●分断作戦
回り続けるビデオドライブは最終シーンで動きを止める。
拡大された画像には、飛び去る四人の姿…。
「天使かぁ。ある程度親しい天魔生徒がいるから判るんだけど…」
礼野 智美(
ja3600)はコンコンと指先で机を叩く。
どう説明したものか軽く悩んで、続きを口にした。
「…正直飛べる奴は逃げ易いから、倒すにしても捕まえるにしても、如何に高所にいる位置を叩き落して迅速に攻撃を叩き込めるか、だな」
智美は真っ先に口を開く事で、脅威に凍った空気へ風穴をあけた。
重要なのは効率的に戦いではない、確実にやりきる事だ。
飛行と物質透過を考えれば、一度離れられたら絶望的になる。
「特に厄介なのはこの状況把握タイプか…。計測能力は厄介、早めに叩いておきたい」
「なるほど。前回までとは一味違うって訳だ。考えてみりゃあ、不利になっても戦い続けるなんてゲームくらいだ」
智美の懸念に千葉 真一(
ja0070)も頷く。
見える端から倒せばいいなんて戦術は、相手がサーバントの時だけだ。
こちらが考えるように、相手だって手を打って来るだろう。
となれば複雑すぎる罠は、無視され、読まれる事もありえる。
「四人相手には無謀、まずは分断して的を絞るのであります。例えば採石場。廃寺にも時間を稼ぐダミー造り、優先目標を迎え撃つ方策でありましょうか」
「状況把握タイプが来るなら採石場か。けど、廃寺の方も見破られるまでは時間の問題だと思っておいた方が良さそうだ」
ピピっと端末を弄って天水沙弥(
jb9449)が分断作戦を提案する。
有効な作戦などそう多くは無く、真一も頷いて己の役割を確かめ始めた。
「出来ねえ事は出来ねえで行こう。4を2に分割し、更にその内の1を砕く。俺は足止めに回るぜ」
「つきあうけど…『倒しちまっても良いだろう』は無しなんだからね?」
真一が親指で自分を挿し、時間稼ぎの壁になる。
それが黒と白、遊撃隊の役目だしね…と松永 聖(
ja4988)は苦笑した。
足止め役が恰好つけると戦死するのは死亡フラグ…、昭和どころか戦前からの伝統的な美学である。
そして、フラグを覆す覆すお約束も存在する。
一つはフラグの乱立…。
「…ん。任せて。それが。終わったら。満腹に。なるまで。カレーを。飲み干すんだ。…ん。最大限レイズ。二倍の火力で。倒す」
最上 憐(
jb1522)はもう一枚フラグを立てた後、思い出したように手段を付け加える。
死亡フラグをへし折るもう一つの方法は予定よりも早く敵を倒す事。
最大級の特化攻撃で叩き潰すという案である。
「ソレを本命にするとして、私も足止めにご一緒しましょうか。本命の状況把握型を倒し、その間に残りの者が分断しておく。それでよろしいですか?」
「「いぎなーし」」
新たに加わった草摩 京(
jb9670)は、パープルを名乗ると簡単に作戦をまとめた。
●積極的、工作
方針が決まれば、早速実行開始。
必要な物資を要請して慌ただしい。
「分断の工作のお時間ですな。騙すのは卑怯でなく、作戦なのであります!!」
「ラル子におまかせっ♪てか。時間は稼いでやんよ(俺のゲキタイオー変身キットが盗られたか…)」
沙弥が司令部風の図案を書き上げ材料をピックアップすると、ラファル A ユーティライネン(
jb4620)は格納庫の方を担当した。
輸送式の倉庫をモデルにベニヤやらアクリル板で大枠を造り、目につく場所にだけ本気の装飾を施す算段だ。
どの道、気がつかれたら一瞬。数手分だけ確実に騙しきる!
「こうなりゃ今回もロボ役の出番はねーし、マネキンやら視点を駆使して騙すかな。銃にネットもいいなあ阻霊符付けて…」
「…ん。なら符はこれ見よがしがいい。あからさまに馬鹿を。馬鹿にする」
ラル子が何度も往復して印象を確かめていると、憐がマジックでお札を書き込んだ。
阻霊符の隣に『後ろを見ろ』、更にもう一枚、『馬鹿が見る〜』と手榴弾に張り付けておく。
その字を見て噴き出した一同の前で、憐は顔色を変えずに続きを口にした。
「ネット。本当に使う場合。誰か。発動に人。要る。これなら…」
「なるっ、捕まる危険を冒して人を配置するんじゃなく、罠だと警告して時間を稼ぐのか。慎重にならなくても、アツくなり易い奴なら暴れ回って時間を浪費するしな」
憐の言いたい事を察して、ラル子は大きく頷いた。
阻霊符の起動にはアウルが必要だが、そうなると企業撃退士を置くにしても捕まる可能性がある。
網は本気を出したら破られるし、透過での探索を躊躇わせるだけで十分だ。
「性格を利用するのでありますな。敵は強大ではありますが、馬鹿そうなのであります。うまく誘導して確り騙してやるのであります!」
「よしっ!このままいけば行けそうだな。工作が終わり次第、戦闘時の連携訓練にあてるぞ」
なんとかなりそうな雰囲気に沙弥は俄然やる気になった。
川内 日菜子(
jb7813)はその様子に満足して、頭を実戦に切り替える。
ひとつ越えたら、また一つ。山を越えていくぞと大号令。
次は強敵であっても倒せる敵と言い切り、最後は周囲の事件を片つけてみせると胸を叩いた。
「相手に不足はない。輸送隊の命までも取らない称賛に値する奴らだ、…その敬意を払う為にも、全力で応えてやろうッ!」
「「おおー!!」」
日菜子は別にスポーツマンシップに囚われる気はない、ただ士気高揚の為に口にする。
天魔への依頼というだけならば、自分たちより強いチームはあるだろう。
だが、連携戦闘の訓練を行い、呼吸を理解し合った自分たちならば…僅かの勝機を無限に変える事が出来るのだ!
●今週の舞台裏
それから数日、一足先に工作を終えたメンバーが遮蔽幕の向こうで連携の訓練を行っていた。
高所に立ってプロテクターを付けたグリーンが、ブラックとパープル相手に仁王立つ。
「今度こそ成功させてみろ、天使だと思って打ちこんでこい!」
智美が占める高所。
そこを襲う為には一工夫が必要だ。
「その綺麗な顔に、風穴開けてやるぜ。…草摩先輩、アレの準備はいいか?」
「良いですわ!」
そこで真一と京は奇策に打って出る。
先ほどから何度も失敗しているのでバレバレだが、その分だけ熟練度は増していた。
真一は『後ろ』から来る、京が放った風切り音に飛び乗った!
「行きますわよっ!『乗って』くださいなっ」
「ゴウライ…じゃなくて稲妻反動ゲキタイ・キーック!」
ダイナミックに振り被った京の大剣に飛び乗り、真一は一足飛びに飛来する。
山間を迂回して走るでも、翼を出して飛ぶでもなく…。
大剣を足場に蹴りつけた!
「まともに食らって見て、どんな塩梅だ?」
「うーん。改めて考えると、両脇から挟まれる方が脅威かな。……でも、それは誰でも思いつく脅威だから対処できる」
尋ねる真一に、智美は少し首を傾げた。
急襲されて手間取るよりも、囲まれる方が確かに不利だ。
だけれど、戦い慣れた敵がやられぱなしでは無いだろう。
「その意味では、奇襲としての意味を追求した方がいいな。稼げるのは一手としても、こっちの班も息を合わせれば二倍が四倍、八倍にもなる」
「仲間たちの絆を信じ、次手を考えろと言う事ですね?そうですね…なら」
智美のレクチャーを受け、京はアレンジを修正する事にした。
必要なのは時間稼ぎであり、威力よりも別のモノが有効なのだ。
「先の先はブラックに任せて、私は後の先を抑えましょう。攻撃優先なら守り、合流優先なら足を止めます」
「ホワイト姐さんを忘れないでよ」
京が役名を口にしたので、計測役の聖はあたしだって居るしね!と主張した。
悪い悪いと笑いだせば、全員で笑い転げる。
その声を聞いたのか、それとも工作が終わったのか…。
遮蔽幕がめくり上げられ残りのメンツが合流。
「例の技は良いようだな?ならこっちも終わったし、全員で合わせるぞ。まずは円陣を組む!」
「せっかくだし名前も決めて見ましたよっと。主目標はイカロスマッスラー曹長、足止めするのはポチョムキン少尉って感じだな。どうよ?」
日菜子とラル子を筆頭に全員が顔を出す。
なんか見たまんまだな。見たままですね。とか、あんまり突っ込みを入れるのも御愛嬌。
リラックスした後で円陣組んで、息を整えると連携訓練にもつれ込んだ。
やがて廃寺を訪れる来訪者が二人。
時間を前後して採石場へ、二つの影がやって来るだろう。
迎え討てゲキタイジャー!町の守れ、ゲキタイジャー!
●エージェント
設置された二つの画面に、それぞれローブ姿が二つ。
最初に見た画像と同じ様子から、予定通りに現れたのだろう。
『…んっふっふふ。良く来たな天使の諸君。君たちが訪れるのは判っていた。招待に応じてくれるかね?』
「老師もノリノリだな。戦隊指令つーか悪役だけどよ。…もう少しだけ確認してから行くから、先に頼む」
ラル子は笑って手をヒラヒラさせた。
状況確認するなら、オペレーターが担当するのが順当だろう。
それに…。
「どうせラルも潜伏する気だろう?なら無茶はするなよ」
「おっ。判ってんじゃん。ならいってらっしゃいのキス…」
「それは後にするのであります!」
ラル子が日菜子へ、んちゅ〜と唇を突き出すのを、沙弥が真っ赤な顔で止めた。
だが良く見れば周囲は気にしてない人も居るので、冗談だったに違いない?
そしてサスペンス式で誘導が始まる廃寺側と違い、採石場では一気に走りぬける!
カッ!チュドーン!!ある程度相手が分かれた所で、発破で偽装をパージした!
『迎撃…こちらが正解だったようだな』
「その通りだ!お相手つかまつる!俺はゲキタイグリーン」
「こっちはゲキタイブラックだ、行くぜ! てめえは俺が相手だ」
周囲がライトアップされたと同時に、七色のスモークが立ち上る!
智美と真一はそれぞれ孤を描くように二つの円を描き始めた。
魔書を構えた智美が支援、スナイプをよけながら飛びこむ真一が近距離予定。
『HAHAHA。相手にとって不足ありまセーン。ハァーワーユー(ごきげんいかが)?」
「よろしくてよ!貴女の相手はこの私。このパープルがそのテク、受け止めさせて頂きます。まずは…!」
「まずはこいつを食らいな!ゲキタイブラストォォ!」
京のスイングに乗って、真一はポチョと仮称した女性天使に向けて跳ね跳んだ。
練習時とは違い、距離を稼ぐために重心を傾けての突撃!
打撃がヒットし数歩後ずさらせた後で『BLAST OFF!』と機械音が木霊する。
「打突を少し、いなされてるね。なんとかしないと…。あたしはゲキタイホワイト!」
「同じくゲキタイピンクであります!後方支援は厄介でありますな…(と伏線を張るであります)」
聖と沙弥は、真一の打撃に割って入った、イカロス(略)が後方より放った横槍を見た。
おそらくはインフィルの援護射撃と似たような牽制なのだろう。ポチョ自身はルインズっぽいので、多重防御が成立した模様。
厄介なのは厄介だが、ここまでの攻防は予定通りだ。
「…ん。カレーは飲み物。ゲキタイイエロー」
「(おーし、ヒナちゃんトリを決めんだよ)」
「(ヒナちゃん言うな。本当は誰が締めても…。まあいいや、)夜を照らす確かな光、我ら…っ」
輝光戦隊ゲキタイシャー!!
憐とラル子が潜伏し始めるのに合わせ、全員揃って号令をかけた。
つんざく発破を合わせて、一瞬だけのつなぎポーズを取る(後で編集すつ予定)。
一度目立ち7(8)対2の集団戦と思わせておいて、実質は4対1の二戦闘になる。
●戦いの果てに
二・三の攻防を挟み、戦いは加速度的に状況を早める。
いつまでも敵を騙し通せるとは思えないし、時間は掛けるだけ不利だ。
「あらよっと!支援砲撃なんざさせねえぜ(今の内に近づきな)」
「(…ん。了解)」
潜伏組のラル子と憐も行動を開始する。
ラル子が潜伏と砲撃を繰り返すのは、牽制対処が一人と思わせる為だ。
「牽制射撃が止んだ!今の内に押し込め!ラッシュ!!」
「了解でありますっ、一斉攻撃!!」
言うが早いか日菜子は鉄甲を飛ばした。
沙弥もそれに続いて弓を引き絞り、脳裏には別の武装を思い描く。
共に全力射撃ではあるが…、武技を使わずアウルを載せた攻撃のみだ。
つまり…。
「3、2、1。反転!ここから全力だ!!」
『…ん。肉を。切らせて。骨を。絶つ』
『何っ!?』
日菜子は武装をダウンさせて、拳に巻いた布にアウルを通す。
その動作とさほど変わらぬタイミングで、電流よりも濃密な意識の覚醒と共に、憐の膨れ上がった闘気が後方の…イカロス(略)の脇に顕現した。
夕日と血に彩られる事で、刃が赤に染まる。
一足早い夜の訪れを、漆黒のアウルが月の様に告げていた!
『くっ、武装を入れ替えて反撃…。否、三手程遅い。ここでの最適解は…』
「やらせるかっ!沈め」
ライフルを落して拳銃に持ち変えるより先に、智美はグルっと回って横殴りに槍を叩きこんだ。
旋風の様な一撃で薙ぎ場払い、出来るだけ距離を離し隙を拡大。
この一撃で倒せずとも、仲間の攻撃をクリーンヒットさせる為の礎となる!
得られた一手が二手に、三手へと繋がっていく!
『アンブッシュ?本命は向こう?邪魔デース』
「おっと、レッドたちの邪魔をさせる訳にはいかねぇ!言ったはずだぜ。俺が相手だってな」
マントを脱ぎ捨てて走り出そうとする敵に、真一が割って入って立ちふさがった。
『貴方の弱い所は、ソコですか?お別れデース!』
「テクニシャン? 笑わせんな。そんな小手先で俺をいかせられると、思った、の…か」
稼いだ時間を削らせまいとする真一を、エンジェル猛襲拳(というか指)が迫る!
ガードした処でアームロック、首を柔らかいおっぱいでホールドし、巨乳だけに許された投げ技が彼の命を…。
「援護しますよ。受け止めて見せると言いましたしねっ」
だが、そこを受け止め庇護したのは京だ。
この敵が強い事は判っている、ならば援護するのも当然!
そして新たな転機が訪れる。
優位に立ち、勝利を決めようとしたゲキタイジャーに、驚くべき言葉が付きつけられたのだ!
『戦闘力、ターゲット選定、優先順位の推移。…フォーメーションコンバットの優位性を確認した』
「手持ち火器をダウンした?全力の魔術攻撃なり、逃走でもする気かよ?」
「…ん。そんな余裕は与えない。絶対」
ラル子と憐、隠密している者も姿を現し包囲網を確実にする。
だが、男はゆっくりと首を振り…。
手を上方に滑らせて、こう告げるのだ!
『これ以上の戦闘は無意味だ。『俺は』降伏しよう。ただの消耗戦に見るべき価値も無い』
「なん…だと」
予定よりも早い意外な結末に、撃退士たちは驚くほかはなかった。
まさか降伏を呼び掛けるよりも早いとは…。
それともこれは罠なのだろうか?