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マスター:佐嶋 ちよみ
シナリオ形態:イベント
難易度:普通
形態:
参加人数:25人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/09/15


みんなの思い出



オープニング


 空港から出ると、湿度の違いを実感する。
 そよ吹く風には潮の香りが乗っている。海が近い。
「いつ来ても、なーんにもない街だなぁー」
 筧 鷹政(jz0077)は荷物を背負い直し、飛行機雲の残る空を見上げた。
 北海道は函館。
 フリーランスとしての仕事場から遠く足を延ばし、今日は完全なプライベート。


「あらあら、筧くん。よく来たねえ」
「ご無沙汰してます、佐江さん。お元気でしたか?」
 季節の花が咲き誇る庭先を越え、民家を訪ねると齢80頃の老婦人が彼を出迎えた。
「そうね、お父さんが亡くなって10年……。あなたみたいに、顔を見せてくれる子が多いから飽きない生活を送っているわ」
 お線香をあげていってね。そういって、婦人は鷹政を招き入れた。

 神原哲太。享年74歳。
 鷹政が小・中・高と通っていた剣道場の師範で、函館の道場が彼にとって最後の場所だった。
 アウルの能力に気づかず身体能力を手余ししていた年頃の鷹政へ、まっとうな『道』を教えてくれた人だった。
 そんな師匠が誰よりも大切にしていたのが妻・佐江である。病弱な佐江もまた、夫を支え支えられるように生活していた。
 長く連れ添った夫を喪った彼女の落ち込みぶりは目に見えて危うく、以降、年に一度は函館を訪れ、様子を見守っている。
 人望の厚さというのは、死してなお息づくもの。鷹政と同じように、師の残した彼女を案じ、また思い出話を語りに来る客人は多いらしい。
「それでねえ、あの人ったら言ったのよ。この子は、私たちの孫息子ですって」
「うっわ、先生……恥ずかしいなあ……」
 高校卒業頃の鷹政の写真が、壁に飾ってある。それを指し、佐江は肩を揺らした。
 ちいさな家には、たくさんの孫たちの写真が飾られている。
「今年はゆっくりしていくの?」
「そのつもりです。ちょうど、例大祭の時期でしょう。道場から、話が来まして」
「あらあらあらあら」
 函館山の麓にある、大きな神社の夏祭り。
 神社には剣道場が併設されており、初日には公開演武と奉納試合が開催されるのが習わし。
 人手不足が重なり、今回は遠方に住む鷹政にも声が掛かった次第である。
「久しぶりの晴れ姿ね。応援に行かなくちゃ」
「来てくれるんですか? 嬉しいな。函館は涼しいといっても、暑さ対策はしてきてくださいね」
「涼…… え? 暑いわよ?」
「……デスヨネ」
 道外から見れば屈指のリゾート地であることを、地元民は意外と気づいていない。




「はこだて」
『そう、函館ー。すっげー涼しい、マジ天国。今夜は帰りたくない。なーんて一週間滞在しますけどね!!』
 直近の情報交換をするつもりだった野崎 緋華(jz0054)の声は、能天気な言葉を聞いてわずかに震えを見せた。
『たしか、ここ三年くらい久遠ヶ原の修学旅行先になってたよな。でも、あれって冬じゃん。夏の函館は別格だぜぇ、何より朝獲りのイカが』
「活イカ、イクラ、毛ガニ、ホッケ、それから?」
『漁火綺麗だろー、砂浜たのしいだろー、回る寿司のレベルが高いだろー』
 緋華の声がクーラーよりも冷たくなっていることに気づかないまま、鷹政は指折り数える。
『修学旅行だけじゃなくってさー、たまにはプライベートで旅行に来ればいいのにな! こっちも祭りの人手が足りなくて』
「……へえ?」
『完全に安全と言い切れるのは、相変わらず市内限定だけど…… あー、野崎さんにも見せてあげたいねぇ、夏の夜景!』
「見せてくれていいんだよ?」
『まーた、そういうことをー』
「久遠ヶ原の学生25名、受け入れ先さがしといて。待たせやしないさ」
『     』



●四度目は、夏
 函館旅行の案内が、斡旋所に貼り出されたのは翌日のことだった。緋華の仕事は早い。
「三年連続、冬の修学旅行先だった函館ですが…… 卒業生のはからいにより、夏に小旅行の案内が来ました」
 正確にいうと案内させることにしました。
「地元の神社で大きな祭りがあるらしい。そちらは人手不足らしいから、手伝ってくれる子にはバイト代が出るよ。
報酬はないけど、観光・遊びに全力を注ぐも問題ない。一般の観光客もいるからね、迷惑はかけないように。
店の食材を食らいつくすようなことがあれば、『材料調達』など身をもって返すこと。『自分だけが楽しい』コトにはならないようにね」
 自分たちだけの街ではないこと。緋華は強く念を押した。
 観光都市にとって、訪れる人々もまた、街を作り上げる大切な存在なのだ。
「……せんせー」
「先生じゃないけど。ええと、なにかな?」
 パンフレットを睨むように眺めながら手を挙げたのは、人界知らずの堕天使・ラシャ(jz0324)。
「漁火、ってイカ釣りなんだよな? ナンデ体験ツアーは日中なんだ??」
「さすがに、本場の漁師さんの邪魔になっちゃうからね……。でもね、日中でも結構釣れるらしいよ」
「……化け物が這い上がってきたり」
「しません。……何かあったのかい、少年?」
 色白な少年の肌は、見るからに青ざめている。
「いや…… ないならいい。何かあっても、飛んで逃げるし」
「無理しなくても、他にもツアーはあるんだよ……?」
「だ、だって」
 少年の声は、震えている。しかし強がる様子を止める気配は無かった。
「オレ、今年の修学旅行……行けなかった……」
 りべんじしたい。
 切なる声である。
「いや、来年もあるんじゃない……?」
「そんなの、ワカンないだろう。ハコダテは、もう三回も行先になってるんだ。いい加減、ネタも切れてくるに違いない」
 だとしたら、行けるなら今。少年は言う。言ってはいけないことも言っている気がする。
「せっかくだから、ハコダテの海を楽しんでみたいんだ」
 冬の修学旅行では、楽しめなかったスポット。

 
 祭り。
 夜景。
 砂浜に漁火、それからイカ釣り体験。
 定番の街歩きも視野に入れつつ夏の函館満喫ツアー、大切な思い出としませんか。





リプレイ本文

●新鮮獲れたて、朝市!
 空港からのシャトルバスで駅前へ降り立てば、道路向こうすぐに朝市の活気が見える。
「これが朝市でスか……!」
「なんというか……魚介類好きな人間にとっては、天国のような場所だな」
 キラキラと瞳を輝かせる巫 桜華(jb1163)、その隣で穂原多門(ja0895)も目を細めた。
 二人は修学旅行でも訪れたことのある街だが、その時は日が落ちてからのイベントをメインに行動していたため、別物の様な活気に胸が躍る。
「多門サン、和食お好きでスかラね♪」
 新鮮な刺身、海鮮丼……食事処の看板も魅力的。
「まずは、試食でもしながらゆっくりまわるか」
「ハイ!」


(……三年間函館…修学旅行…に…続き…夏の…函館…ですか……)
 桜華と多門に続いてバスを降りたのは、キサラ=リーヴァレスト(ja7204)とサガ=リーヴァレスト(jb0805)の夫婦。
「夏に来るのは初めてだな」
「……夏の函館…も…一風…変わったもので…良いですね……」
 キサラの好物は、イクラとラーメン。それが主目的で、気が付くと修学旅行といえば常に函館を選んでいた。
 修学旅行は毎年冬だから、夏の函館は初めて。見慣れていた真っ白な雪景色ではなく、海の青も山の緑も鮮やかだ。
「夏場でも涼しいのはありがたいな。さて、どこから巡るかは……聞くまでもないな?」
「……眠い…ですけど…イクラ…と…ラーメンの為…致し方…ありません……」
 いつにない早起き、それは新鮮な海産物を楽しむため。
 目をこすりながら、他方の手でキサラはサガの腕を掴む。
 今年の二月に函館を訪れた時は、二人は未だ『恋人』だった。今回は四度目だけれど、『夫婦』としては初めて。
「……行きましょう……」
 眠さを残す声にサガは笑いを零し、深く頷く。
 では、行こうか。イクラ丼の美味しい店へ。


 磯の香りに威勢の良い呼び込みの声。実際に市場へ飛び込めば、あっという間に雰囲気に飲まれる。
 ゆでたてトウキミ、カニの足、朝獲りイカにウニ、鮭、……。市場は見目賑やかに、客人をもてなす。
「そこの若奥さん、味見してってよー!」
「エッ……」
「若…… いや、まだ奥さんとかじゃなくてだな」
 並んで歩く姿を鮮魚店の親父に冷かされ、桜華は恥ずかしがって多門の背後へ隠れる。顔が熱くて、思わず彼の腕へ押し付けて。
「多門サン……」
「あ、ああ。そうだな。そろそろ、落ちついて朝食にするか。主人、海鮮丼で良い店は何処だ?」
 食事処ゾーンとなっている建物もあるが、そことは別途に展開している店もあり、何処も長蛇の列。
「ガイドブックに載ってるところは、どこも満席っしょ」
 ニヤリと笑い、親父はとっておきの場所を教えてくれた。それは、店の奥。
 店先で好きな魚介類を選んで、奥で調理して食べさせてくれるというのだ。
「ふう……。ようやくひと心地か」
 酒を注文し、喉へ流し込んでから多門は深く息を吐いた。
「賑やかで楽しいな。……新婚旅行なら、こういうところに来たいな……」
「ほえ、新婚旅行ですか? そうですネ、美味しいもの沢山食べて雪見温泉とかモ…… ……」
 空いた杯に酒を注ぎながら、桜華が会話をつなぎ……彼の言わんとすることを察する。
「って、もー! 多門サンたら!!」
 照れ隠しに新鮮な鮭の切り身を多門の口へねじ込みながら、桜華は頬を染めた。


「いやぁ、函館ですね!!」
 胸いっぱいに空気を吸い込み、若杉 英斗(ja4230)は両腕を伸ばす。
「♪はぁ〜〜〜〜r」

 ――ピッピーーー!!――

「あうとー」
「出だしだけなんですけど……既にマズイんですか……」
「厳しい業界なのよ……」
 ホイッスルを鳴らしたのは野崎であった。
 夏。観光地。しがらみのない旅行。開放的な気分になった若者たちがハメを外し過ぎないか見回るのが彼女の今回の仕事。
「っと、野崎さん。こんな時まで見回り!? せっかく函館まで来たのに!? 始まったばかりですよ、美味しいモノでも食べに行きましょうよ」
 北海道といえばっ!! 海鮮!! いくら!! うに!! ほたて!!
 息巻く英斗の姿に、野崎も折れる。
「そうだね。まだまだ始まったばかり、ゆっくりしようかな」
「海鮮丼を食べに行きたいんですけど、野崎さん、このへんでいいお店知ってますか?」
「ヘタに安く仕上げようとすると変なの掴まされるよね。少し、一緒に歩こうか」
 行列の長さに惑わされるべからず。
「誤魔化しの効かないモノで考えるなら、うになのよね」
 そう話す野崎は、生き生きとした表情をしている。見回り役を務めてはいるが、今回の旅行を楽しみにしている点ではどの学園生にも負けてはいなかった。
 英斗からの誘いは意外だったけれど、とても嬉しい渡りに船。
「たしかねぇ、専門店があるのよ。朝市エリア内なんだけど、ちょっと外れた場所で…… 他のものも美味しくて」
「詳しいですね、野崎さん?」
「じっ、事前チェックは責任者として最低限のアレっていうか! 断じて行けたらいいなとかそういう意味ではなく」
「行きましょうよ、美味しいんですよね!?」
「……うっ、うん」
 ここで見栄を張っても仕方なし。英斗はからかうような青年でなし。
「えーと、あれかな?」
 看板を見つけたのは、英斗が先だった。なるほど、立地的なものか他の店舗に比べれば客の入りは少ないようだ。
「新鮮な具材の天丼も贅沢だなーー。でも、やっぱり海鮮!! 三色丼にしよう!!」
「あたしは天丼にしようかな」
 席に着いてメニューを開いて、追加注文が増えること。二人で分け合えばいいんじゃない、は誘惑の強いキーワード。
「お待たせいたしました、イカ・カニ・ホタテの三色丼と、特製天丼です」
「わー!! 見て見て英斗くん、エビが丼の蓋からはみ出してる!」
「イカなんて動いてますよ!! ――うまいっ! さすが函館!!」
「来たかいがあるねぇ。はるばると」
「あっ。野崎さん、それを今言いますか」


「……たっぷりの…イクラ…が…たまりません……」
「相変わらずイクラが好きだな、キサラは」
 幸せ至極。キサラがとろけそうな表情をするものだから、サガはついつい笑ってしまう。
 昨年とは違う店に入ったが、ここも負けず劣らず美味なイクラ。口の中で弾けてとろける。
「……サガ様…は…何に…します……?」 
「では、私もイクラ丼を」
 彼女が、あまりにも幸せそうに食べるから。
 函館へ何度来ても、どの店に入っても、結局オーダーするのはイクラ丼なのだが、何度食べても美味いものは美味い。
「うむ……美味いな」
 イクラには塩漬けと醤油漬けがあるのだということもここで知ったが、どちらも美味い。



●祭りの音、はじまりの笛
 路面電車の終点駅から歩いて10分ほどのところに、その神社はある。
 参道の両端を祭りの旗が飾り、遠く雅楽の音が響き渡る。
(旅行……か。『修学旅行』は、一人じゃ参加しにくかったし)
 街の端へと降り立った天宮 佳槻(jb1989)は、函館山に抱かれるようにそびえる神社の姿を見、それから振り返って彼方へ続く水平線を見遣った。
 海と、山が近い。空港や駅前のような賑やかさとは違った落ち着きの中に、観光案内板があちこちに立っている。
 なるほどの観光地、けれど修学旅行にも参加したことのない佳槻にしてみれば『楽しみ方』自体がピンと来なかった。
 綺麗な景色、美味しい食べ物、豊かな自然……それを悪いものだとは言わないけれど、『それだけ』に集中することが、どうもピンと来ない。
 今回は『アルバイト』の案内もあったから、それならば、と参加した次第だ。
「おはようございます、今日はよろしくお願いします」
「えっ、天宮君!?」
 そんな佳槻の訪れに、剣道大会の準備を始めようとしていた筧が驚いて顔を上げる。
 手にしていた長テーブルを広げてから、佳槻の下へ駆け寄った。
「手伝いに来てくれたんだ、ありがとう」
「試合とかでは全然役に立たないと思いますので、裏方をできればと」
「それで、こんなに早く来てくれたのか!」
 筧が時間を確認する。おそらく、到着して真っ直ぐにここへ来たのだろう。
「そうだな、張り切ってきてくれたことだし……」
「? 張り切っているわけではありませんが」
 いつものことだと佳槻は淡々という。
 筧はそれに対して何も言わず、ただただ笑って少年の黒髪をかき回した。
「併設道場の掃除をお願いしていいかな。子供たちが来るまで時間があるから、今のうちに頼みたいんだ」
 タイムスケジュール表を手渡され、佳槻は全体の流れを把握する。
「掃除なら得意分野です」
「だと思った」
(韋駄天を使えば時間短縮できるな、それから……)
 佳槻の思考は、効率の良い行動パターンの組み立てへと集中していった。


「あさいち……」
 鳥居を見上げ、呪うような声を出したのは音羽 聖歌(jb5486)。
「神社の娘としては、やっぱりこれかな、と」
「智、お前な……」
「地元での夏祭りは小学校の校庭だったし、こういう楽しみ方は逆に新鮮だ」
 呪いの声は、そのまま隣に居る悪友・礼野 智美(ja3600)へと向けられた。
「朝市に行きたいんだったら、軍資金は多い方が良いだろ? 今日のうちにバイト代を稼いでおこう」
「あのなー! 俺は神社のイベントの手伝いなんて、お前ん家の正月しか経験ないんだぞ!」
 顔色一つ変えやしない智美へ、聖歌は食って掛かる。
「聖歌は身体大きいし、ある程度剣道の心得もあるだろ? 模擬試合はちょうどいい」
 いざとなれば、出店だってできるんだから。智美はそう付け足すが、とつぜん引っ張り込まれた聖歌にしてみれば出店手伝いなんて余裕もない。
「剣道の初歩の初歩は解るが……智相手じゃ不利だろーがっ」
「大丈夫大丈夫、適当に相手して負けてくれれば良いんだから」
 ペシンと青年の腕を叩き、智美はスタスタと進んでゆく。
「……うちは家族が多いから、朝市で安くてうまい食材買って帰りたかったんだが……」
「そんなに落ち込むな。荷物持ちは手伝ってやるから」
「……お前の財布も当てにするぞ」
 先を歩く智美が、肩を落とす聖歌へ意地の悪い笑みを投じる。恨みがましく、青年は悪友を見上げた。
「俺だって、出立前に行く予定だし……。ほら、妹にリスト渡された」
 どうしても、朝市をメインに行動しているメンバーたちに比べれば時間は少なくなってしまうが、翌朝イチバンに動くという手もないわけではない。
「それを先に言え……!!」


「祭イエー! って、こんなお盆ドストライクの時期にやるものなん……」
「ここの例大祭の為に、お盆なら先月済ませているぜ」
 楽しげな雰囲気に浮かれる小野友真(ja6901)へ、函館出身の加倉 一臣(ja5823)が片目を瞑る。
「……お盆て、済ませておけるもんなんや……? 自由やな函館!?」
「まるで俺の様だろう」
「あーーー わかる気ぃする」
 大事なものを優先するためなら、労力は厭わないよ?
「罪深い祭りやな。全力で満喫せな!」
「そゆこと!」
 話しながら境内まで上がると、関係者たちが午後からの剣道大会に向けてせわしなく動き回っていた。
 一臣は、その中に見覚えのある赤毛を見つける。
(なるほど、卒業生のはからい……)
「やっほ、筧さん」
「おー、加倉! 里帰りかい?」
 紺の上下で揃えた剣道着姿の筧が笑顔で振り返る。
「かーけーいーさーーーーん!!! 暑中お見舞いもうしあげまっす!!」
 二人が会話をしている間に背後を取った友真が、ずさっとタックルを――
「遠路はるばる、ようこそ函館!」
 伸ばした腕の片方を掴まれ、くるりと返される。痛みはないが、カクンと力が抜けて……まばたきを一回、目を開けば友真の視界には蒼天が広がっていた。
「まさかの合気道」
「この格好ですし、なんとなく」
 一臣と筧のやり取りを聞きながら、友真は首を振って立ち上がる。玉砂利に敷かれたビニールシートの上にコテンと倒された具合だが、不思議と体に痛みは無かった。
「筧さん、どこ行っても働いてるね。演武や大会の手伝いがあれば、俺らもやるよ」
「何も知らんけど、裏方も見れるなら興味ある!」
「ありがと。せっかくの旅行だろうに、良いの?」
「俺は帰省でも来るし、修学旅行でも来てますからね。友真も」
「そーそー! 今年は裏夜景もバッチリ見ました!!」
 これ、そん時の写真な!!
 友真が今年の修学旅行の様子を写メで見せると、そのメンツに筧は咽こんだ。
「それじゃあ、今日は地元の祭りに一肌脱いでもらおうかな」
「メインは剣道大会なんですよね」
 確認し、一臣は考え込む。
(やってたとはいっても、短期間だし……今も剣術を含む近接戦闘の実技科目は受けてるけど)
 実践不足は、否めない。
 ましてや、眼前に居る人は日常で刀を振り回している。
(……でも)
「折角の機会だから手合わせ願おうかな。ね、筧さん」



●街歩き
 駅前から海沿いに歩いて20分ほどで、ハイカラな建物の並ぶ西部地区へと辿りつく。
 赤れんが倉庫群、石畳の坂、古くは明治時代から続く和洋折衷の建物たち。
「うわぁ……目移りしてしまいますね」
 赤れんが造りの貸衣装店で歓声を上げるのは北條 茉祐子(jb9584)。
 スタンダードな和装はもちろん、大正ロマンやハイカラなドレスなど、時代を彩る様々な衣装が所狭しと並んでいる。衣装姿で地域散策もOK。
 大人っぽい着物、ちょっとゴージャスなドレス。それらも非日常的で素敵だけれど……
「街並みに似合うのだとしたら…… こんな感じでしょうか」
 ぐるりと室内を巡ってみて、茉祐子が選んだのは女袴。髪結い紐より、少し深い色合いの藤色を。
「お着物も悩みますね。うーん、お花の柄の江戸小紋も素敵ですが……」
 ここは定番の矢絣だろうか?


 明治に建てられた公会堂ではドレスの貸し出しもしていて、建物内での写真撮影もできる。
 服飾デザインに興味のあった地領院 恋(ja8071)は、100着近いドレス、そのデザインや様式に目は奪われっぱなしだ。
「どれにするか、決まりましたか?」
 微笑ましく見守っていた幸広 瑛理(jb7150)が訊ねると、ハッとして彼女は振り返る。
「えっと、あ、その…… ……どれも素敵ですけど……でも、アタシに似合うかな」
 そうだった。試着するという流れだった。思い出して、照れがにじむ。
 恋にとって、初めての北海道。
 テレビやポスターで見慣れた街並みが触れられる距離にある現実は、彼女の心をくすぐって止まない。
 どこかまだ、足元がふわふわしている気がする。
「………男性物、着ちゃダメですかね?」
 臆病な発言に、今度こそ瑛理は肩を震わせて笑った。
「ふふ、男性物を着られたらエスコート出来なくて困るでしょう? ……僕の為に着て見せて下さい」


 晴天に、明るい色の和傘を広げればどことなく心がウキウキしてくる。
 ハイカラさん風に仕立ててもらった髪型も、どこかくすぐったい。
「ふふふ……、やっぱり北海道は涼しいですね」
 街中を歩いていても、何処からとなく吹く風は常に潮の香りを纏っている。茉祐子は興味深げに周囲を見回しながら散策を楽しんでいた。
(歴史の無い所なんて、世界中どこにもないんですけど、その中でも特に、函館は『歴史の街』と言う気がします。やっぱり五稜郭での戦いがあるからでしょうか?)
 坂の上からは、函館のランドマークの五稜郭タワーが見える。
 近くの案内板には、彼の戦争での敗軍の魂を祀る碑への行き先が示されていた。
「あれ? 茉祐子ちゃん? 茉祐子ちゃんだよね」
「野崎先輩」
 路面電車の行き去る音が響いたと思ったら、坂の下から見慣れた姿が。
 薄紅色の髪の女性は、茉祐子の姿に少し驚いた風に目を見開き、それから気安い笑顔へ戻す。
「見違えちゃった。和装も似合うねぇ。髪は自分で?」
「あ。衣装屋さんで、やってもらったんです」
「今度は、あたしにもいじらせてね?」
「え? え? ……は、はい」
 ――お姫様に年齢なんて関係ないったら
 そういえば茉祐子が野崎と出会ったのは昨年の初夏だった。結婚式へ参列という流れで茉祐子を楽しげに着飾っていたのが野崎である。
「野崎先輩、もしお時間があったら一緒にケーキを食べませんか?」
 あの時のこと。
 今までのこと。
 戦いの場。安らぎの時間。
 美味しいお茶とケーキを囲んで、手足を伸ばして心をほぐして。
 今も歴史を紡ぐこの街で、のんびり振り返るのも良いかもしれない。


 控え室から恐る恐る姿を見せた恋は、クラシカルなデザインの青系のドレスに身を包んでいた。
 淡い水色をベースに、濃淡グラデーションのバラがウェストから裾に向けて広がっている。
「青色か、好きな色だ。恋さんの瞳の色ですね」
 フロックコートに着替えていた瑛理が、眩しそうに目を細めた。
「きっと似合うと思って」
 そして、彼女が支度をしている間に選んだ、涙型のペンダントを胸元へ。
「……とても綺麗です」
 見られるのが勿体ないけれど見せびらかしたい、そんな気持ちを素直に伝えたなら、純粋な彼女は委縮してしまうだろうか?
「それでは、記念撮影へ行きましょうか、お姫様」
 恭しくその手を取れば、恋の頬はたちまち朱に染まる。
「こうすると……ほら。花嫁の様です」
 さやかに風の通るバルコニー。
 街を海を見下ろすその場所で、瑛理は白いレースを恋にそっと被せた。
(花嫁…… 誰が……誰の?)
 魔法に掛けられたように、恋は瑛理を見上げる。その青の目元を、彼の親指が優しく撫でた。



●遥かなる海底より
 観光地として栄える函館湾と対となり土地を挟むのが青森を臨む津軽海峡。海峡に面した海岸線には、小さな漁港が点在している。
 イカ釣り体験ツアーが行われるのは、そんな漁港の一つだ。
「ゴーゴーぉ♪」
 白野 小梅(jb4012)が漁船の舳先に立ち、ビシリと沖合いを指差す。強い潮風がポニーテールを元気に揺らす。
 ――仕事ばっかりしてないで、たまには遊んでおいで
 学園の先生に、そう言われて来たのは良いけれど……Robin redbreast(jb2203)は娯楽旅行だなんて初めてで、何をすればいいのかわからない。
 直近で海と言えば、『仕事』で潜ったばかり。
「今回は海に潜らなくていいんだね」
 ライフジャケットを着こみ、各種説明を真剣に聞き入っていたロビンが誰に言うでなく呟いた。
「うん? ソウダナ、今回は ……『は』?」
 少女の声に気付いて振り向いたのは、人界知らず少年堕天使のラシャ。
 どこへ行けばいいのか思い浮かばないロビンは、見覚えのある少年の後ろをなんとなくついていっていたのだが、当人は全く気付いていなかったようだ。
 もちろん、『直近の海のお仕事』で彼を海中から驚かせたのが彼女であることも知らない。
「釣ったイカは、納品しないんだ……」
 仕事ではない漁に、どんな意味があるのか。食べる分だけでいいなら、どれくらいが適量なのか。
 ぼんやり考えるロビンに対し、ラシャは無邪気にはしゃぎ……船べりから海面をのぞき込み、めまいを覚えてへたり込む。
「イカの怪物は出ないから大丈夫ですよ」
 柔らかな笑みで、少年の肩を叩くのはグラン(ja1111)。
 先のイベントでも、パニック状態のラシャをフォローしてくれていた。
「ところで、スルメイカとヤリイカの違いはご存知ですか?」
 どちらも函館で獲ることができるが、今の旬はスルメイカ。
 茶に煌めく皮が特徴的で、ふっくらした形がポイント。回遊し津軽海峡を越えてきたスルメイカの旨味は日本でも指折りだろう。
「グランは、本当に物知りだなーー」
 挿絵のスペースを空けておいて、ラシャは持参したノートへ教えてもらったことを書き込む。人界で学んだ事を記す、彼の宝物だ。
 そうこうしている間に船のエンジン音が大きくなり、小さな船がにわかに揺れ始める。
「出航すんぞーー その辺さ捕まっておけー」
 プロペラが海水を割る。グン、と舳先を上げて、漁船は港から海へと進み出た。
 ――ごろんごろんごろんごろん
 ポーズをとっていた小梅が、床を転がってロビンたちの足元へ。
「えへへ」
「ダイジョブか? 釣り針、絡まってないか!?」
 照れ笑いする小梅へ、ラシャが慌てて周辺のものを片付け始めた。


「…………」
 ロビンは、無心でイカを釣り続けている。最初の一、二杯を釣り上げると、要領は手が覚えた。
「えいさーーー!! そぉい!」
「だー……!!!?」
 他方、オーバーアクションで果敢に攻めるのは小梅。
 竿を大きく振りかぶって――ラシャをひっかけて―― 海面へ投じたぁ!
 \ざぱん/
 パーカーのフードやポケットに、イカやら小魚が入った状態でラシャが這い上がってくる。
「きゃはは! ごめんねー、大漁だね!!」
「だいじょぶ……」
「今度こそォー!」
「!!」
 てぇい。小梅、めげずに再アタック。が、今度は釣り針の先端が自身のスカートの裾に引っかかる。
 思い切り振りあげた結果、盛大にめくれ上がった!
 それはラシャは背中に入り込んだイカを取り出した瞬間で、同時に顔面へ盛大に墨をかけられたので見えてない、見えてない。
「……洗う?」
 ロビンが小首をかしげ、顔を真っ黒にして目元をこする少年へ呼びかける。
「うぐ、頼む……海水が目に染みて、いた
 \どぽん/
「まるごと洗った方がいいとおもって。どう?」
「……夏の海って、気持ちイイよな」
 見かけによらぬ剛腕で少年を抱き上げ、海へinしてはロビンは問うた。
 あきらめの表情で、ラシャは遊泳を楽しんでいる。
(気がかりはありますが…… こうした気分転換も悪くないでしょう)
 満喫する少年少女の姿を見守りながら、グランは久遠ヶ原にいる『気がかり』の姿を思い浮かべていた。



●お昼の朝市!
「……少しは落ち着いた?」
「ああ……」
 一足先にチェックインしたホテルのツインルームに、淹れたてコーヒーの豊かな香りが満ちる。
 花見月 レギ(ja9841)から差し出されたカップを受け取り、ファーフナー(jb7826)は呻くように声を返す。
 ソファへ深く沈めていた低血圧の体に、優しい熱が広がり始める。
「俺、目的のない旅は経験がないから……少し楽しみだな。ファーフナーは?」
「楽しみかどうかはわからないが、経験がないのは同じだ」
 何に警戒することなく時間を楽しむことこそが目的だなんて、めったにない。
 そんなプライベートを、誰かと共に過ごすということも。
 ――良かったら、一緒に行かない?
 話を持ち掛けたのは、レギだった。
 助けたい存在を守り切れず、塞ぎ込んでいたファーフナーの様子に気付いたのだろう。レギが話題に挙げることはなかったが、心遣いは察した。
 有り難い、と素直に思う。
「ここからだと、歩いて朝市へ行けるんだって。もう昼過ぎだけど……見て回る場所はあるみたい」
「市場か」
 一通りのガイドには目を通してある、ファーフナーは記憶を手繰る。
 賑わいのピークを終えて、落ち着いた界隈を歩くのも悪くない。

(……かにが見たい、な)
 そんなことをボンヤリ考え、レギは観光客もまばらな市場を歩く。
「おっ、外国からのお客かい。どっがの俳優さんみたいだねぇ。ほら、ウチのカニを食べてみな。よそじゃちょっと食べられないよぉ」
「……あ。えっと」
 ゆでガニ。熱い。指先であたふた摘まみつつ、ひょいとレギが視線を逸らすと生け簀には大量のカニがひしめいていた。
「かに……」
「毛ガニもタラバもあるよー、どいつも元気だ」
「……うん。すごい。真っ赤……」
 時折、水面に近いカニが脚を上げて水を跳ねる。レギはしゃがみ込んで、その様子に見入った。
「なるほど、毛ガニの方が甘味は強いのか」
 他方、カニの食べ比べをしていたファーフナーだが……一台のトラックが近くの食堂前に停まり、見覚えのある少年の姿が降りてきたことに気づく。
「……、……ラシャ」
「ファーフナー!」
 逡巡し、名を呼べば、赤褐色の瞳がこちらを見返した。
「ファーフナーも、ハコダテに来てたんだな! 修学旅行はしなかったのか?」
「修学…… そうだな」
 修学旅行不参加者向けのイベントではないはずだが、少年堕天使にとってはそのようなものらしい。
 彼とは袖が触り合うような微かな縁だが、少しでも気にかかるなら声をかけておきたい。
 ファーフナーは、失った経験からそう意識するようになっていた。
「へへっ、イカ、たっくさん釣ってきたんだ! これから、ミンナで食べるんだ。ファーフナーは一人か?」
「いや、……連れが居る。花見月」
「……うん?」
 呼びかけられ、レギが振り向いた。ファーフナーが顎で示す先には金髪の少年がいる。
「ファーフナーの知り合いかい? こんにちは、俺は花見月 レギ」
「ラシャだ! ラシャ・シファル・ラークシャサ。ファーフナーは、命のオンジンなんだ」
 柔らかな物腰のレギへ警戒するでなく、ラシャは背伸びをして握手を交わす。
「珍しいね、ファーフナー」
「……そうか?」
 こうやって、誰かを誰かに紹介するだなんて。
 ファーフナーは、変化しようとしているのかもしれない。いいことだと、レギは思う。
 辛いことが、あった。
 悔いることがあった。
 それに足を取られ進めずにいるのではなく、それを無駄にしないために。
「……ところでさ」
 ふふっと笑い、レギはファーフナーに向き直る。
「子供の前でくらい……伸ばしてみたら?」
「っ」
 ぐいーーー。
 深く深く刻まれた、眉間の皺を。
「うん。これで伸び ……ないね……」
「……何をする」
「少しは、怖い顔じゃなくなるかなと思って。いや。悪気はないんだ。ええと……」
 やっぱり、怖いね。
 レギが純朴極まりない感想をこぼすと、ラシャは遠慮なく体を折って笑った。ファーフナー一人、憮然とした面持ちをしていた。


 漁船で漬け込んでいたイカの沖漬け、定番の刺身、イカソーメン、焼きイカ……新鮮なイカ料理が所狭しとテーブルに並ぶ。
 そして炊き立てごはん。
「「いただきまーす!」」
 【イカ釣】メンバーは食堂のテーブルを囲み、釣果を満喫した。
「すごい、すごい! お刺身、まだ動いてるよぉ!!」
 小梅は食事さえも楽しみに変える。
「こっちがソーメンのつゆでぇ、こっちが むぐ!? うぐぐぐ!?」
「ふは、シロノ。イカの吸盤がくっついてるぞ」
 ラシャが、少女の頬へ張り付いたイカの脚を吸盤ごと離してやろうと指を伸ばす。
「美味しいね」
 ロビンは、どこ吹く風でモグモグしている。
 食堂の人に教えてもらった、一番おいしいというイカ刺しの食べ方。
 あつーいご飯にイカ刺しをのせ、おろし生姜をのせ、醤油を回しかけ、そのままかきこむ!!
「シオカラとジャガイモも、んぐ、こんなのクオンガハラでも食べたことがないぞ!」
 程よく疲れた体に、ピンと歯ごたえのあるイカが美味い。
「贅沢ですねぇ」
 オプションで鮭とウニを足して海鮮丼としたグランも満足げだ。
「残ったイカは、発送していいということでしたよね。せっかくなので、私は他の土産物も見てきます」
「うん? 時間はまだあるだろう、グラン」
「ええ、そうなんですけどね」
 早々に席を立つ青年を、ラシャが見上げる。が、考えるところがあるなら引き留めるわけにもいかないだろう。

(悩みの中のようですが、彼女の笑顔を守ってあげたい……。何がいいでしょう)
 一人で朝市を歩きながら、グランは土産を届けたい少女を脳裏に浮かべる。
(困ったものですね。……とはいえ)
 直接的な方法は、きっと気負わせる。どうすることが、いいだろう?
「いい匂いですね。メロンですか」
 メロンを始め、北海道で獲れる瑞々しい果物が並んでいる店先でグランは足を止める。
「……北海道からの残暑見舞い、としましょう」
 あて先は、久遠が原にあるレストラン。彼女が料理教室で通っている場所。
 一筆添えれば、彼女も一緒に味わうだろう。


 朝一番にイクラ丼を堪能して。
 サガとキサラは朝市の賑わいを楽しみながら、近郊の地区を軽く散策……そして。
「昼食はどうしようか。キサラ、どこか希望はあるか?」
「……あの…もし、よければ……修学旅行で行った、ラーメン屋さんで」
 味噌バターラーメンを。
 夏にはちょっと濃厚かもしれないが、北海道の味と言ったらコレ。

「……忘れられなかった味…また…食べれるなんて…嬉しい……」
「キサラ、口の周りがラーメンの汁でべとべとだぞ?」
 はふはふ。ラーメンに夢中になるキサラの口元を時折ぬぐってやりながら、サガも幸せを味わう。
「この前来た時も美味しかったが、やはり美味いな」
 彼女が夢中になるのも無理はない。バターが溶けきらないうちに、サガも自身のラーメンと向き合った。
 冬に、体を温めるラーメンもいい。
 夏の暑さの中で食べるラーメンもまた、冬とは違う気持ちよさを与えてくれた。


「ふーっ。海鮮丼、美味かったなアルねぇ! 次は何にする?」
「そうだな……。獅堂、この辺りは他に何が有名なんだ?」
 長い白銀の髪を背へ払い、フローライト・アルハザード(jc1519)は獅堂 武(jb0906)を見上げる。
「甘いものもイイらしいぜ。あ、ジェラート屋だって!」
「む。ジェラート、か……」
 いち早く店の前へ行き、武はこちらへ手を振っている。元気な若者だ。
 店からは色鮮やかな氷菓を手にした少女たちが、はしゃぎながら出てくる。
 腕を組んだ男女が、睦まじく店へと入ってゆく。
「アルねぇー、どうする? 他のにする?」
「いや、今行く」
 自分はきっと、あんなふうには笑えない。笑わないが、武はフローライトへ反応を強いることはなかった。
 美味しい?
 疲れてないか?
 彼女を案じながら、誰より楽しそうに道を行く。
 ――函館の夜景は、すっげぇ綺麗らしいな!
 そういって、今回の旅行へ連れ出してくれた。
(夜景か……)
 他の観光客たちも、夜が来ればあの小さな山へ登るのだろうか。
 ぼんやりと考えながら、フローライトは武が扉を開けるジェラートショップへと足を踏み入れた。



●祭り本番!!
(神社というと巫女殿を思い出すのぅ……。学園で夏バテしておらねば良いが)
 浴衣姿で射的屋を担当するのは久世姫 静香(jc1672)。
 学園へ来て日は浅いものの、久遠ヶ原で生活していくには何かと入り用であると実感してきたこの頃。
 旅行もできてアルバイトでしっかり稼げる今回の企画は、良い条件だったように思う。
(こういう機会に、少しアルバイトなぞしてみるのも良いかもしれぬしな)
「お疲れ様です、調子は如何ですか?」
「これは天宮殿。うむ、だいぶ慣れてきたぞ。要領を覚えてしまえば、どうにかなるものじゃな」
 出店は今回が初めてだという静香を、簡単にだが佳槻がアシストしていた。
 祭り全体、特に剣道大会の進行もあったから、顔出しできるのはその合間を縫って、ではあったけれど。
 開店準備の頃に比べ、客のさばき方もこなれてきたようだ。
「日差しが強くなってきていますから、水分をしっかり摂ってくださいね。簡単な差し入れですが」
「これは助かる」
「おっ、射的かぁー、懐かしいねぇ」
「ねえちゃん、俺らにもやらせてくれや」
「む」
 佳槻から冷えたスポーツドリンクを受け取っている間に、たちの悪い酔っ払いが二人連れで姿を見せる。
「あぁ〜? ンだ、この銃はよう。的に届かねぇじゃねえか」
「お客様、台を越えての―― ええい、行儀の悪い!!」
 射的台から大きく身を乗り出し銃口で景品を突き落とそうとする酔っ払いども。
 静香が怒りを浮上したところ…… 謎の鳴き声とともに酔っ払いの体が浮上した。
「お行儀の悪いお客様には、神様のもとへお引き取り願いましょうか」
 召喚したヒリュウに襟首をくわえさせ、佳槻が笑顔で手を鳴らす。
「うっ、うわぁあああああ!!」
「待てや、置いていくなよ助けろよ!!」
「心配は不要ですよ」
 勢いをつけたヒリュウが、酔っ払いを放り投げる。逃亡者の背へ落ちて、二人はベシャリと石畳の上に倒れた。
「……助かった。いつの時代も、ああいった手合いはいなくならぬの」
「神の膝元ですから、鳳凰くらい召喚しても威厳があってよかったかもしれませんが、まずはこれくらいで」
「……鳳凰」
「冗談です。それでは、他の店の様子も見てきますね」
「ああ…… 気を付けて」
(本当に……いろいろな人間がおるところじゃの、久遠ヶ原は)


 奉納試合の公開演武が始まると、誰からとなく拍手が沸き起こる。
 智美が、愛用の刀を手に姿を見せたのだ。
 美しい女性剣士の登場に、会場は盛り上がりを見せた。
「護神姫流――」
 気を練り上げ、素早い十字斬りを繰り出す。力強く大地を踏み、流れる所作の鬼神一閃で空を切る。
 刀を振るたびに風が揺れる。空気が震える。音が響き、観客の心を引き付ける。
「はッ!!!」
 締めに見せるは『飛燕』。飛ばした衝撃波は人々の間を縫って、会場端に設置していた巻藁三本を美しい断面で切り崩した。


 ノリと勢いで申し出ただなんて、そんなまさか。
 撃退士同士の、剣道試合。
 ビニールシートの上に正座をし、一臣は対戦相手を改めて見やる。
(わかってたけど、やっぱり筧さんは経験者なんだよなぁ)
 日に焼けた肌に、紺の道着がいやに似合う。防具を身に着ける動作の一つ一つが決まっている。
 サイズが近いからと一臣も筧のものを借りたが、こちらは白の上下。
(実戦とは違う、……なんか空気は懐かしい)
 一臣が腰を据えてやっていたといえるのは弓道だ。扱うもの、向き合うものはまるで違うが……試合前の緊張感は、同じ。
 周囲の歓声が、だんだんと引いてゆく。向き合うものにだけ、神経が集中していく。
(友真の前だしね、そうカッコ悪い姿は見せられない)
 面の紐を、キュッと締める。互いの視線が、ばちりとぶつかり合った。向こうも茶化すつもりはないようだ。
「がんばれー、一臣さーん!!」
 神前へ、礼。お互いに、礼。
 ――あ、鷹政さん
(やばい)
 歓声に紛れて、女性の声が一臣の耳にも聞こえた。これはやばい。まずい。
 とっさに、首を横へそらす。竹刀が、したたかに肩を打った。

「もっと早く来てくれてればよかったのに、黎ちゃん」
「え、や、……真剣そうだったし。気後れしちゃって」
 試合後。
 常木 黎(ja0718)の到着を笑顔で迎える一臣は、首やら腕やら痣だらけだ。
「一緒に応援したかったやん、引き分けやったけど」
 友真が笑って、黎の腕を引く。
「やー、三分間ながかった、ながかった」
「ほんっと長かったですよ筧さん! 見てよ、この痣!」
「剣道歴は短いとか言いながら、あの突きはなんですか加倉クン。熱烈な痕つけてくれちゃって」
 対する筧も、首元の擦り傷を始めあちこちに傷跡。
「男前な試合っぷりは、たっぷりカメラに収めたったで! 他にもなー、今日はたっくさん撮るん!」
「他人事のように言うね、友真? この後はお前の試合だよな?」
「安心していいぜ、小野君。筧撃退士事務所仮入社試験ってコトにしておいてあげるから」
「うわぁああああん!? 筧さん、なんやのそれ、絶対負けられへんやん!」


 お疲れさま。
 一通りの担当を終えて会場を抜けてきた筧を、黎が出迎える。
「スポーツドリンクと…… たこ焼き、程よく冷めてるけど。お腹すいたんじゃない?」
「はは、ありがと」
 道着姿のまま、筧は黎と並んで歩き始めた。祭りの人込みへと向かう。
「その、いいね……格好とか、さ、うん」
「え、なに? 聞こえなかったー」
「に、二回は言わない」
 目をそらしがちにはにかむ彼女へ、筧が幼稚に絡む。
「そういえば、到着けっこう遅かった?」
「あ、バイクで来たから……」
 函館には修学旅行で一度、来たことはあるが車道を走るのは初めてだ。
「思ったより疲れて、日陰で休んでた」
「言ってくれたら、下の道場開けてたのに」
「それじゃあ鷹政さんを見られないじゃない?」
「え?」
「あ、その…… 焼きそばも買おうか。ゆできみ……も?」
 照れ隠しに、黎は筧の袖を引っ張る。長い髪から覗く頬が赤く染まっていて、気づかれないようにと筧はこっそり笑った。かわいい。
「意外。こういうの、好きなんだ?」
「得意じゃないけど……なんていうか、そこはほら」
「うん?」
 あなたと一緒だから、なんて正面から言えるわけがないでしょう。
「ほら、ソースついてる」
 黎が指先で口元のソースを拭うと、筧の赤い舌がそれをなめとった。
「なっっ!?」
「今って、そういう流れじゃないの?」
「はい、激写ー!」
「友真くん!? 一臣くん!? ちょっと、二人とも……っ」
「じゃ、俺らは射的屋荒らしてくるんで! ごゆっくりどうぞー!!」
「あっ、筧さーん! これ、誕生日プレゼントのラムネ! 冷えてますよー!」
 一臣が、去り際にラムネを二本、筧に向けて放った。
「ありがと、加倉!」
「データ取り返さないと……」
「あはははは」
「鷹政さん、笑ってないで……」
 走りだそうとする黎の手首をつかんで、筧がしゃがみ込む。これじゃあ動けない。
「いいじゃない。向こうもデートなんだし、ゆっくりしようよ」
「……っ」
 顔が熱いのは、たぶん夏のせいだけじゃない。


(物凄く活気があるようじゃ。時代は変われども人々の笑顔は変わらぬ大事なものよな)
 休憩時間に入った静香は、そんな祭りの様子を楽しく眺めては歩いた。
(ところで…… 先ほど、不穏な言葉を聞いた気がするが)
 射的屋を荒らすとかなんとか。
 休憩を終えた静香が戻った店が、すべての景品を撃ち落とされていたのはもう少しあとの話。



●そして暮れゆく
(祭りの喧噪も活気があって良いですが……私には向きませんね)
 一通り廻ったリアン(jb8788)は、静けさを求めて神社をあとにしようとしていた。
 夜景スポットへは、ここから歩いていく事ができる。山頂まではいかずとも、落ち着ける場所はあるだろう。
「夜景は綺麗じゃが、今のうちに祭にも行くのじゃ♪」
 彼とは反対に、今から祭りを楽しもうと石段を上る少女がいる。アヴニール(jb8821)だ。
 リアンが暮れる夕日に気を取られてたほんの一瞬、少女がぶつかってきた。
「……っと!! 失礼、大丈夫でしたか? お怪我は?」
「すまないのじゃ! 急いでいた故……」
 アヴニールは相手を見上げ……自然と目があい、言葉を失う。
「リアン? リアンではないか!!」
 間をおいて、改めて青年へしがみつく。その名を呼ぶ。
「まさか……こんな所で……っ! ご無事で何よりで御座いました……お嬢」
 小さな腕をそっと離し、リアンは恭しく膝をつく。人形のような冷たい印象を与える笑顔から、素の温かみを感じさせる微笑へと変わる。
「……ずっと……お探し申し上げておりました。人界にいらしたとは…………」
 悪魔の主人に拾われた、ハーフ天魔のリアン。
 戦火で主家と離れ離れになり、令嬢のアヴニールの行方も知れずにいたのだが……
 まさか共に人界にいて、しかもどうやら同じ久遠ヶ原に身を寄せていたとは。
「元気じゃったか? 今までは如何していたのじゃ? お父様とお母様も一緒なのか?」
「――っ、申し訳……御座いません……」
 無邪気な少女の笑顔。言葉。当然の疑問を寄せられて、途端に執事の表情は曇った。
「私めの力が及ばず……ご主人様と奥方様は……」
「……お父様と、お母様……が……」
 目を伏せ顔をそらすしぐさから、その先は聞かずともわかる。
 アヴニールは、崩れ落ちそうになる足に、意識的に力を込めた。
(今まで……皆が、どこでどうしているかわからず……ずっと、ひとりで)
 ずっとひとりでいた。いつか、家族に再会できると信じればこそ、笑顔を作ることもできた。けど……
(でも)
「……お前は、生きていてくれたのじゃな、リアン……。もう、我は一人では……ないのじゃな」
 寂しい。寂しい。幾千の夜を泣いて過ごしたことを忘れない。
 見えない希望を追う辛さを忘れない。
 そして……この手の中にある、戻ってきた、温かさを忘れたことなど、なかった。




 漁火のきれいな砂浜で、有志たちが集まって小さな花火大会となっていた。
「やっぱり、線香花火は、外せません。はかなくて綺麗です」
「水の張ったバケツはこっちね、燃え尽きたらポイ捨て厳禁だよー」
 遠く、野崎が呼びかけている。
 アルティミシア(jc1611)は声を返し、持ち込んだ線香花火を眺めては笑顔になる。
「こっちからだとよく見えそうですよ、先輩」
 花火を手に、恋は瑛理へ呼びかける――と同時にフラッシュ。
「笑顔が素敵だったのでつい」
「せ、先輩!?」
「素敵な思い出ですよ」
 瑛理は毒のない笑顔でスマホをポケットへ戻す。
「〜〜〜もう、そうやって」
 照れることにも、慣れてきただろうか? 夜だから、気にならないだけ?
 空を彩る月も、星も、水平線の漁火も、凄く綺麗で。その中でする花火も鮮やかで。
 自然と笑顔が多くなる。
「ご一緒してくださってありがとうございました」
「此方こそ。とても素敵な夏になりました」


 浴衣姿で参加しているのは、多門と桜華。
 黒無地の浴衣は多門の体躯によく似合っている。桜華は、蒼地に朝顔を咲かせたものを。
「花火も漁火も、綺麗で儚いイメージがあるが……」
 遠くに揺れる光。手元の、鮮烈に咲いては消えゆく光。どちらも大切に見守り、多門は言葉を探す。
「俺は桜華と一緒に、一歩づつ着実に歩んでいきたい……。来年も再来年も、この風景を桜華と一緒に見られるように」
「……フフ」
 多門の持つ花火が消え、桜華の指先、線香花火の迸りが二人の間に静かに咲く。
 暖かなオレンジ色の火の玉。桜華にとって、多門のよう。彼に対する愛しさと頼もしさが沸き上がり、彼女は微笑む。
「多門サン……。暗闇でも貴方という光がいるから、うち、迷わないよ」


「綺麗ですね。あいつらには、この美しさは、理解出来ないでしょうけど」
「あいつら?」
 向かい合って線香花火を楽しむ野崎が、穏やかな声音でアルティミシアへ訊ねる。
「故郷の馬鹿共です。あきれて言葉も出ません」
「この花火を楽しめないなんて、寂しい奴らだね」
 天界や魔界から人界へ身を寄せる者たちは、複雑な背景を背負っていることが多い。
 野崎は多くを訊ねる事こそしないが、外見は少女にしか見えない彼女にも沢山の事情があるのだろうと察する。
「まったくです。……あの馬鹿共、この花火みたいに、燃え尽きて、くれないかなぁ」
「あはは。打ち上げとかじゃないんだ」
「大人しめの花火が、良いのです。せめて、散り際くらい、控えめになってほしいものです」
 おとなしい表情で、案外と酷いことを。
 さて、この少女悪魔が背負いしものとは、どんなものだろう。



●瞬く夜景と終える一日
「アルねぇ、支度はどうだい?」
「……うむ。これでいいのだろうか」
 ホテルの部屋をノックすると、浴衣姿のフローライトが顔をのぞかせた。
 武が渡した簪で、髪もきれいに纏めている。
「おっ、似合ってる! さすがアルねぇ。羽織ものも用意してあるから、寒いようだったら言ってくれな」
「……準備のいい男だな」
「せっかくだし、楽しみたいし。北海道の夏の夜ってイメージしにくかったから」
 屈託なく、武は笑ってみせる。
「函館山辺りの夜景が綺麗らしいし、だべりながらいくとしようぜ」

 下駄の音が夏の夜に涼やかな響きを与える。
「山頂に着いたらさ、夜景をバックにして写真を撮ろうぜ!!」
「写真……? そんなもの、どうする」
「そうやって形に残しとけば、楽しかった思い出になるかもだしな。そう思わん?」
「……私には、よくわからないな」
「写真は、アルねぇにプレゼントすっから! 一か月も経てば、すぐに懐かしくなる」
(そういうものだろうか)
 フローライトには、ピンと来ない。
(……あ)
 どうやら祭りの帰りらしい親子連れとすれ違う。その先を目で追えば、暖かな明りの灯る民家の数々。
 気付けばずいぶんと坂の上まで歩いてきていて、山頂と言わずとも人々の生活の軌跡がまたたいているのがわかる。
(思い出、はわからないが……)
 今日一日、いろいろな場所を歩いて。人々の様子を眺めて。
 眺める――その行為の、幸せを感じたように思う。
 夜に明かりが灯る。そこに人の息吹が感じられる。
 心地よい平穏を眺めている事が、何よりの幸福であると。
「……感謝するぞ、獅堂。私一人では、ここに来ることもなかっただろう」
 笑顔未満の、ほんの少しだけ緩んだ表情を、フローライトは浮かべていた。




 函館山山頂は、いつの季節も風が強い。とはいっても、やはり冬に比べれば格段に暖かい。
「いっつも……暖めていたから……不思議…です……」
 それでも、キサラとサガは手をつなぎ、四度目の夜景を見下ろしていた。
「……また…来たい…です……」
「また来ような、キサラ」
 これが、決して最後ではない。きっと、機会はあるだろう。
 また、美味しいイクラと味噌バターラーメンを食べに来よう。
 若い二人は握る手に力を込めて、笑顔でうなずき合った。







依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: −
重体: −
面白かった!:17人

筧撃退士事務所就職内定・
常木 黎(ja0718)

卒業 女 インフィルトレイター
函館の思い出ひとつ・
穂原多門(ja0895)

大学部6年234組 男 ディバインナイト
天つ彩風『探風』・
グラン(ja1111)

大学部7年175組 男 ダアト
凛刃の戦巫女・
礼野 智美(ja3600)

大学部2年7組 女 阿修羅
ブレイブハート・
若杉 英斗(ja4230)

大学部4年4組 男 ディバインナイト
JOKER of JOKER・
加倉 一臣(ja5823)

卒業 男 インフィルトレイター
真愛しきすべてをこの手に・
小野友真(ja6901)

卒業 男 インフィルトレイター
薄紅の記憶を胸に・
キサラ=リーヴァレスト(ja7204)

卒業 女 アストラルヴァンガード
女子力(物理)・
地領院 恋(ja8071)

卒業 女 アストラルヴァンガード
偽りの祈りを暴いて・
花見月 レギ(ja9841)

大学部8年103組 男 ルインズブレイド
影に潜みて・
サガ=リーヴァレスト(jb0805)

卒業 男 ナイトウォーカー
桜花絢爛・
獅堂 武(jb0906)

大学部2年159組 男 陰陽師
祈りの胡蝶蘭・
巫 桜華(jb1163)

大学部3年264組 女 バハムートテイマー
陰のレイゾンデイト・
天宮 佳槻(jb1989)

大学部1年1組 男 陰陽師
籠の扉のその先へ・
Robin redbreast(jb2203)

大学部1年3組 女 ナイトウォーカー
Standingにゃんこますたー・
白野 小梅(jb4012)

小等部6年1組 女 ダアト
撃退士・
音羽 聖歌(jb5486)

大学部2年277組 男 ディバインナイト
仄日に笑む・
幸広 瑛理(jb7150)

卒業 男 阿修羅
されど、朝は来る・
ファーフナー(jb7826)

大学部5年5組 男 アカシックレコーダー:タイプA
明けの六芒星・
リアン(jb8788)

大学部7年36組 男 アカシックレコーダー:タイプB
家族と共に在る命・
アヴニール(jb8821)

中等部3年9組 女 インフィルトレイター
守り刀・
北條 茉祐子(jb9584)

高等部3年22組 女 アカシックレコーダー:タイプB
守穏の衛士・
フローライト・アルハザード(jc1519)

大学部5年60組 女 ディバインナイト
破廉恥はデストロイ!・
アルティミシア(jc1611)

中等部2年10組 女 ナイトウォーカー
函館の思い出ひとつ・
久世姫 静香(jc1672)

大学部2年2組 女 ナイトウォーカー