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マスター:ロクスケ
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:4人
リプレイ完成日時:2012/10/03


みんなの思い出



オープニング


 夏の始まりに、君に恋をした。
 君は小さい頃からずっと隣に居てくれたね。
 僕は地味で、綺麗な君の影に隠れるようにして、ずっと劣等感を覚えながら今まで生きてきたんだ。
 けど、
「夏の空は好きだな。こう、なんか青春って感じ!」
 焼き焦がす太陽よりも、眩しく微笑む君を見て、僕はこの想いを自覚した。やれ、幼馴染の美少女に恋をするなんて、どんなベタな展開だよ、とは思っているのだが、恋とはかくも理不尽なもの。この気持ちを自覚してしまったからには、もう後戻りは出来ない。
 僕は――――君に告白する。
「……月が綺麗ですね」
「あ、そだねー」
「……」
 一回目、失敗。遠まわし過ぎたらしい。
「凛、お前のことが好きだ」
「うい? 隙がどうしたの? あ、隙あり」
「ハメコンボェ……」
 二回目、格闘ゲームに夢中で聞き逃された。シュチエーションが大切だと学ぶ。
「凛、大切な話があるから今日の放課後――」
「すまないな、凛君は私たちとゲーセン巡りをする予定なのだよ」
「ごっめんねー、幼馴染君」
「…………上等」
 三回目、なんかイケメンどもに邪魔された。どうやら、凛は意外とモテるらしい。イケメン、爆発しろ。
「ぜぇ、ぜぇ……り、凛」
「どーしたの? 涼太君」
「いや、ちょっと肉体言語でお話をね……それで、放課後にお話が――」
「我ら『凛ちゃん親衛隊!』抜け駆けは許さんぞ、小僧ぅ!」
「あーれー」
 四回目、親衛隊なんてリアルに存在したんだ。さすがに、その中に撃退士が混じっていたら、僕にはどうしようもない。
 そんなこんなで、夏の間、僕は何とか君に告白しようとしたんだけど、運命に嫌われていると思うぐらいうまくいかず、失敗してしまった。困ったなぁ、僕は……この夏が終わってしまうと、君と離れなきゃいけないのに。


「親の都合で転校する前に、好きな人に告白したいんです。僕が告白するのを手伝ってください」


リプレイ本文

●覚悟はできたか?
 夏の終わりはあっけない。いつまでも引きずるように夏の暑さが残るかと思いきや、油断した瞬間、あっさりとこちらの手をすり抜けて巡ってしまうのだから。
 では、この夏に見た陽炎の如き恋の結末はどうなるのだろうか?
 時は夕暮れ。場所は学園の玄関前。撃退士たちは佐藤と共に最終確認を取っていた。
「皆さん、携帯番号は全員交換し終わりましたね?」
 鳴上悠(ja3452)が佐藤も含め、撃退士たちに最後の確認を取る。佐藤から依頼された撃退士たちは告白場所を夜の屋上に決め、そのためのルート作り、色んなトラブルを想定した作戦を練り終わっていたところだった。
「今日はよろしくお願いします……もう、時間もあまり残されてないですし。今日で決めようと思っています」
 佐藤は撃退士たちに向かい、口を一文字に結んで気合のほどを表してた。
「別に恋のキューピットをやるつもりはねーが、引き受けた仕事はきちんとやるぜ」
 ぶっきらぼうに、どこは突き放したような口調で言う黒夜(jb0668)だったが、その言葉の通り、彼女は必要なことを的確に意見し、効率的に作戦を立案している。
「一般人を撃つわけにはいきませんが、体力には自信があるので、任せてください」
 幕間ほのか(jb0255)は対照的に元気いっぱいに、拳を握り、佐藤の恋路を成功させようと奮起していた。依頼に対して、それぞれ向かう気持ちは異なるが、その姿勢は誰も変わらず、真剣そのものだ。
「作戦を始まる前に、涼太君に一つ確認っ。転校する前に好きな人に告白したいって言うけど、離れていても好きで居られる自信あるの?」
「そうやね、告白してOKもらえたら、遠距離恋愛する覚悟はあるん? 遠距離恋愛って、佐藤君が思っているよりつらいもんよ」
 だからこそ、高瀬 里桜(ja0394)と亀山 淳紅(ja2261)は真剣に問うのだ。例え、依頼が成功してしまったも、この恋が陽炎の如く消え去ってしないように。
「離れる前にっていうのは、玉砕しても気まずくならないから、じゃないよね? そんな気持ちで告白されても、凛ちゃんは困ると思うよ」
 厳しい意見に思われるかもしれないが、これでも最低限、当たり前の指摘だ。恋の幻想ばかり追っていて、現実を見れない者はいずれ必ず、恋を破綻させてしまうだろう。
「離れていても心は繋がっている、なんて夢見がちがことは言えませんが、少なくとも、僕は凛にこの気持ちを伝えたいんです。遅すぎるかもしれませんが、ここで伝えなかったら後悔すると思うから」
 でも、もしも想いを返してもらえたら、と佐藤は言葉を繋いで、
「どれだけ離れていても、想いを繋げ続けます。そして、必ず凛の元に帰ってきますよ。彼女の手を堂々と取れるぐらいの格好付けになって」
 佐藤の決意に、撃退士たちは互いに見合わせて頷き、密かに持ち寄ってきた薔薇の花を取り出して見せた。
「悪くない、ですね」
 大人びた風貌の内に、確かにある青春の欠片に共感したのか、橘 月(ja9195)は柔らかな笑みを携えて佐藤に薔薇を手渡す。
「佐藤さんから凛さんへのサプライズだねー」
 艾原 小夜(ja8944)も次いで、にこやかに笑いながら。
「夏の終わりに一片恋の花びらを、ってね。ロマンチックでええやないの」
 淳紅は佐藤の熱い想いに応えるように、瞳の中に負けじと熱い焔を携えて。
「……涼太様…の…想いが…届き…ます…ように……」
 華成 希沙良(ja7204)は淡々と呟きながらも、皆の花を束ね、見事な薔薇の花束を作る。そして、ラッピングした花束に赤い薔薇の花言葉を入れて、メッセージカードを佐藤に手渡す。淡々とした口調だが、実はこの花束を思いついたのは他ならぬ希沙良であり、この恋が叶えばいいと応援する一人なのだから。
「……あの……まっすぐ……涼太様…の…想いを……書いて…ください……」
 どもりながらも、希沙良は佐藤に告げる、まっすぐ気持ちを伝えるのだと。
「君ならやれる。思いを誤魔化さず、ストレートに伝えてみるんだ」
 悠も、自分と同じような境遇にある佐藤に、力強くアドバイスする。常に微笑みを浮かべる悠が、まっすぐ佐藤に向けて言葉をぶつけたのだ。
「おたくがどんだけ天宮のことが好きかは知らねーが、好きって気持ちははっきり伝えろ。遠回しに言う必要はねー。気持ちがきちんと伝わりゃいーんだ」
 黒夜もぶっきらぼうながら、佐藤の背を蹴飛ばすように言う。
 ここまで力強く背中を押してくれたのだ、佐藤は最後の最後、自分の幸運に感謝して、頷く。その瞳に、決して折れない意志を宿して。

●時間短し、走れよ少年
作戦実行の数十分前、どこからか噂を聞きつけて佐藤をどうにか封殺しようと親衛隊たちは教室の前などを探索していたのだが、そこに、ひょっこりと凛が現れた。手には可愛らしい小袋に入ったクッキーを携えて。
「え? これを俺に……よっし!」
「いやいや、私にですよ」
「うっれしいなぁ、凛ちゃんがこんなプレゼントしてくれるなんて!」
 凛は本人の自覚はさっぱり無いが、妙にもてる。まるで、どこぞの少女漫画の主人公の如く。けれど、その実、少年漫画の主人公の如く鈍いので、まったく彼らの気持ちに気付かない。
 だからこそ、そんな彼らが珍しく凛からクッキーなんて受け取った日には、迷わず食べてしまうだろう。例え、睡眠薬入りの物でも。
「……」
 天宮凛は――いや、凛に化けた小夜はにっこりと微笑んで彼らがクッキーを食べたのを確認すると、誰にも気付かれぬまま、その場から霞の如く消え去る。
「プランA成功。このまま状況を開始するよー」
『りょーかい。こっちもやることやるんで、そっちもお姫様の護衛よろしくな』
 小夜は黒夜に連絡し終えると、ささっと服を着替え、そのまま佐藤に言われた場所――男子が絶対に近づけない『女子トイレ』で待っているであろう彼女の元へ急ぐ。
「天宮凛さんですねー?あたし佐藤さんに頼まれて、貴女を迎えに来たんですー」
 ここから、夏の終わりを賑やかすような大騒ぎが始まった。

 恋路の噂は足が速いというか、野次馬根性の賜物というか、それとも佐藤の不幸の所為なのか、とにかく、綿密な情報統制にもかかわらず、告白を邪魔しようとする者はやはり現れたのであった。
「我ら親衛隊の目の黒い内は告白などさせてたまるものかぁー!」
 ちょうど屋上へ行こうとした時、やはりと言わんばかりに親衛隊たちが佐藤に突撃していく。数十もの男子生徒が一斉に突撃してくる光景は、さながらヌーの大移動の如く、迫力があった。
 しかし、迫力という点で言わせてもらうのならば、そのような群集の塊、集団意識程度に臆する者など、撃退士たちの中には居ない。
「人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られちゃうって教わらなかったの?」
 怒りのオーラすら漂わせて、里桜のスリングショットから放たれたアウルが、親衛隊の動きを威嚇し、止めた。いや、里桜から漂う『何が親衛隊よ! 告白する覚悟が無い、ただの根性無しじゃない!』という実に的を得た、威圧感に臆してしまったのだろう。
「……告白…の……邪魔は……させません……」
 希沙良も銀色の銃身を構え、先に進むのを許さない。
「あの人の恋路を邪魔したいのならボクを倒してからにしてください!」
 ほのかはむん、と力強く親衛隊の前に立ち塞がり、力ずくで飛び掛っても止めてやる、と体中から力を漲らせて威嚇した。
「なぁ兄ちゃんら、ちょーっと自分らとお話せーへん?」
 撃退士たちに威嚇され、固まる親衛隊に、語尾にハートマークが付きそうなほど軽快な口調で淳紅は絡んでいく。そして、そのままあわよくば説得しようと試みるのだが、
「……み、認められん! 認めてたまるかー!」
 情けない限りと自分たちでも分かっているのか、彼らの中に所属している撃退士たちも含め、半泣きになりながら強行突破しようとする。
 そして、撃退士たちは一般人に対しての手加減はしつつ……それ以外のことに関してはまったく手加減をすることなく、鎖で拘束し、蹴飛ばし、撃ち抜く。

 視点は少し変わって、親衛隊のように武力解決しようとするイケメンたちに移る。彼らは、親衛隊を囮のように使い、まんまと直接佐藤に接触することができたのだが、
「やぁ、佐藤君。ちょっと君にお話が――」
「邪魔です」
 月の蹴りによって物の見事に倒され、そのまま疾走する佐藤に踏み潰された。
「人の恋路を邪魔する奴はなんとやらだ」
 皮肉げな笑みを浮かべて、月は佐藤を護衛しながら屋上を目指す。
 ならばと、イケメンたちは発想を切り替え、先に凛の方をどうにかして遠ざけてしまおうとしたのだが、
「君、撃退士の者だけどお話いいかな?」
 悠が絶妙なタイミングでそれを防ぐ。
「悪いが、後にしてくれ! 俺たちは本当に急いでいて――」
「お話いいかな?」
 ちょうど凛から見えない角度で、武器を活性化し、イケメンたちの顎に突きつける。もちろん、とびきりの笑顔で。
 こうして、撃退士たちの手によって、ほとんど邪魔者たちは封殺されていったのである。

●告白は屋上で
 親衛隊を抑えている撃退士たちは、乱戦の末、彼らを見事に鎮圧してきている。なおも立ち上がろうとする者は、希沙良と里桜の鎖によって、拘束され、身動きが取れない。
「なぁ、本当にちょっと聞いたってや。もし涼太君が告白に失敗すればこのままやし、成功しても遠距離恋愛や…奪いたければ、君らには十分チャンスはあるやろ?」
「天宮を大事に思うのも分かるが、ここはもうすぐ転校する佐藤の気持ちの方が大事だ。もしかしたら『気遣いのできる優しい人、素敵』って天宮に認識されるかもな」
 そして、身動きが取れなくなったところで淳紅と黒夜の二人が説得し、
「頼む、彼に告白させたってください!!!」
 なにより、淳紅が真摯な言葉と共に、深く頭を下げたことにより、親衛隊は完全に負けたとばかりに沈黙した。
「後は、彼次第ですね!」
 ふんじばった親衛隊たちを引きずりながら、ほのかはこの告白が無事に成功することを願った。

「えーっと、小夜さん? 一体、涼太が何の用なんです?」
「もう少しでわかりますよー」
 小夜は邪魔者たち遭遇しないよう、連絡を取り合いながらルートを割り出したり、邪魔者と遭遇した場合は目隠ししたりなど、飄々とあしらいながら目的地まで辿り着く。
「ねー、凛さん。ちょっとした心理テストなんですけど……長いトンネルの中を歩いていると、出口が見えました。その出口で待っていた人は誰でしょうー?」
「え? えーっと……」
 凛が悩んでいると、小夜はにっこりと笑って屋上の扉を指差す。
「答えはきっと、この先にありますよー」

「う、うらやましいです。月さんはこう、大人っぽくて落ち着いていて」
 疾走の最中、合計十六回ぐらい不慮の事後に遭いそうになった佐藤は、ため息混じりにそう切り出す。
「そんなことはないよ。俺だって色んなことで悩むし、へこむし、心の中じゃ一杯一杯だよ。ただ、ちょっと外見を装うのが得意なだけだと思う」
 不慮の事故を何度もカバーしてきた月は、弱音とも取れる佐藤の言葉に、苦笑しながら言葉を続ける。
「それに、好きな人に告白する勇気を持っている佐藤君は……素直に応援したいと思うし、誰にも真似できることじゃない。だから――――」
 月は佐藤の背中を軽く叩き、
「行ってこい!」
 優しい声で見送った。

そして、その時はやってきた。
「あ、涼太……」
 ここまでのただならぬ雰囲気に、戸惑っていた凛が、佐藤の姿を見つけてほっと胸を撫で下ろす。
「どーしたの、それ。薔薇の花束なんて抱えちゃって」
 暢気に笑いかける凛に、佐藤は切れ切れの息を整える間も置かず、花束を差し出す。メッセージカードには、ただ短く『僕は凜を愛している』とだけ。
 けれど、メッセージカードを凛が読むよりも先に、佐藤は想いを告げる。文字より先に、自分の言葉で伝えたいから。
「凛、僕はさ、君のことが好きだ。愛している。恋人として付き合って欲しい」
「……え?」
 余計な言葉なんてつけない、剛速球のストレート。どれだけ鈍い人間でも、気付かないなんてことはできない。だから、凜は、やっと少年の想いに気付いた少女はその思いに対して言葉を返す。
「涼太、私はね――――――」

●遠く離れていても
 佐藤の毎日の日課は、離れた彼女とのメールのやり取りだ。普段はのんびりとした口調なのに、妙にメールだと畏まった文章になるのがなんだか、おかしい。
 もう夏は過ぎだ。
 少しだけ、ここは肌寒い。けれど、僕と彼女の心は離れていても触れ合えていると思うから、大丈夫。
 それと――――佐藤は携帯のメールボックスで保護しているいくつかのメールを開く。
『心が通じ合える人と出会えたことは奇跡なんだよ、その思いを大切に』
『曲のリストどうやった? 今度、皆でカラオケにいこーな!』
『おめでとうございます。彼女、君の惚気話でイケメンたちの肩を落とさせているみたいですよ?』
『……花束……大事に…している…みたいです……』
『おめでとう、佐藤さん。あの心理テスト、やっぱり当たったよ。多分、君はわからないと思うけどねー』
『がんばってください。一人の友として君を応援しています』
『おめでとございます! ボクも頑張ってディフェンスした甲斐がありました!』
『業務連絡だ。おたくらの恋路を邪魔するような奴は現れてねーから、安心していちゃいちゃしておくんだな』
 そこには、少しだけ背中を押してくれる人達との、繋がりが残っている。
 だからきっと、大丈夫だから。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: おかん・浪風 悠人(ja3452)
 薄紅の記憶を胸に・キサラ=リーヴァレスト(ja7204)
 撃退士・黒夜(jb0668)
重体: −
面白かった!:6人

『三界』討伐紫・
高瀬 里桜(ja0394)

大学部4年1組 女 アストラルヴァンガード
歌謡い・
亀山 淳紅(ja2261)

卒業 男 ダアト
おかん・
浪風 悠人(ja3452)

卒業 男 ルインズブレイド
薄紅の記憶を胸に・
キサラ=リーヴァレスト(ja7204)

卒業 女 アストラルヴァンガード
撃退士・
艾原 小夜(ja8944)

大学部2年213組 女 鬼道忍軍
茉莉花の少年・
橘 月(ja9195)

大学部4年293組 男 インフィルトレイター
撃退士のすべきこと・
幕間ほのか(jb0255)

大学部2年205組 女 インフィルトレイター
撃退士・
黒夜(jb0668)

高等部1年1組 女 ナイトウォーカー