今回の依頼で集められた精鋭は計8名。計4組のペアに別れそれぞれ目撃証言のあった箇所を探すことに決めた。
また互いに連絡を取り合うためにアドレス交換も済ませておく。
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雪成 藤花(
ja0292)とカタリナ(
ja5119)は目撃者証言の一つにあった校門へと捜索に来ていた。
「まったく、今回もまたとんでもない物を作ってくたわね…」
「惚れ薬、ですか。ちょっといいなとは思うけど…」
「興味がないかと言われれば、少しはあるし…とはいえ依頼ですからね、がんばって探しましょう」
藤花は予め部長の写真を借りて『視覚芸術』の一種として写真記憶した。
その記憶を元に校門を行き交う生徒達を丹念に目視する。
また微かなバラの香りを「感知」できないか鼻をひくつかせて付近を探索してみた。
「この辺は、人が多いから……見つけるは大変かもしれませんね」
「屋外ですし、香りも残っているかどうか…ともかく聞き込みをしましょう」
カタリナは校門付近の紳士淑女から情報収集を『紳士的対応』で開始した。
「発明部の部長、見ませんでしたか?ええ、幼女のような大学部の」
たまたま声をかけた相手はカタリナと藤花の知り合いであった。
「え?幼女。さぁ…俺は見なかったけど。カタリナさん…もしかしてそういう趣味が?」
『紳士的対応』スキルが間違った方向で作用したのかもしれない。
「幼女は愛でるもの…って!?違います!これはれっきとした依頼で純然たる人探しの一環なんですっ!」
藤花はそう言えばと思ったことがある。情報によれば部長は『幼女』と言うキーワードに非常に敏感だと言う。
ならば、あえてその単語を使用し、呟きながら探せばと思ったのだ。
「そういえば、東雲さんって可愛いですよね。誰かが幼女のようだと……」
「え?カタリナさんだけじゃなくて…藤花さんもそっちの気が!?」
「ち、違います!」
「冗談ですよ冗談(その割には幼女はとか言って気が)まぁ、見かけたら連絡しますよ。それじゃぁ」
知り合いは手を振りながら去っていった。
「えぇ、頼んだわ」
どっと疲れた二人であった。それから継続して聞き込みを行うが、一向に情報は仕入れられない。
それならばとカタリナは自身のスキル『小天使の翼』を使い、で飛んで視界を広く持った。
自分が目立って発見されても急に逃げた者がいればわかりやすいと考えたのだ。
高い視点で部長を探すが、はたして。
「…見当たりませんね。トウカ、別の場所へ向かいましょうか」
「そうですね。仕方ないですが行きましょう」
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「薬の是非はさておき、頼まれたら無視も出来ないよね。にしてもあの会長さん、瑞穂さんに似てるよね?」
「えぇ。なにやら親近感を抱きましたわ」
猫野・宮子(
ja0024)と桜井・L・瑞穂(
ja0027)購買方面への探索を開始すべく足を向けていた。
「あ、そうだ。捜索を開始する前に…」
宮子は着ていたコートを脱いだ。するとどこからともなくBGMが流れ始め、謎の空間に突入し宮子の戦闘服?
である魔法少女の格好になる。見えそうで見えない脱・着衣のシーンが大きなお友達と夢見る少女達を勇気付けた!
(実際はただの早着替えです。演出上そう見えるだけなのです)
そしてお約束の決めポーズが炸裂する!
「そういうわけで…魔法少女マジカル♪みゃーこ参上にゃ♪恋に悩む会長さんのためにお薬を奪取するにゃ♪」
「…今の、今のは何なんですの!?」
「深く突っ込んではいけないにゃ。お約束は色んな法則も捻じ曲げる魔法少女の嗜みにゃ♪」
「そういうもの…なのかしら。コホンッ!それはともかく!さぁ!探しに行きますわよ!此の広い学園でも、
見事対象を捕らえて差し上げますわ。おーっほっほっほ♪」
購買に来た二人は早速聞き込みを開始する。また証言であった『薔薇の香り』を部長が付けていることも重視し、
匂いにも手がかりを求めた。
「香水の匂いにも気をつけないとにゃね♪バラの香りを辿っていければいいんだけど、
僕は犬じゃなくて猫だから無理にゃねー…」
「ですが、薔薇の香りなど学生が早々つけるものではないのですわ。良いヒントであることは間違いないでしょう」
宮子は購買に来ていた中等部らしい生徒を呼び止めた。
「そこの君!こっちに薔薇の香りがする幼女な部長さんはこなかったかにゃ?」
「え?幼女な部長?そういう人は僕見かけませんでしたよ」
瑞穂は購買部のレジ係りに聞き込みをした。
「あぁ、あのちっさい部長さんか。今さっきまで居たんだけどね。なにか匂い消しがないかとか聞かれたから
消臭スプレーお勧めしておいたよ。無香タイプのね」
「な、そんな手で匂いを消そうとしてらっしゃいますの!?」
「考えてるにゃ部長さん。でも香水ってそんな簡単に消せるものでもないにゃ」
瑞穂は各証言者に嘘はないかどうかじっと見て観察していたが、誰も嘘をついているようには見えなかった。
「そうですわね。ですが、このことは他の捜索されている方々に伝えておいたほうが宜しいでしょう」
瑞穂はスマートフォンを取り出し、他の捜索メンバーに伝え聞いた情報を伝達する。
宮子と共に聞き込みを続けたが、どうやら購買周辺にはもう居ないと判断し別な方面へ足を向けた。
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「……鬼ごっこ、ですね…。かくれんぼの次に、得意です…(にこ)」
「早く見つけて解決と行こうじゃん」
糸魚 小舟(
ja4477)と夜鷹 黒絵(
ja6634)は食堂に来ていた。
目撃証言の一つを頼りにきたのだ。木の葉を隠すなら森の中、人を隠すなら人が多い場所だとあたりを付けてきたのだ。
「しっかし、惚れ薬って欲しいもんか…?」
「私は…特に欲しいと…思いませんけど…使い方…間違いやすい…物だと思うし…」
「そうだよな。まぁ、依頼は依頼だからちゃんと部長さんを探して捕まえるけど。
でもま、追われれば逃げたくなるよな…部長さんには同情するぜ」
小舟と黒絵は部長の写真を知り合いから貰い、それを頼りに探しはじめる。
香水の匂いを頼りにしながら探すが、そもそも学食は様々な料理の匂いが立ちこめ
匂いと言う点では厳しいものがあった。
「香水の匂いも弱まってて、かつ、この料理の美味しそうな匂い。…腹減ってきたぜ」
「確かに…お腹空きますね…あ、あれは?」
「いたのか!?」
小舟は写真で見た部長に良く似た背格好の女生徒を発見した。後姿なので確認できたわけでは無いが
背後から見ると酷似しており、白衣も着ている。
黒絵は隠密を駆使し慎重に近づく。また小船はスキル『無音歩行』で移動。逃げ道を絶っておく作戦に出た。
そして十分に距離をつめ、背後から白衣の少女に声をかけた。
「ちょっといいかな、部長さん」
声をかけられた少女は振り向いた。後姿は完璧に似ていたのだが…顔が違った。
「部長って、この白衣を着ていた人ですよね?えっと、伝言があるんですよ。私を探しにきた人が居たら言ってくっれって。
こほん!それでは言いますよー『捕まるものかー!』だって♪」
黒絵は一気に脱力した。まさか、囮を使ってくるとは考えてなかったのである。小舟がこちらへ駆け寄ってきた。
「…白衣を…この子に渡して…部長さん考えましたね…」
「囮を使うぐらいだし、もう、この辺りには居ないのかもな。別の所に行くか」
二人は白衣を着た少女と別れると、別の方面を探すべく足を向けた。
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「部長を追いかけて惚れ薬を飲ませて私に惚れさせればいいんですよね!?」
「え?それってどうなんだ?なんだか依頼の目的と違ってなくないか?」
宮本 明音(
ja5435)と名芝 晴太郎(
ja6469)は職員室方面に探しに来ていた。
「やだなぁ、冗談ですよ冗談!…たぶん。さぁ!行きましょう!」
職員室の近くには放送室がある。そのことに目を付けたのだ。
春太郎は考えた。手っ取り早く探すにはやはり相手が何かしらの反応を起こすように仕向けるべきだと。
だとすればコンプレックスを突けば良いと結論に達したのだ。気乗りはしなかったが。
放送で部長に対する呼びかけを行い、その反応で探しやすくしようと言う作戦だ。
放送室には運良く放送部の部員が居た。春太郎が部員に声をかける。
「あの、ちょっとここの放送を使わせていただけないでしょうか、全校放送をしたいことがあって」
「どのような内容なんですか?」
部員は訝しげに春太郎を見る。そこで明音が割って入った。
「どうしても探したい人がいるんです。その人を見つけないと…よよよ…ここで依頼の報酬を貰わないと病気の弟が…」
「なんだって…弟さんのご病気に治療費が…」
明音の話に部員は涙ぐむ。春太郎は驚いた。そんな話は聞いていなかったからである。
そのことを明音に問いただそうと声をかけようとしたとき、手をつねられた。…嘘八百らしい。
「…わかりました!そう言うことでしたらどうぞ使ってください!」
放送部員の許可を得た二人は放送室のスタジオに入る。そしてマイクの前に座ったのは明音だ。
「部ちょ‥違った、楓ちゃぁーーんっ!幼女ぉーーっ!!」
魂の叫びが全校放送でアナウンスされる。あまりにも大声で叫んだため『キーン』とハウリングも起こしたようだ。
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『部ちょ‥違った、楓ちゃぁーーんっ!幼女ぉーーっ!!』
「っぶ!あの声は明音君か!全校放送を使うとは」
「全校放送で部長が幼女と知らされてしまったわけですね。すっごい羞恥プレイだなぁ」
逃走を続けていた部長と男子生徒が今の全校放送で足を止めた。
あんまりの放送で思わず足が止まったのである。
そして、その足が止まった部長を遠目から発見した者達がいた。カタリナと藤花のペアだ。
「いた!私が追います!トウカ、回り込めます?それと、各人に連絡を!」
「了解です!」
ランニングが得意なカタリナはダッシュをかけた。また、スキル『タウント』を使用した。
その甲斐も相まって部長の走る速度が目に見えて落ちていく。
すぐ背後まで迫った時、両手で部長を捕まえようと試みたがカタリナだったが、何故かスルリと抜け出されてしまった。
「くっ…すいません!体に凹凸が無いのですり抜けられました!」
カタリナの言葉に部長と一緒に逃げていた男子生徒が爆笑した。
「っぶふぅ!…凹凸が無いのでって…ひぃ〜苦しい」
かなり壷に入ったようである。そんな男子生徒をとび蹴りし逃げるが・・・。
「捕まえたぜ!」
藤花から連絡を受け。隠密で忍び寄っていた黒絵が部長を捕獲した。
「ぐぬぬ…HA☆NA☆SE!かくなるうえはっ!」
部長は持っていた惚れ薬の入っている試験管を地面に叩きつけとようとした!
「おっと、そうはさせませんわよ!」
間一髪でその試験管を奪取したのは瑞穂だった。
「む、無念…」
がっくりと肩を落とす部長。こうして惚れ薬は見事、確保に成功したのである。
カタリナは飛び蹴りを食らった男子生徒に手を貸すと、ゆっくりと起こした。
「惚れ薬を使った子、それからおつきあいしてるようですけど…あれから、どうなりました?」
「順調みたいです。だけど惚れ薬は相手の意思に関係なく強制的ですよね。自分の心から生まれた思いは
そう簡単には覆りませんが…」
「なるほどね。何かによって強制的に植えつけられた思いは…もろく崩れやすい…と言う事かしら?」
「俺はそう思いますけどね。でもま、崩れやすいのを必死に補強してそれを確固たる物にしようと努力する姿は
それはそれで健気だなと。恋する乙女は怖いです」
「ふふっ。貴方も気をつけなさいな」
薬を確保したメンバーは会長の下へと届けに行った。が、届けに行ったメンバーの他に、
捕獲された部長の元に残った者が居る。小船と明音である。
小舟は部長に好感を抱いていた。発明が得意なところも、自由に生きている印象がして、羨ましく感じていたのだ。
また、同じ大学部の生徒というところも一因だ。
「あの…どうやったら…そんな快活に…」
「快活に生きられるのか?かね。それはだな、自分の思うがままに生きることだ。
取り敢えずは友誼を結ぶところから勧めるがね」
部長がニヤリとした笑顔で小船に手を差し出す。小舟も笑顔で手を握り返した。
「それで、やっぱりあれ惚れ薬だったんですか?」
明音が部長に尋ねた。
「あぁ、紛うこと無き本物だ。3時間という制約はあるが」
「部長も乙女な所ありますねぇ。可愛いっ。それで‥部長は誰に飲ますつもりだったんです?」
「誰に飲ませるも何も…今回はとある依頼で作ったからな。私自身の為に作ったのではわけではない」
「なーんだ。自分のために作ったんじゃないんですね。残念。残念なので抱きついちゃいます!」
もがー!と苦しむ部長に良い笑顔で抱きつく明音、それを傍でニコニコと見つめる小舟の姿があった。
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所変わって、会長の元へを薬を届けにきたメンバーである。
「おーっほっほ!それが惚れ薬なのですわね!これであの殿方の意は私の物に!」
「こんなものなくても、きっと素敵な人は見つかります。皆さん素敵なんですから」
「そうよ。会長ったらこんなものなくてもカワイイですのに」
藤花とカタリナが代表して会長に惚れ薬を手渡した。
「あら、お二人ともありがとうございますわ。ですが、恋とは戦争ですの。
戦争に打ち勝つためにはありとあらゆる手段が必要なのですわ!」
「俺にはよくわからんな…」
「同じく」
春太郎の言葉に黒絵はうなずく。
会長は惚れ薬の入っている試験管のキャップを開けた。中からは甘い香りが漂ってくる。
「あら、香りもよろしいですのね。この薬。味はどんな味がするのかしら?」
そう言いつつ会長は、試験管に入っている薬を一息に飲み干してしまった。
「あ、ここで薬飲んだら!?ま、マジカル♪ばりあー!なんちゃって」
「宮子ぉー!?ちょ、貴女、何をわたくしを盾にしていますの!?」
宮子は咄嗟に瑞穂の後ろに隠れた。慌てて瑞穂も何処かに隠れようとするが、
宮子に盾にされて逃走不能の状態に陥ってしう。
藤花は一目散に逃走し、カタリナと黒絵は春太郎の背後に隠れる。
「ちょ!えぇ!?」
瑞穂と春太郎は見た。自分達を見つめる会長の目がハートマークになっていることを。
「ワタクシ…知ってしまいました。恋は唐突に陥るものだと…桜井様!名芝様!ワタクシ惚れてしまいましたわ!
是非お付き合いくださいませ!」
「思いっきり効いてるな!?かくなる上は戦略的撤退だ!」
「お、おなじくこちらも撤退ですわ!同姓に惚れられるとか!…ちょっと興味がないでもないのですが!
こんな衆人環視の前ではお断りですわ!」
二人は脱兎の如く逃げ出した。しかし!恋する乙女は執拗だった!
会長は『恋する乙女(乙男)連合』のメンバーに招集をかけ、二人の捕獲を命じたのである。
「お待ちになってー!」
この後、3時間に及ぶ逃走劇が繰り広げられたのである。
こうして一連の依頼は無事?幕を下ろした。
了