●祭りの始まり
パンパンと乾いた音が祭りを告げる。
「街も祭りも皆で守り抜こうぜ」
「後回しにしちまった分、下手を打たないようしっかりやらないとな」
雪ノ下・正太郎(
ja0343)と千葉 真一(
ja0070)は顔を見合わせ、同じ言葉を思い描いた。
祭りも楽しもうとする人々も、両方守ってこそヒーローだ!
「その意気だ。まずは偵察兼ねて警察・役所へ手配に行くぞ」
「手分けすれば、そんなのラクショーよ」
町の地図を手に、川内 日菜子(
jb7813)が巡るべき場所をホワイトボードにピックアップ。
松永 聖(
ja4988)はそれを見て、コンっと胸…じゃなくて白板を叩いた。
別にゲキタイホワイトの胸が、ホワイトボード並みじゃないんだからね。
「あたしはそんなに出番…と言うか重要ポジじゃないハズ。その間にちゃっちゃと町中で情報集めとくわ」
「まっ。ヒーローショーについてはメインカラーのメンバーに主要部分はお任せだな。俺はバイクで巡っておくぜ」
聖は徒歩で聞き込みを、真一はバイクで遠い位置にある施設を巡ってくる予定だ。
確かにホワイトやブラックは戦隊物メインカラーではないので、適役かもしれない。
「その辺は任せる。一番遠い派出所と、出入りの多い神社だけは忘れないでくれ」
「あのー。メインも全員が揃ってない事を考えると、ショーよりは握手会の方が良いとは思うのでありますが…」
日菜子が担当分けを記載していると、オズオズと天水沙弥(
jb9449)の手が伸びて来た。
苦笑のはずだが、はにかんだ表情が笑顔に見えるのが微笑ましい。
「アイドルって訳じゃないからな。その辺りは仕方ないさ」
「気にすんな!人数足りないショーってのも定番だから、やりようはある」
気持ちは判るがな…と日菜子は腕を組んだ。イエローやオペ娘も居ないし、勢揃いではないのも確かだ。
少し寂しげな表情を察したのか、正太郎が元気よく提案してきた。
「休憩中や、居ないメンツは全員集合シーンを変身後にすればいいんだ。スーツを着れば区別はつかないし、体格さえ合えば…」
「じっ、自分は男の子でありますっ!ピンクの代役は女の子…でありますので〜」
自信満々な正太郎に対して、沙弥はもじもじと抗議を始める。
姿を隠せてもピッタリな変身スーツだと、ハッキリいって恥ずかしい…。
「ここは任務を優先しましょっ。(…キラーン)後であたしが飴ちゃん奢ってあげるから」
「別に我儘を言ってる訳では…。いえ、なんでもないのであります」
何事かを思いついたらしい聖は、心に潜んだ獣の牙を隠しつつ…ばしっと少年の背中を叩く。
沙弥は不吉な思いにとらわれつつも、勢いに載せられて頷いてしまうのであった。
●ゲキタイショー
ともあれ作業開始。
ある者は外へ、ある者は残って作業に当たる。
「オペレーターもいないし裏方は俺がやっておこう」
「ふむ。では必要な衣装はこちらで修正しておこうかの。何…、心配はいらんぞい」
礼野 智美(
ja3600)は紙にスケジュールを書き込んで、ボードにペタリ。
熱中症対策に、蜂蜜漬けのレモンに甘酒が良いかな…と呟いた所で、依頼主が何やら頷いた。
タイミングとしては、智美がエプロンを付けた辺りと言うのが実に判り易い。
機材の中から、カメラやら何かの服を取り出したので、先制する事にした。
「…老師。戦闘の際に撮影のカモフラージュ用に動画が取れる機材用意出来ませんでしょうか? できれば壊れても問題ないようなもの」
「いやいや、何でもあるぞ!撮影機材はもちろん、ガイドさんの衣装やら、警備員やらの」
智美が機材の貸し出しを要請すると、依頼主はカメラの他に持っていたのは…いわゆるコスである。
胸元がストーンな智美が着ても違和感なさそうなのは、単にオペ娘もアレだからであろう。
「勿論、他には流出させんしショーの本番ではスーツであるべきじゃが、どうかの」
「…外への写真NGならまあ、(妹とか身内が欲しがるだろうし…)」
確かこういうの好きみたいだったなーと、智美はバスガイド風の衣装を手に取って苦笑した。
まずは宣伝を兼ねて、PRビデオの公開と簡単なショーだ。
判り易い手品から、判っていても感心するイリュージョンマジックまで多彩である。
『さて子供たち。今度のイリュージョンは見抜けるかな?できなければ怪人さんが食べてしまうぞ!』
「あはは。手品のタネが見えてるじゃん」
怪人パンプキン…こと、エイルズレトラ マステリオ(
ja2224)はマスクの裏でニヤリと笑った。
ここまでの判り易い手品はフェイクだ。
前の手品で使ったタネを『囮り』に、イリュージョンで恰好よくするだけ…と心理的に誘導したに過ぎない。
三、二、一。
カウントダウンするたびに、子供たちの視線はエイルズの手元、あからさまに置かれたタネに注がれていく!
だが、本命は反対側に置いた定番の大型ミラーである。
『オホホホ。カボチャさん、お楽しみの処ご苦労な事ですが…。純真な子供たちのハート、私がいただきますわ!』
『おのれ貴様!この怪人パンプキンの邪魔をするか!』
ドドーンと花火が破裂して、女幹部に扮した草摩 京(
jb9670)が反対側から現れた!
鏡の向こうに隠れる定番のトリックだが、手品を暴いてやろうとカボチャ頭に夢中の子供達には判らなかったようだ。
獣仮面を被ったエキストラを引き連れ、鞭でバシーンとやると、歓声とも悲鳴とも付かぬ声が周囲に上がり…。
同時に混乱を起こさずにショーの一部であると誘導が入る。
『ゲキタイジャーに見つからぬように隠れて色々していたのに、余計な邪魔が来おったわ。ここは退散するとしよう!』
「てっ、天使が急に……。正義の味方を呼ばないと!(はーい、危ないからテープより前に出たら駄目ですよー )」
エイルズ自身が火薬を仕込み、消防署にも提出しただけあって、煙の中を自在に出入りしていく。
ぱっぱと視線を切りながら見え隠れする彼の行動を、智美はマイクで解説して行った。
子供たちを火薬のある白線より下げて、自身も上着を脱いで舞台の袖に向かい始める。
「さあ、みんなで声を合わせて呼んでね。『助けて、ゲキタイジャー!』って」
「助けてゲキタイジャー」
「「声が小さい〜。助けて、ゲキタイジャー!!」」
智美がアナウンスした事もあり、子供たちは定番の『誘拐バスジャック系』である事に気が付いたようだ。
キャッキャと笑いながら、最初は何人かが、最後は悪ノリしてみんなで大声で叫び始めた!
「華麗に解決、素敵に解決であります!」
「誰が呼んだか知らないが、輝光戦隊ゲキタイジャー!」
舞台の袖から沙弥と正太郎がトンボを切って突入!
歓声が上がったと同時に、残りのメンバーがジグザグに走り込んでいく。
こうしてヒーローたちは集い始め、本格的なショーの開演である。
●情報収集
人の出入りで舞台袖が忙しくなっていく。
「(どうやら順調に滑り出したようですねえ。僕はその間に悪ガキどもへ秘密基地の話でも聞いて回りますよ)」
「(すまないな。エキストラの仮面は今回の冥魔に合わせてるから、聞き込みは難しくないはずだ)」
エイルズは脱いだカボチャマスクを智美に渡し、突入のタイミングを計り始めた。
ちょうど優勢になった敵が恰好を付けており、聞き込むにも、合流するにも良いころ合いだ。
物語りは必殺技が破られ、再チャレンジする流れだろうか?
『馬鹿な。その拳は完全に砕けたはずですわ。どうするつもりですの?』
「例え拳が砕けても、心の拳までは砕けはしない!…あんたにだって、本当は判っているはずだ」
「「負けないで、ゲキタイジャー!」」
女幹部の京に対し、うずくまった日菜子は拳を握りしめた。
膝をつき、立ち上がり…、腕を掲げてもう一度拳を握りしめる!
緑色の制服が割って入ったのは、その時である。
「済まない、カボチャ頭には逃げられた。ホワイトとブラックが追っているから、もうすぐアジトが判るはずだ」
「逃がしたくらい良いさ。五人の思いが揃えば百人力だ。完全版のゲキタイシュートを使うぞ!」
智美はさりげなく、午後の舞台の流れを告げつつ日菜子たちに合流。
クライマックスに向けて、周りの雑魚を倒しながら、大型銃の玩具を組み上げていく。
お約束のチャージ時間に入ろうとした時…。
『させませんわ!(…本当に仲間を信じられるなら、)この攻撃を防いでみなさい!』
「やらせるよかよ!今の内にぶっ放せ!」
京が鞭を捨て、強烈な一撃をチャージの終わらぬゲキタイジャーに叩き付ける!
その一撃を正太郎が受け止めて仲間を守った!
倒れながらも仲間を守った姿を見て、不思議と女幹部も満足げに笑った。
「「いくぞ、ゲキタイシュート!!」」
「くっ、この私を倒すほどの思いが!?(良いでしょう……貴方達の正義を信じましょう!)」
その間に最後のパーツを合体させた智美と日菜子は、声を合わせてトリガーを引いた。
火薬が炸裂し煙をあげ、設置されたスポットライトが盛んに明滅する!
京はその煙と閃光に隠れた大きなバク転で、舞台から退場して行った。
「お腹すいた子は、カレーがお待ちかねでありますよ。今なら怪獣クイズ付きであります」
「アハハ。小一杯100円だから、リンゴ飴やたこ焼と一緒に食べられるんですねぇ。…さーて、このシルエットを他の店で見た事あるかなー」
「しってゆー、さっき見たよー」
「馬鹿だなあ、御神輿とか他の屋台での話って言ってたろー」
スーツを脱ぎながら沙弥が併設されたカレー屋台に案内すると、そこではエイルズが一足先♪
おチビさんやら悪ガキやら集めて、ワイワイとショーを見ながら情報を集めていたようだ。
「あーブラックとホワイトだあ。カボチャ頭は見つかった?」
「もちろん。俺たちが何度も見逃す訳ないだろ。なあ?」
「え?うん、そうそう。あたし達なら当然じゃない!」
「ほんとかなー。アヤシー」
一日目の閉会に合わせて帰還した真一と聖が着替えていると、チビたちが纏わりついて行く。
こうなると報告もあった物ではなく、笑顔と共に時が過ぎて行った。
●花火救い
子供たちを帰した後、暇を見つけて報告会。
「確定か。となると移動前…夕方までには抑えておきたいな」
智美はメモを受け取ると、手早く端末に打ち込んで映し出した。
廃工場は幾つかあるが、他の廃屋や森で見え難い場所らしい。
子供たちの秘密基地から近い事もあり、何人かが見た事があると言う。
「それ賛成。せっかくお祭りなんだから、花火だけでもみないと残念でしょ」
聖はウンウンと頷いて、近隣の手配は終わっていると告げた。心配するなんてらしくないしね。
気負って戦うよりも、楽しく叩く方がよほど自分たちらしいじゃないか。
「最後までやり遂げて花火を見に行くとしよう」
日菜子は立ち上がって移動し始める。
ここまで分かれば遠慮は要るまい、後は倒すだけだ。
目指すは本命の廃工場へ。
「居たでありますな…。このゲキタイピンクが道を切り開くであります!」
敵の姿が見えた事で、沙弥たちが雑魚集団に突っ込んでいった。
道を塞ぐ獣型を跳ね飛ばし、雑魚退治の足並みを揃えて行く。
「お茶の間のアイドル、ゲキタイオレンジはこちらですよー。注目〜。怪人と正面からやりあうのは僕らしくないので、交通整理させてもらいますよ」
「片付けは抜かりなく、だな!ゲキタイブラック、見参!(…闇夜の烏とは良く言ったもんだな。黒は夜だと見事に目立たないぜ)」
敵中央に入り込んだエイルズが、踊るように敵を引き付け始めると、真一は出口側を塞ぎに走る!
包囲網を完成させて範囲攻撃を叩きこめば、手早く倒して本命と戦う仲間の援護に迎えるだろう。
派手に動くオレンジと比較して地味ながら、締めに動くのがブラックの渋さだろうか?
「(飛んで逃げる奴がいない…か。ならば)。雑魚共はこのゲキタイグリーンが殲滅するとしよう。…生き残った奴は任せる」
闘気を高めながら様子を見ていた智美は、満を持して誘導された敵を飲み込んでいく。
アウルをワイヤーに載せ、巨大な刃物と化して縦横に振るった!
もろい偵察型は簡単に薙ぎ払われ倒れて行くが、流石に全てでは無い。
上書きするように百光が通り抜け、白兵戦が開始される。
「ゲキタイホワイトを忘れないでよっ」
「残った奴は青い流星、ゲキタイブルーが引き受けた!!手当たり次第にいくぞ」
聖の放った闘気の光が消えると、無事な敵は僅かに数体!そこへ正太郎は双剣に闇に反発する力を宿して飛び出す。
瞬時に殲滅した連中とは違い、残った奴はそれなりに強いのだが、彼の刃は容易く切り裂き始めた。
その場でチームを組んだ撃退士と違い、ゲキタイジャーの連携は実にスムーズだ。
一回り大きな獣への道が切り開かれるまで、そう時間は掛らなかったという。
「見えましたレッド、合わせますよ」
「了解した。先に行ってくれパープル、タイミングは合わせて見せる!」
京は倒れ込むように走り出すと、敵の直前で伸びあがるように拳を突き出した。
踵トによる長歩と爪先による短歩の組み合わせだと日菜子が気が付いたのは、一瞬で京が前に出てからだ。
肩と膝の四点からなる力が腰を通して一点に集まる瞬間、日菜子は腕を振るってアウルの炎で天を引き裂いた。
「例え一人の力が悪に届かぬとしても、必ず越えて見せる!」
パープルの放った突進攻撃に、レッドの放った投射攻撃が追いついて行く。
いわゆるX字攻撃…。
タイミングを合わせて放たれた連撃は、敵の回避速度を超えるには十分であった。
『オッ、オノレー!』
「オノレじゃねえよ。ゲキタイジャーなめんな!」
避けるのは無理だと判断したのか、強化ディアボロは立ち上がって大槍を取り出した。
だが時は既に遅く、真一たちが最後の雑魚を蹴散らしていたのである。
一同の連携の前に、鹿怪人はあっけなく倒されたと言う。
後片つけを始め出すと、天空に花火が上がり始める…。
「おわーった。沙弥っち浴衣持って来てるから、このまま花火でも見に行こうか」
「…あ、あの。これ女物であります。…何度も行ってる様に、自分は男であります」
聖は浴衣を2つ呼びだすと、一つを沙弥へと手渡した。
じゃあこっちにする?とか言ってもう片方を渡すのだが…、どっちも女物だよね?
「また事件があれば駆けつけますので、基地の保守とかお願いしますよ老師。次のシーズンで基地がないとかは辛いので」
「うむ。そのくらいはお安いご用じゃ。未来のゲキタイジャー(子供)に占拠されとるかもしれんがの」
正太郎が結果報告のついでに『俺達は、老師も含めて皆でゲキタイジャーですから』と告げると、依頼人は嬉しそうに笑った。
夜空に咲いては消える花火の様に、みんなの笑顔が勢揃い。
ヒーローになりたい!そう思える限り、ゲキタイジャーは永遠に不滅である!