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緊急依頼が入った。小学校を襲ったサーバント討伐の依頼だ。
たまたま現場近くに居たフリーの撃退士が応戦するも、傷つき重体で動けない。
そして現在応戦しているのは、アウルに目覚めたばかりの小学生。
「救助と討伐、両方あるならば命令があろうがなかろうが救助に向かう。
そういう奴がたまたま集まってしまった。甘さを捨てきれない。それがヒーローというものなのでしょうね」
獅堂 遥(
ja0190)が呟く。
事は一刻を争う。未来の担い手を失ってはいけない。
軽いブリーフィングを今回の依頼参加者で確認し、現場へ急行した。
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目の前には虎型サーバント(以下、虎と表記)
手に武器は無い。空からはグリフォンまで飛来した。
夏櫨翔の心が折れ、顔が絶望に染まる。
もう、駄目だと思ったその時、希望が現れた。
「疾っ!」
ギィネシアヌ(
ja5565)は現場を視界に収めると即座に阻霊符を発動する。
それと同時に動いたのは菊開 すみれ(
ja6392)だ。
自身の持つオートマチックP37を数射。威嚇射撃を行い、虎の注意をこちらに向ける。
そして翔と敵の間に割り込むように体を入れ、力強く言い放った。
「人の世を侵略するサーバントを、攻撃し追い払う。人、それを撃退士と言う!
小さな幸せを守ってみせよう。撃退士、菊開すみれ、ここに参上!」
翔の前に立つすみれの背が、翔には大きく見えた。
「そうそう、俺らが来たからにはもう大丈夫やからな!にしても一人で頑張ったんめっちゃ偉いなー。
お疲れさん、後は任せや!」
小野 友真(
ja6901)が笑って翔の頭を撫でる。いつものへらっとした笑顔ではない。
誰かを守り、敵と戦う男の顔をした友真がそこにいた。
「柊さん、この子はよろしくなー」
「了解だ」
皆と一緒に来ていた柊誠は友真に向かって力強く頷く。
「スマン、少し時間稼ぎを頼む!子供の避難が先だ!」
校庭を見渡すと、数名の生徒達が残っていた。皆恐怖に怯えた表情をしている。
如月 敦志(
ja0941)は戦場になっている校庭に残っている生徒達の避難を優先した。
確かにサーバントを倒すことも必要だが、人命も優先だ。その行動に同調したのはすみれだ。
二人で手分けして、校庭でおびえ竦んでいた生徒達を校舎内に避難させる。
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戦闘が始まる。戦闘はそれぞれ虎とグリフォンを相手取る二つのチームに分かれた。
「ハァッ!」
大炊御門 菫(
ja0436)は掛け声と共にスキル『タウント』を使用する。
白いオーラが自身を包むと、グリフォンの注意が菫自身に向いた。
『クェエエエエエ!』
上空を旋回していたグリフォンが急降下して、菫を狙う。
「こい、何度でも受け止めてやる!」
菫はさらにスキル『防壁陣』を発動。受けの力を増大させ、
重量の乗ったグリフォンの一撃を何とかいなすことに成功する。
「友真、頼む!」
「任せとき!」
再び上昇しようとするグリフォンをカーマインで絡め取ろうとする。
スキル『精密狙撃』を使った必中の攻撃はグリフォンの翼に絡むことが出来たが、
重量を誇る巨体を完全に動きを封じるには至らない。
「ぐぅ…重いな…!」
そこへ援護射撃が入った。
「この鳥頭め! とっとと落ちやがれってんだ!」
ギィネシアヌはスキル『紅弾:八岐大蛇』を使った一撃を放つ。
見事着弾し、奇声を上げ胴体から血を流すグリフォン。
菫は皆を守るべく地上に攻撃の目を向けさせないため、スキル『小天使の翼』を使い、上空へ飛翔し、
攻撃を仕掛けた。
守らなくてはならないのだ。なんとしてでも。故にこの身はそれに特化した強固な盾。
「班員達を無傷で帰す」
その強烈な思いを、意思を瞳に宿しグリフォンとの空中戦を展開した。
グリフォンは自身の周りを飛び回る菫を叩き落そうと攻撃を繰り出す。
ギィネシアヌは友真にグリフォンの標的が向かないよう、また菫が回避しやすいよう
スキル『援護射撃』を使い援護していた。
「さて、これでようやく安心して戦えるぜ。待たせたな皆!」
儀礼服をバタバタと靡かせながら登場したのは敦志だ。校庭に残っていた生徒達の避難を終え
颯爽と駆けつけた。そして敦志はすぐさま状況を把握するとそれぞれに指示を出した。
「ギィネ!援護しろ!友真!スタン後もう一度カーマインだ!」
「了解だぜ!」
ギィネシアヌのアサルトライフルが火を噴き、グリフォンの脚にダメージを与える。
空中で姿勢制御を失ったグリフォンがよろめいた。
その隙を逃がさなかった敦志が畳み掛けるようにスキル『スタンエッジ』を使用する。
電撃を伴った一撃がグリフォンの体全体を駆け巡り、明らかにグリフォンの動きが鈍った。
それをみた友真が好機とばかりに攻撃を仕掛ける。
「これ、ヒーローって言うより必殺仕事人みたいやけどな…!」
再び『精密狙撃』を使った友真のカーマインがグリフォンの動きを阻害することに成功し、
ついにグリフォンが地に叩き落された。
「しっかりと倒しきらないと、な!」
そこへ、菫は自身の持つ十字槍に力を込めスキル『エメラルドスラッシュ』を発動させる。
十字槍から緑のオーラが立ち上り、グリフォンへと振り下ろされた。
『クエッェェエエエ!!』
グリフォンが苦し紛れの悲鳴を上げる。見れば体はぼろぼろで、もうあと一息で倒れそうだ。
そこで最後の悪あがきを見せた。
グリフォンがカーマインの束縛を解き、大空に舞い上がったのだ。
目には憎悪の光が見える。その視線の先にいたのは…ギィネシアヌだ。
「いいぜ、決着をつけてやる」
ギィネシアヌの体から紅い光が溢れ目の位置で固定されサングラス型に固定された。
そして、残りの紅い光は八体の蛇となり銃身に巻きつき銃口へと入った。
『光纏』からのスキル『紅弾:八岐大蛇』だ。
狙いは外さない。相手は渾身の一撃を、捨て身の一撃を出すだろう。
ならば、自身の最大の技で迎え撃つのみ。
お互いの視線が空中で絡み合い火花を散らす。グリフォンが羽も折れよとばかりに最大に羽ばたき
ギィネシアヌへと突撃をかけた。
「堕ちろ!グリフォン!」
アサルトトライフルの銃口が紅い光りを放ち、紅弾が発射された。
紅弾は螺旋を描き、真紅の軌跡を描きながらグリフォンの頭部へ吸い込まれ…貫いた。
制御を失ったグリフォンは勢いもそのままに、ギィネシアヌの背後に墜落し、それきり動くことは無かった。
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変わって虎と対峙しているメンバー達である。
花菱 彪臥(
ja4610)のスキル『タウント』が発動する。
白いオーラが自身を包むと、虎の注意が彪臥自身に向いた。
「俺と同い年くらいの奴が戦ってたんだ!負けらんねぇ!」
虎の鋭い前足の攻撃をスキル『シールド』で防ぎきった。
「私が、闘わなければ」
遥の髪が紅から白へ(影色は薄桃)目が空色から紅に変貌する。
『光纏』だ。と同時にスキル『瞬華』を発動させる。
脚部に纏うアウルの光が紅蓮の桜が如く、ふわりと漂っている。
ワイルドハルバードを残像が残るほどのスピードで振りぬき戦場を駆ける。
遥が駆け抜けた後には、華の残像が揺らめいていた。
「この身は修羅。自身は全力で戦うのみ」
不屈を貫き通す、大樹の櫻が如く。ただ、戦場に咲き誇るのみ。
タウントによって虎の注意が彪臥に行っており、ある意味援護射撃は容易だった。
敵の狙いは明白なのだから。だからと言って安心は出来ない。
戦場では何が起こるかわからないのだ。
敵の機動力を奪うべく牽制射撃を繰り返すのは黒椿 楓(
ja8601)だ。
「早く片付けましょう…皆を安心させたいから…」
射線を確保しつつ周りに被害が出ないように戦場を作り上げていく。
3人の連携はがはまり、確実に虎を追い込んでいくが、そこはサーバント。
撃退士を上回る膂力と耐久力で応戦している。
やがて虎の鋭い一撃が『シールド』を超え、彪臥に入った。
吹き飛ぶ彪臥。だが、これはチャンスだ。虎は大振りの一撃を繰り出した後で
その身は回避を出来る状況ではない。
遥はチラと視線を倒れている彪臥に向ける。
幸い大怪我には至ってはおらず、なんとか、起き上がろうとしている姿が見えた。
「今!」
瞬時に、虎に寄りその身を駆け上がる。そして、虎の鼻を狙った一撃を振り下ろす。
虎は回避行動が遅れ、顔に一撃が叩き込まれた。
悲鳴を上げ、遥を振り落とす虎。しかし遥は空中で一回転しながら、難なく着地する。
そこへ黒椿がいる方向とは逆の方角から銃撃音が響く。
見ればすみれがこちらへ駆けつけていた。
「お待たせしました!」
敦志と共に校庭に残っていた生徒達の避難を完了させ、戦闘に参戦したのだ。
これで攻め手の数が多くなり、更に有利に展開を進めることが出来た。
虎は幸いなことに彪臥をターゲットとしておらず、意識は遥に向いている。
彪臥は起き上がると、虎の注意が遥に向いているのを確認し、再び戦線へ戻る。
鼻を潰された虎の目が怒りに燃えている。攻撃が大振りになってきており
回避するのが容易になっているのだ。ただし、当たればただではすまない威力を
誇っているのは、地面に出来た虎の攻撃痕からみてもありありとわかる。
「そこ!」
すみれはスキル『精密射撃』を発動し、足を狙い狙撃する。
銃弾は命中し、虎の前足に被弾した。
大きくよろめく虎を視界に収めた黒椿が勝負に出た。
「決定機は逃さず確実に仕留める…鉄則ね…」
スキル『ストライクショット』を発動し、持てうるアウルを弾に込め発射した。
唸る銃弾が虎の胸部に吸い込まれ、抉り穿つ。
虎の喉から大きな叫び声が上がり、その身を地面に横たえた。
しかし大きくダメージを与えたことは確かだが、倒しきってはいなかった。
目に怨恨の色を浮かべ、震える体を動かそうとしている。
すみれはもう一度と銃を構えたがその時、自身の銃からではなく、別方向から銃声が鳴り響く。
紅い弾丸を脳天に叩き込まれた虎はうめき声を上げ、それきり動かなくなった。
見れば、ギィネシアヌのアサルトライフルから硝煙が上がっていた。
「お邪魔だったか?」
「いいえ。サーバントを速く倒すことに否はないです」
「そっか。ならよかったんだぜ」
ギィネシアヌがニコッと笑った。すみれも笑顔で返す。
こうして、二体のサーバントは撃退士達によって倒されたのである。
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そして皆が夏櫨翔の元へ足を運んだ。
その翔は橘誠に守られながら、戦場の一部始終を見ていた。
自分には足りない力を存分に奮い、敵を圧倒していく様を。
自分には足りない力を奮い、仲間を守る様を。
食い入るようにしてその戦場を見ていた。
漫画やアニメじゃない。本当の戦闘だ。自分には成れなかった本当のヒーロー達がそこにいたのだ。
なんだか悔しくて、情けなくて、でも憧れで、その姿が眩しくて。
色々な感情が入り乱れ感極まってしまい、翔は泣き出してしまった。
もちろん戦闘が終わった安堵感もあったのだろう。
そんな翔の傍にしゃがみ込んだのは敦志だ。
翔の額に手を当て、スキル『シンパシー』を使い翔の感情を思考を読み取る。
「…」
自身にも思い当たる節はある。いや、翔の体験したことは少なからず撃退士が経験することだ。
自身の力不足を嘆くときはある。その手に出来たかもしれない未来を掴み損ねた事だって少なくはない。
「だがな、よく頑張った。翔が足止めしてくれたお陰で被害は最小限に食い止められた。今日の主役はお前だよ」
翔の頭をくしゃっと撫でつつ、にこっと微笑んだ。
「そうだよ。良く頑張ったね〜」
翔の目線に合わせる形で座り込み頭を撫でて笑いながら褒めるのはすみれだ。
そして、倒れていたフリーランサーの救急手当てを黒椿と共にし、終えた彪臥が明るく声をかけた。
「アウルに目覚めたばっかりで、こんだけ戦えるってすげぇよ!勇気あるじゃん!おまえ、名前はっ?俺は、花菱彪臥!」
「僕は…夏櫨翔」
「そっか!翔ってんだ。これからよろしくな!」
「これから?」
「おう!お前、撃退士になるんだろ?じゃぁ俺達の仲間じゃん」
「アウルの力は、生きる為頂いた大切な贈り物だ。人を守る事は贈り物を頂いた者として当然の義務だ。
強くなれ、心を折られることも無いぐらいに。そして守れ、人々を」
精一杯の笑みを浮かべながら手を差し出す菫。ぎこちなくその手を取り立ち上がる翔。
「ようし!それじゃアレやりますか!」
友真が明るい声で言った。
「アレとは?」
遥が友真に問う。
「ふっふーん。まぁ、あんまり知らへん人もいるかもやけど。戦いが終わった後にはこうするねん。はい、皆右手を挙げてー」
敦志とギィネシアヌは得心が言ったと表情で笑って右手を挙げる。
皆が右手を挙げたのを確認すると、友真はそれぞれに手のひらをパァン!っと子気味良い音を出し合わせてく。
「ヒーローお疲れ様!」
ニコニコと笑顔を浮かべる友真。友真の行動に納得がいった皆にも笑顔が広がり、それぞれに手を合わせていった。
皆が健闘を称え合うその中にはもちろん翔も含まれていた。
っと、そこへ皆に呼びかける声がかかった。振り向けば東雲楓が立っていた。
また、久遠ヶ原から派遣された事後処理班の面々もいる。
その中にアストラルヴァンガードがおり、傷ついた皆にスキル『癒しの風』を発動し、傷を快癒させた。
「うむ。皆良くやってくれた。実質的な被害はゼロ。これは大戦果と言っても良いだろう。
今回は本当に良くやってくれたな。さて諸君。ここに一列で横に並びたまえ」
「え?何でですか」
「ほら、後ろを見てみろ」
皆が後ろを向くと、校舎の窓という窓から小学校の生徒がこちらを見ていた。
そう、小学生達も撃退士の戦いを見ていたのだ。
その一部始終を。自分達のヒーローの姿を目の当たりにしたのだ。
傷つきながらも、自分達を守ってくれた撃退士のその勇姿を。
ぽつぽつと各所から拍手が聞こえる。やがてそれはすぐに伝播し瞬く間に万雷の拍手に変わる。
その拍手に押されるように撃退士達は笑いながら一列になり皆、右手を天に突き上げた。
拍手と共に大歓声が巻き起こる。手を大きく振り、それらに応える撃退士。
すると、校舎から次々と小学生達が飛び出してきて、撃退士達を取り囲み握手を求めてきた。
「後は…光の英雄達に任せるわね…。うちは陰…。陰は目立たず去るのみ…」
いつの間にか小学校から姿を消し一人になっていた黒椿。
彼女は目立つことを良しとしていなかった。
子供達の笑顔を思い出し、優しく微笑み、去っていく。
ヒーローとは何か。戦うとは何か。守るとは何か。それぞれに得るものがあった
そして、一つ確実にいえるのは今回の戦いで誰一人失うことなく、
今と未来を繋ぐ大事な架け橋である子供達の笑顔とその未来を守れた。
その事実は、誇りとして深く胸に刻まれたのである。
了