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マスター:樹 シロカ
シナリオ形態:シリーズ
難易度:難しい
参加人数:8人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2014/02/23


みんなの思い出



オープニング



 昔々のお話です。
 年を経た白蛇の精・白娘子は白素貞と名を変え、お伴の青蛇の精・小青を伴い、人界へとやってきました。
 そこで知り合った人間の青年と恋に落ちた白素貞ですが、彼女は白蛇の精。怪異と接するうちに、次第に青年は弱っていきます。
 青年のただならぬ様子にとある偉いお坊様が気付き、白素貞の正体を見破ります。
 激しい戦いの末、お坊様は白素貞を打ち負かし、不思議な霊力を籠めた塔の礎に閉じ込めてしまいました。
 小青はどうにかして主を助け出そうと、苦しい修行を積み……




 久遠ヶ原学園大学部の准教授である星哲子。
 ほとんど怖いものなしの彼女だが、さすがにビジネス上の相手とあれば下手に出ることもある。
「ええ、ええ。お話はごもっとも。よく判りますとも」
 半分位は聞いていない。が、全く無視もできない。相手は池永家の人間だった。

 その昔、池永家の現当主が若かりし頃。
 旅行先で堕天使を拾ったのが事の始まりだったという。
 その後堕天使は真弓という名を与えられ、今日までずっと、京都の池永邸の奥深く隠れるように暮らしてきた。
 やがて当主も年を取り、今では半分寝たきりのような状態ではあるが、堕天使は若く美しいまま。
 それでもつききりで当主の面倒を見ている。
 ここまでは悪くない話だ。

『結局、本家に戻って来たではないか! 困るんだよ、堕天使を匿っているなどと世間に知れては!』
「はい、おっしゃる通りです」
 池永家の人間としては、堕天使が大人しく隠れ住んでいるならまだしも、天使だの使徒だのに追い回されている様な状態では、落ち着かないのも確かだろう。
 だが当主は真弓を追い出すことを頑として許さない。学園ができてからも、財力と権力に物を言わせ、自宅で保護し続けてきたのだ。
 そこで当主以外の家人としては、真弓を学園が引き取ってくれるか、あるいは家以外の場所で倒れてくれれば一番手っ取り早いという訳だ。

 今回、シュトラッサーの置き土産が罠であることは判っていた。そしておそらく、その背後に別の天使がいるだろうということも。
(だから学園生を頼んだのだけど……まさか白川君が大怪我するぐらいだったとはね)
 因みに一応一般人である星には、撃退士の差は「強い」「すごく強い」「物凄く強い」位の認識である。
「とにかく、お話はうちの白川に伝えておきます。そちらにご迷惑はおかけしないようにくれぐれも言っておきますので」
 何とか電話を切り、星は溜息をついた。




 少し足を引きずるようにして、池永真弓が居間に戻って来た。
「お待たせしてすみません」
 静かに会釈する。
 先日の戦闘でジュリアン・白川(jz0089)は負傷し、池永邸で休養している。依頼を受けて真弓を護衛に来た学生たちも、特に予定がない者はそのままここに滞在していた。
 そしてここ数日で幾つか判ったことがある。
 ひとつは、真弓の足が悪い原因。これは先日のアヴィオーエルから逃れる際に受けた傷が元であるらしい。
 もうひとつは、真弓が堕天した経緯。およそ30年前、池永家当主である大仙氏と知り合い、興味を持ち、結果堕天したこと。その際に使徒であった小青を置き去りにしてしまったこと。
 そしてその大仙氏がもうあまり長くないこと……。
「あの子が私を怨んでいるなら、それは当然だと思っていました。なので直接会って、少しだけ待つように伝えようと思ったのです」
 だが、小青はただ主を求めていただけだった。
「このままあの人がこの世を去るまで、静かに傍に居たかった。でも私がこの地に居ることが判ってしまいました。アヴィオーエルも大人しくはしていないでしょう。……せめて小青にはもう一度会って、話を聞いてやりたいのです。打って出て、天使に勝てると思われますか?」
 思いつめたような黒い瞳が、一同を見回した。




 瓦礫の上にしゃがみ込み、小青はぼんやりと夕日が沈むのを眺めていた。
 背後に足音が近付いてもそのまま動かない。
「お前さんの主……いや、元・主か。見つかったらしいな」
 一見何の変哲もない中年男だが、小青と同じくシュトラッサーである川上昇だ。
 振り向かないまま、小青は小さく頷く。
「悪いことは言わんから諦めろ。今のお前が生きていられるのは何方のお陰だ?」
 川上はゆっくりと小青の傍に座る。
「お前にも判るだろう。天使から見れば、人間は家畜だ。偶に目についた奴を可愛がることがあっても、所詮対等の存在じゃない。人間でも偶にペットを家族同様に扱うのもいるが、ほとんどはそうじゃないだろう?」
「グラディエル様は川上殿を大事にしていらっしゃいます」
 拗ねたような口調で小青が反論する。
「……有難いことだが。俺が手を噛めば、あっという間にあの方は俺を斬るさ」
 さらりと言うと、川上は再び立ち上がる。
「俺はあの方のそういうところが気に入ってるがな。中途半端に甘い、無能な上司の下で働くのは面白くない」
 押し黙ったままの、やけに小さく見える背中。
「アヴィオーエル様も相当頭に来てる。今度お前さんの主に遭ったら、どっちかが死ぬまで止まらんのは確実だ。それは覚悟しておけ」

 小青に伝えることはなかったが、アヴィオーエルの立場もかなり危ういのだ。
 以前狩り損ねた相手を再び取り逃がしたという失態。
 クー・シーが表れれば、傷を押してでも今度こそ仕留めに来るだろう。
 万が一それに失敗する様なことがあれば……。
「それで川上殿は、どうしてここへ?」
 小青の問いに、川上は軽く肩をすくめた。
「まああれだ、監視役ってところだな。手出しは禁止されている。アヴィオーエル様もそれは望まれないだろう」
 川上の周りに、銀色に輝く物が集まり飛び交う。
「それでもこいつを貸すぐらいは見逃してもらえるさ。お前さんが使いたいように使うがいい」
 顔を上げた小青の前を、銀色の翼がすいっと横切っていった。

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リプレイ本文



 池永真弓の問いに、撃退士達は素早く視線を交わした。
 グリムロック・ハーヴェイ(jb5532)がただ静かな瞳で、真弓を真っ直ぐ見つめる。
「小青と話を……ですか。了解した」
 今は対立する立場となっている以上、いつでも矛を交えることはできる。
 だがそう何度も話し合う機会があるものではない。
 例え思いが通じなかったとしても、言葉を交わすことを最初から諦め、後に後悔するよりは余程いいだろう。
 問題は『いつ』それを決行するかだ。
 天使に勝てるかどうかは判らない。
 雪室 チルル(ja0220)は、学園の教師を一撃で重体に追い込む程なら、それなりに強い敵だと思った。だがそれは『臆病』とは間逆の発想だ。
「先手必勝よ! やられる前にやっつければいいのよ!」
 肩と脇を抉られた天使の痛手も小さくないだろう。回復を待ってやる義理もない。
 グリムロックも同意する。
「賛成だ。『思い立ったが吉日』というやつだな」
 となると、問題はジュリアン・白川(jz0089)の扱いだ。

 ドアが勢い良く開き、月居 愁也(ja6837)の声が飛び込んできた。
「はるばる久遠ヶ原から手伝いに来たぜー! おっ、作戦会議中? ちょうど良かった!」
 大股に部屋を横切り、夜来野 遥久(ja6843)の隣にどっかと座りこむ。
 が、遥久は軽く愁也を見遣って無言。愁也が軽く肩を竦めた。
「同じく増援として派遣されました六道です。みなさんよろしくおねがいします」
 丁寧にお辞儀する六道 琴音(jb3515)の後に、ハッド(jb3000)が胸を逸らして続いた。
「我輩はバアル・ハッドゥ・イル・バルカ3世。宜しく頼むのじゃ〜!」
 力強い増援に、俄かに勝機が見えたような気持になる。

 即時決行で意見は固まった。
「天使にもミスターにもおとなしくして頂き、少し事を進めましょうか」
 遥久がゆっくりと立ち上がる。真弓が不意に自信なげに遥久を見上げた。
「……白川さん、納得なさるでしょうか」
「納得していただきます」
 即答だった。




 部屋の中では起きあがった白川が、ヒヒイロカネ製のカフスをとめているところだった。
「先生まだ寝てなきゃだめだろ! あ、これお見舞いでっすー」
 愁也が提げていた果物籠をテーブルに置く。
「わざわざすまないね。もう大丈夫だよ」
 いつも通りの笑顔。だが血の気の引いた顔色は隠しようもない。
 櫟 諏訪(ja1215)が穏やかに白川を気遣った。
「さすがに無茶ですねー、もう少し横になっていて下さらないとですよー」
「君達がここに来たということは、行動に移すということだろう?」
 諏訪もその点については頷く。
「天使を出し抜くとしたら、恐らく怪我をしている今しかないと思うのですよー?」
「ならば引率なしでの遠足を見過ごすわけにはいかないな」
 琴音が胸の前で組んだ手をきゅっと握りしめる。
「白川先生、正直言ってその身体では、足手まといになると思うのです」
 普段おとなしく、どこかおどおどしたような琴音にしては厳しい断言だった。
 だが守る対象が増えては、こちらの負担が増すのは間違いない。
「天魔との戦いは今回で終わるわけではないと思うのです。今は怪我をしっかり治すのが、建設的というものです。……先生のお力はまだ必要ですから」
「その通りじゃ。白川ん先生はしっかり養生して、次の合戦に備えるのじゃな〜」
 ハッドが腕組みで重々しく頷いた。
「気持ちはわかるけどさあ、その傷じゃ戦闘無理でしょ」
 愁也が明るい笑顔を向けた。
「大丈夫、必ず池永さん連れて戻ってくるから可愛い教え子を信頼してよ! 任せられませんか? 俺らには」
 言葉に込められた気持ちは白川にも伝わっているはずだ。
「先生には私達を信用して待ってて欲しいんです」
 竜見彩華(jb4626)が尚も言い募る。
 だが、白川は首を縦に振らない。
「君達を余計な事に巻き込んでしまった以上、私の身の安全より優先すべきものがある」
 彼には彼の、指導者としての論理があった。

 業を煮やしたとばかり、遥久が手を伸ばし無言のまま白川の左肩を強く掴む。
「……ッ……!!」
 シャツに赤い染みが広がった。白川も呻きを堪えるのが精一杯だ。
「この傷が完治してからおっしゃって下さい」
 静かな遥久の声。だがそれは鉄の蓋で生の感情を抑え込んでいる様なものだ。
 後悔と、遺恨。
 あの場では仕方なかったとはいえ、白川の負傷は守り手としての遥久の自負心を酷く傷つけてしまったのだ。また『仕方ない』状況がないと言い切れない以上、今は白川を同行させるわけにはいかない。
「我々を信じては頂けませんか」
 白川が腰掛けるのを助けながら、遥久の横顔にはどこか悲しげな翳が過る。
「……泣きますよ」
 泣きたいのはこっちだ。白川は内心毒づきながら、胸ポケットに押し込まれた物を取り出す。
「二十歳越えた男が何を言うか。泣き縋られて心が動くのは美女相手に決まっているだろう」
 紙片に目を走らせ、それについては触れず軽く溜息をつく。
「……以前から思っていたが。君達は少し人が良すぎる。私をデコイにして真弓さんから敵の目を逸らすぐらいの非情さも、時には必要だよ」
 だがそれをできない学生達だからこそ、白川は今の学園を愛するのだ。
 額に落ちる前髪をかきあげ、普段の笑みを向ける。
「まあいい。ところで真弓さんは普段許可されていない、武器を所持しているのだが」
 真弓は、天使クー・シーであった頃とは比較にならないほど力が衰えている。攻撃はその残り少ない力を一層消耗することになるのだ。
「どうしてもという場合を除いて、なるべく攻撃はさせないでもらいたいのだ。無理を言うが宜しく頼む」
 白川が頭を下げた。




 装甲車の中で彩華は真弓の隣に座り、控え目に声をかけた。
「小青さん……真弓さんのことが大好きに見えました」
 真弓はただ困った様な微笑を浮かべた。
「もしよかったら小青さんに手を差し伸べて、こっちへおいでって言ってあげてもいいと思うんです」
 久遠ヶ原学園は少なくとも表向きは、堕天使だけではなくシュトラッサーも受け入れる用意があるとしている。
 彩華は先日見かけた天使の鋭い眼差しを思い返す。
(あのアヴィオーエルって天使、小青さんに優しくない感じがした)
 小青が本当に真弓に会いたかっただけなら。そして今、真弓が小青に会おうとしているなら。
 二人は思いを言葉にすれば、お互いにまた通じ合えるのではないだろうか。
「拾った責任……っていうのは何か違うけど。一度手を取ったなら最後まで付き合ってあげて欲しいかな、って。あっすみません、我儘言って」
 彩華がわずかに顔を赤らめ俯いた。バハムートテイマーの彩華には、自分を信じついてきてくれる存在に対する深い思いがある。
「そうですわね……私が無責任だったことは間違いないと思います」
 どこか他人事のように真弓が呟いた。
「置いてくればあの子は死ぬと判っていました。アヴィオーエルが自分の力を割いてまで生かしておいたのは予想外でしたね」
 不意に強い瞳が撃退士を見渡す。
「皆様、どうか私や小青の為にご無理はなさいませんよう。今回は単に私の我儘ですので」
 僅かな沈黙が場を支配する。それを破ったのは諏訪だった。
「もしかして、罪を償うために死を望むとしたら、それは間違いだと思うのですよー?」
 小青に『もう少しだけ』この地で生きたいと真弓は言った。では、その後は?
 諏訪は今の主に真弓の助命を約束させようとする、小青の悲壮な声を思い返す。
「少なくとも、小青はあなたの死を望んでいないと思うのですよー?」
「……そうですわね、今の所は、おそらく」
 何処かしら煮え切らない真弓の返答に、諏訪が首を傾げた。
 そのときチルルの良く通る声が響く。
「ついたわよ!」
 装甲車はゆっくりと停車した。




「みんな、あたいの声ちゃんと聞こえてる?」
 チルルが通信機に呼びかける。残して来た白川からも返答があった。
『こちらは問題なし。のんびり横になっているよ』
 遥久が託した紙片には、池永家の動きに注意してほしいとの依頼が記されていた。
 真弓の不在中に不穏な動きがないとも限らない。盗聴等を警戒しての注意喚起だったため、恐らく白川はその辺りも含めて『のんびり』という表現を使ったのだろう。
『ああ、傷はちょっと熱を持ってきたかもしれないな! 折角の果物もむけなくて実に残念だよ』
 しっかり嫌みも忘れない。当分死にそうにもない男だった。

 装甲車を降り、それぞれが配置につく。
「瓦礫を上手く使えないかしら」
 琴音が提案し、瓦礫の小山を背に真弓を立たせる。阻霊符があれば少なくとも後背を突かれることはない。
 諏訪、遥久、彩華がそのすぐ傍に立ち、チルルとグリムロックが前に出る。琴音は二人の少し後方に控え、いざという時の回復役を担う。
 直ぐに見慣れた巨大なウサギが飛び出してくるのが見えた。
「お願い!」
 彩華は召喚したティアマットを、防壁のように目の前に横たわらせる。これでしばらく足止めできるはずだ。
「来たわね! あたいがまとめて吹き飛ばしてやるわ!」
 挨拶代わりとばかりに、チルルの氷砲『ブリザードキャノン』がヴォーパルバニーを猛吹雪に巻き込んだ。
「こっちも巻き込まれないように気をつけないとな」
 グリムロックがその威力を前に苦笑いの様な表情になった。
 だがすぐに口元を引き締めると、弓を構え、手近のグレイウルフを仕留める。
 いずれも一対一ならばそれほど脅威はないが、斥候だの仲間を呼ぶだので性質が悪いのだ。

 瓦礫の山を取り巻く、古い家々。
 ハッドは闇の翼を広げ、ハイドアンドシークで身を隠す。その後を愁也は瓦礫や建物に身を顰め、遅れぬよう、そして音を立てないよう注意深く、広場を大きく迂回して行く。
 途中で遭遇したヴォーパルバニーは、耳をピクリと動かす僅かの間に吹き飛ばされた。悪魔の属性攻撃を乗せた雷の剣が、鋭くその身体を貫いている。
「これで情報網は寸断じゃな」
 ハッドは再び身を隠す。その潜行を助け、確実に仕留めるのは愁也の仕事だ。
「邪魔する奴は俺に蹴られてどっかいけ、ってな!」
「……あれはなんじゃ?」
 ハッドが指さす先を横切る銀色の影。それが前触れであったように、小柄な少女が建物の暗がりから姿を見せる。シュトラッサー・小青だ。
「ハッドさん、後ろに回り込もう」
 愁也とハッドは頷き合うと、すぐさま移動する。

 銀色の物は、大きなコウモリに似ていた。小青を守るように数羽が入り乱れている。
 愁也はアウルの力を身の内に溜める。
「数が少ないな。何か厄介な奴かもしれねえし、まずあいつを落とすか」
 闘気解放で威力を増したアウルの銃弾が、小青の背後で爆発した。
「くっ、其方にもおったか!」
 小青の金色の瞳が、異様な光を帯びる。直ぐに反応した銀色の蝙蝠は、よろめくように頼りない飛び方ながらも愁也に接近。
「これで終わり、……?」
 撃ち落とそうと銃を構えた愁也が、動きを止めた。
「どうしたのじゃ、寝ておる場合ではないぞ!」
 冗談交じりのハッドの呼びかけだったが、愁也は答えない。ハッドは即座に魔法書を開き、愁也を眠らせた蝙蝠を雷の剣で貫く。
 だがこれでハッドは潜行の利点を失った。別の一羽がハッド目がけて接近し、笑うかのように牙を剥いた。
 その一瞬に、ハッドの意識は刈り取られる。

「なるほど、これは良い物を借り受けた」
 小青は口元に残忍な笑みを浮かべ、双剣を容赦なく振り抜く。
 鮮血を噴き出し、ハッドの身体はその場に崩れ落ちた。相反するカオスレートの差が双剣の威力を増しているのだ。
 もう一撃。
 小青は剣を構え、ハッドの喉元に躊躇いなく突き立てようとする。その時だった。
「やめなさい、小青!」
 鋭い叱責。
 使徒はかつての主の声に身を震わせた。
「……いったい何をしに来られたのですか」
 ぎこちない動作で、小青が振り向く。
「お前と話をしに来ました」
「……私の背後を襲わせて、ですか?」
 心なしか震える声。
「クー・シー様、やっぱり私が邪魔で、捨てて行かれたのですか」
 違うと言ってほしい。小青の瞳が訴えていた。
 だが堕天使は嘘を是としなかった。
「結果を否定はしません。私は自分の意思で、天界を去りました」
「……っ!!」
 目を見張る使徒に、高らかに轟く声が呼び掛けた。
「だから言ったであろう小青! 早くその女を仕留めよ!」
 白い翼を広げたアヴィオーエルが剣を手にゆっくりと舞い降り、真弓を睨みつける。

「でたわね、天使! あたいは先生と違って容赦しないわ!」
 猛然と突っ込むチルル。地を駆け抜けたブリザードが天使を襲う。
「ここまでです。撤退を」
 遥久が真弓を促す。天使が出てきた以上、会話は断念するしかない。
 諏訪は天使をじっと観察していた。武器は剣。これだけの距離があるのに、だ。
 銃を構えながら、小青に呼びかけた。
「あなたは本当はどうしたいのか、あれから考えてくれましたかー?」
 狙いを定め、傷ついているだろう肩にイカロスバレットを撃ち込んだ。癒えているなら弓を使うはずだ!

 その予想は当たっていたのだ。だが、沈んだのは天使ではなかった。
「小青……!?」
 最も驚いたのは、あるいはアヴィオーエル自身だったかもしれない。
 だが即座に立ち直ると、剣を脇に構え、真弓を追いかける。
「お前だけは逃がさぬ!」
 光の如く突進する天使の剣は、確かに真弓を貫いたかに見えた。
 しかし血を噴き出したのはグリムロックだ。庇護の翼で真弓の受けるはずだった猛攻を引き受けたのだ。
「攻撃は不得意だがな……!」
 不敵に笑って見せる。
 もとより接近戦の不得手な天使は、二撃目を諦めるとその場を離れた。
 そのまま飛び去るかと見えたが、不意に高度を落とす。
「……馬鹿者が」
 倒れる小青を抱え上げると、今度こそ高い空へと飛び去って行ったのだった。


「だーかーらー、気がついたら背中が割れてたんだってば!」
 装甲車の中で愁也が力説し、遥久が溜息をついた。
「まさかウサギに蹴られて目覚めるとはな」
 そのお陰ですぐにハッドを保護できのは幸いだった。ハッドの傷は深いが、命に別条はない。
 他の仲間の傷も、遥久と琴音によって既に癒えている。
「大丈夫ですか?」
 琴音の気遣いに彩華はただ力なく笑みを返す。
 ティアマットを通して皆を守り抜いたため、傷はかなり深かった。
 その身体の傷は癒えたが、胸の痛みは消えない。
(どうしてこんなにすれ違うの……?)
 どうして小青にあんなことを言ったのか。彩華は真弓の横顔をぼんやりと見る。
 真弓はそれには気付かず、諏訪に声をかけた。
「嫌な役目をさせてしまいました。申し訳ありません」
 車の振動につれてアホ毛が揺れていた。
「いえー、でも無事にあれを見つけてくれるでしょうかねー?」
 諏訪が笑顔を向ける。だがその拳は内心の葛藤を抑え込むように、白く、固く、握りしめられていた。


<了>


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: 蒼閃霆公の魂を継ぎし者・夜来野 遥久(ja6843)
 想いを背負いて・竜見彩華(jb4626)
 心重ねて奇蹟を祈る・グリムロック・ハーヴェイ(jb5532)
重体: 我が輩は王である・ハッド(jb3000)
   <回避不能状態で使徒に強襲される>という理由により『重体』となる
面白かった!:6人

伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
二月といえば海・
櫟 諏訪(ja1215)

大学部5年4組 男 インフィルトレイター
輝く未来を月夜は渡る・
月居 愁也(ja6837)

卒業 男 阿修羅
蒼閃霆公の魂を継ぎし者・
夜来野 遥久(ja6843)

卒業 男 アストラルヴァンガード
我が輩は王である・
ハッド(jb3000)

大学部3年23組 男 ナイトウォーカー
導きの光・
六道 琴音(jb3515)

卒業 女 アストラルヴァンガード
想いを背負いて・
竜見彩華(jb4626)

大学部1年75組 女 バハムートテイマー
心重ねて奇蹟を祈る・
グリムロック・ハーヴェイ(jb5532)

大学部7年171組 男 ディバインナイト