●夏を満喫★
視界一面に広がるのは陽に焼けた砂浜、クラゲが浮いてる青い海! ……もう少し時期が早かったら良かったのに。
だけど、海の家は欠かさず営業中。鉄板の前で汗水を垂らし仕事に勤しむ店員の姿が眩しい!
「よし、着替え完了! 行って来るにゃー♪」
逸早く砂浜に降り立ち、学生服から水着に着替えて猫耳を装着した猫野・宮子(
ja0024)が、取り付けた尻尾を揺らしながら颯爽と海へと駆け出していく。
帰る時に下着を忘れたと言う事態にならない事を祈ろう。
続きながら、水無月 湧輝(
ja0489)が砂浜に下りる。
「海岸まで来るのは久しぶりだな」
そう呟く彼の手には投げ釣り用の長めの釣竿が折りたたまれた状態で握られていた。
後ろでは、日光が照り過ぎて暑いのかLime Sis(
ja0916)がぐったりとしている。
それとも元々テンションがあまり高くない少女なのかも知れない。
「それにしても……またですか。生き物の面倒は、ちゃんと最後まで見なきゃダメですっ」
砂浜にパラソルを刺し、地面にレジャーシートを敷き、スポーツドリンクを入れたクーラーボックスを置きながら山岸 楓(
ja4520)はその場には居ない悪魔に文句を言う。
きっと今頃、くしゃみをしている頃だろう。
そんな楓の作った日陰を突っ切るように人型の影が上空を通り過ぎていく。
小天使の翼で舞い上がった北条 秀一(
ja4438)だ。どうやらスナイプスコープで地上に上がっていないか索敵しているようだ。
イカロスのように地上に真っ逆さまにならない事を願うばかりだ。
「日本の夏は、暑いですね……。でも氷いちごはおいしいです」
準備体操を終えた白いビキニ姿のエルム(
ja6475)はまず最初に浜茶屋に行き、カキ氷を注文しそれを食べていた。
周りは暑いが、冷たいカキ氷で体の中が冷たくなってくる。
浜茶屋の更衣室で着替えを終えたレイ(
ja6868)が意気揚々と出てくる。
夏だから赤褌だ。それに日射病対策の麦藁帽子! そんな格好をしていた。
細身の体だから何と言うかカッコイイよりも可愛らしいと言う表現が目立ってしまうのは何故だろう。
「さて、焼くか」
浜焼きが出来る浜茶屋ではレン・ラーグトス(
ja8199)が、蛤を買い金網の上にそれを置く。
熱せられた炭がパチっと音を立て熱を発している。
じっくりと焼く時間の開始だ。
「直射日光は嫌いだ……」
ウンザリとした呟きがパーカーに付いたフードから漏れる。
パーカーを着ているのは水着姿の山木 初尾(
ja8337)だ。日光が嫌いだけど、海を泳いで敵を呼び寄せようとしている宮子と敵を上空から発見しようとする秀一との連携の為に行動をしていた。
もちろん、濡れたくないから水上歩行を使っている。決して泳げないわけではない、疲れるのが面倒くさいだけなんだ。
「ふふん! ダイエットも成功したし、今のふゆみはムテキだよぉ☆」
新崎 ふゆみ(
ja8965)がそう言いながら、水着姿で光纏して胸を揺らす。
どうやら、目撃情報のウーネに対抗しているらしい。
とまあ、全員の紹介と状況を語った所で次行ってみましょうか。
●参上、鯛あしくん!
クラゲが浮いている浅瀬を一気に泳ぎ切り、足が付かない辺りまで泳いだ宮子は浮きながら思う。
「……脛毛とか網タイツとか履いてないと良いけど。ともかく囮頑張らないと」
小さくガッツポーズを取ると宮子は頑張って泳ぐ、泳ぐ……バシャバシャ張り切って泳ぐが何と言うか溺れている様に見えるのは気のせいだ。
そこから砂浜に近い海上では初尾がウンザリしながら蹲っているのが見える。
上空では秀一が海上スレスレを飛行しながら、ディアボロの気分を害するオーラを発しながら飛ぶ……あ、飛行時間が切れて海に落ちた。
水着ではなく制服だから、水を吸って重くなり簡単に溺れてしまう。と言うか助けて!
必死にバタバタと手足を動かしていると、宮子が心配したのか近づき、その背後から何かが水面に浮かび上がってくるのが見えた。
ピンク色の頭に、白と黒の巨大な瞳、パクパク口を開くユニークな表情。
一言で言うと、巨大な鯛だった。
徐々に近づいてくるそれに対して、あまりにもアレ過ぎたのか一気に2人は冷静に考察し始めた。
「うーん、やっぱり何か……ビジュアル的に嫌な相手だにゃ」
「なんだ、この生命体は。センスの欠片も感じられ……いや、正直気持ち悪い」
そう言いながら、近づいてくる鯛から逃げる為に2人は移動を開始した。
宮子は海上を移動し、初尾と合流し砂浜に向かうように逃げ、秀一はずぶ濡れの服の重みを感じながら、空を飛び始めた。
二手に分かれてはいるが進む進路は一緒だからか、上半分を出しながら鯛は3人を追いかけてきた。
砂浜の方では必死に逃げる3人の姿にまだ気づかないのか、それぞれ行動を行っていた。
「まぁ、かかれば儲けものだからな」
極細ワイヤーを糸の様にし、少し大きめの針にエビを括り付けた竿を湧輝は振り被り大きく振った。
撓みながら糸はリールを回転させながら海上を突き進み、ポチャンと落ちた。
その後ろでは静かにライムが待機しており、変化を待っていた。
浜茶屋ではカキ氷に頭をキーンとされたのかエルムが頭を押えており、近くでは熱によってようやく蛤が開きそこに醤油を垂らすレン。
砂浜では赤褌を揺らしながら腕を組み、3人が来るのを待ち構えているが……視線はふゆみの揺れるおっ――げふげふに注がれていた。
そして楓はシートの上に……居ない。少し視線を動かしてみると砂と同じ迷彩柄のシートを被り伏兵の様に隠れているのが見えた。
「けっこう、暑いです……早く出てきて、こっちに誘導されてくれないかな」
そう呟きながら、陽に焼けた砂の熱さに汗が垂れ、水着の隙間を汗が伝う。
何と言うか砂風呂に入っている気分だ。ぐったりしそうになって来た時、彼らの視界に海から訪れる者達が見えた。
フラフラしながら海上を移動する初尾、猫の様に俊敏に移動する宮子。
空を飛んで敵を誘おうとする秀一だ。ちなみに3人とも全力で逃走している。
そしてその後ろから巨大鮫さながら追いかけてくるモノがいる事に気づいた。
つぶらな瞳に、ピンクの肌が見えた。アレが……鯛だ。
「ちぃ、一々寄るな……! うおっ――って、ちくちくするっ!!」
秀一が叫んだ瞬間、翼の効果時間が終わりを向かえ……再び彼は海に落ちた。
それも浅瀬だったからか、クラゲが浮いており急に落ちた彼の皮膚を攻撃する。
そんな秀一へと鯛が近づいてくる、ピンチだっ!?
そう思った瞬間、秀一の体が浮き上がり砂浜へと一気に引き上げられた。
砂浜の方を見ると、湧輝がライムと共に竿を引いているのが見えた。
どうやら秀一の服に針を引っ掛ける事が出来て、そのまま引き上げたようだ。
濡れた服や顔に細かい砂が張り付きながら、秀一は陸に上がり頬の砂を拭う。
それと同時に宮子と初尾も海から砂浜に辿り着いた。それを追いかけるようにして鯛も上陸した。
「……人魚ならもう少し見れたものなんだがなぁ……」
湧輝の溜息が聞こえた。
「ごめん! ちょっとコレ見といてぇ!」
姿を現した敵にレンは急いで向かおうと立ち上がる。その際に蛤はいい感じに焼けて美味しそうだった。
恋人と別れる様な想いでレンは蛤を手放すと走り出した。
現れた鯛は真鯛特有のピンク色。くるんとまん丸つぶらな瞳。太い唇はパクパク開き、白くギザギザの歯が眩しい。頬の鰓はパタパタ動き、連動するように鰭もピチピチ動く。そして、地上歩行を可能とした足は……スラリと伸びて無駄に綺麗で、ルーズソックスを履いていた。
「えら呼吸……だよね? 肺で呼吸も出来るのか、それとも息を止めているのかな……」
上陸してくる天魔に気づき急いで砂浜に向かったエルムだったが、その姿に圧巻しながら疑問を呟く。
隣ではふゆみが面白そうに鯛を見る。
「わはー☆ おさかなに足が付いてる! 水陸両用って、やつだねっ☆」
「網タイツだったら、タタキにして山葵を添えてあげましたけど、ルーズソックスなので刺身にして塩を振りかけてあげますっ!」
砂の中から姿を現し、水着の上に羽織を羽織ると楓が鯛を指差す。
それと共に鯛を囲むようにして撃退士達は立つ。
戦いの始まりだ。
●叩け、鯛あしくん
「うーん、やっぱり何か……ヴィジュアル的に嫌な相手だにゃ」
見た目が最悪である事を呟きながら、宮子が太股に巻きつけたホルターから銃を取り出すと鯛の足元を撃つ。
「援護するよ……」
懐から手裏剣を取ると初尾は鯛に向けてそれを素早く投げつける。
それと共にふゆみが駆け出し、アジュールを伸ばすと鯛の体を拘束し始める。
「よーし、ふゆみがきゅきゅっとやっちゃうぞ☆」
見えないほど細いワイヤーに締め上げられた鯛の体は何か調理し始めているように見えた。
さらに包丁、じゃなかった剣が向けられる。
「せっかく上がってきたんだ。ゆっくりしていってもらおうか」
双剣を手に湧輝が駆け出し、綺麗な足を斬り付ける。
斬られた場所から血が吹き零れ、痛みに鯛が暴れ始める。
「天魔は、斬ります!」
大太刀を構え、エルムも足を狙うために駆け出す。
エルムの攻撃を牽制する為に、楓が横から銃を撃ち、攻撃を行う。
「うぇぇ……。なんか想像してたのと違う……でも、倒さなくちゃね!」
気味悪そうな表情をしていたが、気を取り直しながらエルムの攻撃に合わせる為に大太刀を構え走り出す。
瞬間、2つの大太刀は鯛の艶かしい足を斬り抜けた。
それにより、斬られた足から血が噴出した。
しかし反撃なのか、鯛はパクパクと口を動かすと共に鱗を逆立て、左右に向けて撃ち出した。
「危ないっ!」
撃ち出された鱗が周囲に放たれようとする中、上空から弓を構えていたレイがライムの前に飛び出し鱗を受けた。
鱗により、赤褌の結び目は切れハラリと地面に落ちる。
だがライムはジーッと見ながら、レイに礼を言った……洒落じゃないぞ!
「ディバインナイトはみんなの盾になるものさ!」
と格好良くポーズを決めながら言った……本人は気づいてないけど、全裸だけどね。
あと、ビキニ着た2人も紐が切れて大変な事になっているが、描写はしません。まさに外道!
「くっ、魚ってレベルじゃねぇぞ!」
らきすけの性から逃れられない秀一はその光景を見て、鼻血を垂れ流しながら大剣を手に鯛へと近づく。
近づかせない様に鯛はもう一度鱗を飛ばそうと――残念、鱗はもう無い!
そのまま、秀一の握った大剣は力強く片方の足を叩いた。
「えい……」
同時にライムも蹴りをもう片方の足に打ち込んだ。それはキックを誘う行動だったのだろう、そしてそれに乗った鯛は足に力を込めた。
それに対しライムは盾に持ち替えようとした、しかしそれよりも先にふゆみが前に飛び出した。
「ふゆみのキックは鋭いよぉ☆ 真空☆飛び膝蹴りぃぃぃ!」
そう言って飛び出すや、膝蹴りを鯛の眉間目掛けて打ち込んだ。同時にライムが物凄く残念そうな顔をしていた、どうやらこちらも挑戦したかったようだ。
その衝撃により倒れた鯛は再び起き上がり戦闘を再開しようと……起き上がって、起き上が……傷付いた足だけじゃ立てないや。
ごめん、ちょっと起こしてくれない? そんな意思を込めた円らな瞳で鯛は撃退士達を見つめる。
(このディアボロ……タフで超ウザイ)
そう思いながら初尾はその視線を流す。
「……滅びよ……」
「二枚卸からの……ひゃっはー……」
「焼き魚になるといいにゃ! まじかる♪ ふぁいやーにゃ♪」
口々にそう言いながら、全力で袋叩きをした。
鯛の塩焼き一丁上がり。お代はプライスレス。
テンション低めのライムのひゃっはーが木霊した。
鯛の黒焦げ、一丁上がり。
●食べれ、鯛あ――食べません。
「遠慮がないにゃあ、あんたら」
こんがり焼けた巨大な焼き魚を前に、背後から声がした。
振り返ると、おタマさんが……蛤を食べていた。
「あ、あたしの蛤……!」
レンが泣きそうな声で呟く。
そんな彼女を慰めるように湧輝がポンと肩を叩きながら、おタマさんを見る。
「……食った分の金は払って行け。あと、名前くらいは聞いておこうか。いつまでも名無しでは面倒だ」
「んー、そうだにゃあ……ちらっ」
そう言いながらおタマさんは浜焼きを見る。
「みなさん、せっかくだから浜茶屋に行きましょう。おタマさんも一緒に食べましょう」
「そうだね、せっかく来たんだし食べていかないと……って営業してるかな?」
「ええい、気分直しに飯を食う! レンちゃんそうする!」
「浜焼き! オイラも食べたい!」
半ばヤケクソ気味にレンは叫び、浜焼きが出来る浜茶屋へと歩いていった。
それを見ながら、おタマさんは猫の様に笑った。
「改めて言わせて貰うにゃ。あたしの名前はおタマ、見ての通りのヴァニタスにゃ。そしてあたしの主の名前はウーネミリア、あたしはミリアお嬢と呼んでるにゃ」
ぷりっぷりの海老を頬張りながら、おタマさんは彼らに言う。
それに対し、サザエをほじくりながらエルムが質問を行う。
「最近、その主人の調子はどうなんです?」
「んー、しいて言うなら何時もどおりといった感じにゃねー。」
ぺらぺらとおタマさんは話すが、どうやらよく見かける撃退士が居たから一応問答に答えているようだ。
その傍にはカツサンドと麦茶とエリュシオンZが2個ずつ置かれている。
レイが差し入れとして差し出したようだ。
そう言った話を聞く者数名、他数名は色んな事をしていた。
すぐ傍で、真剣に浜焼きを食べ続けるレン。
烏賊、海老、帆立様々な魚介類を食べていく。
「……はあ、麦茶が美味い」
日陰で涼みながら、初尾は冷たい麦茶が入ったペットボトルを口にするのだった。
岩場の方では湧輝が別に持って来ていた釣具を手に本格的に釣りを開始していた。
「水着もない事だし、海釣りでも楽しむとしよう」
海ではふゆみが浮かびながら残念そうな事を考えていた。
「もうすぐ夏休みも終わり……あ〜あ、もっとだーりんとらぶらぶデートしたかったぁ☆」
そう言いながら、彼氏を思うのだった。
そして砂浜では秀一が再び褐色の尻と対面していた。
要するにウーネが砂浜に頭から突っ込んでいる訳だ。
「あれー、まっくらー?」
(……これはどうするべきか)
秀一は考えるが、やっぱり尻尾を掴む事にした。
「ひゃうんっ★ ウーネの尻尾掴んだのだれー?」
するとこの前と同じ様にウーネがぴょこんと姿を現した。
振り返り、ウーネの視線は秀一に向けられた……が、首が傾げられた。
「あれー、何処かであった様な気がする?」
「この前は世話になったな。北条秀一だ」
「しゅーち? あ、おタマさんだー★」
変な名前で覚えられたまま、ウーネは飛び出しそのまま戻ってくる事は無かった。
こうして、海は平和になったとさ。めでたし×2