:スーパーひゆう・応接室。
「お二人とも、ご無沙汰してます」
顔合わせ時。
聡子、そしてGMGの皆は、再会した二人にぺこりとお辞儀を。
「お久しぶりです。サリーさん、小鳥さん。またチキンステーキと角煮カレー、ごちそうになりたいです」
「只野黒子(
ja0049)サン。ワタシも、会いたかったデス!」
「私も! カレーならいつでもウェルカムだよ!」
サリーと小鳥が、再会した黒子にぺこり。
「ご無沙汰してます! いつみさん、聡子さん! あの時のハンバーグとジンギスカン丼、おいしかったです!」
「あ、あの時はどうも……」
「恐れ入ります。木嶋香里(
jb7748)さん。また今回も、よろしくお願いしますね」
そしていつみと聡子も、香里にぺこり。
「聡子、この美少女二人とお知り合い?」と、葉羽が問う。
「はいな。料理対決やコスプレ対決の時に、お二人には力添え頂いたんですよ」
「ああ……。そういえば黒子さん、ガラクタの中から映写機も探していただいたとか。お礼にボクからあつーい感謝のキッスを……」
「それは遠慮するわ」
と、黒子は迫りくる葉羽をすげなくスルー。
そして初対面の者たちも、GMGへと挨拶を。
「初めまして! アイドルの事なら、久遠ヶ原学園アイドル部部長、川澄文歌(
jb7507)におまかせよ☆ よろしく!」
「おおっ、それは頼もしい。ロングの黒髪とアホ毛と紫の瞳がステキにきれいですねっ。いつみさんと異なりアイドルの方向性に関して色々と濃い話し合いできそうで、期待しちゃいます」
「アイドルに詳しくなくて悪かったわね!」
でも……と、いつみも彼女に、文歌に見入る。
「でも……確かに黒髪きれいで、私たちよりもアイドルみたいです。馬場さんじゃないけど、色々と教えていただければ……と思うわ」
その言葉に、ちょっと照れる文歌。
そんな彼女の後ろには、二人の男性。
一人は、一見美少女にも見える、防寒具に身を包んだ長い髪の男子。
「ええと、私は日向響(
jc0857)。故郷を大切にしてる人を助けたくて、参加しました」
よろしくと言いつつ、彼はちらっと視線を香里に向ける。
「クラクラクラ、手伝いに来たよぉ〜」
そして、もう一人。小麦色の肌と薄紫の髪と瞳を持つ美青年。
「俺は無畏(
jc0931)、よろしくねぇ〜」
「クラクラとは、また奇妙な笑い方をしますね。その奇妙さにボクもクラっとしちゃいます」
ともあれ、よろしくと彼の手をより、握手する葉羽。
「さて、それではさっそく始めましょう。まずは……」
:スーパーひゆう・会議室。
「うーん……」
上がってきた各種デザイン画を前に、文歌と香里、そして小鳥は迷っていた。
「どんなものでしょう? ……どうもコンセプトがイマイチ安定しないというか、方向性が見えないんですよね」
小鳥が描いて持ち込んできたのは、十数枚のドレスのデザイン……の、ラフ画。
彼女たちは「スーパーひゆう」……いつみの実家のスーパー、ないしはその会議室の一つを用い、服のデザインを持ち寄っていたのだ。
「こちらは……白いのは良いんですが、ちょっと北海道っぽくないですかね。むしろ北欧っぽいかと」文歌が意見を述べる。
「でも、こちらは民族衣装に近すぎて、アイドルっぽさが少な目かなあ」香里も、それに参加。
「これは、私やサリーさんには良いですが、聡子さんやいつみさんにはちょっと似合わなさそうかなと……」
小鳥は、文歌と香里との話し合いを聞きながら、広げたノートにメモを書き取り、新たな服のラフ画を書き込んだりしていた。
「えっと、あのー、皆さん?」
白熱した話し合いは、部屋に日向が入り込んできた事に気づかせなかった。ああだこうだ、うんぬんかんぬんと、日向を無視しつつ話は続く。
「……じゃあ、『雪』をイメージした、真っ白いドレスで、そこに『氷の結晶』のパターンを入れる、という方向性で。小鳥さん、それでよろしいですか?」
文歌の問いかけに、小鳥はうなずいた。
「それでお願いします。あと、これは黒子さんのアイデアですが、和ゴスの意匠も含めると良いかと。採寸と縫製は、香里さんに全てお任せで良いですか?」
今度は、小鳥の問いかけに香里がうなずく。
「はい、任せて下さい。他にすべきは……って、日向さん?」
ようやく、香里が日向の存在に気付く。
「あの……こちらの作業がひと段落したので、何かお手伝いしたいと思いまして」
おずおずと、彼は香里に言葉をかける。
「その……肩とか」「あー、いたいた。こんなとこにいた」
その瞬間。聡子がどかどかと足音を立てつつ、その場に現れた。
:商店街の近く・駐車場。
「困りますよー日向さん。姿が見えないから、心配しちゃいましたよ」
日向を引きずってきた聡子は、駐車場へと彼を連れてくる。
「いや、すいません。お手伝いできないかなって思って」
「なら、こちらの手伝いをお願いします。雪のステージを作るのは良いアイデアですが……雪って結構扱いが大変ですからね」
わたしはこれから、商工会との話し合いに行ってきますと伝えると、聡子は姿を消した。
仕方なしにと、日向はスコップ片手に先刻からの作業を再開した。
商店街、そこに隣接する場所。そこは、夏季には駐車場やイベント会場に用いられている空き地。
この場所に、GMGのステージを設置しよう……というのだ。しかも、「雪」を使って。
『多い雪を利用して、雪のステージを作ろう』というアイデアは、商工会の皆に受け入れられ、実行に移ったが……。
「思った以上に……大変……ですねっ……」
予想以上に、雪の扱いに辟易する日向だった。何せ雪は、積もった直後はともかく、積もって一昼夜経つと「凍る」。
そのまま放置していると、雪そのものの重みで徐々に圧縮され、次第に「氷」になり、固く、重くなる。
そうなってしまうと、掘り出すのに一苦労。そして、運ぶのもまた一苦労。
しかし、手伝いをお願いした商工会の皆、商店街の皆は、快く引き受け……重いだろう雪を、慣れた手つきで運んでいた。
「どうした、兄ちゃん。腰が入っとらんぞ!」
「は、はいっ」
ガタイのいい商店街のうどん屋の主人が、日向に発破をかける。
「あーもう、こんな時に無畏さんはどこに……?」
「クラクラクラ、皆で楽しくやってねぇ〜」
無畏は商店街の子供たちと、雪像作り。アニメやゆるキャラなど、様々なキャラクターを模した雪だるまが、ステージの周囲に作られては飾られている。
「クラクラの兄ちゃん、できたよー」
「こっちもー」
「おやぁ〜、うまくできたねぇ〜」
子供たちとともに雪だるまや雪像を作る様子を、日向は携えていたカメラで撮影する。
「……この映像も、PVに使えるかな?」
:ひぐまストリート・アーケード商店街。「スーパーひゆう」入口前。
「ふむー……」
『ひぐまストリート』。黒子はアーケード下の商店街を歩き回っていた。
「こないだの料理対決の時には、あまり案内できなかったけど……このアーケードの通りが、この商店街のメインです」
そして、商店街を案内するは、火遊いつみその人。
アーケード街の中心部。そこに「スーパーひゆう」はあった。その門構えは、派手さは無いが、「そこに在って当たり前」というような存在感を醸し出している。
「……それで、いつみさん的には、ロケ地の希望は『商店街全般』なんですね?」
「はい。自分はアイドル云々に関してはよくわからないので、この商店街そのものを映してもらえれば良いかなって思って」
確かに、アーケードがあるために、店をバックに撮影する事も不可能ではないだろう。加えて、PVに店が映ればそれだけでも宣伝になる。
「……わかりました。それでは……商店街の、混雑する時間帯とか、撮影時に要望する時間帯とかあれば、教えてもらえませんか?」
考え込んで質問した黒子へと、いつみも考え込んで答える。
「要望する時間帯は、私自身は晴れていれば正午ですけど、小鳥さんは夕方の夕日、サリーさんは早朝の旭日を入れてほしいそうです。あと、馬場さんは『月や星が輝く夜中もいいですねえ』って言ってましたね」
「……な、なるほど」ちょっと大変そうかなーと思いつつ、黒子は手元の手帳にメモする。
「混雑の時間帯は、やっぱり朝と正午と夕方、ですね。特に早朝から午前中には、通勤通学で利用する人たちもいらっしゃいますし。うちのスーパーも、朝十時から夜九時の営業時間内では、正午前後と夕方あたりにお客が多く来ますね」
更なる情報をメモする黒子。
そして、メモを取りつつ……彼女は頭の中で、スケジュールを組み始めていた。
「……早朝と、正午と、夕方に、夜……。四人それぞれの個性を、映像に合わせられない、かな?」
とはいえ、商店街の営業を妨害するわけにはいかない。混雑する時間帯を避けて、撮影できるように努めなければ。
そのあたりも、木嶋さんと相談しなくちゃね……と、黒子はメモにさらに書き留めた。
そんなこんなで、3〜4日後。
:火遊家、客間。
「……それじゃあ、皆さん。今日はこちらでお休み下さいね」
いつみの実家にて、黒子、香里、文歌の女子三人は宿泊する事に。
その日は、持ち寄った歌詞をあれこれ話し合っていたのだが……話し合いが白熱し、気が付くと日が暮れていた。
『もう遅いから、今日は泊まっていきなさい』と、いつみの母親・市恵が申し出てくれたので、皆はそれに甘える事に。
ついでに、小鳥とサリー、聡子と葉羽も一緒だったりする。
「ふっふっふ。美少女だらけのパジャマパーティー、今宵は眠らせませんよぉ〜……って、聡子、いつみさん。冗談です冗談」
「話が進まんので、姉さんはとりあえずコンビニで夜食でも買って、男性陣の陣中見舞にでも行ってきてください」
ちぇー、なんでボクが……などと言いつつ、葉羽は妹の言葉に従ってその場から退散。
「それじゃ、歌詞についてのミーティング。OK?」
サリーが第一声とともに、ノートに書いた歌詞を皆に見せた。彼女を皮切りに、次々に単語やテーマ、それらをもとにした歌詞が出てくる。聡子はそれらを次々にノートに書き込み、記録していく。
「この、文歌さんの『Snow Crystal 乙女の キズナ結び』……これはすごくいいですね」と、黒子。
「やっぱり、『雪』と、それに伴う『絆』というのが肝かなと思うんですよね……こちらは?」
文歌が指摘したメモには、また別のフレーズがいくつか。
『ドアを開けると、澄んだ空気が胸に広がる』
『雪道の中、色んなお店がお出迎え』
『寒くなんかないよ』『皆がいてくれるから』
「……へえ、いいと思います。これ書いたのは香里さんですか?」
「いいえ小鳥さん、これは無畏さんですね」
:スーパーひゆう、店内。会議室。
女子陣が、歌詞についての話し合いをしている最中。
男子二人は「スーパーひゆう」の仮眠室を用い宿泊する事になっていた。が、すぐにバタンキューして眠っている日向と異なり、無畏は会議室の片隅にて、持ち込んだ楽器を演奏している。
「……?」
「すいません。お邪魔するつもりはなかったのですが」
気配に気づいた無畏に、葉羽は気づかれた。彼の演奏が新曲の作曲だと知り、声をかけるタイミングを計っていたのだ。
「いやいや、全然構わないよ〜」
「あ、こちらは夜食です。聡子から応援に向かうようにと言われまして」
「サンキュ〜、クラクラクラ〜」
葉羽が差し出したジュースやお菓子を受け取ると、それを口にする無畏。楽しげなその表情を見ていると、葉羽もまた楽しげな気持ちになってくる。
「それにしても、ギターがお上手ですね。なんでまたこんな北海道くんだりして、今回の依頼を?」
ちょっとした好奇心から、葉羽は訪ねてみた。が、帰ってきた答えは、
「本物を見てみたかったからねぇ〜」
「本物?」
「そうさ〜、本物の北海道の風景をねぇ〜」
「んー、こんな雪に埋もれたとこですが、まあじっくり見てってくださいな。しかし、変わったお方ですねえ。その変なとこ、嫌いじゃあ無いですよ。こうやって真夜中に演奏してるとこも含めてね」
ニックネームつけるなら、ベタに『真夜中ミュージシャン』と呼びたいところです……という葉羽の言葉に、「クラクラクラ〜」と笑みで返す無畏だった。
:更に4〜5日後。スーパーひゆう、会議室。
「それでは、皆さん。とりあえず中間報告を」
参加撃退士5人と、葉羽。彼らは一同に集まっていた。
「歌詞は、大詰めですがほぼ決まりつつあります。で、撮影場所は商店街全般、および設営した雪のステージ……って事で、ほぼ決定です」
葉羽は手にしたモバイル機器を映写機につなげ、その映像データを壁のスクリーンへと投影する。そこには、ほぼ完成した雪のステージの姿が。
「それと、メイキング映像ですが。素材は皆さんがこまめに撮影して下さってるので、あとは編集ですね。こちらも、並行して本番とともに行うつもりです」
葉羽の手元には、参加者の撃退士たちが取った、商店街の皆の素の様子が録画された動画データのUSBメモリがあった。ここから編集し、メイキング映像を作るのだという。
「あとは……そうそう、ドレスですが……こちらもほぼ完成です。皆、入ってきてー」
葉羽の言葉に続き、会議室内に聡子らGMGの四人が入ってくる。
彼女たちは、白の衣装に身を包んでいた。和ゴスを思わせる、和服のデザインも取り入れた、雪のような白い布地のドレス(日向のアドバイスでカイロも入れたため、防寒もばっちり、との事)。
雪の結晶を思わせる幾何学模様をアクセントにした中に、各人を引き立てるアクセサリーが付けられていた。
「ネコミミならぬ、ウサミミです。似合ってますか?」
エゾナキウサギ風のカチューシャ、それを頭に装着しているのは小鳥。
「ワタシは、リスさんダヨ。この尻尾、とってもカワイイ!」
満足そうに、お尻をふりふりするサリー。彼女の動きに合わせ、エゾリス風の付け尻尾が揺れる。
「なんの、わたしのキタキツネ風の尻尾っぽいファーもかわいいですぞ。ほらほら」
聡子はキタキツネ風のファーを、腰に。髪には、アクセサリー風に小さなキツネ面を付けている。
「わ、私は……シカ? どう、かな?」
エゾシカ角のピアス……に見えるイヤリングと、チョーカーを付けているのは、いつみ。
後は……作詞作曲、そして決定した楽曲を用いて、GMGで歌い踊り、その様子を撮影する事。
「撮影プランも、だいたい決まりつつあるようです。あとは、楽曲の完成と、振付、そして実際の撮影、ですかね」
まだまだ、するべきことは多いですが。葉羽はそう締めくくった。
「ともかく、現時点では順調に進んでいます。また皆さんの力が必要になったら……その時には、お願いします」
聡子はそういって、皆に向かってぺこりとお辞儀した。