商店街の住民たちの様子が、そこに映し出される)
(雪ステージ。ステージ上に四人が歌う)
四人:Snow Crystal 乙女の キズナ結び♪
いつみ:オモイを結び♪
聡子 :ココロを結び♪
四人 :旅立とう! 私たちの未来へ!
四人 :新しい、皆の出会いの場所に。おかえり、そして、いらっしゃい!
(画面が、空に。夜明けの太陽へと向かっていき……ホワイトアウト)。
:PV終了後。
会議室に、照明が付くと同時に、割れんばかりの拍手が。
「……皆さん」
拍手が落ち着くと、GMGが皆の前に。いつみが進み出ると、マイクを取った。
「こんなにすてきなPVができたのは、文歌さんたちや、みなさんのおかげです。本当に、ありがとうございました。そして……」
いつみが言葉を切ると、聡子、小鳥、サリーも進み出て……。
「「「「これからも、よろしくお願いします」」」」
四人全員で、そう告げた。
こうして、PVは無事にUPされ、好評を博した。
「よし、次は北海道全域!」「ゆくゆくは日本全国制覇しちゃいましょう!」
聡子と葉羽の、冗談交じりのその言葉。
それも悪くないと、ちょっと思い始めているいつみだった。