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マスター:塩田多弾砲
シナリオ形態:シリーズ
難易度:難しい
参加人数:6人
サポート:6人
リプレイ完成日時:2014/06/18


みんなの思い出



オープニング

 幹線道路に、謎の「車」が出現。人間たちに接近し事故を起こす。その被害者たちは、血液がほとんど残らない状態で発見されていた。
 運転席には、死体か髑髏かと言われる運転手が。当初はこの運転手が車を運転しているものと思われていたが……。
 不揃いのタイヤを装着し、汚れたままのボディ。「普通の車」と言うには余りに説明のつかない行動から、それを怪しんだ警察の依頼を受けた撃退士たちの活躍から、かの「車」の正体が判明した。
 運転手は、単なるアクセサリー。本体は「車」そのもの。
 正確には、平たい巨大な昆虫めいた存在。そいつが自動車の外装を被り、六肢のうち四肢の先端にタイヤを挟みこみ、自動車に「擬態」していたのだ。そしてあたかも運転手が運転しているとみせかけるため、適当な死体を運転席の部分に乗せておく。
 目的は、これで人間に近づき、その血を吸い取るため。
 警察が撃退士に事件捜査を依頼した結果、その事が明らかになった。が、撃退士たちは「車」を追い詰めたものの、窮地に陥った「車」は外装を取り払い跳躍。空中で翼を広げ、そのまま逃走してしまった。
 以後、「車」は誰が言うまでもなく「吸血車」と呼ばれるように。
 
 とある暴走族の頭「坂上トオル」。
 そいつは、自滅した自分の兄貴分、土手丘平治を轢き殺してしまった車と同型の乗用車を見かけては、誰彼かまわずケンカを売っていた。が、たまたま売った相手の一台が、かの吸血車だった。そして自分自身も殺され、その死体は運転席に据え付けられた擬態の材料にされていた。
 撃退士との戦いでそれが明らかになり、族の多くの者は敵討ちと車狩りを始めていた。
 そして、その中のひとりに、少女の姿があった。

 彼女の名は、捨石清美。
 前回に依頼を持ち掛けた、警察署の署長の娘。
 父子家庭の捨石家。清美は母親を失っても仕事に打ち込む父親に反発し、坂上トオルのグループとつるんでいた。
 そして、トオル亡き今。彼女はふらふらしてろくに帰宅しない。今も真夜中過ぎになって、黙って帰ってきたのだ。
「……なんだよ」
「遅かったじゃあないか」
「……うっせえなあ、別に関係ないだろ!」
 夜遊びして、勝手に外泊する事もしばし。今もこうして、夜に何の目的もなくふらつく事が多い。
「いいや、関係ある! お前は、娘だ!」
「……なら、なんで母さんの死んだ日……仕事を優先させてたのさ!」
 警察の仕事が大変なのはわかっている。
「……殺人犯を追っていたんだ。何年も苦労して、ようやく捕まえられたんだ。そうする事で、お前たちを守りたかったんだよ」
 何度もこういう言い訳を返す。
 けど……警察の仕事を優先させ、自分たちを見捨てた事に関しては、どうしても許せない。頭では分かっているつもりだが、やはり納得できない。したくない。
「…………どうせ、あんたもいつも家にいないじゃないか」
「今、吸血車の事件を追っているんだ。お前がいないと……」
「知るかよ。あたしには関係ない」
 どうせ事件解決の事しか考えてない。あたしの事なんか考えてない。くそっ、こんなくそオヤジ、大嫌いだ。
 彼女はそのまま二階に上がり、部屋に閉じこもってしまった。
 ……あとに残された、父親が悲しそうな顔をしている事に気付かず。

 暴走族たちは、車狩りをしていた。自分たちの兄貴分を、そして仲間たちを多く殺されたり、傷つけられた。
 だから片っ端から怪しいと思われる車にちょっかいを出しては、誰彼かまわず襲い掛かった。
 もっとも、怪しいと思う根拠は「あいつは気に入らない」「乗ってる奴がなんとなく気に入らない」「憂さ晴らしできりゃ誰でもいい」と、いい加減なものばかり。
 しかし、ある夜。
 暴走族のひとりが、ある車を発見した。

「くそっ、どこに居やがる」
 近くのコンビニの前で、彼らは腹立ち紛れに周囲に唾を吐いていた。今日もまた、「汚れてなんとなく怪しい車」を襲ったが、空振りだった。
 適当に飲み食いし、コンビニの前を散らかした後にバイクにまたがる。走り出そうとした、その時。
 目前を車が横切った。それは不恰好な軽トラック。しかし……まるで車体が「浮いている」かのように、ちぐはぐな印象を与えた。
「あいつだ! おい、お前ら!」
 すぐに暴走族たちは「吸血車」を追う。
 しかし……どのバイクも、「吸血車」には追い付かない。やがて車は、放屁するかのように……尾部から煙を出した。
 香ばしい、昆虫を思わせるような臭いがあたりに充満した。その臭う煙の中を、逃げる車と追う車とが疾走する。
 そして……追跡劇に終焉が。吸血車がスピードを上げて暗闇の中に逃げ込む。再びバイクの光が照らし出すと……。
 そこには、外装とタイヤ。そして……真夜中の闇の中、空の彼方に逃れる吸血車の姿が。

 次の日の夜。
 メンバーの一人が、自宅のマンションにて死体で発見された。マンション一階の部屋に吸血車が突っ込み、内部には血を吸われた死体、外部には……脱ぎ捨てられた、車の外装。
 その次の日。
 別のひとりが、実家の二階の部屋にて、死体で発見された。
 この調子で、族連中は一日ごとに死体になって発見されるように。どこに逃げても、どこに隠れても、「吸血車」は必ず追いかけ、死体に。
 中には行方不明になった者も居たが、それは例外なく、「吸血車」の偽装運転手にされていた。運転席にねばねばで固定されていたのだ。

「……またか。くそっ!」
「吸血車」の足取りを追っていた捨石署長だが、今日もまた空振りに。そして夜遅くに自宅に帰ったところ……。
「清美……?」
 玄関先で、怯えて泣いていた清美の姿が。
「みんな……死んじゃったよ……!」
 
 すぐに婦人警官の部下を呼び、捨石は……娘に事情を聞いた。
 なんでも、皆で敵討ちの車狩りをしていたが……見つけた吸血車に変な煙を吹きかけられた後から、体に変な臭いが付いたのだという。
 そして……その次の日から、仲間が一人づつ、吸血車に襲われ、血を吸われたのだと。

「……実際、その日に我が家に『吸血車』が来ました。家の押入れに娘を隠しましたが、奴は家の中に無理やり入ってきては、娘に襲い掛かろうとしたのです」
 捨石が、君たちへと説明する。
 辻本と小早川の両巡査が、隣の工事現場に置かれていたブルトーザーやショベルカーを動かし、吸血車と対抗。朝になったら、光を嫌い吸血車は逃走した。
 しかし、夜になったら、またやってきたのだ。既に清美は警察署に身柄を移したが……今度もやはり、警察署内に車が突っ込んできて、内部をめちゃめちゃに。
「婦人警官の島崎が調べたところ、清美の身体に独特の『臭い』が付いていたのを発見しました。それは……今までの族連中の死体、奴の犠牲者全員に付いていたのと同じなのです」
 つまり、吸血車は放屁のような煙で相手に臭いを付け、その臭いで相手の居場所を探り出し、餌食にしている。そう予想できた。
「奴は今、頻繁に『外装』を変えています。そればかりか、我々が追い詰めても、外装を捨ててすぐ飛んで逃げてしまうのです。奴は、知っているんです。追い詰められたら、飛行して逃げればいいと」
 なんとかトンネル、または廃工場などに追い込み、飛行して逃げるのを封じ、倒したい。しかし……警察では、それができない。
「……このままでは、清美はいずれ……。お願いです、皆さんの力を貸してください!」

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リプレイ本文

 警察の一室。地図を広げ、確認している者たちがいた。
「……ここしかない、か……」
 卜部 紫亞(ja0256)が、地図上の一点を指で叩きつつつぶやいた。
 留狩トンネル……国道から続く、三千mの長さのトンネルが、周辺地域にある事が確認されたのだ。
「では、決まりですね。ここで……終わらせる、ということで」
「そうだね……終わらせなきゃ」
 同席していた雁久良 霧依(jb0827)と紫園路 一輝(ja3602)も、紫亞の言葉にうなずく。
 今回、撃退士たちが立案した作戦。それは「適当なトンネル内部に『吸血車』をおびき出し、その内部で挟撃する」というもの。
 トンネルならば、空を飛んで逃がす事も無い。逆に敵の攻撃が当たるかもしれないが……重要なのは、敵を「逃がさない」事。
 そして、警察署の別の場所でも。同じく新たな犠牲者を出さぬようにと、署長に依頼している者たちがいた。

「……どうしてもだめ、ですか?」
 捨石署長に対し、佐藤 としお(ja2489)は事件解決のため、様々な事を依頼していた。が……それらのうち「一点」に関しては、署長は首を縦に振らなかったのだ。
「……娘に関しては、だめだ。……あの子に、そんな事をさせられない」
 仕方がない、諦めようとした時。
「待てよ、くそオヤジ。勝手に話進めてんじゃねーよ」
 警官の制止を振り切り、所長室に入ってきた者が。
「……清美!? なんでここに?」
「……話は聞いた。そこのモヒカンチャラ男はこう言ってんだろ? 『あたしが囮になって、くそ車を誘き出せ』って」
『モヒカンチャラ男って、僕の事?』それを理解するのに、佐藤は若干の時間を要した。
「しかし!」
「うるせえ! あたし、決めた。囮になってやるぜ。あのくそ車をぶっ潰せるんなら、なんだってやってやるさ」
 怖いに違いない。実際、今のこの状況でも、足や唇が震えている。
 だが、それ以上に。この事態を解決したいという「気持ち」がある。何とかして解決したいという「気持ち」が。
「……わかった、好きにするといい」父娘の間に沈黙が走り、父親がそれを破った。
「だが、一つだけ条件がある。……私も同行させてくれ」

「なるほど、それでご一緒にってなわけですか☆」
 爆音を響かせ、街道をマスタングが走る。ハンドルを握るのは、ジェラルド&ブラックパレード(ja9284)。
 フォード・マスタング。アメリカの自動車メーカー、フォード社が製造販売している、『野生馬』の名を持つ車。
 これは数年前の事件の証拠物件として、警察の保管庫に保管されていたもの。捨石署長は、それを整備させ持ち出してきたのだ。
「……ああ、そうだ」
 私服を着ている捨石署長が答える。
 後部座席の片側には捨石が、真ん中には清美が座っていた。だが、その体は震えている。
「……怖いのか?」
 清美の隣、捨石の反対側に座る中津 謳華(ja4212)が口を開いた。
 運転席にはジェラルド、助手席には佐藤。
 後部座席には中津と捨石が、清美を挟んで座っている。
 これで適当に車を転がし、「吸血車」をおびき出し……「留狩トンネル」へと誘い出す予定だった。
「べ、べつに、怖くなんかねえよ!」
 強がりを口にする清美だが、その声と身体は震えていた。
「……案ずるな。今宵、終わる」
 静かに、安心させるように。中津は清美へと言葉をかけた。
「そうそう、心配ないよ☆」
 ジェラルドも運転席から、軽い口調で声をかける。
「それにこっちとしては、すっごくかわいい美少女とのドライブデートができて、ちょいと役得って感じかな♪」
「な……何言ってんのさ。バカみたい」
 しかし言葉と裏腹に、清美の口調は笑っていた。ジェラルドは企みが成功した事を確信した。……少しの間だけでも、恐怖を和らげ、恐怖を忘れさせられたと。

 夜も深まり。マスタングは街道を走り続けた。
 北海道の街道は、あまり街灯が無いため、夜が更けると闇が思った以上に濃くなる。月や星の明かりがある日ならまだいいが、それすらない今夜のような日には……光源は車のヘッドライトくらいしかない。
 時折、ハイウェイ上を走る光が接近するが、それはごく普通の乗用車だったりする。
 が、車内では。ジェラルドの「アウトロー」スキルも手伝っただろうが、清美は友好的に、撃退士たちと会話を交わしていた。
 撃退士たちも、確信していた。彼女は決して不良でも悪い子でもなく……ただ、とても寂しがりやだという事を。
 その様子を言葉少なに見つめる捨石の眼差しを、中津は見守っていた。

「!」
 24時間営業しているSAで、休憩を取っていた時。
 用を足して戻ってきた清美は、何かに気付いたかのように、夜の闇の中に目を凝らした。
「どうした?」
「……わかんない。けど……あいつの気配が……」
 捨石署長と中津とが、その夜の闇の中へと目を凝らした。
「何も、いないようだが……」
 捨石がそこまで言った、その時。
 闇の中に、まるで両眼を開いたかのように……ヘッドライトが光った。
 それとともに、黒い車体が闇の中に浮き出るスポーツカーらしき影。後でわかったが、車種はトランザム・ファイヤーバードらしい。
 それを見た捨石は、すぐに叫んだ。
「早く車の中に!」
 食いかけのラーメンをそのままに、佐藤もSAの食堂から出てきて車に乗り込む。
「……どうやら、釣れたようだねえ? かわいい子を乗せてると、マジに食いつき良いねえ☆」
 運転席のジェラルドが不敵な微笑みを浮かべつつ、ハンドルを握った。
「それじゃ清美ちゃん……ドライブデートの続きと行こうか♪」

「うん、わかった。そちらも気を付けて?」
『すぐ行くからね☆ パーティーの用意、忘れずに♪』
 ジェラルドからの電話を切り、紫園路はトンネル内にて罠の確認をしていた。
 両出入口近くの天上には、既に鉄鎖で編んだ網を放つ仕掛けを施している。紫亞や霧依もチェックを終え、待機していた。
「……来るのはこちら側で間違いないですか?」
「ええ。ここから近づいてくるわよ」
 紫亞と霧依の言葉が終わらぬうち……入口から、ヘッドライトの光と、爆音とが近づいてきた。

 高速でトンネル内に飛び込むマスタング。
 それを追い……まるで獲物に襲い掛かる悪魔の獣のようなトランザム。
 高速で内部に入り込んだマスタングは、トンネル内部、紫亞ら三人が待っている中心部にたどり着くと、脇に寄り停車する。
「ここで待っててくださいね。後は……自分たちがやります」佐藤が飛び出し、
「往くぞ、黒(ヘイ)。彼女は必ず護る」召喚した黒煌龍帝とともに、中津も立ち、
「さてと……悪い虫退治パーティーを開始しようか♪」ジェラルドも車から降り、トランザムに立ちはだかった。
 マスタングの近くには、紫亞と霧依、紫園路が守るように立つ。
 内部には、オレンジ色の明かりで視界は保たれている。そして……。
 東口の出入り口から徐々に……トランザム・ファイヤーバードに擬態した「吸血車」が、接近してくるのが見えて来た。

「止めますよ……直撃、させる!」
 佐藤が「薙ぎ払い」の一撃を放つ。その衝撃がトンネル内部を走り、疾走する吸血車へと迫る。
 吸血車はそれを、回避した……トンネル内の円形の壁面を、猛スピードで駆けあがったのだ。
「黒(ヘイ)、やれ!」
 続き、紅眼の黒き鱗を持つ竜が、閉鎖された空間内を飛翔する。トランザム・ファイヤーバードの黒いボディ表面を、中津が召喚したヒリュウの爪が切り裂く!
が……。その切込みは浅く、すれ違いざまにボンネットとフロントガラスに爪痕を残したのみ。
 壁面をぐるりと一周した吸血車は、そのまま撃退士たちを尻目に、彼らから離れた場所に、そしてマスタングに近い場所に再び着地。そして、
 あっというまに、マスタングへと接近した!

 吸血車は、マスタングの中を覗きこむ。が、内部には目当ての存在はない。二人は既に車を捨てて、紫園路の近くへ移動していたのだ。
 彼の、眼帯をしていない方の眼差し……まるで炎を宿しているかのような視線が、吸血車に向けられる。
 既に「金剛夜叉」を発動させている。ちらりと、自分の後ろにいる清美を見て、そして吸血車へと向き直った。
「……凄いよね…内心は怖いと思うのに、あんなに突っ張れて……」
 一秒かけて彼女を想い、一秒かけて体を戦闘態勢に。そして一秒かけて……紫園路は、構え、自らの掌底を敵へとかざした。
「……炎に眠る化け物よ、今この瞬間だけ姿を見せ、敵を喰らえ! 『炎帝』!」
 掌より放たれた火炎は竜となり、車の怪物へと襲撃する。が、赤き灼熱が届く前に、吸血車はおぞましい虫の節足を伸ばし、それを回避した。
「……『La main de haine』!」
 しかし、二段構えの攻撃が、吸血車を捕える。
 紫亞の両腕が、憎しみにゆがんだ無数の『腕』となり『手』となりて、車をつかんだのだ。おぞましき車が、おぞましき腕に囚われる。動きが止められたターゲットに対し……。
 撃退士たちの一斉攻撃が放たれた。

「喰らいなさい! 『コメット』!」
 最初の攻撃は、霧依の放つ強烈なアウルの一撃! 顕現させた無数の彗星が、車の表面をぶち抜き、ぶち壊し、そのおぞましき体をむき出しにする。
 まるで潰されたゴキブリのように、吸血車の真の姿が露わになった。ヘッドライトに擬態していた触覚先端の発光器官、そして己が複眼とが、不気味に光っている。
 動けないでいるところに、
「はーっ!」
 振るわれた佐藤のデュラハンブレイドが、強烈な斬撃を放つ。闘気開放にて滾った力による一撃は、吸血車の外装を切り裂き、更にはその胴体に会心の一撃を食らわしたのだ。刃が食い込んだ傷口からは、おぞましい体液が流れ出る。
「『Hit That』♪ ……おっとっと、醜いだけにしぶといねえ☆」
 ジェラルドも、後れを取らない。そいつが翅を広げ浮かんだ時、そのおぞましい翼へと小気味よい攻撃を放つ!
彼の得物は、イグゾーストアックス。鋭き斧の更なる一撃に、怪物の翅が破られ、切り裂かれた。
「……風よ、我が敵を滅ぼせ! 『マジックスクリュー』!」
 紫亞の放った烈風が、吸血車を巻き込んだ。それは竜巻となり、翅を失った吸血車をきりきり舞いさせ……。
 そのまま落下の衝撃で、地面に叩き付けた。
 甲高い、ガラスをひっかくような、耳をつんざく鳴き声が周囲に響いた。それは明らかに苦しみがこもった、吸血車の声だった。

 だが、吸血車も攻撃を喰らい続けているわけではない。紫亞のhaineの効果が切れるとともに、その腕の群れを薙ぐと、節足でつかんだタイヤを次々に投げつけた。それは轟音を響かせつつ、迫りくる隕石のよう。
 放たれた四つのタイヤ、一つは紫亞へと向かうが、空振り。しかしうち二つは、佐藤、そしてジェラルドへと向かい……強烈な勢いとともに、二人を弾き飛ばす!
 紫園路へと迫る、残り一つ。
 回避しようとした紫園路だが、
「や、やばいよ!」
「清美!」
 間に合わない。彼のすぐ後ろには清美と捨石署長がいる。二人を守らなければ!
「行かせない!」身構えた紫園路の前に……。
「……そうとも。させると思うか?」
 黒煌龍帝とともに中津が立ちはだかり、二人の、否、三人の盾となったのだ。
 防御の構えとともに、腕でガードしたものの……中津らも無傷では済まなかった。
「ぐっ!」
「中津さん!」
「ちょ、ちょっと! 大丈夫なの!?」
 なかなか起き上がらない黒煌龍帝と中津を見て、心配する紫園路と清美だが。
「……心配、無用」
 両者とも立ち上がった。
 が。ほんのわずか、気を緩ませたその時。
 吸血車が、液体を吐き出した! 広範囲に吐かれたそれは、周囲にへばりつき、爆発するように燃え上がる。
 それは、清美にも襲い掛かった。
「きゃあああっ!」
「清美! ぐああっ!」
 しかし、清美は無事だった。捨石が突き飛ばしたからだ。
 捨石の服が燃え上がる。佐藤と中津がかけつけ、大急ぎで脱がせたが……火傷は免れない。
 そのまま、吸血車は逃げようとするが。
「逃がさない! ここで滅ぼしてみせる!」
 紫亜がスタンエッジを放つものの、吸血車はそれを回避。
 が、先刻ほどには素早く動けない様子。今がチャンス!
「二人とも、下がってて! 『炎帝』!」
 紫園路は吸血車に向け、再び火の龍を放った。今度は直撃し……吸血車は炎に包まれ、崩れ落ちた。
 勝った、そう思った次の瞬間。
「なっ、なんだあっ!?」
 佐藤がそれを見て、素っ頓狂な声を上げる。吸血車が後部、尻の部分から強烈な勢いでガスを噴出したのだ。
 その空気圧で火炎の一部を吹き飛ばし、その勢いでトンネル内を吹っ飛ぶ。奴の飛行能力は、翅だけでなく……「ガスの噴出」の勢いもあったわけだ。
 その勢いや、トンネル内を飛ぶロケットのよう。
 だが、
「……逃がさない。乙女の柔肌と、依頼人の父親に、傷をつけてくれたお礼はさせてもらうわ♪」
 怒りに歪んだ笑みと余裕とを浮かべ、霧依は手元のリモコン、そのスイッチを押した。

 吸血車は、道路を地面すれすれで飛んでいた。
 もう少しで出口。そこから外に逃れ、休息し再生し、再びあの人間どもを血祭りに……。
 本能でそう考えていた吸血車は、自分から「二つ」奪われたのを知った。
「一つ」は、「身体の自由」。霧依のリモコンは、あるセンサーのスイッチであった。そのセンサーは、接近してきたものを感知し、小さな爆弾を爆発させる。
 それは天井に張り付かせていた鉄鎖の網を開放し、接近してきたものにかぶさり包み込む仕掛け。
「一つ」は、「逃げ道」。
 既に吸血車が入り込んだ時点で、霧依は警察に依頼していた。重機や大型車両を以て、トンネルの出入り口両方をふさいでおく、と。
 鉄の網に包まれ、出口は無い。
 燃えつつある中を、マスタングに乗り込んだ撃退士たちが接近してきた。
「さて☆ ……恐怖に震えてあの世に行く用意は出来てるかな?」
 最初に降り立ったジェラルドが、にこやかに言葉をかけた。
 そして、数秒後。吸血車の断末魔の悲鳴が、トンネル内に響き渡り……封鎖解除された後に、吸血車がトンネルの外へ出てくることは無かった。

 霧依のライトヒールが、負傷者たちを癒す。深刻な負傷は無く、皆滞りなく回復した。
「『【107神技】気功癒傷法』……もう、大丈夫だ」
 そして捨石の傷も、中津により癒された。回復した父親へ、清美が言葉を投げつける。
「……ばかっ! なんで……逃げなかったんだよ!」
「……理由などいらん。父親ならば、娘を守るのは当然だ」
 その言葉に、顔を背ける清美。が……その表情には、怒りや悲しみは見られない。
 二人の確執。これが事件解決とともに、解消できれば。
 こちらの解決もそれほど時間はかからなさそうだ。二人の様子を見て、そう思う撃退士たちだった。

 街道に、再び平和が訪れた。
 その中を、古びた自動車がひっそりと走り、彼方へと消えていった。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:4人

原罪の魔女・
卜部 紫亞(ja0256)

卒業 女 ダアト
ラーメン王・
佐藤 としお(ja2489)

卒業 男 インフィルトレイター
『三界』討伐紫・
紫園路 一輝(ja3602)

大学部5年1組 男 阿修羅
久遠の黒き火焔天・
中津 謳華(ja4212)

大学部5年135組 男 阿修羅
ドS白狐・
ジェラルド&ブラックパレード(ja9284)

卒業 男 阿修羅
群馬の旗を蒼天に掲げ・
雁久良 霧依(jb0827)

卒業 女 アストラルヴァンガード