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マスター:清水裕
シナリオ形態:イベント
難易度:普通
形態:
参加人数:25人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2013/04/04


みんなの思い出



オープニング

●それは突然やって来た
「そぉう! それだよそれ! こう、インスピレーションがズギャギャギャーンと舞い降りたわけだよ!!」
「は、はぁ〜……」
 熱を帯びた口調で魚住 衣月(jz0174)の受け持つ窓口でグラサンがまったく似合わない無精ひげのオッサンが叫んでいた。
 それに対して衣月は若干引き気味な愛想笑いを浮かべるだけだった。
「え、えっとぉ〜……もう一度確認しますよぉ〜……?」
「うむ、何度も言おう! 世紀末映画監督であるこのジェンガ溝口の撮影する映画に撃退士を起用しようと考えたのだよ! ああ、自分の才能が恐ろしい!!」
 何か凄く自画自賛してるんですけどこのオッサン。と言うか、ジェンガって何だよジェンガって……。
「あ、あのぉ〜……でも撃退士の皆さんは芸能人でも芸人でも無いのでぇ〜……演技力なんて無いですよぉ〜……?」
「演技力皆無上等! わたしは素の撃退士達の演技を見たいのだよ! こう、血沸き肉踊る酒池肉林的なものを!!」
 どう見ても衣月はやんわりとこの依頼は引き受けられないと言っているのだが、世紀末映画監督ジェンガ溝口(笑)さんはまったく話を聞こうとしていない。
 というか、まったく意味が違ってませんか監督。
「と言う訳で、どうにかしてもらえないかな! ん? ん!? んんっ!!?」
「は、は……はぅぃぁ〜……」
 人と話すのに慣れていない衣月はかなりてんてこ舞いだと言うのに、監督はそれを気にせず顔を物凄く近づける。
 どれくらい近いかと言うと、近頃のスマートアシストで止まるくらい近くまで来ていた。
 もう気が気では無いですね、この職員見習いは……。
 結果、震える声で……何を言ったのかは覚えていなかった。
「うむ、君ならきっと言ってくれると思っていたよ! これは脚本だ……だが、話はその場で変わって行くかも知れない。そう、何故なら映画と言うものは生きてるのだから!!」
 笑い声を上げながら、世紀末映画監督ジェンガ溝口は去って行った。
 そしてその場には、フラフラの衣月と話が書かれた脚本が置かれていた。
「う、うぅ〜……、よ、弱い私を許してですよぉ〜……がくっ」

●大まかな脚本の内容
 ある日、主人公が学校に行く時に急いでいたら曲がり角で時間を間違えて遅刻したと思い込んでいる転校生のヒロインがカルツォーネを咥えている所で衝突。
 その瞬間、熱々カルツォーネによって虹が砕けて銀河が泣いた! 結果……世界は超常の力を発動させた。
 ある者は王を名乗り、ある者は皇帝を名乗り、ある者は将軍を名乗った。
 世は統一戦争の開幕だった。そんな世界に主人公とヒロインは生き残ることが出来るのだろうか。

 ……あらかた呼んだ脚本はこんな感じだった。
 それを読んだ衣月の表情は物凄く優れなかった。
「こ、これは撃退士を役に起用する以前の問題なのですよぉ〜……」


リプレイ本文

●プロローグ
「餌付けェ……、餌付けさせてぇ……」
 俺の名前は星杜 焔(ja5378)、皆からは親しみを込めて焔さんって呼ばれてるの。
 そんな俺は今猛烈に困っていた……そう、餌付けの禁断症状が発症してしまったの!
 手製のカルツォーネ(大皿サイズ)を持ちながら、俺はフラフラと曲がり角を曲がろうとした――瞬間。

 俺……宗方 露姫(jb3641)は普通とは違う……けど、普通であろうとするんだ。
 そう思いながら俺は学生鞄を片手に通学路を歩く。
「こんな外見でも、優しくしてくれるこの世界の人達は優しいな」
 短めの髪を弄ぶかの様にして自慢の角を触る。
 だから俺はこの世界をあの時の様にしたくは無い……いや、アレを咥えなければ大丈夫だ。

「あ、今日も同じ時間だ……」
 僕、袋井 雅人(jb1469)は17歳の春に恋をした。
 女難の相があるかも知れない僕だから、初恋は見事に玉砕した……それ以降は恋と呼べる様な経験自体あまり無いくらいだ。
 気づけばあの角を尻尾を目で追ってしまい、ドキドキしていた。
「そんなに好きならとっとと告白したらいいだろ」
 文句を言いながらも僕を心配してか親友の神楽坂 紫苑(ja0526)は壁に背を預けながら言う。
「わ、わかってるよ! 頑張れ僕……今日こそあの子に話し掛けるんだ……っ!」
「その意気だその意気、玉砕する様を見てるぜ」
 神楽坂の茶化しを無視しながら、勇気を奮い立たせて僕は隠れている場所から一歩踏み出しあの子へと近づいて行った。

「遅刻遅刻です」
 ゆるふわ森ガールファッションの私、雪成 藤花(ja0292)は小走りで走っていた。
 友達と映画を見る約束をしていたのだが、寝坊をしてしまい……少し焦り気味でした。
 だけど忘れてはいけない、親の形見の散弾銃。これが無ければ毎日は過ごせません。
「少し時間掛かってしまったけど、弾の装填も完了したし油も差したから今日も銃の調子はばっちりですっ」
 何時いかなる襲撃もこれでばっちり。そう思いながらルンルン気分の私は角から突然曲がってきた男性に気づかず。
「きゃっ!?」
「うわっ!?」
 ぶつかったのでした……。

 その瞬間、焔が持っていた皿からカルツォーネが空高く飛び上がった。
「あいててて……って、あれ藤花ちゃん?」
「え、ほ……焔さんっ」
 ぶつかった相手が許婚である事に気づき、2人は恥かしそうに視線を避けた。
 不意に上が暗くなり、空を見上げた瞬間……露姫の顔にカルツォーネが被さった。
「こ、これはまさ……かっ!!」
 覆い被さった物の正体に気づき、彼女は直ぐにそれを投げ放った。
 放った場所には雅人が立っており、いざ話しかけようとしている所だった。
「あ、あの好きです! って――あっちゃーー!!」
「うわ、熱そうだな……って、何だアレ」
 笑いを堪えながら離す紫苑だったが、突如何かに気づいた様にそれを見た。
「あ、だ……だめ、抑え切れない……あ、あ……ああああっ!!」
 告白と共にどろどろのカルツォーネを顔に被り、熱さに打ち震える雅人を他所に耐えようとする何かに抗えずに露姫の身体から波動が放たれた。
 その瞬間、世界は終わりを告げた。

●古の血脈−巻き込まれたカップル達−
「うっ……こ、ここは……?」
「焔さん、目が覚めましたか?」
「藤花ちゃん……、ってご、ごめん!」
 焔が目を覚ますと直ぐ目の前に藤花の顔があり、膝枕をされている事に気づき慌てながら起き上がった。
 そして自分達は見慣れぬ場所にいる事に気づいた。
 そこはあの時4人がいた十字路ではなく、荒れ果てた荒野が続く場所である事に。
「何処なんだ……此処は」
「此処は、終わった世界……いや、終わりに向かおうとする世界だ」
「あ、気が付いたんですね。具合は大丈夫ですか?」
 起きた露姫がフラフラと立ち上がり、2人に向けて言う。
「何か詳しそうですね。良かったら話を聞かせて貰えませんか?」
「わかった。……そういえば」
 あの場にはあと2人男が居たはずだが……。

「え、え……? 此処は一体何処なんだ……!?」
 顔に付いたカルツォーネの熱さからしてこれは現実である事は間違いなかった。
 だが、雅人の頭はこれを認識しようとしていなかった。
「おや珍しい、この様な場所で人に出会うとは」
「君は一体誰だ?」
「失敬、私はザ・クラウン。しがない道化に御座います」
 ピエロの様な格好をした虎綱・ガーフィールド(ja3547)はそう言ってお辞儀をした。
 その姿は何処か演技めいたような印象を感じられた。
「そんなしがない道化がどういう用件だ?」
「いやなに、この世界に来て間もない様子の貴方達に軽く説明をと思いまして」
 虎綱ことクラウンはそう言うとこの世界の説明を始めた。
 ある事象により世界は狂い、幾つかの派閥が生まれ統一戦争が起き……崩壊へと進んで行く。
「古の覇者の血を継ぐ者、ムナカタの手によって……」
「え、む……宗方だって!?」
 露姫の名前に反応し、雅人が現実を直視する。
 虎綱は謡う様に語り続ける。
「しかし、皇帝、王、将軍達はその力を恐れ、欲し、新たな火種が産み落とされた。さあ、貴方達は愚者となる者か?」
「僕はいったいどうすれば……」
 雅人は再び悩み始めた所で、不意に紫苑が歩き出した。
「神楽坂……?」
「いいタイミングだし、自分で何とかするんだな?」
「助けて……くれないのか?」
「助ける……? ふざけるなっ!」
 直後、紫苑は心の底に溜まった黒い感情を爆発させ、雅人に襲い掛かってきた。
 自分が雅人の面倒を見て苦労した事を告げ、どれだけ嫌だったかを言葉にする。
 ある程度ボコボコにし終え、一時的に満足したのか紫苑は汗を拭きながら立ち上がる。
「世の中の荒波に揉まれて、鍛えられると良いさ」
「か、神楽坂……」
 薄れ行く意識の中、雅人は紫苑に手を伸ばしながら気を失った。そして、クラウンは嘲笑った。

 暫くすると雅人の前にグラン(ja1111)が立ち、黒い球で包み込んだ。
「さあ、ここからが始まりです」
 グランはそう呟くと、クラウンと共に姿を消した。
 そんな事は露知らずに中の雅人は夢を見ていた。
「見事に倒されたわね。でも大丈夫! 目覚めると傷一つ無い綺麗な身体に戻るわ!」
「え、だ、誰ですか!?」
「あたし? あたしは神様だよ。主人公と言う名目を与えられたあんたを見守る神様」
 洗濯板を反らしながら月丘 結希(jb1914)は神様らしく偉そうに言った。
 そして雅人はその平原に哀れむ瞳を向けた。……即座に殴られた。
「神様だから、あんたの考えなんてお見通しよ! 兎に角、とっとと目覚めなさい。もうあんたの仲間達が目の前に立っているわ」
 猫を払う様に神様は手で払う。すると、雅人が立っていた場所は砕け光の世界へと落ちていった。
 直後、雅人は目覚め目の前に露姫が立っており、その後ろに妙にソワソワする焔と森ガール衣装にサングラスな散弾銃を肩にかけた藤花が立っていた。
「お、お前は……っ!」
「え、き……君は!」
 露姫が気づいた瞬間、頬を染めた……どうやら告白は聞こえてたようだ。
 ドキドキするラブ展開が2人には巻き起こる……かと思われた。しかし現実は……。
「お……お前がカルツォーネを当てたから世界がこんな風になってしまっただろ!」
「え、えぇーーっ!」

「せ、席はこちらでございますわですよぉ〜……」
 何処かで見たような女性がバニーガール姿で席へと案内するとそそくさとその場から離れていく。
 案内された席に4人は座った。
 ……あれから少し時間が経ち、少し移動した所で街を見つけ彼らはそこに向かった。
 街が近くになったからか、旅人と思しき人物が増えてきた。
 少しジョギングをしているのか、街から荒野に向かって走る千葉 真一(ja0070)。
 卵形のモニュメントっぽく街の入り口に置かれている点喰 因(jb4659)。
 その隣では伊達ワルファッションの命図 泣留男(jb4611)が右手を顔の前に翳したポーズを取っていた。
 しかしそれらは呆気も無く過ぎ去っていく。所詮はモブだからだろう。
 そして、雅人へと露姫はどうしてこうなったかの説明を行った。
「俺の古の覇者の血はそれ単体だけでは目覚める事は無い。だけど幾つかの条件が重なった時、世界を崩壊させる力を持つ事になるんだ」
 一つ、熱々のカルツォーネを口に咥えてはならない。
 一つ、間接的であっても異性と体液を交換してはならない。
 一つ、外を歩いている時に食べ物を食べてはいけない。
「それらが重なり合った結果、俺達はこの世界に来てしまったんだ」
「え、じゃ……じゃあ元の世界に戻るにはどうすれば……?」
「多分、俺から出た力を一つに集めれば良いはずなんだ」
 切り出そうとした所で、頼んでいた料理が届いたらしく梅ヶ枝 寿(ja2303)が給仕してきた。
「とっとちゃん、ほむたん。お待たせ、どんどん食べて力を付けるんだぜ」
 その姿に焔と藤花はキョトンとしていたが直ぐに驚いて、店員に詰め寄る。
「え、梅ヶ枝さん? どうして此処に」
「ひとちがいだろ」
「いえ、どう見てもそのチャラさはきみだよね」
「ひとちがいだろ」
 どうやらイベント的な事しか語らないキャラのようだ。
 何度も言っても無駄だろうと理解し2人は席に座った。
 直後、外から悲鳴が聞こえた。
「う、うわーっ! 皇帝だーっ! 暗黒皇帝がやってきたぞーーっ!!」
 すると店内でも恐怖に慄く客達が一斉に立ち上がり騒ぎ出した。
「な、なんてこった……暗黒皇帝がこんな所まで現れるなんて……世界は終わりだ!」
「大将ー! 暗黒皇帝がこの店に近づいていますよー!」
 入口から魚売りの娘の六道 鈴音(ja4192)が叫び、直ぐにその場から逃げて行った。
 それから直ぐに扉が大きく開かれ、壊れた。
「フハハハーッ、我は暗黒皇帝! 世のリア充に憎しみを与える悪魔である!」
 マントを翻し、あんこく(jb4875)は両手を広げ店内を見渡した。
 何か仲の良いカップルとちょっとカップルに目覚めかけてる2組が居た。
「貴公らか、貴公らがリア充かーっ!」
「え、い……いきなりですか!?」
 怒りに打ち震えながら、暗黒皇帝は指先から接着剤を放った。
 直後、露姫が何かに気づいた。
「この力は……俺の力の一部!」
「え、じゃああの方を倒せば良いのでしょうか?」
「多分、それで良いはず」
 露姫の言葉と同時に銃声が店内に木霊した。
 そして暗黒皇帝は床に伏し、倒れていた……。
「なん……だと……? 我が、この我が負けたと言うのか……?」
「まだ生きてましたね。もう一発行きましょうか?」
「藤花ちゃん、彼のライフはもうゼロだよ。とりあえず、俺からカルツォーネをプレゼントするよ」
「もぐふぉ!?」
 藤花を押し留め、焔は何処からか手作りカルツォーネを取り出すと無理矢理口に押し込んだ。
「よせ。……返してもらうぞ、俺の力」
 息絶え絶えの暗黒皇帝に露姫が手を翳した。すると暗黒皇帝から何か黒い物が吸出され露姫の中へと入っていった。
 カルツォーネを咥えさせられ、床に伏してピクピクする姿は何というか異常だった。
 全てを吸い尽くした直後、唐突に露姫は跪き苦痛に顔を歪めた。
「くっ……耐えられ……ないっ」
「つ、露姫さん! しっかりしてくださいっ!」
 露姫の身体から噴出そうとする黒いモノを抑えようと雅人が覆い被さり、声をかける。
 すると、まるで何かに封じられるように黒いモノは収まり、辛そうな顔は元に戻った。
「もう大丈夫だ……だから、その……放してくれないか?」
「え……あ、ごっごめんなさい!」
「まったく、お前と言うやつは……」
 顔を赤くし雅人が離れ、そんな彼に自然と露姫から笑みが零れた。
「くっ……くくく、我を倒したとしても……まだ将軍と女王が残っている貴公達は倒される運命にあるのだ……がくっ」
 それを最後に暗黒皇帝は倒れ、天へと召された。
 直後、暗黒皇帝が倒れた事を知り、街の人々は喜び彼らを勇者の様に称えた。

「朝ごはんは肝心なのよ」
 旅立とうとする暗黒皇帝を倒した勇者達を見送る為に青木 凛子(ja5657)が街の入口に立つ。
 そんな凛子オカンから朝食としてか、食パン一斤とマーガリン1パックが手渡される。
「あ、ありがとうございます……」
「良かったですね。これでお腹が空いた時は何とかなります」
 雅人は苦笑し、藤花は喜ぶ。
 藤花の隣では焔が籠一杯にカルツォーネを抱え、重そうにしていた。
 そして、次の力を探す露姫は目を閉じ意識を集中していた。
「よ、よし……これだけあれば餌付けの禁断症状は何とかなるはず……」
「……わかった。お前ら、次の力はあの方角にある。早く行くぞ」
 そう言って露姫が歩き出し、追うようにして3人も歩き出した。
 そんな彼らを見送る為に街の人達は入口から手を振る。
 中に混じって、泣留男がポーズを取っているのが見えた。
「帰りに大根買ってきてちょうだい〜」
 何か凛子オカンがそう言っていたが、会える機会はあるかは分からなかった。
 直後、何処からとも無くあどけない声が響き渡った。
『やっちゃえ!』
 その瞬間、街へと何かが放たれ……弾け飛んだ。
 そして街はクレーターとなってしまっていた。
『にょほほ、甘い物をけんじょーしなかったむくいなの!』
「そんな……」
「ひどい……」
 一日だけの付き合いだったが、親切にしてくれた街が消え焔と藤花は顔面を青くし震える。
 そして雅人は狼狽しながらも声を振り絞り叫ぶ。
「こんな事をするのは……誰なんだ!」
『にょほほ、ボクは甘味将軍の小梅なの!』
 楽しそうに笑う白野 小梅(jb4012)の声は周囲に響き渡る。
「……あそこだ!」
 そして、露姫が気づき指を刺す。
 そこには……巨大な飛行艇とそれに付き従う無数の戦艦が居た。
『将軍、古の血族を発見。砲撃後、捕獲します』
『んー、よくわかなんないけど、やっちゃえ!』
 直後、彼らが立つ場所へと戦艦は砲撃を放った。
「「う、うわーーーっ!」」

「う……、ここは……」
 雅人が目を覚ますと、そこは洞窟の中だった。
 直ぐ隣には焔と藤花が手を繋ぎ眠っていた。
「目が覚めたな。気分はどうだ?」
「誰です……?」
 近くの焚き火を見張り、1人の男が座っていた。
「自分は宗方家に仕える忍びだ。何が起きたかは分かっているか?」
 神凪 宗(ja0435)がそう言うと、直前の出来事を思い出し……頷いた。
 小梅将軍の砲撃から3日経っており、爆撃の瞬間に雅人達は宗に助けられたが……露姫は捕獲された事を説明された。
 目を覚ました2人も話を聞いて、自分達を助けた為にと辛そうな顔をしていた……。
 暫く俯いていた雅人だったが、立ち上がると申し訳なさそうに入口まで歩いていく。
「すみません、僕にはやっぱり無理そうです。此処でリタイアさせてもらいます」
「そうか、自分には引き止める義務は無い。袋井殿気をつけるんだな」
「そんな……きみはこれでいいの?!」
「見損ないました……、宗方さんもあなたの事を待ってるはずなのに……」
 雅人の言葉に宗は頷き、カップルは侮蔑の目を向ける。
 けど、僕には何も出来ないから……。そう呟きながら、雅人は何処かへと去って行った。

 『古の血脈−巻き込まれたカップル達−』そう書かれた扉が閉まり、再び扉が開かれた。
 すると先程とは違う場所が映された。

●HM−HERO and MAID−
 荒野を一輪のバイクが駆け抜けていく。
 それに跨るのは1人のメイドだった。顔はヘルメットをしている為か良く分からない。
 だが、休息の為かバイクを止めヘルメットを脱いだ。
「……ふう、あと少しだよね」
 呟きながら、道の先を恵夢・S・インファネス(ja8446)は見る。
 目的地はまだまだ先のようだ……そう思っていると、向こうから土煙を上げて走ってくる者が見えた。
「あ、郵便です。ここにハンコお願いします。無ければサインでも大丈夫ですよ」
「じゃあ、サインで」
 佐藤 七佳(ja0030)が差出た手紙へと恵夢はサインを書く。
「早いね」
「スピードには、自信があるんですよッ! それでは、郵聖省をご贔屓にーっ!」
 そう言って七佳は即座に走り抜けていった。
 届けられた手紙を恵夢は開く。そこには1枚の招待状が……。

「従わぬ者はその首を刎ねてしまうぞ」
 恐怖政治の元、女王テス=エイキャトルス(jb4109)は君臨し国を治めていた。
 その女王の認可の下、秋桜(jb4208)が店長をするメイド喫茶があった。
「お帰りなさいませ、ご主人さまなのです!」
 胸を揺らしながら内藤 桜花(jb2479)はお辞儀をし、おっぱい星人のご主人様達は満足そうであった。
 隣では、黒猫カチューシャを付けた執事の橘 優希(jb0497)が立つ。
「お帰りなさいませ、お嬢様。さ、お席へどうぞ」
 そう言って、お嬢様方を席へとお連れしていく。
 秋桜はそれらを地下の秘密アジトのモニターで見ていた。
「デュフフ、今は萌えているが良い人間どもよ。気づいた時はあなた達はもう強制カップリングの網から抜け出す事さえ出来なくなるのですから」
「秋桜よ。計画は順調のようじゃな」
「これはこれは女王。ご機嫌麗しゅう」
 女王テスが何処からとも無く現れ、秋桜は挨拶をする。
「それで……、装置はもう出来上がったのか?」
「はい、強制カップリング装置と共に仕上げていた為に時間は掛かりましたが命令装置は完成致しました」
「うむ、素晴らしい。ではそこへ連れて行くのじゃ」
 仰せのままに、そう言うと秋桜は女王を連れてアジトを出て行った。

 地下を移動すると、暫くして大きな部屋へと辿り着いた。
 どうやらこの上は城なのだろう。
「おぉ、これはイギリス式かつ素晴らしい仕上がりじゃ……くくく、これでわしに逆らう者はもう居らぬ!」
「それはどうであろうか?」
 その時、部屋の中に声が響いた。
「だ、誰ですかッ!?」
「ええい、何者じゃ! おぬし等、早く探すのじゃ!」
 驚く秋桜、作業者に命じるテス。命じられるまま作業者達は周囲に視線を動かしていく。
 その時、誰かが気づいた。ステンドグラスの窓の前に立つ2つの影を!
「我は幻影の残滓、我は尊きモノの護り手、我は月夜の影に跳ね、悲しみを切り払う一匹の黒兎――《夜影跳人》ブラックラビット!」
 口上を上げ、インレ(jb3056)はポーズを取る。
 が、何か不自然だ。直ぐに気づいたインレは後ろに声をかける。
 すると、陰に隠れていたコテコテの魔法少女衣装の機嶋 結(ja0725)がぎこちないポーズを取り、口を開く。
「あ、愛とぉ〜……勇気に? 仕える、巫女っ。スイーツスレイヤ〜……ゆうっ!」
「二人揃って……」
「す、スーイツラビット……っ!」「スイーツラビット!」
 ヒーロー達の口上に作業者は戦闘員となり、攻撃を仕掛けようとしていた。
 一斉にステンドグラスに攻撃が放たれると同時に2人は飛び降り、地面へと降り立つ。
「しゅ、しゅしゅしゅ……シュガーストリームッ!」
 恥かしがりながら、同時に心の中では煮え滾るほどの嫌悪を宿して結は演技としてくるりと回る。
 魔法の力で戦闘員達の武器はお菓子となり、慌てふためく。
「ええい、何をしておるのぢゃ! この不届き者共を早く倒せ! 逆らう者は容赦せぬ!」
 女王テスは迫真の演技で戦闘員達に命令をする。そんなドレス姿の彼女をインレは哀れに見るとつい、素の感情と台詞が出てしまった。
「……BBA、無理するな」
「ホホホ、首をはねるぞ、ヒーロ……こんの兎ジジィが!」
 一瞬何かを叫んだようだが音声は入る事はなかった。
 その争いの場から、こっそりと秋桜は逃げるのだった。

「あなた達、今すぐ此処から離れます」
 メイド喫茶へと上がり、秋桜が桜花と優希に言った直後、壁をぶち破りバイクが突入してきた。
 突然の事に客も驚き、他のメイド達も驚いていたが優希が鎮める。
 一部、妙な男性が変なポーズを取っているが放っておこう。
「な、何なのですか、一体ー!?」
 唯一桜花だけは慌てふためき、混乱していた。
 そんな中で、バイクの主は地面に降り立つ。その姿は……メイドだった。
「久しぶりですね、秋桜さん、優希さん」
「あなた……恵夢。生きていたのですね」
「そんな……なんで、何で生きてるんですか、恵夢さん!」
 見詰め合う3人の脳裏に大分前の思い出が蘇る……。
 強制カップリング計画が行われる前、どんな客にも対応出来る究極メイド製造計画が行われていた。
 しかし、計画は失敗に終わり……そのメイド喫茶は証拠隠滅の為に爆破され、店長の秋桜と優希は何処かへと身を隠し、被検体となっていた恵夢は死んだと思われていた。
「だけど私は生きてたよ。秋桜さんの野望を叩き潰す為にね」
「そうですか……でしたら、今度こそ死んでいただきます!」
 秋桜が手を上げると、桜花と優希が武器を構えるのを皮切りに他のメイドと一部の客が一斉に恵夢へと襲い掛かってきた。
 だが、恵夢はその攻撃の隙間を抜け、喫茶店の中央に踊るように立つと、スカートを指で摘み広げた。
「お帰りなさいませ、ご主人様。精一杯お持て成しさせて頂きます……『接客』!」
 直後、空から恵夢の身体に光を当たり、光が収まるとその場には究極メイドが立っていた。
 動き易さを重視したメイド服を靡かせ、バイザーを光らせながら恵夢はポーズを取る。
「究極メイド、ルュエム!」
 この時、3度カメラが別角度からポーズが当てられていたりするのは仕様だろう。
 自分達が行っていた際にはまったく成果が見られなかった究極メイド、それが今まさに目の前にある。
 その嬉しさと興奮に秋桜は頬を赤らめ光悦する。が直ぐに現状を思い出し、メイド達に指示を出す。
「いくら究極メイドでもたったの1人。皆でかかれば怖くないです!」
「「お覚悟を!」」
 一斉に恵夢へと客とメイド達は襲い掛かる。それに対し、恵夢は何処からとも無く自分の身長を超える大剣を取り出す。
 そしてそのまま、一気に振るった!
「いってらっしゃいませ、ご主人様方!」
 振るった大剣で客とメイド達はホームランよろしく外へと投げ飛ばされて行き、メイド喫茶には無さそうな穴が幾つも出来上がった。
 しかもその動作は一糸乱れぬ、まるで給仕をする仕草のようであった。
「て、てやぁ〜! 行くのですよー!」
 一歩遅れて桜花も攻撃を仕掛けようと駆け出す。
 しかし続く恵夢の動作で攻撃を受け、そのまま壁へと命中した!

 鯛焼きの被り物を被った女性戦闘員を結が蹴り飛ばすと同時に壁をぶち破り、桜花が部屋へと飛び込んできた。
「やられたのです〜! ……きゅう」
 地面に落ちながら、叫び……地面に落ちて桜花は気絶した。
 女王テスがその存在に気づき、驚きの声を上げる。
「その服装、秋桜のメイド喫茶の者か! 一体上で何が起きているのじゃ!?」
「他人の心配をしている場合か、BBA?」
「あそこは我好みのイギリス式メイド喫茶だったのじゃ! イギリス式こそ至高であり最強!」
 ブラックラビットの攻撃を女王テスは王家に伝わるメリケンサックでガードし、反撃を仕掛ける。
 その瞬間、再び上の壁が破られそこから秋桜と優希、究極メイドが飛び出してきた。
「くっ! 無事ですか、ご主人様!」
「ええ、大丈夫です。しかしこれほどとは……素敵です」
 自分達が設定していた以上の力を見せる究極メイドの力に秋桜はますますゾクゾクさせる。
 その主人の態度に使い魔である優希は嫉妬した。
 一方、インレと結の2人は女王テスを倒すべく攻撃を行うが、隙がまったく無かった。
「……このまま撮影事故として本当に…………」
「落ち着け、結。ほら、飴ちゃん上げるから飴ちゃん」
 こっそりと呟く結の言葉にインレが飴を与える。すると怒りが少し収まった。
 そして、決着は直ぐに訪れた。
「ご主人様、究極メイドを倒したら僕が一番強いんですよね……だったら、ルュエム! お前を倒して、僕が一番だ!!」
 執事の嗜み、ワインを片手に勇気は恵夢へと攻める。
 それを見ながら、秋桜は笑みを浮かべる。
(デュフフ、私を取り合ってメイドと執事が戦っている。なんて素敵な光景でしょう)
「どちらかが勝ったら、私の初めてあげちゃ――」
「ルュエム、ホームランッ!」
 危ない発言を吐きそうになったからか恵夢は一瞬で優希を屠り、秋桜をホームランでかっ飛ばした!
 かっ飛ばされた秋桜は、女王テスを巻き込み……強制カップリング装置目掛けて飛んで行く。
 そのチャンスを逃すまいとインレと結が必殺のポーズを取る。
「悲しみよ去るがいい!」
「ひっ、ひっさ、必殺っ!」
「「スイーツラビットクラーッシュッ!」」
 直後、装置目掛けて甘い匂いがする巨大な光が放たれ、装置もろとも女王テスを飲み込んだ。
「「成敗ッ!」」
「おやすみなさいませ、ご主人様」
 インレと結が同時にポーズを決め、恵夢は静かに武器を収めた。
 こうして秋桜と女王テスは倒れ、この国に平和が訪れる……かに見えた。
「兎ジジィ、我を此処まで本気にさせるとは良い度胸だな」
 底冷えする女王テスの声が部屋に響き渡り、黒いオーラを噴出させ立ち上がった。
 先程と比べると断然過ぎるオーラだ……その気魄に3人は息を呑む。
「ご、ご主人様ーっ!」
 その緊張を破ったのは気絶から目覚めた優希だった。
 叫びながら、自らの主人に近づくと息絶え絶えに秋桜は手を伸ばす。
「……優希、お前はもう自由だ……自由に生き、自由に動きなさい……」
 耳元で囁き、使い魔の契約としての首輪を外し……秋桜は静かに倒れた。
 泣いているのか優希は亡骸を抱きしめ、動かない。
「覚えておくがいい……覚えておくがいい! 正義がある限り、悪もまた存在するのだ!!」
「良い言葉じゃな、どうじゃ……おぬし、わしと来ぬか?」
 静かに女王テスが優希の肩に手を置く。
「究極メイド以上の力をくれるなら……!」
「うむ、では行こうか?」
 そう言って女王テスは優希の肩を持ったまま、宙に浮き……空高く飛び去って行った。
 同時にアジトが崩壊し始め、3人は急いでそこから脱出するとそのまま恵夢はバイクに跨り、インレと結もアジトに残っていたサイドカーに跨ると急いでアジトを飛び出すと女王と優希を追いかけ走るのだった。

 そこで再び画面は止まり、扉が閉まった。
 扉には『HM』とドア看板がかけられており、隣には『古の血脈』のドア看板がかけられていた。
 そして扉は再び開かれた。

●覇王大戦〜トマトソースはヒーローの香り〜
 散弾銃を構える藤花、カルツォーネを両手に持つ焔、分身の術で相手を撹乱させる宗。
 そんな3人が並み居る兵隊達を次々と屠っていく。

 高スピードで飛んでいく女王テスと優希を追いかけ、恵夢とインレ&結はバイクを走らせて追う。
 時折、ワインや黒い攻撃が地上に放たれ、回避しながら進んで行く。
 大火力の爆発の中、2台のバイクは高く跳ぶ!
 直後、『古の血脈』と『HM』の看板がぶつかる。すると『覇王大戦』という1つの看板が出来ていた。
 そのタイトルをぶち破り、バイクと銃弾が放たれた。

「くっ……いい加減くたばるのぢゃ!」
 テスが地上に向けて攻撃を放つが、やはり避けられる。
 このままでは分が悪い。そう思っていた時、すぐ近くまで将軍艦隊が飛んでいる事に気が付いた。
『うわーん、かえしてよぉ……!』
 マイクが入ってる事に気づかないのか母艦からは小梅将軍の泣き声が響き渡り、時折銃声が響き渡った。
 きっと中では、カップルと忍者が将軍からドーナツを奪い取って、兵隊を蹴散らしているに違いない。
 その証拠に優しそうな森ガールの声からは物騒な言葉が放たれていた。
『さあ、大人しく降参して宗方さんを解放してください』
『ドーナツかえしてよぉ……! え、かえしてくれるの……じゃあ、解放する』
「って、簡単に解放するんじゃないわ! ええい、早く力を得ねば……!」
 ノリツッコミしてテスは急ぎ母艦目指して飛び込んで行った。
 数分後、母艦が煙を上げて地上へと墜落した……。
 それを見て、バイクは落下地点へと急ぐのだった。

(なん……じゃと……。こんな馬鹿な事があってたまるものか……!)
 落下した母艦の中で突入した筈のテスは倒れていた。
 古の覇者の力を全て奪い取り、真の女王となるべく露姫を探していた。
 だがデッキから入った瞬間、目の前の男に一瞬で倒されたのだ。
「自分? 自分は……いや、俺は古の覇者の力を全て我が物とする男だ。言うならば、真・皇帝だな」
 真・皇帝と名乗った宗の外見は白髪に赤眼から黒髪と青眼へと変貌していく。
 そして邪悪な笑みを浮かべながらテスへと手を伸ばす。
「あのカップルに気づかれない様に将軍からも力は奪い取った。分身は覇者を捕え此処に連れて来る……だから貰うぞ、お前の力も」
「くっ……や、やめよ! これはわしのじゃ、わしの力なんぢゃぁぁぁ!!」
 テスは必死に叫ぶが無常にも宗は力を奪い取り、力尽きた女王を蹴り飛ばした。
 そして、傍らに居た優希を見る。
「なるほど……女王の力が俺に教えてくれた。お前は力が欲しいんだな? 究極よりも強い力を」
「あ、あ……うわああぁぁ!!」
 優希を被い尽くすように黒い力が降り注がれた。
 それから少し遅れて、2台のバイクは落下地点に到着した。
「追い詰めたぞ、BB――女王テス!」
「恥かしい……もう帰りたい……」
 格好良く降りるインレともう燃え尽きかけている結。そして恵夢が静かに周囲を見る。
 直後、恵夢へとトレイが投げられて来た。
「くっ! 誰ッ!?」
 寸前でガードをしたが、彼女をバイクから叩き落す程の衝撃だった。
 叫ぶ恵夢の問い掛けに答える様にトレイは投げた持ち主の下へと帰って行く……そこには、優希が立っていた。
「凄い……これが僕の力。究極メイドをも越える力……! ご主人様の仇、取らせてもらうよ」
 笑みを浮かべ、優希はフラフラと近づく。
 その圧倒的な力の差に3人は息を呑む。

「神凪さん……どうしてですか!」
 傷だらけになった焔を抱き締めながら、藤花は宗に叫ぶ。
 露姫を脇に抱えながら宗は黒い笑みを浮かべる。
「俺はね、力に憧れていたんだよ。この神をも越える力があれば世界は俺の物になる……とね」
「だからってこんな……」
「ふっ、甘いな雪成殿。その散弾銃で宗方もろとも撃ち抜けば良いものを……だがその甘さは命取りだと知るんだな!」
 笑い声と共に宗は露姫を連れ、姿を消した。直後、地面から激しい振動が発生した。
 フラフラと外まで出るとそこには覇者の力を我が物とした宗が立っており、直ぐ近くで優希に叩き潰された恵夢とインレ、結が居た。
「素晴らしい、これほど素晴らしい力とは……!」
「やった、やったよ……ご主人様、僕はや――あ、あぁぁっ!」
「おや? 力に耐え切れなかったか……所詮その程度の執事だったか。だがまあいい、邪魔者は全て消えた。これで世界は俺のモノだ!」
 倒れた優希を一瞥し、宗は笑みを浮かべて装置に取り付けた露姫を見る。
 世界は真・皇帝のモノとなってしまうのか……いや、希望はまだ残っている。
「そんな事はさせません、真・皇帝!」
「その声は……逃げ出した臆病者か」
 砂塵吹き荒れる中、雅人が近づいてくるのが見えた。だが所詮は雑魚、真・皇帝の敵ではない。
「確かに僕は臆病者です。それに戦う事も他人任せです……だけど、僕は決して一人じゃない! 皆さん、お願いしますっ!!」
 雅人の叫びに呼応するようにして、死角となっていた崖から複数の影が姿を現した。
 それは何処にでも居る様な一般市民達であった。
「通行人舐めんなよ!」
 犬を引き連れた真一が。
「皇帝には剣も魔法も効かないという噂だが、噂によると聖剣クオンカリバーだけが唯一その身に傷をつけられるという噂だぜ」
 何か胡散臭い剣を握り締めた寿が。
「ことぶこちゃん、後でそれで大根切らせてちょうだい!」
 大根とムチを握り締めた凛子が。
「今日は新鮮な鰹節が入ってますよー……てか、新鮮な鰹節ってなによ!?」
 鰹節をばら撒く鈴音が。
「さて、俺は何回登場してたかな?」
 光の翼を展開させ、メンナクポーズを取る泣留男が。
「世界はあんたのモノじゃないですよぉ!」
 地球の被り物をした因が。
「いささか不利とお見受けしました」
 道化のように立ち、お辞儀をするザ・クラウンが。
「雅人、お前の一世一代の告白。見届けてやるよ」
 中立ポジの紫苑が言う。
 そんな彼らに見守られながら、雅人は息を吸う。
「宗方さん! 初めて会った時からあなたの事が好きでした! どうか僕と付き合ってください!!」
「ふっ、何かと思えば、ただの告白だと? 言いたい事はそれだけか? なら死――なっ!? ち、力が抜ける……だと!?」
 今まさに雅人へと宗の攻撃が放たれようとした瞬間、急に何かを訴える様にして宗は苦しみ出した。
 同時に震える声が周囲に響いて来た。
「お、お、お……お前はこんな状況で何を言ってるんだ!」
 声の主である露姫が顔を真っ赤にしながら、雅人に向かって叫ぶ。
 怒っている様なその表情に少しビクつきながらも、彼は叫ぶ。
「へ、返事をください。今すぐに!」
「今かよ! 〜〜〜っ、好きだ! 俺も好きだよ!」
「な……何を馬鹿馬鹿しい事を……くっ、ぐあああっ!!」
 愛を叫び合うにつれ、宗に纏っていた黒い力は徐々に消えて行き、露姫の身体から光が溢れ出して来ていた。
 そんな中で、藤花と焔が雅人の肩に手を置く。
「少しは見直したよ。だからきみに力をあげる」
「恋人を助ける王子様の役目をしっかりしてくださいね」
 2人は力を込めて、全力で雅人を宗に向けて投げ飛ばした。
 突っ込んでくる雅人に宗はフラフラと拳を握り、対抗しようとする。
「宗か――露姫さぁぁんっ!!」
「くっ、舐めるなぁぁっ! ――ぐはぁぁっ!!」
 愛の力は真・皇帝を貫き、露姫まで雅人を飛ばして行く。
 宗が倒れた瞬間、露姫の拘束は解け、地面目掛けて落ちて行き……それを雅人が抱き止めた瞬間、光が弾けた。
 そして、世界は生まれ変わった。

●エンディング
 普通の朝、普通の日々。
 そんな日々を、露姫は送る。だけど何かが足りない。
 その何かは……何だろう。
 そう思いながら右目の眼帯に手を当て……ようとしたが、何時無くしたのか分からないがそこに眼帯は無かった。
「あれ……って、大事なものなのに!?」
 家なのか如何なのか分からないまま、露姫は手のひらで右目を隠す。
 そんな彼女に眼帯を差し出す手があった。
「これ、きみのだよね」
 そこから2人の新しい日々は始まるのだった。

「おかえりなさいませご主人様なのです!」
 一度は倒壊したメイド喫茶。
 しかし、生き残った桜花をはじめメイド達により、健全なメイド喫茶へと生まれ変わった。
 そしてそこでは桜花以外にも名のあるメイドは居た。
「おかえりなさいませ、ご主人様」
「恵……店長、五番テーブル片付いたよ」
 上品さを兼ね備えたメイドのお辞儀を恵夢はして、客を招き入れる。
 そして優希も恵夢に笑いかけながら、報告する。
 あの戦いで過剰すぎる力を与えられた優希だったが、そのショックで秋桜にかけられていた記憶の封印が解かれた。
 封印された記憶、それは自分と恵夢は兄妹であったという記憶だった。
 復讐を誓う原因となった秋桜のメイド軍の襲撃の際に死んでいたと思われていたが、実は生きていたらしい。
「はい、ご苦労様です兄さん。それではご主人様、こちらへどうぞ」
 そう言って、恵夢はご主人様達をテーブルへと連れて行くのだった。

 それらを遠くの世界から眺める者達が居た。藤花と焔だ。
「幸せそうですね」
「うん、そうだね……」
 言いながら、2人は手を握り締める。しかしもう片手には散弾銃とカルツォーネ。
 首だけを振り向かせた先には、結希の姿が。
「かみであるあたしを倒したければ、チェーンソーくらいは用意するべきだったわね!」
 目の前に居る神、それこそ全ての元凶であり古の覇者を創った者。
 遠い昔に覇者だった藤花と恋人である焔には、分かっていた。
「全てを思い出したのはこの空間に入った時だから、チェーンソーは用意出来ていませんですが……」
「彼らがずっと幸せに過ごすぐらいの時間ぐらいは作れるよね」
 そう言って、2人は神である結希へと立ち向かう。
「面白いわね! だったら思う存分遊んであげるわ!!」
 時間も世界も無い無の空間で、覇者だった者達と神は戦い続ける。

 そしてエンドロールが流れ始め、出演者達の名前が出て行く。
 雪成 藤花:主人公
 星杜 焔:ヒロイン

 袋井 雅人:主人公2
 宗方 露姫:ヒロイン2

 恵夢・S・インファネス:黒メイド騎士

 インレ:ヒーロー
 機嶋 結:ヒーロー

 神凪 宗:忍び・真皇帝
 テス=エイキャトルス:女王
 あんこく:暗黒皇帝
 白野 小梅:将軍

 秋桜:悪のメイド軍リーダー
 内藤 桜花:悪のメイド
 橘 優希:メイドの使い魔執事

 グラン:監視者
 虎綱・ガーフィールド:道化
 佐藤 七佳:戦場の郵便配達人
 神楽坂 紫苑:主人公の親友
 六道 鈴音:通りすがりの魚売りの娘
 青木 凛子:オカン

 月丘 結希:神様

 命図 泣留男:目立つモブ
 梅ヶ枝 寿:フラグモブ
 千葉 真一:モブ
 点喰 因:モブ

 監督・脚本:ジェンガ溝口

 そして、エンドロールでは普通音楽とか歌が流れるはずなのだが、まったくそれは無くその代わりに……。
「有名な監督さんの目にとまったりして、一躍スターダムに乗ったりしちゃったらどうしようとか。えへへへへへ」
「映画デビューって素人でも心踊るもんだと思うだが、今回は難しいなぁ……」
 何か鈴音や真一の舞台裏の声が聞こえた。
「能力をいつもと違って反対の方向の効果とかに出来れば大丈夫だよね。出来なくても根性で何とかするよ」
 紫苑の何か恐ろしい声が聞こえたり……。
「お菓子に釣られて協力しましたが、甘いものは嬉しいけど……次は無い、ですからね……」
 もぐもぐと言う感じにお菓子を食べながらの結の声が聞こえたり、
「りんりん、綺麗に照らしてあげるぜー!」
 とかの女優ライトを当てたりする声が聞こえる。
「やはり、星涙のカルツォーネという脚本を見せるのもよいでござろう!」
 虎綱の野望が燃え広がっていたり、
「邪魔するなら斬り捨てますッ! ……あれ、今斬ったのって真・皇帝でしたっけ?」
「カットカーット」
「ああ、君がまさしく俺の追い求めていた女神さま!」
 NGシーン音声が流れていたり、一瞬映像で焔が鼻血を流しているのが見えたり、
 戦闘中に胸が凄い事になっているサービスシーンとか、小梅がドーナツの海に沈んで美味しそうにしているシーンとか、テスが無茶しすぎた女王様風の服装を着て演技をしているシーンとかが映っていた。
 そして最後に、END……の文字がでかく表示された。

「よし、完成どぅあああああああ!!」
 試写会を終えたジェンガ溝口は満足そうに叫ぶ。
 見終わった出演者達の表情は何と言うか……どう言えばいいのか分からない色んな表情に埋め尽くされていた。
 そんな彼らに気づかずにジェンガ溝口は興奮しっ放しのアドレナリン放出状態であった。
「いやぁ! 流石撃退士達だね、皆イキイキとしていたよ! また何か撮影があったら依頼させてもらうよ!」
「そ、そうなのですかぁ〜……」
 疲れ切ってぐったりとする衣月へとジェンガ溝口はブンブンと手を握り振る。
 こうして、撃退士達を巻き込んだ映画は完成し、近い内に上映される事となったのだった……。


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: −
重体: −
面白かった!:7人

Defender of the Society・
佐藤 七佳(ja0030)

大学部3年61組 女 ディバインナイト
天拳絶闘ゴウライガ・
千葉 真一(ja0070)

大学部4年3組 男 阿修羅
思い繋ぎし紫光の藤姫・
星杜 藤花(ja0292)

卒業 女 アストラルヴァンガード
凍気を砕きし嚮後の先駆者・
神凪 宗(ja0435)

大学部8年49組 男 鬼道忍軍
命繋ぐ者・
神楽坂 紫苑(ja0526)

大学部9年41組 男 アストラルヴァンガード
秋霜烈日・
機嶋 結(ja0725)

高等部2年17組 女 ディバインナイト
天つ彩風『探風』・
グラン(ja1111)

大学部7年175組 男 ダアト
哀の戦士・
梅ヶ枝 寿(ja2303)

卒業 男 阿修羅
世紀末愚か者伝説・
虎綱・ガーフィールド(ja3547)

大学部4年193組 男 鬼道忍軍
闇の戦慄(自称)・
六道 鈴音(ja4192)

大学部5年7組 女 ダアト
思い繋ぎし翠光の焔・
星杜 焔(ja5378)

卒業 男 ディバインナイト
撃退士・
青木 凛子(ja5657)

大学部5年290組 女 インフィルトレイター
妖艶なる三変化!・
恵夢・S・インファネス(ja8446)

卒業 女 ルインズブレイド
夢幻のリングをその指に・
橘 優希(jb0497)

卒業 男 ルインズブレイド
ラブコメ仮面・
袋井 雅人(jb1469)

大学部4年2組 男 ナイトウォーカー
こんな事もあろうかと・
月丘 結希(jb1914)

高等部3年10組 女 陰陽師
MEIDO・
内藤 桜花(jb2479)

大学部8年162組 女 ナイトウォーカー
断魂に潰えぬ心・
インレ(jb3056)

大学部1年6組 男 阿修羅
激闘竜姫・
宗方 露姫(jb3641)

大学部4年200組 女 ナイトウォーカー
Standingにゃんこますたー・
白野 小梅(jb4012)

小等部6年1組 女 ダアト
熱願冷諦の狼・
テス=エイキャトルス(jb4109)

大学部2年199組 女 ナイトウォーカー
エロ動画(未遂)・
秋桜(jb4208)

大学部7年105組 女 ナイトウォーカー
ソウルこそが道標・
命図 泣留男(jb4611)

大学部3年68組 男 アストラルヴァンガード
212号室の職人さん・
点喰 因(jb4659)

大学部7年4組 女 阿修羅
撃退士・
あんこく(jb4875)

大学部3年133組 男 ナイトウォーカー