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マスター:樹 シロカ
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
参加人数:8人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2012/04/03


みんなの思い出



オープニング

●春、きたりて
 世は春。

 窓から差し込む光に、小さなチリがきらめき、新旧ないまぜになった紙の匂いが立ちこめている。
 多くの人の気配と併存する静謐。
 その独特の気配を愛し通う者、あるいは3月時点での成績の救済措置として、レポートや課題を抱えている者。
 図書館はそれらすべてを包み込んでいるかのようだった。

 大八木 梨香(jz0061)は、図書館を愛しているうちの一人だ。
 北の方へ多くの学生が派遣されている件も、気にならないといえば嘘になる。
 だが今、自分にできることがない以上、イラついていても仕方がない。

 書架を巡り、本の背表紙を眺める。
 やはりどこか気にかかっているのか、足を止めたのは『哲学』のコーナーだ。
 世界の宗教学に関わる本に手を伸ばす。
 
「大八木サン、やっぱりここにいたかー」
 今まさに本の世界に入りこもうとしていた彼女を、現世に引き戻した知人の声。
 顔を上げると、男子学生の人懐こい笑顔が目に入った。二学年上の高等部三年、大島司だ。
「ゴメンねー、ちょっといいかな」
 相手が小声で談話室を指差す。

 共同課題に取り組むグループの為に、図書館にはいくつかのガラス張りの談話室がある。勿論飲食は禁止だが、普通に会話はできる。
 梨香はテーブルを挟んで司の向かいに座った。

●決めた道
 大島司は、かなり腕の立つインフィルトレイターだ。
 事情があって割のいい―つまり、危険な依頼を選んで受けている。
 だから今、ここにいるのが少し不思議ではあった。
「実は俺、今月末でガッコ辞めることにしてさ」
 余り物に動じない梨香が、眼鏡の奥で目を見張る。
「大八木サンには、色々世話になったし挨拶しとこうと思って」
「…辞めるって、どういうことですか?」
「うん、ちょうど高等部卒業だしさ。自衛隊受かったんで、そっちの撃退士になろうと思って」
 いつも通りの笑顔に、わずかな陰りがよぎる。

「自衛隊ならちゃんと給料もらえるし、ほら、何かあった時に年金も…」
「やめてください、何かなんて」
 司の言葉を、梨香が鋭く遮る。

 梨香が彼の事情を知ったのは、司が天界ゲートに関する資料を求めて図書館に来てからだった。
 本来異性と話をするにも構えがちな梨香だ。だが辛い経験にも失われない彼の快活さには、やがて親しみを覚えた。
 また梨香自身が天使に対し強い敵対心を抱いているため、今では同士のような連帯感を持っている。
「…うん、そうだなごめん。ともかくさ、そっちも元気で頑張って。俺も頑張るからさ」

 手を振って立ち去る背中を、梨香は複雑な心境で見送った。
 学園と違い、国家公務員ともなれば自分で任務を選べるわけもない。明らかに危険な任務に出動しなければならないこともあるだろう。

 談話室の出口で佇んでいると、突然肩を掴まれた。
「あなたちょっと!先輩と何話してたの!?」
 びっくりして相手を見る。
 少し派手だが、目鼻立ちの通った綺麗な女子学生だった。
「え、何って…普通に雑談ですが」
「その割には、深刻な顔してたじゃない!どういう関係よ!先輩はあなたに何を話したのよ!」
 すごい剣幕で両肩を掴みゆさぶられる。甲高い声がキンキンと耳に響く。
「や、あの、ここ図書館で…その、大声は、わわわ」
 ゆさゆさ揺すられながら、なんとか抵抗を試みる。
「もう、なんであなたなのよ!どうしたらいいのよーー!!」
 今度は抱きつかれた。そして泣かれた。

 図書館内の学生が、何事かと書架の陰から顔をのぞかせる。
 そこで彼らは見るのだ。
 おさげの女子学生の眼鏡に浮かぶSOS。
『ナントカシテ…』

●もどかしい想い
 女子学生は高等部二年の山本若菜と名乗った。
 大島先輩とは同じクラブに所属しているらしい。
「で、山本先輩は大島先輩のことが好きで、先輩が卒業してしまうと聞いて驚いて追いかけてきた、という訳ですね」
 梨香が眼鏡の位置を直しながら言った。
「やだっなんでわかるの!?」
 若菜の頬が真っ赤になる。
 …回答を保留し、梨香は話を続ける。
「それで私にお話とはなんですか?」
 若菜の顔が曇る。

「前から大島先輩が、危ない依頼ばっかり選んで受けてるのは知ってたの。何か事情があるんだろうなって思ってたけど、自衛隊なんて…学校からいなくなっちゃうなんて…。
 まだまだ大学まで一緒に過ごせると思ってたから、びっくりしちゃって。
 どこに赴任するかも、連絡が取れるのかも判らないし。だから最後に私の気持ちを伝えたいと思ったんだけど…」
 顔を上げた。目には涙をためている。
「それって、私のわがままなのかなあ?先輩だって本当なら、もっと学園にいたかったのかもしれない。
 私が自分の気持ちを伝えてすっきりするのは私の身勝手で、先輩には迷惑なんじゃないかって…私、こんがらがってきちゃったの!」

 どうしたらいいと思う?と縋られて、梨香は途方に暮れた。
 よりによって、私にそれを言ってどうするんですか…。

●苦肉の策、あるいは日延べ作戦
「私にできるのはここまでです」
 若菜が大騒ぎしたお陰で、図書館にいた数人のお節介焼きが集まった。
「図書館の蔵書確認のバイトを出してもらいました。報酬は高くはありませんが、早い日程が組めますので大島先輩にも来てもらえるでしょう。
 申し訳ありませんが、私にも最善策は判りません。また、大島先輩のプライベートを私がお話しする筋合いのものでもないと思います。
 そこでどうするかは、山本先輩がご自分で決めてください」

 若菜は少し不安そうに、だが強く頷いた。


リプレイ本文

●まずは胃を攻めろ!
「男の子を落とすには胃袋から。手料理とか効果的よ♪」
 ビール片手の雀原 麦子(ja1553)が断言したのは、若菜の下宿先の共用キッチン。
 一角を占拠して、明日のバイト後のお茶会の準備中だ。
 御手洗 紘人(ja2549)が現れた。携帯を振って見せる。
「大島さんの予定確認できましたよ。バイトの後はフリーだそうです」

 麦子が若菜の頭をぐりぐりと撫でまわした。
「よかったねー、んじゃ本腰入れてやりますか!」
「あ…ありがとうゴザイマス」
 意味もなく小麦粉の袋の秘孔を突き続ける若菜だった。

 エルレーン・バルハザード(ja0889)が隣で砂糖を量りながら、ぽつりと言った。
「若菜さんはその人が好きなんだよ、ね?…でも、そう言うのを迷ってるの?」
 ものすごい直球だ。
「えっ、いや…あの…!」
「どうして、迷ってるの?自分のきもちを伝えるのは、そんなにめいわくかなあ…?」
 若菜自身、その問いはずっと自分の中で繰り返してきた。
 別れの日が迫っているのに、それでもまだ。
「誰かが、自分のことを想ってくれてるんだ、って、わかることは…とても、すてきな、事だと思う…よ。遠く離れた場所にいるんだとしても、きっと…」
 エルレーンは、一生懸命に言葉を選んで、紡ぐ。
 迷い立ちつくすだけではなく、行動し、納得して欲しいから。

「いいですよね。青春って感じで」
 宮本明音(ja5435)が生卵を頬ずりするように持ち、呟いた。
「そうですね、でも…山本さんにとっては複雑なところですね」
 カタリナ(ja5119)が、材料を手早く並べる。

 もちろん、若菜の思いが叶えば良いと思う。
 でも自分なら…これからどうなる、どうしたい、それよりも。
 ただ想いを伝えたいし、せめて好きな人が学園を去る理由は知りたいと思う…。

 小麦粉の袋を手に、紘人がさらりと言ってのけた。
「山本さんも学園を辞めて大島さんの所に嫁げばいいのではないですか?」

 ガッターン。
 若菜が調理台の上にめん棒を落とす。

「僕には何が正しいのかはわからないのです…ただ、大事な人が去るのは辛いですよね」
 最近大切な友人が学園を去ってしまった紘人は、自身を重ねてしまうのだ。
 辛い気持は同じだと思うから、後悔しないように。敢えて決断を促す。

「山本さん自身がどうしたいんですか?恋人になりたいのか、告白したいだけなのか。本当に好きなのでしたら自分の思いを伝えるべきなのです。でも、曖昧な気持ちなら止めた方がいいのです。相手に失礼なのです」

 うつむいた若菜が、黙りこむ。
「あたしは今まで…ただ先輩を見てるだけで、幸せだったの」
 暫くして口を開いた。
「学園は広くて、部室以外じゃそんなに遭える訳じゃない。だから、偶然見かけられたらそれだけでその日はずっと幸せでいられる。その瞬間、ボサボサ頭じゃショックだから、いつでも綺麗でいなくちゃと思う。そういう、日々のエネルギーの源だ!って思ってた」
 少しきつく見える眼元に、うっすらと涙がにじむ。
「でも先輩が居なくなるって聞いて、違うんだって判ったの。それだけでいいなら他の素敵な人を探せばいい。でも私はやっぱり、先輩でなきゃ嫌なんだって…!」

 麦子がハンカチを差し出す。
「そんなに大事な想いは伝えられる時に伝えておくべきよ。機会が失われてしまったら、ずっと後悔することになるから…」
 優しく肩を叩く。
「ま、相手が迷惑って思う様なら、そんな狭量な男は思い出にして次の恋を探すのもありよ!」

 それより作業作業!と促した。
 若菜も照れたような笑いを浮かべて、自分の作業に取り掛かる。

「若菜さん、こっちのボウルとか洗っちゃいますねっ」
 明音が使い終えた道具を次々と片付けていく。普段ののんびりした印象からは、その手早さはおよそ想像できないだろう。
 それもそのはず、自身が料理は得意な方なのだ。だから、段取りも慣れている。
 だが今日はあくまでもサブに徹している。
(今回の主役は私じゃないですから、ね)

 こうして、翌日のお茶会に向けての準備は整った。

●そしてご対面
 翌日の昼。ビニールシートで覆われた『芸術』分類の本棚に、バイトのメンバーが集まった。
「後でお茶会まであるんだって?ラッキーなバイトに当たったよ」
 素で何も知らないのかは不明だが、大島司がにこにこと笑う。

 蔵書リストと実際に棚にある本を照合する作業だ。効率よく進めるため、3班に分かれる。
 班分けを大八木 梨香(jz0061)が読み上げ、等分した蔵書リストを配布する。当然、若菜は司と同じA班である。
 一斉に作業に取り掛かる。今回バイトはおまけのようなものだ、極力急いで完了したい。

(図書館整理のついでに恋愛相談ねえ…しかも相手は自衛隊志望か。ま、有望な国家撃退士は欲しいし、かと言って死に急いで貰っては困るし…)
 新田原 護(ja0410)に同じA班のカタリナが呼びかけてきた。
「あ、ちょっとこっち手伝ってください」
 ふたりから距離を取り、司に若菜の存在を印象付けるためだ。理解し、その場から離れる。
「この本は…ここ、これはここか。あー、研修で戦術理論をレポートしまくって資料本を返却している気分を思い出す。あれは酷かった…」
 回想にふけりつつも、手は動く。早く終われば、楽しい会話の時間が多く取れるのだ。


「で、どうだったんですか?」
 抜いた本の隙間から、B班の梨香がA班を伺う。
「どうかなあ…軽い気持ちじゃないみたいなんだけど…ああもう、固いわっ」
 隣にいた麦子が、ミーナ テルミット(ja4760)の腕を引っ張って棚を廻った。

「ねね、詳しそうだけどお二人さんのクラブってこーいうの?」
 指差したのは『演劇』の棚だった。
「あ、そうです。といっても観る専門ですけど」
 サイドテールの金髪をぴょこんと揺らして、ミーナが声を上げる。
「オーッ、んじゃワカナはミュージカルとか詳しいのか?」
「うん、山本サンは結構詳しいよねー」
 
 うまくほぐれた雰囲気の会話を、鴉乃宮 歌音(ja0427)の耳がとらえる。
「次、分類番号○○○番『フランス工芸史』!」
 伊達眼鏡を直し、読み上げると、エルレーンと明音が本を手分けして探していく。

 頃あいを見て梨香が声をかけた。
「交替で少し休憩しませんか。そろそろ皆さんお疲れでしょうし」
 
 一部の者の間で目配せが交わされ、およそ半数が外に出る。


 ミーナは女子の作戦会議場―トイレで、念入りに髪を直す若菜と並ぶ。
「ツカサは良い人みたいだナ!」
 鏡越しの澄んだ青い瞳に、照れつつも素直に頷く。
「実はミーナも片思いの子がズーットいてナ!ミーナはオセオセでスキだーって言ってるんだけどナ!今まで振り向かれたタメシナイゾ!アッハッハ!」
 その言葉に自分への気遣いを感じ、若菜は泣きそうになりながら笑って見せた。
 
「デモナ?ミーナ思うんだヨ。スキって気持ちナ?隠したまま伝えない方がツミなんじゃないカナ?
もし相手もワカナがスキだったら、相手の望みもカナワナイダロ?そうじゃなくても、相手は傷つかないヨ。これって相手の為になってないカ?」
 まっすぐな瞳とまっすぐな言葉。
「そうかもしれないね…」
 ミーナの瞳がまぶしくて思わず目を逸らし、若菜は鏡に映る自分を見つめた。


 一方、男子用トイレ。入口で歌音とすれ違った司は、慌ててトイレの表示と歌音を交互に見遣る。
 歌音は小柄な身体に大きな瞳、おまけに女子標準服だ。無理もない。
「山本若菜が話したい事があるようだ」
 軽く腕を叩き、少女とも少年ともつかない声が告げる。
「君も何か迷いがあるなら考えておくといい」

 中には護がいた。
「さっき小耳に挟んだんだが、自衛隊に行くのか」
 司は護が陸自関係出身だと聞いて、興味を示す。
「現在、警察と陸自では対天魔事件に対しては即応戦力として久遠ヶ原の卒業生を投入している。しかし、国家撃退士になるような奴はフリーランスで食っていけない奴らとみなされているから…」
 自分の進路に関する話だ。
 真剣な表情で、護の話に聴き入った。

●運命のお茶会
 全員の真面目な取組みで、バイトは16時少し前に完了した。
 歌音が一同を図書館の裏手へ案内する。
 海沿いの道へ降りる階段の上に、早咲きの桜が8分まで花弁を開いていた。
「日のあるうちなら、それほど寒くはないだろう」
 お茶会に適した場所を見つけてくれていたのだ。
 敷物を広げたり、取り皿を並べたり、賑やかに準備が始まる。

 少し離れて、歌音はカセットコンロでお湯を沸かし始めた。
「紅茶は私に淹れさせて欲しい。好きなんだ」

 やがて、それぞれが思い思いの場所に陣取り、お茶会が始まった。
 暖かい紅茶を若菜に手渡し、歌音が小声で話しかける。
「別れは新たな旅立ち。哀しむ事はないが、迷いあらば今ここで吐いてしまうことだ…きっと、後悔する」
 どこかでこんな場合にぴったりの言い回しを聞いた覚えがある。
 そうだ、あれだ。『命短し恋せよ乙女』…

 うつむき加減の若菜を見ながら、エルレーンは考える。
(人をすきになるって、どういうことだろう)
 彼女はまだ恋を知らない。でもそれは、彼女が家族のように思う人たちに向けるものとは違うということは、何となく判る。
(恋をするって、すてきなこと?)
 若菜は苦しんでいるように見えるけれど…
「…わかんない」

 若菜が敷物の端に座ろうとすると、明音が手招きした。
「若菜さんこっち!作ってきてくれたお料理、分けてください」
 場所はばっちり司の横を確保している。ぎこちなく座る若菜に、そっと耳打ち。
「ココだけの話、皆さんかなり世話好きですからね。若菜さんを応援してますから!」

 麦子が背後から、明音と若菜の間ににゅ〜っと首を挟む。
「そんな顔してちゃダメ!ちらちら見たり照れた様子で女の子らしさをアピれ☆緩急つけて気を惹くように!」
 プシュッ!と小気味よい音を立ててビール缶を開け、若菜の作ってきた料理に舌鼓。
「うーん、お菓子もいいけど、やっぱりビールにはこれよね!おいし〜!若菜ちゃん、いいお嫁さんになるわよっ」

 が、残念なことに、司は紅茶を片手に護と二人の世界。
「…自衛隊内部には国家撃退士だけの選抜特務部隊を作る案が出ている。簡単にいえば補給部隊、装甲車両、出来ればヘリもという風に…」
 
「良い景色ですね、こんな穴場があるなんて!あ、こっちのクッキーもどうですか。きっと紅茶に合いますよ」
 紘人が多少強引に声をかける。
(新田原さん、貴方が仲良くなってどうすんですか、自重ーーー!!)

 だが、よく見れば判るだろう。
 司が隣に座る若菜を意識しているからこそ、護の方を向いているということが。

 ありがとう、と司が紘人の方を向いた。
 ポットの紅茶をすすめながら歌音が尋ねる。
「これは個人的な興味なんだが。大島は結構場数踏んでるらしいが、何故わざわざこき使われるのが判ってる自衛隊に行くんだ?」
 勿論若菜の代理なのだが、興味も全くの嘘ではなかった。危険な依頼を選んで入っているのには、何か事情があるのだろう。何を求めているのか、同業としてやはり関心はある。

 司が素早く、若菜を、そして素知らぬふりでクッキーを齧る梨香を伺った。
 一瞬の迷いの後、口を開く。
「…俺には歳の離れた弟が居るんですよね。まあよくある話だけど、天界の結界内で死にそうになって、今、地元でずっと入院してるんです。親や親戚もみんなやられちゃって…俺が稼がないと結構高い弟の入院費がね。もし俺が死んだり再起不能になったら、学生やフリーじゃどうしようもないでしょ?その点自衛隊なら安心かなー!なんてね」
 最後は、変わらない笑顔で。そしてうまそう!などと言いながら弁当に手を伸ばした。
 それが一層痛々しい。

 それぞれが抱える現実が突然のしかかる。
 撃退士それぞれに守りたいモノがあり、譲れないモノがある。
 だから誰にも、いつかはこの学園にサヨナラを告げ、自分で選んだ道を進む日が来るのだ。

 日が陰り、海からの風が肌寒くなった頃、お茶会はお開きになる。
「今日はホント来てよかったです。どうもありがとうございました」
 司が、少し神妙な調子で言った。

「またいつでも連絡してくれ。私も是非現場の話が聞きたいから」
 何故か携帯電話の番号とアドレスを交換する護。
「んじゃお疲れ様ー!司君これからもがんばってねー!」
 麦子が護を引き剥がす。さっさと2人きりにしてやらんかい!

「馬に蹴られて死にたくないからね、それじゃ頑張ってっ」
 若菜にだけ聞こえる声で言い、明音も駆けていく。

「まだ迷惑かも…なんて思ってませんか?」
 カタリナが声をかけた。続けて、敢えて厳しい言葉を若菜に投げかける。
「大島さんの事を思って?…たぶん違います。迷惑がられる事が怖いだけ。自分の告白が彼の人生を左右する力を持ってるとでも?」
 怯えたような眼で、若菜が見上げてくる。
「…ごめんね。でも後悔しないで。たまには映画のヒロインになってみましょう?」
 硬さを崩さないカタリナの口元を、微かな笑みが掠めたような気がした。

 皆が背中を押してくれた。傷つくことを恐れるな。
 そう、先がどうなるのかなど今の自分にも先輩にも判らない。
 だけど今のこの気持ちだけは、絶対に本物。それをまっすぐ伝えればいい。

「先輩、お話があるんです」 

 もう俯いてはいない、しっかりとした足取り。
 皆がくれた勇気が、支えてくれる。

 
「歌音さんもいいとこありますよねっ。もちろん、知ってましたけど」
 明音が、荷物を下げて歩く歌音に笑いかけた。
 私は〜?と明音におんぶおばけのように被さる麦子。
「麦子ちゃんは格好良すぎて私惚れちゃいそうなんですけど…」
「んふふ〜やっぱりい?」

●そして乙女は… 
 で、結局あのふたりは?
 図書館に行けば、梨香が事実のみを伝えるだろう。
 
 ごめん、正直、今は自分のことで目一杯なんだ。
 でも…ありがとう。嬉しいよ。

 これが返事だったらしい。

 若菜はそれでふっきれたそうだ。
 …その結果、貰った勇気で押し掛け女房よろしく、荷造りの手伝いに通っている。
 ひょっとしたら、司の赴任地まで押し掛けるかもしれない。

 彼らが今後どうなるかは判らない。
 けれどいつか孤独に心が凍りそうなとき、若菜の言葉はきっと司の希望の灯りとなるだろう。
 誰かが自分を想ってくれる。人にはそれが勇気の源になるのだ。


 麦子が笑った。
「ま、手紙のやり取りぐらいは大丈夫よ。電話や面会も多少はできるでしょ。周りに女の子が居ない分、浮気の心配は薄いしね」
 そこでふと真顔になる。
「…新しい道に目覚めなければだけど」
 いやー麦子ちゃん、やめてー!と明音が声を殺してムンクの叫びのポーズ。

 その横で歌音は積み上げた本を読む。恋愛肯定の本と、恋愛否定の本の両極端。
「迷えるからヒトは強くなる」
 全く、これだからヒトは面白い。

<了>


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: ドクタークロウ・鴉乃宮 歌音(ja0427)
 レッツエンジョイ・ミーナ テルミット(ja4760)
 乙女の味方・宮本明音(ja5435)
重体: −
面白かった!:17人

Drill Instructor・
新田原 護(ja0410)

大学部4年7組 男 インフィルトレイター
ドクタークロウ・
鴉乃宮 歌音(ja0427)

卒業 男 インフィルトレイター
┌(┌ ^o^)┐<背徳王・
エルレーン・バルハザード(ja0889)

大学部5年242組 女 鬼道忍軍
夜のへべれけお姉さん・
雀原 麦子(ja1553)

大学部3年80組 女 阿修羅
雄っぱいマイスター・
御手洗 紘人(ja2549)

大学部3年109組 男 ダアト
レッツエンジョイ・
ミーナ テルミット(ja4760)

大学部2年7組 女 アストラルヴァンガード
聖槍を使いし者・
カタリナ(ja5119)

大学部7年95組 女 ディバインナイト
乙女の味方・
宮本明音(ja5435)

大学部5年147組 女 ダアト