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マスター:嶋本圭太郎
シナリオ形態:シリーズ
難易度:難しい
参加人数:10人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2013/05/29


みんなの思い出



オープニング


 空は雑に塗り潰したような厚い曇天。時折地面が小刻みに揺れ、遠くからは歪な咆哮が聞こえてくる。
 悪魔は腕を組み直し、眼下に並ぶ面々に強い視線を送った。傍らには、仏頂面でぷかぷかと浮かぶ小柄な金髪の悪魔の姿がある。
「既に耳に入っていると思うが、先だって、東側に配置されていたディアボロが破壊された。呼称はなんだったか?」
 ドクサは頬に空気を溜めたまま、明後日を向いて小さく答える。
「……ドクサスペシャル」
「あの半球型のディアボロの能力は――」
「なんで名前言わせたんだよ!? 言わせたんだから使えよ!!」
 ぎゃんぎゃんと飛んでくる抗議を一瞥し、悪魔は言葉を続ける。
「――改めて言うまでもないことだが、この地を原住民共の意識から逸らす、という代物だ。
 破壊されたのは1つだけ。数ある中の1つだけだが、原住民共には確実に影響が出ている。
 だが所詮は脆弱な原住民、ほんの僅かだ。破壊された直後に襲撃を受けなかったことが裏付けとなる。そして、あの半球を新たに用意するには百年単位の時間が必要となってしまう」
 悪魔が再びドクサを見遣る。すっかり背を向けてしまった彼女の横、二の腕では落ち着きなく指が暴れていた。
「以上を踏まえ、命を下す。
 方々の、残りの半球を守れ。
 これは何よりも優先される事項だ」
「繊細な子たちばっかりなんだから、しっかり護れよな!!」
「……と、いうことだ。手段は問わん、なんとしても守れ。寄る原住民や撃退士共は皆殺しで構わん」
 死力を尽くせ。
 釘を刺してから悪魔は翼を広げ、くすんだ曇と荒れた地の間を飛び去った。




(死力を尽くせ、か)
 やり取りを思い出して、レガ(jz0135)は不敵に笑う。
 半球型を護りきり、人間がまたこの地を忘れれば──彼にとっての「退屈な日々」は、また続く。
(それでは、面白くない)
 上位のものへの忠誠がないわけではない。だが、彼が求めるものは安寧ではないのだ。
「礼儀は尽くそう。その先は──彼ら次第だな」
 道の先、撃退士の一団を見据えて。



「! 後ろから──」
「すげー、トカゲが歩いてる!」「あれが、でぃあぼろ?」
 退路を塞ぐようにして現れたディアボロの群れ。ナイトリザードの威容を見て、ナオは歓声を上げ、ユウも目を輝かせていた。
 パニックを起こされるよりは余程いいとはいえ、自分たちのおかれた状況が果たして理解できているのだろうか。

 レガは黒雲の先まで続く幅十メートルほどの橋の先に立っている。川の中州から飛び上がり、悪魔の五メートル手前に降り立ったのは、丸い水晶のような物体をくわえた巨大な狛犬だ。
「そいつはなかなかの自信作でね。もっとも、口が塞がってるうちは大したことは出来んが」
 レガは狛犬を見やった。
「くわえているものは、君たちの考えているとおりのものだ。作ったものの気まぐれで見た目は違うし、ものによっては特性も異なるようだが、持っている『役割』はどれも変わらん」
 先ほどまで中空に浮いていた球型のディアボロは、今は狛犬の口の中で護られている。──だがよく見れば、口から覗く球面の一カ所に傷のような痕跡があった。
 直前に放たれた雷の一撃が、確かに届いていたのだ。
「またとない機会だぞ。明日には百のディアボロを呼び寄せて、こいつを護らせるつもりだったからな。今なら守りも手薄、おまけに傷も付いている! 私の到着が一手遅れたばかりに、困った事態になったものだ」
 わざとらしく額に手を当てるレガ。
「ああ、そうそう。私はまだこの場にいないことにしておいてくれ。悪魔がその場にいながらみすみすこいつを破壊させたとなると、あとあと面倒かもしれんからな」
 どういうつもりか、そう言うと一歩後ろに下がった。
「さて、サービスはここまでだ。君たちはどうするね。戦うか、逃げるか?」
 軽い口調で、挑発するような視線を向けてくる。

「君たちが私を楽しませるに足る存在であると──期待しているよ」
 赤い瞳が、鋭い眼光を放った。

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リプレイ本文

「やらせてくれるっていうなら、やっちゃうんだし!」
 まずレガ(jz0135)の方へと一歩踏み出したのは、ミシェル・G・癸乃(ja0205)。
「レガ叔父様、こっちは思いっきり戦うから、双子は逃がしにいってもいいよね?」
 レガは不敵な笑みを浮かべたまま、答えない。
「むー、僕らを手駒と戦わせておいて自分は高みの見物をするつもりだね」
 口をへの字にしてエリアス・ロプコヴィッツ(ja8792)は子供のように拗ねてみせる。
「いいもん、きみのわんこも球もバラしてよぅく調べてやるんだから!」
「球型ディアボロを破壊しつつの生還‥‥やってみせます!」
 神楽鈴をシャンと鳴らし、力強く言う久遠寺 渚(jb0685)。その横では赤坂白秋(ja7030)が煙草に火をつけていた。
「あんたが可愛い女の子なら、喜んで楽しませたってのにな」
 紫煙を一つ大きく吐き出し、レガをやはり不敵な笑みで見やる。
「“猛銃”が躍動、勝手に楽しめ」
「‥‥レガ、あんたの目的は一体、何?」
 水無瀬 快晴(jb0745)が訝っても、悪魔は何も言わなかった。

「子供達のことは僕らに任せるといい。僕の眼鏡にかけて傷一つつけさせないさ」
 クインV・リヒテンシュタイン(ja8087)はレガと狛犬に向き合う五人に向けて言うと、ディアボロの群れを眼鏡越しに視界に捉える。
 ハッド(jb3000)はざっと戦場を見渡して。
「ここはユウとナオに王の威光を示さねばなるまいて〜」
「王様、戦うのか!」「王様、強いの?」
 その言葉に目を輝かせる双子。フレイヤ(ja0715)はそんな彼らの肩に手をかける。
「遠足じゃないんだからはしゃがないこと! おっけー?」
 軽い口調で告げながら、双子をその背の後ろにかばう。
「困難な状況だけど‥‥皆で力を合わせればきっと打開できる筈」
 久永・廻夢(jb4114)はいつでも双子を護れるよう視界の隅に捉えつつ、フレイヤ達の一歩前へ。味方の先頭に立つのはシスティーナ・デュクレイア(jb4976)。
「この危機的状況‥‥ぞくぞくします」
 一見淑やかな彼女の口元には、笑みが浮かぶ。
「さあ、来なさい! 二人には指一本触れさせません!」
 高らかに叫び、群れの襲来を待ち受けた。


「そうだ。それでいい」
 レガは橋の奥で動かず。双子を取り囲むように展開する撃退士達を見ていた。
「さあ見せてくれ。君たちの力を。この黒雲の下に入る資格があるのかを」



 エリアスの生み出した巨大な火球が狛犬を襲う。跳んで避けた所を狙うようにして白秋が射撃、さらにミシェルも手裏剣で追撃するが、敵は機敏な動きで対応して有効打にはならない。
 口一杯に球型を加えた狛犬の意識を少しでもこちらに向けようと、三人は攻撃を集中する。
 快晴はまだ動かない。渚は──。
「ほう」
 離れて見物するレガの目からは、気配を隠して狛犬の背後へ回り込む彼女の姿が見えていた。
 だが何も言わない。
 レガに背を向けた渚は、狛犬に悟られないよう慎重に身構える。
 着地の際を狙い、不意打ちの八卦石縛風。球型を加えたままの狛犬は声をあげることもせず、まさに神社に在るような石像へと姿を変える。
「石化してしまえば何もできませんよね!」
「全力でいっちゃうし〜!」
 ミシェルが好機とばかりに距離をつめ、気を練る。エリアスもフォトンアックスを顕現しつつ接近し、白光を放つ刃を振り上げる。狙うは、剥き出しのままになっている球型だ。
 斧を振り下ろす。光が球型にぶつかってはじけた。
「んっ‥‥意外と硬いね」
 手応えはあったが、砕けてはいない。
「なら次はアタシだし──うわっ!?」
 気を練り上げたミシェルが一撃を繰り出そうとするが──それよりもわずかに早く、狛犬の石化が解けてしまう。赤い毛並みを取り戻した狛犬は前腕を一度大きく振ってまだ動けないミシェルをひっかいた。
 白秋がスターショットで脚を狙うが、狛犬は後方に跳んで躱してしまう。
「ちっ‥‥厄介だな」
「俺も行った方がいいみたいだね」
 足止めも一苦労。射程を取って攻撃していた快晴は、近接での状態異常付与を狙って再びエネルギーブレードを顕現させた。



「今だっ! アッキヌフォートミラージュレェェイッ!」
「眼鏡が」「光った!」
 クインの大技、漢字で書くと「眼鏡光線」が炸裂すると、双子が目をまんまるにした。
「ふふふ、僕の眼鏡からは逃げられないよ」
 得意げに眼鏡を煌めかせるクイン。
 開戦直後、彼とフレイヤが放ったスリープミストによって敵の多くはまだ動きを止めている。逃れた敵が残った霧を避けようと一列に並んだところを狙い澄ました一撃だった。
 光線を浴びた後も蠢いているスライムを、フレイヤと廻夢が追撃して撃破する。反対側から回り込んできたナイトリザードにはシスティーナが正面から向き合う。
「ここから先へは行かせません!」
 剣の切っ先をすんでのところで躱しながら、腕に装着したバンカーを突き出し、撃ち出す。ガン、と派手な音を出して、リザードの脇腹の肉をはぎ取った。
 一方、ハッドは空へ逃れたドラゴンフライを視界に捉え。
「レガとやらはともかく、まずは飛行戦力を排除してしまうのがよいかの〜」
 魔法書を手に念を込める。昼下がりの空に花火のごとく炎が舞い、ドラゴンフライを巻き込んで爆ぜる。
「あら、お目覚めにはまだ早いわよ」
 霧が晴れたところでフレイヤが再びスリープミストを放ち、目覚め始めた敵を再度の眠りに就かせるが、全てではない。
 ナイトリザードがさらに一体、システィーナの前に立つ。二方向から剣を振るわれ、彼女の美しい白い肌には容赦のない傷がついた。
「ふふっ‥‥この程度ではやられませんよ」
 生き生きと目を輝かせるシスティーナ。彼女はここが死地であるほどに、心を躍らせる。
 だがそれは、彼らにとって好ましくない状況になりつつあることの裏返しでもあった。



 狛犬の背後に回った快晴が、氷の夜想曲を発動する。狛犬は橋の欄干を伝うようにしてそこから逃げ、そのまま橋を渡りきろうとするが、護符を手にしたエリアスが一歩先を穿ち、その動きを阻害する。
 さらに後ろを取っている渚が顕現させた弓を引く。撃ち出されたのは矢ではなく、蛇の幻影だ。球型に当たることを避けるためか、狛犬は顔を背けて首筋に受けた。
 グウゥ、と喉の奥を唸らせて、狛犬はぐ、と身を沈める。五人に囲まれる状況を不利と思ったか。撃退士達を一息に飛び越え、ディアボロの群れに合流しようとしたのだ。
 だが、それは叶わなかった。狛犬に肉薄し続けていたミシェルが、その動きに反応する。
「やらせないし〜っ!」
 狛犬が跳躍しきる前に、自らも跳び上がる。両手を組み合わせたダブル・スレッジ・ハンマーを、相手の鼻っ柱に思いっきり叩きつけた!
「ガハッ」
 まともに喰らった狛犬は地面に落ち、その拍子に大事にくわえていた球型を思わず吐きだしてしまう。
 ごろりと転がり落ちた球型ディアボロ。その一カ所にはっきりとひびが入っていた。ハッドが撃ち込み、エリアスが叩いた傷の跡だ。
「はっ、もらったぜ!」
 すかさず白秋が照準を合わせる。動かない敵に当てるのなら外しようもない。
(レガは‥‥)
 エリアスが橋の奥の悪魔を見やる。この期に及んでも、彼は悠然と佇んでいた。

 白秋が弾丸を放つ。それは寸分の狂い無く球型のひびを捉え、ついには粉々に打ち砕いた。

 大きな目的を一つ、達した。後は無事に帰るだけ。
 だが彼らの前では、狛犬が開いた口から煙を吐き、うなり声をあげていた。



 何度目だろうか。斬撃を受けてシスティーナの体から新たな血が散る。
 ナイトリザードは残り二体。最前線で、彼女は一歩も引くそぶりを見せない。
 次の一撃は、彼女の肩口に深く食い込んでいた。
 システィーナは、悲鳴も上げず。カウンター気味にバンカーをリザードに突きたて、敵の胴体を粉砕する。
「さあ、次は‥‥」
 髪を振り乱し、ぎらついた目に笑みを浮かべながら。
 肩を真っ赤に染めて、システィーナは前のめりに倒れた。

「ねーちゃん、大丈夫か?」「起きないけど‥‥」
「怖かったら、目をつむってなさい」
 背中越しに聞こえる声がわずかに上擦っているが、フレイヤにも振り返る余裕はない。彼女の元にも新たな敵が向かってきている。
「双子君の珠の肌には傷一つ負わせないわよ!」
 代わりに彼女の肌は傷だらけだったが。
「私は、こんな所で死ぬわけにはいかないのよ! だって‥‥」
 ドラゴンフライの突撃を浴びながら、力強く。
「だって‥‥レガさんの薄い本まだ描いてないもん!」
 許可だって貰ったんだから! とばかりに魔法球を撃ち放った。

 彼女と並んで立つクインもまた、身を挺して双子を敵の手から守る。
「この程度の攻撃で僕の眼鏡は割れないよ」
 寄ってきたスライムを、魔法の斧で叩き潰す。
 彼だって傷だらけである。だが彼の眼鏡はまだまだ輝きを保っていた。

 彼らの手前で、廻夢は最後のナイトリザードと斬り結ぶ。
(二人を無事に帰すことだけが僕の役割)
 自分の力は、そのためにある。そう信じている。
「絶対に、護るからね」
 かつて彼の兄がそうしてくれたように。廻夢は自らを奮い立たせた。


 最後のドラゴンフライが、魔法の雷に呑まれて消えた。ハッドは双子達のすぐそばに。
「よし、ユウにナオよ、我輩にしっかり掴まるのじゃ〜」
 きょとと首を傾げながらも両側から腰に手を回した双子をしっかり抱え、再び闇の翼を発動するハッド。
「このまま、ギュ〜〜ンと飛んで脱出するのじゃ〜」
 ふわりと浮き上がると一気に加速し、残った敵の群れを飛び越え、町の方角へ。
「おお、王様、すげー!」「すげー!」
 双子が歓声を上げるのを聞き、ハッドは彼らに笑いかけようとする。だがその瞬間激痛を覚え、がくんと高度を落とした。
「うわっ!」「王様、大丈夫?」
 彼もまた度重なる攻撃を受け、体力は限界を超えていた。意識は気力で保っている。
「なに、大丈夫じゃ」
 しかし王たるもの弱気は見せられないとばかり、気丈に声を張る。
「安全なところまで飛んだら降ろすからのう。それまでしっかり掴まっておるのじゃ〜」
 そのあと、残った者の援護へと飛ぶのは難しいかもしれない、とは頭の片隅で考えながら。


 彼らを追える者はいない、そのはずだが‥‥。
「‥‥あのように逃げられると、追いたくなるではないか」
 そう口にした者がいる。レガだ。翼を大きくはためかせ、一息に橋を越えようとする。
 その動きは、声によって押しとどめられた。
「何故この場にいないことになっている筈の貴方が彼らを追うんですか?」
 廻夢は仰ぎ見て、レガへと訴える。
「子供達に危害を加えるなら、いないことになんて出来ませんよ」
 口調は柔らかい。だがその瞳には強い決意の色があった。
「ふむ‥‥」
「よそ見をしちゃヤだよ! 僕が遊んであげてるのに」
 場違いなほど無邪気なエリアスの声が続いて響いた。



 その声にレガが目を向けると、巨大な狛犬がどうと横倒しに倒れる所だった。
「悪いな。よそ見をしてる間に倒しちまった」
 白秋が皮肉な笑みを浮かべている。
「うう、熱かっただし!」
「だ、大丈夫ですか?」
 その向こうでは、狛犬の開いた口から炎を浴びせられたミシェルが、渚の治療を受けている。
「ほう‥‥倒したのか」
 レガはすうと滑るように地上へと降りてきた。
 そして満足げに、笑う。
「見事だ」
「あん?」
「見事だよ、撃退士。君たちはやはり、侮りがたい存在だ。これは、私も楽しめそうだ」
「楽しむ‥‥それが、あんたの目的?」
 快晴の問いには、鷹揚に頷いてみせる。
 その時、一条の光がレガを襲った。光はレガの周囲をくるくると回った後、眼前ではじける。
「今のは?」
「観客気分のきみに、ちょっとしたサプライズさ。『すべてこの世は舞台、男も女もすべて役者に過ぎない』ってね」
 と、エリアス。
「てめえはもしかしたら、アリの行進を眺める象のつもりでいるのかも知れねえが──アリが象を踏みつぶす話があったら、さぞ愉快だと思わねえか?」
 白秋が言うと、レガは肩を揺すって笑った。
「ふふふ、そんな話があるのかね?」
「見せてやるよ。いずれ必ずな。てめえは美少女じゃねえから、高い代金を頂戴するが」


「さあ、行きたまえ」
 レガが促す。まだ数体残っていたはずのディアボロは、いつしか姿を消していた。
「‥‥いいの?」
「君たちの目的は、全て果たされただろう。ならば、後は帰るしかないのではないかね?」
「レガさん、聞いて良いですか? あの球型ディアボロについて‥‥もしかして、これって量産は出来ないんですか?」
 渚が問う。
「量産できるなら、『群馬県』どころかもっと広大な地域を‥‥」
「さあな。私が作ったものではないから詳しくは知らん。考察はそこの少年とするといい。ずいぶん熱心に観察していたようだからな」
 レガは渚を遮ると、エリアスを指し示す。
「なんだ、気づいてたんだね」
 エリアスは懐のノートを取り出し、ぱらぱらと開いて見せた。
「一つ、約束。いつかきみに勝ったら、きみの知る全てを教えて。きみに殺されるときは、僕の知る全てを教えよう」
 曇りのない目で、レガを見る。レガはまっすぐにそれを受けて、頷いた。
「──楽しみにしていよう」
「こちらこそ」

「レガ叔父様、一応‥‥ありがとうだし!」
 去り際。ミシェルはレガへと近づき、屈託のない笑顔で言った。
 自分たちを見逃してくれるのは、親切心からでは無いだろう。それでも、お礼はしたかった。
「アタシ、ミシェルっていうんだよ」
「‥‥覚えておこう」
 ややあってから、レガは答えた。
「次はどんな会い方かな‥‥? またね〜!」
 手をぶんぶんと振って、その場を離れた。



「あ!」「にーちゃんたち!」
 一行が再び双子と合流したのは、小学校の校門付近。傍らで、ハッドが座り込んでいた。
「怪我いっぱいしてるんだ」「王様、大丈夫かな?」
「撃退士は身体が丈夫だから、大丈夫」
 快晴が腰を屈めて言ってやる。意識は何とか保っているようだ。
「これ食うか」
 白秋が懐から取り出したのは、あんぱん二つ。双子に一つずつ手渡すとその頭にぽんと手を置いた。
「食うなら約束しろ。遠くへ出かける時は、必ずご両親に直接伝えてからだ。心配してるぜ、お前らの母さん」
「「はぁーい‥‥」」
 撃退士達の負傷がそれなりにショックなのだろう。双子はうなだれるように返事をする。
「さあ、帰るか! 早く無事なお前らを届けてやらなくちゃならないしな」
「黒雲の下の調査は、また今度だね」
 エリアスが少し残念そうに言うと、クインがああ、と顔を上げた。
「すっかり忘れていたよ。あの黒雲の下に何があるのか──『群馬』が今どうなっているのか、この眼鏡の元に晒すのは次の機会、だね」
 そう言って、眼鏡をくい、と押し上げた。



「これで六つ、か。さあ、早くここまで来るがいい。待っているぞ──」
 一人呟く声は、黒雲の下より。


依頼結果