●更衣室
2つの更衣室からはウキーウキーと言う猿の鳴き声が鳴り響いていた。
その入口を前にして、25人の戦士達は大型網や用意した道具を手に持ち息を呑む。
「ほな、行くで……」
「行きます」
亀山 淳紅(
ja2261)とマキナ・ベルヴェルク(
ja0067)の2人が扉に手を伸ばす。
直後、一気に横に引くと共に25人の大人数は一斉に更衣室へと突入し、このまま更衣室に残る者、湯気が充満する大浴場に突入する者、一気に露天風呂まで飛び出す者と別れていった。
そして、男性更衣室には淳紅が1匹の猿と対峙し、女性更衣室ではマキナ、猫野・宮子(
ja0024)、暮居 凪(
ja0503)の3人が3匹の猿と対峙した。
更衣室での戦い(?)を開始するゴングが鳴るかのごとく、扉が閉じられた。
「温泉に入る猿っちゅーたら風流やけど……下着奪うんは、風流ちゃうよなぁ、多分」
客の半纏を羽織った小猿が収納棚の上から淳紅に威嚇を行い、それを見ながら彼は溜息を吐く。
しかし彼には秘策があった。その秘策とは……。
「ウキャ? ウッキャー!」
猿の大好物バナナと籠を組み合わせて作った罠だった。
バナナを見た小猿は嬉しいのか、嬉しそうに鳴いていた。
それを見ながら淳紅は罠の設置を開始しようとした……が、小猿の動きが早かったのか気が付くと持っていたバナナが無かった。
小猿を見ると、バナナの皮を剥いて美味しそうに両手を使って食べていた。
「……流石に安直やったかな」
触りたい誘惑に駆られながら、淳紅は頭を掻くと小猿と向き合い……足に力を込め、籠を手に小猿目掛けて駆け出した。
それに気付いた小猿が半分ほど食べ終えたバナナを投げ捨てると、急いでその場を離れて鏡台へと駆け出した。
「待たんかコラーー!」
ブラシやドライヤーを落としながら小猿が逃げていく中で淳紅は物を壊さないように注意し、徐々に小猿を追い詰めた。
そして、隅へと追い込むと……捕まえる為に小猿へとダイブした。
「キー、キャー!」
「ええい、きーきー言いなや! このバナナ食べてええから大人しくしときっ」
手の中で暴れる小猿へと淳紅はバナナを渡すと、大人しくなり軟らかい小猿の体を堪能しながら猿の留置所へと持っていくのだった。
男性側から騒がしい声が聞こえる中、女3人組は3匹の猿を捕まえる為に更衣室内を走り回っていた。
「置いてある物に興味を持って、持っていくなら分るけれど……人の着ている服まで奪う?」
目の前のブラジャーをつけた猿を見ながら凪は呟く。似合ってると一瞬思ってしまったがそれはないだろう。
そんな彼女を小馬鹿にするように猿は鳴いた。
「まあでも、ここなら見る人もいない……存分に相手をしてあげるわ!」
立て掛けた複数本の網から数本取り出すと、凪は猿を追いかける為に走り出した。
「待てーっ!」
男性が居ないからか、猿に脱がされる事を警戒してか宮子は下着姿で壁を走り回っていた。
ちなみに宮子にお似合いといった純白の下着に、トレードマークの猫さんがバックプリントでパンツに描かれていた。
(「温泉でゆっくりする為に悪戯猿を捕まえないとね」)
小さく呟きながら、宮子は猿目掛けて網を振るった。
しかし、猿も一枚上手なのかピョンとジャンプし、網から逃れていった。
しかも最悪な事に、宮子の体を棒か何かと勘違いした猿が彼女の背中へと乗ってしまったのだった。
そして、猿と宮子の視線が交差し……人であることに気付いた猿が、宮子のブラジャーを奪い取った。
「きゃぁ!? 下着脱がすのはダメだよ!?」
顔を真っ赤にして宮子は枷が無くなって、揺れる小さなプリンを両手で隠した。
宮子のブラジャーを獲得した猿は勝ち誇ったようにそれを頭に被り、立っていた。
「…………、面倒というか、いっそ力づくで……」
それを見ながら、マキナは内心猿に対してイラッと感じながらも近くにあったタオルを宮子へと投げつけた。
お礼を言いながら宮子は投げられたタオルを掴み、急いで胸を隠すために結んだ。
「ウキー! ウキー!」
「言って判るか解りませんが、大人しく捕まっては貰えませんか?」
「ウキャー!」
マキナがやんわりと捕まってくれるように働きかけるが、頭と胸のそれぞれにブラジャーを付けた猿達は「うるせぇこの野郎!」と言うかのごとく、叫んだ。
その間にも、もう1匹の猿を捕まえようと凪と宮子が必死に網を持って捕まえようと試みる。
ちなみに凪が少し落ち込んでいるように見えるのは……きっと気のせいだろう。
そんな時、宮子の接近に驚いた猿は反対側に逃げようとしていたようだが気付けば、凪の持つ網に捕まっていた。
仲間が捕まった事に気付いた猿が、助けようと2匹共に凪目掛けて飛びかかろうとしていた。
だが背後から発せられたマキナの言い表せない威圧に動けなくなり……気付けば、彼女の手によってタオルで縛り上げれていた。
捕まった猿を見て一安心すると、彼女達は3匹を留置所に連れて行くために更衣室を出るのだった。
●大浴場
湯気が溢れる大浴場の男湯に『SS班』の4人は立っていた。
周囲を見渡すと気持ち良さそうに湯船に浸かる猿、奪った衣類の山に座る猿、シャンプーリンスを何度も押し続けている猿、水風呂で石鹸を洗っている猿が居た。
湯気で曇ったレンズを拭き、柊 夜鈴(
ja1014)はそれを見ながら呟く。
「猿でも何でも衣服盗むのは駄目でしょ……」
「変態猿め」
近くに落ちていた風呂桶の中に着替えを入れて隅に隠しながら宇田川 千鶴(
ja1613)は笑顔で呟く。
その隣では星杜 焔(
ja5378)も笑顔で立っていた。
……が、2人の笑顔はまったく目が笑ってはいなかった。
そんな雰囲気を壊そうとしているのか、決意表明をしようとしているのか紫ノ宮莉音(
ja6473)が小さくガッツポーズをする。
幼い顔立ちの莉音だが、上半身が裸となっているが水泳をしていた事もあってか意外と筋肉質だったりした。
「がんばって捕まえて、みんなで温泉入ろーね」
「ええ、そうや……な!」
千鶴が上品な言葉で莉音への返事をし終えると共に、全力で隠し持っていた苦無をシャンプーを押す猿へと投げた。
気配を察したのかは判らないが、命中する寸前に猿は後ろへと飛んだ。
直後、先程まで立っていた猿の足元には苦無が突き刺さった……命中したら致命傷といえる威力だった。
「ウ、ウキー! ウキャー!」
自身の危険に気付いたのか、猿は大きく叫んだ。
その叫びに残りの3匹の猿が一斉にSS班へと敵意を向けた。
それと同時に、SS班も猿へと意識を向けた。
「良いの着てるね、剥がれた人の気持ちを判らせてあげるよ」
ドSの笑みを浮かべながら焔が衣類の山で着回しをする猿へと飛び出した。
素早すぎるその動きに、避けようと跳んだ猿は捕まってしまい……着ている服を剥ぎ取られ始めた。
「ウ、ウキー……!」
「シャンプーが床に落ちて滑りやすくな――や、やめや!」
滑りそうになる千鶴へとチャンスとばかりに猿が跳び付き、バスタオルを剥ぎ取ると跳ねるようにして千鶴から離れた。
剥ぎ取られたバスタオルの下からは千鶴のチューブトップと短パンという超ラフな格好が露わとなると共に、蹴られた反動で床に尻餅を着いた。
だが、離れた猿のゴール地点には夜鈴が立っており、呆気無くお縄についた。
「よーし、僕も頑張って捕まえよー」
2匹捕まえてやる気を出したのか莉音は水風呂へと向かう。
途中、湯に千鶴が飛び込んでいたが、シャンプーを落とす為ともう1匹の猿を捕まえる為だろう。
「ウキー!?」
近づいてくる莉音に気付いたのか、猿が洗っていた石鹸を投げつけた。
しかし、それに気付いた莉音もジャンプして石鹸を飛び越え、猿へと近づく。
「捕まえー……って、滑る滑るー!?」
石鹸を洗っていた水風呂の水が石鹸水となっていたからか、床が滑りやすくなっており着地と共に莉音は水風呂へと滑っていく。
その時、逃げようとする猿を抱き抱える事には成功をした……が、直後水飛沫を上げて莉音と猿は水風呂へと落ちた。
「つ、つつ、冷たー! けど、捕まえたー」
震える体で莉音が両手で抱えた猿を持ちながら、水風呂を出た。
温かい大浴場の中では、温泉に入れて少し満足しているのか苛つきが緩和された千鶴が猿を捕まえていた。
「こっちこないでなのー」
可愛らしいうさぎさんぱんつと白いシミーズ姿の若菜 白兎(
ja2109)が追いかけて来る2匹の猿から逃げるために、自らの周囲に眩しい光を放つ。
眩しさに目を覆う猿から逃げると、白兎はシャワーの前へと陣取ると冷水と熱湯に調整した2本を掴んだ。
サウナ室の扉を開けると、熱い熱気が室内から排出され鬼燈 しきみ(
ja3040)の顔に汗が伝う。
「うぇーい、やんちゃさんは居ないー?」
若干猫背気味の背中を前に動かしながら、しきみは自身の気配を薄め足音を消してサウナ内へと入って行った。
木で出来た扉が閉まると、密閉された室内は一気に熱を生み出しバスタオルを巻いて出来たしきみの谷間へと汗は垂れていく。
閉じ込められていたら危ない。そう思って入ってみたが……その考えは当たっていたのか、サウナの中には猿が1匹ぐったりと倒れていた。
「うわぁー、これは大変だー」
暑さに参っているのか、しきみが近づいても猿はまったく動こうとせず、しきみは猿を抱き抱えるとサウナを飛び出し……抱き抱えた猿を近くにあったシャワーを掛け始めるのだった。
それを見ながら、天風 静流(
ja0373)は捕獲用網を短く持ち、向かおうとする猿に振る。
さながら闘牛士といった風だ。
(「これでサルを捕まえろ……か、昔そんなゲームがあったような無かったような」)
自分を脱がそうと飛び跳ねる猿を見ながら、静流は猿の頭にサイレンつきヘルメットを被せたい衝動に駆られたが止めておいた。
しかし、何度やっても回避される静流に興味を無くしたのか、飛び掛っていた猿は別の相手を標的に狙いを定めた。
「て、天魔に比べたら、こんな奴ら……い、いや、来ないでー!」
胸元を隠しながら白レースがふんだんに使用された下着を着たアストリア・ウェデマイヤー(
ja8324)が猿に狙われていた。
片手で網を振り回しているが、恥ずかしさからか動きが遅く……猿は簡単に間合いへと近づき、1匹の猿が押し倒すと共にブラジャーを剥ぎ、もう1匹の猿が転んだアストリアからパンツを強奪した。
「〜〜〜〜っ!!」
声にならない叫びと共に青色の瞳が涙に濡れ、飛び出すようにアストリアは大浴場の湯船へと飛び込んだ。
それを見て、プンプンと怒りながら鳳 優希(
ja3762)が猿に向けて叫ぶ。
「とりゃああああ、お猿さん! そこになおれえええええいなのー☆」
巻いたバスタオルの隙間から、リボンが付いた青色の可愛らしい下着が見える中、優希は網を構える。
しかし、その命令を聞かないのか猿は奪った下着を被ったり、メガネにしたりと大忙しだった。
ならば実力行使。そう言う結論に辿り着いたのか、優希は動いた。
「とりゃー、なのー」
「ウ、ウキー!」
熱湯に驚いた猿に白兎は何処からか取り出した網を使って、四つん這いになり網から出られないようにして捕獲をした。
しかし、動いたらすぐに逃げられそうな状況になってしまい、それをもう1匹の猿に気付かれたのか……。
「ウッキャー!」
「ひゃぅぅ、脱がしちゃだめなのー」
四つん這いの白兎からぱんつを剥ぎ取ろうと猿が行動し、困った声で白兎は言う。
「おいたはいけないな」
「ウキ? ウキー」
後ろから抱き抱えられるようにして、猿が静流に捕まり……観念したのか、力を抜いた。
そんな静流を狙おうとブラメガネをつけた猿が近づこうと……メガネで前が見えない!
「ウキー!」
「こ、これはチャンスです。て、てりゃー!」
フラフラする猿へとアストリアは湯船から網を伸ばし、ブラメガネ猿を捕獲した。
「あ、バスタオルがー! えぇい、こうなったら死なばもろともなのー、希アターック☆」
猿にバスタオルを剥ぎ取られ、下着と肩の痣が周囲に晒されると共に優希は剥ぎ取った猿と共に湯の中へと飛び込んだ。
激しい音を立て、優希と猿は湯の中へと落ち、暴れる猿を優希はバスタオルを使って拘束した。
「確保完了なのー☆」
「ウキー」
捕まえた猿を両手で掲げる優希へと最後の1匹が飛びつこうと跳躍する。
が、何時の間にか優希の前には、簡素な下着姿でぐるぐる巻きにした猿を抱えたしきみが網を構え立っていた。
「うぇーい、いらっしゃーい」
「ウ、ウキャー!?」
こうして、最後の1匹が捕獲され、拘束された6匹の猿の鳴き声が女湯に響いた。
そんな中、大谷 知夏(
ja0041)は携帯を片手に構えて小柄な体を活かし服の山の中に隠れていた。
「シャッターチャンスッす! お色気シーンを頂くッすよ!」
レンズ部にはくもり止めを塗り、ピンボケの心配は無し。
そんな想いと共に彼女は連続してシャッターを切ると、ちゃんと取れているかを改めて確認し始める。
湯に濡れて肌に下着がぴったりと張り付いた優希としきみの写真。
猿にぱんつを脱がされそうになっているのがベストショットで収められた白兎の写真。
同じく猿に脱がされそう……というか、脱がされているアストリアの写真。
白いシャツが湯気によって透けて体のラインが浮き出てエロスを醸し出す静流の写真。
そんな写真を撮り終え、満足そうに知夏はこの場を離れようとする。
(「後日、モザイク入りで学園で販売して金儲けっすよー♪」)
そんな事を考えながらこっそり移動するが……知夏を囲むように5人は立っていた。
大声で独り言を言っていればばれない訳も無かった。
●閑話休題
「まったく、楽しみに来てみれば猿が占拠って……」
宿の一室で佐藤 としお(
ja2489)は腕を組みながら座る。
部屋の中には、これまでに確保した15匹の猿が縛られ、キーキーと鳴いていた。
「ふ、そんなに鳴いたって縄を解く事なんてしないからな! しないからな!」
大事な事なので二度言いました。しかし、15匹のつぶらな瞳は何というか昔流行ったCMのシーンのようにとしおを見つめる。
「そ、そんな顔をしたって無理だからな、決して1匹残らず仲良くなって部屋で一緒に遊びたいなんて思ってもいな……」
そう言いながら、としおは猿を見る……頭の中で、楽しくゴロゴロと部屋を転がったり、一緒の布団に寝てチョコタバコを咥えて腕枕をしたり、温泉に一緒に入る楽しいイメージが駆け巡る。
そして気が付くと……としおは1匹の猿へと手を伸ばしていた。
……当然噛まれた。が、片手を使い猿の頭を撫でた。
「大丈夫、怖くないよ。僕達は友達だ……」
優しく微笑み、猿と瞳が交わる。
数分後、としおの甘い叫び声が一室に木霊した……。
●露天風呂
「ほらァ、ほらァ、ほらァ♪ しっかり逃げないと生皮を剥がしてキログラム3円とかで肉屋の店先に吊るすわよォ♪」
狂気の笑みを浮かべながら、黒い下着姿の黒百合(
ja0422)が温泉の上を走り回り、逃げる猿を追いかける。
湯船にバスタオルが落ちている所を見ると下着の上に巻いていたのだろうが、猿を追いかけるのに夢中で取れていたようだ。
また薔薇湯の前では戦部小次郎(
ja0860)が腰を前に突き出し、自ら下着を狙わせるように猿達に仕向けていた。
その誘いに乗るように2匹の猿が小次郎へと近づき、下着を奪おうと手を伸ばし……ずり下ろした。
とりあえず、光が仕事しているので局部はまったくは見えないが、小次郎は律儀にずり下ろされた下着を取りやすく足を動かす。
「ま、取って行っても、取り返しますけどね」
そう言って、下着をゲットして喜ぶ猿の頭を殴りつけると小次郎は下着を取り返した。
牛乳湯の前ではバスタオルを巻いた雀原 麦子(
ja1553)がデッキブラシを槍の如く豪快に振り回しながら猿達を見る。
「さあ、じゃんじゃか捕まえるわよ♪」
その言葉に誘われるかのように猿が着ている物を奪おうと走り寄ってくると、麦子の振るうデッキブラシが猿を叩き……そのまま、立てかけた大型網に投げ込まれた。
そして、2匹目を網に投げ込むとバスタオルの結びが緩んだのか、はらりとバスタオルは湯に落ちて大人の色気漂う黒レースの下着が露わとなった。
「あ、あら……これは、恥ずかしいわね」
顔を赤らめ、麦子は照れるのだった。
その時、ピンクと揺れる肌色が麦子の視界を通り過ぎた。
いや、実際には……ピンクのきわどい下着を着用したアーレイ・バーグ(
ja0276)が何も持たずに走り回っていたのだ。
「アーレイちゃん、武器はいらないの?」
「武器? いりませんよ。ちゃんと自前がありますから」
そう言ってアーレイはブラジャーを奪い取ろうと飛び掛った猿を抱きしめると、胸の谷間に押し付けた。
抱き締められた猿はジタバタとしていたが、窒息したのかぐったりと倒れた。
「知りませんでした? 胸って兵器なんですよ?」
倒れた猿を抱き抱えながら、アーレイは微笑んだ。
しかし、1匹1匹しか相手が出来ないという欠点もあってか、アーレイの着用するきわどい下着は簡単に猿に奪われ、大きな桃が2つ周囲に曝け出された。
それを見ないように小次郎は顔を背け、麦子はどうするべきかと瞬時に考える。
「これしきの事で狼狽えんな! 別に見られても減るモンじゃねぇし、付いてるモンは皆同じだ……!」
そんな時、2人に対して小田切ルビィ(
ja0841)が腕を組み叫ぶ。
振り向いた瞬間、彼らは見た。聳え立つバベルの塔を!
後ろから見たら引き締まった尻が見えたことだろう。
そしてルビィの持つ網には漢印のパンツをしゃぶる猿が捕獲されていた。
……要するに全裸である。生まれたままの姿である。
直後、麦子の叫びと共に掴んでいたデッキブラシが股間へと突き刺さった。
こうして、バベルの塔は神の怒りに触れ……倒壊した。
「じゃぁ……逝きましょうかァ……うふふふふゥ♪」
麻縄で3匹の猿を亀甲縛りで運び出す黒百合がルビィの前を通り過ぎていき……鼻で笑った。
ちなみに当のルビィは立ったまま気絶しているのか、動かなかった。
バスタオル姿の鬼無里 鴉鳥(
ja7179)が衣類の山へと近づく。
歩く度にバスタオルから見える白い肌が汚れ一つ無く美しかった。
「この状況でも脱がぬとならぬとは……むぅ、難儀よのう……む?」
軽く愚痴を言いながら、鴉鳥は近づく足をふと止める。
視線は衣類の山に向けられ、いや……中の光る瞳に向けられていた。
「ウキ!」
鳴き声も聞こえるのでどう見ても猿が居る……このまま近づいたら脱がされていた事だろう。
鴉鳥は静かに刀に手をかけ、気迫を放った。
「畜生よ、私は皆ほど寛容ではなくてな、不埒をしよう物なら迷わず切り捨てるからぞ」
脅しが効いたのか、猿が山から飛び出すと逃げるように離れていった。
衣類を回収する為に鴉鳥は屈む……白いおし、肌が見えた。
「……本来ならばコレも邪道だが……混浴なのでな。この程度の配慮は仕方もあるまい」
そう呟いた彼女の頬は少し赤く染まっているように見えた。
「……躾が必要ですかね」
白シャツとズボンを捲くりながら夜来野 遥久(
ja6843)は隣に立っている権現堂 幸桜(
ja3264)に問い掛ける。
ちなみに視線は籐篭を持つ加倉 一臣(
ja5823)へと向けられていた。
「猿の事だよな、猿の事でいいんだよな?!」
自分に向けられている事に気付いたのか、一臣は遥久に問い詰める。
ワンピースのスカートを捲くり、太股辺りで縛った幸桜はどう言えばいいのか判らずに苦笑した。
と、そんな時……女性側からチーム【臣猿】の紅一点カタリナ(
ja5119)がバスタオルを巻いた姿で現れた。
「リ、リリ、リナ!?」
驚く幸桜に自分の服装が相談の際の打ち合わせのものと違っていたことに気付いたのか、カタリナは顔を真っ赤にする。
「あ、あれ……? え、えぇと……い、いいんです! 濡れても困るので……!」
最終的に着替える時間もないと判断したのか、カタリナは恥ずかしさを堪えて立っていた。
そんな彼女をマジマジと一臣は眺め……サムズアップする。
「カッティ、狼……じゃなかった、猿には気をつけろよ?」
こうして、彼ら4人の猿捕獲は始まった。
「リナ、そこに隠れてる! 夜来野さん、そこです!」
「あ、下着持ってますよ! 待ちなさい!」
「貴様ら、温泉ではマナーを守れ!」
猿の位置を特定する幸桜の指示で、カタリナ達は動き的確に猿を捕らえていく。
途中、物陰に潜んで時機を見ていた一臣が飛び出して猿を捕らえようとしたが、遥久のタオルが顔に命中する。
「ぶわっ!? おい、俺! 俺だから!」
「すまん、間違えた」
「あ、ごめんなさい。猿と間違えました」
猿を両手で抱えた一臣が打ち付けた顔を赤くして、2人に文句を言う。
が、すぐに2人は猿の捕獲を続けるべく、走り出していた。
「ウキィー……」
「そうか、慰めてくれるか……」
彼を慰めるように……猿は甘く鳴いた。
それから4人は捕まえた3匹を縛り上げると、残り3匹を捕獲する為に更なる行動を開始した。
幸桜の的確な猿の探査で見つけた猿を遥久の洗面器アタック、一臣の籐篭トラップで次々と捕らえて行き、最後の1匹となっていた。
しかし、最後の1匹とあってか動きが素早く、一臣は危機に陥っていた。
「――って、何で俺だけっ!?」
「すまない、少し猿を留置所に届けた所だ」
「僕は位置を探るのが役割だと思いますし」
と、あっさり一臣を見捨てる台詞が2人の口から漏れ、一臣は涙した。
その時、猿が一臣のTシャツを奪おうと近づいたが、後ろへと跳んで回避した。
「おわっ!? す、すべ――っ!」
着地した瞬間、床に足が滑ってしまい転倒しそうになっていた。
しかし後頭部を強打するのは避けたいと本能が動いたのか、両手を泳がせて掴めそうな物を探そうとする。
右手が何か柔らかい物を捕らえた……しかし、簡単に落ちた。
それでも左手は何かを掴まないと! そう思ったのか、その近くの温かく柔らかいナニカに触れると急いでソレに触れた。
え、ちょ――か、かずお――それはダッ!
だが、触れたソレは何かずり落ちにくかったが、最終的に落ちてしまい……一臣は頭を強打した。
「あいったたた……一体何が……あ”」
痛む頭を押さえながら目を上に向けると、カタリナが固まっていた。
しかも、青レースのパンツが誰かの手によって脱がされそうになり、伸びきっていた。
その手の持ち主は……一臣だった。
「き、きゃああああ!?」
そして止まっていた時が動き出したのか、瞬間。カタリナが叫びその場で体を隠すようにしてしゃがみ込んだ。
叫び声で正気に戻ったのか、一臣も急いでパンツを掴んだ手を離し、体を起こすと両手を前に振った。
「待った、今のはラッキー……あ、いや、不幸な事故で……!」
だが言い終わる前に背後から恐ろしい気配が一臣に向けられた。
「加倉さん……リナの、リナの下着を、全てを見ていいのは……」
幸桜が黒いオーラを纏わせながら近づき、落ちたバスタオルをカタリナに被せると……一臣を網の柄で空へと突き上げた。
「僕だけですッ!!」
「加倉、反省だけなら猿でも出来るぞ」
助けを求める瞳を向けながら、一臣は怒り狂った幸桜と無言の遥久によって袋叩きにされた。
袋叩きにされる一臣に自分を照らし合わせたのか、猿は怯えながら……一番害が無さそうなカタリナへと逃げるのだった。
●終了記念は牛乳で
夜空の星が綺麗に見える露天風呂に温泉を奪還した有志達はのんびりと寛いでいた。
いや、露天風呂以外にも室内の大浴場でものんびりとしている者も居るだろう。
「一度おちょこで飲むというのをやってみたかったのですよー」
濁り湯に浸かりながら、アーレイが銚子とお猪口をのせた盆を湯に浮かべて楽しむ。
勿論中身は未成年なので、スポーツドリンクだ。
そして、湯に浸かりきらずに見える上乳は物凄いボリュームを周囲に与えてはいるが、水着を着ているのかは判らなかった。
隣にはアストリアが泣きそうな瞳で湯に顔まで埋めているが、どうしてだろう?
(「うぅ、まさか混浴だなんて……」)
その隣では、気持ち良さそうに宮子が縁の石に両腕を乗せて寝るような体勢でゆったりしている。
「んー、温泉はやっぱり気持ちいいね。……あ、あれ?」
が、何処か気付いたのだろう。他の女性達が水着を着用しているのに。
浮上したお尻を湯に沈めながら、宮子は顔を赤くした。
それに気づいたアーレイは顔を赤くする宮子に言う。
「え? 日本の漫画では混浴風呂は裸で入るものですよ?」
「ここは……漫画じゃないよぉ」
泣きそうに呟くと、水泡を点てながら宮子は湯の中に沈んでいった。
少し離れた寝転び湯ではしきみが全身をだらけきっていた。
春の夜風が寒いが、寝転んだ背には湯の温かみがあり、何とも言えなかった。
「うにー、ごくらくごくらくだねー」
こういう脱力系女子が脱力して寝転ぶ姿は何処かエロスを感じると思う。
「莉音君、かゆい所あるー?」
壷湯の方では、SS班の4人が楽しそうに湯に浸かっていた。
温かくなった体を冷やさない内に、夜鈴は莉音の背中を洗い始め問い掛ける。
「あー、じゃー……少し右のところがかゆいかなー。……僕、お兄ちゃんがいないから、何かはずかしーなー……」
他人に背中を流してもらうのがこそばゆいのか、恥ずかしいのか、それとも嬉しいのか莉音の照れ臭そうに笑っていた。
それを見ながら焔はドSではない、優しい笑顔で見つめながら……猿の頭を撫でた。
隣の壷では千鶴が念願の温泉に入れたのが嬉しかったのか、今にも蕩けそうなほどに気持ち良さそうにしていた。
もちろん、タオルは畳んで頭の上に置いている。
薔薇湯では、としおが猿達と共に浸かっていた。
「っかぁ〜、いい湯だな〜!」
「ウキー」
「ウッキィ……」
「ああ、そうだなー」
まるで言葉が通じているかのごとく、としおと猿達は話を行う。
……ところで、若干猿達ととしおが互いに見る目が色々とアブノーマルな感じに見えるのは気のせいだと思いたい。
「おー、佐藤さん。猿達と仲良うなったんやなっ! 小猿も元気そうやなー」
「ウキィ!」
そんな中、淳紅が笑顔で近づき自分が捕獲した小猿を見つけ、頭を撫でてご一緒するように湯の中に入った。
ワイン樽湯ではマキナが一人静かに入っていた。
滑らかで透明な肌触りの湯を触りながら、樽に長年染み込んだ芳醇な葡萄の香りが鼻腔をくすぐり、疲れた体を癒していく。
リラックスしているのか、自然と口から甘い溜息が漏れながらマキナの体は湯の中に沈む。
そんな中、静かに彼女は自身の右腕を空にかざし、金色の双眸で見つめる。
精巧な作りで偽物とは疑われないであろう、失って得た自身の右腕。
コレが今の少女の、マキナ・ベルヴェルクの右腕だ。
伸ばした指先を伝い、水滴が彼女の顔に当たり……再び腕を湯の中へと戻した。
そして、沈むようにマキナは樽の中に体を沈めた。
男湯大浴場では、一臣が遥久と共に入っていた。
「うぅ、大変な目にあったぜ……」
「自業自得だ」
しかし、それ相応の代償はあったと心の中で思いながら、一臣は肩を揉み始める。
「どうした?」
「いや、最近バイトですげぇ肩が凝ってよ……」
肩を揉みながら、腕を回すと少しポキポキと音が鳴った。
「仕方ない加倉、俺が揉んでやろう」
「マジ? サンキュー、んじゃ頼――ギャー!」
林檎を押し潰す勢いで肩を揉まれた。
一臣は肩が砕けるのではないか、そう思うほどに激痛が走った。
「やかましい!」
遠慮無く揉んだ=全力で揉んだ。それに気付いていないのか遥久は肩を揉む片手を放し、一臣の頭を殴りつけると静かになったので、気にせず揉み続けた。
「え、えぇと……」
「い、いい湯だね……」
「そ、そうですね……」
顔を赤くして体を寄せ合いながら、2人は互いの顔を見れずに在り来たりな言葉を言う。
どうやら、先ほど叫んだ言葉が互いの頭の中を駆け巡っているようだ。
その時、男湯から蛙が潰されたような叫び声が聞こえた。
「ま、まだ……猿が残っているみたいだね」
「そ……そうですね」
苦笑しながら、カタリナは幸桜を見た……が、すぐに顔を赤くして顔を背けるのだった。
そんなラブラブのオーラに近寄れず、麦子は牛乳湯でのんびりとしていた。
「はー、これでビールがあったら最高なのよねぇー……」
「牛乳湯って、なんだかおいしそうな響き……」
「飲んじゃ駄目よー」
今にも飲みそうな勢いの白兎にそう言いながら、麦子は手で掬った湯で軽く顔を洗った。
「ぇ、飲んじゃダメ? じゃあ……上がったらきゅーっと冷えたフルーツ牛乳、リクエストするの」
「その方がいいわよー、私は勿論ビールだけどねー」
白兎がフルーツ牛乳の味に期待しながら、麦子は冷えたビールを風呂上りに飲む事を夢見るのだった。
体がポカポカ温まり、用意された旅館の浴衣に着替え更衣室から出ると、彼らへと旅館の女将からお礼として飲み物が提供された。
「くー! この一杯の為に生きてるぜ!」
妙に清々しい表情でルビィは牛乳を一気飲みする。
勿論腰は手に当ててある。
白兎と麦子も宣言通りの物を飲みご満悦のようだ。
「湯上りの牛乳は嬉しいのですよー☆」
そう言いながら、優希は白い髭を作り笑顔となる。
数名ほどは落ち込んでいるがきっと脱がされたダメージが大きいのだろう。
「プハァー最高ー!」
そんな中、としおは牛乳を飲む猿達の中心で湯上りの牛乳を飲んだ。
どうやら友情が生まれたのだろう。
……だけど、春季合宿はまだ始まったばかり。
明日もいい事があればいいだろう。
そんな思いの中、温泉の時間は過ぎるのだった。