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マスター:小田由章
シナリオ形態:シリーズ
難易度:難しい
参加人数:8人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2014/04/10


みんなの思い出



オープニング

●敵は幽霊船!
 種子島の一角に位置する、とある町。
 その一角で、撃退士達が無数のメモ書きに埋もれていた。
「証言だけを見ると結構な量が集まりましたね」
「問題なのは真偽と、内容の方。量は確証を増やす程度の物よ」
 ワープロソフトに向かって清書している戦部小次郎(ja0860)は、ぼやきながら一枚また一枚とまとめていく。
 とはいえ、たいていはJulia Felgenhauer(jb8170)が言う様に、同じ証言の裏打ちするものでしかない。

 重なる証言を確実性が高い物として点数をプラスしながら、頻度が高い内容はホワイトボードに上げていく。
 ユリアはその1つ、船に関する証言を見ながら、思い出す様に目を閉じた。
「やっぱり、あの船は不自然ね。私も見たけれど、貝1つ付いて無い船なんかありえない。人間から奪ったにしてはサイズもそんなに大きく無いし…」
 最初に現れた時、ユリアは双眼鏡で確認した。
 遠距離とはいえ、突如現れた船に対する感心が大きかったからだが…。
 潜水艦の様に海から出現したとした思えないほど、全体から水が零れ出していたのだ。
 …加えて船体下部に、貝殻の類が1つも無かった事は怪しいと言う他ないだろう。

 その時点では難しくとも、冷静になって後から考えれば見えて来る物もある。
 貝殻もそうだし、ディアボロたちの関係もそうだ。
「大型のディアボロで、こいつがボスってとこですかね?船長みたいなのは居たそうだけど、あくまで魚人型レベルと言う話です」
「確かにあいつら強く無かったよね。巡回したり見張りとか出来るみたいだけど」
 となると…と呟きながら、小次郎が理論の続きを補って行く。
 指揮官型の魚人ディアボロは居るのだが、そう強そうには見えなかったという話だ。
 そもそもディアボロは鍛えても成長しない事が多いらしく、例外を除いて、陣形を組んだり命令を聞ける幅が大きくなるだけらしい。
 霧谷 温(jb9158)は直情的なディアボロらしからぬ動きを見せつつも、戦闘力そのものは低かった事を思い出す。

「弱いけど、命じておけば勝手に作業してくれる連中を配置して…。船としては小さい大型ディアボロを使って運搬してるって流れだよね?どのくらいの期間でやってるか聞けたの?」
「お年寄りから幾つか聞き込む事が出来ましたが、概ねその認識で間違いは無いでしょう。頻度は多目で定期的だそうで、壬澄様がその辺りを詳しく聞いてたはずです」
 温は流れを整理して、おおよその背景を想像し始めた。
 適当に集めた人間を、魚人型が見張って置く。
 一定期間が経ったころに船型が迎えに来て、何処かに運んで魂でも集める気なのだろう。
 魂の直接吸引が効率悪いとすれば、安全地帯でゆっくりやってるのかもしれない。
 リアン(jb8788)はその話を肯定しながら、老人は後回しにされていた為、割りと長い期間居たのだと教えてくれた。

「その壬澄さんは?漁港の再調査は終わったんでしょ?」
「忍さまと一緒に近くにある町へ赴かれて居ます。気になる事があれば、定時連絡の時にでもお聞きすれば良いかと」
「あー、そういえば他にも人が捕まってる場所があるかもって話ですよね。…もしそこにも船が来てるなら、どこかに本命があると見るべきかなあ」
 姿を見えない仲間の所在をユリアは尋ねた。
 報告書があるはずだが、話が聞けるなら直接訪ねた方が早いだろう。
 だが生憎と不在で…、調査に行ったと聞いて小次郎は幽霊船の行く先へ、思いを巡らせ始めた。

●冥魔の保険
「…ただいま」
「どうだった?同じ様に捕まってるなら、助け出さないと」
 誰も居ないと思っていた辺りから、足音が不意に聞こえて来る。
 見え難い暗闇から陽の下へ現れたことで、穏行して居た紅香 忍(jb7811)であると撃退士達は気がついた。
 もっとも、その気になれば完全に足音の消せる彼である、足音は挨拶代りなのだろう。
 穂積 直(jb8422)は姿を認めるや、走り寄って捕まって人間が居ないか確かめ始めた。

「…居る、らしい。…ここにも時々…、船も…来る…って」
「あとはそのサイクルですね。前の場所は満潮時でしたけど、ここは違うのかな?」
 遠目に捕まった人を確認した後、忍は一番近くの民家で聞き込んで来たらしい。
 話を聞いた御祓 壬澄(jb9105)が手帳を開くと、そこには月齢やら、満潮干潮の時間帯が記載してあった。
 特に大きな丸が描いてあるのは大潮の日で、大潮では潮流が強くなったり、水質に変化が訪れることから最も怪しい日に当たるだろう。
 
「んー。定期的に何処かに連れて行くなら…本命に近いのは大潮の日に来る場所ってとこ?」
「その可能性は高いですね。他にも霧や日差しの関係で見通しの悪い日も考えられますけど、潮目に対して確実性がありませんから」
 その手帳を覗き込んで、直は少しだけ考えを巡らせた。
 ディアボロ達を信用せず、一か所に頼らないなら他にもこう言う場所があるだろう。
 その上で、一番本命に近い…見つけ易い危険地帯は大潮の日に当てる可能性が高い。
 壬澄は推測に頷きながら、種子島北部の地図に、幾つもの赤ペンで色を添えた。
 全ての場所で人が捕まっているとは思えないが、何箇所か巡って時間帯を調べれば…、いつか本命の場所が判明するだろう。

 その話が終わるまで待って、最後の一人が口を開いた。
「…水の中から人目につかずに近寄って、住民を乗せると引き潮に乗って去って行くって寸法だ。…21世紀にもなってフライング・ダッチマンが現れるとは思わなかったぜ」
 判って見れば、単純な理屈だな…。
 煙草の箱を弾きながら、ロベル・ラシュルー(ja4646)は中から最後に残った一本を取り出した。
 未成年も居るので火を付けることはせず、空になった箱だけをゴミ箱に放り投げる。
「目立つヴァニタスが暴れながら、悪魔の方はコッソリ賭けの元手を回収してるって訳だ。こいつは叩き潰さないとな」
「方法としては、どこかで待ち受けて幽霊船を撃沈してから捕まった人を探す事にするか、それとも一度見送って本命ともども叩き潰すか…ってとこかな?」
 汚ねえなあ…と呟きながら、ロベルは火の無い煙草を加える。
 ここで問題になるのは、一連の事件を『どう終わらせるか』だった。
 順番が違うだけで、やるべき事は同じだが…。
 直が言う様に、順番や手段を変えるだけで違った未来が見えて来るだろう。

「…そう言え…ば。幽霊船の…、攻撃。途中から、凄くなった…気が…する?最初から使わない…のは、条件が、あるの…かも」
「能力が不明な事を考えると、どっちが良いとも言えませんね。どっちにするか相談してから、準備を整える事にしましょう」
 どちらにせよ、今回の一件が『悪魔の保険』である以外に、まだまだ情報が不足している。
 殿軍に残り、攻撃を受けた忍が相手の攻撃力を測ったように…。1つずつ情報を集める事が重要だろう。
 壬澄はそこまでの結論が出た段階で、一度捜索を打ち切ろうと締めくくった。
 これまでの経緯を報告し、全員の意見を聞く為である。
 皮肉なことだが、魂をゆっくり回収したい冥魔ゆえに、捕まった人への危険が無いからである。

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リプレイ本文

●雲を晴らす意義
「…ここが…前の。…これと、それ…は新しい港」
「同じ様に下級悪魔やヴァニタスは居なかったんだな?」
 撃退士の潜む部屋で、コクリと少年が頷いた。
 偵察より戻って来た紅香 忍(jb7811)へ、気になる事を早速確認したのだ。
 ロベル・ラシュルー(ja4646)たちは危険な任務に赴くつもりであり…、ソレは生死を分ける重要な情報だからだ。

「ならば入れ変わる事は可能そうですね。殆どの場合ディアボロは、賢い個体でも雑用をこなせるくらいのはずです」
「それでも危険なのは同じなんだから、潜入には十分に気を付けてね」
「現状報告を上げたついでに、トランシーバーを調達して起きました。持って行ってください」
 共に赴くリアン(jb8788)は、皆の前に香り高い御茶を用意した。
 死に行くわけでは無いので、水杯のつもりはない。
 危険を前にして日常を愉しむ余裕を、霧谷 温(jb9158)たち心配する仲間に見せて置くだけだ。
 御祓 壬澄(jb9105)のくれた通信機を受け取ると、目線で感謝して小道具用の術具へ封印して置く。

 リアンが用意した御茶をめいめいで啜りながら、雑談染みて少しだけ緊張を解く。
 これから気を抜けない作業に入るのだ、少しくらいリラックスしてもバチは当たるまい。
「でもシマイって悪魔には信用できる部下があまり居ないのかな?だとしたら…」
「単に手広くやってるだけかもしれませんけど、チャンスかもしれませんね」
 穂積 直(jb8422)と戦部小次郎(ja0860)たちはお茶を飲みながら事態を整理し、現状を再認識し直した。
 知性のある敵が居ないのは、見つけられ難いという面があるが、もっと大きな意味もある。

 この場に居ない敵の内情ゆえ、確かめてみないと判らないが…。
 察知能力よりも、手駒と言う点でディアボロ達は大きく劣っていた。
 能動的に働けない点で、下級悪魔やヴァニタスとは大きな差があるのだ。
「最初に聞いた推測通り、種子島に全力を注ぐ気が無いなら、巻き返しようも出て来るわね」
「指揮官であるヴァニタスだけでも、倒せば終わる可能性があるなら…、前線で疲れきってる連中にも気合いが入るってもんだ」
 ある種、予想のついた内容だが、確信で来た事は大きいだろう。
 コトリという音と共にJulia Felgenhauer(jb8170)は立ち上がり、ホワイトボードに張られた地図を睨んだ。
 そこには上下から迫る天魔の勢力が描かれており、人類の勢力圏を脅かして居る。
 見るだけで滅入る危機的状況だが、ロベルが言う様に戦いの終わらせ方が判ったからだ。
 北部に居るヴァニタス…『楓』を倒せば、少なくとも冥魔の進軍は止まるだろう。

●網目を辿れ!
 いまだ推測の域を出無いが、見通しは出来た。
 ヴァニタスの楓という目立つ表看板で占領を進めつつ、魂収拾という裏の保険を隠す構図だ。
 冥魔の実情に確信を持つ為、そして挫くべき野望を把握せねばなるまい。
「後は確認ですね。効率が良いシステム出来ていれば、捨てるには惜しいと思ってシマイ本人が残り込んで来るかもしれません」
「…逆に言えば…、悪魔…本人を倒したい…なら。おびき…寄せる餌…必要」
「喰いつかせる餌が必要としても、無為に『糧』を与える必要はありませんし、悩ましい所ですね」
 現時点では実情が不透明で、小次郎が言う様にシマイが来てしまう可能性も、来ない可能性もある。
 忍としては大物を釣り上げたいが、その為の材料はリアンが言う処の糧…人間の魂というのが問題であった。

 とはいえ、この場で決めるには大きすぎる問題だ。
 加えて幽霊船や魂を集める目的も、確定では判って居ないのだ。
「いずれにせよ、まずは本命の場所を見つけ出して、それから幽霊船退治かしらね。その過程で判明させるとしましょう」
「確かに。冥魔の計画や船も気になりますが、本拠地優先して打開策を見つけるのが先ですね。…場所の候補なんですけど」
 全ては今回の任務で、大凡を把握してからになるだろう。
 ユリアは話をそう締めくくると、当座の目標をホワイトボードに描きだした。
 人々を連れ去り、魂収拾を行う本命の場所さえ見つければ、相手の計画を把握する事も、助け出す事もできる。
 その話しなら…と、壬澄は地図と海流図を手に立ちあがった。
 人が捕まっている幾つかの場所を直接描き、無関係な場所を斜線で塗り潰して行く。

「判ったのか?それなら潜入の仕方も随分変わってくるぞ?」
「流石に絞れた程度ですけどね…。追跡用の小舟を用意して置けるくらいにはっと、ちょっと変わってください。新しい話が聞けたので」
 冥魔全体の本拠地とは別だろうが、敵の密集地には違いない。
 ロベルとしても、避けられる危険ならば避けるぞ…と目線で確認すれば、描き込みを変わって直が赤い丸で何箇所かをピックアップする。
 本命の離島が幾つかと、沿岸の難所地帯が対抗馬になる。

「それにしても、良くこの短時間で調べ上げたな(沿岸の方がありがたいが…、まあ離島ってとこか)」
「種明かしをすると…。こういう漁港ってさ、纏める組合があって、絶対各港と連絡つけれるようになってるはずだよね?同じ様に桟橋があって、ディアボロだけでも実行できる場所での目撃例をかき集めたんだよ」
「この辺なんかが、その話ですね。移動中のは、また確認後になりますけど」
 沿岸なら歩いて帰れるんだが…。
 そう言いながらも、無理だろうなと地図を睨むロベルに、温は肩を竦めて目撃例と時間を告げた。
 この場所ではこの時間、その場所には何があると直は忙しく手を動かす。
 島中の漁師に声を掛けて貰ったので、まとめるだけで数人が必要な分量だった。
「人の確保だけなら人口や交通の便が良い漁港な気がするけど…、多分そうじゃない。大本命は幽霊船が居ても怪しまれない場所だと思う。例えばもう使われてない港とか」
 怪しいポイント自体は、大きな島だけに無数だ。
 種子島の周囲で船が接岸できる場所、あるいは翼レベルで移動できる内陸。
 ピックアップされただけでも数が多いのだが、温は赤いペンを握ると、さらに絞って普通の天魔だったら押さえるはずの人口密集地を省く。
 シマイは博打の元手をこっそり回収したいのだ、ならば見つからない事を、とにかく優先しているはず。

 温が減らして絞った場所とは別に、もう幾つか足されたポイントが存在した。
 生活に必要ならば別として、避難場所があれば冥魔が出現した場所に近寄る事も無いだろう。
「他にも最近近寄る気がしないとか、航路に不自然さがあれば怪しい。…と言う訳で、冥魔が現れたから全島避難してる所や、浅瀬が多くて『普通の船』は選ばない所がこれです」
「割りと絞れたわね。なら、この間の経験を活かして待ち伏せれる場所は有る?可能な限り、遠目で調べたり伏せて置ける所」
「僕もマーカーを撃ち込もうと思って、何箇所か調べてます。本命との距離を把握し易い場所にしましょう」
 全島避難した小島や、浅瀬などの海岸線などなど。
 直が今までの話を元に、優先理由を描きこんだ。
 ユリアと壬澄は監視し易い漁港を選ぶと、潜入組をサポートすべくどう支援するか詰める。
 ここまで決まれば、後は実行するのみだ。

●潜入開始!
 そうして潜入作戦の火蓋が切って落とされる。
 潜入組と、支援組に別れて漁港付近に移動開始。
 危険を承知で乗り込む男たちは、流石に不敵だった。
「ようっ、割りと似合ってるじゃないか」
「言わないでくださいよ。これでも不自然でない服を選んだつもりですから」
 近くに未成年が居ないからか、それとも作戦前に緊張を解す為の一服か。
 くたびれた服を着たロベルは不味い煙草を喫すると、次に吸う時は、美味いやつを注文しておこうと呟く。
 そんな彼に、似た様な格好のリアンは笑って懐から何やら取り出した。

 袋から取り出すのは、細巻きが二本。
 古風なシガレットケースと行きたいが、取り上げられると困るので、巾着に締まって置いたのだ。
「良いのか?随分と高そうに見えるが。終わった後の御褒美と洒落込む方が良いと思うがね」
「水に潜りでもしたら、処分するしかない代物ですよ。…それにこう言う物は、愉しみたい時に心気無くヤる物です」
 ここから先は一度も気を抜けない作業だ、命の洗濯くらい心気無く行くか。
 ロベルは肩で笑いながら、片方を取り上げると踏み消すつもりだった、先ほどの煙草から灯を点ける。
 帰ったらお返しに酒でも奢るよという彼に、リアンは微笑んで細巻きから細巻きへと火のリレー。
 嗜む程度ですが、私の好みはうるさいですよ…と冗談で返した。

 そうして漁港へと進む道を別れ、適当な間を置いて捕まる様に調節する予定だ。
 遠方より見つめる瞳に、彼らのそんな姿が映った…。
「じゃあ、私達も所定の位置に移動しましょう。もし、分散する事があれば、決めておいた場所で合流よ」
「了解しました。さてと、幽霊船の…いえ、計画の全容を暴くとしましょうか」
 双眼鏡で二人の周囲を監視していたユリアは、仲間達に指示を出した。
 このまま潜入作業も上手く行けば良いのだが…。
 小次郎たちとしても戦いを避けるつもりだが、念のために落ち合う場所を決めて移動を開始した。

 高台や丘に隠れて、幽霊船の能力と行き先を確認する為、監視組も数人ごとに海辺に分散。
「例の物を仕掛け終わったのかな?」
「…ん。お馬鹿…、懐が隙だらけ…」
 温たちが潜んでいる場所に、ひっそりと少年が現れる。
 水の上を歩いて来た忍が、合流を果たしたのだ。

 彼は簡単に防水したデジカメなどを海辺では無く、やや沖に面した場所に設置してきたのである。
 幽霊船は桟橋に接舷すると判っており、コースが特定出来ている為、それなりに様子が判るだろう。
「これで僕らが察知されて、嘘情報でしたって線は避けられるね」
「潜ってる…のか、覆ってる…かも。…いろいろ、判る」
 前回は戦闘している時にやって来たので、警戒態勢や欺瞞形態だったかもしれない。
 だが、今回の調査で詳細が判れば、温が言う様に航路上での全容がつかめるだろう。

 …その為の戦いで彼や、忍自身も傷つくかもしれない。
 だが、任務の為ならと…ここは冷徹に構えて置くことにした。
「…捕まって居る住民すら涙を飲んで見過ごすんです。僕らの危険なんて二の次ですよね」
「目的達成…が最優先、それが達成出きるなら…仕方ない」
 悔しそうに唇をゆがめる小次郎の隣で、しごく冷静に忍が呟いた。
 誰かを守る為に命を掛けるのがナイトの心意気ならば、目的達成の為に自分も他人も全て投げ打つのが忍者の役目。
 とはいえ、積み上げる犠牲に躊躇する気は無いが、話をすり合わせた事もあり戦いを仕掛ける者は居ない予定だ。
 任務は全て、順調なハズであった。ただ一つの例外を除いて…。

●ひと騒ぎのち、無事成功。その結果は…
 やがて、彼方に幽霊船らしき影が競り上がり…。
 魚人型のディアボロは、元気そうな人々を建物から連れ出し始めた。
 潜入組の二人を含め、大人達が桟橋を渡らされるのだが…。
 最後まで尻ごみしていた子供連れが居たことで、予定が少しだけ狂い始めた。
「…騒ぎ?攻撃は仕掛けないハズですけど…。とはいえこの好機を逃す訳にはいきません」
 嫌がっている最後の1組が乗れば移動するというタイミングで、マーカーを撃ち込むには絶好だった。
 巻き起こる騒動とは別に、壬澄は顔色を変えず弾き金を行く。
 助けるべき状況を、頭では絶好の機会と考える。口元のみの苦笑を浮かべながら、今だけは自分の性格をありがたいと思ってしまう。

 形だけの苦笑を止めて、着弾と同時に目を閉じれば…。
 脳裏に幽霊船の位置がアリアリと浮かぶ。
 自分が為すべき事を為したと判断して、周囲に誰も居ない事を確認してから予定地点へ向かい始めた。
「マーカーを撃ち込みましたので、舟で追う事も出来ます。…全員揃っていない様ですが?」
「さっきの騒ぎ…、直さんが代わりに行ちゃったのよ。あの子の代わりに僕が行くからいいでしょうって…」
「まあまあ。撃退士と見とがめられなかった訳ですし、戦うなという指示も守ってくれたじゃないですか」
 壬澄が合流した時、既に小舟が動かせる状態だった。
 静音性の高いエンジンだが、今は幽霊船も使っている海流に乗るまでで良いだろう。
 そう思って乗り込もうとすると、一人欠けていたのだ。
 それでも足を止めず、ユリアを小次郎が宥めているのを他人事のように眺める。

 板を跳ねあげつつ、事態をゆっくり噛み締める。
 潜入組が3人、支援組が5人。アスヴァンとインフィルが両方に所属、戦力としては問題無い…。
 そこまで把握してから解決策を口にする事にした。
「問題ありません。予定通り、最終コースが決まる場所まで追い駆けましょう。そうすれば増援も呼べるはずです」
「そうそう。能力もだいぶ判ったしね。案外だけど、一般人保護ができる直君が行ったのは悪い手じゃないかも」
「私たちだって助けに行きたかったのは同じよ…。保護って、対ゲート用の?」
 壬澄が出発を促すと、画像を見せてもらっていた温が船を動かす。
 軽い音をたてて、船がゆっくりと動き始めた。
 ユリアは怒り…というより抗議を静めて、彼が見た画像から目的の数枚を見せてもらう。

 その画像には弱ってよろめく魚や、ディアボロに変異し始める個体が映っていた。
「周囲の命…、魂を吸い上げてるの?」
「…多分。おそらく…、一部…を強化に…回して、る」
「戦闘型ディアボロに持たせるには勿体ないけど、隠し玉が持つにはアリってことなのかな」
 ユリアの疑問に、忍と温が推測交じりに応る。
 悪魔が普通に備える能力ゆえに、ディアボロに持たせる能力としては珍しい。

 だが、隠れながら行動する敵なら話は別だろう。
 船の上でも同様の予測が行われていた。
「…せめてこの人たちだけでも僕の手が届けばって思って」
「気にすんな。小さい子供の為ってのは、男が命を賭けるに相応しい理由だろうよ。それに…」
 船の中では、魂を抜かれることで、ぐったりし始めた人も居る。
 ディアボロ達に気がつかれないよう気をつけて、直は結界を張って保護に努めた。
 その様子を見て、ロベルは苦笑しつつも重要性は否定できなかった。

「まあ我々も招待状は有りませんしね。…魂を吸う能力は大した物ではありませんが、島に何が用意されているかが重要です」
「そんときゃ中から攻めるとするさ」
 魂を吸う能力の効率を良くする魔法陣なり、幽霊船の量産体制が整っていれば大問題だ。
 リアンの懸念にロベルは背筋を凍らせつつも、笑って受け入れることにした。
 どうせ叩き潰す相手だ、何が待っていようと恐れるものは何もない…。

 彼らが全貌に辿り着くのは、そう長くは掛からない。
 向かうは候補地のひとつ、浅瀬に囲まれ不便な島である。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:3人

クリームパンの皇帝・
戦部小次郎(ja0860)

大学部4年70組 男 ディバインナイト
良識ある愛煙家・
ロベル・ラシュルー(ja4646)

大学部8年190組 男 ルインズブレイド
Lightning Eater・
紅香 忍(jb7811)

中等部3年7組 男 鬼道忍軍
リコのトモダチ・
Julia Felgenhauer(jb8170)

大学部4年116組 女 アカシックレコーダー:タイプB
伸ばした掌は架け橋に・
穂積 直(jb8422)

中等部2年10組 男 アストラルヴァンガード
明けの六芒星・
リアン(jb8788)

大学部7年36組 男 アカシックレコーダー:タイプB
撃退士・
御祓 壬澄(jb9105)

大学部2年32組 男 インフィルトレイター
黒い胸板に囲まれて・
霧谷 温(jb9158)

大学部3年284組 男 アストラルヴァンガード