●開戦
「くすす、貴方達でしたか。ごきげんよう」
訪れた撃退士達の前に蛇が現れ、見知った顔に気づくと彼女はスカートを摘み優雅に礼をした。
演技染みた仕草に彼らは何も言わず、エルム(
ja6475)が前に出て招待状を胸元から出した。
「貴女が招待状をよこした悪魔ですか」
「ええ、ですからゲームを始めましょう」
「やられたらやり返す! 百倍返しだ!」
剣を握り、草薙 雅(
jb1080)は前を見据える。
笑みを浮かべながら、蛇は手を上げた。
「ウーネさん、遊びのお時間ですわ」
「わーい★」
楽しそうな声と共にウーネミリア(jz0114)が毬栗を玉乗りの様にしてやって来くると共に笑い声を立てながら2個の南瓜が空に浮かび上がった。
対して撃退士達は武器を構え、正面と上空を見据え……戦いが始まると共に散った。
●疾走
「スレイ、頼んだよ!」
L・B(
jb3821)がカードを投げ、眩い光と共にスレイプニルが召喚された。
黒と蒼の肢体は空を駆け、南瓜と相対。
一方で雅がティアマットを召喚すると毬栗と対峙していた。
どちらかが先に動いた時点で戦いの優劣は決まるはずだ……だからだろう、両者とも動きが見られないのは。
そんな2体の召喚獣をゴーグル越しに見ながら、新崎 ふゆみ(
ja8965)は木の上から長い銃身のライフルを空に浮く南瓜に向けていた。
木に背を預けながら、狙いを定めると引金を引いた。
「えーい、ばんばーん☆」
ファンシーな台詞と共に放たれた弾丸は、浮かぶ南瓜の皮を吹飛ばした。
枝葉に隠れたふゆみを攻撃すべく、南瓜は種を弾丸の様に撃ち出し攻撃して行く。
しかしふゆみは既にそこには居らず猿の様に別の木へと飛び移っていた。
更に南瓜を狙っている者は1人だけではなかった。
翼を広げ飛ぶヴェス・ペーラ(
jb2743)が上空から南瓜に向けて弾丸を放った。
その弾丸はマーキングであり、彼女はある考えを持っていた。
「私の考えが正しければ、地中に南瓜の本体が居るはずです!」
自信満々で言いながらヴェスは対象の探査を開始した。きっと地面に大きな反応が……反応が……。
無かった。彼女の探査で認知した対象は彼女がマーキングした南瓜1つだけだった。
「で、では蔦状の何かは一体……」
顔を赤くしながら、平静を保とうとしつつヴェスは上空へと再び飛び上がった。
それを追いかけるべく、南瓜は動き始める。
そんな南瓜の片割れに下から矢が突き刺さった。
「こっちだよ!」
地上を見ると自身の丈よりも長い和弓を構えたエルムが立っており、二の矢を番えると頭上から一気に下に引き……斜め上に構えると南瓜に狙いを定め、振り絞った弦を指から離した。
エルムの耳を風鳴りが通り過ぎ、矢が放たれ襲い来る南瓜に2本目の矢を突き立てた。
それでもエルムへと接近してくる南瓜へと横殴りで叩きつける巨体があった。
Lのスレイだ。
「良くやったわスレイ!」
スレイを褒めながら、Lは後方からもう片方の南瓜に向けて双銃を構えて弾丸を放ち、徐々に南瓜の皮を削り取っていった。
地上では転がり始めた毬栗へと紫園路 一輝(
ja3602)が構えた刀から、アウルの刃を飛ばし攻撃を行う。
刃は毬を斬りながら中心へと進んで行くが途中でアウルは分散してしまった。
それを見ながら、一輝は摺足で後ろへと下がって行った。
一方で距離を保ちつつ、マキナ・ベルヴェルク(
ja0067)は手を振っていた。
不思議な事に彼女が手を振るう度に毬が地面へと落ちて行った。……いや違う、自身の腰に取り付けたランタンの光に反射し一瞬光る物があった。
目に見えない程細い鋼糸を振るい、毬を切り落としていたのだ。
(このまま何も無ければ接近戦に持ち込めばいいのですが……)
そう思っていると今まさに切り落とした毬の根元が膨れ……マキナの顔面へと撃ち出された!
いきなりの行動に一瞬驚いたが、首を横に振って毬を回避した。
避けた毬は松へと深く突き刺さり、マキナは掠った頬から垂れる血を指で拭いながら前を見る。
数が多いからか数本ほど抜けたとしても毬が減った様子は無かった。
しかも普通にぶつかっただけでも攻撃となる毬栗はコロコロと回りながら移動を開始しようとした……が前方に発生した霧が移動の阻害をした。
「ティアマット、そのまま押さえろ!」
雅の言葉と共に霧が一瞬揺らめき、中に彼の召喚獣がいるのが見えた。
毬栗をその豪腕でティアマットは力強く鷲掴むと、力を込めて持ち上げた。
金属の様な物質で構成された皮膚から伝わる僅かな痛みを感じながら雅は力強く叫んだ。
「無駄無駄無駄無駄無駄ぁぁぁ!」
叫びに呼応する様に持ち上げた毬栗を地面に力一杯叩き付けた。
更に咆哮を上げながらティアマットは手を放さずに、近くの松へと毬栗を叩きつける。
その度に毬は弾き飛び、毬は段々と折れて行く。
再び地面に力強く押し潰す様に叩き付けたと共にレイ(
ja6868)は杖を握り締め、力強く振り下ろした。
「大胆かつ繊細に!」
そのまま一斉に攻撃を行いたいが、彼らは栗が飛び出してくる事を危惧していた。
彼らのそんな心境を理解しているのかクススと笑いながら……蛇はそれを見ていたが上空でも面白い事が起きているのに気づき笑みを作った。
●失墜
別の木に飛び移ると共にふゆみはライフルを構え、スコープで南瓜を視認し引金を引いた。
闘争心を込めた弾丸は命中し、空中の南瓜を揺らした。
「ばーんばーん★ うーん、しぶといよー」
中に浮いているからか決定打にかける攻撃が当たっていない事に彼女は不満そうに呟きながら再び別の木に飛び移った。
ちなみに移った途端に今居た松は毬栗を叩き付け、折れてしまった。ふゆみちゃん無事でよかったね!
「物理に耐性があるみたいだけど、魔法攻撃はどうです!」
上空のヴェスが蛇図鑑を開くと幻影が現れ、蛇の様に南瓜の片割れへと向かって行く。
対する南瓜も種を撃ち出し、攻撃するが幻影には命中しなかった。
そのまま幻影は南瓜を削り取って行き、二つ目を三つ目四つ目と変えて行く。
「痛っ!?」
そんな時、翼に軽い痛みが走り……見ると南瓜の種が1粒刺さっていた。
戦闘が終わったら抜けば良いだろう。そんな考えで再び上空に飛ぼうとした瞬間――。
パンッと弾ける音と共に翼に刺さった種が弾け、植物の蔓が噴出した。
噴出した蔓はヴェスの翼に絡み付き、締め付けられて行く。
「くぁ――っ!!?」
激しい激痛と共に片翼を締めつけられた彼女は空中でバランスを崩し、回転しつつ落下した。
視界に映る地面に素早く頭を両腕で庇いながら、ヴェスの体は地上へと落下し転がりながら2度バウンドし、松に激突し停止した。
歪む視界を動かし、翼を見ると種が突き刺さっていた場所に生えた蔓は腐食し崩れ落ちていった。そして後には貫通した様な穴が開いているだけだった。
フラフラと立ち上がり、自身の体を見たが節々は痛むが特に問題は無いと思いつつ、ヴェスは立ち上がる。
……しかし暫く飛ぶのは無理そうだ。そう思いながら背中の翼を見た。
「きゃーっ★ 蔓が体に巻きついて、バランスがー☆ ――ぐへっ!?」
コミカルに言っていたが最後にガチっぽい声を発しながらふゆみは地上に落下した。
どうやら跳び移った松に種が突き刺さっていたらしい。
体を起こし、クラクラ頭の上にヒヨコを走らせるふゆみへと南瓜が大口を開き、鋭い牙で噛み付こうとする。
「もらった! 秘剣、翡翠!!」
だが、背後からエルムの鋭い剣閃が放たれ、朱色の刀身が南瓜の口を斬り崩した。
続けてもう一体の穴あき南瓜も種を撃ち放とうと地上を見下ろす。
「さぁ、スレイ! 激しいのをあげようか!!」
Lの叫びに応える様にスレイプニルは前脚を上げ、勇猛に鳴くと周囲にパチパチッという放電音が聞こえた直後、雷の様なエネルギー体を南瓜に向けて放った。
ジュッという音と焦げた臭いが周囲に漂い始め、穴あき南瓜は黒焦げになり……風と共に崩れた。
「火を使ってくれないからイガイガが燃えないよー! がんばれイガイガー♪」
一方でウーネミリアがそう言いながら毬栗を応援する。……と言うか、栗が弾ける条件言っちゃってるよこの子。
主の期待に応えようとしているのか地面に押し潰した毬栗は一気に身を膨らませ、まるで地雷の様に全周に毬を飛ばした。
毬栗にとっても破れかぶれの行為なのだろうが、戦っていた彼らは素早く回避または防御しようとする。
レイは素早く盾を持つと毬を弾かせ、足や肩に掠りはしたが体への命中を防いだ。
「ふう、何とか避けれたぜ! って、いたた……」
一輝は走ると藁が巻かれた松を選びその陰に隠れた……が、先程松に深く刺さっていたのを思い出した時、既に遅かった。
「ぐっ! ――っく、うぅ!!」
松に突き刺さった1本が彼の脇腹に刺さり、激痛が走った。だが叫ぶのを堪えながら、彼は毬を圧し折ると松から少しだけ距離を取った。
マキナは黒夜天・偽神変生を発動させたまま、金色の目を光らせ両手を開くと行動を開始した。
彼女目掛けて飛んで来る毬を両手で掴むと、黒焔を揺らめかせながら1本1本落として行き、終焉を内包した一撃を打ち込んだ。
打ち込まれた部分は潰れ、押し潰されながらも栗の姿が見えた。
「後ろに下がれば簡単に避けれます。ですが、前に進んでこそ意味があります」
呟く彼女の声を聞きながら、雅はティアマットに守られながら剣を構える。
弾き飛ばし終えると同時に雅はティアマットの背を借り、前に進んで行く。
同時にティアマットが咆哮を上げながら短くなった毬を掴み上げると、左右に力強く引いた。
メリメリと音が周囲に響きながら、毬からむき出しになった栗が姿を現した。
そこへ核と呼べる栗へと雅は剣を突き刺し、毬栗も残った毬を彼の脳天目掛けて放った。
「オマエラを倒した所で……死者は蘇らない」
歯で捉えた毬を掠った時に零れた血と共に吐き出すと突き刺した剣を深く沈ませた。
そして、核と呼べる場所を潰した感覚を感じながら、ゆっくり剣を抜くとカスを振るい落として鞘へと戻した。
「だけど無念と恨みは晴らせたかな……」
呟き、毬栗との戦いを終えた彼らは南瓜の方へと向いた。
瞬間、数回の銃声が鳴り響き、残った南瓜は割れ砕けた。
弾丸を放ったL、ヴェス、ふゆみはそれぞれ銃口に息をかけるのだった。
●終了
「くすす、見事です。えぇ、見事です」
砕けた南瓜、割れた栗を見ながら蛇は楽しそうに笑いながら喝采の拍手を贈る。
そして、自らの胸に手を当てると誘う様に笑った。
「さぁさぁ、貴方達の勝ちですので私は一撃を受けますわ。腕でも脚でも胸でも頭でも何処でも攻撃しても良いですわ」
「ゲームクリア者は此処にいる全員だから報酬はゲームクリアした者達一人一人に与えられるべきだろ?」
脇腹の毬を半ば力技で抜きながら、一輝は問い掛ける。
「ええ、当たり前ですわ。さあ、皆様私にディアボロを倒したような一撃を下さいませ、さぁ……さぁさぁさぁ」
だが、その態度は……胡散臭く誰もが手を出そうとしていなかった。
エルムとマキナと一輝が疑惑の瞳を向け、ふゆみは少し離れた所で蛇の動向を見張り、ヴェスとレイは自ら辞退し、レイは弁当を手にウーネミリアへと近づいていた。
ちなみにウーネミリアは毬栗が倒されて少し涙眼になっていた。だが、きっと直ぐにケロリとするだろう。
そして本当の所、一輝も一撃を与えたかったが蛇に翼が無かったので諦めた。
「殺してなんて余裕こいてるが、実は本心だったりするのかい?」
そんな中、Lが問い掛けると蛇はくすすと笑うだけだった。
(そうか、だったら……嫌がらせだ)
心で考え、Lはアンパンを取り出し……蛇の口へと無理矢理押し込んだ。
予想外の行動に驚きはしたが、蛇は呼吸する為に押し込まれたアンパンを口の中に入れた。
「こういうのも一撃で良いよね?」
L本人は前回馬鹿にしたアンパンの怨みとしたのだが、表情は黒く見えた。
一瞬蛇は表情を歪ませた様に見えたが、雅が持っている剣を見て悦の表情をする。
「その剣で私を刺しますのね、さぁ早く。早く」
両手を広げて待ち構え、自らの体に剣が突き刺さる事にときめかせる。
しかし雅の目的はそれではなかった。何故なら剣を振り上げ、蛇の視線を上へと向かわせた瞬間に……不意打ちのキスをした。
雅としては自分の信念を読み込んで貰うという目的があったらしい。
だが突然のキスに蛇の瞳は見開き、拒絶する為に腕を突き出し……片手に巻きついた蛇が落ちたが雅から離れる事が出来た。
「他の人には見せたくなかった怨念、恨み……少しは彼らの無念と恨みは晴らせたかな……」
そう呟きながら蛇を見ると、様子が変だった。
瞳に狂気は消え、変わりに恐怖が宿っていた。その急変に驚きながら雅は声をかけようとした。
「え……、おい……?」
「た、たすけ――」
震える蛇の口から声が洩れるが、言い終わる前に体を震わせ……再び狂気に走った瞳となり、巻き付けた蛇に口を拭われながら距離を取った。
その表情は物凄く裏切られたようで悔しげだった。
「駄目ですわ駄目ですわ。もっとこう、一思いに殺してくださらないと……こうやって、こうやって――!」
ゴキャッという音と共に蛇は自らの中指を逆側に曲げ、脱臼させた。更に別の指を捻じらせ不自然な音を立てさせた。
ひとおおり自らを甚振ると、蛇は艶かしく舌を唇に這わせ……彼らから背を向けた。
「ふう、興が冷めましたわ……。今回は貴方達の勝利でしたが、次は――くすす、それではごきげんよう」
そう言うと蛇はその場から離れて行った。
残された彼らはその場に立ち尽くすだけだった。