●ゴレムとの再戦
転位後の配置誤差を計測しつつ、一同は敵の情報を確認した。
始めて知る者も居れば、既に同タイプと戦った者も居る。
「これで3回目かぁ。こりないというか、実験の手伝いをさせられてるようだしちょっと癪だね」
「なるほど、新型の能力偵察も兼ねてる公算が高いのか…。道理で誘ってる訳だ」
キイ・ローランド(
jb5908)のまたこいつか、という言葉を拾ってロベル・ラシュルー(
ja4646)は苦笑いを浮かべた。
試作品が強い傾向のある漫画と違って、利点欠点がはっきりしているので倒すのは簡単だが…。
だが、倒される事も含めた実験である以上は、本当の意味で倒す事は難しいのだ。
「する事に変わりはありませんよ。気になるならばこう言えば良いのではないですか?『成程、その挑戦…受けて立って差し上げましょう』…とね」
「気に喰わないないが、それしかないな。出がけにデカイの一発くらってるしな」
リアン(
jb8788)は懐から細巻きを二本取り出して、ロベルに手渡すと仲間が移動し始めるのを待った。
ややあって位置情報の整合性が取れ、作戦開始するのに合わせて一服を点ける。
「しかし…ロベル様、手酷くやられたモノですね。ここはひとつ江戸の仇を長崎で取るのは?」
「違いねぇ。…ま、出来るだけの事はするさ。(それに案外、足止めにはピッタリかもしれねえしな)」
リアンがくれた愛用の葉巻きを吸いつつ、ロベルは二・三の可能性を思案する。
形が歪むほどのダメージを与えたら再生するのであれば、威力に載せきれない今の方が、足止め用の技が効くのではないか…と。
そして彼らが葉巻をくわえて殿軍を歩き始めたころ、先頭集団に一報が入る。
「相手も気がついたようですね。報告によると加速したそうですよ」
「じゃあ、こっちもピッチを上げていこうか。早々に壊してしまおう」
無線を操る鈴代 征治(
ja1305)の声を聞いて、キイはペースを上げて走り始めた。
一同は予想位置を目指して前進しつつ、前衛後衛を構築。
森や空中に陣取る数名が、散開して配置につき始めた。
●半人半馬を攻略せよ
重低音を響かせ、半人半馬が訪れるのは間もなくである。
「今回の奴はデカ物だべな」
御供 瞳(
jb6018)は片手をひさし代わりにすると、逆光を遮って敵影を確認した。
単に人より大きかった程度の前回までと違い、騎兵としてデザインされ直した分だけ脅威に感じる。
「うまっこだべ、○馬兵だべ、ド○ンゴだべ」
「半人半馬の怪物とは、いかにも強そうな敵ですわね。でもどのような強大な敵でも、我々が力をあわせれば必ず勝機はあるはずですわ」
瞳の言葉は歓声なのか驚きなのかいまいち区別しにくいが、長谷川アレクサンドラみずほ(
jb4139)は驚愕と判断して適当に合わせた。
バシッと拳を掌に打ちつけ気合いを充填すると、狙うべき場所を見定める。
「まずは再生能力の元となっている、神秘文字の破壊ですわね」
「ああ…そういえば、そんな能力があるんだっけ。長引かせるのもだるいし、そうしてしまおう」
みずほがタイミングを計りながら踵を上げるのに合わせて、九十九(
ja1149)はボリボリと頭をかきながら弓を取り出した。
全員の歩調を合わせ、一段階から二段階で包囲する作戦である。
「フォローするけど、抜けられたらこっちで抑えておくよ。(やれやれ…面倒そうな敵だねぇ。ちゃっちゃと片付けてしまいたいさねぃ)」
「その辺りはお任せいたしますわ。うかうかと抜けられるつもりはありませんが…っ!」
九十九がキリリと矢による弾幕を張ると、みずほはその下を潜り抜けるようにして駆け出した。
巨大なゴーレムの斧槍と矢が交錯し、ガラ空きになった懐へ、みずほの拳が飛んでいく!
別方向からも前衛達が突入し、一陣目の壁が出来上がる。
二陣に控えた仲間たちは、少しだけタイミングを遅らせて突入し始めた。
「まあ、天使がポンコツを造るとも思えない。一度は突破されるものとして対策しておこう」
「ですね…。それぞれが平行して、別の目標を実行することでいずれかの成功を狙う。それで構いませんよ」
ある種の信頼感さえ覚えてレアティーズ(
jb9245)は苦笑し、征治は彼の援護射撃の構えを受けて飛びこむ事にした。
案の定、敵影の突進に合わせて味方の壁が歪む。
征治は空いた穴に直接突入するのではなく、抜ける先に横入りする形で、重厚な馬蹄を切り裂いて行く。
「相変わらずの愚直に前進してくるんだな。となれば…」
「…やあっばし、おんなじ様だがなー。なら、やりようがあるべ」
体当たりで吹っ飛ばされたはずのキイは涼しい顔で盾を降ろし、その様子を見ていた瞳も冷静に状況を捉えていた。
天使側がおな時タイプを売り返し投入し、実験データを得ているように…。
相手が同じであるならば、人間側が学習して悪い道理はあるまい。
ここが反撃の狼煙を上げる時であろう。
●神秘を死に
侵入しにくい森林側に後衛に比重を預け、包囲戦は続行して行く。
あらかじめ高すぎる打撃力は禁物と聞いていた事により、再生力は抑えられていた。
「ったく。上手く削れていくと信じたいねえ。そろそろ足止めの一つも掛けたい処だが…」
ロベルたちは森林側より繰り返しての援護射撃。
らちが明かぬまでも、相手の走行を止められればそれでいい。
そう思って散弾をばら撒いている物の、持久力があるタイプだけに総量が測れないでいる。
効果的な法術を弾丸に込めようにも、痛む体では当てきる自信が今一つだ。
「ロベル様。どうせ仕掛けるなら、もう少しだけ待たれては?なにやら御供様に一案ある様子」
「…ふぅん。じゃあ期待して、ちっとばかり待つとするかね」
空中から周回しつつ攻撃していたリアンは、仲間のハンドサインを汲み取ってロベルにも声を掛けた。
携帯越しに声を掛けなかったのは、どうやら配置図を手打ちで送っていたらしい。
遅れる事数秒してから、ピピっとメールが着信する音がした。
「ちっとばっかり時間が掛っちまったべ。…うまぐ伝わっててけろ。いぐだべさ!」
「(…おおっと。この風は少々、猛烈ですね)」
携帯を薄い胸元にしまった瞳が手をかざすと、足元より暴風の列が巻き起こる。
既に離れた仲間たちの中で、タイミングを合わせて鞭を編み込んだリアンは、噴き上がる暴風に髪を撫でつけ直した。
「ごっがら何度でも吹っ飛ばすだっちゃ。そっがら一歩もださねえ」
「へー。確かにこの手のダメージ関係無い奴は効くよねぇ。作業が捗りますよっと」
瞳の暴風によって森林まで飛ばされたゴーレムに、九十九たちは一斉に攻撃!
毒血による酸弾やら、植物による鞭やら飛ばしつつ、強化サーバントの行動を拘束あるいは防御力を削り落していった。
「今ですわ! この機を逃すほかはありません」
「賛成ですね。わざわざ難関に挑むより、倒し易い相手に注力すべきです」
態勢の崩れた敵にのしかかるようにして、みずほと征治はゴーレムの顔に向けて飛びかかる。
狙うは再生力の要となる、掛け戻し呪文の根幹、神秘文字であった。
「厄介なその腕は可能な限り抑えさせてもらうね。ガードはさせないよ」
キイは二人の動きを見て、自分の行動をサポートへと切り替える。
それはさながら伝承の再現だ。
全員で行動を分担し、強敵の能力を1つ1つ封じて行く。
「例えるならば『emeth』を『meth』に変えるということ。神秘より成る胎児は、死を覚えて土へと還りなさい!」
「(誰かが成功すれば良いんですけどね…。一応、僕も狙っときましょうか)」
みずほの横合いから叩きつけるようなブロウに対し、征治の握りしめた槍は斜めより刺突する。
鈍い衝撃と鋭い穂先が交錯して、まるで断頭台の処刑が始まったようだ。
宝石のような防護に守られた神秘文字でも、動きの鈍ったこの状況ではどうしようもあるまい。
拘束によって数分の一の命中確率を半分に、更に複数による連続攻撃で可能性を限りなく高めた結果だろう。
守りの宝石ごと神秘文字は砕け散り、いかなる攻撃でも生まれ直すゴレムは、ただのゴーレムと化した。
「賭けには勝ったと言う所ですかね?ならばこの優勢、存分に活かすといたしましょうか」
「そうだな。こっから先は全力で砲撃すっとしますかね。まあ全力ってもこういう事だがよ!」
上空から縛りあげるリアンに適当な返事を返しつつ、ロベルは弾丸にアウルを込める。
炸裂する弾頭は無数の蝶と化し、キラキラと光を帯びて周囲を覆い始めるた。
●血戦を越えよ
再生力を止めた事で、一同は総力を挙げて殲滅戦を開始した。
とはいえ持久戦の心配が無いだけで、弱くなったわけでも大型ゆえの耐久性が失われた訳でも無い。
「特化した分、流石の攻撃力だけど…。騎士は最後まで倒れちゃいけないんでね」
何度目かの攻撃で、キイは斧槍を止め損なって大打撃を受ける。
深手一歩手前に累積した所で、片腹に手を当てて傷を癒し始めた。
当たり易いが直撃しても困らない鉄拳と違い、大物の竿状武器は手痛いが、重傷に追い込まれさえしなければなんとでもなる。
しょせんは一騎、担当を交代している間に治療して、また復帰すれば良いのだ。
「魔力も使わずこの威力とは凄いものです。とはいえ、一見すると単体兵器として完成されていそうですが、それだけで勝てるほど甘くはありません」
「まあ戦いはやっぱり数だねぇ。駆け出しの撃退士だったら話は別だけど」
征治の言いたい事を察しつつ、九十九は数本の矢を同時に掴んだ。
キイに変わって前に出る征治を支援しようと、立て続けに速射!
何本かは弾かれつつも、うち一本が突き刺さった。
「しかし天使の方も無策ではあるまい。次があるならば…」
「でしょうね。僕ならば単体では感性したとみなして数で攻めます。…ですが連携できる仲間と数の暴力は話が違いますよ」
レアティーズの言う事ももっともだと頷きながら、征治は電流を帯た一撃を再び放つ。
撃退士の言葉で、信頼できる仲間こそが最強の武器・防具だという格言がある。
人数が多いのと、連携できる仲間が居るのでは話が違ってくるのだ。
「数の優位性、そして質から来る連携の効率性が力になります。…警戒すべきとしたら、それを学習した後ですね」
征治はキイと二交代で、壁役と回復を繰り返していた。
不要な時は他のメンバーと同様に脇から支援しつつ、少しずつ削り取っているのだ。
これが戦いに不慣れな新人なら別だろうが、スムーズな連携を組めるメンバーならば封じこめることも可能だ。
理想的な組み合わせであれば、数倍の数が居たとしても何とかなるだろう。
「そうですわね、信頼できる仲間が囮になって大多数を惹きつけつつ…。その間にわたくしたちが本命を対処すれば良いだけの話です」
「信頼できる仲間…だか(旦那さまはご無沙汰だべな…はやぁくオラを見つけてほしいっちゃー)」
みずほは大量の敵を思い浮かべながら、知恵の回らない雑魚を引き連れて風の様に連れ去る仲間を思い浮かべた。
いやに具体的な思案顔に、瞳はある種の苦笑いでどこに居るかも判らない、婚約者を思い浮かべる。
なんというか、強引グ・マイウェイな展開の一つも来て欲しい乙女心である。
「ともあれ、今はこの戦いに専念するのみ! 蝶の様に舞い蜂の様に刺す…わたくしを捕らえられるかしら?」
「おらも居るだっちゃ。他所見は禁物!」
みずほがインレンジに突入するのに合わせて、反対側から瞳が蔦の鞭を飛ばす。
互いに牽制とサポートを兼ねたクロス攻撃で、着実にダメージを重ねつつ、被弾率を下げる。
冷静なゴーレムの思考なら迷う事は無いだろうが、それでも同時に狙われる事は無い。
狙われ、かつ攻撃を食らった方が仲間と交代し、トータルで削り続ければよ良いのだ。
「怪我の方はいかがですか?」
「もうなんとも無いよ。次の人と交代しても良いし、ペアを組んで回復役に回っても良い」
リアンは負傷して後退したキイの状態を確認すると、再突入が可能か確かめる。
全員のコンディションを確かめたうえで、最終的な攻撃を叩きこむつもりだった。
高い耐久力を誇る敵も、いまや風前の灯である。
●戦い終わって…
拘束系の法術が途切れたが、一同の体力には余裕がある。
ならばここが手札の切り時と、タイミングを合わせて総力を振るう時がやった来ただけだ。
「突入を援護する。もう終いだ、適当に頼むぜ。怪我人にあんま心配させんな」
「まあ、これだけの人数が仕掛ける以上は、死止め損なう事もないでしょうねぇ。杞憂とは言いませんけどぉ」
ロベルと九十九の援護の下で、全員が一斉に突入を開始した。
敵の反撃を仲間が防いだ直後とあって、自爆でもない限りは大丈夫だ。
加えて相手は最後の最後までデータ収集を目的としている以上はソレもあるまい。
「今回はここまでってことですね。(…どこかで見ているのでしょう? 次はちゃんとお相手しますよ)」
征治は相手の攻撃を受けた態勢のまま、タイミングを測って仲間の攻撃を導く。
足を狙って態勢を崩すように仕向け、連撃が少しでも有効な様に小細工を仕掛ける。
他愛ない所作ではあるが、その積み重ねこそが最後まで無事に過ごす為の一工夫だ。
そして怒涛の攻撃が始まった。
「ここからラッシュですわ! 次の手番など与えはしません」
みずほのパンチが口火を切って、波状攻撃が開始される。
ワンツーブロウではなく、フィニッシュブロウの連発だ。
「タコ殴りだあよ。…タコの足もこれみだあに、勝手に治るとええんだげども」
「それが可能ですと、食材には困らなさそうですね。レパートリーが重要そうです」
瞳とリアン、二人のアカシックレコーダーが同時に駆ける。
閃光の様に飛来し、大剣で頭を、双槍で関節を狙う。
さあ、いよいよ最期の時がやって来た!
「これにて一件落着っと」
「終わった終わった。お返し込みで一服つけるとしますかね」
キイとロベルはトドメとばかりに手当たり次第に攻撃して行く。
アウルの火花とショットガンが炸裂し、四方八方が砕け散った。
その様子に肩をすくめて折り返すと、ロベルは出がけにリアンから貰ったお返し込みで、二本の取って置きを取り出す。
「治療が終わったら帰還しましょう。しかし…、ここのところの天魔の動きからして、四国は牽制合戦というところですか」
「だと思う。敵も強くなって来てるけど、こっちも専科の転職してる人も増えてる、新しい戦法を編み出しておかないとね」
征治とキイはそんな風に話しながら、居るであろう監視に少しだけ注意を向けた。
立ち去る天使の気配に、動き出す四国の天魔を重ねながら…。