.


マスター:清水裕
シナリオ形態:シリーズ
難易度:難しい
参加人数:12人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2012/10/22


みんなの思い出



オープニング

●閉店前の客
「久しぶりだな。怪我の方は大丈夫か?」
「はい、傷は少し残りましたが……大丈夫です。その節はありがとうございました」
「それは何よりだ。それより、どうしたんだこんな時間に」
 頭を下げる向日葵に対し、勘十郎は奇妙な違和感を感じた。
 そう思いながら現れた小日向 向日葵(jz0063)の顔をまじまじ見た。
 最後に見た日から比べると窶れており、目元に隈が出来ていた。
 ろくな生活をしていなかったのが丸分かりである。
「久しぶりにこの店で食事を……と思ったのですが、大丈夫ですか?」
「……悪いな。丁度片づけを行っている所だ……とは言っても、今のお前は食べれそうに無いだろうしな。――ずっと何も食べてないだろう?」
 または、食べたけど吐き出した……か。と勘十郎は言うと見抜かれた事に向日葵は少し恥かしそうに苦笑した。
 ……まただ、なんだろう。この違和感は?
「すみません。でも最後に店長のご飯を食べたかったので……」
「……? まあいい、座れ。珈琲……は胃にきついだろうから、ホットミルクくらいなら出せる」
 賞賛される事があまり無いからか、その言葉に勘十郎は照れたのかぶっきら棒にカウンターを指す。
 数分後、ホットミルクがカップに注がれ、向日葵へと差し出された。
「……はぁ、美味しい…………」
 程よい温かさが体を包み込み、蜂蜜が入っているのか独特な甘みが溶けていく。
 ゆっくりと飲む向日葵へと、勘十郎がクッキーを出した。
「明日は昼間に来い。来たらちゃんとした物を食べさせてやる」
「はい、行けたら……良いですね」
 それから閉店時間まで向日葵はカウンターでホットミルクとクッキーを食べた。
 それらを向日葵は何処にでもいる少女のように美味しそうに食べるのだった。
「ご馳走様でした。あの、短い間でしたが、お世話になりました。マスターの料理……美味しかったですよ。」
「ああ、また明日な」
 そして、向日葵は何も言わず喫茶店を後にしたのだった……。

●違和感の正体
『ああくそ! こう言う事か、お前らすぐに店まで来てくれ!!』
 部屋で寛いでいた彼らへと勘十郎から緊急の電話がかかり、そのただならぬ様子に彼らは急いで喫茶店へと向かった。
 中に入ると真剣な表情で勘十郎が彼らを出迎えた。
「まず結論から言うと……小日向は死のうとしている。理由はこれだ」
 勘十郎が手紙を1通取り出した。どうやら、向日葵が帰った後にクッキーの置いた皿の上に置いてあるのに気づいたらしい。
 開いてみても良いかと勘十郎を見ると、むしろ見るように促された。
『手紙だから、敬語で話さなくても良いわね。
 まず初めに、この前は助けてくれてありがとう。
 そんなあなた達だから面とお礼が言えないのは気が引けるわ……でも、そうしたら決心が鈍るかも知れないもの。
 もしくは、私のやろうとしてる事に感づかれるかも知れないもの。

 あのサーバントの素になった人間は、私の親友で助ける事が出来なかった子。
 昔、お婆様の家に行った時に私はその子と一緒に神隠しに遭って、私だけが帰ってきたわ。
 あの時、私達は森で遊んでいたのに……見た事も無いお花畑に迷い込んだの。
 妖精のお花畑かと2人で驚いたのは今でも覚えているわ。でも、それは違ったの……現れたのは妖精じゃなく、天使だったわ。
 天使は私達から精神を吸収しようとしてたわ。撃退士に目覚めかけていた私と何の力も持っていない彼女。
 天使への恐怖と彼女の表情が段々と人形のように無くなっていくのを私は見ていることしか出来なかったわ。
 やめて、やめて。と私が泣き叫んでも天使は詩を謡い、悦に浸りながら自分の世界へと入っていた。
 そんな私に対して、彼女は……約束守れなくてごめんね。それが最後の言葉だったわ……。
 その言葉を最後に彼女は物言わぬ人形のようになったの。
 約束……いつか日本に行って、咲き誇る中を一緒に歩く。そんな他愛も無い約束だったわ。
 そんな彼女に追い討ちをかけるように……天使は彼女の体を持ち去って行ったわ。
 そして、私はその時のショックで彼女の事も、天使に会った事も忘れていたの。
 でもあの時、あのサーバントを見た瞬間……思い出しかけたの。……あの時は動転して斬りかかったけど、今は違うわ。
 彼女はきっと私を怨んでる。怨んでるから私の前に現れたの……だから私はまた彼女に会わなきゃいけない。
 咲いてても咲いてなくても、あの場所にならきっと彼女は現れてくれるはず。現れて、きっと私を殺してくれる。
 だから、短い間だったけど……今までありがとう。そして、さようなら。

 で――は――生――――い。』
 最後に何か書かれていたが、消しゴムで殴り消したのが見えた。どう書かれていたのだろう?
 それが手紙の全文だった。
「部屋に帰った様子は無いし、この間取り付けた発信機は小日向に見つかり壊されたらしく場所が分からない。もちろん携帯電話も壊れたまま持っていないようだ」
 勘十郎は言う。……手がかりになるのはこの手紙だけか。
 何か手がかりになるものがあれば良いが……。
「あと小日向の祖母さんの家の電話番号は知っているが、もちろん俺は英語は無理だ!」
 なるほど、祖母なら孫がどんな約束をしていたかと話してくれてたりしてるかも知れない。
 または向日葵を助けに行った時に行った工場にいるのかも知れない。
 見つかるのが遅くなった時、向日葵はどうなるのだろう……分からないが、だが何か嫌な予感を感じずにはいられなかった。

前回のシナリオを見る


リプレイ本文

●手がかりを探せ
「女の子の部屋を捜索するのは気が引けるなぁ……」
 鍵穴に鍵を差込み、森田良助(ja9460)は扉を開ける。
 部屋の中はカーテンが締め切られており、真っ暗だった。
 明かりを点けたが、電灯は点滅していた。
「兎に角、情報を集めないと……!」
 呟きながら良助は部屋の中を漁り始める。
 まず最初に机の上を調べ始め、日記が置かれていないかを確認した。
 すると日記は机の上に置かれていた。鍵が掛かっていないかを確認すると鍵は掛かっていなかった。
(ごめんね向日葵。ちょっとだけ見させて貰うよ)
 心の中で謝罪しながら良助は日記を開いた。日記は普通に日常が書かれているだけだった……ただし、本人は気づいていないだろうが春の桜が咲き誇る季節には異質な物を感じられた。
 そして読み続けて行くと廃工場の事件以降の日へと辿り着いた。
 ゴメンナサイ。そうびっしりと鉛筆で塗り潰されるほどに日記には書かれていた。
 それに対し何も言えずに良助は日記を閉じた。そして次に机の引き出しを開けようとした……が鍵が掛かっていた。
(……本当ごめん、帰ってきたら謝るよ!)
 必死に心の中で謝りながら鍵を開錠すると引き出しを開けた。
 中には祖母からの手紙と学園で過ごした日々の中で撮った写真が入っていた。
 まるで想いをそこに封じているように感じられた。それに少し悲しい気分になりながら、仲間からの指示で言われたゴミ箱を漁り始めた。
 ゴミ箱の中は血が乾いたガーゼ、汚くなった包帯、破れた服が詰め込むように捨てられていた。
「写真でもあれば良いけど……ない、かな……あれ?」
 ゴミ箱を返してゴミを取り出し漁ってみるが写真は見つからなかった……いや、元々捨てられていたのだろう。
 その証拠に良助の手には破れた写真の一片があった。もしかすると向日葵が……。
 最後に押入れを開け、置かれた箪笥を開けてみた。……下着があった。
 ――持ち帰る事はせず、そっと目を閉じて良助は箪笥を閉めると携帯を取り出した。
「もしもし、僕だよ。ごめん、写真は千切れた欠片が少しだけしか見つからなかった。メールで送るよ」
 電話口の相手にそう言って、良助は通話を切り皆の後を追おうと……。
「待ってくれ、念の為にアルバムも見てみたらどうだろうか?」
 そんな時、アレクシア・エンフィールド(ja3291)が話し掛けた。
 その言葉に見つかっていないから諦めていた物を思い出す。
「でも、見つからなかったんだよ?」
「なに、女の子には秘密があるって事だよ。例えば……箪笥の置くとかにね」
 クールに笑いながらアレクシアは言った。

●一方工場で
「……ここに居ないといいけど」
 呟きながら橋場 アトリアーナ(ja1403)は先日訪れた廃工場に居た。
 その近くでは丁嵐 桜(ja6549)が桜の樹が無いかを確認している。
 しかし見つからなかったからか、2人は廃工場へと入ると食堂へと歩き出した。
 食堂の中は静まり返り、あの日向日葵を連れ帰った時とまったく変わってはいなかった。
「……シェリーを亡くして向日葵が悲しいように、向日葵を亡くしたらボクも悲しい」
 あの時見たバンシーと向日葵を思い出しながら、アトリアーナは呟く。
 桜の方は向日葵が倒れていた場所に何か落ちていないかを調べる為に近づいた。
 しかし何も見つからず、2人は剣と携帯が置かれていた場所へと向かう為に歩き出した。
「エインフェリアがいなければいいんですけど」
「……その時は僕が守るよ」
 桜の不安にアトリアーナはそう言って油を差したドアをゆっくりと開け、工場の中へと入った。
 静まり返った中を2人は静かにゆっくりと移動を開始し、放電炉を抜けて作業場へと潜った。
 作業場の鎖がぶら下がった所にあの時と同じ様にエインフェリアが居ないかという心配があったが、ペンライトで照らすのは危険と思ったのか向ける事は無かった。
 しかし時間が惜しいという事もあり、そのまま直進して出荷場へと移動した。
 出荷場もあの日と同じ姿を2人に見せつけるだけだった。
 だが、アトリアーナは折れた大剣が落ちている場所へと向かうとそれを拾った。
「……例え折れて砕けても、繋ぎ合わせる事は出来る。自分ひとりで無理なら僕が、僕たちが一緒になおす……刃も、心も」
 しかしそこに向日葵が居ない以上、此処から立ち去った方が良いだろう。
 そう思いながら、2人は作業場へと歩き出そうとした……しかし作業場から複数の笑い声が聞こえた。
 どうやらエインフェリアは潜んでいたようだ。
 桜がウォーハンマーを構えて近づく敵に身構える。
 だがきっと2人では戦えたとしても倒れる事になるだけだ。
(どうすれば……)
 自分はどうなってもいい、せめて桜だけでも……そう思うアトリアーナだった。
 しかし気づいた。自分達の後ろには壊れているが出荷用の大型シャッターがある事を。
 本能だったのか、無意識にアトリアーナは自分よりも大きな戦斧を掴むとエインフェリア達が迫り来る前方ではなくシャッターに叩き付けた。
 その一撃でシャッターは縦に切れ目が入り、同時に音に気づいた桜が彼女の意図に気づくとウォーハンマーで殴りつけた。
 結果、シャッターは。人ひとりが通れる程の隙間が生まれ、2人は急いで外へと飛び出すと共に走り出し、工場を囲む壁を蹴り上げて外へと飛び出した。
 しばらく耳を済ませてみるがエインフェリアが追いかけて来る事は無いらしく2人は一息を吐いた。
「やっぱり、向日葵さん居ませんでしたね」
「……そうだね、でも雨野の作戦通り周辺も調べよう」
 アトリアーナはそう言うと携帯を取り出し、雨野 挫斬(ja0919)へと電話をかけ向日葵が居なかった事を伝えると桜と共に工場周辺の探索を開始するのだった。

●関西へ…。
 夜が遅いが勉学に勤しむ学生の為にか学園図書館は明かりが灯っていた。
 そんな中で挫斬は携帯を片手に通話をしながら書類を漁る。
 それらはすべて廃工場近くの情報で、桜の名所や公園や植物園の場所が調べられていた。
「大変だったね。それじゃあ、廃工場周辺の地図のデータを送るから今度はそっちを調べてみてね」
『……分かったよ。関西に行った人たちにもよろしくね』
「任せて」
 通話を切るとすぐに挫斬はマップデータを作成すると彼女の携帯に送った。
 それを終えるともう一方へと連絡を行う。
 数度のコールを鳴らすと共に相手側の息が聞こえた。
「もしもし、完子ちゃん。無事に到着した?」
「ええ、無事に着きました。とりあえず私は姫路城の周辺で捜索してみますから大阪に向かった皆さんの方をお願いします」
 唐沢 完子(ja8347)がそう言って通話を切ると挫斬は大阪にいるメンバーへと連絡を行うのだった。
 ちなみに最初にすぐに移動した方が良いか、転移装置を使えばいいかと調べ転移装置が早い事を知り、使用申請を行い先発組を大阪と兵庫へと送り届けた。
「完子ちゃんは姫路城に着いたみたい。そっちは大丈夫かな?」
『はい、大阪城公園を徹底的に調べてみます。森田さんから情報が届いたらお願いします』
 水無月沙羅(ja0670)の連絡を終えた直後、挫斬の携帯へと良助からのメールが届く。
 写真の欠片だ。花が写っているが場所がまったく分からない。
 そもそも素はどんな写真だったか自体分からない。
 それに対し何も出来ない挫斬は溜息を吐くのだった。

 雪室 チルル(ja0220)が持ってきた手紙の上に別の紙を敷き、筆跡を調べる為に文字の復元を試みていた。
「こうすれば見えるようになるってテレビで言ってた!」
 鉛筆の黒色が紙を塗り潰していくと同時に薄っすらとだが文字が浮き出始めていく。
 最終的に浮かび上がったそれは……「私はまだ、生きたい」だった。
「……そんな事、初めから知ってるわよ!」
 この場に居ない向日葵を怒鳴りつけるようにチルルは空に向けて吠えた。
 明かりの絶えない大阪駅前ではルドルフ・ストゥルルソン(ja0051)が自分を証明する学生証と向日葵の写真を手に聞き込みを行っていた。
「すみません、俺はこういう者だけど……この写真の子を見かけた事は無い?」
 バス、タクシーの運転手、駅員、警備員を中心に聞き込みを開始する。
 念入りにだが、しつこくない程度に聞き込み。途中探している理由を聞かれたら家出と答えておいた。
 しかし、それと言った情報は手に入らなかっ――。
「あれ、この子……確か大阪環状線に乗って行かなかったか?」
 駅員が言うには向日葵は今にも構内から列車に飛び込むんじゃないかと見えたらしい。
 だから乗った路線も覚えていたのだろう。
「俺だよ。向日葵は大阪城辺りに向かっていった可能性が高いよ」
『分かりました。ルドルフさんも気をつけてくださいね』
 沙羅はそう答えると向日葵の生家から走り出すと大阪城へと移動を開始した。
 そしてルドルフは次に他のメンバーへと電話を開始した。
『そん……なっ! い、今すぐ私も大阪に向かいます!』
 今にも携帯を落としそうな勢いで完子は声を震わせるが気丈にも声を奮い立たせ、電話口のルドルフに礼儀正しく答えるとすぐに走り出した。
 向日葵の祖母や実家から得た情報、それは有利なものだったかも知れない。
 しかし彼女は深読みしすぎたのだ。間に合って欲しい!
 心からそう願いながら、完子は姫路城を後にした。
「良かった、ボクらは大阪城だよ。すぐに探して見せるよ、絶対後悔させたく無いしね」
 桐原 雅(ja1822)が携帯をポケットに入れると大阪城公園を歩き出した。
 夜の大阪城公園は大阪城をライトアップし、均等に配置された街灯が暖かな明かりを生み出していた。
 そんな中を雅が目を凝らしながら歩く。
「向日葵さーん、何処ですかー? あ、雅さん。見つかりましたか?」
「ううん、まだだよ。そっちは?」
 反対側を歩いていたのだろうか、姫架・ゴースト(ja9399)が声を出して向日葵を探しているが雅に気づいて近づくと、情報交換を行う。
 だけど、見つからなかったらしい。
 分かり易い道ではなく、芝生の先の方も調べるべきだろうか……姫架と分かれ、芝生の先に進むと花畑のような場所を歩く沙羅と出会った。
 どうやらシェリーが好きだったであろう野に咲く花畑のような場所を中心に探しているようだ。
 近くでは手をメガホンにしたチルルが居るのが見えた。
「ひまわりー! いたら返事をしてよー!」
 だがやはり返事をしてくれるわけが無く、叫びは闇に消えた。
 一方、大阪城公園の中心辺りにある西の丸庭園に立つグラン(ja1111)がチルルの叫び声を聞く。
「あちらも見つかっていないみたいですね……」
 言いながら、西の丸庭園内を散策しグランは桜を見つけた。
 季節は秋の為に葉は紅葉に彩り地面へと散っているがソメイヨシノ、ヤエザクラ、ヤマザクラと呼ばれる種類の桜という事が記されていた。
(過去の傷を抉るような再会……偶然か、それとも陰謀の構図者がいるのか……)
 心で思いながら、グランは桜の後なども重点的に探し回った。
 しかし、向日葵はそこには居なかった……。
 いったい向日葵は何処に――。

●砕けた心
 大阪城公園から少し離れた場所にある大阪造幣局。
 そこは130種類近くの桜が植えられた桜並木がある場所である。
 大阪城とは川を挟んでいるがバス旅行などで来る観光客達は城の近くの堀に降ろされて徒歩で移動していく。
 桜の通り抜けと呼ばれる並木道の中、向日葵は静かに立っていた。
 ぼんやりとした明かりが灯る中、彼女は待つ。その手には修復した写真が握られていた。
「……待ってたわ」
 呟く彼女の少し上空に泣声の様な声を上げるバンシーが居た。
 かつて、シェリーと呼ばれた向日葵の親友だ。
「許してっていわないわ、だから……私を殺して、シェリー」
 許しを請う様に向日葵は両手を広げ、バンシーに死を求む。
 しかし、バンシーは向日葵をただ見詰めて泣声を上げるだけだった。
 彼女に心があるなら友達が死んで欲しくないと願っているのかも知れない。又は気まぐれかも知れない。
「なん、で……何で死なせてくれないの! お願いよ、シェリー! 連れてって、私も一緒に連れて行ってよ!」
 それに耐え切れず、向日葵は泣き叫ぶ様にバンシーに訴える。
 そんな向日葵にバンシーが近づく、あぁ……これで死ねる。そう向日葵は思った。
「……え? どう、して……? なんで、なんで……なんでよぉ!」
 軽く彼女の頬を撫でる様にしてバンシーは空へと飛び立つと、この場を後にした。
 静かになった道に向日葵は立っていた……だが、力を失ったようにその場に座り込む。
「もう、……だ。もう、やだ……もうやだぁ!」
 子供の様に向日葵は泣き出す。
(シェリー、連れっててよ。私も連れてってよッ! なんで殺してくれないの! なんで帰っちゃったの! イヤだ、イヤだよぉ……!)
 あの日から塞き止められていた感情が溢れ出し、洪水となって向日葵の中を暴れ回る。
 何がいけなかったのだろう、森で遊ぼうと言った私が悪いのか。花畑で一緒に死ねなかった私が悪いのか。
 不意に向日葵の鳴き声は止み、乾いた笑いが響き出す。
「あ、あは……そう、だ。私だ。私が居たから……いけないんだぁ」
 笑い声を上げたまま向日葵は……その場に倒れた。

 翌朝、向日葵が見つかったと言う知らせが病院から届いた。
 案内された病室に入ると向日葵は眠っていた。
「生きて良いのだ。死に捉われる必要など何処にもない」
 生きていた事を嬉しく感じているのか口元に笑みを作りアレクシアは呟く。
 同じ想いを抱いているのか周りも涙を浮かべるが笑顔だ。
「やっぱり、生きたかったんだね向日葵……グスッ」
「シェリーはやっぱり小日向さんを怨んでなんかいなかったのね」
 ハリセンを懐に入れたチルルが泣きながら微笑む。
 彼女にちり紙を差し出して雅も微笑む。
 安楽椅子探偵の様に周りのサポートをしていた挫斬も肩の荷が下りたように息を吐く。
「……良かった、向日葵が無事で」
「良かったですね、橋場さん!」
 涙を拭うアトリアーナに桜が微笑んで肩を叩く。
 そんな中で完子は落ち込んでいた……。
「落ち込まないでください、完子さん」
「お、落ち込んでなんかいないわよっ!」
 頭を撫でる姫架にちょっぴり涙目の完子は強気な感じに吠えるが、覇気があまり感じない。
 そんな時、良助が向日葵の目覚めの兆候を見た。
「あ、みんな。向日葵が起きるよ」
 起き上がった向日葵はキョトンとした顔で周りを見た。
 そんな彼女に対して、沙羅が泣きながら抱きしめた。
「良かった、良かったです向日葵。もうあんな無茶はしないでくださいね……!」
 だが全員は向日葵の異常さに……気づいた。
 まるで自分達を初めて見るような顔だったのだ。
「おねーちゃん、おにーちゃんだれー?」
 生きる光を失った瞳で彼らを見ながら、子供みたいな声で問い掛けるのだった。


依頼結果

依頼成功度:大失敗
MVP: −
重体: −
面白かった!:2人

銀閃・
ルドルフ・ストゥルルソン(ja0051)

大学部6年145組 男 鬼道忍軍
伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
料理は心〜学園最強料理人・
水無月沙羅(ja0670)

卒業 女 阿修羅
高松紘輝の監視者(終身)・
雨野 挫斬(ja0919)

卒業 女 阿修羅
天つ彩風『探風』・
グラン(ja1111)

大学部7年175組 男 ダアト
無傷のドラゴンスレイヤー・
橋場・R・アトリアーナ(ja1403)

大学部4年163組 女 阿修羅
戦場を駆けし光翼の戦乙女・
桐原 雅(ja1822)

大学部3年286組 女 阿修羅
不正の器・
アレクシア・エンフィールド(ja3291)

大学部4年290組 女 バハムートテイマー
序二段・
丁嵐 桜(ja6549)

大学部1年7組 女 阿修羅
二律背反の叫び声・
唐沢 完子(ja8347)

大学部2年129組 女 阿修羅
【流星】星を掴むもの・
柚祈 姫架(ja9399)

大学部4年4組 女 アストラルヴァンガード
セーレの王子様・
森田良助(ja9460)

大学部4年2組 男 インフィルトレイター