●お内裏様とお雛様、二人仲良く喧嘩しな
溜息と共に閉じ込められた25人はお雛様チーム、お内裏様チームという風に人数を分けるとチームに分かれると両端に設置された巨大ひな壇へと向かった。
そしてひな壇上には葛篭が置かれており、それを開けるとひな祭り用の衣装が入っていた。
お雛様として最上壇へと上った鳳 優希(
ja3762)が葛篭を開けると、煌びやかな衣装が入っており優希は目を輝かせる。
「こ、これは都で一番優美な衣装とされている、雅な十二単ですねぃ!」
やっぱり女の子だからこういうのも好きなのだろう。
2段目では三人官女として澤口 凪(
ja3398)、カタリナ(
ja5119)、森部エイミー(
ja6516)、エルレーン・バルハザード(
ja0889)の4人が着替え終えてポーズを取っていた。
「私の知ってるひな祭りと違う気がしますが、考えたら負けみたいなので楽しんじゃいます!」
「はぁ……異変が気になって来てみたら、何故こんな事に……」
「居る、居るよ。私の天敵が向こうに……居る!」
「優希様も『雅な女の子の雑誌HeyAnne』を愛読しておられるのですね!」
ポーズを取っているが思い思いの事を考え、口から漏れ出しているようだ。
ちなみに三人官女なのに4人居るというのは如何してかは聞かないでおこう。何故なら下の段の五人囃子は3人だけなのだから。
そして件の3段目の五人囃子では神楽坂 紫苑(
ja0526)、逸宮 焔寿(
ja2900)、栗原 ひなこ(
ja3001)の3人も着替え終え、各々武器を確認していた。
「桃の木ソードってイイ匂いだよね」
「弾はちゃんと入ってるよね?」
「……というか、早くココから出たいです〜」
桃の花に顔を近づけ甘い匂いを楽しむひなこ、あられ鉄砲の弾を確認し服に忍ばせる紫苑、一時は頑張ろうとしたがやはり返りたいと嘆く焔寿。
4段目では右大臣左大臣の雀原 麦子(
ja1553)とアーレイ・バーグ(
ja0276)がそれぞれ用意された衣装に着替え……。
「ちょ、アーレイちゃん! 何その格好!?」
「あられもない格好をするお祭りなんですよね?」
驚く麦子を他所にアーレイは隠す面積少な目の白い紐ビキニの上に烏帽子を被るというファッションをしていた。
どうやらひな祭りを誤解しているようだ。
最後の5段目には三歌人として鳥海 月花 (
ja1538)、鬼燈 しきみ(
ja3040)が座っていた。
月花の服装は単を着込み、髪型も一纏めにしていた。どうやら三歌人である小野小町を模している服装のようだ。
隣に座るしきみも同じような服装だが彼女のは男物であり、耳にゴムをつけて白い顎鬚をつけていた。こちらは三歌人の柿本人麻呂を模してるようだ。
一方、お内裏様チームでも衣装に着替えてそれぞれ準備を行う最中だった。
「たまには銃器も良いな」
そう言いながらお内裏様の鳳 静矢(
ja3856)は視線をお雛様側の壇上へと向け銃を握った。
その下の段では三人官女の衣装を着たソフィア・ヴァレッティ(
ja1133)が犬乃 さんぽ(
ja1272)と時間潰しに話をしていた。
「これが、日本の由緒正しき間者の正装なんだね。これを着て戦うんだね」
「違うと思うよ。これはサバイバルゲームみたいなもの……なのかな?」
ちなみにこちらもやはり3人ではなく2人だった。
その下の段では五人囃子の衣装を着込んだ若菜 白兎(
ja2109)、楯清十郎(
ja2990)、レナ(
ja5022)、ラグナ・グラウシード(
ja3538)が居た。
「ひな祭りは戦闘だったのだ?!」
「そう……なの?」
「多分違うと思いますが……折角ですから楽しまないといけませんよね」
目の前の状況に驚くレナ、それを信じてしまう純粋な白兎、ひな祭りがどういう物か知ってるがあえて言わない清十郎の3人が和気藹々と話す。
そんな中、ラグナは一心にお雛様チーム側へと視線を向けていた。
どうやら彼にとっての宿敵が居るのが本能でわかっているのだろう。
「今日こそ決着をつけてやるぜ……!」
その下の段では、右大臣不在の左大臣に扮した七種 戒(
ja1267)が優雅に髪をかき上げて格好良く笑う。
どうやら男性っぽく演じようとしているようだ。
「ふ……かわいこちゃんを口説くのは貴族の嗜みなのだよ」
とか言いながらイケメンっぷりを振りまいている。
その下では三歌人が3人きちんと揃っていた。
「……お祭り騒ぎ……これはこれであり、なの」
小野小町に扮したアトリアーナ(
ja1403)がそう言いながら、同行した七海 マナ(
ja3521)の隣に座る。
マナの狩衣姿を見て、顎鬚が付いていない所を見るとどうやら菅原道真に扮しているようだ。
(「月花さん何処行ったのかな?」)
そして三歌人の3人目である柿本人麻呂に扮したのは亀山 淳紅(
ja2261)であり、つけようとしている顎鬚の位置が気に入らないのか何度も念入りに調整を行っている。
壇の隅に座り、長い赤袴から覗く足をブラブラさせながら雫(
ja1894)は考える。
「これって壮絶な夫婦喧嘩が元になっているんですね」
何というか雫の見た目が大正時代の女性のような服装だが、どうやら稚児という役割を持つひな人形の衣装のようだ。
ちなみに呟きながら雫の視線はあられ大砲に視線が向けられていた。
そして大砲の一つでは氷月 はくあ(
ja0811)が仕丁の衣装を着て、小さな熊手片手に掃除を行っていた。
どうやら弾詰まりが起きた時の予行練習をしているようだ。
と、そんな時両チームの間の天井に設置されていた掲示板に電源が付き、10の数字がデカデカと表示される。
それが9、8、7と段々と数が減っていく。どうやら、0になったと同時に戦いが開始されるのだろう。
彼らは皆、手にした武器に力を込める。
直後、戦いの始まりを告げる鐘が鳴り響いた。
「さあ、血のひな祭りの始まりだ……!」
静矢がそう言うと共に、ひな壇を駆け下りる。きっとお雛様側では優希が同じように駆け下りているだろう。
こうして戦いは始まった。
●男と女のエトセトラ
あられ鉄砲両手にエルレーンは入り組んだステージを進んでいく。
一刻も早くお内裏様の陣地へ赴き宿敵を討つ為に彼女は慎重ながら的確に進んでいく。
角を曲がろうとした瞬間に反対方向から人影が激走しエルレーンとぶつかった。
「! ……ラグナ?!」
「うおおおっ! 何処だ、あの女は何処だ……って居たー!」
吹き飛ばされた痛みを堪えながら、ぶつかった相手に目を向けると彼女の宿敵であるラグナが桃の木ソードを片手に立っていた。
そしてラグナもぶつかった相手がエルレーンであることに気付き、驚く。
が、すぐに戦闘に移らずまじまじとエルレーンを上から下までジロジロ見始める。
「ほう……キモノ姿、よく似合っているな!」
「えっ、あっ……えっ? あ、ありが――」
いきなりのラグナの感想にエルレーンは顔を赤くし、何時もと違う反応を取りそうになりながらも似合っていると言ってくれたお礼を言おうとした。
その姿はまるで告白をする少女のようにモゴモゴと口篭りながら恥ずかしそうにしているようだった。
だが、それよりも早くラグナが次の言葉を口にした。
「キモノはグラマーな女性は似合わないと言うからなあッ!」
「――は?」
瞬間、エルレーンの周囲の温度が氷点下まで一気に落ちた。
「ハハハ、よくお似合いだよ! 貧乳まな板、ぺったんぺったんつるぺったんのキモノ娘!!」
そう言いながらラグナは腹を抱えて爆笑して笑う。
氷点下までエルレーンの周囲の温度は下がった、だが彼女の心に燃える怒りの炎はマグマよりも熱く沸々と燃え滾ってきた。
「う、うぅ……うわあああああああああぁっ! 死んじゃえばかっ! 馬鹿馬鹿、ラグナのばかあぁっ!!」
涙ながらに叫びエルレーンはラグナに向けてあられ鉄砲を乱れ撃ちしていく。
そしてラグナはそれを避ける事無く受けていき、被弾した為に地下収容所行きの落とし穴が開き落ちて行った。
「あはははははは! 図星を突かれて逆上か! 馬鹿女あああぁぁぁぁぁぁ…………」
笑いながらラグナは暗闇へと消えていき、その場にはエルレーンのみ残された。
そんな彼女は蹲るようにして泣くのだった……。
ポポポンと銃撃音が響き、バサバサと良い香りの枝が振られる中で焔寿とレナが戦いを行っていた。
途中、泣き続けているエルレーンに乱れ撃ちしたあられが当たり、穴へと落ちていったが、気付いていないだろう。
「カッコいいので、やってみたかったのですっ」
「五人囃子とは世を忍ぶ仮の姿……その実態は忍者なのだ!」
桃の木ソードをかざし、あられ鉄砲をレナに向ける焔寿。
短く折った桃の木ソードを逆手に持ち桃の木ニンジャソードとして構えるレナ。
緊迫する空気の中、勝負は一瞬で決まる。そう告げるかのようだった。
ジリジリと間合いを計りながら焔寿とレナは身構える。
どちらかが動いた時、勝負は付く……そして、レナが素早く走り出した!
それに対抗するように焔寿もあられ鉄砲を乱れ撃ちし始め、レナへと撃ち出していく。
だがレナは鉄砲を右へ左へと動きながら回避し、口で効果音をし始める。
「スタタタタタッ! シャキーーンッ!」
「だったら、接近した所を狙うの!」
レナの桃の木ニンジャソードが焔寿を斬ると共に、焔寿のあられ鉄砲がおでこに命中した。
それらを認識し、床が開き2人を地下へと落としていく。
「後は任せたのだー!」
レナの叫び声と焔寿の結った髪が揺れる中、穴は閉じた。
「月花さーん、どこにいるのー?」
マナが大きな声でそう言いながら通路を歩く。この時、お雛様チームの誰にも気付かれなかったのは運がいいのだろう。
その後ろでは少し不機嫌そうに桃の木ソードを軽く振りながらアトリアーナが歩く。
(「マナは……ボクより月花を取るの?」)
少し俯いてるから分からないが、きっと寂しさと嫉妬が混ざったような顔をしているのかも知れない。
直後、前の通路をふらふらと歩く月花に気付いたのかマナが嬉しそうに声を上げる。
「あ、月花さーん! やっと見つけたよ、とりあえずそっち行くね!」
「マナ、裏切るの……?」
顔を見せずにアトリアーナがマナに尋ねる。表情が見えないが手に握る桃の木ソードがメキメキいって今にも壊れそうだ。
だがそんな事には気付かないマナはにっこり笑顔でサムズアップをする。
「うん、ごめんねリア。僕は月花の為にチームを裏切る! 待っててね、月花さーん」
と言って、うきうきスキップらんららんという効果音をつけても良い位に嬉しそうにスキップで月花へと近づいていく。
その背後ではアトリアーナが病んだ瞳で桃の木ソードを握る。
「マナを裏切り者にはさせないの、だから……ボクがマナと月花を倒してボクも散る、なの!」
「リアッ!? ちょ、落ち着いて!」」
襲い掛かろうとするアトリアーナから逃げる為に月花の方へと走り出す。
「え……ちょ、なんでこっちにくるんですか!?」
「大丈夫、落ち着いてるよ。2人を倒す事だけを考えてるから大丈夫、なの」
合流したマナと月花は2人で必死に逃げる。
そして、距離を詰めようとアトリアーナが跳び、桃の木ソードを振り下ろそうとした瞬間。
「あ、あれ……な、何か踏んじゃったあぁぁっ!?」
マナの叫びと共に、地面から餅が噴出し3人を絡め取る。
「ぐっ、ベタベタします……」
「やっと捕まえた、なの」
「お、お助……けえええぇぇぇぇ!?」
マナが助けを求めよう叫んだ直後、床の穴が開き……3人は地下へと落ちたのだった。
「切り込み得意じゃねぇんだよな。罠仕掛けるか」
そう呟きながら紫苑は隠れながら道を移動していく。
と、そんな時紫苑の耳に奇妙な声が聞こえた。
「突撃ーうぇーい」
(「なんだ、この声?」)
不思議そうに声がした方向を見ると顎鬚を付けたしきみが大砲で攻撃を行おうとしているはくあに向かって突撃していた。
一方はくあははくあで、大砲でテンションが上昇しているらしく興奮気味に大砲を撃ち出していく。
爆発音と共に塊となったポン菓子がしきみへと向けられる。
「いっけーー! って、あれ、避けられた? じゃあ、連射だよー!」
だがゆらゆらとしたしきみはそれを回避して桃の木ソード片手に近づいていく。
それに対してはくあは大砲を連射で撃ち出していく。
進んでは下がっての繰り返しだった。
そこから少し離れた場所ではひなこと凪が近づけずにいた。
「あれ、カスが詰まったのかな?」
だがすぐに好機が来たのか、はくあの大砲がプスプスと弾を撃ち出さなくなった。
その瞬間、しきみが歩き、凪とひなこが走りはくあへと近づく。
同時にはくあも手に持った熊手を大砲の中に押し込み、詰まっているであろう中を急いで掃除する。
「これでよし……え、ちょ……っ!?」
直後、大砲から波のようにポン菓子が吐き出された。どうやら詰まっているのではなく、限界ギリギリになっていたのがこれで壊れてしまったようだ。
波ははくあを呑み込み、近づいてきた凪とひなこを呑み込み、しきみを呑み込んでいった。
「……あ、こりゃ無理だな。潔く落ち――おっと」
見物していたが逃げるタイミングを逃した紫苑は落下を覚悟する。
その時、流されていくポン菓子の中で布を見つけ紫苑が掴む。その瞬間。
「ひゃ!? 今、何か脱げ――」
「うわーん、何か下半身がスースーするよー!」
「……あの漫画ほしーなー貰えないかなー貰えたらもっとやる気出たんだけどなー」
と言う声が聞こえ、紫苑は掴んだ物を見た……袴が3枚あった。
とりあえず、それをそっとポン菓子の波に流すと自らも波へと沈んだ。
そんな彼らを流すように穴は開くのだった。
「一騎駆けこそ戦場の華っ!!」
叫びながら清十郎があられ鉄砲片手にエイミーへと近づく。
だが、エイミーの乱射により、清十郎はすぐに距離を取る事となった。
「あなたの動きは見えてる……の」
直後、お内裏様の壇上から白兎がそう言いながらポン菓子大砲をエイミーに向けて撃ちだした。
その攻撃をエイミーは転がる事で回避し、続け様にあられ鉄砲を乱射する。
「危機一髪でした……やはり大砲は危険です。やはり接近を……いえ、この場合は」
少し悩んだが答えをすぐに出したエイミーはそのまま清十郎へとあられ鉄砲を撃ちだす。
それを回避する為に彼はバックステップで下がる。だが、そのまま連続的に何度も撃ち出され、清十郎は逃げるようにひな壇へと走っていった。
が、ひな壇に登ろうとした直後、清十郎の足元が爆発し彼をベトベトにした。
「う、うわぁっ!?」
「やはり菱餅地雷がありましたか……」
あのまま向かっていたら自分がああなっていたかも知れないと考えながらエイミーはそれを見る。
その視線に気付き、清十郎がエイミーに不敵に笑う。
「フッ、僕は五人囃子の中で最弱の存在。残りの人は僕より強いで――」
すよぉぉぉ! と、全て言い終わる前に穴が開き、清十郎を地下へと落としていった。
そこから先は、エイミーと白兎の距離を取ったあられ鉄砲の狙撃とポン菓子大砲の銃撃戦が繰り広げられるのだった。
●蠢きは地下で
地下に落ちると柔らかな感触が落ちた者の体を包み込んだ。
どうやら地面には緩衝材が敷き詰められていたのだろう。
起き上がり少し移動すると明かりが見え、近づくと……向日葵がちらし寿司を食べていた。
「あら、皆も食べに来たの?」
どうやら落ちてからずっと彼女は食べているようだ。
そんな事を思っていたら、周囲に大量のちらし寿司が置かれている事に気付いた。
ご丁寧にも落ちた者の名前が書かれた札を載せられた状態で……。
「夕飯ここで食べて帰ろー……」
そう言いながら淳紅は置かれたちらし寿司を食べる。
彼はつい先程まで雫の大砲発射のお手伝いをしていた。
だが何度も大砲を撃つにつれ、雫に変化が訪れていき何時しかクスクスと邪悪に笑いながら敵味方の見境無く打ち始めた。
その結果、一番最初に巻き込まれたのは大砲の手伝いをしていた淳紅だった。
そして、その隣には……雫が居た。
「早く食べて上に戻らないと」
戦い足りないのか雫は一心不乱にちらし寿司を食べる。
それを見ながら淳紅は味わうようにちらし寿司を噛み締める。
酢の味がしっかりとした酢飯、砂糖を入れて甘い錦糸卵、歯ごたえの良い胡瓜と蓮根、しっかり煮込まれた椎茸に干瓢、甘さを引き立てる桜でんぷ、それらの上に乗った海産物の数々。
その中でも茹でられた海老の剥き身は秘密の茹で方をしたのか、歯ごたえがしっかりして美味しかった。
それを味わいながら淳紅は美味しい溜息を漏らす。
味方に倒されて落ちたが、これは落ちた方も嬉しいものだろう。
そう思いながら付け合せの蛤の吸い物を飲む。出汁がちゃんと取れていてあっさりとしているが奥深い味わいが口の中へと広がり、より一層ちらし寿司を美味しく食べさせる事となった。
お腹が一杯になるまで食べる中、彼の頭の中である曲が浮かんだ。
「ひな祭りって、こんなロックな曲やったっけ……」
どうやらあの童謡が浮かんでいるのだろう。だが、違ったのは仁義無き銃撃戦の結果、ゆっくりとしたテンポではなくエレキギターで千切れるほどの高音で奏でられた上にどキツイメイクのロッカーが歌うロック調になっているようだ。
(「ま、灯りをつけましょ爆弾に〜♪ っていう替え歌もあったしなぁ」)
そう思いながら隣を見ると……雫が満面の笑顔で眠っていた。
机を見ると甘酒が入った器が数本……空になっていた。
暫く考えた淳紅は、静かに持っていた筆で雫の顔に髭を描くのだった。
「ちらし寿司って美味しいのね。折角だから私も作ってみようかしら」
と、食事をしていた向日葵がそう言うと、紫苑が一瞬頭を抱えたが立ち上がった。
同じようにその言葉に気付いた数名も立ち上がる……が、紫苑の意味とは違ってだろう。
あれはあの地獄を体験した者にしか分らないのだから。
「とりあえず手伝うよ、向日葵さん。だから間違っても変な生命体を生まないように頑張ろう」
「よく分らないけど、手伝ってくれるならお願いするわ」
そう言って、ちらし寿司が作られている調理場へと移動すると何名かが後を追うようにして付いてきた。
「甘い物、好き……」
(「何だか同類なオーラを感じますっ」)
「マナ、一緒に手伝おう……うふふ」
「な、何だかリアが怖いっ、けど手伝うよ小日向さん」
「大変ならあたしも手伝うよ」
色々な反応が見られながら白兎、はくあ、アトリアーナ、マナ、ひなこが入っていく。
数十分後、何名かの絶叫やら叫び声やら、下着がどうのこうのとか言う叫び声が聞こえ……。
「あ、あれ……これまた、また動いてる……?」
と言うはくあの呟きを最後に調理場は静かになったのだった。
ちなみにちらりと様子を見に行ったしきみが満足そうな頬を赤く染めた顔をしながらちらし寿司を食べるのだった……。
●壮絶なる決着
「やあやあ我こそは左大臣あーれいなりぃっ!」
麦子と共に敵を探していたアーレイは桃の木ソードを優雅に振りながら歩く戒に気付くと桃の木ソードを構え突撃を開始した。
だがこれは戒の罠だったのだろう。
ぷるんぷるんと白い紐ビキニから今にも溢れ出しそうなおっぱいを揺らしながら走るアーレイは地面に設置された菱餅地雷を踏みつけると、餅まみれとなって動けなくなった。
「ひゃうんっ! お、おのれわなとは卑劣なー!」
そう言いながら菱餅から離れようとジタバタ動くアーレイだが、このまま動くとビキニに張り付いた餅が色々剥がしてしまいそうで社会的に致命傷を受けてしまう事になる。
そんな背後へと麦子が近づく、どうやら助けようとしているのか……。
いや、それは無い何故なら彼女は今、何かを企んでいるような不敵で邪悪な笑みを浮かべているのだから。
「大臣は4人もいらぬ。私が全て倒して上上下下左右左右中央大臣になるのだ〜!」
と言って、背後からアーレイを桃の木ソードで斬りつけた。
「お、おのれー、うらぎったな右大臣ー!」
叫び声と共に左大臣アーレイは地下へと落ちていった。
裏切りとあられもない姿を見ながら戒は興奮気味に呟く。
「見つけた……私の紫の上を見つけた! 私と恋のあばんちゅーる、とやらをしないかね?」
「ええいいわ、素敵な恋のあばんちゅーるをしましょう!」
どうやら麦子も一目惚れだったのか簡単に戒のアピールに乗ると2人で仲良く手を握る。
「それじゃあ、私はどすえの君を倒しここへと戻ってくる」
「ええ、じゃあ私はゆきちゃんを倒して戻ってくるわ!」
「「これは愛の為にっ!」」
そう言って2人は別れて各陣地へと戻っていった。
それから数分後、戒は息を切らし逃げていた。
陣地へと戻り、戻ってきたと言いながら静矢の背後に立ち、桃の木ソードを振り下ろそうとしていた。
「すまないねどすえの君。私は愛に生きるのだよ……!」
だが、静矢の方が一枚上手だったのか、あられ鉄砲ではなくポン菓子大砲を手に持っていたのだ。
「貴様が裏切る事ぐらい読んでいたわぁぁ!」
「くっ、何故ばれた!」
驚きながら戒は静矢の撃ち出す大砲から急いで逃れた。
しかし、裏切り者は逃がさないという事なのか、追っ手としてソフィア、さんぽの2人が差し向けられ戒は逃げていた。
そして気が付くと、戒は麦子と契りを交わした場所へと戻っていた。
同時にお雛様チーム側の通路から倒れるように麦子が現れ、戒に気づく。
狩衣が着崩れている所を見ると彼女も失敗したようだ。
「紫の上……」
「戒ちゃん……」
見つめ合うようにして疲れた体を動かし、2人はそっと抱き合う。
そんな裏切り者である彼女達を仕留めるべく、お雛様から送られたカタリナ、お内裏様から送られたソフィアとさんぽ。
3人は互いの存在に気付いたが、裏切り者を始末するべきかこのまま戦うべきか躊躇し、動きを止める。
「あの子達に倒されるのは嫌よ。だから……2人で逝きましょう」
そう言って麦子は懐に隠した菱餅地雷を取り出す。
それを見て戒は頷き、麦子を見る。
「私達は此処で逝く。しかし何時の日か私達は出会うだろう何千何億の時を超えて……!」
(「いや、すぐ地下で会えるじゃん!」)
周囲の3人は心でそうツッコミを入れるが口には出さない。
直後、麦子と戒は地雷の爆発に巻き込まれべとべととなり、胸とか太股とか肌蹴た状態で地下へと落ちていった。
戒と麦子が地下に落ちると共にカタリナとソフィア、さんぽは戦いを開始した。
「此処から先へは行かせません」
「本当ならこのままお雛様を狙いたかったけど、黙って通してはくれなさそうだね!」
カタリナとさんぽが叫び、桃の木ソードを振りぶつかり合う。
ぶつかる度に花が揺れ桃の甘い匂いが鼻をくすぐる。
が、すぐにカタリナはバックステップでさんぽから距離を取った。
「外れたね」
離れた場所からソフィアがそう言ってあられ鉄砲に弾を込める。
どうやら接近してさんぽに意識を向けるとソフィアの銃に狙われ、ソフィアに向かおうとしてもさんぽが道を塞いでいる。
正直言って難しい局面だった。
その上、距離を徐々に詰めようとさんぽがカタリナへと攻撃を仕掛けるために近づいてくる。
このまま行けば曲がり角にぶつかり、行き止まりへと辿り着いてしまう。
「……仕方ありません!」
「あ、待てー!」
叫び、カタリナは逃げるように曲がり角へと撤退し、それを追ってさんぽが走り、ソフィアが角の壁まで移動を開始した。
直後2人は見た。ミニスカート感覚で捲り上げたカタリナの姿を、生脚を!
カタリナ自身は素早く動く為に捲り上げたが、さんぽはこう見えても男の子の為にそんな姿を直視できる訳も無く顔を真っ赤にしてアタフタする。
「うわわ、それはちょっとどうかと思うよ?!」
「雅ではありませんが……仕方ないのです!」
多少卑怯かもしれないが、うろたえている隙にカタリナは素早く動きさんぽを桃の木ソードで斬りつけるとそのままソフィアに向かって高く跳び上がった。
驚きながらもソフィアはあられ鉄砲をカタリナに向け撃ち、複数のあられがカタリナの体に命中する。
だがカタリナは止まる事無く桃の木ソードを振り下ろし、ソフィアを叩き切った。
「ここまで、みたいだね……」
「優希様……後は、お願いします」
2人は思い思いに呟いた。直後、穴が開き2人を穴底へと落としていった。
そして残るはお雛様とお内裏様となったからか、ある程度の壁が下がり2人を阻む壁はほぼ無くなり相対する。
「優希、今日は完全に敵同士だ……手加減無しで行くぞ」
「希を裏切ったのは、そちらなのですよ。静矢さんに女装癖があるなんて」
「違う、あれは異性装コンテストの為に……いや、今は言葉は不要か……」
そう言いながら静矢はあられ鉄砲を袖から取り出す。
同じ様に優希も腰に挿した桃の木ソードを引き抜く。
「はい、言葉は不要です。分らせるには……戦いのみです!」
直後、静矢が早撃ちで優希を狙い、あられ鉄砲を連射した。
しかし優希が体を揺らし、十二単の一枚が身代わりとなりその攻撃は防がれ、同時に優希が振り回すように桃の木ソードを振り回した。
だが静矢も素早く後ろに下がると再びあられ鉄砲を乱射させる。だが優希は先程と同じ様に単を犠牲にし攻撃を回避すると共に反撃の一撃を見舞う。
「やるな優希っ、だが上手く行くと思うなよ!」
「希を甘く見ては困りますね、静矢さんこそ吠え面をかかないでくださいよ!」
言い合いながら2人は溜まったストレスを発散するように楽しそうに討ち合う。
だがその終わりはすぐに訪れた。
十一枚目の単を脱ぎ攻撃を回避し、優希は一撃を振る。だが、それも回避され静矢のあられ鉄砲が優希を狙う。
「なんのーっ! ……って、あれ、もう数がな――」
十二単なのだから最後の一枚は自分が今着ている単のみとなっており、優希を護る物はもう無くなっていたのだ。
驚愕顔と共に優希の体は鉄砲で撃たれ、地面へと倒れる。
「優希……だからお前は、馬鹿なんだよ……」
倒れた優希を抱き抱えながら静矢は悲しそうに呟く。
そんな静矢へと優希は力無く笑う。
「負けたものは負け。女装は……認めるのです。だから、目指せ……女装クィーンですゆ〜……がくっ」
と言って、優希は目を閉じた。
暫く静矢は目を閉じ……、手に持ったあられ鉄砲を自分の側頭部へと押し当てる。
「優希……私もすぐに行くぞ……だから」
――共に逝こう。引鉄が引かれ、静矢の頭にあられが命中し、穴が2人を呑み込むのだった。
「まあ、あれだ。今回の夫婦喧嘩は戦争だったな感じ? 夫婦喧嘩は犬も食わないと言うし。それでいいよね」
戦いが終わり、地下へと落ちた優希はそう言って静矢に擦り寄る。
そんな彼女の頭を静矢は優しく撫でる。その時、ふんわりとシャンプーの香りと仄かに汗の香りが漂い、胸がときめいた。
ちなみにこの周囲はちらし寿司を食べ過ぎたり、甘酒に酔い潰れたり、向日葵の創作菓子の犠牲となった人達が倒れていた。
もっと言うなら向日葵は何故か無事で一人黙々とちらし寿司を食べ続けていた。
「……とりあえず、お茶でもしましょうか」
そう言って優希は静矢へと緑茶を勧める。
ついさっきの戦いと打って変わって一気にのんびりとなったこの状況に静矢は……。
「……まぁ、たまにはこんなのも良いか……な?」
緑茶を飲みながら静矢はこののんびりを満喫するのだった。
「ちりゆかぬ、くおんのはなも、ゆきとけて、いまひとたびの、はるきたるらし」
鳳夫婦が仲直りするのを見ながらカタリナがそんな歌を詠み、ちらし寿司を食べる。
美味しかったのかちらし寿司をパクパクと食べ始める、きっと彼氏に作ってあげたりするのだろう。
その近くでは、ウンウン魘されるマナとしがみ付くアトリアーナ、自棄食いをして食べ過ぎた月花が倒れていた。
向こうではアーレイが仰向けになって眠っており、豊満なおっぱいがおっぱいマウンテンを作っていた。
向日葵の近くでは、しきみが凪に抱きつきもぞもぞしていたのかあられもない姿となっており、凪が泣きながら寝ていた。
淳紅がロック調の歌を口ずさみ、清十郎が満足そうに海老を口の中に収め、ラグナがエルレーンにタコ殴りにされていた。
「これがひな祭りなのね。弾けているわ」
そう言いながら、向日葵はちらし寿司を食べるのだった。