●ミッションスタート!
幽霊船により、人々が捉えられた離島。
捕まっているフリをして潜む撃退士たちは。決めておいた位置に奇妙な物を見つける。
それが定められた合図だと気がついて行動を開始することにした。
「魂収拾の為の管理網とは…。悪どいビジネスと言った所ですね。ですがそのビジネスプラン、断ち切ってみせましょう」
潜入組のリアン(
jb8788)たちが突き止めたのは、ゲートより効率は悪い物の……。
目立たない為に対処され難く、かつ、一か所を潰しても全てを潰しきれない厄介さを持っていた。
だが冥魔の陰謀を阻止するため、必ずやり遂げねばなら無いだろう。
採算を重視するが故に成功すれば敵の手は止まり、失敗すれば別のどこかで再現されてしまう。
最悪、同じようなプランが、数か所同時に起きかねないのだ。
「今回で、何処まで始末がつけれるか、だな」
「なんとも目標が多いから、大変だね」
ロベル・ラシュルー(
ja4646)は口元を寂しそうにしながら、終わったら思いっきり煙草を吸おうと苦笑した。
これから危険な潜伏作業。捕まってる間は隠れて吸っていたようにはいかないだろう。
煙草を吸わない為かそんな様子に気付く事もなく、穂積 直(
jb8422)は持ち場に向かった。
戦闘に加えて、必要な場合は民間人のフォローとアスヴァンは大忙しである。
「じゃっ、何かあったら予定の場所で」
「そっちも気をつけてな。…ま、やれるだけの事はするさ…全力でな」
立ち去る直を見送り、ロベルたちもまた別々の場所へ。
まるで引き絞られた弓矢の様に一同は動き始めた。
「手はず通りに、まずはこちら重視で。目的の増幅器は必ず破壊します」
「おーらい。それに合わせてこっちもおっぱじめるさ」
スレ違いざまに掌を叩き合い、リアンとロベルは振り返ることもなく立ち去った。
次に会う時は地獄か現世か。
どうせならば、気の利いたサテンで一服したい処だぜ。
●魔法陣を破壊せよ!!
潜入組とタイミングを合わせて、追跡組も行動を開始する。
方向は2つながら、状況に合わせて優先順位が変動する…。
「あちらも動き始めたようですね…。優先順位のすり合わせは良いですか?」
「はい、さっそく仕掛けましょう。もはや調査段階は終わりました」
戦部小次郎(
ja0860)はすっかり慣れた潮風を感じながら腰を上げた。
第一優先目標はディアボロの能力を拡大するナニカ、だ。
普段ならば優先順位が低いはずのソレが、今日に限って人質救出に優先する。
何故ならば拡大する幽霊船の能力は…、よりにも寄って魂吸収だからだ。
放置すれば延々と拡大する被害は止めねばと、御祓 壬澄(
jb9105)は握り締めた拳に相棒の感触を思い出す。
今日はそのロングバレルが、大きな役目を果たすだろう。
「先の事件で奇妙な結界が見られたことから、シマイは結界士でしょう。そうと判れば基部は討ち抜いて見せます。後続の方々が少しでも動き易いよう頑張りましょうか」
「…ここまで来たら、やるだけやるってね。他はともかく撹乱する方は任せておいてよ」
握りしめた拳で決意を語る壬澄に対し、霧谷 温(
jb9158)はあくまで陽気に笑って返した。
感情を表す事が苦手な壬澄の代わりに、という訳でもないが…。
どうせ勢い込んでも思いつめても結果は変わらない。なら、いつも通り元気いっぱいで行こう!
ディアボロの能力を島の中心部へ、拡大するナニカを求めて主力が集結。
タイミングをやや遅らせて、幽霊船が眠るはずの簡易ドックへともう一組が向かった。
「皆が本命のアイテム探しに行くってことは、間違いなく敵の目もそっちに逸れる。合わせてこっちでも騒動を起こすよ」
「変異中の人々はこちらで担当しておきますね」
主力を構成する班が敵の目を惹き付けつつ、もう一班がもう片方を…。
戦力分散になりかねない状態を、彼らは上手く逆利用していた。
温が言う様に、こちらが戦力を分散する必要があるように、敵にも同じことが言える。
似た様な状況を作り出せば、頭が回らない分だけディアボロの方が遅れを取るはずだ。
互いが互いを囮として利用し、破壊だけで済む向こうがメインを担当。
捕まった人が居る分だけ繊細な作業を、梅之小路 鬼(
jb0391)たちが敵の減った状態を見計らいこなすというわけだ。
「潜入に手を借りて悪ィが、幽霊船を本命にしてるから殆ど何もする気はねえ。後は頼むぜ」
「お互いのやれる事を最大に行きましょう。私は……救えるものを救う。やれる事を、やる。それしかできませんから」
「…任せる。(奪われたもの…取り返す…。利子…つけて…もらう…ただ。それだけ)」
そして手前でロベルと一時的に合流するが、そこから先はまた互いに囮とする作業に戻る…。
誰かを助ける為に戦おうと言う鬼の脇で、二人を先導する紅香 忍(
jb7811)は言葉少なに答えた。
忍者らしい冷徹さで、目的遂行の為に必要な全てをこなす。
敵も味方も目的をこなす為の囮であり、自分自身も例外ではない…。
もっとも見つかり難い彼が先行し、温を置いて簡易ドックの中に潜入を開始し始めた。
●例え、今は残すとしても
ただ、ビジネスゆえに確実にこなす。
助けれるモノは助けるし、必要なら利用もする。それだけのこと。
「こ、こんなオデ、を。助けて…、くれるのか?」
「…鍵…開けてく…。好きに…逃げれば…いい…。魂…どこある?」
だから潜んで入り込んだ先…。
事務所らしき小部屋の中から姿を現さない歪な人質の姿にも、心動かすことなく忍は頷いた。
明らかに人ではなくなっている手が伸び肩を掴んでも、嫌悪感すら浮かべることもなく…。
ただ目的の品の在りかを問う。ただ、着実にこなしていくだけであった。
やがて表に残してきた温が、戦闘を始めたようだ。
「表でも始まりました。それでは手はず通りに」
「…うん。こっちは、先に…行く」
健闘を祈る、とも。
任せる、とも。もはや言う事はない。
鬼と忍が救出した時点で、最大限の手配は済んだ。後は…可能な範囲で、やりきるだけだ。
「今から戦闘が起こりますが、脱出可能になった時点で皆さまをご案内します。その折りは遅れずにお願いしますね」
「ワガッタ。あど…、船のジガグに、もう何人が居ルだ」
それまでは動かないか、ご自分の判断で。
鬼が一人一人の目をジっと見て、必ずお助けしますと告げると…、異形と化した人々はその場に留まって隠れ潜む。
それは撃退士たちを信じたからか、それとも…他に捕まった人々にバケモノと呼ばれ無い為か?
どちらかなのか判らないが、鬼には任務の他にやりきる為の目的を見つけた気がした。
「…今はこれで精一杯…。後で霧谷様をお呼びしませんと…。その為にも、敵中を切り開きます!」
ここで連れ出しても、ディアボロたちに人々が攻撃されるだけだ。
最悪、自分たちが負けて逃げるような目に逢えば、逃げ出した彼らがどういう目にあうだろう?
まして、奪われた魂を回収できなければ、真の意味で救出したことにならないのだ。
それを考えれば先に敵を叩くべきだと、鬼は非情に徹して簡易ドックに群がる敵を倒すことにした。
幸いにも敵は島中央の周回所…、そして敵を惹きつけている温へと分散している。
彼の傷を治した後で、忍を追いかけて魂回収を手伝うべきか…。
「……霧谷様!あちら、将官のようです!個々の集団が持つ頭を潰せば……王道ですが、正しい戦術の筈です…」
「どもども。…えっと、その向こうが捕まってた人?なんとかしとかないといけないよね」
続く言葉を鬼が飲み込んだ時…。
気の良い温は小頭を殴り倒して混乱させると、事務所に結界を仕掛ける為にやって来た。
その結界は魂を守る結界であり、異形化した人々が完全にディアボロと化すのを抑える効果を持っている。
できれば連れ出したいが、無理だと承知しているのは彼も同じなのだ。
「本当は、捕まってる人たちも助けたいけど、さ。流石にこの少数で、本拠地から逃がすのは無理、だから……。だからせめて、俺に出来るのはこれぐらい」
今は最悪の事態を想像し、罰せられて処刑されないようにこのまま。
だが、温は仲間たちの成功を信じている。
みんなの総力を結集し、必ず助けに来ようと誓ってその場を後にした。
奪われた魂を、取り戻すために…。
●
「リアン殿!」
「再会の挨拶は雑魚共を始末してからだ。後ろは任せる!」
小次郎が駆け付けた時、リアンたちは既に何体かのギルマンを打倒していた。
泳げるのが唯一のウリである小鬼タイプの事、大したことはないが囲まれると大変だ。
遠くへ去りながら1体ずつ倒す事も出来るが、流石に隊長役が居てはそうもいかない。
「その事ですけど、壬澄殿が狙撃位置に!」
「上出来だ。ならば敵の戦意を逆利用するとしよう」
小次郎が盾を構えながら、仲間たちの死角部分を補って防ぐ。
背中を彼に預けたリアンは、戦いの中で高揚する自分を自覚しつつ…。
護衛を惹きつける事にした。
村役場は結界用の魔法陣を敷設された重要施設だけに、忍びこむ事が出来ないほど警戒が厳重だった。
いまも護衛が容易く近寄ってくれないが…。
狙撃で結界基部に必要な場所を破壊するだけなら、視界を遮る個体だけで十分だ。
「あそこのデクノボウ共を倒したら良いだろう。後は適当に撒いて幽霊船の援護に向かう」
「しれが良いんじゃない?このままやり合ってたら、スリ傷じゃ済まないよ。もっとも、相手が素直に逃がしてくれたらだけど」
「なら、殿軍は僕が引き受けますよ。リアン殿は、攻勢役を直殿はそのまま回復役をお願いしますっ」
リアンは最後の雷鳴剣をその手に降ろした。
稲妻が宿り、体が大きな個体を倒して視界を確保し易くする。
その間に直が盾を構えつつ回復を続けているのを確認して、小次郎は双頭の剣を翻して挑発を始めた。
ここだ、ここに来るんだ…。
彼らが敵の目を惹きつけ、そして大柄な個体を優先的に倒す中…。
冷静に見つめる瞳が、村役場から少し離れた建物にあった。
「…魔法陣の基部を確認。後は、防御用の小細工があるかないかですね」
トリガーに指を掛けたまま、壬澄は冷静にその時を待った。
この建物からなら、魔法陣のある役場にも、人々が捕まっている集会所にも近い。
だがその絶好の場所に居ながら、誰を助けることもできない。
本来ならばその焦燥が身を焦がしているのだろうが…。
生憎と、壬澄は感情のまま動く方が苦手だった。だから焦りも後悔も感情表現を覚えた後にするとしよう。
「魔法陣防御用の防御結界があれば台無しですが…」
少ない戦力で、重要な場所を攻める。
土台無理な話ながら、これを逆転させる手段が基部をスナイプする事だ。
だが、結界で空間自体が歪むととか、そこまで大規模でなくとも移動障壁があれば全てが御破算。
いっそ自分も突入すべきか迷うべき状況ながら、壬澄には1つの味方があった。
それは、敵であるシマイ・マナフ自身…。
幾重にも保険を掛けられた計画その物であった。
「敵の保全計画を考えればありえない…。後は割って入られない…確実な時を待つのみ」
幽霊船が撃沈されても、魔法陣を持ち逃げして幽霊船をまた作ればいい。
逆に魔法陣が壊されても幽霊船があれば継続可能だし、シマイが落ち着ける時間が持てるならまた魔法陣を敷設できる。
この魂収拾計画で一番厄介なのは魔法陣と幽霊船、片方あれば簡単に再建できるという点であった。
だが、逆にいえば…敵に襲撃されてもギルマンが持って逃げれるようになっているという事だ。
ならば外から中に侵入できないような仕掛けがある可能性は、ゼロであった。
「…この移動サイクルですね。魔法陣を破壊し、…誰かを護れるなら危険な橋位渡りますよ」
そう呟いて、壬澄は隠れた施設より飛び立った。
最も有効な角度を保持し、必要な、逃走に移った仲間からこちらに敵の目を惹きつける為である。
彼が冥魔の計画に有効打を放つのは、それから暫くしてからだった。
●アイアンメイデンを討て!
長大なロングバレルより放たれるアウルによるライフル弾。
それは村役場程度のガラスなど簡単に貫通して、目的のオーブを撃ち砕く。
『…魔法陣基部の破壊に成功。これから僕も移動します』
『こちらも撒きました。少し遅れますが必ず!』
「ようやく出番だな…。チャッチャッとぶっ壊しに行くとすっか」
待ちわびた壬澄と小次郎からの一方…。
いの一番に動き出しながら、これまで動きを潜めていたロベルが動き出す。
目的は敵の計画の要、幽霊船アイアンメイデン号だ。
彼が隠れているのは簡易ドックの出口側上部分。
足元を魚人型を乗せた船が通り過ぎて行く。
「まずは雑魚掃除ってとこだな。失せろ!」
シャコっとスライドさせると、ロベルはショットガンをぶっ放した。
不意打ちから一発、二発…。
気がつかれ、驚きから立ち治った後の反撃で傷つくが…それまでに十分処分は可能。
さして強くもない魚人型を、範囲攻撃で次々に葬っていく。
「そんじゃ、残りは上を確保してからだな。あらよっと!」
「っシギャ!」
「ギョギョ!?」
飛び乗るついでにまた一体を片つける。
双剣を煌めかせて、船長格を防ぎながら雑魚を一体ずつ倒していこうとした時…。
後ろの方で、別の声が上がった。
「…死ね」
「ヲイヲイ。俺をダシに使いやがったな?」
簡易ドックを守る中、最後まで船を守れと言われていた一隊。
それを彼がが引き受ける形になるように、忍もジっと待っていたのだ。
彼らが取ったのは非情な作戦ながら、互いが互いを囮として使うもの。
ならば、この場で手助けしない事に、なんのためらいがあろうか。
だが、作戦が上手くいった理由を強いてあげるならば、ロベルたちの徹底ぶりが大きな要因であろう。
「…壊すなら…、移動系。潜られる前に…、舵、お願い…」
「この様子じゃあ、潰しきる前にお出かけされちまうしな。なんとかしましょ!」
彼の抗議にはとりあわず、忍は手足に当たる舵輪やスクリュー付近へ次々にアウルの手裏剣を叩きこみ始めた。
潜られたら追跡劇は失敗だ。
だがそれまでに潜れないよう、沖合で自由に移動できないようにすればこちらの勝利。
…ならばコアにあたる舵を潰そうと、ロベルは光の柱を放った後で猛然と走り始めた。
目指すは陸側の海、…空から仲間たちが駆け付ける側へである。
「ナイスキャッチ!」
「どこかで回復しない限りは自由に航行できないでしょう」
「今はこれで十分!態勢を立て直すぞ」
ロベルは駆け付けた壬澄とリアンに掴まれ、合流を果たした。
船の形である以上は波の影響を大きく受ける。
治療して大穴を塞がぬ内は移動できまい。
幽霊船との戦いは、大詰めを残すのみであった…。