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マスター:塩田多弾砲
シナリオ形態:シリーズ
難易度:難しい
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/01/27


みんなの思い出



オープニング

 スレンダーマン。都市伝説の怪人の姿と能力を有する悪魔との対決で、撃退士は自宅の倉に閉じ込められた子供を助け出し、直接対決した後、退散させた一件があった。
 
「何が言いたい、国家権力の犬が」
 岸田礼蔵。最初の被害者、岸田雄一の父親で、その時の生き残り・岸田雄二の祖父。
 事件の担当刑事・大迫は彼の屋敷の客間で、礼蔵と向き合っていた。
「……警察がお嫌いなのは構いませんが、このままでは、あなたの命が危ないと言っているのです。保護を、でなければ撃退庁に連絡を……」
 が、それを聞かせても。礼蔵は見下した態度で言った。
「必要ない。わしは武道家だ。武装したヤクザの集団とも真剣で斬りあい、相手を全員土下座させた事もある。問題があれば、叩くか切り捨てる」
 実際、礼蔵は古武道を修め、その実力は高かった。が、独善的で「自分が世界で一番偉い」……。そういう思想を有している事が伝わってくる。
「よろしいですか。あの怪物は、自衛隊でも太刀打ちできないんですよ? あなたがどんなに強かろうが……勝てる相手ではありません」
「黙れ! お前のようなふぬけが、今のような堕落した世の中を作ったんだ! 太刀打ちできない? それを判断するのはわしだ。わしは……自分が見たもの、聞いたもの、感じ取ったもの以外は信用しない。お前の言うように『勝てる相手ではない』というなら、判断してやる。連れてくるがいい」
「……」
 この分からず屋め。そう言い返しそうになった、その時。
「……連れて、来たよ」
 応接室の後ろから、声が。大迫が振り向いたら、そこには……雄二の姿があった。
「雄二! 部屋から出るなと言ったはずだ!」
 礼蔵がどなる。が……。
 礼蔵のすぐ後ろに、あの無貌の悪魔がいた。礼蔵もそれに気づき、振り返る。
「貴様! ……そうか、貴様が話に出ていた怪物だな! 切り捨ててくれる!」
 驚きよりも怒りを滲ませ、礼蔵は床の間に飾ってあった日本刀をつかみ、鞘を払った。が、スレンダーマンはそれに対し、後ろを向き……尻を突き出して叩いた。
「貴様ぁッ!」
 大迫が止める間もなく、礼蔵は斬りかかる。が、怪人は切りかかられるたびに瞬間移動し、礼蔵を翻弄し続けた。そしてそのたび、笑っているかのように肩を揺らしつつ手を叩く。無貌の口元に、笑みが浮かぶのを大迫は見えた。
 拳銃を取り出し、狙いを付けようとするが。
「手を出すな! こいつはわしが殺してやる!」
 礼蔵が制した。そして、庭に逃げたスレンダーマンを追って切り付ける。庭園になっているそこは、雪が降り積もり、見るからに動きにくそうだ。
 が、追いかけて切り付けたその瞬間。再びスレンダーマンは消えた。
「おのれ!逃げるな!」
「岸田さん! 落ち着いてください! 奴の思う壺です!」
 そう言って、駆け寄った大迫だが。
 激痛が走った。白雪の中を鮮血がほとばしり、拳銃を取り落とす。礼蔵の刃からは、大迫の血が滴っている。
 肩のあたりを深く切られたようだ。大迫の身体から血が流れ、力が抜けていく。大迫に詫びる事無く、礼蔵は叫んだ。
「黙れ! わしに指図するな!」
 礼蔵の目つきは、普通ではなかった。再び消えたスレンダーマンの姿を求め、あちこちに視線を向ける。そして……後方に現れた何かに、確認もせずに切り付けた。
 袈裟切りされたのは、礼蔵の妻……雄二の祖母だった。スレンダーマンが盾のように掲げていたのだ。
「どうして?」と言いたげな表情を浮かべ、彼女は絶命した。それをゴミのように投げ捨て、スレンダーマンは触手を礼蔵に放つ。触手が固く巻き付かれた礼蔵に、スレンダーマンは近づき。そして……消えた。
「……莫迦なおじいちゃん。おばあちゃんを殺しちゃったよ」
 その様子を見て、雄二少年が薄ら笑いを浮かべているのを、大迫は見た。
「な……なぜ……?」
 意識が失いそうになるのを、必死に食い止めながら……大迫は問いかけた。
「なぜ? ……スレンダーマンは、僕の友達だからさ。何もしてなくても、父さんは僕の事を叩いてばかり。煙草の火を押し付けて『しつけ』なんて言うんだよ。そんな奴を殺してくれて、僕はとても嬉しかった。だから僕は、お願いしたんだよ。なぞなぞを解くように、僕の人間関係の問題を解決してくれるように、ってね」
 血が止まらない。痛みに視線が霞みそうになるのをこらえつつ、大迫は「納得」していた。

 父親の次に殺されたのは、苺農家の娘・水原智子の継母。調べによると、智子は雄二に、虐待されていた事を相談した事があった。
 その次に殺された、「きたぐに食堂」の南沢権蔵。彼もまた過去に、畑の近くを通りがかった小学生を、一方的に作物泥棒呼ばわりして暴行した前科があった。その小学生とは、間違いなく雄二の事だろう。
 阿具根も、自分の文房具店で。何もしていない客の小学生に「あなたは今、万引きしようと思っていたでしょう」と、勝手に悪い子だと決めつけ、そこから宗教の勧誘をよくやっていた。
 塚本元社長は、雄二の通っていた小学校の理事長と友人で、ある時に小学校を訪ねた時。些細な理由で「お前のような弱々しい子供は、見ているだけで腹が立つ」と、雄二を罵ったらしい。
 いじめっ子たちは言うまでもない。そして、祖父母夫婦もまた、子供に対しては暴力を以てしつけるという考えを持ち実行していた。
 あの少年は、最初の被害者というだけでなく、次からの加害者でもあったのか……。
 それを確信し、大迫は気を失った。

「大迫刑事は、駆けつけた救急隊員により一命をとりとめた。だが……」
 撃退士への依頼斡旋所。そこで、今回の依頼内容のミーティングが行われていた。
「礼蔵氏は、警察に射殺された。スレンダーマンにより、一緒に瞬間移動したんだろう。雄二少年の通っていた小学校の教室に現れると、生徒たちに無差別に切り付け始めた」
どうやら、逃げる子供たちをスレンダーマンの仲間だと思い、片っ端から切りかかったらしい。担任教師は止めようとしたが、返り討ちに合い切り殺された。
 警察に囲まれて銃を向けられても、全く動ずる事はなかった。そのまま礼蔵は、子供たちをまとめて切り殺そうとしたが、警官の一人が放った弾丸により……即死した。
「不幸中の幸いで、生徒には死者は出なかった。だが……学校に現れた雄二少年は、警官の一人にこっそりと、こんな手紙を手渡していた」

それらは、謎々本のページが4枚。3枚にのみ「上下逆」と書かれている。
「百枚の色紙、一枚抜いたら九十九枚目の色は?」答えは「白(百から一を引いたから)」
「イタリアで大きな猿を買ったら、何リラ?」答えは「5(5リラ=ゴリラ)」
「海で牛丼頼んだら、大盛りか並か?」答えは「並(海は並=波があるから)」
『上下逆』と書かれているのはこの三枚。そして書かれていない最後の一枚には、このような謎々。
「歌のうまい鳥が、点付けられたら行くところは?」答えは「学校(カッコウに点=ガッコウ)」

「これらの答えを解き、続けたら『シロ』『ゴ』『ナミ』。逆さにしたら……『ミナ』『ゴ』『ロシ』、つまり……」
『学校皆殺し』となる。雄二はおそらく、学校の生徒全員をスレンダーマンにより殺戮するつもりに違いない。

「……この事は、入院している大迫刑事も知っている。そして、少年を止めてくれ……と依頼してきた。おそらくはこれが最後になるだろう。やってくれるか?」

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リプレイ本文

「プール? 学校にそんなもんないよ?」と、校長。
 確かにこの学校には、校舎と体育館くらいしか施設は無い。撃退士たちは、青くなった。

「あ……そういえば、学校に隣接した、廃棄された大型水泳場ならあったな」
 そして続く言葉を聞き、撃退士たちは安堵する。
 なんでも、80年代の好景気な一時期。成金の卒業生が屋根付き温水プールの施設を建て、学校および近隣に開放していた。学校とは、長く伸びる屋根付きの通路でつなぎ、校舎内から自在に行き来できる。
 が、維持費がかなりかさむため、不景気と少子化の問題から閉鎖。通路は封鎖され、現在は周辺にある農場や工場の、様々な不用品置き場と化していた。
 水は抜かれているが、埃だらけで汚れている。しかし、これで当初からの作戦は実行できそうだ。
 撃退士たちは労力と時間を費やし、可能な限りのガラクタを除去。そして、作戦を開始した。

「やれやれ、どうなる事かと思いました」
 佐藤 としお(ja2489)が、プール室の隅、積まれた木箱とダンボール箱に隠れながらつぶやく。
 彼らが立てた作戦。それはスレンダーマンを「なぞなぞ」で、プールへと誘導。
 そして、全員で攻撃する事で注意をひき、スレンダーマンに打撃を。
 それと同時進行で、おそらくは連れている雄二少年を救出。
 既にプールには、仲間たちが隠れていた。坂城 冬真(ja6064)が、プール奥のドラム缶の陰に身を潜め、スレンダーマンが来るのを待ち構えている。
「これで、奴との決着を付けなければなりませんね」
 小さく、心情をつぶやく。そうだ、ここで終わらせねば。
「………」
 沈黙とともに、ジェイニー・サックストン(ja3784)もまた、大量の古い小麦粉袋の山の陰に。顔に浮かぶ表情は、苦々しいそれ。許せずやるせない、憎悪とも異なる何か。
 ずれてもいないメガネを直し、ジェイニーは待っていた。戦いのその時を。

 放送室。
 同じく、織宮 歌乃(jb5789)も、静かにその時を待っていた。
 赤き髪の、たおやかな美少女は、その唇をマイクに近づける。
「……では」
 ……その魔手を断たせて頂く為、織宮 歌乃。赤き破魔の剣を以て参ります。
 心中で声を出さずにつぶやき、彼女はマイクに声を吹き込んだ。

『夏には皆大好き、冬には嫌われて、春に思い出されるのがスレンダーマンの死に場所。だってスレンダーマンも嫌っているという噂だから。今度こそ確かめにいく』

 無人の校内に、放送が響き渡る。
 如月 千織(jb1803)は、プールへ先回りしつつ、スレンダーマンが現れるのを待った。
「……スレンダーさんの遊びは、此処で全て終了させてあげますよ」
 千織のつぶやきを後押しするかのように、歌乃の言葉が続いた。

『今まで続いた遊戯、今度はこちらから。まさか解けないのを隠す為に、逃げはしないですよね?』

 そして、その言葉を聞いている者がいた。
 彼は、遊びが好きだった。自分がルールを決め、そのルールに従い遊び倒す。
 ルールは守られてこそルール。そのルールに従い遊ぶからこそ楽しい。なのに、そのルールを破る者が。
 気に食わない。何様のつもりだ。
 しかし同時に、「気に入った」。遊びは、予想外が起こるからこそ楽しい。弱い雑魚ばかりが相手では、飽きがくるもの。時折、このような手ごたえのある敵と競い合い勝つからこそ、遊びはより充実し、楽しく、面白くなる。
 いいだろう、その挑発に乗ってやる。ただし、挑発した分の見返りはもらう。勝ち誇る相手に敗北の絶望を味あわせる事は、彼の好物の一つ。
 好物を味わう期待に震えながら、彼……スレンダーマンは、傍らの雄二へと手を差し伸べた。

 カツン、カツン。
 足音が響く。
 この方向は、学校に続く、廊下の方向から。間違いない、何者かが接近している。
 既に千織と歌乃は、学校校舎の放送室から戻り、所定の位置へと隠れている。そして警察に頼み、半径数キロは人払いしてもらっている。ならば、残る可能性は。
 カツン、カツン。
 足音が、更に響く。
 カツン、カツン。
 あと1m。
 カツン。
 足音が止まった。そして、扉を開けて……。
「そいつ」が、入ってきた。

「!」
 全員が、そいつの姿を見て「予想外」だと感じた。
 そこにいたのは、スレンダーマンではなく、雄二少年でもなく……「骸骨」だった。骸骨がカーテンから引きはがしただろうぼろ布を、まるで衣服のように全身にまとい、歩いてきたのだ。
 全員が面食らうも、すぐに立ち直る。そいつのぼろ布のすそからは、スレンダーマンの触手が長く伸びていた。ショットガンを構えたジェイニーは、その触手に狙いを定め、撃ちぬく。
「骸骨」は力を失い、崩れ落ちた。残った触手は、ちぎれた触手を見捨てるかのようにそのまま、消えた。
「……糞ガキが、触手野郎なんかと……」
 不機嫌そうな顔を、より不機嫌にして、ジェイニーは「骸骨」へと歩み寄る。カーテンの中には、触手が巻き付いた人体骨格模型(理科室の備品らしい)。そして……同じくスレンダーマンの触手に巻き付かれた、雄二少年がいた。

 他の者たちも近づこうとするが、ジェイミーはそれを制した。
「……!」
 雄二は、胸倉を掴まれた。掴んでいたジェイミーは静かに……怒りをにじませた声で、雄二に言葉を叩き付けた。
「自分の親を、他人を頼って殺させるってのは、どういう心算ですか……」
「……あいつら……僕をいじめてたんだ! だから頼んで殺してもらったんだ! 悪いかよ!」
「ああ、悪いです」
「……なんでだよ! なんでみんな、僕ばっかり悪いって言うんだよ! いじめる方が悪いだろ! あいつらのやった事は、悪くないのかよ!」
「……悪くないわけ、ないですね。で、テメーが復讐のために仕返ししようが、そいつらを殺そうが、それはテメーと当事者の問題。どうしようがテメーの勝手。テメーの自由です」
「!?」
 予想外の言葉に、雄二の言葉が詰まった。
 今までは、どんな相談者からも『復讐はいけない。仕返しは相手と同じ。許す事が大事』だのといった綺麗事ばかりで、結局は『お前が我慢すれば解決』と強要されてきた。
 なのに目前のお姉さんは、自分を「否定しない」。
「怪物に『やらせたこと』が悪い、ってんです。わかんねーですか、糞ガキ!」
「ど、どういう……事?」
「テメーにも、事情はあるでしょう。だがしかし! テメーは虐待してた親とも! 周りのいじめてたやつらとも! 向き合っていなかった! テメー自身、問題から目を背け……怪物に代わりに殺してもらっただけ! それが悪いっつってんです!」
「!!」
「反抗する事も、逃げる事も、例え既にやったように殺すにしても! それはテメー自身がやるべきだったんですよ! そうすれば少なくとも、テメーが腐らずに済んだ!」
「怒り」。しかし目前の怒りは、あのバカ親やクズ祖父母からの「憎悪や侮辱」が含まれていない。アホ面した相談者たちの「綺麗事や偽善臭」もない。
 あるのはただ、「自分のために、怒ってくれている」という意思。そんな事をしても何の得もないだろうに、そんな「打算」も全くない、純粋な意思。
「……あ」
 気が付くと、「涙」が流れていた。

「来るんですよ。そして、その場で見てやがれです」
 ジェイニーの言葉を聞き、雄二は我に返った。
 そして、彼女に従い……彼女の近くに、その身を潜めた。

 すぅ……と。
 スレンダーマンが、プールのある大部屋へと、その姿を現した。
 そいつの目前には、剣を構えた赤き美少女。
「……破魔の剣花、再びアナタを断つ為」
 刹那。
「織宮歌乃……参ります!」
 直刀・雪村を手に、少女はその身を駆ける。まさにそれは、舞う花びらの疾風のごとく。
 スレンダーマンが気が付いたその時には、歌乃はその懐に飛び込んでいた。
「……『緋獅子・椿姫風』」
 無数の真紅の気、それが錬成する刃。それらが、不浄なるスレンダーマンへと襲来する。
 が、スレンダーマンもそれをおとなしく受けはしない。これが前と同じものだとは、怪物も承知。
 一撃が届く直前に、そいつは消えた。
 得意の瞬間移動。しかし、おそらくは別の場所に現れる。
 後方? 左右? それとも……。
 答えは、「上方」。歌乃が見上げたそこに、スレンダーマンは舞っていた。そのまま、急降下攻撃を食らわさんとした、その時。
「……『コメット』!」
 冬真が呼び出した無数の彗星が、スレンダーマンの更なる上空に出現し強襲した。そのまま、スレンダーマンが舞う空間そのものへと、重圧とともに無数の攻撃を!
 己の後方へと、注意を全く払っていなかったスレンダーマン。その背中に重き攻撃を食らい、声なき悲鳴を上げつつプールの床に、かつては水が張ってあっただろう場所に墜落し、無様に転がった。
 既に歌乃は移動し、無傷のままで剣を構えている。再び立ち上がって向かおうとするスレンダーマンだが、身体が重く動きづらい事に気づいた。
「スレンダーマンのお兄さん……お姉さんかなぁ?」
 千織が、氷刃……己の中にあるもう一人の人格を解き放つ。
「あはは!千織たちばっかりと遊んでないで、僕とも遊んでよー♪」
 無邪気な殺意、そして純真と狂気とがないまぜになり、怪人へと手の平を向けた。
 青き魔法陣が、空中に描かれる。冷たく燃える青き力、氷の剣が、魔法陣を潜り抜け、顕現した。
「『氷剣』!」
 気が付いた時には、手遅れ。氷の剣がスレンダーマンに突き刺さり、砕け散った。
 倒れ込むスレンダーマンへと、止めをささんと肉薄する千織=氷刃と、歌乃。
 しかし。
「……ぐっ!」
「うわーっ!」
 鞭のように繰り出された、無数の触手。それらが強烈な勢いとスピードとで、空間を切り裂いた。
冬真の「コメット」を食らって床に倒れ込み、重圧を受けつつ、スレンダーマンは己の触手を床いっぱいに広がるように伸ばしていたのだ。しなやかな触手が、二人の身体を打ち据え薙ぎ払う。
触手に弾かれた二人の身体が、プールの床に叩き付けられるとともに、スレンダーマンは姿を消した。

 冬馬が事前にかけておいた「アウルの鎧」のためか、歌乃は軽傷ですんだ。しかし千織は吐血し、明らかに痛手を受けている。
 すぐに駆け寄った冬真が、ライトヒールをかけるが、ジェイミーは警戒を緩めない。
 奴の事だ、どこからか仕掛けてくる。でも、どこから? 
 佐藤の方に? それとも、ケガで倒れている歌乃たち?
 あるいは……自分の近くに居る、雄二のところ?
 そう思った次の瞬間。ジェイミーは雄二を抱え、脇に転がった。
 そして、彼女たちが居た数秒前の空間を。スレンダーマンの指が掻く。破かれた小麦粉の袋から、中身が出て宙に散る。
「あー、やっぱ皆殺しって、このガキも含まれてました? それとも、助けに来ました?」
 スレンダーマンの触手が、次々に小麦粉の袋へと突き刺される。少なくとも、助けようという意思や意図は見られない、感じ取れない。
 煙幕のように大量の粉塵が舞い、スレンダーマンの黒い姿を白く汚していく。その様子を見た雄二は、友達に裏切られた時のような、悲しげな顔をしていた。
「離れてなさい! 仲間のところに行きやがれです!」
 突き飛ばすようにして、彼を放す。そして、雄二に注目しているのを見計らい……ジェイミーは駆けだした。
 既に「忍法・夢幻毒想」を使用している。それがもたらす力を用い、銀色の鞭「アルギュロス」を抜き放ち、スレンダーマンへと放った。
 が、スレンダーマンは触手で、アルギュロスの鋭い一撃を受けとめた。鞭を巻きつかせた触手を、そのまま自ら引きちぎる。
 が、ジェイニーは既に駆け出し……スレンダーマンの懐へと潜り込んでいた。相手の顔を、それぞれが至近距離で視線を交わす。
 スレンダーマンは、口元にニヤリと笑みを浮かべ。
 ジェイニーは割れた眼鏡のレンズ越しに、陰気な笑みと共に鋭き眼差しを向けつつ……二丁拳銃を抜き放った。
「逃げられると思うんじゃねーですよ。このまま終わりなさい! テメーが遊びでやってきた事と同じように!」
 ツインクルセイダーの銃口が、スレンダーマンの胸元へと突きつけられ……火を噴く。
 その銃撃は、「精密殺撃」による強力な一撃。再び声なき悲鳴を上げつつ……スレンダーマンは後方の小麦粉袋の壁にぶつかり、崩れたそれの下敷きに。
 袋が破け、周囲が白くけぶる。古く黴臭い小麦粉の雲が、その周辺を舞った。
 スレンダーマンの片腕が、小麦粉袋の中から這い出てきたが……力尽きたように、その動きを止めた。
「………」
 無言のまま、ジェイニーはスレンダーマンへと更に銃弾を撃ち込む。とどめは、差せたのか?
「どうやら、やっつけた、かな?」
 雄二とともに、佐藤が近づいた。歌乃と千織も、冬真により回復し、スレンダーマンの最後を見届けんと近づいてくる。
「…………」
 先刻の二人に放った攻撃のように、周囲の床に触手を伸ばしている様子はない。どうやら、本当に倒せたか……。
 緊張を解いたジェイミーが、ツインクルセイダーの銃口をおろした。
 次の瞬間。
「上だ!」
 佐藤の声とともに見上げると、そこには片腕になったスレンダーマンが。そいつは右腕を切断し、囮にしたのだ!
 それだけでなく、そいつは残された触手に、数個の何かを持ち……小麦粉を振り撒きながら着地した。
 反射的に、ジェイミーはツインクルセイダーでスレンダーマンを撃つ。が、スレンダーマンは触手の「何か」を盾に、その弾丸を受け止めた。
「!? ガスです、みんな逃げて!」
 冬真が叫ぶ。スレンダーマンの触手が掲げるは、数個のプロパンガスのタンク。そしてそのいくつかには、たった今ジェイミーが放った弾丸で、穴があけられ……内部のガスが漏れ始めていた。
 ニヤリ……と、無貌の顔に笑みを浮かべ……スレンダーマンは倒れた。その左手には、火のついたライター。
 撃退士たちが部屋から逃げ出した、その直後。
 プロパンガスに引火、加えて、小麦粉が粉塵爆発を誘発。一瞬だけ振り向いたジェイミーは、見た。
 スレンダーマンが、炎に包みこまれる光景を。
 炎は更なる燃焼と爆発とを呼び、プール施設を包み込んだ。

 プールは、丸一日燃え続けた。幸いにも、この廃棄されたプール施設だけが全焼しただけですんだ。
「……あの子には、治療が必要です。無罪とは言えないが……環境が悪すぎたのは事実。だから……今後はちゃんとした大人たちが、あの子を導いていくように環境を整えてやりたい
 そして、大迫が今後の手続きを行う事に。彼もまた完全ではないが、ケガを治療し退院した。自分の負傷のように、雄二少年の心の傷も治してやりたい、と。彼はそう述べていた。

 雄二は、施設に入る事に。
 警察署から、彼を載せた車が出発する。
 物陰から、その様子を見ている者がいた。ひょろ長いそいつは車を見て、口元にニヤリと笑みを浮かべていた。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 闇に潜むもの・ジェイニー・サックストン(ja3784)
 闇を祓う朱き破魔刀・織宮 歌乃(jb5789)
重体: −
面白かった!:3人

ラーメン王・
佐藤 としお(ja2489)

卒業 男 インフィルトレイター
闇に潜むもの・
ジェイニー・サックストン(ja3784)

大学部2年290組 女 バハムートテイマー
真冬の怪談・
四条 和國(ja5072)

大学部1年89組 男 鬼道忍軍
撃退士・
坂城 冬真(ja6064)

大学部7年294組 男 アストラルヴァンガード
海の悪魔(迫真)・
如月 千織(jb1803)

大学部3年156組 女 ダアト
闇を祓う朱き破魔刀・
織宮 歌乃(jb5789)

大学部3年138組 女 陰陽師