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マスター:塩田多弾砲
シナリオ形態:シリーズ
難易度:難しい
参加人数:6人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2014/03/18


みんなの思い出



オープニング

 怪談・リョウメンスクナ。それを思わせる事件が発生した。
 とある骨董品を盗んだ泥棒。そこから出現した、双頭の巨人。
 そして、その泥棒たちに見捨てられた仲間二人を追うと、悪魔がゲートを発生させ、ディアボロを作っていた事件に突き当たった。が、そこで手がかりが途切れ、現在に至っている。

 倉庫と山との一件が終わった後。
 前々回の廃工場から、そう離れていない場所にて、奇妙な事件が起こった。
「あれは、『仏像』でしたよ。仏様にまちがいありませんでした」
 多少認知症の気がある老婆。彼女は、遠目で目撃しただけだが……。
 夕方、窓から外を見ると。そこに『阿修羅のような、巨大な仏像を見た』というのだ。
 家族は最初、気にも留めなかったが。その直後に起こった事件で、警察に届ける事になった。
 そこからすぐ近く。とある人家。
 ほぼゴミ屋敷と化していたその家……「来島」と名札が付いた家を、何者かが襲撃したというのだ。住民の夫婦は惨死。目撃した人間が言うには、犯人は巨大な「仏像」を思わせる、双頭の何かだったという。

 そして、その日から。
 何者かの手により、次々に人を惨殺される事件が続発していた。被害者の全員が、手足を引き裂かれるか、巨大な何かに叩き潰されるか、あるいは建物ごと圧死させられるか。そういった死に方ばかりだったのだ。
 数少ない目撃者が言うには、『犯人は、巨大な仏像』。その正体は、不明のままだった。

 霧島は、調査結果を署内のPCに打ち込み、事件を見直していた。
「あの、山小屋。あの中に……『孝一と賢治』の手記が残されていたとはな」
 前回の事件後に山小屋を調べたところ。紙屑の中を丹念に調べたところ、そこから……手帳が発見された。
 血と泥にまみれ、内部の確認は難しい。判別できる箇所を見ると、そこに書かれていたのは……
「友人の賢治に関するもの」「妹の美亜、父親の重助の事」。 
 今現在、鑑識が内容確認できるようにと調べている。おそらく、あの泥棒一味の事、そしてあの倉庫で見殺しにされた理由なども判明するだろう。
 そして、しばらくして。「孝一の身元が割れた」という連絡が入った。

 後日。
 夕刻、吹雪く中に車を乗り付け、苗代屋を尋ねる霧島刑事の姿があった。
「……苗代重助さん。苗代孝一さんは、あなたの長男ですね?」
 重助と美亜。二人を前にして、霧島が写真を出す。
「……はい」
「詳しい話を、聞きたいのですが」

 商談する応接室に通され、重助と向かい合う霧島。
「……孝一さんが書いた手帳を発見しました。判別できる限りでは、その手帳には、『……俺はいつか、妹に認められるようになりたい。チンピラになっちまったこんな俺の事を、美亜は軽蔑してるだろう……』といった記述が、多く見られました」
 そこで、何か知らないか。それを聞きに来たと、霧島は伝えた。
「孝一は、私の長男です。二年ほど前に、家出してしまい、それっきり行方不明でした」
 重助が、重い口を開く。
「家出?」
「……お恥ずかしい話ですが、十年ほど前、私は、あまりいい父親ではありませんでした。そこから、孝一も反発しておりまして。親子の仲は完全に冷えてしまってました」
「で、『賢治』というのは……ご長男の友人の、来島賢治で間違いないですね?」
「はい、そうです。孝一とは妙に気が合ったようで、中学の頃から親友としてつるんでいたようです」
 しかし、賢治もまた素行が良いとは言えなかった。父親は失踪、母親はアル中で死なれ、引き取った叔父夫婦からはまったく関心を寄せられず、金を出すだけであとは放置。次第にわがままになり、欲しいものはなんでも手に入れないと気が済まない……といった、利己的な性格になってしまった。
 だがその一方で、友人と認めた者には友情に厚かった。おそらくは、孝一に自分と同じものを感じていたのかもしれない。
 ただ……美亜に対しても色目を使っていたのは、あまり歓迎すべき事ではなかったが。
「……なるほど。で、二人とも高校二年の時に家出し、今になるまで行方不明なんですね? 捜索願は出したんですか?」
「ええ、ですが……」
 その時。いきなり店の壁が、吹き飛んだ。

 室内にいた、重助、美亜、そして霧島は、その衝撃を受け……外へと叩き出された。
 まだ外に溶け残っている雪がクッションになり、霧島はかろうじて大けがを負わずにすんだが……。
「父さん!」
 美亜をかばって、重助が身体を強く打っていた。それだけでなく……。
 店に展示していた、巨大な水牛の角飾り。その角が、彼の腹を貫いていたのだ。
 それだけではなく。店の前に生えていた街路樹に叩き付けられたため、背中からも枝に貫かれていた。
「み……美亜……」
「父さん! しっかりして! 今助け……」
 が、美亜の声は……この事態を引き起こした犯人が姿を現した事で、中断した。
 犯人は、骨董品店の壁を、巨大な拳でぶち抜いていたのだ。
 先刻から吹雪の勢いが増しており、周囲は白く濁っている。ぶち抜かれた壁の穴ごしに、巨大な影が立っているのが見えた。
 一見すると、それはまるで「仏像」のよう。明王のようなたくましい体型と、四本の腕。そのうち三本には、丸太や鉄骨などを持ち、あたかも鉾や独鈷を手にした、仏像の様。
 吹雪で霞んで、細かいところは見られない。だが、確実な点が一つ。
 そいつには、頭が二つあった。

「……その後、すぐに拳銃でその怪物に威嚇射撃しつつ、二人を車に乗せて。そのまま逃走しました」
 霧島が、依頼にと三度赴いていた。
「その後で、現地の警察に連絡を入れ、現場に向かわせましたが……もぬけの空でした。ただ、気になる事が『三つ』あります」
 一つ。現地の警察に寄せられた目撃情報で、この骨董品店の近辺にて『双頭の巨人』または『双頭の仏像』が目撃された、というものだ。
 まるで何かを探し求めるように、吹雪の中を巨大な何かが歩き回っている。と。
 二つ。この「双頭の巨人」は、骨董品店を襲撃した後も……この店の近辺に出没している事が明らかに。何かを探し求めるように、うろついているのが確認されていた。
「そして、三つ目。これが一番、奇妙なのですが……あの怪物が、重蔵氏を殴り飛ばし、美亜さんに迫ろうとした、その時です」
 美亜を認めた怪物は、右腕を伸ばし、美亜を掴もうとしたが……左半身が、いきなり動かなくなってしまったのだ。
「何が起こったのかはわかりませんが、そのおかげで隙が出て、そして……逃れる事ができました。あの様子を見る限り、どうやら、怪物の狙いは美亜さんのようなのです。なぜかはわかりませんが……」
 重助は、重傷を負い入院。現在は安定したが、予断を許さない状態だと言う。
「……だから、私は決めました。なぜあの怪物が父を襲い、私を狙うのかわかりませんが……目当てが私ならば、私を囮にして、誘き出してやろうと」
「危険だと止めさせようとしましたが、この通り聞きそうにないので。どうか皆さん……あの怪物を誘き出し、倒してはくれませんでしょうか?」
 よろしくお願いしますと、二人は頭を下げた。

前回のシナリオを見る


リプレイ本文

 骨董品店「苗代屋」。
 周辺には、撃退士たち以外には人の気配も、姿も無い。
「……今日も、吹雪になるようですね」
 ここに来る前に見た天気予報を思い出しながら、佐藤 としお(ja2489)はつぶやいた。
 周囲に漂う、奇妙な静かさ。それが……予感を奇妙に悪い方向に向けている気がする。
「……あの、皆さん。今回は……よろしくお願いします」
 苗代美亜が、撃退士へと頭を下げた。
「ああ、任せておけ」
 今回初参加の中津 謳華(ja4212)が、美亜へと返答した。
「はい、頼りにしています」
 その様子を見て、佐藤もまた中津の力を頼りたいと思っていた。仲間たちも同じだろう。
 リーゼロッテ 御剣(jb6732)もまた、気になっている様子だった。……あの双頭が浮かべていた「表情」。あれが気になっている……と、彼女が口にした事を覚えている。
 佐藤もまた、気になっていた。かの二人……苗代孝一と、来島賢治。双頭の巨人の素体とされたのは、その二人に間違いはないだろう。しかし、あの表情。いったい何が、あんな表情を浮かばせたのか。
 それを知るためにも、今回の依頼を解決するしかなかろう。

 しかし。後になって、佐藤は思い知る事となる。自分がいささか、呑気に構えていた事を。

「どうやら……避難はしてくれたようやなあ」
 桃香 椿(jb6036)が、周辺の民家の人間全員が避難した事を確認し、安堵の溜息をついた。
「ええ。あとは……つかんだ尻尾を離さず、このまま倒すだけね」
 椿の言葉に、アサニエル(jb5431)も勇ましい口調で相槌を打った。
 美亜が囮となり、町のあちこちを移動。それを見つけた双頭の巨人が追って来たら、周囲に何もない広い場所……近くの学校の広い校舎へと誘き出し、これを叩く。
「それじゃあ、僕は行きますね」
「ああ、頼むよ」
 アサニエルに見送られ、森田良助(ja9460)はある場所へと向かっていった。
 近くにある、古い教会。その鐘楼は他の建物に比べて高く、あたりを見回すことが出来る。彼はそこから遠方を確認し、双頭の巨人を発見したら、皆に無線で連絡する手はずになっている。
「……さて、やるべき事はやった。あとはまさに」
神のみぞ知る。
 そうつぶやいた椿の目が、鋭いそれに変わっていく。アサニエルもまた、自身の表情が厳しくなるのを感じていた。

 防寒着を着てはいても、美亜の身体には寒さが染み込んでいるかのよう。それを見つめながら、中津は周囲へと目を転じた。
 自分は、椿とリーゼロッテとともに囮になった美亜を護衛しつつ、彼女に付き従い自宅周辺と近辺を徘徊。こうして歩き回りながら、敵が襲撃してくるのを誘い出す。
 現在、町内には人影も、車も、動物の姿も無い。雪がちらつく中、歩く者、動く存在は自分たちのみ。
 いや、遠くから仲間が見張っており、敵が出現したら誘い出し誘導するため動いてくれる。
 すぐ近くにはアサニエルがおり、離れたところで待機しつつ敵を待っているはずだ。
「…………」
 皆、無言だった。軽口をたたくほどの、心の余裕がないのだ。緊張が高まり、どことなく言葉を出しづらい。
 いや、緊張しているだけではない。「圧迫」されていたのだ。何かの気配、それが遠くに感じられ……徐々に近づいてくるような、精神的な圧迫感があるのだ。
 自分は、今回初参加。それゆえに、今回相対する相手がどんなものかは知らない。
 しかし、皆から聞いた話では。周囲に漂わせている気配だけでも恐ろしい存在だという。
「…………」
 言葉なく歩く美亜を、中津は見た。
 が。
 美亜は、足を止めた。
「どうした?」
 たずねた中津だったが……彼は返答を聞かずして、美亜への問いの答えを悟った。
 感じ取ったのだ。先刻からの「圧迫感」の根源たる「何か」が近づいてくるのを。
 それは中津だけでなく、椿も、リーゼロッテも同じ様子だった。周囲を見回し……どこからか襲撃してくる何かに対し、必死にその姿を捕えようとしている。
『こちら森田、そちらから4時の方向に、接近するものが!』
「くるよ!」
 無線からの、森田の連絡。そして、アサニエルの切羽詰まった言葉が上空から。
 後ろを振り返り、見上げると。
 曇天の空の中、何か黒い小さなものが飛んでいた。鳥か、飛行機だろうか。
 しかし、それは徐々に大きく、そして接近してくる。
「……これ、は!」
 椿は、すでに一度見た。
 そして中津は、初めて見た。
「認識した」と同時に、「それ」は100mほど離れた場所に建つ、小さな家へと落下した。爆発音にも似た破壊音が響き渡り、もうもうとした埃が周囲に立ち込める。
 その中に、立ち上がる巨大な黒い影があった。影には、頭が二つ。
「……『リョウメンスクナ』!」
 中津はそれを見て、即座に理解した。
 あいつは、恐ろしい奴だ、と。
 そして、影は。次の瞬間……巨大な猪がごとく、突進し始めた!

「……うん、わかった。引き続き、作戦通りによろしく!」
 森田に連絡を入れ、佐藤は無線機のスイッチを切った。
 護衛班が来るルート上に待機していた彼は、気を引き締め……戦いに向け、何度も行ったシミュレーションを、心の中でもう一度繰り返す。
 そうだ、あの偽物相手なら簡単にやれたこと。ならば……今回もうまくいく、はずだ。
 自身に言い聞かせ、佐藤は所定の位置へと付いた。
 しかし……。
 なぜか、うまくいく「気がしなかった」。うまくやれる自信が、湧いてこない。
 深呼吸してその弱気と不安を心の隅に追いやり、佐藤は待った。……リョウメンスクナを、罠にかけるその時を。

 巨大な、突進する双頭の塊。それはアサニエルにより、突っ込んでくるところをビニールシートをひっかぶったものの……。
 すぐにひっぺがし、咆哮した。
 出だしをくじかんと、椿がショットガンを打ち込むが、効果は無い。
「こいつは……そんなに、『憎い』のか……? 憎さゆえに、このような事をしているのかっ……!?」
 瞳を紅に染めつつ、リーゼロッテはつぶやいていた。
 怪物は、明らかに美亜を追っている。美亜が怪物の目的であることは、間違いない。そのため、なんとか気を引いて、美亜を逃がそうと試みたが……。
 まったく、上手くいかなかった。まさに美亜以外は、眼中にないという様子だったのだ。
 いくつか、トラップも仕掛けておいた。が……それらは全て、「無駄」に。落とし穴はすぐに飛び出し、ワイヤートラップは物ともせず、銃器を用いたものでも、全く歯が立たない。せいぜいが数秒足を止める程度。
「くっ……少なくとも、誘き出す手間はかけんですんだな」
 椿が自嘲めいた口調で、ショットガンを撃つ。が、散弾を受けても全く動じる様子は見られない。
 やがて、美亜の息が切れかけた時。
 目前に、見えた。学校の校庭が。

「こいつは……」
 ルート前半で、佐藤はアシッドショットを、怪物へと打ち込んでいた。
 しかし、そいつは全く動じる様子はなく、目前に立ちはだかるすべてを叩き潰し、先を進んでいた。そいつが通った後は、まさに破壊の跡。巨大な何かの感情が爆発した、爆心地のようだと、佐藤は感じていた。
 だが。
 校庭に、周囲に何もないこの地形に誘き出せたなら。勝算はこちらにある。少なくとも、鉄骨や岩やらを、武器にしたり投げつけたりはできないはずだ。
「さてと。早く終わらせて、またラーメン食べに行こうっかな」
 不安を紛らわすため、わざと佐藤は能天気な事を口にしてみた。が、不安はまぎれるどころか、更に増していた。

「よく頑張ったな。怖かっただろうが、あたしらがもう終わらせる。心配しなくていいよ」
 アサニエルが美亜に言葉をかけ、校舎の中へと避難させる様子を、中津は見守っていた。
 そして、振り向く。
「さて……鬼ごっこの交代だ。今度は此方が、鬼にならせてもらうか……」
 中津の身体から、墨焔のような龍が沸く。両の腕を組み、半身の構えで……双頭の巨人へと闘気をぶつけていた。
 そして、すでに周囲にも。中津とともにアサニエル、椿、リーゼロッテとが囲んでいた。遠距離からは、佐藤と森田も攻撃準備を整えている。
「参る!」
 中津がすばやく、鋭い動きとともに……接近し、強烈な蹴りの一撃を放った。その稲妻のような一撃、中津荒神流奥義の蹴撃は、直撃したら並の天魔ならば一撃で倒せるほどの強力なものだった。
「!」
 次の瞬間。中津が感じ取ったのは、相手の身体に打撃を与えた手ごたえ……ではなく。
 巨大な拳の一撃が、自分に向かってくる様。そして、その拳により、自分自身が地面に投げつけられ、叩き付けられ、長い距離を転がされた……ということだった。
 激痛が、体中を苛む。ただの一撃で、自分がほぼ再起不能になるほどのダメージを……リョウメンスクナは与えたのだ!
「……ふん、腰を据えて、物理的に話し合おうじゃあないか!」
 アサニエルが怒りとともに、『審判の鎖』を放つ。しかし双頭の巨人は巨体に似合わぬ素早さでそれを回避。
 続く佐藤の射撃と、椿の攻撃すらも、よけきったのだ。
「このぉっ!」
 しかし、リーゼロッテの『血嵐』まではかわしきれなかった。黒の衝撃波が、抜刀・閃刃の刀身から放たれ、巨体を切り裂く。
 アシッドショットの効果も手伝い、確かに巨人には痛手となった。
 勝てる! 再び刀を構え、リーゼロッテは突撃する。よろけた双頭の巨人の隙を狙い……再び一撃を切り込もうとしたその時。
 リーゼロッテの世界が、反転した。激痛が彼女を襲ったのだ。
 いや、激痛などという生易しいものではない。一瞬で彼女は……巨大な拳の、腰が入ったパンチを受け、弾き飛ばされたのだ。
 地面に激突し、そのまま校庭の土が爆発したかのように吹き飛び、土流が彼女を押しつぶした。
「何ばすっと! こんダボがぁっ!」
 椿が怒りとともに、電撃のこもった拳の一撃、『雷神の手』を放つ。麻痺したかのように、巨人はその動きを鈍らせたが……やはり、さしたるダメージを喰らったようには見えない。
 しかし、それでも双頭は周囲への注意を怠らずに動いていた。片方は、撃退士を叩き潰す事が嬉しげ。もう片方は、忌々しげに。そんな表情を浮かべつつ。
 ライトヒールを中津にかけていたアサニエルは、彼が動けるようになった事を見て取ると、土に埋もれているリーゼロッテに駆けつける。
「ちょっと! しっかりおし!」
 答えは無い。瀕死の状態……いや、ほぼ死にかけている。すぐに掘り起して、彼女を助け出すと……再びアサニエルはライトヒールを。
 紫色になっていたリーゼロッテの顔に、やや赤みが戻った。顔色が悪いが、弱々しい吐息が力を取り戻し……やがて、目を覚ます。
「アサニ……エル……?」
「大丈夫かい? 今、ライトヒールをかけた。立てるか?」
「ええ……大丈……夫……」
 嘘だと、アサニエルは見破った。ふらふらとしたリーゼロッテの様子からして、無理をしているのは簡単に見て取れる。
 リーゼロッテに、肩をかして立ち上がらせたアサニエルは、仲間たちへと視線を転じた。
「とっておきの一撃だ! しかと味わえよ」
 距離を取った中津が、体術ではなく和弓・絶影を取り出し、矢をつがえる様子が見えた。
 強力な弓が、矢を放つ。巨人の分厚い皮膚を突き破り、鋭い矢尻が突き刺さった。
 佐藤と森田の狙撃も、見事に命中。巨人の化物めいた身体に弾丸を撃ち込ませる。このまま、遠距離から攻撃を続け、体力をわずかづつでも削って行けば……。
 アサニエルもまた、そう考えた矢先だった。
 リョウメンスクナが、その両手を広げると……。拍手をするように、両の掌を叩き付けた。
 その途端に、爆発音のような大音響が。そして、学校の校舎の窓ガラスが全て割れ、校舎脇に立っていた旗竿も共鳴するかのように鳴り響いた。あまりに強烈な力で、掌と掌とを叩き付けたため、轟音が起こったため……。それを理解するのに、全員は若干の時間を必要とした。
 予想外の「音」が、その場にいる全員の鼓膜を襲い、キリキリ舞いさせる。
 アサニエルとリーゼロッテは崩れ落ち、佐藤と森田もまた、耳を押さえる。
 が、接近していた中津、そして椿は、平衡感覚が若干おかしくなっていた。例えるなら、大砲の砲撃音を至近距離で聞かされたようなもの。鼓膜が破れず幸運だったが……。同時に、わずかな時間だが、平衡感覚を侵されてしまっていた。
 よろける中津を尻目に、怪物は巨体に似合わぬ素早さで駆け出すと、椿をつかんだ。
「ぐっ!」
 そのまま、巨人は椿の身体を振り回すと……校舎へと叩き付けるように投げた。
 校舎のコンクリの壁が紙細工のように簡単に壊れ、無数の瓦礫と化す。瓦礫は椿の身体を押しつぶし、そのまま生き埋めてしまった。
 そして。壊されるのを免れた校舎の一角に、美亜の姿があった。

 強すぎる。中津はそれを実感していた。
「奴は……強すぎる! こちらからの攻撃が、まるで歯が立たない!」
 パワーにスピード、そして驚異的なスタミナ。今までの攻撃し、ダメージを与えても……まるでかすり傷程度でしかない。
 まだ平衡感覚が戻っていないが、なんとかしてあの怪物を止めないと……。
 そう思っていたが……その時。怪物がその動きを止めるのを中津は見た。
「……?」
 椿以外の撃退士は、全員が見ていた。
 リョウメンスクナが、右腕で美亜をつかもうとするが、左腕がそれを阻んでいる様子を。
 右の頭部の顔は、喜んでいたように対し。左側の顔は、嘆きを感じているようなそれ。そのまま、見上げている美亜の目前で……奇妙な動きを見せ続けていた。
 まるで、右と左の半身とで、考えている事が違っているかのように。
 吠える怪物に対し、右の頭部に一発の銃弾が撃ち込まれた。佐藤が放ったのだ。
 双頭の巨人はそのまま咆哮すると……明後日の方角に駆け出し、そのまま視界から消えていった。

「勝てた、とは……言えませんね」
 後日。
 病院にて。横になっている佐藤たちは、受けたダメージをほぼ回復させていた。
 椿も、あれからすぐにアサニエルによってライトヒールを受けられ、なんとか死なずに済んだ。しかし……。
「……ちょっとこの依頼に対し、軽く考えてたとこがあったようでしたね。……あいつを倒さない限り……ラーメンどころじゃない。その事をまず、しっかりと覚えておかないと」
 そして、佐藤は思い出していた、美亜を前にしたリョウメンスクナの、奇妙な行動を。
「……あの行動が何かはまだわからないけど、必ず……」
 必ず、あの行動から。弱点を割り出して、そして次こそ勝って見せる。そう誓う佐藤たちだった。


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: −
重体: −
面白かった!:5人

ラーメン王・
佐藤 としお(ja2489)

卒業 男 インフィルトレイター
久遠の黒き火焔天・
中津 謳華(ja4212)

大学部5年135組 男 阿修羅
セーレの王子様・
森田良助(ja9460)

大学部4年2組 男 インフィルトレイター
天に抗する輝き・
アサニエル(jb5431)

大学部5年307組 女 アストラルヴァンガード
釣りガール☆椿・
桃香 椿(jb6036)

大学部6年139組 女 アカシックレコーダー:タイプB
天に抗する輝き・
リーゼロッテ 御剣(jb6732)

大学部7年273組 女 ルインズブレイド